“転生者”   作:ダフネキチ

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“転生者” PART()

――― ――― ―――
ぼくは誓う
全ての国民 そして全ての人々へ
これより敷くは――人の法
“律”にはほど遠い 苦難の茨道
けれど もう誰にも屈する事はない

自らの目を開き 自らの手を伸ばし 自らの足で進み行こう

高き方々に心からの敬意と感謝を込めて
どうか拙い巣立ちを祝福してほしい
――― ――― ―――



「……うーん、今見るとちょいダサやも……」

安置されている宣言書を暫く眺めた後――“()()”はそこに向かった。

夜半を照らす黄金の光。
国中を囲む、中空に掲げられた“黄金樹”の戦旗の下へと。


【追憶を開始します】




追憶‐3

 

 

 

―― ぼうや ぼうや おきて おきて ――

 

優しげな声に揺り動かされる。

それに誘われるように、ゆっくりと起き上がる意識の中。

倒れていたらしいぼくの視界に入ったのは、深い藍色の“夜”と――それを隠すようなドアップのグノスター。

 

「……いや、近い。近いて」

 

―― ぼうや だいじょうぶ? ――

 

「メイビーね。だからほらどけぃ」

 

押し退けながら起き上が――何故抵抗する!?

ヒラヒラと羽を羽ばたかせながらグイグイしてくるグノスターに、こっちもグイグイしていると……のそり、とフォルティスが顔を覗かせた。

じんわりと響く“声”は心配と不安が滲んでいる。

 

「ああ、大丈夫だよ大丈夫。しんぱ――」

 

そこで気づく。

 

「……何で二人とも等身大?」

 

目の前の二匹は、かつて対した時の姿そのまま。ぼくが“アーツ”で召喚する際の夜の靄ではない。

というか――

 

「……ここ、どこ……?」

 

辺りに広がっているのは、“()()()()()()()()()()()()()()だった。ぼくはその大通りらしき所で倒れていたらしい。

キョロキョロと周りを見渡し、ふと――見上げる位置にある、城が目に入る。

“夜”で作られた曖昧な姿を以てなお、豪奢に見える巨城。

思わず、()()()()()()()()()()が溢れる。

 

「趣味悪っい城……」

 

―― ここはむかしのばしょ ぼうやのおくふかく ――

 

グイグイグノスターが言う。

 

「ぼくの奥深く?」

 

―― ぼうや とつぜん おちてきた ――

―― おちておちて がんばっておいかけた ――

 

「……?ああ、そうだ――“お守り”」

 

そうだった。

ぼくはマイフレンドのお守りで意識を失って……。

 

……?つまりはぁ……そのせいで、ぼくの意識だか魂だかの奥の方に入り込んでしまったという事なのかな?

 

……“ジャーナル”じゃあそんな描写無かった。

行商人が贈ってくれたアレは、幸運のお守りだったはずが――何をミスったのか、持ってると具合が悪くなるものになってしまった……みたいな感じだったと思うんだけど。

 

……“ぼく”がアレなせいか変なとこに効いちゃったとか?

 

「ふぅむ?」

 

()()はぼくが忘れてしまった“ぼく”の過去。

どういう訳かそれを“()()()()()()()()()

 

気にな――あっ、力加減ミスっ……たわばっ!?

 

考え込んでいたその隙に、グノスターはぼくの顔に飛び込んでくる。勢いとは打って変わってふんわりもちもちとしたお腹の感触が伝わってきた。頭の後ろからギシギシと足が絡みつく。

 

「ふもふもも……」

 

なんだよもう。

さっきの隠者の時の癇癪の続きぃ……?

 

―― ぼうや かえろう もどろう ――

 

「ふも?ふもも、ふもも」

 

―― ()()()()()()()()()()()()() ――

 

ふと、グノスターの声色が下がる。

低く、重く、暗く――憎悪の込もった、冷たい色。

 

―― こんな所にいたら坊やが穢れる 早く帰って あの商人を血祭りに上げよう ――

 

「ふももも――ぷはっ。いや、血祭り勘弁したげて。悪気はないんだから」

 

顔を上げてもちもちから解放されると――グノスターと目が合う。

その蒼の複眼は、ひどく悲しそうだった。

……ぼくはフォルティスに向けて、手を振る。

意図を汲み取ったらしい大蠍は、のそのそと近づいて、その頭で優しくグノスターを突付いた。

 

―― なんだコラ ――

 

喧嘩腰過ぎる……。フォルティスくんが可哀想でしょ。

けれど、その一瞬でぼくはグノスターのふももち攻撃から抜け出した。

グノスターはまたすぐに向かってこようとするのを手で制す。

 

