“転生者”   作:ダフネキチ

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Pt.4

 

――“夜の魔、リブラ”。

大衆化された悪魔の姿に似た、山羊頭の化け物。

身体中に浮かび上がっている無数の瞳。人の手指を象った豪奢な錫杖。

 

縦に割れた肉、覗く光の瞳――()()()()()()()()()()()

 

ぼくは、叫んだ。

 

 

「うわぁあああ!!“常夜”だぁあああああ!?!?」

 

 

身体中を駆け巡る悪寒に鳥肌、いっそ蕁麻疹すら出そうなくらいの猛烈な拒否反応。

ぼくは横の二人の、油断無くリブラを見据える歴戦のカッコいい姿が掻き消えそうになるくらい後ずさった。

 

だって“常夜”だよ!?“常夜の王”だよ!?よりによってリブラでだよ!?

 

「うぇえ……!」

 

――“常夜の王”

 

それは“ゲーム”が発売して暫くしてから突如として実装された――“夜の王”の強化個体だ。高難易度大好きなフロム信者さんたちが、小慣れてきた頃に現れたこの存在に歓喜絶望阿鼻叫喚のお祭り騒ぎになった事を覚えている。

なにもただの強化ではなく、設定に沿う形で――“進化”したのも魅力の一つ。

 

例えば、ぼくの中に住み着いている“夜の識、グノスター”With堅楯のフォルティス。

 

あの二匹の蟲の場合。

一度撃破するとその身体から、赤い神経系のようなものを束ねて形作られた蝶のような存在が現れ、蝶が二匹を復活させて――三匹となってもう一度戦闘が始まる。

“超越の光、アニムス”

知性を得て、故に歩んだ進化への道のりの果てに、二匹が到達した終着点。虫三つで――“蟲”となった完全なる姿。

 

その姿に、ぼくたちは喜んで――そして泣いた。強いねんこれ。

……でも、まあぼくの中にいるグノスターさん達にその傾向は見られないけれど。アニムスくんちゃんどこ行ったのん……?

 

――ともかく。

そんなこんなで大人気を博した“常夜の王”実装だったけど……。

 

()()()。コイツは別だ。賛否だった。否寄りの。

 

元々のコイツは、“狂い火”というエルデンリング内での特級呪物的な厄ネタを好き好んで使ってくるだけで結構正統派なボスだ。“公平”という概念に執着しているだけの。

だが――常夜だと、完全に気色が変わってくる。

 

それは、右手を掲げ、紋章陣を発動させるあの動作(ギミック)

 

そして、脳裏に浮かんだ――“()()()()()()()()()()()()

これを合図にリブラを周囲に――ぼくたち夜渡りのNPCが出現する。しかもきっかり三人。

 

つまり、急に4vs3の戦いを強いられる。

 

それだけではなく追加のギミックを発動させたり、リブラ自身は多少攻撃の頻度は落ちるが――急な地面爆破や衝撃波付きテレポート、延々と弾をばら撒く回転式紋章陣(タレット)、さらにはこっちを分断させてくる壁を作ったりとやりたい放題の害悪そのもの。

 

一応の対策もあるにはあるが、安定せず。

一人が転べば一気に二人も転げ落ちる――まさしく、クソオブクソ。

それが常夜の王、“夜の魔、リブラ”なのである……ふぁっきゅーびっち!

 

(どっ、どうしていきなり常夜になるの!?つかさっき何を言ってきたんだてかうわああああやりたく――)

「――落ち着け」

 

ふと、混乱する思考が――手の平から伝わった冷たい感触で止まる。

陶器の冷たい質感。復讐者が静かにぼくを見つめていた。

 

「お前が何故秤商人を恐れていたのかわかった。アレが夜の王と知っていたんだな」

「うっ……うん。ごめんね」

「いい。何がともあれ変わる事はない」

 

復讐者はそう言うと一歩前に出て、右手に持つ“聖印”を握りしめる。

 

「それが“夜”なら――殺す。私たちにはそれだけだ」

 

その小さな背は、静かに、強い“情”を帯びていた。それは彼女が彼女足らしめるもの。本来ならきっともっとドロドロしたものなのに彼女のソレは突き抜けるような明快さがあった。

 

「………」

 

横から肩を叩かれる。

執行者に言葉は無い。けれど、刀を握りしめる姿に淀みはない。

伝わる意思は単純でだからこそ――頼もしい。

 

「……――よし」

 

ぼくは“傑作”を抱え直す。

そうだ――ぼくは“夜渡り”。夜の王は倒す。それだけだ。

そうじゃないと――何も始まらないし、何も終わらない。

 

例え、勝率二割戦う度に常夜じゃない事を祈って絶叫するクソオブクソでも。

……が、頑張る……!

