“転生者”   作:ダフネキチ

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「故に――」



Pt.3

 

収縮していた“夜”が去り、始まった二日目。

復讐者の夫認知要求に関しては一切収束しないまま、ぼくは何とか彼女の背を押して、“夜渡り”としての責務を再開した。

……ほんとどうしてこんなに夫婦に固執するのこの子は。謎である。

 

という訳で、若干不機嫌復讐者と助けて(ピン挿し)無視の薄情執行者と共に、向かう場所は――“中央砦”だ。

 

地図が無い以上、先々のロケーションを出たとこ勝負で巡るのは流石に効率が悪いからね。うま(あじ)が保証されている中央砦を先に攻略するのが、この状況ではマストだろう。

 

……マストだったんだけども。

 

 

「………うへぇぁ」

 

 

ぼくは、中央砦に入るギリギリらへん……干上がった崖の間にあったのだろう倒壊した橋掛の前。そこから見える――城壁からひょっこりしている“あん畜生”に、立ち止まる。

“ゲーム”で散々にいじめてきたあの面に、渋い顔をしている自覚はあった。

 

「………」

 

そんなハリウッド板ピカチュウみたいな面を二人に見せれば――二人もしぶーい雰囲気を漂わせている。

やっぱり本職の皆さんも普通に嫌いらしい。

 

城壁の上に配置されている“あん畜生”。

骸骨のようにやせ細りながらも屈強な体格を誇る()()が、辺りを見渡しているである。

 

 

(よりにもよって“壺投げトロル”かぁ……!)

 

 

――“中央砦”は、マップ中央にあるからして“リムベルド”においては分かりやすい大きなロケーションであり――ぼくたち夜渡りにとっては絶好の狩り場。

屋上と地下にわりかし美味しいボスが配置される他、砦内にいる()()が対処しやすいんだよね。

前に来た時にいた“失地騎士”とか、他にも執行者の元お仲間の“坩堝の騎士”とかね。

 

だが――“壺投げトロル”。テメーはだめだ。

 

黄金樹勢力と敵対していた巨人族の中で、唯一屈して恭順を選び、永遠の奴隷となった巨人族の面汚しが――“夜”にも屈さない訳がない。

そんな奴らは中央砦に四体配置され、オトモの雑兵と共に――大きな身体で遠くまで見渡しながら、“敵”が来るのを待っている。

その名の通り、奴らですら抱え投げねばならないほど大きな“火炎壺”を大量に近くに置いて。

 

「……ぁー」

 

要約すると「バカみたいに広い探知範囲でバカみたいな大きなグレネードをバカみたいにポンポン投げつけてくるバカみたいなカス」である。つまりはバカ。QED。ふぁっきゅー。

 

「どーしよっか……?」

 

ぼくは二人に声をかける。

うま味は十分にあるんだ。奴ら全員に“潜在する力”が宿っているしね。得られるルーンも他と比べればたっぷり。

 

「まぁ……やろう。他に探すのも時間が掛かる」

「………」

 

渋々といった体だが、二人はやる気であるようだ。

ぼくも賛成。

 

なので――

 

「よしっ。じゃあ()()、だね」

 

ぼくは“傑作”を抱え直し、胸に手を当てる。

さっきからやる気満々の自己主張がバシバシ飛んでくるのでここは一つ――ぼくの新しい力を試してみよう。

 

 

ぼくたちは一斉に疾走する。

崖を降り、砦北に回り込むように進んでいく。

 

後ろの方から――トロルの咆哮が聞こえてくる。どうやら南の方にいる一体に気づかれたらしい。ああ、くそ……ここは“ゲーム”通りじゃなくていいだろがい!

 

悪態を吐いてすぐ――前方に、青い風のようなものが渦巻く気流が見えてきた。

あれは“霊気流”と呼ばれている。地下から湧いてくる謎のパワーが地の亀裂によって漏れ、溢れ出しているのだ。

原理は知らないけど、“夜渡り”はこの気流に乗って――高く飛び上がる事が出来る。

つまりは所々に配置される、便利な大ジャンプ台。高低差山盛りリムベルドにはありがたい。

 

ぼくは“身体”の動くままに従って、急速に高く飛び上がる。崖を超え、高い城壁を超え――砦北で屯する、トロルとそのオトモたちの直上へ。

 

此方を視認し、動き出そうとしている前に――ぼくは“胸の内”に呼びかける。

さぁ、早速仕事をしてもらうよ!