「心配してくれるのはわかるよ、グノスター。フォルティスもね」

 

―― うん だから もどる ――

 

「でもまあ……()()()()()()()()()()()()()()()()

 

―― ……? ――

 

ぼくの言葉に首を傾げる二匹には、見えないのだろう。

視界に浮かぶ、黄金の光。その軌跡、()()が。

 

本編エルデンリング世界にあったもの。

黄金樹の祝福を受けた者だけが見える――簡単に言えば、使()()()()()()

 

それが示すんだ。

遠い向こう、威圧するように光り輝く――この地を囲む、“黄金樹”の戦旗へと。

 

どういう理屈か、どういう訳か。

何もかもに、疑問は尽きないけれど。

 

―― ……… わかった ならいっしょ ――

 

「ごめんね」

 

―― いい ぼうやはわがまま かわいいこ ――

 

ぼくの何処かを辿るような視線に折れたのか。

グノスターはヒラヒラとぼくの横に羽ばたき、足を大きく開く。フォルティスもぐいっと頭を下げた。

……。……?

その意図がわからず、場が少し静まった。

 

―― ………? いくんでしょう? ――

 

……あっ、まさか抱っこするって言ってる?フォルティスも背中乗れって意味?

えっ……。じゃあ……フォルティスくんに乗る。

 

―― ……… ――

 

フォルティスの頭に跨ると、視線が一気に高くなった。

ちょっと怖いが非常に安定した乗り心地。……もしかしたら、ずっと昔から“ぼく”を乗せていたからなのかもしれない。

ぼくはなんだかちょっとセンチな気分に浸りながら、導きが指し示す方向を指差した。

 

ノシノシとフォルティスは進む。……その横でガン見してくるグノスターさんを伴って。

 

―― お前後で覚えとけよ ――

 

ああっ!怯えないで!揺れっ……落ちる!落ちるから!

グノスターもガン垂れないでこんなことで!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

木組みの家。のっぺりとしたコンクリート調の豆腐ハウス。トタン屋根のプレハブ風の材質不明家。

 

八百屋。肉屋。吊られたスーツっぽい服の列。中華セイロに入っている蒸し成型肉(スパム)。“ぼく”らしき顔を模した饅頭。

 

通り過ぎる景色はびっくりするほど乱雑でちくはぐで――ああ、間違いなく“ぼく”の過去だわ、と如実に伝えてくる。

財産権とかどーなってんねん。転生者による内政テンプレセットか?

 

………。

“此処”が、リブラの言っていた――“人の王”って時の過去なのかな。

 

ぼくはそんな町並みを眺めながら――ノシノシと進むフォルティスに顔を寄せて、ひそひそと声を掛ける。

 

「……ねぇねぇ。グノスター、機嫌悪い……?」

 

ぼくたちの目の前。ヒラヒラと先に向かうグノスターの背は不機嫌そのものだった。そのムカつきを発散するように、目についたものに体当たりをかましている。……“夜”が象っているだけだから靄になって消えるだけだけど。

 

そっ、そんなに抱っこしたかったの……?

 

フォルティスはじんわりと伝えてくる。

それもあるが、そうじゃないと。

そこで申し訳無さそうにしながらもはっきりと“声”に出した。

――()()()()()()()()()()()()()()と。

 

「へっ……?」

 

フォルティスをしては冷たい“声”に目を瞬かせる。

なっ、なんかフォルティスくんは勝手に優しい印象を持ってたせいかスゴイドキッとしたんだけど。

 

フォルティスから伝わってくる“声”が乱れてくる。

怒り。悲しみ。嘆き――憎悪。負の感情だけが渦巻いて、何を言っているのかがわからない。

ぼくが困惑しているのに気づいたのか、少しその“声”が消える。

そして静かに、此処のせいで自分達は離ればなれになってしまったと悲しげに言う。

でも、また会えて良かったと、そうとも言った。

 

「………そっか」

 

グノスターとフォルティス。“知性の蟲”。

ゲームではただのボスキャラ。生存の為、進化への道を歩んでいた“夜の王”。対する敵。

 

けれど、目の前の二人は“ぼく”を家族として接してくれて……過去、何があったにしろ。それに怒ってくれている。愛してくれている。別れてもなお、“夜”に呑まれてもなお。

きっと本当に、“ぼくたち”は家族だったんだろう。蟲がどうこうなんて関係なく。

 

「………」

 