 

 

ぼくたちが、リブラに向き直ったその時――奴の足元に、天秤の紋章陣が出現し、光を立ち上らせる。

その光の影から、誰か分からない人影が立ち上がっているのが見えてきた。

 

来た。罪人だ。

 

「二人とも!アイツは僕たちの姿をした奴らを召喚してくる!気をつけて!」

 

罪人は、今いる三人の内、複数パターンから選ばれて召喚される。ネタ装備からガチ装備まで多彩だ。

できれ―――

 

 

()()()

 

 

不意に、光からナニカが飛び出してきた。

 

 

それは見るからに細い、なよなよとした男。

覚束ない足取りで、けれども猛然と何かを振りかぶって向かってくる――一番近い、復讐者に向かって。

 

「――え……」

 

いっそ哀れに感じるほど稚拙な振り下ろしは、避ける必要もなく……その勢いに負け、ずしゃりと彼女の前に倒れ伏した。

すぐに震える身体を押さえつけるように必死で立ち上がった“罪人”は、強張った表情でぼくらを睨み付ける。

 

近世ヨーロッパ的な意匠が施された、ぼくには見慣れた白のシャツと青のベスト、黒のスラックス。仕立ての良いはずのそれは――ぐしゃぐしゃによれ、所々破け、その隙間から血が滲んでいる。

震える手が真っ白になるくらい握りしめられているものは、最早なんであるか分からないナニカの機械であり、血と“夜”の色に染まっていた。

割れた眼鏡が掛けられた傷だらけの、その顔は――間違いようもない、ぼく。

 

ぼくは反射的に“復讐者”の背を見た。

……間違いない。あれは、きっと“技師”だ。

“復讐者”、少女人形と共に在った“ぼく”。ノーザン家に雇われた流れ者。

 

その――惨劇が起きた、あの“夜”の姿。

 

“技師”はまたナニカを振り上げようとする。

重いソレにふらつきながらも必死に立ち向かおうとしていたその姿は――復讐者の“竜爪”の一撃で一瞬で潰された。

ぐちゅりと粘着質な音をした後、その残骸は“夜”となって溶けていく。

 

復讐者はリブラに顔を向けた。

悪魔の瞳は、三日月のように細まった。

 

「美しいものだろう?生き残る為、無様な小娘を護る為――自らの全てを投げ捨てて戦った。実に“公平”、素晴らしい」

「……ッ!」

「ああ……」

 

震える少女人形を、悪魔は――嗤った。

 

 

「――()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

復讐者の怒りを遮るように――執行者が前に出る。

振り抜かれた刀。一度、リブラの身体を裂くと――返し刀の一撃は、奴の持つ錫杖で容易く弾かれ、お返しとばかりにその先を振り落とされる。

 

「……ッ!!」

 

スルリ、と抜かれた妖刀がそれを弾くが、勢いが強く――そのまま押し負けるように後ろに下がった。

復讐者を庇うように、彼女の前に立った彼は静かに構える。

 

「今宵は随分出しゃばる。混じり角の木偶よ――あの時も、そうすればよかったものを」

 

白けるような悪魔の言葉に、静かに構えられた刀身が微かに揺れる。

 

「そうすれば、ああはならなかったろうなぁ。“アレ”を隠す羽目になった挿し木の娘が実に哀れだった」

 

何の話かは分からない。

けど――リブラは()()()()()()

あの二人が、夜渡りとなり得たその瞬間――“ぼく”が知っている、彼らの“ジャーナル”、その時に。

 

――趣味わるっ……!

 

ぼくは、聞いてられなくて――嬲るような悪魔の口許にボルトを浴びせた。

それを事もなく受け止めたリブラは、右手を天に掲げる。

 

「お前たちに興味はない。邪魔をするな」

 

すると――大きなX字の光が浮かび上がり、リブラを中心にそれがゆっくりと降りていく。

あれは、リブラのやってくる光壁展開だ。触れるとかなりのダメージを受ける壁になって、こちらを分断、行動を阻害してくるウザい奴。なお、リブラと罪人には効果はない。

これで奴の言っている“公平”が、手前勝手なものだとわかるようなものだ。

 

もう妨害は不可能。

なら、せめて距離を取るべきだ。

 

そうして二人に話しかけようとした時――横から、微かな音と共に、復讐者の意匠に何かが引っかかった。

 

降りてくる光壁の明かりに照らされたそれは、鋼の鉤爪だ。その糸に繋がったそれは一瞬で、復讐者の身体を横に引っ張る。

判断はすぐ――

 