 

―― うん うん わたし まかせて ――

 

「――()()()()()()!」

 

―― えっ ――

 

ぼくの呼び声に感応し、身体から夜の靄が溢れ出し――それは、敵の集団の中で形作られる。

夜の識、グノスターと共に在る“堅楯のフォルティス”。巨人にも負けない巨体の大蠍は、幻影であると分かっていても恐ろしい圧を秘めていた。

 

――咆哮。

 

上体を持ち上げ、空気の揺れを見えるほどの雄叫びと共に――叩き付けられた暴威の一撃。

その一瞬で、砦の地面はひび割れ、雑兵は吹き飛び、トロルは一瞬で自分の体勢を崩し、地に倒れ込む。

幻影はそのまま姿を消した。

 

その隙を、ぼくたちは見逃さない。

 

気流に乗って降り立った瞬間。復讐者は手に持った聖印を使い、一時的に竜の似姿を右手に宿す。

祈祷――“竜爪”。

竜餐の賜物であるソレは、竜の腕を振るうというシンプルなものだが、それ故にわかりやすいほど強力だ。

それは倒れたトロルの頭目掛けて振るわれる。一度二度と叩き付けられた一撃は、粘着質な破裂音を伴って、その命を奪い去った。

 

一瞬で、集団一つのカタが付いた

……流石は“夜の王”。ほんの一瞬しか召喚してないのに、蹴散らせちゃったよ。ぼくのアーツすっご。さすフォル。

 

―― なんで なんで ――

 

グノスターの抗議の“声”が響いてくる。

いやだって、速攻って言ったじゃん。こういう場合って毒は微妙なんじゃないのかな。

 

――ピカピカ ぼうや すきなの ピカピカ ――

 

ピカ……?ああ、そっか。サテライトレーザーもどきとかあったね。ごめん。次はそうするよ。

……この“感じ”からして、次出せるのいつなのかわかんないけど。

 

――ふと。

グノスターの抗議の声に紛れるように、申し訳なさそうなそれでも誇らしそうな声を感じた。……フォルティスかな?あんがとね!流石ザ・肉弾戦担当!頼りがいある!また宜しくね!

 

―― あ? おい 煽ってる? おい おい ――

 

……なんか頭の中に、丸まってるフォルティスを上から体当たりしまくってるグノスターの情景が急に出てきたんだけど、これ絶対今やってるよね。上下厳しくない?君たち。

てか、もしかしてグノスターってぼくの事子ども扱いしてる?赤ちゃん言葉じゃないと通じないって思ってたりしてない?

普通に聞こえてるからね、気弱な眼鏡くんにカツアゲかましてるヤンキーみたいな難癖。

 

 

――耳に伝わる、()()()

 

 

「……っ!二人共ぼくの後ろにっ!」

 

ぼくはその方向に向けて、傑作の“仕掛け”を起動する。

補強していた甲殻が集まり、大傘型の盾となって――飛来してきた火炎壺を迎え受けた。

大きく響き、破砕した壺は――中の燃料に着火し、破片とともに辺りに粘り気のある青い炎を撒き散らす。

これだよ……この広範囲攻撃が嫌われんだよなぁ……延焼効果もあるし当たると吹っ飛ばされるし。

 

だが――そんなもの。“夜の王”に効く訳がない。

束ね集まった甲殻の楯は、破片も炎も弾き、ぼくの後ろには何のダメージを与えれない。

ひゅーっ!最高だぜぇー!

 

―― っ! っ! っ! ――

 

脳裏で体当たりの頻度が増している気がするのに目を反らして、ぼくは投げてきたトロル――中庭を挟んだ、南に位置する奴を睨む。

 

南のトロルは、また“火炎壺”を抱え上げ、投げつけてきた。あれじゃあ避けるにはもう遅いね……取り敢えずこれも受けた後、タイミングを図って東の方に――て、東のトロルがこっち気づいてる!?

なんで!?北から行けばコイツは……ってそうかフォルティス!

あの一撃があまりにも強烈過ぎて反応しちゃったのか!くそっ……!強力なのに困りものだね……!

 

雄叫びってる東のトロルもいつ壺を投げてくるかわかんない。でも、南が……ああほんっっとダルいなぁお前たちはぁ!