“夜渡り”の皆もそうだ。

“ぼく”のせいできっと色んな事に巻き込まれて傷ついただろう。けれど、それでも会えて良かったと言ってくれる。快く接してくれている。

 

 

――()()()()()()()

 

 

“ぼく”の過去。どういう風に流れて、“転生者”として夜渡りとなったのか。

純粋な興味はそうだ。だけど、義務感のような。そんな気持ちが湧いて出た。

 

 

()()()、ここからは。

 

 

「二人ともストップ」

 

ぼくの言葉にフォルティスは止まり、イライラグノスターは一転明るい雰囲気で足を広げた。いや、抱っこされたい訳じゃなくて。

 

「ここからは一人で行くよ」

 

―― ……? なんで なんで ――

 

「なんでも。フォルティスもありがとう。降りるよー」

 

フォルティスから飛び降りるが、不満の“声”が聞こえてくる。

けれど。

そう――()()が。此処の“夜”の中から、誰かの声が聞こえてくるんだ。

 

――()()()()()()()()()()()()()()、と。

 

……よくわかんないけど。それには同意。

“黄金樹”の戦旗に近づけば近づくほど――嫌な予感がすっっっごいんだよね。

 

「二人は戻ってて。ぼくもすぐに戻るよ」

 

―― いや わたしもいっしょでなきゃ ――

 

()()――嫌いになっちゃうぞ」

 

―― 分かった待ってる私は言う事聞ける良いママだものだから嫌いにならないで ――

 

言うや否や、グノスターの身体は宙に解け、そのまま上の方へ消えていく。

えっ、はやっ。ちょっと茶化したくらいの気持ちだったんだけど……どっ、どんだけぼくに嫌われたくないの。ちょっと最低な自尊心湧くぞ。

……この手は二度と使わないでおこう。ぼくがぼくである為に。

 

フォルティスに目を向けると、呆れたような“声”に続き、心配が念押しのように聞こえてくる。

それに答えるように――()()が大丈夫だと言ったような気がした。

 

「大丈夫。グノスターと待ってて」

 

その言葉にフォルティスは頷くとグノスターが向かった上へと消えていく。

ぼくはそれを見送った後――周りを見た。

 

「誰かは知らないけど……こっから先って良い話?」

 

()()()

 

「うへぇ……」

 

ぼくは近くに映るようになった、“黄金樹”の戦旗を見上げる。

そうして意を決して一歩踏み出すと――()()()()()()()()()()

 

(うおっ?)

 

ふと気がつけば、ぼくが着ている服が見慣れない衣装に変わっており、視界も“夜”の靄が消えて、そのままの町並みが映し出される。セピア色のようなボヤケた視界は、何処か一歩下がったような不思議な感覚だった。

呼吸もぼくではなく、“ぼく”に合わせたような少し乱れたものが聞こえてくる。

 

(もしかして、過去の追体験ーってやつか……?)

 

“ぼく”は戦旗を見上げ、ただ真っすぐそこに歩いている。その足は淀み無い。どうやら“ぼく”もそこに用があるみたいだった。

 

ずんずんとそのまま町外れまで出て、戦旗に近づいていく。

 

丁度良い。“過去”も知れ――

 

 

おっ……おっ………お待ちくだひゃ!……――こほん。お待ちください!!

 

 

ん?

急に後ろから声が掛かる。

“ぼく”が振り向くと、そこには美人さんが立っていた。

過去であっても古めかしい……そう、()()()()()()()()()()()()()()の女の人。

そんな人が顔を真っ赤にして“ぼく”を呼び止めたようだ。

……息も絶え絶えだし、身体が震えているし、目をあっちらこっちら蠢いている。なんか、美人さんっていうには変質者くさいなこの人。

 

『……君は』

 

“ぼく”の声が聞こえる。見た事があるような、ないような。

そんな感じの曖昧な声だった。

 

 

『いっ、行ってはなりません!……これひゃ、罠ですっ!』

 

 

えっ、()

ぼくの疑問に答える訳でもなく――“ぼく”は肩を竦めた。

 

『■■■■■■の奴は遠征中ー。ぼくの玩具箱は故障中ー。諸侯たちとも音信不通ー。……まあ、だろね。“黄金樹”って狡いねぇ。ルーのじいさまから聞いてたのとは大違い』

 

……?()()()()()()()()()()()()

名前かな?そこだけまるで切り取られたように無音だったんだけどなんて………って。

 

ん?今、“ルーのじいさま”って言った?()()

 

()()()()()()だってカッコよかったのに。代替わりすると色々様変わりかぁ、やっぱ王政ってムズイネ』

 

えっ、えっ!

