最初に有馬かなが関所へ足を踏み入れる。
あの時「有馬推し」と胸を張った衛兵が、彼女を見た瞬間、顔をぱぁっと輝かせた。
「おお、有馬かな様!流石ですもう魔法の鍵を手に入れたのですか?!……いや、では扉を開ける前にぜひこの盾にサインを……!」
「いや~、そういう訳じゃないんだけどぉ!テレるなぁ、特別ですよぉ?」
差し出された盾に、そう、かなは少し照れたようにサインを書く。
満更でもない満面の笑顔だ。
「かなちゃん、嬉しそうだね」
続いて入ったあかねは柔らかく笑いながらかなに話しかける。
「魔法の鍵は、まだ手に入ってないぞ」
そこにアクアが後ろから歩いてきて衛兵に現実を告げる。
「でも! 開けられるから!」
そこにルビーが入りながら意味深ドヤ顔。
そして――
ひらり、くるりと優雅にステップを踏み、布をひらめかせ、まるで舞台の上のようにアイが登場!
衛兵は、その登場に完全に見惚れている。
さらにアイはとどめとばかりにポーズを決めると叫ぶ!
「私に開かない扉はなーいっ☆」
衛兵は固まった。
嫌な予感を覚えたのは----かなだった----
そして数秒後――
「か、か……か……可愛いいぃぃぃぃぃ!!アイ様ぁぁぁぁぁっ!!?」
「……………はぇ?」
かなは五点倒置で地面に突っ込み絶望を表現するしかなかった。
「わ、私の、私の推しがぁ………いなくなっちゃったぁ」
あまりの衛兵の豹変ぶりにさすがに情緒不安定になる有馬かな、しかし、そこに衛兵、いや推しを持つオタクは答える!
「失敬な!」
オタクは胸を張る!
「かなさんの推しを辞めたわけではない! 推しが増えただけだ!!」
オタクの勢いに押されるかな。
一瞬、それなら良いかと納得仕掛けるかなだったが、そこにあかねが代わりに訊いた。
「じゃあ、一番は?」
「アイさんです!!!」
--即答--
二度のダメージでかなは無言で膝から崩れ落ちた。
その横で、空気を読めていないアイが、解錠呪文を唱える!
「アバカム(中)……!!」
本来なら中級呪文である(中)だが天性のスーパースターでアイが使うと上級ド派手エフェクトで、光に包まれながら扉が音をたて始める。
ゆっくりと扉が開き、アイが胸を張ってキメポーズを決める。
「分かっていたのに!分かっていたのにこれを見てしまったら現実がツライ!!」
アクアは頭を抱えてしゃがみ込み、わかっていたはずなのにと心が軋むのを堪えていた。
その横では、かなも完全に項垂れていた。
ふと顔を上げると、同じく項垂れていたアクアと目が合った。
二人とも、ほぼ同時に苦笑い。
「……なんか、辛いよな……」
「……うん……ちょっとキツい……」
妙な連帯感が生まれ、まるで“敗北を噛み締めた戦友”のように静かに頷き合とガッチリと手を組む。
そんな二人の様子を少し離れたところから見てしまったMEMちょは、肩を落とし、どうしてもこう呟かずにはいられなかった。
「有馬ちゃん……なんで戦友みたいになっちゃってるの……」
かなの未来を思うと、もう嘆くしかないMEMちょ。
扉が開き、衛兵がアイに深々と礼をしているのを後ろに、一行はポルトガへの道へと歩き出した。
かなはまだ、さっきの“推し替えショック”を完全には引きずっているらしく、歩きながらもたまに遠い目をする。
アクアもアクアで、アイのアバカム(中)の過剰演出に心を削られたままで、未だ無言で肩を落としている。
その並んだ二人を見たMEMちょは、さっきの嘆きを胸に抱えたまま、
「ほんと、この二人どうなっちゃうの……」
と、さらに深くため息。
「まぁ、でも……」
二人の繋がれたままの手を見ると
「全くの進展なしでもないのかな?」
そんなMEMちょの呟きは草原に散っていくのだった。
その固まった空気をそれでも、道の先に広がる海風と草原の匂いが、少しずつ空気を変えていった。
ルビーが、ぱっと顔を上げて叫ぶ。
「ねぇ!ポルトガって海の街でしょ!すっごく綺麗なんだよね?」
胸を張るようにアイが答える。
「うん!イシスの女王様が“海は癒し”ってすすめてくれたの。だからポルトガは好き!」
かなが、ちらっとアイを見る。
「……なんかさ、イシスやロマリアより情報多くない?あんた、来たことあんの?」
「えへへ、来てみたかったから来たことにしたの」
アイはニコニコしたまま意味不明なことを言う。
ピヨエンが小声でアクアに耳打ちした。
「……今の矛盾にツッコむだけムダだよな?」
「……ああ。あれを深く考えると精神にくる」
二人は聞かなかった事にした。
しばらく歩くと海の匂いが濃くなり、町の屋根が遠くに見えはじめる。するとルビーがテンションMAXで走り出す。
「あっ!アクア!あれ見て!海だよ海!!」
「走るなルビー、転ぶぞ!」
追いかけるアクア。
「あ、有馬ちゃんアクたんばっか見てないで下見ないと……」
「……きゃあ!」
その後ろで、MEMちょがアクアを視線で追ってるかなに注意しようとするも途中から半分悲鳴。
案の定、かなは転びそうになり、アクアが振り返って手を伸ばす。
「あ、危な……ほら、言わんこっちゃない」
支えられたかなは、顔を真っ赤にしながら言い張る。
「べ、別に!海風で目が乾いただけだから!」
あかねはくすっと笑う。
「ふふ……なんだかロマリアよりも賑やかですね」
アイも嬉しそうに手を叩く。
「みんな、お揃いで海だねっ!」
ピヨエンが荷物を持ち直しながら満足そうに頷いた。
「うむ、これでようやく本格的に冒険らしくなってきたな。海だ、港だ、そして――次は船の手配だ」
そして、一行はついにポルトガの街門へと足を踏み入れる。
その後ろでは出るタイミングを失ったきめんどうしが悲しそうに木陰からアクア達を眺めていた。
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