“転生者”   作:ダフネキチ

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「“天秤”こそがその証」
「傾きが示す、傲慢も怠慢も――等しく堕落である」




Pt.2

 

 

――視界が晴れる。

 

霊鷹に導かれ、またまたやってきた“リムベルド”。

眼下に広がるかつての黄金の地を――ぼくはフラットな気持ちで眺めている。

 

そりゃあ前回は急な実感やら、マップ全損の強すぎる語感にドギマギしまくったけれど、今思えばそんな屁でもない。……ぼく自身がそれ以上の厄ネタな感じだしぃ?

 

それにやる事は、“ゲーム”とそれほど変わりないしね。初めのセオリーがちょっと変わっただけなのだ。

まずは“小砦”を襲って、地図を入手。それを元手にリムベルド全域をマッピングして一日目を終え――二日目にがつんと攻略して、三日目に備える。

こう考えれば、DLCで大空洞実装された時の阿鼻叫喚と比べればらくしょーらくしょー。

 

 

まずはー、小砦ぇ。小砦をぉ探すー……さがすー……さがっ、うーん………うん。

 

 

――近くにねぇなおい。

 

 

 

 

 

「――というと、皆はどうしてるん?」

 

霊鷹から飛び降り、今度は華麗に着地を決め――また近くで屯っていた哀れな貴人たちをしばき回した後。

“復讐者”と“執行者”にそう訊ねると、二人も小砦が無かった事に気づいていたのか少し思案顔。

 

「……人によるな。“周りの拠点を無視して、小砦を探す”。あるいは“目に付く拠点を襲いながら臨機応変に”、だ」

 

復讐者の言葉に執行者が頷く。

……まあ、その二択か。ぼく的には前者がいいけど……。

 

「……うーん」

 

“ゲーム”と違い、このリムベルドは……なんだろう、等身大というべきか素材そのままというか。

ゲームはやっぱり遊びやすさというものが必要で、傾斜段差高低差山盛りでも――分かりやすい形をしていた。

 

でも――“此処”は違う。

森林は鬱蒼としているし、街道は殆どかき消えてるし、様々な残骸はぼく達に一切の配慮など考えずに辺りに転がっているし――バカみたいに広い。

大抵はゲーム準拠だけど……あくまで準拠。

 

つまり、あても無く小砦を探し続けるのはリスクしかなさそう。

 

「……二人はどうしたい?」

 

とりあえず、二人の意見を聞いてみる。

 

「私としては目に付く“夜”の連中を片っ端から――……ああ、いや。そう、私は夫の指示に従う。貞淑な妻として」

「いや、別にそこまで求めてないよ……?」

 

それに貞淑を気取るには、続いたであろう発言があまりにも蛮族すぎる。

ふんっふんっ!と気合十分な鼻息を出す復讐者から、視線を執行者に映すと――彼からは返答はない。

けれど、腰に提げた“黄金色の刀”を撫でる仕草は気合満タンといったところ。

 

「んじゃあ――」

 

二人の返答を受けたぼくは――かすれた街道の先にある、大きな建造物の残骸を指さした。

 

「まずは“大教会”に行こうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

――“大教会”

低レベル帯で攻略する事が想定されるロケーション。

 

まあまあの敵、まあまあのアイテム、まあまあのボス。

序盤で行くと美味しく、中盤で行くには時間がなく、終盤で行くにはもったいない。

そんな具合の、ほんとにまあまあな場所だ。

 

名前からして大きな礼拝堂を連想するけれど……その実態は、ほぼ全壊といった有様で――大層な名の輪郭を残した大広場みたいな場所だ。

 

その中にいる敵のパターンは複数ある。

でも、遠くからでも分かる赤布のテントと炎の台座を見れば――いるのは“火の監視者たち”だろう。

 

かつての黄金の地、そこにそびえ立っていた黄金樹を害しうる“滅びの火”の封印を監視する役目を担ったものたちだ。まあ、木の近くは火気厳禁だからね。

――と、いっても。

“リムベルド”には黄金樹も滅びの火も姿はない。

全てが夜に呑まれてしまった今。彼らは何を考えているんだろう。

 

どうあれ。

彼らは、敵対してくる。

なら――おしなべて、ぼく達夜渡りの敵になる。

 

 

 

大教会には、茨が巻き付けられた杖を携える赤布の敵が、複数人周りを警戒するように立っていた。

“咎人”と呼ばれる、監視者達の下っ端ポジ。

地を這う茨を召喚する魔術の使い手で地味にウザい存在だけど――近接に弱い。分かりやすい雑魚だ。

 

それを二人も知っているのだろう。

だから――行動は早かった。

 

 

「――“フレデリック”!蹴散らせッ!!」

 

 

そんな彼らが此方に気づく前。

疾走するぼくの先陣を切ったのは復讐者の鋭い声。そして、彼女の手元に現れたリラの音に呼び寄せられるように現れた――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

フレデリック。死して変質し、霊体になっても“復讐者”に付き従う三人の家人達(ファミリー)の一人。彼女の“能力(スキル)”そのもの。

なお、彼は料理長だったらしい。……マジでぇ?

