“転生者” 作:ダフネキチ
「………」
「うわぁ……」
「……こう、なに?」
「――中学生が書いた病々ブログみたいだぁ……」
「おはようございます、ご主人サマ。本日も日和がよろしゅうございますね。朝餉のご用意は整っておりますので……どうか一口だけでも――」
「グッタイミン。召使ぃ」
「はっ……はい?」
「――
「……。……いえ……■■■■■■卿にお尋ねしましょうか?」
「んー、いいや。……よくわかんないけど。ありがとう、ぼくの“ともだち”」
「あの……ご主人サマ……?」
「――あっごはんだっけ?もらうー、お腹空いちゃった」
「……!それは良うございます。早速ご準備を」
「うん。あとさ。“アイツ”に全大臣と諸侯たちを集めるように言っといて。昼過ぎまでに」
「はっ……?」
「大防衛が終わった今――ぼくは前を見なくちゃいけない。アイツのクソ親父に苦しめられてきた国民の為、ぼくを信じて戦ってくれた皆の為。そして――
「そう――!」
「これからの時代……リップ&ティアーじゃなく――ラヴ&ピース!!!」
「………」
「………」
「……ごっ――ご主人サマがご乱心なされた……!」
「スゴイ・シツレイ!」
―――
霊樹を超えた先、無の荒野。
その全てを呑み込んだ“深海”……その
“深海”の主――“夜の王”。
月と見間違うほどの核を覆う、宙に溶け込んでいる半透明の生物的物体――
――縺ィ繧ゅ□縺。縲?縺ョ縲?縺ィ繧ゅ□縺。縲?縺ィ繧ゅ□縺。縲?縺ゥ縺――
ソレが――“深海”が、脈動する。
耳障りな水音に呼応するように。水中に息を吐き出すように。
その周囲に巨大な水泡が湧き上がり始め――溢れんばかりの数が、“夜渡り”に殺到する。
その光景に三人は言葉を失い……ただ、身体だけが動いた。
「……ッッ!」
横へと疾走出来たのは幸運だったろう。
水泡はくぐもった炸裂音と共に地を抉り、底に沈んだ残骸を宙に巻き上げる。
何度も何度も何度も何度も――。
あの場に佇んでいれば、宙に揺蕩う残骸に紛れて血肉が散乱していただろう。実に幸運な事だった。
あるいは、不運だろうか。
――“
――縺ィ繧ゅ□縺。縲?縺ゅd縺セ繧九??縺九∴縺輔↑縺阪c――
ソレの“核”が駆ける夜渡り達を辿るように動く。
それだけで宙は揺らぎ、眼に映る線を生み出し――大波となって、地を這い始める。
底に沈んだモノを巻き込み、纏い……言い表せない暴威となって。
避けるには壮大が過ぎ――受け止めるには、あまりに膨大過ぎる。
「――お前らッ!俺の後ろにッッ!!」
“無頼漢”の判断は早かった。
足を止め、二人に呼びかける――その手には、
それは彼が夜渡りになった折、気がつけば携えていた“
「……ぉおおお!!!」
裂帛の気合と共に、杭を地に叩きつける。
その波動に呼び寄せられるように、前方――
大柄な彼よりも一回りほどに大きなそれ……描かれた文様に因み、“トーテム・ステラ”と名付けたこれを、無頼漢は巧みに使っていた。
群れる雑魚を散らし、強敵を怯ませる不意な一撃として。
あるいは――受け止めきれぬ攻撃を退ける防壁として。
「頼むぜ!誰かのかは知らんがなァ!!」
三人が大墓の陰に身を隠すのと同時――迫りくる暴威が、重なった。
――ギャリギャリギャリギャリギャリッッッッ!!!!