 

「………!」

 

その時。

“執行者”がぼくの前に躍り出たかと思えば、四つん這いになると――身体が光に包まれる。

瞬間。騎士は、長大な獣へと転じた。

幾つものの捻れた角を身体に生やした獣の姿、それは彼の秘儀(アーツ)。黄金樹の力の一つ、幾つもの命が混じり合った“坩堝”の力を引き出したものだ。

由来はもうよくわかんないほど複雑な設定が為されているが――その力は、まさにアーツと呼ぶにふさわしい。

 

執行者は鋭く咆哮を上げる。

それは目に見えるほど空気を歪ませた弾のように飛んでいき、南から飛来する“火炎壺”を狙い割った。炎は関係の無い地面に散らばっていく。

そして彼はそのまま、城壁から飛び降り、炎の海を超え、南の方へ駆けていった。

 

()()は、問題なく伝わった。

 

「――復讐者!」

「ああ!」

 

ぼくたちはすぐに東のトロルへと駆ける。そしてすぐに奴の足元に滑り込んだ。これなら火炎壺は使えない。

けれど、トロルは巨人だ。その身体のままに振るう力任せの攻撃もバカに出来ない。だから嫌われているのだ。

 

フォルティス……は、今グノスターの八つ当たりにあってるのが理由じゃないけど、アーツゲージみたいのが感覚的に溜まってないのがわかるから使えない。……地道に何とかするっきゃないね。

 

そうして傑作を構えると、砦の中――城内から何人かの雑兵が飛び出してくる。こっちの騒ぎに気づいたらしい。

 

「――“()()()”!雑魚は任せるぞ!」

 

そこに思考を割く前に――リラの音が鳴り響く。そうして素早く小さな影が、雑兵に襲いかかっていく。

その体躯は小さく、身にまとった服が大きく見えるほど小さな骸骨だが――鋭く構えた刺剣が次々と雑兵たちを射抜いていく。

 

彼女は家人達(ファミリー)の一人、ヘレン。元庭師らしい。刺剣で手入れとかしてたのだろうか。

 

でも、彼女が結構イイ仕事をする事はぼくも知っている。だから、彼女に後ろを任せ――ぼくは憎きトロルの顔面にクロスボウを浴びせかけた。

 

 

 

 

 

“壺投げトロル”はウザくてダルくて未来永劫語り継ぐべきへなちょこ野郎共だが――決して、強い敵ではない。

懐に入り、火炎壺を封じてしまえば、後は地道に対処していけばいい。

 

そうしてぼくたちは四体のトロルと、そのオトモ共を問題なく一掃する事が出来た。

 

 

「いえーい」

「………」

 

ぼくは南方面を対処してくれた執行者(こうろうしゃ)とハイタッチをする。手を出せば、やり方を何処で習ったのか、普通に応じてくれた。意外にノリイイね貴方。

 

「助かったよ。あのままだったら爆発オチなんてサイテー!って叫ぶネタをやらなくちゃいけないとこだった」

「………」

 

言葉は無くても連携の意思を見せてくれるのは気持ちの良いものだ。こういう呼吸が合うのって素敵よね。

 

「復讐者も援護ありがと、かっこ――よ……?」

「ん」

 

隣にいる復讐者にも水を向けると――両手を軽くあげて此方に向けていた。

 

「や――」

「やる」

「――食い気味だね……」

 

ぽんっ、と両手を合わせてあげると嬉しそうな雰囲気を漂わせた。

――ほんとにこの子の琴線がわかんないなぁ……()()、喜んでくれるかな。

 

まあ、それはいいとして。

 

「じゃあ、手間掛けさせられた()()を回収したら、屋上と地下の奴を片付けよう。それでも時間が余ったら、南の方に」

 

二人はぼくの言葉に頷くと手分けして、物資を漁りに行った。……こういう時に一緒に出来ないなのがちょっとさみしいよね。

 

………。

さて。

 

―― ……… ――

 

すねてるグノスターさんをどうしようか。

思いのままにフォルティスをしばき回して満足したのか疲れたのかあれから静かになっている。

頭の中に、隅っこで背を向けているグノスターと、そこから少し離れた所でズタボロになっているフォルティスが見えた。

“夜の王”の姿か、これが……?一旦言い合いが終わって休戦状態になった家族にしか見えないぞ……。

 

ぼくはフォルティスに意識を向けた。

 

こういう時って“ぼく”はどうしてたの?