 

“彼”はそのまま、狼狽える敵に接近すると棍棒を構え――横薙ぎで、彼らを一気に吹き飛ばす。

そうして出来た隙間に僕たちが入り込む中。

彼は倒れた敵に向かい、棍棒を叩きつけ続けていた。どうみても荒くれ者で料理長に見えないけど……なんだろう、マッシュポテトとか作るのが得意だったのかな。

 

大教会の中は、“ゲーム”の時よりも少し広く、敵の数も気持ち多い感じだが――それ以外に違いは見受けられない。

これなら、少し効率良く行ってみようか。

 

近くで見つけた、全壊した余波で出来たであろう床の穴――ボス部屋まで続く地下通路を確認したぼくは叫ぶ。

 

「“執行者”!ここはぼくらに任せて下の奴お願いしていい!?」

 

返答は無かったが、執行者は迷いなく地下へと消えていく。ボスもゲーム通りなら、彼に任せていれば問題ないだろう。

その時、復讐者がぴとりと近づいてきた。

 

「なぜ構造を知っているかは?」

「聞かないでくれるとありがたいかな」

「わかった。なら聞かん」

 

復讐者はリラの弦を弾き――フレデリックを呼び戻す。

 

襲撃に気づき、わらわらとやってきた咎人達はこちらを警戒するように、けど油断無くこちらを囲んできた。

茨の杖を強く握りしめ、彼らの手に血が滲む――攻撃の予兆だ。

 

「援護するよ」

「大丈夫だ。お前はお前の思うように戦ってくれ」

「いいの?」

「案ずるな――()は、もう見ているだけではないからな!」

 

そうして、復讐者はまたリラを奏でる。

 

「――“セバスチャン”!」

 

呼び声に従い、ぼくたちの目の前にあられたのは――フレデリックよりも巨大な()()()()()()()()()()()()()()()()

古い言葉で言えば、がしゃどくろ。新しい言葉で言えば、あんこくのまじんのような感じだ。

彼は名の通り、執事長。姿はもう名が示すエレガントさやスマートさには、ほど遠いけれど――家人として頼もしいのは今なお彼である事には変わりない。

 

セバスチャンは野太い咆哮をあげ、長大な腕を咎人の集団に叩きつける。

急に現れた骸骨の一撃に気色ばむ敵目掛け――小さな影が一気に肉薄した。

 

「ふッ……!」

 

復讐者は、()()()()()()()()()を薙ぐように振るうと――咎人の身体に大きな爪で抉られたような傷が付き、血が吹き出した。

あの装飾――“復讐者の呪爪”の力だ。

本来であれば精緻な装飾でしかないそれは、かつての持ち主の呪いが“復讐者”に感応し、不可視の爪となって彼女の武器になっているんだ。

 

そうして彼女は、セバスチャンの攻撃と合わせるように咎人達に攻撃を仕掛ける。その容赦のない攻勢はまさしく“復讐者”の名にふさわしい。

 

………。

あの子遠距離職のはずなんだけどねぇ!?

いや、ファミリーでヘイトとってその隙に攻撃するのは定石通りなんだけどさ。まだ彼女の主武器である“聖印”を見つけてないからこうするしかないんだろうけど……なんか、すごい似合ってる。

――グレソ巨人砕きを携える少女人形の凛々しい幻が見えるというか。

 

「――……っと」

 

ぼくは、杖を地に叩きつけようとしている咎人をクロスボウを放って止める。攻撃されるとこだった。

今は彼女に見惚れている場合じゃない。こっちもこっちで集中しよう。

 

咎人達の集団は固まって、こっちを見据えている。

同じ遠距離持ち同士、引き金を引くだけのぼくの方が早いが数で押し切られる可能性もある。

油断は……――()()、そうだ。

 

(……“鱗粉ボルト”、使ってみよ)

 

グノスターからの贈り物。

あの鱗粉、敵味方の判別なさそうだから――復讐者も執行者も近くに居ない今試そう。

 

