クールビューティーでサイエンティストな先輩は実験がしたい。   作:赤瀬 涼馬

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第六話 「助手の一日とクラス委員長」

 優希たちは叫び声を聞いて同時に視線を扉に向ける。その先には驚きの表情を浮かべた桜子が立ち尽くしていた。

「どうして大津さんがここに!?」

「それはホームルームでの久我君の様子がおかしいから様子を見に来たの」

「それより何しているの? 久我君、ここ学校だよ!?」

「えっと、あの、これは―――」

「キミこそ、何のつもりだい? 今、私たちは部活動の最中なんだが」

 

 と、右足だけ素足のままの理緒がゆったりとした動きで優希と桜子の前に立つ。

 そして、色々と勘違いした様子の桜子が軽蔑した声色で優希たちを見遣る。その様子を見ていた理緒が、実験を邪魔されたことに面白ないといった態度と不機嫌な声で訊き返す。

 その凍てつくような声に桜子も一瞬、ビクッと肩を震わせるが、すぐにぴしゃりと身を引き締める。

 

「新見先輩、これはどういった理由で行っているんですか?」

「それはどう意味だい? 先ほどから言っている通りこれは部活動の一環だよ」

「年下の男子に生足を向けることが部活動なんですか!?」

「だからこれは科学実験部としての活動の一環だと言っている」

 

 なかなか、折れない桜子にまたしても理緒がムッとした表情を浮かべながら言い返す。

 そんな二人のやりとりを見ていた優希は慌てて間に入って仲裁をする。

 

「ふ、二人とも落ちついて!!」

「久我君は黙っていて」

「そうだ。助手くんは引っ込んでいてくれ」

「そんなことどうでいいですから。少し落ち着いて二人とも」

 

 優希が大きな声でそう言い放った瞬間。ピキッと周りの空気が-20℃ほど下がった気がした。

 しまったと優希が思ったときには時すでに遅しであった。

 

「それはどういう意味だい? 助手くん。私の実験はどうでもいいということか」

「つまり久我君にとって新見先輩《ひと》とのことはそんなに大したことじゃないってことなの? あんな破廉恥はことしていたのに」

「そ、そういうわけじゃなくて―――」

「それじゃあどういう意味なんだい? 助手くん」

「そうよ。どういう意味なの?」

 

 いつの間にか尋問される立場になり困惑する優希。そんな優希を理緒と桜子が逃がすまいと、ぐいっと顔を近づけて左右からジーっと睨みつける。

 

「………」

「どうなんだい? 助手くん」

「どうなの? 久我君」

 

 一歩、一歩ずつ下がる優希を素足の理緒と上履きを履いた桜子がじわじわとい追い詰めていく。

 

「そのくらいにしておけ! これ以上は久我が泣いてしまうぞ!?」

 

 

 絶体絶命のピンチに陥った優希に助け舟を出す如く、ガチャリっと扉が開き、訊きな馴染みのある声が聞こえてきた。

 

「………平塚先生っ!!」

「………」

「どうして、先生がここに!?」

「それはお前たちがバカデカイ声で話していたのが廊下まで聞こえていきたからだよ」

「それで様子を見に来たってことですか。先生………ありがとうごいます。助かりました」

 

 小さく肩を下ろした優希が確かめるような口調で静乃に尋ねる。

 その様子を面白くなさそうな顔で桜子が眺め、理緒は関心がないといった感じで窓の外を見ていた。

 

「………久我」

「何ですか? 先生」

「どうしてこんなに空気が重いんだ」

「それは俺が訊きたいです」

 

 グイっと肩を寄せてきた静乃が、二人に聞こえないように小さな声でそう訊いてくる。

 そんな二人を見た理緒が素足のままで、「助手くん、いつまで先生と話しているつもりだい? 早く実験の続きを――」と言って、グイっと優希の腕を引っ張る。

 

「一体、お前たちはどんな実験をしていたんだ?」

「こんな密室でどんないやらしい実験をしていたのよ?」

 

 優希たちのやりとりを見ていた静乃が、呆れたような口調でそう訊いてくる。それに便乗するかのように、桜子も疑問の言葉を投げかける。

 

「別に破廉恥なことは何も―――」

「嘘は良くないよ。久我君、私見たんだからね。裸足の先輩の足を久我君が掴んで、コソコソとしていた姿を」

「ご、誤解だよ。大津さん、それは、実験をしていたからでやましいことはしてないよ」

「本当にそう言えるの? それを証明できる?」

「証明って言われても………」

「ほら、やっぱりできないんじゃない」

「っう、そ、それは………」

「やろうじゃないか、助手くん」

「………せ、先輩!?」

「本当に出来るんですか? 新見先輩!?」

「ああ。もちろんだ」

「もしできなかったら、どうしますか?」

「そのときは後輩ちゃんの言う通りにするさ。ただし納得してくれたらキミには科学実験部に入ってもらう」

「………分かりました」

「ちょっと先輩」

「大丈夫さ。助手くん」

「それで、判定は誰にしてもらいますか?」

「それなら適任者がいるよ」

「………誰ですか?」

「後輩ちゃんの近くいるじゃないか」

「それってもしかして」

「そう。助手くんの想像通りだ」

 

