ドラの子   作:ニコさん

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一番見たかったシーンです
これが見たいが為に投稿致しました。


ドラの子5

 

アッサラームを出てしばらく進むと、景色は急激に変わり、乾いた風が肌を刺すようになった。

空はどこまでも青く高く、地平線には揺れる陽炎。足元には細かい砂がサラサラと流れ、歩くたびに靴の中へ入り込んでくる。

 

「……あっつ……この世界、気温の概念バグってない?」

 

ルビーが限界の声を出しながら、手で団扇をパタパタと仰ぐ。が、風は熱風なので一切助けになっていない。

 

「砂漠は得意じゃないな……日陰がないのが精神的にくる。」

 

アクアは淡々と言ったが、その表情はどこか遠く、目のハイライトが若干消えていた。

 

「やっぱり帽子買っとけばよかったなぁ……ってか、なんでこの砂、靴の中に絶対入ってくるの?」

 

MEMちょは靴を脱ぎそうになりながら小さく跳ねている。

 

「歩き方が悪い。」

 

「え、歩き方?砂漠に対応した歩き方とかあるの?」

 

「知らないけど。」

 

「知らないんかい!」

 

かながすかさずアクアにツッコむが、暑さでキレ味は落ち気味。それでもツッコミを入れないと精神が保てないので職業病のように繰り返していた。

 

一方で、あかねだけは砂漠の風に無言で目を細めていた。表情は真剣で、何かを読み取っているようにすら見える。

 

「……この風、方向が一定じゃない。砂丘の形からして、もうすぐ地形が変わる。」

 

「なんで砂漠の地形読んでんの!?プロの探検家か何か?」

 

「いや……普通じゃない?」

 

「普通じゃないわよ!!」

 

あかねの“観察眼チート”はここでも健在だった。

 

しばらく歩き、陽が完全に頭上へ来た頃。砂の中で何かが蠢いた。

ザザーッと砂煙を巻き上げながら、巨大なカニのような魔物が姿を現す。

 

「出た!砂漠恒例のデカいカニ!」

 

「恒例扱いしないで!?怖いからね!!」

 

魔物の鋭い尾が弧を描くように振り下ろされ――その刹那、ピュンッどこからともなくドラキー(例の“るびす仕様”札を首に下げたやつ)が飛んできて、空中でくるりと旋回した。

 

【配信開始しました】

 

【視聴者数:1260】

 

「ちょっと待って!?砂漠でも来んの!?働き者すぎない!?」

 

「この世界の配信システム、どんな技術で成り立ってんだよ……」

 

チャット欄が次々と流れ始める。

 

【ルビーちゃん暑そうで草】

【アクアくんの顔が死んでる】

【あかねちゃん砂漠適応能力高すぎ】

【MEMちょの靴の中で砂が反乱起こしてる】

【カニくん今日もバイトか】

【かなちゃんのツッコミ助かる】

 

「いやカニくんバイトじゃないからね!?魔物だからね!?」

 

かなの声が砂漠に響く。

 

戦闘はあかねの冷静な動きと、ルビーのスーパースター的な暴れっぷり、MEMちょの奇跡的回避(しかし靴に砂が増えていく)、アクアの精密な攻撃であっさり終了した。

 

「本来なら守備強化呪文でえらい事になるはずなんだが」

 

「それは予測済みです!」

 

この暑い中で冷や汗を流すぴよえんにあかねは自信満々に答える。

魔物は砂の中に沈み、配信の視聴者数は謎にさらに増えていた。

 

「砂漠での戦闘なのに伸びてる……怖。」

 

アクアが呟くと、チャットは【悪魔的イケメン最高!】で埋まった。

 

「……なんかもう、暑いとかよりそっちがしんどい。」

 

「言ってる場合か!」

 

その後も、あかねが風向きと砂丘の形から最適ルートを割り出し、ルビーとMEMちょは暑さに叫びながらも進み、かなはずっとツッコミで精神を保ち、アクアは無言で遠い目をしながら歩き続け――