筆舌に尽くしがたい破砕音。
それが大墓を我武者羅に揺らし抉り――夜渡り達は、眠れる知らぬ誰かに祈り、身を預け続ける。
只人が、何も出来ない災害にただ耐える……そのように。
「だぁああクソッ!何なんだありゃあ!ホントに“夜の王”かぁ!?リヴァイアサンの間違いだろう!?!」
「さあな!クラーケンの親戚か何かだ!!」
「見た目で言えば、クラゲの類だと思うのだけれど!」
「「――知ってるわ!言ってみただけだ!!」」
「なかよしさん……!」
やがて、破砕音は止み。
暴威の大波はその後ろ姿を晒しながら悠然と彼方へと過ぎていく。
無頼漢は、鳥の群れに啄まれたパンのような無惨な姿になった大墓を見上げ……深々とため息を吐いた。
「さぁ……こっからは俺ぁちぃと役立たずだが――何とかなりそうか?」
「……どうだかな」
鉄の目は墓の陰から、宙を睨む。
――視界全体、あの“夜の王”だけが広がっている。
「――
宙に揺蕩う様があまりにも巨大に過ぎ、距離感が完全に狂わされるが――ここから多少に前に出た所で、無頼漢の力強い一撃は愚か……鉄の目の矢も隠者の魔術も届きそうにない。
仮に届いたとて、アレの楊枝にもならなさそうな攻撃が、アレを貫けるとは思えなかった。
「
悩む二人の耳に、その呟きが響く。
ただ宙を見つめる隠者の瞳全てに、“夜の王”は揺蕩っており――恐怖と畏敬を通り越した、驚愕だけが彩られている。
「“此処”がアレの領域としても、生物がここまで巨大になる訳……!」
隠者は“魔女”として長きを生きている。
その知見が、経験が――この存在が、
そして――その原因も。
「……ッッ!」
歯ぎしりせんばかりの隠者の表情、その視線を辿った二人は……見た。
――地平線を埋め尽くす、“
生命が歪み、訳もわからず――けれど、己と愛する者達に殉じた男が遺した“
「……おい、まさか――」
――縺ィ繧ゅ□縺。縲?縺ゅ>縺溘>縲?縺ゅ>縺溘>――
耳障りの水音が“深海”の全てに伝わってくる。
不快感と共に見上げると――アレから、また水泡が湧き上がり始めていた。
「おいおいやべぇぞ……!」
回避は間に合わない。
故人がびっくりするほど泣きそうな有様の大墓が受け止めきれるはずがない。
――鉄の目は、瞬時に大墓の上に登った。
そして背に負った“ソレ”を振り上げる。
――ガコンッ!
仕掛けにより大弓に展開したそれで、精緻な装飾の大矢を構えた。
彼が“鉄の目”足らしめるもの――託された数少ない遺志を。
「――適当に散れ!」
鉄の目らしからぬ乱雑な指示は、その焦りを物語っていた。
大矢を強く引き絞る。その瞬間、鉄の目の身体から不可思議な力が溢れ出し始める。
“夜渡り”となった時に得たモノ。
――そうして、“
尋常ならざる膂力で放たれた大矢は、宙を切り、水泡を裂き――その“核”に突き刺さる。
その衝撃に、“夜の王”は少し揺らめく。
――縺ゅ?縲?縺薙→縺ー縲?縺薙→縺ー縲?縺阪>縺ヲ――
――それだけ。
「ちぃッッ!!」
そうして溢れ出た水音が、水泡となり――“夜渡り”に迫りくる。
方々に逃げ、方々に炸裂し、方々に残骸が撒き散らされる。
(……クソッ――“
無頼漢は顔を顰めながら疾走する。
炸裂音と宙の残骸の隙間から、矢や魔術が飛んでいるのが見えるが――そもそも与えず。よしば当たったとしてもまるで肌を突付いたような、柔らかな感触だけを相手に伝えている。
――最早、
防戦一方……いや、生存だけで精一杯の有様に屈辱すら感じ得ない。
それほどまでに――
――縺薙→縺ー縲?縺阪>縺ヲ縲?縺上l縺ェ縺――
水音は水泡を産み、辿る“核”は大波を呼ぶ。
それだけで生命が削り取られていくようなそんな――悍ましさ。
無頼漢はそれに焦り、藻掻きながら。
しかし、冷静な思考が脳裏を満たしている。
(……――“次”に期待か?)