「執行者はあの子について!ぼくの事はいい!」

 

執行者は意を受け取って、彼女の側へと疾走する――と同時に、光壁が展開。背を大きく飛び越す光の壁が、二人とぼくの間に立ち上った。

 

(あの鉤爪……どう考えても“追跡者”のクローショットだ。でも、追跡者が居ない以上、彼の罪人が召喚されるはずない……)

 

なら――それを使う、()()()()()()()()()()()が居たという事だ。

 

光壁に阻まれた先。二人を相対するように立ってるのは――中世甲冑と部族的意匠が組み合わさった独特の姿をした男。追跡者ほど精巧ではないが、彼の有り様を漂わせている。

右手には単純な小型クロスボウ。左腕全体に付けられた、ゴツい機械的な鋼鉄手甲(ガントレット)が目立つ。アレに鉤爪以外の機構が見て取れる。たぶん、クロスボウと組み合わせて遠距離から攻撃出来るものが満載だろう――“設計図”にそんなものは無数にある。

 

彼の言葉で考えるなら――アレは“従者”か。

追跡者と……幼いレディと共にいた“ぼく”。

 

左腕をクロスボウに添え――その瞬間、丸みを帯びた弾丸が放たれる。着弾と同時に起きた爆発が、あちらの戦闘の始まりだった。

 

「お前の有り様。よくある結末の一つだ」

 

リブラの言葉。

振り返ると、攻撃する事もなく、静かにぼくを見据えていた。

 

「助けられ――故に助け。敬意と称賛の中から抜け出せず、最期まで歩み行く。“公平”なり」

「……褒めてないよねそれ」

「いや?呆れ果てるほど“人”らしい」

「やっぱり褒めてないよそれ!もうなんなん!?」

 

ぼくは傑作を向ける。

確かにリブラは会話するキャラだったが――ここまで饒舌ではなかった。なのにずっと何か話し続けてくる。

きもちわるい!

 

()()――こうなる事もあった」

 

耳が、小さな風切り音を拾った。

すぐに転がって回避し、その方向を見る。ぼくの後ろ、いつの間にかそこにいたのは――黒い外套を身に纏った“罪人”だった。所々あしらわれた緑の鱗状の装甲は、どこか仲間である寡黙な弓手を思わせる。

 

「まあ、クロスボウ持ってる時点で()()なんてわかってるけどさぁ!」

 

ぼくは牽制するようにボルトを連続で浴びせかけると、それを回避した罪人は――背から何かを振り上げるように取り出した。

 

――ガコンッ!と勢い良く“仕掛け”が起動し、それは一瞬にして大弓の姿となる。矢筒から抜き取られた長大な矢を番え、引き絞られ始めるその姿全てに、()()()()()()()

 

 

「展開式の大弓……――“鉄の目”か!」

 

 

瞬間――放たれる大矢。

捻じくれた意匠が、風を生み――大きな衝撃波となって向かってくる。

ぼくはすぐに“仕掛け”を起動、楯を展開して、それを受け止める。

 

矢を弾く金属音と、ぶつかってくる衝撃。

そして――()()()()()()()()()に楯を合わせた。

 

――ガキンッ!と罪人が振るったナイフと楯がぶつかり合う。

 

遠くからの牽制、大弓での一撃による爆発力と、ナイフで相手に傷を作り……一気に殺し切るその姿。

そして――外套の影から覗く、淀み、しかし鋭いその目つき。

まるでじゃない。そのものだ。

 

“鉄の目”と。

 

「ずいぶんハードボイルドじゃないか“ぼく”!まっ、何があったかなんて知りたくもないけどっ……――さっ!!」

 

一度、楯の展開を緩め、突きつけようとしていたナイフを絡め取り――そのまま横っ腹を傑作で殴りつける。

 

もろに入ったその一撃に、鉄の目な“ぼく”は転がっていき――すぐにその頭にクロスボウを何発か浴びせる。

そうしてすぐ、その輪郭が“夜”に溶けていく。

 

「時として――」

「――うるっさいわ!」

 

また何か語りだしそうなリブラに、ぼくを指を合わせる。

コイツに何か話させても面白くないからね――さっさと責めるよ!

