イシスの城門をくぐり抜け、砂漠の風だけがさわさわと一行の足元を撫でていた。
王位返還騒ぎの余韻がまだ耳の奥に残っている。
アイは胸の前で手をぎゅっと握り、小さくつぶやく。
「……これで、本当に自由になれたのかな」
結局、以前の女王に王位を変換したのだが、それがまぁアッサリと通りすぎてアイとしては自覚が無いのだろう。
アクアは砂を蹴りながら肩をすくめる。
「にしても、王ってあんな簡単に譲れるもんなんだな……。ロマリアの時もそうだったけどさ」
中庭で草木の面倒を見ていた以前の女王にアイが王位の変換を持ちかけるとロマリアと同じく、拍子抜けするくらいにパッと以前の体制に戻ってしまったのだ。
ピヨエンがうんうんと頷きながら
「ロマリアでも王位、譲られたしな」
とぽつりと言うと、ルビーがすかさず振り返る。
「そうそう! だからこの世界の王位って、まるでバーゲンセールみたいよね!」
「バーゲンセール!?」
アクアが盛大にむせる。
「いや軽すぎんだろ!? 王様ってもっとこう……ちょいちょい変わって良いもんじゃないだろう!?」
MEMちょが苦笑しながらルビーの肩をちょん、とつつく。
「ルビー?それはちょっと違うんじゃない? バーゲンって安売りの時に使うやつだよ?」
「え、でも王位めっちゃ流れてない?」
「意味はわかるけど!わかるんだけど!! 言い方が強い!」
かなが腰に手を当て、砂漠の真ん中で怒ったように笑う。
「もしかして某野菜の王子が使ってたから言ってみたかっただけか?」
「ぎくっ!」
アクアがふと、どっかで聞き覚えのあるフレーズに、もしやと訪ねてみれば案の定、ルビーは口でぎくっ!と言いながら明後日の方向を見ながら吹けない口笛を吹き始める。
「でもそれにしても、よ。アイ、なんで王位についたのよ? 返すのも早かったけど、なるときも早かったわけ?」
かなの問いにアイは頬に指を当てて、照れながら事情を話す。
「あの……前の女王様が、勝手に“イシス国民アイドル総選挙”っていうのを開いちゃって……。気づいたら、すごい差で一位になってて……“王位はあなたに譲ります”って……」
「アイドル総選挙で王が決まる国……!!」
アクアが空を仰いだ。
もうダメだ……何もかも理解が追いついていない。
ルビーはその隣で、なぜか誇らしげに胸を張る。
「つまりママは国民総推し。すごいでしょ? ピヨエン」
「なんでお前がそんなに誇らしげなんだよッ!」
あかねが苦笑しつつ、アイの隣に立つ。
「でも、返せて本当に良かったですね」
「うん……。これでようやく、帰るところに帰って来た気がする。でもイシスの女王様って予知が出来るって言う話だから全部予定通りかもね?」
アイが微笑むと、仲間たちは自然に歩調を合わせた。
王位返還の熱と、再会の余韻を胸に、軽口を交わしながらイシスの街並みを進む一行。
そしてこの先には、まだ誰も予想してない事件が待っているのだった。