“転生者”   作:ダフネキチ

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英雄武器に振るれし戦乙女ちよ


偉大なる光輝が、汝らへ指示す


愚者、邪悪、災厄――“世界の敵”そこにいる





Pt.2

 

 

 

 

――“円卓”は静まり返っていた。

 

先ほどまで、“友”をからかっていたあの穏やかな時間など無かったかのように。先ほどまで、得体の知れない“敵”から襲撃を受けたなど思えないほどに。

 

皆、押し黙っている。

――微かに漏れる“友”の呼吸が掻き消えないように。

 

 

 

「………」

 

円卓中央室から出た先、友の工房を横切った奥の“控室”……その前に、“追跡者”は立っていた。何も出来ない歯がゆさを誤魔化すように腕を組み、控室の様子を見ている。

 

その中にあるベッドには――“()()()()()()()()()

 

無駄に変化する表情は無に消えて、良く分からない戯言が吐き出される口からは隙間風のような呼吸だけが漏れる。

微かに上下する胸には――“敵”によって貫かれたその胸には、惨い傷痕がある。

 

血肉が抉れ、貫かれた痕が残る心臓が剥き出しになったその“痕”。

淡い光を帯び、そこから絶えず血が溢れ出ている――()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

(“加護”が何故効かない……?)

 

“夜渡り”である己らは、円卓とリムベルドに限っては不死であり――特にこの円卓においてはそれは顕著なはず。

それなのに――

 

「……っ……っ……!」

 

その時。惨たらしい傷を隠すようにたおやかな少女の手指が上に乗せられる。

 

そうしてそこから暖かな光が灯ったかと思えば――鋭い音と共に、()()()弾かれた。その反動で手指がひび割れるが、少女――“復讐者”はその手を止めない。

友の側に寄り添い、祈祷“回復”を掛け続ける。

 

……無駄だとはもう分かっているだろう。けれど、彼女はそれを止めようとしない。何度も何度も何度も……手指が完全に砕け、“加護”がそれを治し、またと繰り返す。

――その表情は、彼女が人形である事を忘れそうになるほどに、悲しみと憎しみに支配されていた。

 

「………」

 

その隣で“隠者”は静かに何かを思案している。

周りにはありったけの書物や道具が点在しており、友の治療に使った様々な残骸が溢れていた。

どうしようもないほど取り乱していたとは思えないほどに静か。治療が一つ、また一つと効果が無いと分かる度にそうなっていった。

 

……この“円卓”において、一番の知恵者は彼女だ。

その彼女が――打つ手がない、その有様がこの現状が致命的である事を示していた。

 

そして――

 

(……レディ)

 

友の手を静かに握っている“妹”。

その背からは表情は分からない――だが、何を考えているかは不出来な兄であっただろう“追跡者”には分かっていた。

 

また……同じ事の繰り返しになってしまうのだろうか。

己はまた、間に合わず。妹はまた――友の死を垣間見るしかないのだろうか。

 

 

「……なぁ、騎士の兄ちゃんよ」

 

 

ふと、声が掛けられる。

視線を向けると床に座り込んだ“無頼漢”と壁に凭れる“鉄の目”が映る。その雰囲気は最悪としか表現出来ない。己もきっとそうだろう。

 

ただ、戦う事しか出来ない役立たず達は部屋の前でこうしているしかない。

 

「……なんだ」

「礼を、まだ言ってなかったな」

「いらん。……何も出来なかった」

「いいや。あの時、あんたが飛び出してくれなきゃあ今頃、あいつはダメだったろう」

 

「……()()()()()?」

 

ぽつりとこぼれた鉄の目の呟きに、無頼漢は嗜めるようにそのスネを小突いた。結構な痛みだったろうに彼は何も言わない。……なんとなく、失言を悔いているように見えた。

“深海”……マリスとの戦いを経て、多少感情的になった同志に少し可笑しくなる。

 

だが、そう吐きたくなる気持ちも分かっていた。

 

 

そこで、複数の足音が聞こえてきた。

 

 

近づいてきたのは“守護者”と“執行者”、そして“召使人形”。彼らには“敵”の事を調べるようにお願いしていた。

 

光と歌と共に現れた――天の遣いの如き“七人の女騎士たち”

見た事も聞いた事もないその存在。

 