 

ぼくは胸の“内”に声を掛ける。

急かす幼気な声に合わせて――指を鳴らす。

 

「――()()()()()!」

 

―― まかせて ――

 

ぼくから溢れ出した“夜”は一瞬で、美しい巨大蛾を象る。

グノスターは、大きく羽を広げると――空が暗くなる。

 

そして――巨大な光の柱がリブラへと降り注いだ。悪魔の姿は一瞬で飲み込まれていった。

 

グノスターの得意技、サテライトレーザーもどき。

やられた方からすれば鬱陶しい広範囲の多段攻撃だが――やってるこっちからは頼もしい。もうずっとこれしたい。

 

―― ……… やったか ――

「いや、ちょい。それフラグ」

 

「……これはこれは」

 

後ろから愉快げな声が聞こえる。

嫌々振り向くと――いつの間にか立ち上っていた黄色い炎の中から、無傷のリブラが現れていた。テレポート。

やっぱり唐突とはいえ、避けられるくらいの隙はあったようだ。

 

「久しいな、“蟲”殿。狂気から覚めたようで何よりだ」

―― 煩い山羊擬き! 坊やに近づくな付き纏いめ! ――

 

グノスターの“声”は嫌悪に塗れている。知り合いなの?

……むっ、フォルティスから入電。なに?森にたまにいた?マジか。ほんと何処にでもいるなあの悪魔。

 

「それはできない。私にとって……ひいては、()()()()()()。“人の子”は鮮烈な輝きだった」

 

コツンッ、と錫杖の先が、無の荒野を叩く。

 

「だが、“蟲”殿には毒だったな。知性を得たというのに――“進化”ではなく、“情”を選ぶとは……」

 

やれやれと悪魔が首を振る。

仕草は呆れを表していたが――無数の瞳は、嗤っていた。

 

「超越への道は断たれ、在るのはごっこ遊びに耽る愚かな人擬き。ああ、なんともやはや……」

 

そうして、悪魔はため息を吐く。

 

「――所詮は虫。期待などした私の方が愚かだったのだろうな」

 

ふと、グノスターの幻影に――赤い光が立ち上る。神経に走るようなソレに呼応するように、その側にフォルティスが現れた。

 

―― 殺す ――

「出来ぬ事は言わない事だ。ここは私の“夜”だ」

 

その言葉が真実であるのか、グノスターたちの身体が徐々に解け――ぼくの中に戻っていく。

 

「そのまま子に縋り付いていればいい。老いた親には相応しい姿だ」

 

完全にグノスター達が消えると――胸の内が騒がしくなった。

 

―― あいつ! きらい! ――

 

いや、同感だけどさ。

言葉強すぎだろリブラ、オーバーキルじゃん……。

 

「さて――続きだ」

 

もう興味もないのか、リブラは――また。右手を掲げ、紋章陣を展開する。

 

 

 

――― ――― ―――

悪魔により、罪人が現れる

――― ――― ―――

 

 

そうしてまた、罪人が召喚される。

地に現れた紋章陣――光の影から、現れるソレにぼくは身構えるが……。

 

「……()()()?」

 

たったかたったかと走ってきたのは仕立ての良いローブを身に纏った子どもだった。小さな頭に合わないのか斜めった魔女帽が目立つ。

……“隠者”?“隠者”の時の……ぼく、なのかな?えっ、なんで子ども?

 

距離が縮まり、飛び込んできた子どもの首根っこを引っ掴む。

プラプラと宙に吊られたソレは、あぐあぐとこちらに向けて口を上下してじたばたしてくる。攻撃しているようだ。

 

「えー……」

 

幼いぼくの顔に、思考が停止する。

なにがどうなればこうなるん?訳わからん。“隠者”って……まあ、確かに子どもに関係する“ジャーナル”だけどそれにぼくは関係ないはず……。

 

――また、()()()()()()()

 

「……まあ、後か。すまん、ぼく」

 

子どもとはいえ、ぼくなら遠慮はいらない。

ぽーんっと放り投げて、ボルトを脳天に突き立てる。

宙で“夜”に溶けていくのを見て――前を向く。

 

紋章陣から現れたのは――鎧を纏った“ぼく”だった。

軽量化の為だろう、急所だけに鉄を用いられたソレには翼のモチーフが施され、片側だけの鳥人の頭を象った兜。

それはきっと、“守護者”と共にあったぼくの姿だろう。表すなら“戦士”かな?

 

いや――()()()()()()()()()

 

ぼくはある一点に視線を向けていた。

それは鎧には見合わない機械の姿。全身に隈なく取り付けられた機構も然ることながら、右腕全てを機械化した――()()に。

 

す――

 

(すっげぇかっこいい!えっ、やばっアレ全部武器?武器だよね!うわあ歴戦って感じがしてすごいベネ!中世SFかぁロマンあるなぁ……守護者と一緒だったって事は()()()()()()()()って感じだよね……いい。後で本人に聞いてみよ)

 

見惚れている内に――戦士の両腰から何かが放たれた。ぼくを挟むように打ち付けられたそれは鉄線に繋がった鉤爪。けれどそれは、さっきのクローショットの模倣じゃない。

きっと――

 

瞬間――急激に巻き取られていく轟音と共に、迫ってくる。

 

「――立体起動装置!懐かしいねぇ!」

 

ぼくは横に回避し、ボルトを浴びせるが――すぐに何処かに飛び去り、あちらも義腕からクロスボウが展開、攻撃を仕掛けてくる。いちいちカッコいいなぁおい!

