“転生者”   作:ダフネキチ

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世界が安寧を望む時、“彼女達”は現れる。







Chapter5
Pt.1


 

 

諸々の喧騒が過ぎ去った“円卓”中央室。

大祝福を囲むように“夜渡り”たちは集まっていた。

 

――“前回”の事を聞く為に。

 

椅子に座ったり、壁に凭れたり……各々が思い思い寛ぎながら、無頼漢と、時折付け足される隠者の話に耳を傾ける――ぼくは、地べたに正座をしながら。

 

 

「―――と、まあ。今回はこんなもんだった、すまねぇなぁ勝てなくてよ」

 

 

“前回”の話を締め、無頼漢は頭を掻く。

けれどその話を聞いて、誰も……彼を、彼らを責める事は無かった。

当然の事だ。そもそも、起きた出来事あらゆる事がイレギュラー過ぎて、むしろ良く“夜の王”まで到達出来たと感嘆の方が先に出る。

 

それに――“夜渡り”にとって敗北は、真(・)の(・)敗(・)北(・)で(・)は(・)な(・)い(・)の(・)だ(・)か(・)ら(・)。

 

そう皆々が頷きながら――ぼくは!正座していた!

そう……見た事あるような光景である。ひどい。

 

 

 

 

 

 

 

“ぼく”の過去を調べる為にこっそりお守りを確保するというミッションは、ぽやぱや隠者のインチキ魔術によって失敗に終わり……皆に呆れられながら始まった報告の中。

 

ぼくは、隣に素知らぬ顔で座っている隠者の手元のお守り達を見つめつつ――“無頼漢”たちの話を咀嚼する。

 

クラゲ、触手、巨大な水泡。“深海”に沈んだリムベルド。

その主、“夜の王”――“深海の夜、マリス”。

そして戦いとも言えなかった、抵(・)抗(・)の話を。

 

(んー……地変:“深海”。興味の惹かれる話だけど)

 

“ゲーム”ではそんなものなんて無かった。

なんでも各地にランダムに現れる水泡に触れると――過(・)去(・)を(・)共(・)有(・)す(・)る(・)よ(・)う(・)に(・)垣(・)間(・)見(・)れ(・)る(・)と(・)い(・)う(・)。

今のぼくには、ちょっと体験してみたい出来事だ。その過去って選べたりするのかな。気になる。

 

……それはさておき。

 

(ち(・)ょ(・)っ(・)と(・)マ(・)ズ(・)イ(・)か(・)も(・)な(・)ぁ(・))

 

ぼくは嫌な考えが頭に過るのを感じながら、隠者の手元――お守りに手を伸ばす。

それをてしてしと叩かれて窘められ、隠者を睨みつけると――呆れ気味に、けれど変に優しげな笑みと目が合って……視線を反らした。完全に子ども扱いされてる気がする。

 

「ん」

 

ふと、横からポカっと頭を叩かれる。

振り向くと少し不機嫌な表情の復讐者と目が合った。顎を向けられ、さらに振り向いた先で――皆とも目が合う。

なにしてんだお前、と如実に書いてある。

 

……ぼくは、隠者を指差した。

 

「“巫女(レディ)”先生。隠者ちゃんがぼくのを返してくれません。注意してください」

 

「あなた。そ(・)ん(・)な(・)事(・)よ(・)り(・)、ちゃんと話を聞きなさい」

「そっ、そんな事!」

「――ん?」

「アッナンデモナイデス……」

 

ぼくは屈していない。

レディの短剣と懐中時計という圧倒的な暴力という圧に負けただけである。断じて屈していない。

 

……それにあまり騒いで、『なんでこれがそんなに必要なの?』と突っつかれても嫌だ。少し間を置こう。

“黄金の地”第二の王――王(・)配(・)ラ(・)ダ(・)ゴ(・)ン(・)に(・)殺(・)さ(・)れ(・)た(・)事(・)あ(・)り(・)ま(・)す(・)!(・)は、まだちょっと言いづらい。

 

「……今回の“夜の王”、マ(・)リ(・)ス(・)とやらは、獣と比べてまた別の意味で厄介そうだな」

 

追跡者が話を戻すように呟く。

それに無頼漢は同意するように頷いた。

 

「ああ。ずっと宙を飛んでやがる。剣だの斧だのは飾り同然だな。俺の自慢の筋肉もだ」

「大弓はどうだ?用意すれば……」

「――無駄だ」

 