ぼくはその場でボルトを切り替え、すぐに彼らの胴体に向けてボルトをばらまく。

ボルトは彼らにダメージを与えてはいないようだが、パリンッと小さな破裂音と共に――宇宙色の鱗粉が辺りに散布する。

すぐに何人かは咳き込みだした。

 

おおっ、やっぱり結構効――

 

瞬間。

何人かの身体が震えだすと――ぐちゅりっぐちゅりっ

肩や腹、喉が脈動し始め、そうして肉を突き破るように現れたのはミールワームのような寄生虫。

それは彼らの腕よりも大きく、蠢く度に宿主となった者の血肉を辺りに撒き散らす。

 

「………」

 

仲間の中から現れた蟲に戸惑い、咎人の何人かが何とかしようと近づくと――寄生虫の頭が花が咲くように開き、真っ赤な中身に隠れた無数の牙を覗かせた口が、勢い良く彼らの頭全体を咥え込んだ。

 

「………」

 

ぐちゅりっぐちゅりっぐちゅりっ

寄生虫に頭を食い散らかされ、杖を取り落とした彼らはのたうち回るように地面に転がり、引き剥がそうと必死に寄生虫を掴み引っ張る。それに引っ張られるように宿主となった者も血肉を撒き散らしながら倒れ伏し。

場は、一瞬で無力化された。

 

「………」

 

――ぼくは、すぐにボルトを切り替え、彼らの心臓に向けてボルトを撃ち込んだ。

 

「………」

 

―― うれしい ぼうや まもれた うれしい ――

 

ふと、“胸の内”から暖かな感触が伝わってくる。

その声は、何処か誇らしげだ。

 

「………」

 

ぼくは胸を撫で、答える。

 

「これ封印で」

 

―― なんで なんで ――

 

困惑が伝わってくるが――当たり前である

見ろよこれ、ゲームジャンル変わっちゃったよ。ダークファンタジーからバイオハザードなパニックホラーに変わってるじゃん。一気にR16からR18+だよ全米で退室者が相次ぐ系の激グロホラー映画の図だよ。

人道の欠片もな――蟲だからってかやかましいわ。

 

いいから封印ね封印。確かにめっちゃ強いけど、ぼくの気持ち的な問題。ノクスの竜人兵ばりにバカデカイ奴専用にしよう。

 

胸の内から伝わってくる困惑の声を無視して(蟲だけに)。

 

丁度、あちらも終わったようなのでぼくは復讐者に近づく。

彼女は背を向けて戦っていたからかこちらに気づいていないが――セバスチャンがずっとこっちを見ているのにぼくは気づいている。

空の眼窩には感情は見えないけど……明らかに、教育に悪いものを見せるなオーラは伝わってくる。おそろしい。

 

「よしっ、片が付いたね。早く執行者の下に行こうか」

「むっ。そっちも終わったか。それなら――って、近いな。嬉しいが」

「まあちょっとね」

「……なんだその変な歩き方は。蟹みたいだぞ」

「まあちょっとね」

 

いや、夜渡りとして戦ってるんだから惨状なんて幾らでも見てるからいいと思うんだけど一応ね。

別にセバスチャンの腕がちょっとぼくの方に動いたのにビビってる訳じゃない。大人としての当たり前の配慮で一応ね。

 

 

 

 

 

 

 

地下へと降りると、そこはしぃんと静まっていたが――時折、甲高い金属音が響き渡る。

その聞き覚えのある“音”を聞いて、ぼくは安堵した。

 

(やっぱり執行者に任せて正解だった)

 

ボス部屋に着くと、執行者ともう一人――ここのボスたる“火の僧兵”が彼の目の前にいた。

 

“火の監視者たち”の実質的兵士であり、火を畏れ、監視していた為に――火の扱いに長けていて。さらに、大柄の身体に纏う火の巨人の顔の似姿を模した鎧に炎が立ち上る姿を象った槌を持つ。

まさしく――僧兵とは良くいったものだ。

そんな強敵なのだが……執行者の目の前にいる者は、疲労に塗れ、手足に負った刀傷によって満身創痍が見て取れた。

 

対する執行者はただ静かに――“刀”を構えている。

腰に下げていた黄金色の刀。“彼自身”を表す、彼そのもの――“妖刀”と呼ばれるもの。

もしくは、もっと輝かしい名で呼ばれるソレこそ。執行者を執行者たらしめる能力(スキル)だった。

 

――火の僧兵は一拍の気合と共に、槌を振り上げ、執行者に迫る。

 