 

……恐らく翼持つ鳥人に追いつくための策だろう。彼らに引っ掛けられば同じように動けるし。

とはいえ――ここは無の荒野。引っ掛けられるものが無い以上、縦横無尽とはいかない。横だけ無尽。

これなら偏差を覚えられれば苦では――

 

――視界の端に、()()()()()()()

 

「おおっ、今かぁ!」

 

楯を展開。戦士の攻撃を防ぎながら、その方向を見ると――現れたのはステレオタイプの海賊帽を被った“ぼく”だった。

つまり、アレは無頼漢の――て。

 

「いっ゛――!」

 

ぼくは、あのぼく――“海賊”が携えている黒光りする物体に息を止める。

あの、左腕に取り付けられるように持つ、あの()()()()()は――!

 

「“大砲”!?“大砲”じゃないか!?ブラボから脱出を!?」

 

全男の子達の夢――手持ち式大砲に他ならない。

それはフロムの他のゲームに登場するイコン的なものであり、固定式の大砲を持ち運べるようにしたゲテモノ銃である。

たぶん、海賊ならこれだろうと“ぼく”が思い浮かんで作った代物だ。

 

だが、かなりの装備難度であり使いこなすという事はそもそも埒外だ。現にあの“ぼく”は置いてるし、右手も使っている。

 

では、何故そうまでして大砲を持ち運ぼうとしたのか。

それには、古い問い(ゲーム)が教えてくれる。

 

 

――

携帯用の大砲を持ち歩いて道行く人々を撃ったら楽しいだろうか?

――()()()()()()()。楽しいに決まっている。

――

 

 

――強烈な爆発音と共に飛来する影。

 

「おおおお!?」

 

何とか回避する。――ドゴンッと小さくないクレーターを残す、あの一撃をもろに食らったら骨折どころの騒ぎじゃないね!

 

「ああもう!」

 

戦士は隙を狙うように連続攻撃を仕掛けてくる。しばらくすればまた海賊の砲弾がこちらに飛んでくるだろう。

 

なんとか……いや、出来るな――たぶん。

 

ここで、ぼくの“設計図(チート)”が生きてくる。

罪人が使ってくるものはどれも該当しないが……その機能は、どれもこの中から流用されている。カタログスペックはある程度わかるし、それに――ぼくのやり方も分かってるんだよね!

 

ぼくは“疾走”し、戦士が放った鈎爪をわざとクロスボウに絡めた。

考えていなかったのだろう。すぐに巻き取られた鉤爪にふんばって引っ張る。軌道がめちゃくちゃになってあっちの制御がなくなっていく内に――

 

――立ち止まった所に放ってきた砲弾の軌道線へと、戦士を導く。

 

つまり、爆発音と共に鈍い骨が砕け散る音が聞こえてくるようになる。ぼくの耳には、スマブラの撃墜音みたいに爽快だね。

 

戦士が吹き飛びながら、“夜”に溶けていく中で――鉤爪も消えていく。そうして、ぼくはもう何も出来ない的になった海賊をハリネズミにする。

 

「ふぅ……ロマンに傾倒すんのも考えもんだね……」

 

 

それで、と――ただ、ぼくを見ていたリブラに水を向ける。

 

 

「君は何をしたいの?“転生者”展覧会?」

 

目の前の悪魔はどこかおかしい。

“ゲーム”とは違うのはそりゃそうとしか言えないけど――めちゃくちゃ喋るし、皆大嫌いな横槍攻撃をしてこないし、“ぼく”しか召喚しないし。

 

それに――戦う意思が見られない。

ただじっとりとした気色悪い無数の瞳が、ぼくを見つめているだけ。

 

「………」

「………」

 

………。

あっ、そういえば復讐者達は……って、まだ従者が善戦してんだけど。えぇ……しぶとさまであの二人に似なくていいよ……。

ぼくが横槍してやれ。えいえい。

 

「お前の価値を理解してほしいだけだ」

「あーん?」

 

クロスボウを連射して、動きを妨害しながら――告げられた言葉に首を傾げる。

価値……価値、ねぇ……。

 

「まあ、確かに?ぼくは超有能チート転生――」

「――違う」

 