追跡者の問いかけに、壁に凭れた鉄の目がそう断じる。

前よりも少し感情が込もっている口調で、傍らに置いた彼の“大弓”に手を置きながら。

 

「俺の“奥の手”で多少揺らがせる程度だ。普通のじゃあ、アレに痒みを与えるのが精々だろう。……陽動には使えるだろうが」

「とすると……魔術も祈祷も大差無いか」

 

「そうね。距離が遠過ぎる」

「……業腹だがな」

 

隠者と復讐者。

魔術と祈祷のスペシャリストがそれに同意する。

遠距離職も匙を投げる状況に――ああでもないこうでもないと皆が意見を出す。

……このままじゃあ、とりあえず当たって砕けようと言い出すのは自明だった。

 

(……んー)

 

……どーしよ。意(・)味(・)の(・)な(・)い(・)ト(・)ラ(・)イ(・)&(・)エ(・)ラ(・)ー(・)を(・)さ(・)せ(・)て(・)し(・)ま(・)う(・)。

すっげぇ苦労したらしい“獣”とかと違って――あのマリスはそういう次元じゃない。繰り返した所で、だ。

 

(言った方がいいよなぁ……)

 

でも、こういうのって――なんでそんな事知っている問題ががが。

……隠者にも怪しまれてるし、ここは……――

 

そうキョロキョロと皆を見渡していると――復讐者と目が合った。

 

「正座はそのままだぞ。……心配したんだからな?」

「……うん、そうだね」

「……?」

 

心配そうな雰囲気の復讐者、彼女を飾り付ける一つとなった“鉄色の花”を見つめる。

……うん、そうだ。

こういうのを隠すのはやっぱり良くない。都合が悪いのは全部伝家の宝刀(カン)を振りかざせばいいんだし。

 

 

「……あの、さ――確認なんだけど」

 

 

不意に発したぼくの言葉に、皆が振り向く。

その視線の圧に慄きながら、無頼漢たち――“前回”の三人に尋ねる。

 

「その、マリスってさ。びっくりするほど大きくて、核の色が黄色だったんだよね?」

 

「おう、そうだぞ」

「ええ、宙(ソラ)を埋め尽くすほど大きかった」

「……さっきも驚いてたが、そんなに重要な事か?」

 

「重要というかぁ……致(・)命(・)的(・)と(・)い(・)う(・)か(・)」

 

――“深海の夜、マリス”。

ゲーム中盤ほどで戦う事になる名状しがたきスライムみたいな小松菜みたいな形をした“夜の王”。

常に宙を飛んでいるから攻撃は当たりづらいし、状態異常“睡眠”を使って行動を妨害してくるから鬱陶しい事この上ないボスだ。

意(・)外(・)と(・)手(・)に(・)届(・)く(・)位(・)置(・)に(・)下(・)が(・)っ(・)て(・)く(・)る(・)から倒しやすい部類にはあるけれど――不人気街道・面倒臭さはトップ。

楽な部類だけど、繰り返し戦いたくはない……そんな立ち位置なのだ。

 

そしてそれは満を持しての強化個体――“常夜の王”となると、ニトロエンジンでもそこまで速度出ないだろレベルでぶっちぎる……ギ(・)ミ(・)ッ(・)ク(・)ボ(・)ス(・)に(・)変(・)わ(・)る(・)の(・)だ(・)。

 

それが三人が言った、デッカイ黄色固体。

――初(・)っ(・)端(・)か(・)ら(・)そ(・)の(・)状(・)態(・)で(・)あ(・)る(・)の(・)が(・)、致命的なのだ。

 

 

「えっと、ね。そのマリスを倒すには――“ストーム・ルーラー”ってのがいるんだ」

「“嵐の支配者(ストーム・ルーラー)”?随分仰々しい名だが……武器か?」

「うん。元は嵐の王ってのに対抗する為のものだったんだけど……――その概念?みたいな。溜めてぶわぁー!と飛ばすみたいな。ともかく、そんな感じの力(・)なの」

 

“ナイトレイン”では、武器一つ一つに必殺技……“戦技”と呼ばれるのが備わっている。数ある中からのランダムだったり、その武器固有のものだったり。

 

“ストーム・ルーラー”はその中でも特別製。嵐の力を込めて振り下ろす剣波。つまりは月牙天衝である。

 