彼はそれに避ける素振りも見せず、ただ静かに、振り落とされた槌に合わせるように妖刀を構えた。

 

甲高く響く、金属音。

それは槌の一撃を“弾いた”音だ。

 

勢いを返され、身体が仰け反った僧兵が負けじともう一撃を振るう――が、弾かれる。

 

仰け反り、揺らぐ身体を支えきれなくなったのか堪らず、僧兵は膝を突く。

その瞬間を、執行者は逃さない。

妖刀を翻し、敵の鎧の隙間を狙い打つように刀を突き立てる。

うめく僧兵に密着するように背を重ね――刺さった刀をそのまま、上段に構え。

 

そして、一気に振り下ろした。

 

半月状に広がった血潮はいっそ清々しいほど美しく、火の僧兵は断末魔一つあげる事もなく、地に倒れ――そのまま、“潜在する力”を残して消えていった。

 

「………」

 

これが執行者。

あなたやってるゲーム間違えてませんか?系の単体性能ダンチの夜渡りである。一人だけ隻狼しないでカッコいいから。

“ゲーム”ではあの弾きは、ジャストガードでしか発動せず、それに彼の耐久性に難があるので――使う人によって評価が変わる玄人向けキャラ。

けど、目の前にいるのは彼本人。そりゃ強いに決まってる。

 

こちらに気づいた執行者が視線を向けてきたので――取り敢えず拍手する。彼は、特に反応せずに“潜在する力”に向かった悲しい。

 

「相も変わらず、極まった剣士だな奴は」

「だねぇ、ザ・侍って感じでかっこいいよ」

「……私の方が格好いいぞ」

「そこ張り合うとこ?」

 

声を掛けてきた復讐者に振り向くと、不服そうな雰囲気の彼女の手に幾つかの“アクセサリーのようなもの”が握られている。

ボス部屋前に見える。小さな女神像の前に置かれた小さな箱から持ってきたのだろう。

 

「おおっ、“聖印”だ。こんな感じなんだ」

「これで私ももっと戦える。竜の手とか使えるぞ」

「竜餐祈祷あり?いいね、ぼくそれ好きなんだ」

「つまり、私の事も好きって事か?」

「いや、そりゃ君の事も好きだけど」

「………むぅ」

 

“聖印”は、“祈祷”と呼ばれる術の触媒だ。

たまに旅館で買えるドラゴン系のアクセサリーのような感じの見た目のもの。

祈祷とは、簡単に言えば『神の力を借りたり、模倣して――その力を再現する』。印象としては白魔道士的な回復系が多いが、火や雷といった攻撃系も充実している。竜餐関連もその一つだ。

 

ナイトレインでは、聖印一つに“固定祈祷一つとランダム祈祷一つ”の計二種が使える。ローグライク系だからこそ一番弱い聖印に超強い祈祷がくっついていたりするのも面白い点だ。

 

()()()――。

復讐者は最初から聖印を一つ所持しているが、そこには“回復”と敵を押し返す事が出来る祈祷しか付いていない。

だからさっきは遠距離職なのにバーサーカーみたいに前に出ていたという訳なのである。

 

どういう訳か俯いてしまった復讐者を連れて、“潜在する力”に近づく。

執行者はもう選んでいたようで、手には、古い時代の貴族の獲物、黄銅の短剣が握られていた。

 

いいなぁ、と思いながらぼくも手を入れる。

瞬間、浮かびあがったのは――滅びの火が収まった巨大な釜の前で静かに炎姿槌を握りしめる光景。そして、どこか暗い所で虹色の刀身を持つ歪んだ剣に貫かれた咎人の手から茨の杖がこぼれ落ちる光景。

ぼくはそこから杖を手に取ったが――バツンッッ!!と、勢い良く弾かれて転がった杖は、黄金の欠片のような姿になってぼくの手元に集まっていく。

 

「……本当に武器が使えないんだな」

「そーなの。まあ、ぼくには自分のがあるからいいんだけどさぁ。黄金樹に“拒絶”されてるんじゃないかとかレディは言ってたけど」

 

杖に込められていたのは“近接攻撃力上昇”っぽかったので、欠片を執行者へと流す。

彼はそれを受け取りながら、ぼくの方を見ていた。鎧で隠されているからどういう感情かはわからないけれど。

 

(……あー、執行者って夜渡りの中じゃあ一番古い……“黄金樹”があった時代の人だから、ぼくの感じが複雑なのかな)

 

なんだかその視線がむず痒くて、ぼくは、さっ――と話を仕切るように声を上げた。

 