“黄金の地”の歴史をほぼ全て網羅出来ている書庫と、その生き字引である“坩堝の騎士”たる執行者。

それらならば分かるのではないかと。

 

やってきた彼らの雰囲気は――最悪と言っていい。

 

「どうだ?」

「“書庫”に連中の記述はない。絵描き殿も知らんそうだ。つまりは――“黄金の地”とは関係ない、“()”だ」

「補足するならば、この“円卓”において“夜”は()()()介入出来ません」

 

「……そうか」

 

つまりは、何も分からず――そして、何の手立てもない。

唐突に現れ、ただ“友”の命を狙いに来た者達。それを間近で見ておきながら――何も出来ない。

 

「……っ」

 

左腕に付けている友の遺品(パイルバンカー)を撫でる。長き渡る戦いの中で頼りになった唯一無二。

これがどうしようもなく無価値に思える日が来るとは想いもしなかった。

 

――ただ、沈痛に包まれる場の中で。

 

「一つ、言えるこたぁアレだな」

 

ふと、無頼漢が呟いた。

 

 

「――連中は“女”だった

 

 

………。

 

………。

 

………。

 

――皆、頭を抱えた。

 

そうだ。そうだった。あれらは女に見えた。

そうか……そうかぁ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どうしようもない状況だった。

だからか。あるいは――()()()()()

“夜渡り達”は気づかなかった。気づけなかった。

横たわる“転生者”から零れ落ちている命の跡。赤黒い点々が部屋を出て、中央室……書庫の先。

()()()()()()()、開かずの扉へと続いている事に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………

……

 

ぼくは――書庫の先にいた。

DLCが実装されるまで閉じられていた扉の先、そこには“礼拝堂”がある。

 

由来の知れない女性が祀られ、長椅子が等間隔に並べられていて……まさしくその名の通りのその場所。

その一角は、“学者”の研究材料やら道具やらで占拠されており、吊るされた謎の骨やらが相余って博物館みたいな惨状になっていてその風情を台無しにしている。

 

そんな場所。ここがDLCで解放される場所。

追加“夜渡り”である――“葬儀屋”“学者”の拠点だった。

 

 

ぼくはそんな中にいる。

長椅子の一つに座って――これまでの事を話していた。

 

淹れてくれた、お茶の優しげな匂いを嗅ぎながら。

 

「――てぇ感じかな」

「……ふむ」

 

ぼくの目の前に立つ“学者”は()()()()を咀嚼するように頷くと、手に持つカップを傾ける。

髪や髭が綺麗に整えられ、モノクルがキラリと光る――まさしくナイスミドルなスパダリでムカつくイケオジだ。茶ぁシバく姿すらカッコいい。

……見ていても楽しくないので――ぼくは横を見た。

 

「……ふぅ……ふぅ……」

 

ぼくの隣に座り、腕を抱え込んでいるシスター――“葬儀屋”は健気にカップのお茶を冷ましている。

先ほどまで凄まじい怪力でぼくを窒息させようとしてきていたが、今は学者の説得のおかげで――ぼくの腕を絞め落とさんばかりに抱きしめる状態で大人しくしていた。

……うん、まあ……段々と感覚が無くなっているけれど――安いもんだ、腕の一本くらい。ぼくが無事なら。

 

葬儀屋は少しして冷ますのを止めると――()()()()()()()()、ぼくの口元にそれを近づけた。

ぼくがそれに困惑していると、こてんっと彼女は首を傾げる。

 

「………?」

「ああ、うん。飲むね、ありがとう」

「はい……」

 

見上げてくるその瞳は、びっくりするくらい無垢な色を覗かせていて――なんだか申し訳なくなって来たので口を付ける。ゆっくり傾ける仕草は何処か手慣れている。

ぼくが飲んだのに満足したのか、葬儀屋はそのまま自分もお茶に口を付ける。……ぼくが飲んだのと同じのを。

 

……どっ、どういう関係性やったの“ぼくたち”……!?