まさか――ホーラ・()()!?ゴッドフレイ王!?“黄金の地”最初の王です!?あの武器捨てた方が最強じいさまですか!?

えっ、握手した?サインは!?生で“力こそは王の故”聞いたの!?こんな砕けた呼び名ならごはん一緒にとかしたんだよね!?

いいなぁ!いいなぁ!ぼくも見るならそっちが良かった。今から見れない?……()()

ケチッ!

 

『まっ、上手いやり口か。そのせいで、ぼくは一人で連中の所までレッツゴーだ。()()()()()()で何とかなるならそれでいいけどさー』

 

ふむふむ。

此処を囲む“黄金樹”の戦旗と、一人でそこに行く王様の“ぼく”。そして八方塞がりな感じで、罠。

 

……つまり、黄金樹に歯向かったせいで国を包囲されて、『お前が降伏すれば国民は助けてやる』とかそんなん?

いや、アホやろぼく。あっちは黄金樹が健在な限り、不死身な連中ゴロゴロだぞ。そりゃそうなるわ。

 

 

『――なりませんっ!』

 

 

落ち着いた様子の“ぼく”とちょっと冷めてきたぼくに――鋭い声が突き刺さる。

美人さんはワナワナと、けれどしかと“ぼく”の目を見つめた。……あっ、すぐに反らした。

 

『あっ……貴方はこのような所で死して良い方ではっ、あ、ありません!』

『……いや、そう言ってくれるのはありがたいけど。何の手も――』

『――民をお使いくださいませっ!』

 

ん?

 

『貴方の威光に縋り、その御力を使い続けた民がここで命を費やさねばいつ使うというです!民が死力を尽くせば、多少の道は開けます。そこで“王の腕”と合流し、再起を図るのです!』

 

……えー?

つまりは、民を死兵にして“ぼく”だけ逃げ延びて、遠征中の何とかと亡命しろとかそんな話?

んー、()()()()()。趣味じゃない。王族が命からがら生き延びてぇ、みたいな話はそりゃあるけどさぁ。

 

――そんな風にして民見捨てるとか王様失格だろ。

 

ことわれー、ことわれー“ぼく”。

指導者が贅沢出来るのはこういう時に命張れるからだぞー。結構国で無茶苦茶したんだから年貢の収め時やぞー。

 

 

『もし、それでもご不安があれば……わっ、わわわ、わたくしが?このわたくしが?御身の力となって―――』

 

 

――“ぼく”は踵を返した。

何とかかんとか言い募る女の人を無視して。

いや、断われとは言ったけど……むっ、無視はやりすぎじゃない……?

 

『えっ……おっ、お待ちください!我が陛下!なっ、なにかお気に障る事を言ってしまっ、しまいましたか……!?』

『………』

『どっ、どうか!どうかお止めを!こんな所で終わりだなんてあんまりです!あんな民たちに守る価値が何処に――!』

『――()()

 

言葉を遮るように、“ぼく”が振り返った。

視界に入った女の人は笑顔を浮かべた――瞬間、真っ赤な顔が一気に青ざめていく。

震えた身体を抑えきれなくなったのか、ぺたんっと座り込んでしまった。

 

その大きく開かれた瞳には――ぼくをして、怖い顔が映っている。

 

 

 

『話になんない』

 

 

 

“ぼく”はそれだけ言うと、今度こそ歩き始めた。

自分でも分かる。ぼく史上もっともブチギレな気がする。

ぼくって、嫌いな奴はけちょんけちょんするか、中指立てなきゃ気がすまないタチだから。()()()()()()()()()()はちょっと考えられなかった。

 

『……めない……』

 

結構しっかり王様してたんだなぁ、なんて“ぼく”に気分良くしていたら――後ろ、女の人の方から小さな呟きが聞こえてくる。

“ぼく”は聞こえていないか、無視しているのかスタスタとその足を止めない。

 

『……()()()()()()()()()……!!』

 

ひぇ……。

 

『……偉大なる治世が、わたくしの陛下が……!指如きの嫉妬で終わっていいはずがない……!!』

 

なっ、なんか凄い不穏な事言ってるよ“ぼく”!

悪役みたいなこと言ってる!今のうちにとっちめないと絶対良からぬこと考えてる!!

とまっ、とまれー!絶対この女の人只者じゃない!服のセンスからして!