……抱きしめてた?。いや、グノスターを抱きしめたら寄生虫ぐわーになんないの?ガナードみたいにならないぼく?……ならなかった?へぇ……不思議。一緒にいたから耐性でも出来たのかな。てか、この状態じゃあ抱きしめるもクソもないじゃんね。

 

―― ()() ――

 

ふと、グノスターの意識が“何処か”に反れているのに気がついた。

 

―― ()() ――

 

そう呟くと、ふんわりと羽ばたくとぼくに声を向けた。

 

―― ぼうや まっててね ――

 

そうしていると頭の中の情景がかき消えていき、胸の内から夜の靄が溢れ、空に溶けていく。

 

………。

えっ、えっ、ちょっとなに?なにしに行ったの?ちょっと?おーい?グノスターさん?

バシバシと胸を叩いてみるが、返事っぽい反応を感じるのはフォルティスのみ。

えぇ……?

 

「……むぅ」

 

そこで復讐者が戻ってきた。

手に新たな“聖印”を持っているが、身体全体から不満を垂れ流している。

 

「どうかした?」

「使いづらいのしか見つからなかった」

 

彼女の“聖印”に目を向けると、そこから感じる祈祷は――しっ、“死を正す聖律”……!これは確かに微妙だ。

 

これは、黄金律原理主義というものに分類される祈祷。

その名の通り、黄金律……則ち、黄金の地の“法”以外を認めないという過激派が作り上げた代物である。

“聖律”は、その中で特にアレで――黄金樹の祝福である“生命”に反する者に対する力だ。つまりはアンデッド特攻。

この世界は黄金樹のせいでなんだかんだ不死っぽいのは沢山いるが、“聖律”特攻に該当するのはかなり少ない。

 

故に、“ゲーム”でもあれば便利。なくても……まあ。みたいな扱いだった。

 

「まあまあ。使える相手がいるかもだし」

「……そうだが。これでは褒め――」

 

 

――()()

 

 

空が一気に暗くなりはじめた。

 

「なっ……!もう夜が……!?」

 

復讐者はそう言うが、まだ宙に浮かぶ霊樹が見えない。ならまだ収縮の時じゃない。けれど、周りに漂う空気はまさに“夜”の色を漂わせていた。

……。

 

「………」

 

執行者が此方に近づいてくる。

彼のその俊敏さからまだ体験した事のないものなんだろう。警戒するように刀を抜き、辺りを見渡していた。それに習うように復讐者もリラを構える。いつでも家人達(ファミリー)を呼べる体勢だ。

……。……。

 

ぼくは――目の端にちらつく無数の小さな“蟲”を見つけ、遠い目をするしかなかった。

 

「身内がごめんなさい……」

「「………?」」

 

遠くの方で、目的もなく辺りをふらつく貴人が見える。

そんなある意味平和そうな彼らに向けて無数の蟲が襲いかかり、彼らを覆い尽くすと――しばらくして大群で何処かに羽ばたいて行く。その大群は見覚えのある“黄金の欠片”を身に纏って。

集られた貴人達は倒れていた。ピクピクと動いているのを見れば死んでは無さそうだが。動く様子を見せない。

 

 

そう――()()()()()()()()()()()()()

 

 

ぼくは胸の内から伝わってくる方角に従い、困惑する二人を案内する。

砦を出て南東。

消えかけた街道が残るだだっ広い草原のような場所に。

 

 

………。

“ゲーム”には襲撃イベントというものがある。

一定の確率で発生するもので――“夜の王”がリムベルドに出現し、様々なギミックを起こして、夜渡り(プレイヤー)を困らせるというものだ。

大抵はマップに出現する弱くなった夜の王を倒せばギミックは解除され、報酬として特別な“潜在する力”を入手出来る。

 

ギミックの種類は様々だ。

延々とスリップダメージを与えてきたり、変なとこに拉致してきたり、急にHPが半分になってルーンを要求してきたり、視界を遮ってきたり。

 

あとはそう――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()とか。

 

まあ、はい。

そうです。身内……いや、身内……?でも()体の“()”にいるからあってるかがやってます。

ほんとうにもうしわけない。

 

 

 

 

 

 

 

「――なにをしてんの」

 

―― おてつだい おてつだい うれしいこと ――

 

「いや、まあ嬉しいけど……」

 

中央砦南東。

そこには元のサイズのクソデカ蛾になっているグノスターがちょこりと地面にいた。今も各地の“敵”から吸い取っているのであろう無数のルーンを吸収しながら。

 

「これは……」

「………」

 

二人は呆然とグノスターを見つめている。

でも、武器から手を離さないとこを見ると流石は夜渡りだ。

 

「何がどうなってるのん」

 

―― よる どこでも ある わたしたち どこでも ある ――

 

「んん?」

 

――いま ()()()()() だから できた ――

 

……ようわからん。

解説のフォルティスさん。わかりますか?