 

ついに視界の先に石造りの建物が見え始めた。

 

砂漠の国・イシス

 

「やっと……やっと文明だ……!」

 

「水……冷たい飲み物……人間……影……!!」

 

「あっ、あそこ、建物の影になってるところは気温が五度くらい低い。」

 

「その分析いらない!!もう疲れてるから!!」

 

こうして、一行はついにイシスへと到着したのだった。

 

砂漠を越えて、ようやく涼しい風が肌を撫でる。イシスの城壁が見えた瞬間、一行はほぼ同時に声を漏らした。

 

「涼しい……!生きてるって実感する……!」

 

「影!水!建物!最高!!」

 

だが、門をくぐった瞬間、一同は別の意味で目を疑った。

 

町の中央広場に巨大な壁画。

 

その壁画には――どう見てもアイが描かれていた。

しかも、アイ特有の瞳の形、髪型、笑顔。誤魔化しようがない。

 

「……これ、うちのママじゃない?」

 

ルビーが眉をひそめる。

 

さらに城下町を歩くと――

・アクセサリー屋に「アイ女王コレクション」

・酒場に「アイ♡スペシャルカクテル」

・子供たちが「アイ様のポーズごっこ」

・衛兵の装備にさりげなくハートモチーフ(アイ愛用のものに酷似)

 

「……これ、バラモスに警戒される以前に、全世界に主張してない?」

 

かなのツッコミが乾いた風に消えていく。そんな中、MEMちょが震えながら呟く。

 

「いや絶対アイでしょこれ……本人の癖とか完全再現されてるじゃん……」

 

あかねは街全体を観察して、淡々と整理した。

 

「……女王の趣味、という説明だけでは済まない量ね。これはもう……隠す気がないレベル。」

 

アクアは黙ったまま壁画を見上げていたが、視線はどこか遠い。

 

城の前まで来ると、衛兵が声をかけてきた。

 

「旅の方々、各国からのご依頼であればお通しできますぞ。……魔法の鍵のことですな?」

 

「え、なんで知ってんの?」

 

「だいたいの来客者の目的がそれでして。魔法の鍵は北のピラミッドに封じられております。入るには女王陛下の許可が必要ですので」

 

「なるほど……」

 

MEMちょが頷くが、その顔は半分以上“怖いもの見たさ”になっていた。

 

アクアはさらに問う。

 

「それより……女王ってどんな人なんだ?」

 

すると衛兵は胸を張って言った。

 

「それはもう!慈愛に満ち、笑顔が眩しく、瞳は星のように輝き――」

 

ルビーとアクアの表情がピクッと動く。

 

「……それ、完全にママじゃん。」

 

「……偶然の一致とは到底思えない。」

 

一行が案内された玉座の間。

 

そこに座っていた女王は、生前そのままであり――どう見てもアイだった。髪型も雰囲気も、そしてその仕草も。

 

だが。

 

「魔法の鍵の件、許可いたします。気をつけて行くのですよ。」

 

声は柔らかい。しかし、アクアにもルビーにも――

 

全く反応しない。

 

0反応。

 

0驚き。

 

0感動。

 

まるで他人を見るかのような穏やかさ。

 

「あ……あれ……?」

 

ルビーの声が震え、今にも走り出しそうになる。

 

しかし――

 

筋肉の戦士ぴよえんが素早く手を伸ばし、ルビーをガシッと掴んで止めた。

 

「お嬢さん、女王陛下の謁見中だ、走るのはNGだ。」

 

「ちょちょちょちょっ……! 離してええええっ!」

 

ぴよえんの筋肉が固く、びくともしない。

 

アクアは動かず、女王をただ見つめていた。

 

 

 

戻ってきた一行、宿の一室。

 

空気は重すぎて、砂漠以上に乾いていた。

 

「……ママ、だったよね。どう見ても……」

 