“次”――
本来なら必ず訪れる不変……その先。
“夜渡り”の利点だ。
死してもまた蘇る。蓄えた力は失われるが――
それが、自分たちの力。それによって戦い続け、勝ちを拾い続けているのだ。
大事なものを失った事すら気付かずに、失いながら。
(つっても誰なら勝てる?……こんなのに?)
浮かび上がる同志たちの顔は浮かんでは消え……最後に残ったのは、
だが――
(コイツに会わせる訳にはいかねぇ)
――あの一瞬。残骸を見渡したあの数瞬。
言葉無く辿りついた“三人の結論”が、彼を――転生者を此処に連れてくる事に忌避感を覚えていた。
――繧上°縺」縺――
“夜の王”が突然、宙を翻した。
しかし、それによって揺らぐ事は無く――眩い光が灯り、やがて何かを産み落とされる。
水滴と言うにも、雫というにも大きすぎる……ナニカ。
それがゆっくりと宙から……地へと、降りていく。
そこに敵意どころか何も感じられず。
水泡の爆撃に晒されている三人は何の対処も出来ずに――それが地に触れ る と いっしゅん のばく は つ が
『っ……っ……!』
――誰かが泣いている。
目の前には、“深海”が見える。
しかし、それには
そこで、誰かが泣いている。
見慣れない服。頬が痩け、目の下の隈が色濃い。泣き続けていたのであろうグシャグシャな顔。苦悩に満ちたその涙。
それでも分かる。――“
静寂に耳が痛い“深海”の底で、彼が泣いていた。
――縺ェ縺九↑縺?〒縺ェ縺九↑縺?〒――
『………あぁ』
ふと、彼が宙を見上げる。
何も無かったはずの海が、やがて姿を形作る。
『……――
そう呼んだ。
彼は確かに、そのナニカの名を。
ソレは先ほどよりも明らかに小さな、幼生と言えるほどの身体で彼に擦り寄る。それでもなおも人より大きなソレを、彼は優しげに抱きしめた。
――縺ゅs縺励s縲?縺薙o縺上↑縺――
『ああ、ごめん。大の男が泣いてるなんてキモいよね。今日で終わっ……。……
優しい――しかし、何処か名残惜しげな声色。
囁くような言葉は、涙していた時よりも穏やかだった。
――縺ゅs縺励s縲?繧ゅ≧縺ェ縺九○縺ェ縺――
それは、すぐに変わる。
『――待って』
抱きつかれていたソレは、身体中から触手を伸ばし――彼を抱きかかえる。
その瞬間、彼の身体から“何か”が溢れ出してきた。赤黒く、粘着質なモノが収まる事を知らずに。
『待って。待ってよ。ちがうっ、違うんだ!やめるんだマリス!!』
慌てたように彼が身を動かすが、強く抱きしめたソレにびくともしない。ただ、虚しく言葉がだけが響いている。
『ぼくはそんな事望んでない!そうじゃない!これは、これはぼくに必要なモノなんだ――
グググッッ。
“何か”が身体から引っ掛けるように止まる。
――しかしソレは止めずに、やがて彼の身体が海老反りに仰け反り………
――縺薙l縺ァ縺九↑縺励¥縺ェ縺――
聞くに耐えない音と共に、“何か”が引き抜かれた。
赤黒い……血のように見えるものを撒き散らしながら。
『……マ、リス……』
力が抜け、抱きかかえられていた触手から解放された彼は――地に倒れ伏す。
しかし、身体から溢れる赤黒いものをそのままに、それでも手を伸ばした。
『だめ……そ れは ぼく の』
それを最後に彼は力尽き。
まるで
赤黒い……血の跡だけを残して。
――………縺ィ繧ゅ□縺。縲?縺ゥ縺――
身体が少し大きくなったように見える“ソレ”だけを遺して。
――縺ゅ¥縺セ縲?縺翫@縺医※縺上l縺――
ふと、意識が戻ってきた。
“無頼漢”の目の前には、月の如き“核”が目一杯広がっていて、こちらを覗き込んでいる。
マリス……いや――