「次は、どこにいこっか」

「近くに“大野営地”があった。そこにしよう」

「オッケー。火の戦車隊なら楽なんだけどね」

 

「………」

 

 

 

 

 

 

残念ながら、皆大好きカモな火の戦車隊では無かった。

そこは野営と大きな投石機、そして周囲を監視する高やぐらが建てられていて。

とすれば、騎士系の敵がいるロケーションだが――

 

そこは、半壊していた。

 

騎士の死体と共にいたのは“混種”と呼ばれるものたち。

黄金の地において、様々な獣の諸相(とくちょう)を身体に宿して産まれる彼らは、古くは神聖視されていたが――騎士が台頭した時代には下等種として蔑まれ、奴隷のような扱いを受けてきた。

だから、“夜”に呑まれた混乱を突いて、その恨みを晴らしたのだろう。

そして騎士の死体の上で、高らかに喜びの声を上げている――“夜”が過ぎるまで永遠に。

 

防御も何もない状態であれば、ぼくたち夜渡りの敵ではない。

 

特に語る事もなくけちょんけちょんにして――大野営地に残された武器やアイテムを漁る二人を尻目に、ぼくは高やぐらに登って、高所から周囲を確認する事にした。

断じて、手に持つもの全てが端から拒絶されるのが結構悲しいとかではない。これは適材適所というやつである

……ぼく夜渡りぞ?いっちおー、キミら黄金の地の為に働いてんのにこれはひどくない?とか思ってない。ほんとほんと。

 

 

「……“小砦”ないなぁ」

 

 

――まあ、考えても仕方ないのでチェックに専念する。

つっても、“ゲーム”ではここに上がれば大抵は見渡せたりしたが――“現実”ではそうでもない。近くのロケーション以外は地形のせいでわかりづらい事この上無かった。

 

「……次来る時は、単眼鏡とか作ろっかなぁ……素材なんにもないけど」

 

んー……あそこは、遺跡。ミランダフラワーが沢山いるなら“毒遺跡”かな?それならボスは安いから要チェキ。おっ、あの遠い方のぼんやりしたのは……――“中央砦”か!たぶん!いいね、あの狩場に行けるなら後はどうとでもなる!んじゃ、あそこを目的地にぃ……。

 

そうして。

左、右とキョロキョロしていると――()()、視界に黒いモノが映った。

自然溢れるリムベルド。そこから滲み出るように浮いている“異物”。ミルクにコーヒーを垂らしたような違和感。

 

黒点のような、そんな存在。

 

「…………」

 

 

(あの孤独なシルエットは……!)

 

 

無理やりローブで覆い隠して潰したように見える、かろうじて人の形のようなデコボコとした異形。そのローブから伸びる枯木のような手に持つは――精緻な、金の“()()”。

 

間違いない。まぎれもなく――ヤツだ。

 

 

(……り、りりリブラぁ……!)

 

 

またの名を“秤を持った商人”

このゲーム屈指のトリックスターにして、唯一といっていい“夜”エンジョイ勢。手前勝手な“公平”を騙る悪魔(本物)。

そして――ぼくの嫌いなボス筆頭である。

 

(うっ、うわぁ……)

 

“秤を持った商人”は、リムベルドに配置されるイベントにおいては珍しく有用なものだ。

近くにいれば寄る、近くにいないなら寄らないくらいの……“微当たり”くらいの立ち位置。

なら、近くにある今。寄るべきなんだけど……。

 

(ちっ、近寄りたくない……)

 

好き嫌い以前の話。

あの――圧倒的不審者感。

なんというか……駅前で春先になるとエンカウントする、頭が暖かな人系の目を合わせちゃいけない感がヒシヒシと伝わってくる。

 

(…………)

 

……うん。

――見なかった事にしよう。

 

ぼくは周囲の確認に戻る事にした。

うわぁ、けっ、景色きれいだなぁ……りっ、リムベルドに来たみたいだぜテンションあがるなぁ!……あっ、あははー……――あっ、あの狼煙っぽい煙は普通に“火の戦車隊”じゃん。あれはチェキ。

 

………。

 

………。

 

……――チラッ?