 

 

 

ぼくのそんな訴えなんて――当然、“ぼく”に聞こえるはずもなく。

 

 

 

そのまま戦旗の下、黄金に輝く天幕に着く。

周りに警備兵みたいなのは見当たらない。隠れているのか、何だか。

……嫌だなぁ、ぜってぇ嫌なこと起きる気配だぁ……。

 

『さあて。鬼が出るか蛇が出るか……』

 

……?

ゴッドフレイ王が“外”に追放されてるってことは――王配の時代でしょ?忌み鬼(モーゴット)虚ろの蛇(メスメル)も無いんじゃないかな。

あっ、()()()()()()()()()()?そりゃそうか。

 

 

 

“ぼく”が天幕に入ると、そこには――()()姿()()()()()()

 

 

『へっ……?』

 

兵は疎か、使用人すらも居ない。

それどころか――何も無い。椅子とか机とか、そういうものもなんにも。

 

ふぅむ、罠……てぇ、訳でもないのか。

 

 

『………』

 

 

天幕の奥。

そこには――()()、一人だけ居た。

長身の偉丈夫。見たことのない黄金の鎧と、黄金律を象った大剣を携えた――()()()()()

 

いや、もうこの時期なら――“王配”か。

 

名を、()()()()

“黄金の地”を確立させた黄金律、そのものたる女王マリカの二番目の伴侶。

そんな存在が、“ぼく”の目の前にいる。

 

……なんで?

なんでエルデンリング世界でのキーパーソンが、“ぼく”なんかに。

 

『やぁ、来たよ』

 

“ぼく”は気楽な風に声を掛ける。でも、きっとこの場の全員には分かっている――それが虚勢であることくらい。

声には答えず。ただ、無機質な瞳が――“ぼく”を見つめた。

 

『………』

『……ええっと?ラダゴン王で、いいのかな?ぼくが一人で来れば、民は命は安堵する。そうだよね?』

『……――()()()()()()()()()()?』

『えっ、うん』

『………』

『な、なに――』

 

 

――()()()()()()()()

 

 

地が激しく揺れ、その勢いは増していく。

けれど、“ぼく”が弾かれるように見たのは――()、だ。

 

 

――()()()()()()()()

 

 

“ぼく”はラダゴンから背を向け、一目散に天幕から飛び出す。

見上げた戦旗、夜空、星々のその先から。

 

 

――()()()()()()()()()()()

 

 

『……なに、あれ……』

()()()()()()!?はぁ!?本気す――)

 

瞬間。

 

 

――()()()()()()()()()()()()

 

 

趣味の悪い城も、木組みの家ものっぺりとしたコンクリート豆腐ハウスも、無視スパムもぼくの饅頭も何もかも何もかも何もかも。

全てが、“ぼく”が築き上げたその全てが――()()()()()()()()()()

 

『……ぁ……』

『――善性を信じ、それに殉じる』

 

背から、衝撃が伝わってくる。

振り返るまでもない。“ぼく”の胸から光の刀身が飛び出ていた。血を纏って。反射的に剣を握り締める。

焼ける肉の香りが鼻に付いた。

 

『故に“人の王”か……哀れなことだ』

 

抵抗などもなく、スルリと剣が抜かれる。

“ぼく”は、崩れ落ちながらも――赤髪の下の無機質な瞳を見た。そこに仄かな色が覗いているような。

 

 

 

()()()()()()()()。“大いなる意志”に気に入られる前に』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

()()()()()() 

()()()()()()()()()()() ()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……坊や。目が覚めたのね」

 

目を開けると、そこには魔女帽で陰った隠者の優しげな笑みが目に入った。

 

全てを瓦礫に変えた黄金も、ぼくを貫いた剣も、あの無機質な瞳も――()()()()()()

 

ただ、頭に感じる暖かな感触と頬を撫でられる擽ったさだけを感じる。

場所はぼくの“工房”よりも奥。控室という、ベッドが幾つかある場所だろう。ぼくはそこに寝かされていて――

 

「……なんで、膝枕なのん……?」

「私がそうしたいから」

「……坊や、は……?」

「貴方が私の“坊や”だから」

「………」

「………」

「……まあ、いいか。なんでも……」

 

―― よくない! よくない! ――

 

フォルティース。

ママを何と――あっ、シバかれ始めた。弱い。

 

……どうやらぼくの“奥深く”とやらから戻ってこれたらしい。まああれでもう終わりだから当然だろうが。

 

……。

 

「魘されていたわ。大丈夫……?」

「……うん、まあ“悪夢”って感じだった」

「貰ったお守り、覚えてる?あれが原因よ」

「でしょうねぇ……」

「……。未熟なまま作った結果ね、悪気は無かったんでしょうけど」

 

まあ、行商人の()()が演技なら逆に許しちゃうレベルであっぱれだわ。よくできましたスタンプあげちゃう。

……ていうか、()()!行商人は!?ぼくのマイフレンドは!?