――縺ィ繧ゅ□縺。縲?縺翫%縺」縺ヲ繧九??縺?縺九i縲?縺阪※縲?縺上l縺ェ縺――
耳障りの水音が聞こえる……アレの“声”が。
近くにいると分かる。その身体の至る所に、
そんな存在が、何かを言い募っているように感じる。
それが――堪らなく、不愉快だった。
――縺?縺九i縲?縺九∴縺輔↑縺阪c――
煩い。
――縺昴≧縺吶l縺ー縲?縺ィ繧ゅ□縺。縲?縺ゅ∴繧九??縺ゅ¥縺セ縲?縺翫@縺医◆――
「「「――黙れッ!!」」」
内から湧き上がる感情に視界が真っ赤に染まる感覚を覚えた。
(コイツ……コイツは――アイツから“
それに味を占めて、その欠片も奪い続けていた。
彼の生きた証を。彼と共に生きた誰かの証を――自分たちの記憶を。
――
「……弓手さん!合わせて!」
「……ッッ!」
無頼漢の横から、二人が躍り出る。
その“意図”を汲み取って――無頼漢も前を出た。
そうだ。
勝ち目は無い。
自分たちはこのまま蹂躙されるだろう。
だが――
「
それに尽きる。
三人の思考はそれだけに埋め尽くされていた。
疾走する鉄の目は、懐から“あるもの”を取り出した。
リムベルド。その追いかけっこの中で掻っ払ってきたものの一つ――“脂”と、呼ばれているものだ。
古く“黄金の地”では、木より採取したこれに各種素材を練り込み、それを武器に塗り込む事で――
……しかし、これらはある種“持たざる者”の苦肉の策の一面があり、効果も限定的。
夜渡りたちもあまり使わない。
しかし――弓手たる、“鉄の目”は。
これを矢に塗り込む事で、遠距離から敵の弱点属性を突くという事を良くしている。化け物に弓矢で対する上で、有効な策の一つだからだ。
そしてそれは――“
「……ッ!……ッ!」
彼らしからぬ荒々しい手際で、
しかし、それを出来うる限り打ち込む。そうして居なければ、いっそ叫び出したいほどの苛烈な意思を抑えられなかった。
本来なら、“教育”が行き届いた身体が、精神が……落ち着かせるのを反射的に行うだろう。
だが、記憶を辿り――“あの時”に近い精神を取り戻した鉄の目には、それができなかった。
「……“坊や”……!」
そんな鉄の目の様子を俯瞰しながら、“隠者”は呟く。ドロドロとした暗い響きは、それだけで深い熱量を感じさせた。
(坊や……!坊や……!)
あれからいったいどれほどの時が経っているのだろう――いったいどれほどの彼の欠片が“アレ”に貪り食われたというのだろう。
考えたくない。考えれば考えるほど、我を忘れるほどの感情が溢れ出てしょうがない。
「……行くわ」
そんな気持ちを抑えつける。
杖を投げ捨てた隠者は集中して――アレの身体に打ち付けられた矢の跡、残された“属性痕”を手繰り寄せた。
――
その三属性が何度も何度も、隠者の手中で練り合わされていく。
“深き森の魔女たち”。
その一人である隠者は、彼と出会うまではそこから一歩抜き出るほどに研究一辺倒の魔女だった。
故に坊やを悲しませ――故に坊やを悲しませた奴への一撃を扱えるのは何という皮肉だろうか。
卓越した魔術の深奥。
敵へ打ち込まれた“属性痕”を利用し、その属性を練り合わせ――より強力な一撃として昇華する。
それこそが夜渡りたる隠者の
繰り出されるのは。
そのレパートリーの中で、もっと難しくもっと重い一撃。
火・雷・聖――合わさった、名は“白雷”。
純白の雷、その巨槍が彼女の手に収まった。
「――はぁ!!」
狙いなどない――何処に撃っても当たる。
撃ち上げられた巨槍は、まさしく雷の如き早さでアレを肉薄し、その腹に深々と突き刺さる。
隠者は手中の残滓は宙にバラ撒く。
それはやがて火花を散らしながら集まり溜まり溜まり溜まり……!
