ロマリア北の塔
塔は思った以上にボロく、外壁のあちこちにカンダタの落書きが残っていた。
「カンダタさま参上!!」「ここはいっただっきマンボー!!」など、センスが心底ヤバい。
「……カンダタ、字うまいね」
MEMちょが真顔で言う。
「そこ見る?」
アクアが冷静に突っ込む。
塔のふもとには、すでにアクア達を待ち構えているかのように“るびす仕様”の札をつけたドラキーが三匹ほどフワフワ漂っていた。
「戦闘が始まったら自動で配信しますので、そのつもりでどうぞー」
ドラキーの一匹が説明っぽい声を出す。
「いつも思うけど、この自律システム……誰が作ったんだろ」
かなが呟く。
「ルビス様が……じゃないかな? “冒険中だけ”って条件付けたの絶対神様のノリだよね」
ルビーが肩をすくめる。
「ここが……カンダタのアジトか」
アクアが扉を前に腕を組んだ。
「なんか、もっと禍々しいの想像してたけど……ただの廃ビルじゃん」
MEMちょが首を傾げる。
「廃ビルとは言うな」
かなが笑う。
そして木製の扉の前に立つアクア。鍵穴はご丁寧に残っているが……。
「じゃ、盗賊らしく行くぞ」
アクアは片手をかざし、軽く呪文を唱えた。
「アバカム(弱)」
……ぼふっ。
「弱って何?」
あかねが素朴な質問を投げる。
「開けれるけど、たまに爆発もするし煙も出るし、ちょっとヤバいやつ」
アクアが平然と言った直後、
――ドガァァン!!
扉のノブと周囲の木材だけが派手に吹き飛んだ。
「ちょっ、ア~たん!? 普通のアバカムじゃダメだったの!?」
MEMちょが悲鳴。
「盗賊はスキルレベル足りないから“弱”しか覚えてないの。文句はルビス様に」
アクアが肩を竦める。
「いや危なっ……でも開いたからまあいいか……」
かなが呆れながら中を覗く。
薄暗い塔の内部。
階段の前にはカンダタ子分の盗賊たちが数名仁王立ちしている。
「おい! 勝手に扉ぶっ壊したの誰だ!!」
「侵入者だぞ! 構えろ!!」
その瞬間、入口にいたドラキーたちが一斉に飛び上がる。
「戦闘判定入りました! ただいまよりライブ配信を開始しまーす☆」
「来た来た!」
MEMちょの表情が一気にキラキラになる。
「やったー!私、こういうときめちゃ役立てるんだから!自動ライブ配信と録画編集配信選べるんだ!?すごっ、UI最強!」
「いや“録画編集配信”って何……そんな機能まであるの?」
ルビーがぽかんとした顔。
「あるよ!? ルビス様の気まぐれエンタメ仕様だから!」
MEMちょは胸を張る。
「ゲーム性が壊れてる……」
かなとあかねが同時にため息。
「とにかく、まずはここの子分を倒してからだ」
アクアがナイフを構える。
「スーパースター4人……火力だけで押しきれる……かも?」
とあかね。
「押し切る押し切る! 魅了して踊らせるよ〜!」
ルビーがやる気満々。
「ちょ、踊らせるの!? 盗賊相手に!?」
MEMちょがツッコミ。
そのとき、ぴえヨンは後方で腕を組みながら見ていた。
アクア達の再会を影から見守っていた彼は、今も静かに一歩引いた位置で仲間の背中を見つめている。
「……派手にやりな。せっかくの再びの縁だ」
ぴえヨンは誰にも聞こえない声でつぶやいた。
「来た!配信!!」
MEMちょの目が一気に輝く。
「ドラキー、カメラ角度もっと下げて! ルビーのスカート危ないから!」
かなが慌てて指示する。
「うわホントだ!ありがと先輩!」
ルビーがスカートを押さえながら笑う。
「了解しました〜。アングル調整するよ〜!」
画面上には、謎の文字列と絵文字が流れていった。
《アラタナチャレンジャーキタ‼》
《スーパースター4人!? ハグレパーティーだwww》
《盗賊の兄ちゃん顔が死んでるけど大丈夫?》
《師匠っぽいのが後方腕組みしているの草》
「コメント来てる!? 配信めっちゃ生きてる!」
MEMちょがテンション爆上がり。
「戦闘中に見ないで!危ないから!」
あかねが焦ってMEMちょの手を引く。
「行くよ、お兄ちゃん!」
ルビーがステップを踏み、キラキラと光るステージ衣装(異世界仕様)で前に出る。
「やれやれ……はいはい、前に出る!」
アクアがナイフを握り直す。
「スーパースターフォーメーション、魅了のタンバリン!」
MEMちょがタンバリンをシャンッと鳴らした瞬間――
「んあ? なんだこの音……?」
盗賊の子分たちがぴたりと動きを止め、顔を赤くしてふらふらし始めた。
「効いてる!?」「効いてるね!」
ルビーとかなが驚喜。
「よしっ、今だ!」
アクアが一気に飛び込む。盗賊の足元をすり抜けるように滑り込み、一人の武器の柄をナイフで弾き飛ばした。
「うわっ!?」
「てめっ、早ぇ!!」
「見た?視聴者見た!? アっくんの盗賊ムーブ!最高じゃない!?」
MEMちょがカメラにアピール。
コメント:
《盗賊うますぎワロタ》
《イケメンすぎて草》
《MEMちょが実況してるの助かる》
《師匠は動かんの?》