 

 

「つまりは、こういう事ですか」

 

 

学者が口を開く。

振り向くと、ぼくらの姿に苦笑気味だった。

 

「君は、“夜渡り”として円卓に導かれ、幾人かの“夜の王”を倒していた矢先――“()()()()()”……英雄武器の娘たち、ハルモニアの襲撃を受け、その胸を貫かれたと思ったら……“此処”にいたと」

「うん、そだね」

 

その纏めにぼくは頷く。

話してない事はままあるが大体そんな感じだ。

 

下を向くと、心臓が丸見えに抉れて良く死んでないなと思う重傷が目に入る。

……エグ過ぎぃ。良い感じに聖なる光に包まれてるからちょっとカッコいいけども。

あと、めっちゃ痛い。じくじくじゅくじゅくじんじんしてくる。

 

……“安寧者たち”にこんな感じの力、“ゲーム”には無かったと思うんだけどなぁ……。

 

「……“安寧者たち”……聞いた事がありませんね……」

「ええ。ですが、我が友が教えてくれた通りの存在であれば――それも納得でしょう」

「納得……?」

「極めて巧妙な“()()”です。どの神々かは知りませんが実に悪辣ですね」

 

“安寧者たち”。

またの名を――英雄武器の娘たち、ハルモニア。

それはDLCで追加された二体の大ボスの片方――()()()()()()()()()()()()()、天の遣いの如き戦乙女たちだ。

天使を象ったような綺麗な造詣の鎧と華美な装飾が輝く武器を持った七人の登場は“プレイヤー”たちを大いに盛り上げた。

BGMもカッコいいし、戦闘もクソになりやすい複数戦とは思えないほどに良い塩梅だった。

 

……まあ、後に登場した常夜の王板――“救いの旗手”になったら阿鼻叫喚のクソになったけど。リブラに匹敵するわあんなん。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。……であるならば、その“安寧”とは――殺戮の意でしょう。()()()()()()()()()()()()()()、即ちそれは安寧と言える」

「………」

「その場の全員が死に、“安寧者たち”が消えれば――残るはただの惨劇の跡。それを見ても悪魔や怪物の仕業、あるいはその地の神の怒りとしか思わない」

「………」

()()()()()()()()()()()()()()。不意に現れ、不意に殺戮を行い去っていく存在。恐ろしいものです」

 

……世界が安寧を望んだ時に現れる存在、くらい程度しか言ってないのに()()()()を汲んでくる学者に舌を巻く。たぶん博識な自分が欠片も認知していない事から推測したのだろうけど……流石、その名で評される訳だ。

 

「……つまり」

 

ぼそり、と。

学者の講釈を静かに聞いていた葬儀屋が呟く。ぼくの腕を締め付ける力が強くなった。

 

「この方は――()()()()()()()()()として認識された、という事でしょうか」

 

………あ。

 

「でしょうね。短く纏めると“世界の敵”でしょうか。……ふぅむ、()()()()()()

「……納得できません。こんな私を娶ってくださったお優しい方なのに……」

「その気持ちは大いに同意しますがねシスター」

「学者様も娶って貰ったのですか……?」

「――いきなり怖気が走る事を言うのは止めてください。優しいという所が同意という事です」

 

そ、そそそそうだった!

どうしてぼくが――つうか“ぼく”が安寧者たちに狙われてんの!?

過去に王様やってたくらい品行方正なのに!いや、何度も転生を繰り返してる時点で判定に引っかかったのか……?

……あっ、ありそう……!

 

慄くぼくに、学者が指を差した。

――胸に残る、惨い傷痕を。

 

「ぼくたち“夜渡り”は円卓とリムベルドにおいては不死――こと、“円卓”においてはその加護は強大です。多少な傷程度ならば瞬時に完治するほどに。ですが、君の傷はその形を残し、今なお血を流し続けている」

「それぐらい強い力……」

「拮抗しているように見えますが時間の問題でしょう。このまま行けば――我が友よ、君は死にます。()()()()()()

 

「………そぅかぁ……」

 

なんとなーく感じてる。

この傷を放置していると()()。“円卓”で復活する事もないし、恐らく、また転生する事もないように感じる。

それほどまでに、強い――死を……“安寧”を望む力を感じている。

 

「……()()()、それが正しい事なのでしょうが……」

 

「ん?なんて?」

「いえ。それより、その傷を対処する必要がありますが……当てはありますか?“加護”で治らないであれば、大凡の治療手段は効かないでしょう」

「うん。まあ……“安寧者たち”をボコりに行こうかな、とは」

「大本を断つと」

()()()()()の解決策って大体そうじゃん?」

 