思いの外、強い語感に遮られる。

振り向くと――無数の瞳が、ぼくを見下ろしている。

 

どこか、ぼくではない“ぼく”を。

 

「お前は尊大な戯言で自らを貶めているだけだ」

「はぁ」

「故に――“あの夜”。お前は身を差し出した。罠だと分かっていただろうに、民衆共の保身からの嘆願だと気づいていただろうに。己で済むならそれでよし、と」

「……?何の話?」

「ああ……ああ……まったく以て――“()()()()()()

「あの……もしもーし?」

 

トントンと錫杖の先が地を叩く。

悪魔の苛立ちを表すように。

 

「お前とあの10321人の恩知らず共が“公平”であると本気で思っていたのか?神々の傀儡共を蹴散らし、国を築き上げたお前が?真に“公平”たり得る地平を見せたお前が?――あんなものと等価であると!?」

 

……えぇ。

台詞から考えると、リブラがいたであろう古い時代にぼくは王様をやっていたようだ。そういえばさっき“人の王”とか言ってたしな……なにしてんねんぼく。

チート転生者大満喫セットじゃん。古代に転生して内政チート振りかざしてるじゃん。

だが、結局その国民の為に何かせざるを得なかった――つまりはそんなとこで、それが“公平”大好きマンのリブラの癇に障るものだったようだ。

 

うーん……()()()()……。

 

「ぼくのチートのおかげじゃんね……?」

 

設計図(チート)”のズルで偉そうにしてたんだろうし、国民の為に死ねるんならまあまあのラストじゃんね?

いや、こうして自分の死を見まくってる“転生者”だからのマインドかもしれないけど。その時のぼくは偽アカギみたいな感じだったんかもしれないけど。

 

「……偶然故に起こり得た、流れ行くその“命”。渡り続けてなお、お前は変わらない」

 

()()()、光壁が掻き消える。

復讐者たちを見ると、丁度、従者の胸に刀が突き刺さっているのが見えた。随分粘ったなぼく。

ぼくの方を見た二人にうなずき、改めてリブラを見る。

 

「“婦人”の推測通りか。瓦礫の中に――」

 

その顔面に、ボルトを浴びせた。

 

「君が“()()()()()()()()()()()()()()()()()、正直ちょっと気になるけどさ――ぼく、こういう複雑なの苦手だからさ。もっとシンプルに行こうよ」

 

ぼくは合流した二人を背に、リブラに告げた。

 

「ぼくらは“夜渡り”。君は“夜の王”。ぼくらは君を倒して先に行きたい――()()()?」

 

その言葉に、悪魔は――笑った。

 

「そうさな――」

 

リブラは、右手を掲げる。

 

「我らの契約は未だ時満ちず。それを阻むのが私ならば――」

 

そうして、紋章陣を灯した。

 

()()()()”――是非も無し」

 

 

 

――― ――― ―――

悪魔により、全力の戦いが始まる

――― ――― ―――

 

 

瞬間。黄金の欠片のようなものが辺りに広がる。

それはぼくらを包み込むと――身体全体に活力のようなものが沸き立つのを感じた。

それだけじゃない。復讐者と執行者。二人の前に――武器が現れた。

 

“狂い火の聖印”と“ヴァイクの戦槍”。

 

夜渡りが狂い火を使える数少ない武器だ。そして――リブラの弱点でもある。

 

だが、恩恵はぼくらだけじゃない。

リブラに黄金の欠片が吸収され、その全身にその色が乗る。“ゲーム”でも見た強化状態だ。

 

つまりは――()()()()()

なんかゲームのラスボスが連戦で回復させてくれる系の感じだ。

 

ぼくは、与えられた武器を持つ二人に声を掛ける。

 

「よくわかんないけど、知らない“ぼく”のせいで嫌な思いさせたね」

「――いや、いい」

 

復讐者は右手に灯る、黄色い炎を握りしめる。

 

「お前と再会出来て少し浮かれていたのかもしれん。あの山羊頭の言う通り――()()()。私は見ていただけだった。その無念が、私が私を足らしめる。それを少し忘れていた」

 

そうして、“復讐者”は――ぼくの隣に立った。

 

「今度こそ――“()()()()()()()()()。見ているだけはもう、嫌だ」

「………」

 

復讐者の言葉に続くように、執行者もぼくの隣に立った。

槍を持つ手に震えはない。それで十分だ。

 

 

リブラの右手に黄色い炎が灯る。

 

 

それが――開戦の合図になった。

 

「――散開してッ!」

 

瞬間、リブラがそれを握りしめる。ぼくたちの真下に巨大な紋章陣が出現。ぼくたちが疾走で範囲から抜けた直後に、爆発を起こして黄色い炎を撒き散らす。

 

さっきよりも近くで感じた“ソレ”に――()()()()()()()()()()()()()。勿論、感動とかではない。

 

(いって……狂い火ぃ……!)