フロムが作った過去のゲームのセルフ・オマージュ的立ち位置で、すこぶる強力だけど――マ(・)リ(・)ス(・)と(・)の(・)戦(・)い(・)で(・)し(・)か(・)そ(・)の(・)効(・)力(・)を(・)発(・)揮(・)し(・)な(・)い(・)のだ。

まあ、入手出来る場面がそ(・)こ(・)しかないから。それで問題ないんだけれど……。

 

 

「それで――どうやって手に入る?」

 

 

ぼくの情報に各々が静かに聞いてる中、守護者がそう尋ねてくる。

そ(・)う(・)。そこ。そこが重要なんだ。

 

「姿は常に変化するとはいえ――“リムベルド”は隅から隅まで見回ってきたが……そ(・)ん(・)な(・)物(・)、見た事も聞いた事もない」

「………」

「何故黙る」

「いやぁ……そのぉ、ねぇ……」

 

ぼくは言いづらい事を言わなくちゃいけない。

――どうしようもなく、嫌な事実を。

 

 

「まっ……マリスを倒せば、手に入ります」

 

 

場が、静まり返った。

そうしてぼくの言葉を考え、理解して――皆、顔を引き攣らせる。

 

「……すまん。耳が可笑しくなったのかもしれん。もう一回言ってくれ」

「だっ、だからぁ――マ(・)リ(・)ス(・)を(・)倒(・)せ(・)ば(・)、“ストーム・ルーラー”が入手出来るの」

「……………」

 

守護者が完全に黙り込む中――レディが頭が痛いようにこめかみを揉む。

 

「つまり、こういう事?――マリスを倒す為の“ストーム・ルーラー”を入手する為に、マ(・)リ(・)ス(・)を(・)倒(・)す(・)必(・)要(・)が(・)あ(・)る(・)っ(・)て(・)?(・)」

「いっ、イエス!」

「ふざけてる?」

 

――ふざけてんのはあっちなんだよなぁ!?

なんだそのクソゲーは!?難しければ何でもソウルライクと思ってた黎明期の他のゲーム会社みたいな事しやがって!

 

普通の“常夜の王”マリス戦。

それはまず、通常マリスと戦うという前座が挟まれる。

そこまで強くない弱個体。それを倒すと、“潜在する力”を落とし――中に“ストーム・ルーラー”が付与された初期武器が手に入り、そっからが本番“常夜の王”という流れなのだ。

 

無頼漢達の話を聞く限り、そこは完全オミットされてる。

つまり……常夜の王、マリスはクソクソのクソ、マリスになってしまっている。クソわよ!

 

しかも、“ストーム・ルーラー”を用いる戦闘は、過去作からそ(・)れ(・)を(・)前(・)提(・)と(・)し(・)た(・)ギミックボスなのは慣習。

昔の空飛ぶエイやら薪の巨人は、それでも何とかなる風には出来ていたが――常夜マリスはそうなっていない気がする。

圧倒的なまでの距離は、“ストーム・ルーラー”以外の攻撃は届かない。その圧倒的な暴威も――“ストーム・ルーラー”無しじゃあ抵抗もできない。

 

つまりはクソ。QED。この世は無情なりけりや。

 

(……けっこーやり込んでたぼくですら何とか出来るビジョンが思いつかんぞ……!)

 

“設計図(チート)”ですら無理だ。

そこまでの距離は大抵設置型で持ち運びなど出来ない。“玩具箱”ってので行けそうだが、最大級の攻城兵器くさい。これむりぞ。

 

何とかして――他(・)の(・)方(・)法(・)を(・)考(・)え(・)な(・)い(・)と(・)。

 

 

「……――ん?」

 

そこで。

場の――皆の視線がぼくに集中しているのに気づく。

何とも言い難い、そんな視線に。

それを仕切るようにレディが口を開いた。

 

「……いいでしょう。じゃあ、次の議題に入りましょうか」

「次?」

「――“貴方の事”」

 

その言葉は静かに、けど強い響き。

レディ――円卓の代表者“巫女”は続ける。

 

「あなたは突拍子もないし、唐突だし、勢い任せだし、唐変木でこっちの事考えてもくれないし、意味わかんないし」

「………」

「途方もない天才に見えたかと思えば、どうしようもないお馬鹿にしか見えない事もあった」

「……馬鹿にされてる……?」

「――でもね。意味の無い事はしない。その全て、誰かの為――私達の為にやってくれていた」

 