それに、“傷痕”が痛みと一緒に何処かに繋がっているような感覚を与えてくる。そこを辿れば、いると思う――“彼女たち”が。

 

「たぶん……誘われてる気がするんだよね。このまま死ねばそれでよし。向かってきたら――改めて殺すからよし。みたいな」

「……ふむ」

「それより、その……一緒に来てくれるの?」

 

ぼくは恐る恐る聞く。

なんだか一緒に行くのが当たり前みたいな感じで話しが進んでいるけど――この二人は、“ぼく”の知り合いであった、ぼくの知り合いではない。共に夜を渡る同志だとしても、協力し――ッッぃた!

 

学者は、そんなぼくにデコピンをかましてきた。

 

「ぬっ、ヌンデ……!」

「お茶をもう一杯飲んだら出発しましょう」

 

ぼくの抗議に素知らぬ顔で返すと、葬儀屋からカップを回収して背を向ける

……いっ、一緒に来てくれるって事でいいの……?

 

「………」

「………」

 

カチャカチャと学者のお茶を淹れる中。

ぼくは――じぃぃぃぃと見つめてくる葬儀屋の視線に、どうしようかと考える。

……さっき“娶る”とかすんごい事言ってたけど……。

 

「ええっと、ね。ごめんなんだけど――」

「記憶が、ないのでしょう……?」

 

ぼくの考えが分かったように葬儀屋が呟く。

その悲しげな言葉とは裏腹に得心が行ったような表情をしていた。

 

「抱きしめ返してくれなかったので、なんとなく気づいていました……」

 

………。

 

「ぼっ、ぼくたちのご関係は……?」

「――夫婦です

「ふっ……!?」

()()()()()、ですが。私達は忌み嫌われていましたので、神父様が神前の誓いを行って下さらなかったのです。それに一応はシスターですから、私……」

「―――」

 

“葬儀屋”はとある修道院のシスターで、()()()()()()()()()“汚れ仕事”を担当しており、このリムベルドには夜の王を屠る主命を受けてきた……というのが設定だ。“ゲーム”では。

けれど。

この彼女には――例に漏れず、“ぼく”が側にいた結果……。

 

そうなった、と。

 

………。

 

「たっ、大変申し訳なく……!」

「……?何故謝るのです……?」

「だって……そんな、深い仲なのに……」

「いいえ。むしろ記憶など無くていいのです……。私達は、()()()()()()()()()()。覚えていた所で辛いだけです……」

「でっ、でも……」

「――それに」

 

ぼくの言葉を遮るように葬儀屋は顔を近づける。

見上げてくる瞳は一点の曇りもないほど無垢で――慕っているのが伝わってくる。

 

「『ぼくたちはきっとまた会える。なんたってぼくは超有能ちーと転生者だからね』」

「―――ひぃ……!」

「そう言って下さいました。皆さん、気休めだと言っていましたが……ぁああ、貴方様……やはり嘘など吐いていなかった……!」

 

ぎゅうううううう、と想いを伝えるように腕を抱きしめる葬儀屋。ばきぼき、と聞こえてくるのはぼくの骨と――罪悪感だ。

 

なっ、なんて非道な!ぼくが“転生者”だったから良かったけども、そんな適当な事を……!

ていうか決め台詞を他所から聞くと無性に恥ずかしくてしょうがないんだけど……!!

 

……ぼくの周りの女性はなんでこうも逞しいのだろう。

普通、慕ってる人が記憶喪失で素知らぬ顔してたりしたら、こう……変な感じにならない?なんで皆ラオウみたいに男前なん。

 

ぼくは一心に見つめてくる葬儀屋を見てられなくて視線を反らすと、丁度良く学者がお茶を持ってきてくれた。

 

葬儀屋がまたふぅ…ふぅ…と冷ましてくれる。

とっ、とにかく話を変えよう……!ぼくは学者に水を向けた。

 

「きみとぼくってどんな感じだった?」

「そうですねぇ……()()()()()()()、でしょうか。旅の途中に会い、意気投合し、君が亡くなるまで――共に研究をしていました。それ故に、この円卓に」

「そっ、そうなんだ……」

 

例に漏れずにぼく死んでる……。

いや、死んでなきゃこうしていないんだけどさ。

 