 

リブラの扱う――“狂い火”だ。

 

エルデンリング世界の特級呪物的サムシングであるソレは、ただの黄色い炎ではない。虐げられた弱者の恨み妬みの呪詛が、呼び寄せた――全てを焼き溶かす呪い火。

浴びた者は、徐々に身体内に蓄積していき……ある境に、激痛と共に目の内から黄色い炎が迸る。その苦しみに誰もがのたうち悲鳴をあげてしまうほどなのだ。

“ゲーム”内では、この状態を――状態異常“発狂”として、HPもMP的なのも軒並み持っていってスタン状態になる。……そう、ぼくがたまに発狂(キチゲ)と言っていた元祖本元である。

だってこうなると誰もが叫び声を上げるんだもん。

 

(今、少しかすっただけでこれか……ゲームとはちょっと違う、さっさとケリを付けないと……!)

 

“狂い火”の特徴は、扱う相手自身も“発狂”を蓄積する事だ。

その形が、“公平”に執着するリブラ的な琴線に触れたんだろう。つまり、()()()()()()()()。その瞬間を狙うのが、リブラとの戦闘ポイントだ。

 

それに気づいているのか。

執行者が、手に持つ“ヴァイクの戦槍”を地に突き立てる。

使命の末、狂い火に魅入られた勇者の武器は――それ自身にも狂い火を宿した。その余波は、狂い火の証たる三本の指の形の炎となって地を焼く。

 

足元に広がった黄色い炎を蹴散らすように、執行者に向かい、リブラは錫杖を振り回す。

が――()()()()()()。抜き去った妖刀がそれらを弾きいなし、もう一度戦槍を地に突き立てる。

広がる炎から逃れるように――テレポート。今度は、ぼくに向かってきた。一対一を続けるのは分が悪いと悟ったのだろう。

 

リブラは錫杖を打ち下ろす。

楯を展開し、それを防ぎ――そのままボルトを浴びせるが、リブラの瞳が笑い、右手に黄色い炎を灯す。

 

「……ッ!まずっ……!」

 

逃げようとするが――錫杖を振り下ろす力を強められ、抜け出す事が出来ない。くそっ……ゲームで出来ない拘束すんじゃないよ!

逃げれば潰され、このままなら地面爆破に巻き込まれる。

 

「……あっ、やべっ詰ん――」

 

 

 

 

足元に紋章陣が展開し、爆発する。

 

 

 

 

 

 

――身体の芯に、()()()()()()が灯る。

身体中に走る激痛――しかし、その次の。致命的な一歩まで届かない。

死ぬギリギリでぼくの精神は押し止まっていた。

この感覚――見覚えがある。

 

「……っく!」

 

横を見れば、“復讐者”からこの力が流れ込んでくるのを感じる。これが彼女の秘儀(アーツ)――“不死の行進”だ。

()()()()()()()()()()()()()()()()という言葉にすればぶっ飛んでいるその力は、その“特殊な出自”から霊に感応する事が出来るようになった彼女ならではの力だろう。

 

アーツを発動した彼女の身体には、“夜”の靄がこびり付いている。

その、顔半分を覆うソレから――誰かの視線を感じた。それが誰なのかは分からない。

だが、このチャンス。逃す訳にはいかない。

 

ぼくは瞠目するリブラに笑いかけ――そのまま、弾倉を切り替える。そして息を止め、“鱗粉ボルト”を顔面に浴びせかけた。

奴の視界を覆い隠す宇宙色の鱗粉と猛毒が、奴の動きを一瞬止める。

 

復讐者は右手に灯る黄色い炎を強く握りしめた。

その瞬間、彼女の動かない表情が苦痛に歪み、徐々にその瞳に黄色い炎が溜まっていく。

“狂い火”の力を御するその聖印は――蓄積するのを代償に、故意的に狂い火を迸らせる事が出来る。

復讐者は聖印の適正が夜渡りの中で群を抜き、彼女から放たれるそれを受ければ――リブラでも一溜りも無いだろう。

 

奴もそれを分かっている。

すぐにテレポートをして逃れようとするが――その前に、咆哮が響き渡る。

執行者がアーツによって、獣に変じ、駆け出しながら――その力の全てを左手に込め始めた。すると、手の内から長大な輝く角が伸び始める。そしてそれをリブラに振り下ろした。

黄金樹の一端、坩堝の力を一気に叩き付けられたリブラは一瞬、全ての動きを止め、大きく仰け反った。

 