――雷霆となって巨槍へと降り注ぐ。
宙すらズタズタに切り裂く轟音と衝撃。
その一撃に、アレは
揺蕩う身体はその制御を失い、徐々に手へと墜落していった。
「おおっ……!なんだ雷が苦手かぁ!?奇遇だなぁ俺もだ――虫酸が走るぜこんちくしょうがぁ!!」
駆ける、駆ける。
白雷の一撃により、堕ちる奴に向けて。
地を踏みしめる度に残骸が舞い、その錆びついた成れの果てを横目にしながら。
ただ、駆ける――
(どういう意図があるかぁ知らねぇが……!!)
無頼漢は足を止め、思い切り踏ん張り――自らの拳を強く握り締める。“加護”によって高められたその剛力が、腕の肉を裂いたとしても……決して力を緩めない。
(アイツを苦しめた、アイツを泣かせた……!それだけでぶん殴るにゃあ十分だ……!!)
たとえそれがかつての己の八つ当たりが含まれていたとしても。
地平線の彼方に広がる、残骸たちの想いを自称して――
「うおぉおおおおりゃぁああああああ!!!!!」
墜落してくるその“核”を。
奴の顔を――渾身のアッパーカットで、
宙を支配したナニカは、その身体の豆粒ほどの人間の一撃によって――
“深海”全てを揺らすその衝撃に――たまらず、無頼漢は吹き飛ばされる。
「うおぉっ、とぉああ!!」
間の抜けたコロコロ転がっていき、残骸たちと共に舞った砂煙の中。
やがて止まった先には――呆れた表情を浮かべる“鉄の目”が立っていた。
「……馬鹿力め」
「へへっ、やるもんだろ?“海の男”はこうでなくちゃあな」
「お前みたいな海の男がいてたまるか」
そう吐き捨ててくるが、その声色は愉快げに笑っていた。
その時――ケホケホッと可愛らしい咳と共に隠者が砂煙の中から出てくる。
「んもう、やりすぎよ海賊さん」
「そうかぁ?ねえさんも相当だろ?」
「ふふっ、まあね。
「……そういう意味で言えば、俺は欲求不満だが」
「なあに、問題ねぇ――“
――繧ゅ≧縺?>――
――“
砂煙が晴れた先には、宙へとまた浮かび上がったソレが悠然と揺蕩っていた。
白雷の一撃も渾身の一撃も。
その跡は――
――縺ィ繧ゅ□縺。縲?縺倥c縺ェ縺阪c――
――縺ゅ>縺溘>縺ゅ>縺溘>縺ゅ>縺溘>縺ゅ>縺溘>縺ゅ>縺溘>縺ゅ>縺溘>縺ゅ>縺溘>――
ソレは水音を響かせる。
何度も何度も何度も何度も――何処かへ、誰かへと伝わるように、伝えるように。
身を震わせ、“核”を揺り動かしている。
それは、ヒトのような――どこか、
――繧医m縺薙s縺ァ縺上l繧九→縺翫b縺」縺溘??縺サ繧√※縺上l繧九→縺翫b縺」縺溘?縺ォ――
――縺イ縺ィ繧翫%繧上>縺?d縺?縲?縺ィ繧ゅ□縺。縲?縺ィ繧ゅ□縺。縲?縺ィ繧ゅ□縺。縺ィ繧ゅ□縺。――
無数の水泡が宙へと浮かび、揺れは大波となって全体を這う。
身体からは溢れんばかりクラゲがにじみ出て、地には気色悪いほどの触手がのたうち回る。
“深海”全てが蠢き、ただ荒れ狂っている。
――まさしく大嵐。何もかも呑み込む“台風”のように。
その惨状に――
「
“無頼漢”は不敵に笑った。
大斧を携え、力強く地を踏み――その目に恐怖は欠片もない。