ルビーの声は涙で揺れている。

 

かなは頭を抱えた。

 

「記憶喪失……成長してて気が付かなかった??いやでもアクアとルビーは面影そのままだし、普通気づくでしょ?」

 

MEMちょが指を折りながらまとめる。

 

「えっと……可能性としては――

①記憶がない

②誰かに操られてる

③そっくりさん

④見た目は同じでも中身は別人……?」

 

あかねが静かに続ける。

 

「……でも、目の動きがアイさんそのものだった。演技じゃない。トレースした時の“本物”の動き。」

 

部屋が静まる。

 

そしてアクアが座ったまま言った。

 

「……都合がいいことに、俺は盗賊だ。夜ならこっそり忍び込める。」

 

一瞬で空気が変わる。

 

ルビーが素早く立ち上がり、目だけでアクアを見た。

 

その目は――迷いゼロ。やる気100。むしろ覚悟300。

 

「行く。絶対に行く。止めても行く。」

 

アクアは無言でその目を見返したが、すぐに諦めたように溜息をついた。

 

「……足引っ張るなよ。」

 

「うん!」

 

その“うん”があまりにも強いので、周りが怖くなるレベルだった。

 

夜のイシスは、昼間とはまるで別の顔をしていた。

 

昼は観光地みたいに賑やかだった街も、今は風の音だけ。

城の灯りが砂色の壁を淡く照らし、まるで夢の中に迷い込んだみたいだ。

 

アクアはフードを深くかぶり、影を渡るように歩く。

その後ろには、まったく同じ歩幅でルビーがついてきていた。

 

「……怖くないのか?」

 

「怖いよ。でも、会いたい気持ちのほうがずっと強い。」

 

ルビーの声は震えているのに、足取りは一度も止まらない。

 

アクアは少しだけ目を伏せた。

ルビーの覚悟が本物だと、痛いほど伝わったから。

イシス城は広く、長い廊下が迷路みたいに続いている。

 

壁に飾られた装飾、そのどれもが――どこか、ほんの少しだけアイの趣味に似ていた。

 

それが胸を刺す。

 

「……ここまで似てると、逆に心が追いつかないよね。」

 

ルビーの呟きに、アクアは返事をしない。

ただ、早歩きになる。

 

近衛が巡回しているのを音で察知し、二人は柱の影に身を隠す。月光が二人の瞳を薄く照らす。心臓の音だけが響いていた。

やがて近衛が通り過ぎると、ルビーが小声で言った。

 

「……お兄ちゃん、手……少し震えてるよ?」

 

「……お前だって。」

 

見なくてもわかる。

 

二人とも、覚悟と恐怖と期待で心がぐちゃぐちゃだった。

 

長い階段を上り、最奥の扉の前にたどり着く。

 

どんな姿でもいい。どんな状態でもいい。

 

この奥に――“ママ”がいる。

 

その事実だけで、喉が詰まる。

 

扉の前で、二人の呼吸が揃うまで、しばらく時間がかかった。

 

そのとき――扉の向こうから、聞こえてはいけないものが聞こえた。

 

『やだああああああ!今日は無理!絶対無理!!会いたいよおおおお!ママーって言われたいのおおお!!』

 

「…………え?」

 

「…………これママの声だよね?」

 

部屋の中から、どう聞いてもアイの声で駄々が漏れている。

 

『えーっ、だめぇ?だめなの?なんでよー!私の子どもだよ!?会わせろよおおお!!』

 

「……なんか……すごい取り乱し方してない?」

 

「昔より自由になってない!?どういうこと!?」

 

困惑 MAX。

 

『やだっ!いやだっ!待てない!!なんで昼間我慢したのに!?バカ!あの子たちの顔!忘れるわけないのに!!』

 

間違いなくアイの声だった。

でも、そこにあったのは“女王の声”じゃない。

 

完全に――母親の声だった。

 

『今日中に会う!!会うの!!誰が止めても行くから!!アクアもルビーも、大きくなってるんだよ!?どうしよう!!絶対泣く!!』

 