まさか守護者が……!

 

と、頭を上げたその時――件の人が、ぼくの横に立っていた。焦点の合った瞳で、“いつも”と言っていい知的で静かな立ち振舞で腕を組んでいた。

ぼくは黙っている“守護者”に声を掛ける。

 

「あの……処したりとかしてないよね……?」

 

“ジャーナル”の場合。

目覚めた守護者が、隠者からお守りのことを聞き――皆にも危害が加えかねなかったことを知り、“群れ”を危険に晒したとして――掟のまま、処する……つまりは()()()()()()()()

静かでどっしりとした印象だった彼の苛烈で融通の効かない一面を見せるシーンではあるが、ちょっとやり過ぎと考えれる場面でもある。

それも“この”行商人はぼくをめっちゃ気持ちよくしてくれるマイフレンドだ。死んだら目覚めが悪すぎる!

 

ぼくの問いに、守護者は静かに頷いた。

 

「私()、何もしていない。言われた通り。……ひざかっくんとやらが何かは知らんが、お前の事だ。絶妙な嫌がらせだろう」

「おっ、流石。わかってるねぇ」

「……いや、()()()()()()()()()()

 

要領の得ない言葉に首を傾げる。

守護者は少し言葉を選ぶように言い淀む。

 

「あの商人を囲む皆の姿――かつての同胞達の姿を見た気がする。頼もしく、誇らしく……そして、()()()()()

「醜い?」

「ああ。商人に悪気はない。それは皆も分かっていた事だ。けれど、“群れ”を傷つけられたというその衝動が抑えきれない。わかっていた。分かっている事だった」

「……?」

 

守護者はぼくを見ている。けれどたぶん、見ているのは違う“ぼく”だ。右腕、両足、そして顔を何故か順繰りに見つめる。

その“意味”が、何となく今のぼくには分かった気がする。……確かに無頼漢に窘められる訳だ。

 

「今の“皆”は問題はないだろう。けれど、かつての“同胞”はお前がいても改める事は無かった。だから、滅びた。きっとそれだけの事だったんだ」

 

そうして――守護者は翼を撫でる。

呪いに侵され、“飛行”という概念そのものを封じられた翼人の誇りを。何年、何十年、何百年経っても消える事のない、高度な呪い――()()()()()()()()()()()()

 

ぼくは、何かを言おうとした隠者の手を握りながら、口を開く。

 

「どうしようか。あの、“ぼく”の代わりにぃ……みたいなのいる?」

「いらん。贖罪など私には贅沢過ぎる。レディにもそう言った」

「……そっか。じゃあ、うん――」

 

ぼくは沈痛な面持ちの守護者に向けて、笑った。

 

「――()()()()()。盾持ちが後ろ向きなんて、攻撃が当たって世話ないよ?」

「……ふっ、ふはは。ああ、そうだな。私こそ、皆より前を向かねば」

 

守護者もぼくの渾身のジョークに笑ってくれる。

……ぼくは基本嫌いな奴はとことん嫌いで嫌がらせをするタイプである。

つまり、散々奉仕してから――後悔してもッもう遅いッ!……みたいな、陰湿転生者ムーヴをやった可能性があるが……まあ、その事は覚えていないのだからどうでもいい事だろう。

 

過去がなんであれ、ぼくたちは一緒に戦うし、お互い好ましく思ってる。だからもうそれでいいんだ。

 

「よし。では、そろそろ皆を止めに入るが……その前に」

「ん?止め……?」

「――これを受け取ってくれ。()()()()()、お前が望まぬまで、私はお前の盾となる」

 

そう言って。彼は、()()()()()()()を差し出すと颯爽と部屋を飛び出して行った。

ほへぇ……すっごいデカい羽。羽ペンとかにつかえそー。

 

「ねぇ……坊や」

 

羽を見つめていると、隠者が声を掛けてくる。

その声色は、少し潜めていた。

 

「なんで……」

「作った本人が悪いなら――いったい何人の偉人を処刑台に送らなきゃいけないと思うのさ。君は悪くないよ」

 

守護者のジャーナルは、彼の騎士としての実直で融通の効かないスタンスと――翼の“呪い”についてのお話。

そうして最後、辿り着くのだ。“呪い”――魔具を作り出した者の正体……深き森に通じる、“()()”に。

 