「嵐にゃあ嫌な記憶しかねぇ。一度思いっきりぶん殴ってやりたかったんだ。へっ……夢が叶ったぜ」
その横で“鉄の目”はただ静かに場を俯瞰する。
何も見逃さないように己の頭の隅々にまでこの光景が記憶されるように――“次”こそは、あの存在の全てを殺し尽くせるようにと。
名に相応しいその眼差しは、ほんの瞬きすらもなく……睨みつける。
「……ほんとならあの子に勝利をあげたかったけれど……まあいいわ。
隠者はとんがり帽子を軽く撫でる。
記憶を見れた、振り返れた――その事だけはアレに感謝している。
そのおかげで自分は覚悟がより深くなった。
今度こそ、今度こそは、と。
そうして“深海”は――台風は、三人を呑み込んだ。死するその瞬間まで。
だが、その魂はまた“円卓”へと導かれよう。
何故なら、彼らは“夜渡り”。
その胸に使命を抱く限り――心折れぬ限り。
“加護”は、彼らを祝福し続ける。
――縺翫?縺後>縲?縺九∴縺吶??縺九∴縺吶°繧峨??縺ゅd縺セ繧九°繧――
――縺ィ繧ゅ□縺。縺ゅ>縺溘>――
ただ、水音だけが。
木霊する。
………
……
…
「申し訳ございやせんっ!もぉしわけぇございやせぇんんん!」
「いや、そんな謝んなくていいから!土下座とかしなくていいからぁ!」
“円卓”に、ぼくの情けない声が響き渡る。
目の前には砂に汚れるのも厭わずに土下座するマイフレンド行商人。その後ろには呆れ顔の皆だ。
そう、あれは少し前。
行商人の為に夜を渡る事を誓った()ぼくに、彼が商品を紹介するって言ったのが始まりだ。
行商人らしく様々な商品を持っていたらしく色々と見せてくれたんだけど……正直、“転生者”的にはそんな珍しかったり欲しいものは無かったんだよね。
この時代に珍しくても、こっちから見ればそうでもなかったり――単純に食指が動かなかったり。
“ぼく”が居る事を知らなかったんだから、ぼくが欲しいものなんてピンポイントにある訳もなく。
行商人の表情は徐々に曇っていき……で、
「救世主様がご満足頂けねぇなんて――末代までの恥でさぁ!かくなる上は……!!」
――スルリ、と彼の懐から豪奢な短剣が抜き取られる。
確かゲーム本編でもある黄銅の短刀だなぁ……なんて思っていたら――首に添えられた。
「あっしの素っ首を切りつけやす!――噴く血潮をお楽しみくだせぇ!!」
「ぼくは権力にすら飽きた暴君か!?やめなさいって!君が末代になっちゃうから!」
「本望でさぁ!」
「無敵か君!?」
ぼくは助けを求めるように皆の方を向くが、愉快そうにするだけで止める気配はない。
なんてひどい皆だ!あっ……でも執行者はサラッと近くにいる。視線を向ければ、最悪は止めるという意思は伝わってくる――つまりは今は助けてくれない!この人もひどい!
鬼!悪魔!坩堝の騎士!
(ええっとなにか……なにかぁ……!)
……!
“ジャーナル”!この行商人も出てたから何かヒント……――そうだ!
「――“
ぼくの起死回生の言葉に――行商人はピタリと動きを止め……なぜだか目を少し泳がせた後。
「……ございますが」
と、ポツリと呟いた。短刀も仕舞ってくれた。
……ふぅー!そう!そうなのだ!