「…………」

 

ルビーの目から、音もなく涙が落ちた。

 

アクアは頭を垂れ、歯を噛みしめる。

 

『会いたい……会いたいよ……っ!!どれだけ……どれだけ離れていても……抱きしめられればそれでいいのに……!』

 

その嗚咽交じりの声は、二人が知っている“アイ”そのものだった。

扉が薄く震えている。

 

中でアイが暴れているのだとわかる。

 

『どうして……昼間、我慢しちゃったの……泣きたかったのに……二人に触りたかったのに……女王だからって……母親という事まで我慢しなきゃいけないの?!』

 

アクアは手で顔を覆い、肩を震わせた。こらえ切れない。

 

ルビーは口を押さえて泣いていた。

アクアはそっとルビーの肩に触れて言う。

 

「入ろう。……もう無理だろ、これ以上待つとか……」

 

ルビーは涙の中で頷く。

アクアの手が扉へ伸びる。

 

そして――もう躊躇することもない、扉が開く

 

そこにいたのは――

 

昼間より少しボサボサで

 

涙で目が真っ赤な女王アイ。

 

いや、女王じゃない。

 

完全に母親の顔だった。

 

アイの瞳は、二人を見た瞬間に完全に光を失い、次の瞬間には星みたいに輝き出した。

その瞬間、時が止まったようだった。

 

「……ル……ビ……?」

 

「ママ……」

 

ルビーが息を飲む。

 

アイの顔から、涙があふれた。抑えていた感情が決壊するみたいに。

 

動いたのは一秒後。

 

いや、もっと早いかもしれない。アイの姿が、一瞬でルビーの目の前から消え――

 

次の瞬間、ルビーは空を飛んでいた。正確には、アイの胸に引き寄せられていた。

 

「ルビー……っ……ルビー……!!!」

 

「ま、まま……っ……!」

 

アイは泣き叫ぶ勢いでルビーを抱きしめた。

 

腕が震え、息が詰まって言葉が途切れるほどに。

ルビーも同じ強さで抱き返した。

誰も止めない。

止められない。

 

アイは涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら、崩れ落ちるように座り込んだ。

それでも、片腕でルビーを抱いたまま、もう片腕をアクアに伸ばす。

 

「アクア……アクア……来て……お願い……」

 

呼ばれただけで胸が壊れそうになった。

アクアは何も言わず、ゆっくり歩いて――

そっとその腕に触れた瞬間、強引に引き寄せられた。

 

「アクア……アクアも……ずっと……ずっと会いたかったの……っ……!!」

 

アクアの頬にも涙が伝った。

母親の手の温度を、忘れたくても忘れられるはずがなかった。

 

三人はそのまま床に座り込み、抱き寄せあって泣き続けた。

誰も止められない。

止める理由もない。

 

三人の涙が混ざって、床にぽたりぽたりと音を立てて落ちる。

 

アイが震える声で呟いた。

 

「……生きててくれて……ありがとう……ほんとに……ほんとに……ありがとう……」

 

ルビーは声にならない声で、母の胸に顔を埋めて泣く。

 

アクアはただ肩を震わせ、腕の力で母を抱きしめ返す。

 

廊下で見ていた護衛や侍女たちは、事情も知らないのに全員泣いていた。

この光景を前にしたら、泣かないほうが無理だった。

 

母の温もりと、涙の音と、安堵と、ずっと抱えていた孤独が溶けていく。

 

泣き疲れた三人が、互いの肩に顔を預けたところで――

イシスの夜は、優しく三人を包んだ。

 

 




見ていただいた方ありがとうございました。
まだ続けるつもりではいますがこのシーンだけは本当に見たかった。
しかし無かった。
ならば自分で作り出そうと始めたものでした。
出しきった感があるのでこの後どうなるかわかりませんが、読者の皆様の御嗜好にあえばと思います。
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