“転生者” 作:ダフネキチ
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“転生者” PART3
リブラに無理やり……まあ、下ネタはもうやめようか。
“夜渡り”は順調だ。このままなら、遠からずラスボスまで辿り着けるだろう。
……けれど、“ぼく”については謎が深まるばかりだ。なぁんでグノスターはおろか、リブラとすら面識があるんですかねぇ?
………。
――いったい、いつからこんな事をしているのだろう。
………ちょっと、気が紛らわせる事でもしようかな?
丁度いい。ラブリーマイエンジェルのプレゼントを仕上げちゃおう。
【追憶を開始します】
――“銃身回転式六連装連発弩”というものがある。
言ってしまえば、未来の
ゲテモノ揃いの“設計図”の中で見れば、随分空気の薄い子なのだが……一点、目を見張るものがある。
それは、
中心の
ような、なのでそのように使えば一瞬で粉砕されるのはこっちだろうけど、実際持ち運ぶ人にとってはありがたいものだったろう。
――その“軸”に、ぼくは用があった。
円卓地下から抜けた先の海岸。
復讐者が伝説的なヤンキー仕草を決め込んだその浜辺にて……ぼくは、座り込んでちまちまと作業していた。
リブラに“内”に入りこまれるというとんでもない屈辱を味わわされた後。
皆からの労いと食事を経て、ぼくは一人でここにいる。
ラブリーマイエンジェルへのプレゼントだからこっそりしたい……というのもあるが――ちょっと考えたい事もあるからだ。
「………」
穏やかな漣の音、何かよく知らん海鳥の呑気な鳴き声――“内”に響く、夜の蠢き。
その“内”……ぐでん、とうつ伏せでリラックスしているグノスターとそれを背にして何かを警戒するように佇むフォルティス。
そして――フォルティスの先にある、“夜”の欠片を見る。
二人……というか、二匹が言うには――“内”にリブラは居ないようで。
あるのはそれと繋がる楔のようなものであり、いつでも出入りできる勝手口みたいなのを置いていっただけらしい。
……なにしてくれんねんあの公平山羊。こっち公平じゃないんだけどゴミ置いてかれた気分やぞ。
追い出せないかと聞いたら、無理との事。ものすっっっごい不服そうだった。
まあ、あんな夜のひろゆきみたいなのが居ないんなら、それは安心……なんだけど。
「………」
“銃身回転式六連装連発弩”の
そして少し前に見つけた、“対巨人・
それらを思い出し、小型化にしつつ組み立てながら――呟く。
「……“人の王”、ねぇ」
リブラがぼくに……いや、“ぼく”に向けた名。そのフレーズが何故だか頭から離れなかった。
たった三文字。それが気になる。
幾度も転生し、そうしてこの“円卓”に流れ着いたぼく――転生者。
そんな数奇な流れの一つ……だと思うんだけどね。
「……――むっ」
カチャリ、カチャリと。
作業をしつつ、
……誰かにどっちか持っててほしいんだけど。
「……手ぇ、欲しいなぁ」
―― よんだ? ――
「よんでないねぇ」
いや、君のお手々じゃ無理だろ。こてりと首を傾げ、這い出ようとするグノスターを押し留める。
……皆、もなぁ。
サプライズにしたいし、一人になりたかったから「……少し、考えたい事があるからね……」って変にアンニュイにカッコつけてこっち来ちゃったから「あの……誰か手ぇ貸して……?」なんてダサ過ぎる。
はぁ……足で何とかするしか……。
「………」
……それにしても。
「人の王、人の王、人の王……かぁ。安直な感じで特別感ゼロだな。王さまなんてだいたい人でしょ」
「否。その名に相応しいのはお前だけだ」
「えー、なんでさ」
「古き時代において。
「ふーん……」
………。
「………」
「………」
横を向くと、見慣れた全身黒ローブの異形が天秤片手に佇んでいる。その無駄にデカい図体でこっちを覗き込みながら。
「……ここが夜の王ぶっ殺しサークルのアジトって理解してる?」
「……?無論だが」
「ああそう……」
“秤を持った商人”。またの名を“夜の魔、リブラ”。
なんか普通にいる悪魔に――ぼくはため息を吐いた。
「ていうか、一応やっつけたんだから素知らぬ顔で出てくんなよな」
「“夜”に溶け込んだ我々に、真なる死は訪れない。
「しってますー。顔見せんなってだけですー」
「そうか。お前は時に哀れなほど無知だからな。知らぬとばかり」
「……っ……っ」
「おい、やめろ蹴るな」
口の減らないあん畜生のスネ付近に蹴りを入れながら、ぼくは“円卓”に視線を向けるが、騒がしくなっている感じはしない。
……気づいていない?こんな怪しい雰囲気マシマシの
――ふと。
ヒラヒラとアップを始めたグノスターの後ろに控えたフォルティスから、じんわりと“声”が聞こえてくる。
……どうやら、目の前にいるこの山羊擬きは――ぼくの“内”にある欠片を通じた幻影らしい。つまり、ぼくの“アーツ”を勝手に使って現れたようだ。
………。マジで勝手口やんけ!