……。……――いや、お前もよくわからんのかい!?雰囲気で夜の王やってるなきみぃ!?

 

「はぁぁぁ」

 

なんで出来たかは知らないけど。

グノスターの襲撃イベント“知性の蟲”はうまあじだ。蟲の大群に触れてしまえば無制限にレベルダウンしてしまうが、その主たるグノスターを倒せば――奪われたその分のルーンは全て戻ってくる上に、おまけに強い“潜在する力”もくれる。

 

今なおやってくる大量の蟲たちを見るに“リムベルド”中の敵全てに無差別に襲いかかってるみたいなので集まったルーンはもう尋常じゃないだろう。

くれるなら貰うべきなんだけど……。

 

―― ぼうや ぼうや どうぞ どうぞ ――

 

ぼくはグノスターの青い複眼と目を合わせる。

そこから伝わってくるのは――何の敵意もない。

 

()()()()()()。それだけの、ただ一点の好意だけ。

……そう、恥かしげもなく言うならば――無償の、愛……みたいな?

 

そんなグノスターを倒す。たおっ、たお……。………。

――ぼくは顔を覆って、後ろを向いた。

 

「……どうした?」

「……ぼくってこう見えてさ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「しってる」「(頷く)」

「ぼくできない。その、グノスターはその辺の敵のルーンをかき集めてぼくたちにあげたいみたいで、んで貰うには――」

「殺すしかないと」

「うん。別に夜の王だから本当の意味では殺せないんだろうけど……」

 

ぼくは振り向く。

グノスターは首を傾げた。

ぼくは顔を覆った。

 

「だれかやって」

「ふむ」

 

復讐者はぼくの横を通り抜けると――一拍置いて、衝撃。

瞬間。目の前が真っ金々になるくらいのルーンが身体の中に入り込んでいく。

それと同時に夜の靄が、胸の内に入り込んでいった。

 

―― ぼうや うれしい? うれしい? ――

 

うん、ありがとう……超嬉しい。さすグノ。

頭の中に嬉しそうに羽ばたくグノスターとそれを眺めるフォルティスが浮かんだ。

 

………。

 

「夜の王にしては殊勝だが……何をやればこうなるんだ?」

「わっかんない。蟲に好かれるフェロモンでもついてんのかな」

「どうだろうな……。別に蟲をペットにしていたようにはみえなかったが……」

 

なんか右手に返り血のようにべっとり“夜”を付けた復讐者がそう聞いてくるがほんとうによくわからない。

“ぼく”は本当に何をやったんだろう?……金の歯車とかといい――なんなんだろう?

 

 

 

 

 

 

 

 

グノスターのせいで(のおかけで)周りの敵皆がへなちょこになってしまったので特に何も無く、迎えた二日目の終わり。

 

浮かぶ霊樹の下で。

 

ぼくたちを気を入れ直した。さっきまで気が抜けてたからね。

屋上にいた、自分の鎧の重さに耐えきれないでうつ伏せにぶっ倒れて愛馬に鼻先で突っつかれてた“ツリーガード”やら、地下にいた、死を悟って潔く大の字で寝っ転がってた“死の刃の刺客”やらのせいで。

 

でも、ここからは違う。

せっかくグノスターが万全にしてくれたんだ。ここでグエ死したら申し訳ないからね。

 

そして。

 

その尖兵は現れた。

 

 

集まった“夜”の靄から這い出てきたのは――鳥の頭蓋骨をした、やせ細った巨大な鳥。しかし、何処か人間的な特徴をしていて不気味な印象を与えていた。

 

羽の無い翼が纏う――青白い炎。そして握られた鉤状の棒。

 

かつて黄金樹無き時代の文明において、あったとされる死者を焼き弔う“霊炎”と、その灰を掻き出す“死かき棒”だ。

 

最早その文明は名すら残らず、それでも滅びなかった死を司るその鳥は。

いつしかこう呼ばれている。

 

 

 

――“死儀礼の鳥”。

 

 

 