確か行商人は、“ジャーナル”で――“円卓”にやってきた時に、あんまり要らない物を売ってくれた後に、“
……正直そんなにいらないけども。
行商人はしばらく考え込んだ後に――舟から持ってきたのは“お守り”……という風に見えなくもない、ボロの小さな巾着だった。
「偶然手に入れた古書に書かれていた“幸運のお守り”でさぁ。皆様の為にお作りしようとしたんですが……――ああ、恥ずかしい!すいやせん、他の」
「――いや、
「はっ……?」
ぼくは行商人の謙遜を遮る。
確かにこれはどうしようもないボロなのは見て取れた。けれど、ぼくのチートアイは誤魔化せない。
これは――
その思いは、変わらない。
「でっ、ですがこりゃあ……!」
「ふーん、救世主サマがほしーって言ったのにくれないんだ。わーげんめつーリブラのファンやめます」
「いや、その……!」
ぼくの言葉に行商人は少し迷うと、恐る恐ると言った風に――ぼくの差し出す手に乗せた。
「……じゃあ、その……こちらを」
「うん、ありがとう。大切にするね」
「そんな!……あっ、いえ――ご、ご随意に」
「うむ。ご随意にします」
手渡してきた行商人には恥ずかしそうな、けれど嬉しそうな照れ笑いを浮かべる。……男の照れ笑いも、マイフレンドだと思えば可愛いもんである。
――
「おっ?」
「帰ってきたみたいね」
ぼくの反応に、番組のガヤみたいになっていたひどいレディさんがそう返してくると、カチリと懐中時計を開く。
「三日間。やりきったようだけど……“夜の王”はだめだったみたい」
「……早くない?」
「時間が歪んでいるの。そういう時もあるわ。逆もしかり」
「ふーん」
「――ああ!皆様帰られたのですねっ!」
行商人が我が意を得たりとばかりに声を張り上げる。
……まあ、ぼくにも分かる。恥ずかしいんだろう。
「あっしの事は気にせず、お見送りしてくだせぇ!こっちは帰り支度を済ませ次第ご挨拶いたしますんで!」
そう言って、返事もまたずに舟に引っ込む行商人にぼくたちは顔を見合わせ――苦笑した。
ともかく、言われた通り。三人を迎えに行こう。
そう言って“円卓”に歩き出す中で、ぼそりと追跡者が呟いた。
「……それにしても“お守り”なんてよく気づいたな」
「――超有能チート転生者のカンです」
「………」
「カン」
「……そうか」
よし、誤魔化せたな!
……うーん。
それにしても“お守り”ってまだ――なんかあった気がするなぁ。ただのボロでほんわかって感じじゃなかった気がする。体感優しいけどフロムのゲームだしナイトレイン。
なんだっけかなぁ……。
“円卓”中央室、その大祝福の近くにはもう三人が立っていた。
見る限り……に悔しそうだが――元気そうでもあった。
「おかえりー、どうだった?今回の“夜の王”は」
「おう!……まあ、終始手も足も出なかったな。遊ばれてる気分だったぜ」
「ほーん?」
そうなのか。
たぶん戦った“夜の王”は、“兆し”と“霞”と“狩人”。そのどれかだろう。
……確かに強敵だし、対策持っていかないとキツイけど――手も足も出ないなんて事ないと思うんだけどなぁ。
「どんな奴?」
ぼくの問いに――どういう訳か、三人は目配せしあった。そしてぼくを見る。
なっ、なんだよぉ……。
「――言い表せない化け物だったぜ。黄色い“核”とクラゲみてぇなデケェ身体をした。“深海”の主……そんな感じのな」
無頼漢の言葉に皆々が想像する中――ぼくは非常に、ひっじょーに
「あの……その……?えくすきゅーずみー?」
「あん?」
「その黄色い核ってぇ……
「……?おん」
「―――」
えっ、ええ……?“兆し”……マリスってだけでも嫌なのに……?
「……最初から、常夜
「「「……!」」」
無理だ。
“アレ”無しで常夜マリスとか考えたくないんですけど。ヨーム相手にはいよゆーかましてた玄人じゃないんですよぼくたちは!?その玄人でも絶対やる気起きないほどクソギミックボスなんだぞ常夜マリスは!?
うぇ……うぇえええ!
そんな内なる叫びを上げていると――ふと、強烈な視線を感じた。
その方向を向くと、そこには“隠者”がいる。
魔女帽に少し隠れたその表情はむにむやとした……なんだろう、堪えきれないような。
そんな表じょっ――
「――“坊や”!」
「むぐっ――!?」
辛抱たまらん。
そんな声と共に――一瞬で目の前が真っ暗になる。前が見えねぇ!