“学者”は、ヤロダス研究館という推定・黄金の地に由来する研究機関の出身で。皆大好き(だいきらい)な“しろがね人”の末裔だ。

彼は、ダンディなナイスミドルでイケオジだが――本当はまだ年若く、人工生命であるしろがね人の血のせいで老いが常人よりも早い宿命にある。

 

それから解き放たれる為に“清淨の雫”という物を探しにリムベルドに来た――というのが設定だけど。

 

「……その研究って?」

「――“人の王”です」

 

ぼくは片手で耳を覆った。

 

「各地に遺された超技術による遺物。どれも驚くほどに古く、しかしどれも再現不可能なほどの技巧。所以も何もかも分からず在る物。ぼくは《《本来の研究の合間に》調べていました――その技術を扱う、君に出会うまでは」

 

葬儀屋はそんなぼくを見て、もう片方の耳を優しく覆ってくれる。

 

「神々からの贈り物……“チート”と証していましたね。そしてそれを調べていく内に――“人の王”とは、過去の君であるという事を我々は突き止めました」

 

つまりは何も聞こえない……!

学者の物語を全部ひっくり返している“ぼく”の愚行なんて……!

 

「まあ、つまりは――僕は、“君”という存在を解き明かす為にこの“円卓”に訪れたという訳です」

 

聞きたくない、というポーズに呆れた風に笑った学者はそう締めくくる。

………。

 

「その、きみの宿命とか……大丈夫?」

「“清淨の雫”のことですか?あれは確かに素晴らしいものですが、正直どうでも。今は君の遺志が最優先です。それにしても……()()、知ってますね」

「あーあー!あー!!

 

やった!もうこの下りやった!

……ともかく、ともかく!

今はこの“傷痕”を何とかしよう。

それから、それから“ぼく”の事は考えるから……!

 

……ほんと、全員にとんでもな事やらかしやがって“ぼく”……!

 

一先ず、葬儀屋がまたふぅふぅしてくれたお茶を飲む。

 

………。

ふと、黙った“()()()”。

それに――ぼくは気になる事を思い出した。

 

「……そういえば、此処って何処?普通の円卓って訳じゃあないよね。皆居ないし」

「ええ。“此処”は――()()()()()()()()()()()()”です。」

 

事もなげに言う学者は続ける。

 

「知ってるかもしれませんが、僕もシスターも、“獣”と“爵”の戦闘には参加しています。その中で――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「いや、知らないけど。……全てって?」

「皆さん、“円卓”――そして、()()()()()()()()()()()()()。ぼくは“巫女(レディ)”との協力の下、リムベルドで手に入れた遺物を以て此処を作り上げました」

「……?レディはそんな事言ってなかったけど」

 

「ふむ……。恐らく、世界に隔たり出来た影響と“夜渡り”の特異性によって――“僕達”の事を忘れているのでしょう。効力が良く働いているようで何よりです」

「えぇ……」

「君は恐らく、半死状態になった事で薄皮一枚乗り越えて、“此処”に迷い込んでしまっただけでしょう」

 

……なんか凄い事を普通に言ってる。

えっ、もう一つの“円卓”とかそんなひょこっと作ったりしてもええのか……?

確かに、“ゲーム”でも『繋がりが薄まっていたから二人を忘れているだけで最初からいましたよー』みたいな感じでぬるりと参戦してたけどさ。その時もこんな感じにしてたのか……?

 

ぼくは葬儀屋に視線を向ける。

 

「きみも、そう考えて?」

「私は単にその時、学者様の近くにいたので巻き込まれました……」

「とばっちり」

「その件は本当にすみませんでした、シスター」

「いえ……皆さん優しかったですが大所帯は慣れなくて……こっちの方が楽で助かりました……」

 

 

その時。

 

 

――()()()()()()

 

 

「どうやら“姿無き主”とやらも、君を失うのは惜しいという見解は一致しているようですね」

「……“円卓”からは隠れられてないじゃん」

「ええ、残念ながら。ですが、“標的”を定めるには必須でして」

 

学者はお茶を一気に飲み干すと、机に立てかけていた彼の武器――杖を模した刺剣を手に取った。

葬儀屋も名残惜しそうにぼくの腕を一回強く抱きしめて骨を粉砕すると、そこらに転がっていた彼女に似合わぬ大柄のメイスを手に取った。

 

茶ぁしばくのは終わり――戦いの時間だ。

ゲームオーバーになる前に、ハルモニアをぶっ飛ばしに行こう。

グノスターたちも、たのっ…………()

 

そっ、そうだ!グノスターたちが居ない!!