じとりとリブラを睨みつける。
……
はぁ……まあいいか。コイツに何説いても無駄でしょ。
「――ねぇ、ちょっと手ぇ貸して」
「……む?」
「これ持って」
そうして、体内炸裂砲弾のミニチュア版を差し出す。
リブラはしばらく固まると――なぜだか、素直に天秤を紋章陣で消すと、恐る恐るといった風にそれを摘んだ。
「そう……あっ、もうちょい斜めに。……いいね。ありがとリブラ。ちょっとそのままー」
「………」
カチャリ、カチャリと。
軸と体内炸裂砲弾を繋げていく。機能を一致させる為には意外とキツイがそう難しいものでもなかった。
そうしてしばらくイジイジしていると――ため息が聞こえてきた。
チラリと視線を向けると、全身黒ローブの変態が呆れの雰囲気を漂わせている。
「なんじゃわれ」
「嘆かわしい……偉大なる発明が、小娘共を喜ばせる玩具に成り果てるとは……」
「はぁー?わかってないなぁ。
「お前こそわかっていない。愚昧な者達一人一人に傀儡共と互角に戦わせる力を与えた事がいかに偉大であるかを。木偶の坊の巨人共全てを恐怖で塗り潰したあの一撃が、いかに崇高であったかを」
「……なに。いつかの“ぼく”って巨人族に喧嘩売ってたの?」
「売買で言うならば、売ったのはあちらからだな。……痛快な光景だ。盲信していた悪神の叱責すら振り切って、命惜しさに背を向けた巨人共の姿はなぁ……くくっ――実に“公平”であった」
「今のどこに公平要素が……?」
こいつの琴線ってほんとようわからん、とか思っている内に――カチリ、と部品が組み合わさる。
あの子へのプレゼントの完成だ。
ぼくはリブラに礼を言い、“機構”を何度かチェックする。
うんうん。まさしく匠の業、超有能チート転生者の名は伊達ではないねぇ!
……喜んでくれるかな。
「……で?」
目先の事が終わったので、ぼくはリブラに水を向ける。
「君は何しに来たの?」
理由もなくやってきておしゃべりするような質ではないだろう。
……よね?
「――警告をしに来た」
「警告ぅ?」
リブラが?
究極自分本位な公平でニヤニヤしているような悪魔が?わざわざ?
「――
「外……?」
(……。……
ぼくには思いつくものがあった。
それは“――ゲーム”におけるDLCコンテンツ。
物語の途中から追加される事になる仲間二人とボス二体の内の――一体。
明確に“
(やっぱりいるのかぁ……ていうか、そしたら“学者”も“葬儀屋”もいるよな。どこにいるんだろう?)