息苦しくなって、何処か安心するハーブの爽やかな甘い匂いと柔らかさに顔中が埋め尽くされた。
まっ、まっ、まさか抱きしめられてる!?なっ、なんで……つか“坊や”ってなに!?そんなグノスターみたいな――
―― は? は? は? ――
まっ、前が見えねぇ!
“内”もグノスターのドアップで何も見えない!どういう事!何がどうなってるの!?
「あー……」
「……どういう事なの?無頼漢」
「レディ。まあ、詳しい事は言えねぇが気を悪くしないでやってくれ。俺ぁ何も言えねぇ」
「………。……まあ、あの人が悪いんでしょう?」
「んだな」
「はぁぁぁぁぁ……」
レディのクソデカため息が聞こえてくる。
なにぼく!?ぼくが悪いんですか!?ていうか力強いなこの魔女さん……!?筋力ステ変とか無かっただろ……!!
―― ぼうや ぼうや ――
今度はなに!?
“内”のグノスターが囁く。
蟲だから表情は無いんだろうが……満面の笑顔に見えた――極寒を纏った、という言葉が繋がるけど。
―― ひとりくらい
良くないが!?
―― ちょっとだけ バリボリするだけ ――
食べる気じゃん!しかも致命傷の音だよそれ!あと絶対やめられないとまらないとか言って全部食うでしょ!ニンゲンダメゼッタイ!!
―― ……ッ!人間!人間!坊やに依存し切った下等種風情が!坊やの母親気取り!? ――
―― 坊やのッ!ママはッ!私ッ!もう怒った!こいつら全員殺……ッ離せ!離せフォルティス!お前どっちの味方だ!? ――
いっ、いいぞ!そのままおさえてるんだフォルティスくん!後でぼくもなだめるのに参加するから!……なんか“ぼくたち”の関係がなんとなく分かった気がする!苦労かけるねほんとに!
“内”はフォルティスに任せ、ぼくは外の柔らかさに対処する。
だがそれに反して完全ロックされて抜け出せない。何とか身じろぎして周りを見るが――
訳知り顔の無頼漢と鉄の目。呆れて顔を覆っているレディ。
たぶんお前が悪いんだろう、と素知らぬ顔をしている追跡者と執行者。
ぼくと隠者を交互に見て――つまりは……お義母さま……?とか頓珍漢な事呟いてる復讐者!
ダメだろくな人がいない!
こっ……こうなったら――!
「………?」
何故か、
生真面目な守護者なら……なんとか……なんとか……うん?……。
……“
「……?坊や?」
抵抗が無くなって気になったんだろう隠者の問いかけに、ぼくは答えられず。
グルグルと――ゲームの時の記憶が頭を駆け巡る。
そう。そう。
行商人は――“守護者”のジャーナルの登場人物だ。
彼に挨拶して、あんまり要らない物品を販売していて……お近づきの印として“お守り”をくれる。
なんなんだろう?って思いながら、その場を後にしようとすると――目の前が真っ暗になった守護者が、
「………――あっ、やべっ」
急に身体に力が入らなくなる。
隠者にもたれ掛かるような形になったぼくの視界、その手には――
「どうかした!?」
「ぼっ、坊やが急に……――ねぇ、
「……ッッ!まさかアイツ!」
「……落ち着け。あの商人がそんな事する訳がない」
「行商人が来てたのか。おい、そいつを頼む。……まだ帰ってねぇだろ、連れてくるぞ」
騒ぐ周囲の声。段々とくぐもって聞こえてくる中で、ぼくは抱きしめが緩んだ 隠者を押し退け て ――どこかに行こ うとし ている守護者 の手を掴む。
――振り向かれた目は 焦点が合って いて
「だめだからね……!」
「……!」
「絶対にだめ、だから……!
それを最後にぼくは意識を手放した。
そうして、“内”に“内”に……意識が落ちていく。
大騒ぎしているグノスターたちを通り過ぎ――その奥深く、何も見えない紫色に満ちた暗闇の奥まで。
いや、見えるものがある。
あれは。
――“祝福”の導き……?