彼女は罪を認め、かつての同胞を奪い、国を滅ぼしてしまった裁きを守護者に託す。

そして――……といった内容だ。

 

けれど、ぼくはそれが少し不服だったのだ。

“魔女”が翼人への害意を持ってたなら納得だが――あれは元々、嵐を鎮める祭具として作られたのが人間の手に渡ってしまい、“呪い”として悪用されてしまっただけだ。

“魔女”は確かに間接的に関与しているけど、悪いのは悪知恵人間達であり、“魔女”じゃない……というのは――“隠者に”寄り過ぎる考えなのかな。

 

……()()()

 

「守護者は前を向きたがってた、と思う。なら、過去の話なんて野暮じゃん?」

 

そう、それだけだ。それだけのお話で。

“この世界”の守護者のジャーナルはおしまい。……締まらない気もするが、これでいいと思う。

 

「……ありがとう、坊や」

 

そう言うと隠者は静かに抱きしめてくる。

それに万感な想いが込もっているような気がして、何も言わずに受け止めた。

 

「………」

「………」

「……ねぇ、坊や」

「なに?」

「それで――()()()()()()()()()()()()?」

 

ぼくはゆっくりと隠者を見上げる。

隠者はただ、優しげに微笑んでいた。

 

「坊やは、私との記憶を覚えていないはず。仮に覚えていたとして、あの祭具は坊やが来るずっと前に作った物だし、それを話した事もないわ」

 

…………。

 

「つまり、“今”の坊やは私との事は覚えていないけれど――()()()()()()()()()()()()()()()()。不思議ねぇ……円卓?姿無き主?それとも“夜”が教えてくれた?“夜の王”の事もそうね、なんで彼らの名前を知ってるの?」

 

………――やべ。

 

「ねぇ、ぼう――」

「――あああああ!マイフレンドが心配だなぁ!心配過ぎていても経っても居られないなぁ!ぼく好青年だからぁあああ!!ぼくヨルワタリぃぃ!!」

 

ぼくは脱走した。

別に答えられない訳ではない。ただ、友の窮地に居ても経っても居られないだけである。だって、さっき守護者が「()()」って言ってたし、つまりはそれ以外の面々はやってるという事だ。

ああ心配。すごい心配。

 

そうして逃げ出したぼくがチラと振り向くと、楽しげな笑顔で隠者は手を振って見送っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

円卓中央室、そこから延びる崖への通路。そこから入れる訓練所は――厳かな雰囲気が漂っていた。

 

松明を片手に“追跡者”は静かに、罪人――“行商人”を見つめる。

 

「……お前に害意は無かった。それは認める。常々、俺達の為と身を粉にしてくれた。その献身に背くつもりはない。だが――」

「――へい。分かっておりやす。たとえそれでも救世主様に危害を加えた。そのケジメは、受けるつもりです」

 

追跡者の言葉を遮り、しかし雄弁に行商人は語る。

――聖人のように十字架に吊るされた、その姿で。その足元には薪が積み上がり、火刑の様相である。

 

……。……いや、なにしてんねん。

 

「その意気やよし」

「ああ、もったいねぇ“漢”だな」

「もし死に損なったら“家人達(ファミリー)”に入れてやる。安心して死ぬといい」

「(執行の瞬間を描いている)」

 

いや、よしじゃないが!?故意じゃねぇつってんのに極刑は酷すぎるでしょ!?

ぼくは訓練所の入口の陰から、その狂気の現場を覗き見る。

 

なんで皆残念だが……みたいな神妙な面持ちなん!?

ぼくがぶっ倒れただけでコレはやり過ぎだって……!止めに入ったはずの守護者は何処に……あっ、隅の方で呆れてる!助けなさいな!

 

「――待ちなさい、兄上」

 

そこで冷静な声が響き渡る。レディだ。

彼女が、行商人に近づく追跡者を止める。

 

「……レディ」

「兄上、おふざけが過ぎるわ。しっかりして」

 

おっ、おお!流石は円卓のまとめ役!

“巫女”としての威厳は健在だったんだね!よかった流石にこれで――

 

「もっと薪を足しなさい。悪戯に苦しめるのは私達の品位に関わるわ」

 

――あの子が一番正気じゃない……!言ってる事自体が品位に関わってるから……!!

 

 

「ああもう!ほら中断!ちゅーだぁーん!転生者くんは無事でーす!解散!解散です!」

 

 

堪えきれずにぼくが飛び出すと――皆が振り向き、ほっと息を吐いてくる。しっ、心配掛けちゃったかな……――でも、これはちょっとやり過ぎ!