ぼくは、追加夜渡りである――壺投げ上手男なカニ食いイケオジと壁舐めケツデカダウナーシスターに思いを馳せていると、リブラが続ける。
「私としては伝えずとも、お前がいればどうとでもなると思ったんだが――“婦人”が煩くてな。代わりに来た」
「
聞き慣れない言葉にぼくは首を傾げる。
「だれそれ?」
「我々の一人だ。今の、そして前のお前も知らんだろう」
「ふぅん?」
我々……というなら、“夜の王”の誰かだろうか。
“ゲーム”において。彼らのバックストーリーもある程度提示されていて、ぼくもしっかり覚えている。
その中で“婦人”……つまりは、女性というと――思い浮かぶ者がいる。
―― よんだ? ――
よんでないねぇ。
喜び勇んで這い出ようとするグノスターを座らせる。
えっ、自認女性だったのきみ。いや、確かに綺麗だけれどもさ。
うぅん……。
でも、こうなんだよなぁ。“ゲーム”じゃあグノスターとかリブラはこんなに喋らないし、家族自称したり、知ったかで喋ってきたりしないからなぁ。普通に敵だもん。
ぼくが思い浮かべる奴ではないかもしれん。
……どんなやつか、聞いてみるか。
「どんなやつ?」
「ふぅむ……」
ぼくの問いに――何故だかリブラは、顔を上げ遠くを見る。黒ローブで隠れているのに、その表情はなんとも複雑そうに思えた。
しばらく黙った。
「初めて胸が高鳴る者がいたから関わりたいと下りてみたはいいものの、直接話すのに羞恥を感じ、一先ず外堀を埋めようと小癪な真似をしたせいで――それに認知されぬまま“王の婦人”と呼ばれるようになった哀れな存在だ」
「変質者じゃん」
「然り」
――違うわ。
ぼくの思い浮かんでいるのは、もっと雄大でなんか得体の知れないけどそこが魅力的で神秘的な
リブラですら納得する変質者じゃない。そんなんじゃない。
「一応は、原始の時から世界を“俯瞰”してきた存在なのだがな……。むっ、そうか。“見ていただけ”だからか。成る程――“公平”なり」
「いきなりなんの判定?」
まあいいや。
やめよう。変質者の事を考えるのは不毛だから。
「――ともかく。用は済んだ。私は帰る」
「おう、かえれかえれ」
「“契約”の下、力を貸すのに否はない。好きに呼ぶといい」
「誰が呼ぶか」
リブラにヤジを飛ばしていて――
「――ん」
「何だその手は」
「なんか頂戴」
「何故……?」
「ぼくの“内”に勝手に入り込んだんだから対価。……そう!家賃だね家賃。よこせ」
「……悪魔に集るか普通」
「普通だったら転生者になんかなってませーん。はよ」
リブラは、しょうがなさそうに指を鳴らすと――ぼくの手に紋章陣が現れ、ずしりとしたものが手に乗せられた。
それは四角い長方形。インゴットの――黄金だった。
「おぉ!金だ……ぁ?いや、金じゃないな。ああでも大体は金かこれ!」
転生者のチートアイが、これを純金じゃないと見抜いている。
リブラの象徴的な、錬金術による紛い物だろう。だが、まあほぼほぼ金ならそれでいい。
金は意外と柔らかな素材だから武器には向かないが、腐食耐性が極めて高いから色々出来る!
「何作ろっかなぁ。ぼくの物はもう飽きてきたし――
「――お前は変わらないな。本当に」
「うん?なに……が?」
いつの間にか、リブラの姿は消えていた。
……フォルティスに聞くと、帰ったようだ。来んのも唐突だし、帰んのも唐突だなアイツ。まあいいけど。
「――よし」
ぼくは立ち上がり、“円卓”に足を向ける。
まずは復讐者にプレゼントを渡そうか。喜んでくれるといいけど……なんか緊張するな。
だっ、誰かに見てて……ああ、でも流石にそれは恥ずかしいか。
―― よんだ? ――
よんでな――くはないねぇ!