 そう言って、微笑を浮かべた理緒が教壇の上に足を組んで座っていた静乃に視線を向ける。

 

「………もしかして私か?」

 

 一瞬、ビクッとと肩を揺らした静乃がめんどくさそうに口を開く。

 

「はい。お願いします。先生」

「おいおい、私はこれでも忙しいんだ」

「平塚先生は顧問なんですから協力してください。これも部活動の一環です。上手く行けば、ひとり部員も増えますし活動もしやすくなります」

 

 スラスラと流れるように静乃を説得する理緒の話を優希は、冷や汗を流しながら訊いていた。

 

「ではこうしよう。後輩ちゃん、勝負は明日に持ち越すのはどうたろうか」

「逃げる気ですか? 新見先輩」

「いいや。そうじゃないさ。いきなりなことで平塚先生にも予定があるだろし、助手くんだって困るだろ」

「分かりました。時間と場所はどうしますか」

「放課後にこの場所でどうだろうか」

 

 理緒の提案に小さく頷いた桜子は「それでは新見先輩、また明日」と言って、理緒に冷淡な眼差しを向けて科学実験室を後にする。

 

 

 

 ★

 

 

 

 翌朝、優希は頭を抱えながら通学路を歩いていた。

 

 

「おはよう助手くん。どうしたんだい? 顔色が良くないみたいだが」

「おはようございます。先輩、昨日の今日で普通にでいられるんですか?」

「もしかして後輩ちゃんの件か」

「はい。大津さんにやましいくない実験だったと証明するなんて無理ですよ。俺が大津さんのだったら同じことを思いますし、状況的に俺たちが不利です」

「つまり、助手くんは今回の実験には反対だと言いたいのかい」

「はい………今回ばかりは無理ですよ。先輩」

 

 優希の言葉を訊いた理緒は何かを考えるように顎に指を添える。

 

「………先輩? どうしたんですか?」

「いや、何でもにない」

 

 それから学校に着くまでの間、理緒と優希の間に気まずい空気が流れていた。

 しばらくして昇降口で理緒と別れた優希は気だるい気分で教室に向かっていた。

 

「おはよう久我君」

「お、おはよう大津さん」

 

 優希が今、一番会いたくない相手である桜子がにこやかな笑みを浮かべて、するりと隣にやってくる。

 

「どうしたの? 顔色が悪いみたいだけど」

「いや、別に大丈夫だよ」

「本当に?」

「うん、大丈夫だから。心配してくれてありがとう、大津さん」

「………」

 

 優希の反応に桜子はどこか不満げな表情を浮かべていた。

 数分歩いた後、クラスに到着した優希と桜子は荷物を置くためにそれぞれの席に向かう。

 

「ねえ久我君」

 

 荷物を置き終えた桜子が優希の席の隣に来る。

 

「どうしたの?」

「訊きたいことがあって。どうして久我君は科学実験部に入ったの?」

「それは………」

「本当は新見先輩に無理やり入部させられたんじゃないの?」

「それは違うよ。入部するきっかけは賭けに負けたからだったけれど、今はそんなに悪い気がいないんだ。課ℊ買う実験部にいてさ」

「どういうこと?」

「この数週間で先輩のことが少しずつだけど分かってきんだ。あの人は純粋に実験が好きだけなんだって………まあ、変わり者とは思うけれどね」

「どうしてそこまで新見新見先輩の肩を持つの?」

「別に肩を持っているつもりはないよ。ただ大津さんは少しだけ新見先輩を誤解していると思ったから」

「誤解?」

「そう」

「それってこの前の実験のことも?」

「あれは、何というか………単なる事故というか、その―――」

「ほら、やっぱりやましいことがあるんじゃないの!?」

 

 優希がオドオドとした態度に訝し気に瞳を細める桜子。

 

 一方の優希も桜子の鋭い視線に内心、どう弁解すればいいのかと苦悩していた。

 

 

 

 

 

 

放課後。約束通り科学実験部に集まった優希たちと顧問の静乃が向かい合う形で実験室の机に座っていた。

 

「さあ、新見先輩、この前の件、しっかりと証明してくださいね」

「………ああ」

「あの~先輩、大丈夫ですか」

「何がだい? 助手くん」

「いや、これから大津さんになんて説明するのかですよ」

「それは………まあね」

「それはどうなんですか? 先輩、まさか何も考えていなんですか」

「そ、そんなことないさ」

 

 珍しく慌てている理緒を見て不安になる優希。その様子を対面に座っていた静乃は静かに見守っていた。

 

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