文句の付けようがない強敵だ。

 

攻撃速度は異様に早いし、しかも扱う霊炎は、炎のくせに冷気の状態異常を蓄積し、大ダメージを稼ぎ出し即やられる事もある。さらには霊炎のスリップ床を作ったり、翼で飛び上がって降下で襲ってきたり、自身を強化してくる行動もある。ノーモーションタックルはない。

 

 

それでも害悪行動詰め込みまくりの存在だ。

 

 

けれど、流石にちょっとやりすぎたと思ったのか。

 

フロムは明確な弱点を作っている。

 

 

 

それは――“()()”。

 

 

死を司る故に、死を認めない聖律の特攻対象になる。

どんな聖律でも大ダメージを期待出来るが――“死を正す聖律”という、それに特化した祈祷があり、それは対象になんと倍率が10倍に匹敵するほどの特大ダメージを食らわせる事が出来るのだ。

 

それを祈祷が得意な復讐者が振るえば………。

 

ぼくは、その場に座った。

 

 

何が起こったのか?

つまりはリンチである。草ァ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ここにくるのも久しぶりだな」

「………」

 

持ち時間2分未満で退場した死儀礼の鳥を追悼しつつ、ぼくたちは霊樹の中、真白い空間へ。

そして進む。先に見える――巨大な白石の扉。“夜の王”へと続く扉へと。

 

「そうなの?」

「ああ、私たちは何度も死を繰り返しながらここに向かっていた。遅々と進まない道のりだったが――だから、感慨深い」

 

お前のおかげだな、と復讐者は言う。

 

「行くぞ。私たちの全てを奪った“夜”に。この胸にある憎悪を、奴らに突き立てる為に」

「………」

 

扉が静かに開かれていく。

溢れ出した“夜”が視界いっぱいを覆っていき――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――開かれた、無の荒野。ただ“夜”が在る場所。

その先に“ソレ”は立っていた。

 

 

無理やりローブで覆い隠して潰したように見える、かろうじて人の形のようなデコボコとした異形。そのローブから伸びる枯木のような手に持つは――精緻な、金の“天秤”

 

――“秤を持った商人”が。

 

「あれは……そうか――怪しいと思っていたが」

「………」

 

ぼくたちは静かに奴に歩み寄る。

まずはまたいつもの“契約”が始まる。それを終え

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

試練 試練 試練 試練 試練

試練 試練 試練 試練 

試練 試練

 

――試練

 

急に浮かび出した文字。

その羅列の全てにぼくたちの背筋に冷たいものが走ったような感覚を覚えた。

 

 

「ありとあらゆるもの全て、“公平”であるべきである」

 

 

目の前の商人が語り出す。

頭上に灯る天秤の紋章陣。それを囲う炎が徐々に消え始めた。

 

 

「“天秤”こそがその証」

「傾きが示す、傲慢も怠慢も――等しく堕落である」

 

 

そうして、紋章陣の炎が――()()()

 

 

「故に――」

 

 

異形の姿が脈動し始める。それは抑え込められた本性が現れるように徐々に盛り上がり、黄色い炎を伴い――隠していたローブを燃やし尽くし、現れる。

 

それは大衆が思い描く悪魔像(バフォメット)そのもの。山羊頭と人の体と腕、そして馬の蹄。

毛皮に彩られる身体中に浮かび上がった、四角い瞳孔の瞳たち。

 

青白い手指を象った豪奢な錫杖を左手に携えた“調律の魔物”は――右手を差し出し朗々と騙る。

 

――ぼくに向かって。

 

 

「今一度、お前を秤に掛けよう。人の王よ」

 

 

 

――“()()()()()

 

 

――夜の魔、リブラ――

 

 

 

「永らえたその命、公平であったかどうか」

 

 

 

右手はそのまま、リブラの腹を撫で上げ――それに沿うようにに肉が開かれていく。艶めかしく割れていくその中にあるのは、生物として当然ある“()()”ではない。

 

そこにあったのは蠢く“夜”。そこに浮かぶ、光の“瞳”。

 

それが喜色に塗れた時――右手が高々と掲げられる。

 

それは開戦の合図であり、ぼく(プレイヤー)にとっての悪夢の始まり。

 

 

 

「1人と10321人、公平であったか――()()

 

 

 

 

 

 

 

――― ――― ―――

悪魔により、罪人が現れる

――― ――― ―――

 

 

 

 

 

 

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