うん、ごめん。ちょっと横から応援してくれ。ぼく女の子にプレゼントを渡すのは初めてで。
―― ぼうや ぼうや ――
うん。
―― わたしに ちょうだい ――
やっぱ座っててもらっていい?一人でやるわ。
―― なんで なんで ――
………
……
…
――“円卓”は静まり返っていた。
それは常の静寂ではなかった。
控えるような――
「………」
“復讐者”はそんな中、“彼”の工房の暖炉の前に座り込んでいた。
乱雑に散らばったガラクタと工具の中。パチリ、パチリと跳ねる薪木の音を聞きながら。
――食堂では、最初、和やかな雰囲気だった。
しくしくと濡れそぼるような泣き方をしていた“彼”が召使人形の食事に口を付けた途端、けろりと機嫌を直して食べ始めたので。
まずはとレディがこれまでの事を聞いてきた。
だが、自分はそこまで口達者な訳でもなく、執行者はそもそも話す気すらない。つまりはほぼ全て“転生者”たる彼に任せた訳だが――まあ、悪くは無かった。
元々、言葉を飾る事が好きな彼の話は楽しめる。……まあ、誇張が膨らみ過ぎて自分たちが陳腐な冒険活劇の主人公になったみたいで気恥ずかしかったが。
だが、それは――あの“夜の王”。悪魔、魔物の嘲りまでだった。
理解不能の“公平”の名の下に、召喚された“罪人”。
かつての彼の姿を語り出すと、皆の顔が曇り始めた。それはそうだろう。
かつての友、愛する人。
それが牙を剥くなどと。考えたくもない。
「――
悪魔の嘲りが耳の奥に木霊する。
知らず、歯を噛み締めた。
だが、回る口の熱のまま、語る本人は――沈痛になっていく雰囲気に、気づいておらず。
というか、自分の死だというのにそれを真に受け取っていないのか、どうなってそうなったのか聞いてきたのが
デリカシーないのか我が夫は。
いや、私には聞いてこなかったから最低限はあるのか。聞かれてたら流石に泣いていたかもしれん。泣けないが。
アレはなぁ。
“無頼漢”や“追跡者”は良かったのだ。本人らがあっけらかんと共に戦った勇姿を付け加えるほどには彼の死に納得していたから。
だが、“鉄の目”、“隠者”――“守護者”は酷かった。
鉄の目はただただ黙り込み、隠者は青ざめて言葉を濁し……守護者は吐き出そうとした、言葉を呑み込んだ。
――
最終的には、やらかした事を本人が気づく前に無頼漢と追跡者がその口に、肉を突っ込んで強引に中断させるという荒業と、レディが瞬時に話を纏めに掛かるコンビネーションで収めたが。日頃の経験が生きたな。よくやった。
だが、収まりそうになった空気も。
最初に席を立った“彼”の後に、私がついていこうとした際に「……少し、考えたい事があるからね……」という確かな拒絶で、不動のものとなり――
今。ここは静かに時が流れている。
(考えたい、事か……)
その事は分かっている。
それはあの語りの際に“省略”していた――
彼の名前。
(――“人の王”)
復讐者はそれに聞き覚えがなく、この“円卓”にある書庫にもその記載はない。だが、あの悪魔から吐き出された言葉にしては得体の知れない熱があり、耳にそれがこびり付いていた。
(執行者は……何か知っているようだが)
“あの時”。その名を耳にした執行者が、少し動揺していたのを見逃さなかった。
解散した後、二人になった折に聞いてみたが――少しの間を置いて、首を横に振られた。もう一度と迫ってみれば、無口なのを盾に無視されたのでスネに一撃入れた。
……そもそも語らない彼が――
それが重要なものであると如実に語っているようなものだ。
(………)
それが何を意味するのか、復讐者は分からない。
ただ長い“転生者”の生の中で、そう呼ばれる時があった……というだけの話しなのかもしれない。
ただ――
少し、さみしいだけで。
「………」
パチリ、パチリと跳ねる薪木の音。
ただただそれに浸っていると――
それは止まり、くぐもった声が聞こえて、また聞こえだす。
復讐者は居住まいを正し、ドアの方に身体を向けた。
その“音”を聞きながら、復讐者は懐かしさを覚えていた。
(……よく、こうして。ただあの人が来るのを待っていたな)
“人形”は動く事は出来ない。それは当然の事だった。
だから彼の足音をずっとずっと、楽しみにしていた。それが聞こえれば――私に話しかけてくれると分かっているから。
昔。
小さなシスターの玩具を作った際に、お嬢様に謎めいた言葉を喋らせ、それを録音したものを埋め込むという暴挙をしていたのを思い出す。小さな蓄音機を作るという偉業を掻き消すレベルの貴族に対する不敬であり、優しいご当主様も流石に怒っていた。
「数百年後の教主たちを困惑させたかった」という供述はいったいなんだったのだろう。
そんな過去を思い出して、少し気持ちが安らいでいると――ひょこりと彼の顔が出てきた。