 

 

「…………」

 

 

うわぁぁぁ見てるすっっっごいこっち見てるぅぅ……あの変な頭がこっち向いてるぅぅ……!なんで気づいてんの結構離れ――

 

「――なにか見つけたか?」

「うわあ!」

「……?どうかしたか?」

 

急な声に慌てて飛び退くと――やぐらを登ってきた復讐者の小さな頭がひょこりと足元に飛び出ていた。

びっ、びっくりした。

ぼくのそんな姿に小首を傾げた彼女は、そのままひょいっとぼくの隣に立った。

 

「いったいどうし……むっ、あれは“秤商人”か?」

 

復讐者の言葉には驚きは無かった。

やっぱり何度もリムベルドに来ているのだから、ヤツとは遭遇していたんだ。

 

「あれを、私たちは“秤商人”と呼んでいる。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()――そういう“契約”を持ちかけてくるんだ。……姿形は怪しいし、目的も知れないが――こちらを害する事はない。有用なやつだ」

 

そう。

“アレ”は近づかなければ何もしてこないし、契約を無理やり交わしてくる事もない。気に入らなければ無視していいのだ。

 

うん。うーん……!

近づくのはちょっと……いや、結構嫌だけど……!

これは現実。“夜の王”を倒すのは使命……!――好き嫌いでメリット逃すのは皆に迷惑になる……!

 

「そっ、そっかぁ……!なら行こう……!」

「……?変な夫だな」

 

変なのはアイツ定期。

 

 

 

 

 

 

 

下にいた執行者にも事情を話し、やってきた――“秤を持った商人”の前。

 

「…………」

 

うわぁ……思ったよりもデカいコイツ……。

にしてもまあ、ちょっと感慨深い。一ファンとしてリブラはある意味アイコンの一つだしね。

 

「――選択せよ」

 

特徴的なしゃがれた声で、そう言った途端――リブラの頭上に、特徴的な天秤が描かれた紋章陣が現れる。その周囲に等間隔で火が灯り、それはゆっくりと一つずつ消えていく。

 

契約出来るまでのカウントダウンだ。

 

「……これにするか」

「………」

 

復讐者が何かを選ぶと――彼女の身体から緑色のナニカが、リブラに吸われ、代わりに黄金に似たナニカが彼女に注がれる。

あれは“状態異常に強くなりたい”かな?スタミナをちょっと犠牲にするやつ。リブラの契約で結構な大当たりだ。

対して、執行者はただ首を振った。どうやら欲しいのは無かったよう。それも良い選択。当たり外れが酷すぎるからね。

 

“契約”は、リブラの騙る“公平”の下に持ちかけられる。つっても、公平かどうかを考えるのはリブラなのだから、恩恵と対価がこっちとしては見合ってないものの方が多いのだ。

 

その時――脳裏にぼんやりとした文字が浮かび上がった。

 

 

悪魔の力 大成 耐性 ルーン 記憶

 

 

おおっ、こんな感じで出てくるんだ。

うーん……耐性はきっと状態異常耐性だからこれがマストだけど、大成もルーンもちょっと欲しいなぁ、キツイ分うまあじだったりするし、悪魔の力は論外。あれは……――って?

 

……()()

 

「えっ、記憶ってなにさ」

「…………」

 

リブラは答えない。ただぼくを見ている。

えっ、えっ。これはゲームでは無かった……無かったよね!?とすれば何の記憶!?誰の!?

いや、ぼくに出てるんだから“ぼく”のか?えっ、なんでリブラがそれを……!?

 

考えている中でも、リブラの頭上の灯火はドンドン消えていく。

あっ、あっ……きっ、気になる!でも、なんか変な対価とかないよねこれ。記憶の代わりにチートもらうね?なんて言われたりしたら……あー!でも何の記憶か気になる……!

 

なっ、なっ――南無三ッ!

 

「記憶!」

「――決まりだ」

 

キンッ!と気がつけば、ぼくの手に何かが握られていた。

冷たい……金属質なものだ。おそるおそる手を開けると――

 

 

「……?()()()()?」

 

 

手の平に収まるくらいの、そんなサイズの歯車が握られていた。

華美な装飾が刻まれていて、一方には何かわかんない文字。もう一方には――誰かの横顔っぽいものが彫られていた。

 

………?

 

「これが記憶?」

 

――一切、ピンと来ないんだけど。

えっ、なにこれ知らない。装飾的に見れば、すごい技術だなぁとは思うけどそれだけで……なんだろう、ぼくでも作れるなぁ程度の感想しか出てこない。

 

どういう事とリブラに聞こうと奴を見るが――紋章陣の灯火が消えるのと同時だったのか。

姿が徐々に薄れていく。

 

「えっ!ちょっ、ちょっとこれが本当に“記憶”なの!?」

「…………」

「どういう意味……あっ、ていうか代価は!?」

 

記憶よりも今はそっちが気になるかもしれない。

身体に特に変化は無いし、頭の中の“設計図”をいじられたような感じもしない。

 

リブラはローブに隠れた頭で、ぼくを見つめたような気がした。

 

 

「――すでに受け取っている」

 

 

それを最後に、リブラの姿は完全に消えた。

………。

……――だからなにを!?何を代価したの!?!?