なんかぼくへの愚痴が挟み込まれた気がする。

けど――

 

「それが分かっているから、あなたが何かを隠している事はわかっても――問い詰めようとするつもりはなかったわ。黙(・)っ(・)て(・)い(・)る(・)、というのも。考えての事なのでしょうし」

 

その言葉は、ぼくと――“ぼく”への信頼の証だった。超有能チート転生者であった頃に積み重ねたもの。

 

 

「けれど――もう無理よ」

 

 

それはそれをして耐え切れなかった疑惑の発露だった。

 

「あなたは私達を忘れているのに――私(・)達(・)の(・)事(・)を(・)覚(・)え(・)て(・)い(・)る(・)」

 

一文で生じる、矛盾。

“ぼく”が忘れ、ぼくが覚えている事。

 

「それに“夜の王”との関わり。“蟲”、“悪魔”、そして――あなたが言った、“マ(・)リ(・)ス(・)”。その名。……きっと、“獣”も“爵”も知っているのでしょうね」

 

事実。それ以外も覚えている。

彼らを束ねる――真の“夜の王”。到来する“夜”の主。その核の名も。

 

レディは一度、場を見渡す。

そしてその総意を示すように――告げる。

 

 

「教えて、あなた。貴方は“何”を知っているの?」

「………。ちょっ、超――」

「それはもういいから」

 

 

まっ、マズイ!伝家の宝刀が効かない!流石に“ストーム・ルーラー”は踏み込み過ぎたか!……でも流石になぁ……!!

逃げ場、逃げ場がない!ここから良い感じに曖昧にする事なんて!

どうすれば……!

 

お……OK、グノスター。OK、フォルティス。

ここからどうにかする方法は?

 

―― まかせて まかせて ――

 

おお!流石、長きを生きた“知性の蟲”!夜の識の名は伊達じゃないんだね!

 

―― こいつら ぜんいん ころす ――

 

あっやっぱりなんでもないです!我が意得たりと這い出ようとしてこないで!?フォルティスくんも消極的に賛成してくるんじゃない!なかよしさんか!

 

 

「坊や。皆、貴方を怒ったり、責めたりしたい訳じゃないの」

 

 

頭を出そうとしてくるグノスターを押し留めているのが、思い悩んでいると思ってくれたのか――横の隠者が静かに話し出す。

それは子どもが必死に隠そうとするものを解きほぐそうとする、優しい囁きだった。

 

「ただ、わ(・)か(・)ら(・)な(・)い(・)の(・)。貴方は私達を大切に思ってくれてるし、“夜の王”に与しているとも思ってない。それを隠す理由がわからないだけ。……言ったら、貴方に危害が加わったりするの?」

「……そうじゃない、けど……」

 

そうだ。

ぼくは“夜の王”の情報を隠している。

なのに――それを怒らないのは、皆(・)が(・)ぼ(・)く(・)を(・)信(・)頼(・)し(・)て(・)く(・)れ(・)て(・)る(・)か(・)ら(・)。理由があると思ってくれてるから。

ほんとなら裏切り者だ!密通者!って、ふん縛ってボコボコにしたっていいのに。

 

ふと、ひんやりとした感触が頬に伝わる。

ゆっくりと顔を動かされると――復讐者の綺麗な顔が視界に入る。

淋しげな雰囲気を滲ませて。

 

「……私達が、信用出来ないか……?」

「いや……その……――さ」

 

それがトドメだった。

抑えてた気持ちが喉元から出てくる。

……やっぱり美少女は全てを解決するのかもしれない。

 

 

「大の大人がキモいと思うんだけど……――皆(・)に(・)、嫌われたくなくて」

 

 

皆からすれば下らない理由だ。

重要な秘密なのに、そんな理由でって。

 

けど、“転(・)生(・)者(・)”にはそれが重要なんだ。

 

――既(・)知(・)原(・)作(・)転(・)生(・)。

沢山ある二次創作の中で、もっともポピュラーで――繊(・)細(・)な(・)題(・)材(・)だ(・)。

大抵の場合は、それが明かされる事無く主人公の胸の内に隠されたまま。けど、時たま……こうしてそれが明かされる事がある。

 

そ(・)う(・)な(・)っ(・)た(・)ら(・)ど(・)う(・)な(・)る(・)?(・)

 