「おっ、いたいた」
「いるぞ。どうかしたか?」
「それはぁ……あー……」
「……?」
いつもカラカラと話す“彼”にしてはどこかどもり――少しだけ照れくさそうに目を反らしていた。
………。……なんだろう。
――
「ほら、行く前にさ。プレゼントが欲しいって言ってたじゃん?だから用意したんだけど……」
「ああ……て。それか?」
「ん?」
復讐者の目は、彼の右手に持っている――金のインゴットに向けられていた。……確かに凄いがこれを女に渡すのは……というか、なんだか目が離せ――
「――ああ!違う違う!こんなんじゃない!流石のぼくもプレゼントに現ナマ渡すみたいな風情無い事しないって!」
――ぽいっ!ドンガラガッシャーン。
乱雑に放り捨てられたインゴットは、ガラクタの山に消えていった。えぇ……いや、ありがたいけど――そう適当に扱う代物でもないだろうに。
彼はそのまま、復讐者の前に跪く。左手が後ろにある所を見るに本命はそこにあるらしい。
「……笑わない?」
「
「いや、そこまでしてほしくはないけど……うん、よし――はい、どうぞ」
そうして、目の前に出されたのは――
「あっ……」
――
鉄色の造花。
“復讐者”が――“人形”が、ずっとずっと欲しかったものだった。
「これね。ただの花じゃないよ。茎をこう回すとね」
そう言い、摘んだ茎を回すと――徐々に蕾が花開く。美しい薔薇の形へと変わっていく。
「まあ、こんな感じで。……これがぼくのお洒落の限界かな。受け取ってくれる?」
――
記憶が無く、だが発明する頭があり――女性にプレゼントを渡すなら、こうなるんじゃないかと期待していた。
だが、本当に――貰えるなんて。
「―――」
“人形”を覚えている。“人形”は見ていた。
――“技師”が一人の令嬢の誕生日に、“人形”がいる部屋で、こそりと贈っていたこの花を。
笑わないかと不安がるのを安心させ、出されたそれに――感動と、それ以上の熱を持って受け取った、お嬢様の姿を。
それが――ずっとずっと羨ましかった。
「―――」
「ああっとぉ……流石に気障過ぎた?キモい?」
「――そんな訳あるか。ありがとう。本当に嬉しい」
せめて喜びが伝わるように彼の頬を撫でると――照れくさそうに手渡される。
その花を見て、眺め……“彼”を見る。
「そっ、そっかぁ……!喜んでくれたなら嬉しいよ!流石はぼく!なんとかなるんだよねぇ……!よしっ!」
いつものように自画自賛をする彼に――
「
――それが、裏切りになると分かっていた――
――愛するお父様、家臣、使用人、領民たちへの――
「
――だから、言えなかった。蓋をして隠して忘れようとして――
――そのせいで、“夜”の囁きに耐え切れなくなって――
「――
あの時、言えなかったその言葉。言っていたらどうなっていたのだろう……そんな言葉。
それを聞いた貴方は――今の“彼”のように目をあちらそちらと走らせて頷いてくれただろうか。
けれどもう忘れない。
この想い。そしてその全てを呑み込んだ“夜”への憎悪を。
何故なら――
想いを抱え、忘れない事はどんな事よりも得意なのだから。
――ね?ダフネ?――
―――――――――
機械の花
転生者が復讐者に贈った鉄の蕾。その一輪。
茎を回すと花開き、また回すと蕾に戻る機構を持ったこれは――奇しくも、とある“技師”が一人の令嬢に贈ったのと同じの物である。
“人形”はずっと“令嬢”が羨ましかった。
隣で話し、共に歩き、笑い合う事が出来たから。
“令嬢”はずっと“人形”に嫉妬していた。
臆面なく愛を囁かれ、それを受け取る事が出来たから。
捻れ、鬱屈したその想い。
それに――“夜”は感応した。
こうして、“復讐者”が誕生した。
全てを奪われ、故に憎悪し――共に同じ男を愛した、少女たちが。
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偽金のインゴット
限りなく黄金に近しい材質の何かで出来た、金の延べ棒擬き。
転生者の傑作に用いる特別な素材。
“夜の魔、リブラ”による怪しげな錬金術の産物であり、それ故にか――人の内なる欲望を掻き立て狂わせる、妖しい魔力を帯びてる。
“人の王”にこれを手渡した時の事を、悪魔はよく覚えている。
只人ならば、目を輝かせ私利に狂い破滅する偽物の黄金。
それを見た王もまた目を輝かせると――躊躇いもなく溶鉱炉にぶち込んだかと思えば、瞬く間に、国中央の巨大噴水のオブジェとなった。
感嘆する民衆を満足げに見渡す王を、悪魔は呆然と眺めていた。
その時からだ。
そこから始まったのだ――“至上”の“公平”という極大の矛盾に喘ぐ日々が。
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