港町ポルトガ――輝く海の都が目の前に広がる
「歓迎します! 冒険者の皆さま――どうぞお通りください!」
高い石壁に隣接した巨大な門の前。鎧を着た衛兵たちが胸を張り、一行を堂々と迎え入れた。
城と街が一体となった不思議な構造。固い石畳の中心を軸に、市場、城郭、海運倉庫群が複雑に入り組み、遠くには港の青と白い帆船が夏の光を反射してきらめいている。
アクアは息を飲む。これまで幾つも街を巡ってきたが、ここはまるで宝箱を開けた瞬間のような眩しさを持つ街は初めてだった。
「……すげぇな」
視線の先では露店がずらりと並び、香辛料と海風が混ざった独特の匂いが鼻をくすぐる。
荷物を下ろし終えると、皆の全身からどっと疲労が解けるように抜けていった。
「さて、王に会って船を――」
アクアが言いかけたその時、ピヨエンが手を上げた。
「いや、待て。ここまでの道のり、あまりに急ぎすぎた。少しくらい落ち着いてもいいだろう。休暇を取るべきだ」
「賛成!!」
アイが真っ先に手を挙げる。
「海だよ?港だよ?絶対楽しい!ねぇルビー!」
ルビーも即頷いた。
「もちろん!ここ絶対かわいい服売ってる!」
かなとあかねも手を上げて賛同し、MEMちょは既に市場の方向を見ながらワクワクしている。
こうして、王への面会は後回しになり、一行は 2〜3日の休息期間 を挟むこととなった。
荷物を置いた後、ロビーに戻ってきたアクアは早速挟まれた。
「アクア、せっかくの休みだし、街歩きしよ?」
「市場もあるし、海も綺麗って聞いたよ。一緒に回ろう?」
かなとあかねが両側から腕を取る。二人の意図は、痛いほど理解できる。アクアはひよった。
「……二人とも、俺も……どっちも行きたいから。よかったら三人で回らないか?」
「もちろん」「うん!」
とても自然に、嬉しそうに返される。
逃げ道は完全になくなった。
後方ではアイにルビーが絡みついてくる。ルビーはアイの腕にぴったりくっついて離れない。
「アクア~行ってらっしゃい! わたしはルビーと遊んでくるね!」
「お兄ちゃんはデート楽しんできなよ。私はママと行くから!」
くっついて離れない二人を見ながら苦笑すると、攻撃力ゼロのアイを一人にするのは危険と、ピヨエンは護衛を買って出る。
「俺はこっちにつく。……攻撃できないアイが少人数で動くのはさすがに危なすぎる」
アクアはMEMちょへ救いを求めて視線を投げた。
しかし――
あかねがにこりと完璧な笑みで釘を刺す。
(ね、MEMちょ。分かってるよね?)
その笑顔は“逃す気ゼロ”の殺気を帯びたものだった。
MEMちょはその笑顔にそう読み取ると一瞬固まり、すぐに理解した。
--ここに残ったら、死ぬ--
「わ、私もアイさんの護衛入る!ほら、あの二人だけじゃピヨエンに負担かかるし!」
生存本能による華麗な逃亡だった。
そしてアクアは、かなとあかねに両腕を引かれたまま
“抵抗むなしく”ロビーからフェードアウトしていく。
外へ出たアイとルビーは、早速手をつないで跳ねるように街へ。
「どこ行こっかー!」
「まずお店でアクセ見たい!」
その後ろでピヨエンとMEMちょが肩を落としていた。
「……この二人、ほんと放っておけないな」
「うん。まあ……うん。可愛いけどね……」
気持ちは分かるけどね、と二人は器用に苦笑しながら深い溜息を合わせると言う芸当を見せた。
その頃、アクア達は--
海風が頬を撫でる。
市場の喧騒が背中に遠ざかり、
三人の足取りは自然と港の方へ向かっていた。
「あの……さ」
アクアは歩きながらぽつりと呟いた。
「俺は、こんな日が来るなんて、正直思ってなかった」
かなとあかねが驚いて同時に振り向く。
「……皆と旅をして、こうして街を普通に歩いて……笑って……それがすごく、不思議で。でも……嬉しいと感じる」
その表情はどこか儚く、柔らかい。
「俺は楽しんじゃいけない、その資格もないそう考えてた……でも、今は違う」
その言葉に二人は自然と微笑んでいた。
港の側にある小さな公園にたどり着くと、アクアは二人をそこにあった丸テーブルに座らせた。
「ちょっと飲み物買ってくる」
あかねがかなに寄り添って囁く。
「……アクアくん、あんな顔するんだね」
「……うん。ずるいよ、あれ」
二人は思わず照れ笑いしてしまった。
すぐにアクアが戻ってきて、席につく。
空気が静まり、波の音だけが響いた。
「……二人に、話がある」
その声は穏やかで、真剣で、誤魔化しがなかった。
アクアは深く息を吸い、そして静かに頭を下げた。
「……ごめん」
かなとあかねは同時に目を瞬いた。
「どうして謝るの?」
「何か……あった?」
アクアは二人を見た。
「前の世界から……二人の気持ち、ちゃんと分かってる。あかねとは少し話したし……かなの気持ちも、ずっと前から」
そして、まっすぐに言った。
「二人が俺に向けてくれる想いに……答えたい。その想いを軽く扱いたくないから。ちゃんと……向き合いたいんだ」
アクアはかなとあかねの目を見ながら続ける。
「この世界に来て、アイに再開して……ルビーが心から笑えるようになった。そこでようやくわかった。二人は俺にとってかけがえのない大事な人だ」
その言葉に、かなは両手で口を押さえながら泣き出し、あかねは涙をこぼしながら、誰よりも優しい笑みを浮かべた。
アクアは二人をそっと抱き寄せた。
沈む夕陽が三人の影を長く伸ばし、
風が静かにその空間を包み込んだ。
日が落ちても、三人の影はしばらく動かなかった。
ロビーへ戻ってきた三人は、どこか穏やかで、しかし妙に距離が近い。
それを見た瞬間、ピヨエンは思わず叫んだ。
「――ヤったのか!? シンイチ!!」
「ヤってねぇし!! 俺はシンイチでもねぇ!!!」
勢いよくツッコむアクアの怒号が、宿中に響いた。
MEMちょは後ろで小さく呟いた。
「……有馬ちゃん、あかね……なんで三人でそういう雰囲気になっちゃってるの?……未来が怖い……」
MEMちょの胃痛に救いが来る日は--まだ遠い--