基本、受け入れられる事が多い。

それが作中きっての知恵者だったからそういうモノと理解したり、そんなものはどうでもいいと断じれるほど信頼してくれる大親友だったり――あるいは、それ込みで納得出来る設定があったり。

 

でも、ぼくはいつも思うんだ。

隠したい過去、恥ずかしい過去、それらを構成する今と未来への覚悟。

それら全て――知(・)る(・)由(・)も(・)な(・)い(・)ほ(・)ど(・)の(・)人(・)々(・)の(・)娯(・)楽(・)と(・)し(・)て(・)在(・)る(・)な(・)ん(・)て(・)。

 

知恵者だろうと大親友だろうと。それを知って、教えられて。

――受け入れられる?

 

……ぼくだったら、それでも信頼していると言いたい。言(・)い(・)た(・)い(・)と(・)思(・)う(・)。

けれど――

 

 

「………――は(・)ぁ(・)」

 

 

ふと、ため息が聞こえる。

びくりとその方向を覗き見ると――レディが手を額に当てていた。

うっ……。やっぱりくだんないよこんなの。言う前に嫌われたかもしれん。

 

レディはそのまま立ち上がるとスタスタとぼくの方に近づいてくる。手には短剣も懐中時計も無いから暴力ではないみたいだけど。

そうして、ぼくの前に立つ。

 

「立ちなさい」

「えっ、っと?」

「早く」

「――っす!」

 

恐る恐る立ち上がると、彼女はぼくの胸を人差し指で叩き始める。

その勢いは存外に強く、ぼくはドンドンと後ろに下がっていく。

 

「なに!?」

「いい?一度しか言わないから良く聞きなさい。“あなた”は私の初恋で、それを不意にし続けたくせに最後は私の為に死んでしまったズルい人よ。どんだけ時間が経ってもどれだけ夜渡りとして記憶を失ってもあなたの笑顔だけは忘れられなかった。そ(・)の(・)意(・)味(・)が(・)!分からない?分かっているのに――嫌われたくないなんてほざく訳!?」

「えっ、えっ……!」

 

とんっ、とぼくは壁に押し付けられる。

そこでレディの仮面に隠れていない頬と耳が、赤らんでいる事に気がついた。

 

「私がっ……!私がどれだけ……!」

「レディ……」

「――私がどれだけ、渡される見合い写真を断るのに苦労したと思ってるの!?」

「なんかちがうっ!」

 

なんか、なんか違う!

怒られてるベクトルが違う気がする!

 

「何が違うのよ!居候の身で断るのなんて本当に失礼なのだからね!どれだけ相手の面子を傷つけないように……!“義賊”として相手を破産させない選択が出来た自分を褒めてやりたいわよ!――ねぇ!そ(・)こ(・)に(・)私(・)の(・)了(・)解(・)無(・)く(・)置(・)い(・)て(・)い(・)っ(・)た(・)兄(・)上(・)!?」

「………。うん、すまん」

 

急に水を向けられた追跡者はしょぼくれる。

けど、兜越しの視線はぼくを見ていた。

 

「だがまあ、見くびられても困るな。お前は、父の秘蔵の酒を隠れて飲み合って、お前だけがバレてる中――密告して、俺も巻き添えにしてきたような奴だぞ。一緒に川に投げ捨てられた仲だ。今更嫌いになるか」

「それ君も悪いじゃん!なんで被害者的スタンスなの!?」

 

その時、無頼漢がニヤリと笑ったのを見逃さなかった。

まっ、まさか――!

 

「まあ、んだなぁ。本番ありの夜店にビビって一緒に付いて行ってくれって土下座してるのを“風見鶏”にゴミみてぇな目で見られた情けない奴だって知ってるしなぁ……今更なぁ、なぁ“鉄の目(おとうと)”よ」

「あっ……あの……!」

「殺すぞ。……まあ、散々後見人(マスター)への身代わりにされてきたから失望する事もない。……あ、事が済んでもイゾルデには会いに行くなよ。二度と朝日は拝めなくなる」

「いやっ……まっ……」

「次は私か。ふむ……翼人の風習を変に勘違いして、“風切羽”を大量に作って手当たり次第に贈って大騒動を引き起こした事があったな。大長老達も流石に冷や汗をかいていた」

「いや、これもう説得とかじゃぁ――」

「私に対して、あまりにも熱烈に愛を囁いていたから“人形性愛者”だと噂になって、お嬢様に詰められていたな。まあ、事実だが(違うわダフネ。ですよね?)」

「――ただの転生者くんの恥ずかしい過去暴露大会になってるから!」

 

ぼくは立て続けに聞かされる“ぼく”のやらかしに顔真っ赤にしながら、隠者を見る。

さっ、流石にもう言わないよね?子供扱いしているなら、子供が嫌がる事にしないよね!?

