ドラの子   作:ニコさん

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ドラの子6

翌朝の光景---

 

 

夜明け前の砂漠に薄い光が差し込み、イシスの空気がようやく冷たさから解放され始めたころ。

 

宿の一室では、すでに母娘の笑い声がしていた。

 

「ママー、はいっ! 朝ごはんあ~ん!」

 

ルビーが焼きたてのパンを差し出すと、

アイは頬を緩ませて身体を少し傾ける。

 

「ルビー、朝から元気だねぇ。ん、おいしぃ!じゃあ、お返し!……あ~ん♡」

 

母娘はひゅっと距離を縮め、笑いながら食べさせ合いを続けている。

 

アクアはその向かいで手を止め、二人の姿をしばらく見つめていた。

 

(……これが、もし前回失われずに続いてた世界線なら……毎朝こうして笑ってたんだろうな)

 

そう思ってしまう自分に苦笑しながらも、

口元には自然と穏やかな笑みが浮かんでしまう。

 

「……ほんと、親子ってやつだな」

 

呆れた調子の声なのに、どこまでも優しい。

 

その瞬間、アイが気づいたようにアクアを見つめる。

 

「アクア、こっち来て? 朝はちゃんと食べなきゃだよ。ほら、お母さんが食べさせてあげる」

 

「いや、アイ、それ俺もう――」

 

「お兄ちゃんもこっち来なよ!ママと一緒に、お兄ちゃんにもあ~んするの!」

 

「ちょ!?ルビー!お前まで――」

 

反論を許さない母娘コンビの包囲網。

アクアは逃げ場なく座らされ、スプーンを向けられる。

 

「ほら、アクア。あ~ん♡」

 

「お兄ちゃん! 逃げないのっ! あ~ん!」

 

二本のスプーンが完璧なシンクロで迫る。

 

「――っ! だから朝からこれは……!」

 

ぱくっ。

 

ルビーとアイが声を合わせて喜ぶ。

アクアの顔は一瞬で真っ赤に染まり、耳まで熱を帯びていた。

 

その、ちょうどその瞬間。

 

「アクア君、呼ばれて――」

 

「……来たよ、って……えっ?」

 

遅れて到着した有馬かなと黒川あかねは、目の前のレアすぎる光景に固まった。

 

アクアが両側から“あ~ん”され、真っ赤になって固まっている――そんなシーンなんて。

 

かなは手で口元を押さえ、肩を震わせる。

 

「なにその……なにそのレア顔……っ、や、やば……! あ~くん、可愛すぎない……?!」

 

あかねも耳まで赤くしながら、胸元を押さえた。

 

「アクア君……そんなに照れるんだ……ちょっと……反則……」

 

アクアは慌ててスプーンを持ったまま立ち上がる。

 

「ち、ちがっ!これは、その――誤解だ!」

 

しかし言い訳は届かず。

 

かなとあかねは、レアすぎる照れアクアに完全に打ち抜かれていた。

 

二人の視線は、恋する女の子のそれそのもの。

 

「……最高すぎる……」

 

「……ずるい……素敵……」

 

そのつぶやきは、アクアには届かないほど小さかった。

 

その時、MEMちょは“いい配信素材だ……”と感極まっていた(配信はできない)。

 

それはそれは平和な朝だった。

 

……この時点では。

 

謁見の間に移動した一行を待っていたのは、宮廷の重厚な空気と、整列する家臣たちの緊張感。

 

玉座の前に立ったアイは、胸に手を当てる

 

「皆さん、聞いてください……」

 

家臣たちが静まる。

 

ルビーが息をのみ、アクアが眉をひそめる。

ぴえよんは(あ、嫌な予感しかしない)と首を軽く回した。

 

そしてアイは、堂々と宣言した。

 

「私……女王、辞めます!普通の女の子に戻りまーーす!!」

 

謁見の間が爆発した。

 

「な、なにぃぃいいい!?!?」

「アイ様ぁぁぁ!?!」

「やめないでぇぇええ!!」

「東の卑弥呼に勝てるのはアイ様だけなんです!!」

「去年の東西女王対決、あれだけの完勝だったじゃありませんか!」

「国がもちませぇぇぇん!!」

 

完全パニック。

 

「アイ?!……今まで何やってたの?!」

 

アクアが呆れ半分、心配半分で叫ぶ。

 

アイは胸を張って配下に言い切る。

 

「だって、子どもたちと過ごしたいんだもん!」

 

「理由が清々しすぎる!!」

 

ぴえよんのツッコミが響く。

 

阿鼻叫喚と言う言葉がこれ程似合う事はない状態。

 

だが――家臣たちは母親の愛に暴走したアイを止める事はできなかった。

 

アイの目がキラリと眼光鋭く煌めき……力強く足を踏み出した瞬間。

 

「あれ?なんか……どっかで見たような……」

 

アクアが言った刹那、アイが全力のステップで前に出る。

 

ドドドドドドドッ!!

 

家臣たちが数珠つなぎで吹っ飛んだ。

 

「強引なドリブル!?!?」

「止めろーー!!!」

「腰がッ!!」

「玉座がァァァ!!」

「猛虎?!マンガが違う!ぐわばぁ!」

 

アナウンスが流れるような吹き飛ばさをされ、床に転がる家臣たちは涙を流しながら、もう女王を止める事は出来ないと悟り、アイを見送るために白いハンカチを振り始めた。

 

「い、行ってらっしゃいませぇぇぇ……!!」

「お幸せにぃぃぃ!!!」

「もう……もう好きにしてくれぇぇ!!!」

 

完全に白旗状態であった。大丈夫か?この国……

 

謁見の間を抜けた一行とアイ。

 

この後、ピラミッドに向かう予定な事を知るとアイは事も無げに軽く指を振りながら言った。

 

「魔法の鍵? あれいらないよ〜。私、アバカム(中)使えるし。」

 

「……は?」

 

アクアの顔が一瞬で引きつった。

 

後ろでルビーが汗をだらだら流しながら言う。

 

「お兄ちゃん……もしかして……いらない子扱い……?」

 

「や、やめろ。」

 

アクアの声が震える。

 

かなが肩をぽんぽん叩く。

 

「大丈夫よア~くん……鍵開け以外にも……ほら……その……えっと……盗賊って色々あるじゃない……?」

 

「フォローが逆に刺さるんだが……!」

 

優しさが逆に鋭いナイフにも変わる、そんなお話であった。

 

それを見ながらぴえよんは皆を温かく見守りながら、静かに笑っていた。

 

(……それでも、この旅はアクア、お前が中心なんだよ)

 

心の中でだけ、そう呟いた。

 

 

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