 

うがーっ!と爆発するそんな気持ちは――手を掴む優しげなひんやりとした感触に遮られた。

見ると、復讐者が興味深そうにぼくの持つ金の歯車を見ていた。

 

「私は、見た事はないな。何か思い出したか?」

「ぜーんぜん。掠りもしないかな。ぁー……やり損だぁ……これなら状態異常耐性にしとけばよかったぁ……」

 

「………」

 

そこで執行者がじぃ……と歯車を見つめているのに気がついた。

 

「ん?これ、執行者知ってる?」

「(頷く)」

「おー……?」

 

であれば、これは執行者の時代。それでその時にいた“ぼく”に関係のあるもの?

 

へぇ……。

ぼくは手の歯車を見つめる。

 

“執行者”は黄金樹が健在だった頃の人物。そして……結構、特殊な設定を持っている。

 

……なんだっけ。

 

黄金樹勢力の“処刑人”と、流浪の女性侍っぽい“絵かき”と、物言わない一振りの“刀”

それらが混ざり合ってしまって――“執行者”になったとか、そんなんだった……はず。

 

……フロムにしては分かりやすい事に定評のあるキャラストーリーの“ジャーナル”において、執行者の物は群を抜いて抽象的で曖昧な描写で難解そのもの。

超有能チート転生者であるぼくの考察は――良くわかんないけどかこいいお侍さまなんだねよろしくぅ!で終わっている。ぼくは雰囲気でナイトレインをやっていた(過去形)。

 

そんな彼が知っている“()()”はいったいぼくの何の記憶なんだろう?

 

……いや、わっかんね。

 

 

「考えてもしゃーないか」

 

ぼくは歯車を懐に仕舞って、気を取り直して二人を見る。

 

「よぉし。とりま終わり。さっさと次いこっか。実はさっき、“中央砦”っぽいの見つけたんだよね」

「良い情報だな」

「でっしょ?一先ず、その方向行きながら攻略出来そうなとこ攻略してこう……空も暗くなってきたしね」

 

ぼくは空を見上げる。

日はそろそろ沈みそうになっていた。

 

一日目の終わり、“夜”は目前。

宙に浮かび上がり出した霊樹がそれを教えてくれている。

 

 

一日は長いけど、やっぱゲームと違って移動時間とか物資漁りに結構時間取られるなぁ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

霊樹の下。

“夜”に侵食されるその寸前。

 

その尖兵は現れた。

 

地中から這い出るように現れたそれは――無数の腕と足が混じり合い、胴体は繋がったように長い外観をしており、落ち窪んだ目と青白くなった肌、そして奇声だけが溢れる姿はまさしく化け物そのもの。

その頭に被された王冠だけが、その“元”が、高貴な人物であった事を教えてくれていた。

 

 

――“王族の幽鬼”

 

 

文句の付けようがない強敵だ。

攻撃速度は異様に早いし、しかも多腕から繰り出されるせいで多段ヒットで即やられる事もある。さらには毒床を作ったり、地中テレポートも出来、自身を強化してくる行動もある。ノーモーションタックルすらもね。

もう害悪行動詰め込みまくりの存在だ。

 

けれど、流石にちょっとやりすぎたと思ったのか。

フロムは明確な弱点を作っている。

 

それは――“()()()()()()”。

 

アンデッド系に回復呪文を浴びせれば逆にダメージを受けるというのはよくある事。

王族の幽鬼(アンデッド)も例に漏れない。

奴がそれを受けると、強制怯み&大ダメージ。しかもそれに制限はない。与えられる度にそれを繰り返す。

 

つまり……。

ぼくと執行者はほぼ同時に――“復讐者”を見る。

 

自信ありげに腕を回すその手には回復が備わった“聖印”が握られていた。

 

 

――ぼくたちに言葉は無かった。

 

 

何が起こったか。

つまりは――リンチである。草。

 

 

 

 

 

 

………

……

 

――霊樹の下で、時を待つ。

 

この時間を、“()”は嫌いではなかった。

夜に呑まれた黄金の地が一時とはいえ、晴れるその瞬間――それはいつかの未来を見ているようだったから。

 

………。

――それにしても懐かしいものを見た、と()は思った。

 