 

そんなぼくの視線に、隠者は優しく微笑んだ。

 

「おねしょのお話、する?」

「もう言ってる!一から十まで全部言ってるよ!」

「……(ガタッ)」

「そこっ!執行者座って!君のは予測できなくて一番怖い!」

 

「ふふっ……一巡したわね。じゃあ、また私から――」

 

「――わかった!わかったから言います!言いますから過去を盾にするのは止めてください!テンセイシャヲイジメヌンデ……!」

「よし」

 

ぼくは顔を覆いながら、そう叫ぶ。

指の隙間から見える皆の姿はいじめっ子そのものでニヤニヤしているが――それでも、心から頼もしく感じた。

 

「すぅ……ふぅ」

 

少し深呼吸をする。

思いの外緊張しているのに気がついた。

……もしこれが嫌いな奴とかなら、おちょくりついでに言ったかもしれない。

けど、目の前にいる皆は“ぼく”を――そしてぼくを友と呼んでくれる人たちだ。不安になる。

それでも言おう。信頼には、信頼で返すのがぼくのやり方だ。

 

「その――ぼくは……!」

 

 

 

瞬間。

 

 

 

天上から、光が降り注いできた。

暖かく、熱く。祝福するように、罰するように。“ぼくたち”に降り注ぐ。

 

それだけじゃない。

 

――遠く彼方から、何かが聞こえてくる。

 

 

「歌(・)……?」

 

 

幾重にも重なった乙女たちの讃美歌。

誰かを称え、誰かを高らかに謳い――そ(・)の(・)名(・)の(・)下(・)、やってくる者たちの歌が。

 

混乱しつつ、それでも状況を把握しようとする皆の前で。

ぼくは――

 

 

「はぁぁぁぁぁぁぁ……」

 

 

――ふっっっかっい、ため息を吐くしかない。

マジか。今か。今なのか。

 

 

「――“現(・)実(・)”で(・)も(・)空(・)気(・)読(・)め(・)な(・)い(・)の(・)、ア(・)イ(・)ツ(・)ら(・)は(・)……!?」

「あなた!」

 

 

 

そうして視界一杯に光が満ち満ちて―――

 

 

 

 

 

 

 

―――気がつけば、ぼくは浜辺に立っていた。

復讐者の伝説的ヤンキー仕草。マイフレンドとの出会いの場に。

 

空は光のベールに包まれ、彼方には白の蕾が大きく咲き誇り――他を知らない黄昏色の羽が辺りに舞う。

それはまるで万人が想う、天上の楽園そのもの。

 

そうした中ならば――“遣い”がいるのは必然だ。

歌がまた響き渡ると、光の柱が都(・)合(・)7(・)つ(・)降り注ぎ――中から“ソレ”らは現れる。

 

神話の天使を象った白灰の鎧に身を包み、それに似つかわしくない輝きを放つ武器を携えた――戦(・)乙(・)女(・)た(・)ち(・)が(・)。

 

「……グノスターたちといい、リブラといい。キミらは“円卓”を何だと思ってるん……?」

 

一応安全地帯のはずなんだけどなぁ……。

てか。“ぼく”ってどんだけ厄ネタの宝庫なんだろう。

 

なにをどうすれば――“安寧者たち”に狙われる事になる訳?

 

「やぁ!全(・)員(・)お(・)揃(・)い(・)のようだけど……ぼくに何かご用事?」

 

それに答えるように戦乙女たちは――武器を構える。

無機質な彼女たちに似合わぬ豪奢な装飾、その輝きを放つ“英雄武器”。

槍、斧槍、長柄のメイス――そのどれもが、嫌味なほどに恐ろしく見える。その意味も。

 

「ですよねー……」

 

………。

んー……。

 

「グノスター、フォルティス」

 

―― うん やろう ぼこぼこ ――

 

「こんな“ぼく”を愛してくれて、家族だと思ってくれてありがとう。……記憶が無くて本当にごめんね」

 

―― …… ぼうや? ――

 

さあて!