ぴえよんはというと――後方で腕を組んで静かに仲間を見ていた。
(……まあ、このくらいは余裕か)
「決めるよっ!」
ルビーが華やかに回転し、
きらめく光をまとって盗賊たちの前に立つ。
「プリズム・ショーーット!!」
目も眩む光と共に、盗賊たちは次々と崩れ落ちた。
「……え、光の魔法使えたっけ?」
アクアが驚く。
「スーパースターはノリでなんとかなるの!」
ルビーは誇らしげに胸を張った。
コメント:
《キラッキラで草》
《盗賊たち瞬殺www》
《この配信面白すぎる》
「はい、子分たちは全員撃破……っと」
あかねが倒れた盗賊を確認しながら笑う。
「初の中ボス戦にしては上出来じゃん!」
かなが軽く拳を合わせる。
アクア、ルビー、かな、あかね、MEMちょの拳が重なる。
最後にぴえよんが遅れて歩み寄り――
「……いいね。初回にしては派手でよかったよ」
と、ぽつりと褒めた。
「ぴえよん褒めた!?」
「レアだ!」
「奇跡だ!!」
コメント:
《師匠褒めた!奇跡》
《イイチームだなコイツラ》
部下達を倒した後、更に時間は進み、石壁には縄や鎖が乱雑に掛けられ、天井は低い。
どこか湿った空気の中、一行は慎重に歩を進めていた。
薄暗い回廊を抜けた先――広い広間の中央で、ひときわ目立つ巨躯が腕組みして待っていた。
「……やっと来やがったな。塔ぶっ壊す勢いで
騒いでるから誰かと思えば……ガキばっかじゃねぇか」
配信カメラに手を振るルビー。
隣のアクアは既に戦闘体勢を整え、黒川はいつでも魔術を撃てるように指先を光らせている。
「こいつがボス?見た目めちゃくちゃ“変態覆面悪党”って感じだね」
「オイ!どストレートに言うな!!」
カンダタの声は塔全体に響くほど大きい。だが威圧というより、どこか劇団じみた豪快さがあった。
「コメント。“今日のボス、ツッコミ強そう”」
「配信すんなッつってんだろ!なんだその“今日の”って!?俺の扱いが日替わりメニューみたいだろ!」
「喋りすぎてるけど戦う気あるのか?」
「あるわ!!俺はここで賊の頭張ってんだよ!!雑談しに来たんじゃねぇ!!」
カンダタは怒鳴りながら腰の巨大な棍棒を担ぎ上げる。
金属製の先端は鈍く光り、一撃で床石を粉砕しそうな重量感があった。
「あ、札が床に落ちてる……“配信中は暴力控えめに”って書いてる」
「誰が書いたんだよそんなの!!俺の組にそんなホワイト規則ねぇ!!」
カンダタが地面を踏み鳴らし、一直線に突進してくる。
塔全体に響く地響き。
その巨体はまるで鉄塊のよう。
「まとめてぶっ飛べェーーッ!!」
「来るぞ!」
アクアが前に躍り出て剣で衝撃を受け止める。重量が桁違いで、剣がキィンと悲鳴をあげた。
アクアの足元の床石が割れるほどの力。だが彼の表情はほとんど動かない。
「……遅いな」
「おい今の聞き捨てならねぇぞ!!」
怒りで棍棒を振り回すカンダタ。
そこへ――
「よっ」
軽やかに跳んだかなの回し蹴りが、棍棒の軌道をわずかに逸らす。
「足一本で武器止めんなぁ!!」
「じゃあ、はいっ!」
ルビーの光弾がカンダタの背中に炸裂。
「いってぇ!!後ろから撃つな卑怯者!!」
「じゃあ前から撃ちまーす」
「振り向いてる時に撃ったら後ろからになるだろ!!」
「わがままな変態覆面悪党ね」
怒り心頭のカンダタが本気を出す。筋肉が膨張し、縄のような腕がさらに太くなる。
棍棒を振りかぶった瞬間、塔の空気がビリビリと震えた。
「本気見せてやるよ!!」
床へ叩きつけられた一撃が衝撃波となり、一行を吹き飛ばす。
「くっ……!」
「わわっ!」
「へっ、どうだ!これが“賊王カンダタ”の力だ!」
(コメント読む)「“賊王”って自分で名乗ってるの草って言われてるけど」
「読まなくていいそのコメント!!!」
乱戦の中、アクアが小声で仲間に合図を送る。
「三人、合わせろ。あいつ真正面しか見れてない」
「了解っと」
「いくよ!」
カンダタは強い。だが力任せで、攻撃は一直線。そこに隙が生まれる。
アクアが真正面から突っ込む。カンダタは嬉々として棍棒を振り下ろす。
「終わりだァ!!」
直前、アクアが滑り込んで攻撃を回避。
その背後に――
かなが低い姿勢から飛び上がり、顎に蹴り。
ルビーが魔力の矢を串刺しのように放ち。
黒川が追撃の結界弾を叩きつける。
「ぎゃあああああッ!!!?ちょ、おま、連携良すぎだろお前ら!!!」
巨体がのけ反り、そのまま床へ叩きつけられる。
棍棒が転がり、鈍い音が広間に響いた。
カンダタは床に大の字になって動かない。
息はあるが、完全に戦闘不能。
「よし、勝ち」
「カンダタさん、もっと強いと思ってたけど……」
「やめろ……トドメみてぇな感想……」
「塔の制圧は完了、か」
「コメント。“カンダタさん、悪党なのに愛されてて草”」
「愛すな!悪党だぞ俺は!!泣きたくなる!!」
カンダタの叫びは虚しく塔に反響したが、もはや誰も本気で悪人として見ていなかった。