「……ぁ!」

 

それと同時に――復讐者の瞳から、悍ましいほど黄色い炎が迸り、リブラ全体を包み込む。

それが――リブラの、()()()()()

 

 

「……ァァァァ!!!」

 

 

悪魔をして御し切る事の出来ない狂い火の蓄積によって、リブラの目という目から黄色い炎が迸り、理知的だった言葉すら忘れたように、悪魔は絶叫を上げた。錫杖すら取り落とすほどに。

 

 

そして()()()を。

――ぼくは待っていた。

 

 

「やっちゃえ――()()()()()

 

 

ぼくの“内”から現れた蛾が羽ばたいた。

――空は暗くなり、リブラの直上から巨大な光が降り注ぐ。

 

奴もそれを見えていただろう。

だが、悪魔すら耐えられない痛みの中で――回避など出来るはずない。

 

その光は、今度こそリブラの全てを呑み込んだ。

 

そうして。

それが消え失せた頃には――饒舌だった悪魔が、物言わず倒れ伏せていた。

 

 

 

 

 

 

「終わった、な」

「………」

 

倒れ伏したリブラを油断無く、見つめる二人。

 

―― やった! やった! ぼうや えらい! ――

 

胸の内で喜びの舞を踊り続けるグノスター。

 

ぼくはそんな皆を尻目に――

 

「………」

 

――楯を展開して、その中で身を潜めた。

 

「……?何をしているんだ?」

「グノスターを倒した時にね、こうグワーッ!と夜が溢れ出してぼくの身体に入っていったんだ。それでこの力が使え――」

 

 

 

瞬間――悪魔から、“夜”が溢れ出した。

 

 

 

「うわあああああ!!まってまってまってリブラはいらない!リブラはいらないからぁあああああ!!ぼくの側に近寄るなぁああああ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………

……

 

“円卓”の中央室。

灯る大祝福に“夜”の欠片が溶け込んでゆく――“夜の王”討伐の証だ。

 

それを見て、“レディ”はほっと息を吐く。

“彼”が夜渡りとして合流して以来、本当に順調だ。獣と爵、その二体の夜の王を倒すまでに、積み上げた死体の山を考えれば――いっそ、恐ろしくなるくらいに。

 

彼――“転生者”が隠す、()()のおかげなのだろうか。

 

(……いつか、言ってくれるのかしら)

 

いっそ締め上げて吐かせたい気持ちもある。もう二度と後悔したくないのだから。けれど――そうまでして隠す彼を尊重したい、信じたいという内なる自分の声も聞こえる。

“巫女”として、“レディ”として、そして――彼に恋した“少女”として。

どうすべきか、レディはまだ答えを出せてはいなかった。

 

(まあ……今はいいわ)

 

今は、宿願へとまた一歩進ませてくれた功労者たちを労う事に集中しよう。

そう思い、皆で集まったのだが―――

 

 

「ひぐっ……ひぐぅ……!ぼっ、ぼく!嫌だって言ったのに!止めていったのにぃ!無理やり……ひどいっ!ぼく頑張ったのに!こんなって……こんなってない……!テンセイシャヲイジメヌンデ……!!」

 

 

なんか非業の結果を迎えてしまった処女みたいにさめざめと泣く転生者とそんな彼を何処か気遣うように見つめる残りの二人がいた。

 

 

「………一先ず食事にしましょうか」

 

 

取り敢えず、お腹が膨らめば気を取り戻すだろう。

皆を連れて食堂へと向かう。こうして皆と囲む食卓はあとどれぐらいになるのだろうかと思いを馳せながら。

 

 

 

 

 

 

後――私の婚約者候補を泣かせた奴はいったい何処のどいつだ。

 

 

 

 

 

 






【“遺物”を入手しました】

―――――――――

【魔の覚え】

夜の魔、リブラが内包していた夜。その齧り取られた断片。
“転生者”の内に収まったそれは、古い契約に従い、気まぐれに力を貸すだろう。

“公平”に執着するリブラは、人の子がもたらしたその光景に絶頂すら覚える心地だった。
誰しもに与えられる公平な機会。上がるも下がるも己次第。それは王たるものも市民たるものも変わりはしない。
まさしく、悪魔が望む――高みへと至る理想に近しい国家、世界だった。

故にか。

指の策略と民の愚かによって――者皆全て瓦礫と化した時。
それが公平でないと分かっていても、リブラはただ1人に“契約”を持ちかけた。人の子への狂おしいまでの何かへの発露だった。

……未だ、契約は時満ちず。
悪魔は、暗がりからその瞬間を待ち望んでいる。


―――――――――
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