黄金樹を一目拝もうと歩んでいた漫遊の日々の中で、野盗に襲われていた御仁を助けた際に礼として受け取ったものそっくりだと。

素晴らしい国なのだと力説されるものだからじゃあ行ってみるかと足を向けてみれば、あれよあれよと………――まあ、そのおかげで虜囚の身としてとはいえ、黄金樹を拝む事が出来たのだから僥倖だったと私は笑う。

 

何故それで笑えるのだと己は思うが、それが私なのだと伝わってくる。

 

混じり合い、消えていってしまったはずの――久しく聞いた事のない彼女の声。

アレが。あの()()が、呼び覚ましたもの。

 

それに耳を傾けながら、己は“転生者”に目を向ける。

 

その場に座り、ぼんやりと宙を見ていた。それは彼の言う“設計図”を見ている時と重なった。

その側で、少女人形はその姿を嬉しそうに眺めていた。先ほどまで膝枕を拒否されて不機嫌になっていたとは思えない。ころころと表情を変える様はまさしく少女そのものだった。

 

彼は変わらないね、と私は言う。それに己は同意した。

 

ふと、“転生者”はぼそりと呟く。

 

「……対巨人・体内炸裂砲弾ってなんだよ……ゲテモノすぎる……でもこれなら、花の開閉機構に使えるか……?……」

 

花……そういえば、少女人形に送ると言っていたがそれに関係があるのか?と己は思った。体内炸裂砲弾が?と私は面白がっている。

 

“転生者”は深くため息を吐くと――キョロキョロと辺りを見渡した。“設計図”を見るのを止めたらしい。

少女人形は諦めきれなかったのか期待の雰囲気を漂わせながら、両の手を彼に差し出している。

それに苦笑を浮かべ、彼は人形の頭を優しく撫でた。完全に誤魔化しの一手だった。

 

これじゃあ夫婦じゃなくて父娘の類じゃないか?と私は思った。それは己も同意する。

 

「そういえばさぁ……」

 

転生者は少女人形を優しく撫でながら、こちらに水を向けた。

 

「――“ぼく”と執行者って、どういう関係だったの?」

 

おっ、皆でやった地下でのエビ狩りの話でもするかい?と私が鎌首もたげたのを――己は制した。そんな話をしても訳が分からないだろうと。結局誰もモーゴット卿には勝てなかったねぇとか要らぬ感想を思う私を諭す。

 

己らにとって、“あの日々”は短いながら悪くないものだった。

しかしそれは――彼の話ではない。

 

負の感情を置き捨てたようなあっけらかんとした姿だったが、心の内ではどう思っていたのか。己には皆目見当が付かない。

辛い事だらけだったろう。思い出してほしくない事だらけだ。

 

故に、(わたし)は刀の先で、地にこれだけを描いた。

もし、許されるのであればこう思いたい。

 

 

――友、と。

 

 

「ほっ、ほぉぉ……そっ、そっか……それは嬉しいな……」

「――むっ。私は妻だぞ」

「張り合うんだそこ……」

 

照れるようにはにかむ転生者と、張り合うように頭を押し付ける少女人形。

それを眺めながら――()()()()。果たすべき約束を。

今度こそ、己がしなくてはいけない事を。

 

別れ際に伝えられ、そしてこう成り果てるまでついぞ理解出来なかった――最期の願いを。

 

「むぅ……私は妻なのに、私の夫なのに……」

「いや、まず妻じゃないからね」

「最近は否定していないだろう!事実婚のようなものだ!」

「それは疲れただけ――って、事実婚ってそういう事じゃないよ!?既成事実って意味じゃないから!」

 

 

悪意の視線に晒されながら死へと毅然に歩んだ“友と呼べなかった者”の不敵な微笑みと、口無しの己に口添えを頼むように目配せをする情けない“友と呼べた者”を重ねる。

 

ああ。

 

 

――出来うるのであれば、やりたくない。

 

 

その思いに。

己は呆れ、私は笑った。

そう願った果てがこの様だというのに己は何も変わっていないようだ。

 

 

 





―――――――――

【歯車の偽貨】
何者かの横顔が彫られた歯車状の金貨。限りなく黄金に近しい材質で出来た偽物だが――そも。
これを使用できる場所はもう、どこにもない。

ある時期の間。
“調律の魔物”は商人に扮し、その場所に度々出没していた。

神々への信仰を拒絶した身の程知らず達の国。
故に――赤髪の英雄によって滅ぼされた、その楽園に。

……金貨に彫られた横顔は、どこか“転生者”を思わせる。

―――――――――
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