 

「転生者様!止めないでくだせぇ!あっしは覚悟が出来ておりやす!」

「なんで被害者が一番覚悟キメてんの!?ほら!解くよ!」

「ああ!お止めくだせぇ!」

「うるせぇやい!救世主に従いなさいな!」

 

火刑台から下ろしてやり――キッ!と周りを睨みつける。オロオロする皆に片付けを命じて、ぼくはマイフレンドを浜辺まで送り届ける。……あんなに怒ってくれる事は嬉しい、うん。嬉しいけど!感性が蛮族過ぎてついていけない!

 

そうしてぼくはキッ、キッ、と辺りに威嚇しながら、浜辺――マイフレンドの舟まで辿り着く。

威嚇の効果か誰も着いてきていないようだ。

 

ぼくは――()()()()()()()

 

「計画通り……!」

「あの、転生者様……?」

「ああ、うん。こっちの話。それにしても悪かったねぇ」

「いえいえいえ!全てはこっちの不手際でさぁ、本当にとんでもねぇもんを……!なんとお詫びすればいいか……!」

「うん?今、何でもするって言ったよね?」

「いっ……ておりませんが!何でもする所存でさぁ!」

 

「んじゃさ――あの“お守り”、残り全部ちょうだい」

 

ぼくの言葉に行商人には固まると、青ざめて首を横に振る。

 

「いい、いけません!そのような!ありゃあ責任もってあっしが……!」

「まあ、そうだろうけどさ。実は()()()()使()()()()()()()()()。捨てるなんてもったいないよ」

「でっ、ですが……」

「誰にも言わない。ぼくらだけの秘密さ。ねっ?おねがいっ!救世主様の一生のお願い!」

 

行商人はしばらく呻くが、一生のお願いが効いたのか全員分の残り7つを渡してくれた。ぼくは礼を言うと皆に気取られる前に、マイフレンドを送り出す。

 

 

――遠くに見える、何度も振り向く彼に手を振りながら、ぼくは手の内の“お守り”を握る。

 

……あの几帳面さんなら、きっと残りも同じように作ったものだろう。つまり同じ事をすれば同じように見れるはずだ。

 

――あの“悪夢”を。

 

(……ラダゴン)

 

あれは、きっと()()()()()。感覚でわかる。

まだ超有能チート転生者――夜渡りとしての“転生者”ではない時の。あれから……()()()()()()()()()()()()

辿ればわかるかもしれない。そうすれば自ずと分かるだろう。

 

夜渡りとなった理由、その目的を。

“ぼく”の過去を。

 

ぼくはお守りを握りしめ、決心して振り向く。

 

 

「………」

 

 

そこには――満面の笑みを浮かべる隠者さんがいた。

 

 

「………」

「………」

「ん」手を出してくる。

「ん」拒絶する。

「ん」杖を出される。

「ん!」逃げる。

「ん!」なんかよくわかんない魔術でお守りを奪われ――いや、ずっこいだろ!

 

「かえしっ、返して!」

「めっ。これ危ないもの。まったく……大きくなっても変わらないんだから」

 

いや、そういう子どもの火遊びじゃなく!

必要だから!“ぼく”にとって必要なものだからぁ!!

 

 

 

 






―――――――――

【翼人の風切羽】
“守護者”の雄大であった翼から抜き取られた風切羽。
転生者の傑作に用いられる特別な素材。

その身から離れてなお巣食う呪いは健在であり、卓越したその所業は深き森に通じる“魔女”の手によるものだが……それが明かされる事はない。

翼人がこれを贈る行為は深い親愛を表し、それが異性であれば――生涯の番を誓うものとなる。

ある一人の翼人は、命を救われた想いから“忌み人”にそれを渡そうとしたが……しかし周囲に屈し、渡す事は無かった。
だが、その想いだけは燻っていき――後に彼女は、もっとも多くの同胞を殺した者として畏れられる事になる。

――『あの人の献身に報いなければ死ね』

それだけを呟き続けた。
自らの喉を切り裂くその時まで。

―――――――――


―――――――――
【不格好なお守り】
“円卓”を訪れた行商人の、手製のお守り。
拙いボロなりに真心がふんだんに込められているが――何処で間違ったのか、悪夢を引き寄せる呪具となってしまっている。

……本来なら捨てるべきだが、こうは考えられないだろうか?

痛み、苦しみ、罪――隠された真実。
そうしたものを辿るなら、“悪夢”ほど適した場所は無い。


……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()() ()()


―――――――――
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