こういうのって間に合わないのが相場だけど、転生者らしくテンプレ破りでもやってみますか!

……これでよかったかもしれんね。

 

 

「――“フ(・)ォ(・)ル(・)テ(・)ィ(・)ス(・)”!」

 

 

 

 

 

………

……

…

 

「っく……――あなた!」

 

 

視界が開けると“レディ”の目の前に彼は居なかった。

辺りを見渡すと此処は訓練場。空は光のベールに包まれている。美しい歌声が今なお響き渡っていた。

 

「いったい……なんなの……?」

「――巫女サマ!」

 

召使人形が急いでやってくる。

表情の無いその顔から伝わってくるのは――どうしようもない、非常事態。

 

「“襲撃”です!円卓全体が囲まれています!」

「……“此処”は夜の侵食を防げる場所じゃなかったの?」

「ええ、つまり――」

 

「――敵(・)は(・)“夜(・)”で(・)は(・)な(・)い(・)」

 

意味が分からない。

何故これは現れた。何故私達は狙われた。“夜”ではない者に。

……わからない。わからないけれど。

 

「ともかく、迎撃に――」

 

瞬間。

“蟲”の咆哮が遠くから聞こえてくる。

 

「……ッッ!」

「お急ぎください。私は建物内を見ています!」

「ええ!任せるッ!」

 

レディは駆け出した。

途中適当にバラけさせられたのだろう同志たちと合流し、咆哮が聞こえたその先――浜辺へと。

早く、早く、早く……!

それは決して遅くなかった。そのはずだ。

 

けれど――遅かった。

 

 

「このっ……!レベル1で七人に勝てる訳ないだろっ!ムーミンやろっ――」

 

 

たどり着いたその瞬間。

彼の喉元を掴み上げる“敵”が――天上の遣いに見間違うほどの優美なその存在が、その胸に黄金の槍を突き立てた。

 

「あなたッ――!!」

 

彼は何も発せずに、手を離されたと同時に地に倒れ伏す。

その光景を見下ろしている“敵”は彼を取り囲み、そのまま武器を振り上げる。

 

「―――ッッ!」

 

駆け出す。

けれど――間に合わない。

だけれど――間(・)に(・)合(・)っ(・)た(・)。

 

微かに駆動音と共に、“敵”たちの足元に鈎爪が打ち込まれる。巻き取られる速度のまま高速で接近したのは――兄上だった。

 

「――ォ!」

 

左腕に付けられた兄上の“武器”。彼が作った最高傑作の炸薬が軌道する。

“敵の”足元。倒れ伏した彼の上に立った兄上はその勢いのまま、武器を強く振り上げた。

 

 

――瞬間、炸(・)裂(・)音(・)。

 

 

炸薬の威力と共に吐き出された巨大な杭と爆風が、取り囲んでいた“敵”を吹き飛ばした。

その隙に私達は彼に駆け寄る。

 

「ああっ……!夫よ、しっかりしてくれ……!」

「坊や!……これは……」

「なんで、なんで――傷(・)が(・)治(・)ら(・)な(・)い(・)!?此処は円卓だろう!?」

 

彼の状態を確認したくても、周りの“敵”を野放しにしてはおけない。武器を構え、吹き飛ばされた者達を睨む。

 

“武器”を地に突き立て、立ち上がったその姿は何の痛痒の様子もない。

 

ソレらは彼の前に立ち塞がる私達など眼中に無いように、ただ静かに彼を眺めるように立っていると。

 

ふと、音も無く。その姿がかき消えた。

空を包む光のベールは消え、歌は聞こえなくなった。

 

 

 

残ったのは、どうしようもない“現実”だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………

……

…

 

「――うわぁはぁ!?」

 

ぼくは跳ね上がるように起き上がる。

うわっ!死……いや、生きてる!生きてる!死ぬかと思った!

流石にレベル1武器無しハルモニアとか出来る訳ねぇわ!頭可笑しいんか!?

 

場所は悪夢で目が覚めた、控室のベッド。見た事のある光景だった。いやぁ、流石は“円卓”だわぁ。もう死の気配がビンビンだったのに生還するとは。

……ちょっと恥ずかしい事しちゃったな。グノスターたちに別れの挨拶なんて。

安心させ―――

 

「……んだ、こ(・)れ(・)?」

 

二人を呼ぶように胸を叩こうとすると――丁度、心(・)臓(・)。

そこを貫かれた“傷”が残されていた。グロテスクな肉の断面は、淡い黄昏れ色に包まれていて、じくじくと痛みと血が出てきている。

 

「うわぁ……流石にノーダメって訳にゃあ……って」

 

アレ。居(・)な(・)い(・)?

グノスター?フォルティース!……ママ!ダディ!

……居ないぞ。何処に。

 

「………」

 

それに周りにも誰も居ない。気配すら感じない。

ただ――静(・)ま(・)り(・)返(・)っ(・)て(・)い(・)た(・)。

 

「………?」

 

ぼくは痛む胸を庇いながら、控室を出る。

皆を呼びかけながら進むが――人っ子一人も見当たらない。全員出撃……なんて。あるわけないか。

 

「んじゃ、皆何処に……?」

 

そうして書庫に入ると――気(・)づ(・)い(・)た(・)。

 

書庫の奥、開けずの扉が少し開いている。

 

「……ぁ」

 

そういえば。そういえば!

来た初日に気にしたはずなのに――あ(・)れ(・)か(・)ら(・)関(・)心(・)も(・)抱(・)か(・)な(・)か(・)っ(・)た(・)け(・)ど(・)。

あの中に、例の二人が。DLCの始まりが。

 

「………確か、“ゲーム”じゃあ合流前にボス戦あった気がするな」

 

 

…………。

 

 

「ひっ、一先ずてった――む(・)ぎ(・)ゅ(・)っ(・)!?」

「……あぁ、ぁああ。お会いしたかったです、貴方様……」

 

 

誰かに抱きしめられた……!なんかこんなんばっかりだな最近のぼく!?

ちっ、力強っ!?この感じ、この声……――や(・)っ(・)ぱ(・)り(・)……!

 

「どうか、どうかお言葉を疑っていた私を許してください。けれど……うふふ。貴方様の温もり、貴方様の鼓動。分かたれたあの時から一瞬たりとも忘れた事はありません……」

 

なんとか顔を上げると――ぼくを見上げていたのはシスター服を身に着けた幼気な顔を恍惚に歪めた長身の女性。

DLCで実装された追加の“二人の夜渡り”……その一人。

 

――“葬儀屋”。

 

一世を風靡したケツデカ壁舐めダウナーシスターがそこにいた。

ぼくと目が合った彼女は、ゲームじゃあ見た事のない魅力的な笑顔を浮かべるとまたぼくを控えめな胸に沈めてく――だから、力強いって……!

 

「むぎゅむぎゅぎゅ……!」

「うふふ……擽ったい……」

 

「……やれやれ。相も変わらず、騒動を引き寄せるのがお好きなようで何よりです。我が友よ」

 

そっ、その聞くだけでダンディさが伝わってくるスパダリボイスは!

 

コツコツと足音が聞こえてくる。カチャリと鳴ったのは彼の身につけているモノクルだろう。

真っ暗な温もりの中に――あのイケオジの顔が思い浮かんだ。

 

「聞きたい事が山程ありますが……“そ(・)れ(・)”を見る限り、あまり時間を浪費していられないようだ――早速、本題に入りましょう」

 

その名は――“学者”。

一時期、壺投げで天下を取ったカニ食いイケオジの言葉に、ぼくは――

 

「むぎゅあむぎゅぎゅ……!!」

 

呻いた。

 

「………」

「………」

「あの……シスター……?彼を――」

「嫌です」

「えっ」

「嫌です」

 

「………」

「………」

「むぎゅあむぎゅぎゅむぎゅぅ……!!」

 

 

「……まずはお茶にしましょうか」

 

 

ま ず は 助 け て !?

 

 

 

 

 






【ステータスが更新されました】

―――――――――

“聖痕”

戦乙女たちを用いる英雄武器によって刻まれた傷痕。
その性質は黄金律に近しいが、また異なる“律”に由来している。

傷は聖律の力を色濃く持ち、いかなる治癒を赦さず、血は絶えず流れ続ける。
そして、真なる“安寧”が齎される。その力を失わぬ限り。


輝ける栄光の中、優美なる讃美歌が響き渡る。
斯くして――英雄武器に率いられ、漂白された戦乙女たちは現れた。
望まれるがまま、世界に安寧を齎すために。

……此度もまた、そうなるはずだった。

―――――――――

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