ぼくのかぞっ――んんっ!アーツ枠が!?アーツ縛りでハルモニア!?

 

「……?どうしました……?」

「ぼくのアーツが居ない!」

「どういう意味ですか?」

 

ぼくは端的に、二人の後に倒した夜の王たる“蟲”――グノスターとフォルティスの力を借りて戦っていた事を教える。……リブラ?何の事ですか?

 

「まあ……!“夜”を……!」

「ふむ、“夜”を使役していた、と……」

 

ぼくの言葉に何故か喜ぶ葬儀屋と、思案する学者。

なんでシスターは喜んでるの……?

 

控えめに喜ぶ彼女を疑問に想っていると、学者は――()()()()()()()()()()、急に近くの棚を開けると……布に包まれた物を取り出した。

 

……よく見ると、布には“隠者”の使う魔術の文様が刻まれている。

 

「これは、君が来る前の我々が“夜の王”を撃滅した際に、側にあったアレの遺物です。僕達と共に隠れてしまっていたので聞かされていないでしょうが……もしかしたら、君の力になるかもしれません」

 

そうして布を解くと現れたのは――歪み捻れた、大きな()。一つ。

 

「我々が“爵”と呼称した……竜の化け物の歯です」

 

おっ、おお!

“爵”か……!

……出来れば“獣”の方が格好良くて好きだけど……力を借りれるならそれでもいい!紫色の雷振り乱すとことか好きだし!

 

ぼくはその歯を受け取った。

よし、頼むぞ!ぼくに力を貸してくれ!

 

「………」

「………」

「………」

 

なんにも おきなかった !

 

「あれ?」

「駄目なのでしょうか……」

「かもね。グノスターたちが特殊だっただけかぁ……」

 

残念。いっそ“夜の王”コンプとか密かに考えていたんだけど。

ぼくは諦めて歯を返そうと学者を見るが――彼は思案顔をしていた。

 

「……“爵”は何かを求めて啼き叫んでいた……残されていた“絵”を考えれば……」

「どうかした?」

「……友よ。“爵”にも名前はないのですか?」

「んん?ああ、アイツは()()()って言って―――」

 

――瞬間。

 

手に持つ歯が脈動を始める。

軋み切れ――中から紫雷が迸り、“夜”が溢れ出した。

 

視界の全てを覆った。

 

「のわあああ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

無の荒野。

無限に広がる空には――紫雷が荒れ狂っていた。

 

無秩序に無差別に、何もかも全てを埒外に置き去った暴威。

 

その下に――その“()”はいる。

 

肥大化し、膨れ上がった巨体には紫雷が迸り、その血肉を焼き、雄大であった翼は焼き焦げている。

飢えに苦しみ抜いた末に首は捻れ、喰らう事以外を忘れ去り――大きく裂けた口の中には、無数の生物が入り混じった歪で醜い歯で埋め尽くされ、閉じる事ない口から溢れる唾液が地を濡らす。

 

 

『■■■■■―――ッッッ!!!!?!!?!?!』

 

 

――飢えと渇きに支配され、元がもはや()()()()()()()()()()()()()()()

 

――“夜”は、その名を告げる。

 

 

“夜の爵、エデレ”

 

 

“夜の王”――“喰らいつく顎”

全てを呑み込む紫雷の暴威。爵の名すら忘れたその存在が―――

 

「ふへぇあ……」

 

――何故か、ぼくの目の前にいた。

 

(なっ、ななななんだこんなあれ?葬儀屋は!?学者は!?武器すら持ってないんだが!?歯を持つだけでバトるとか罠過ぎるでしょ!?)

 

混乱、混乱、混乱しかない。

だが、どうやらまだアレはこちらに気づいていない。何とか……。

 

と、その時。

不意にエデレは啼き叫ぶの止めると――ギュリンっ!とその巨体に似合わぬ速度で首をこちらに向ける。

喰らう口以外何もかも失っているから分からないけど……完全にこっちを見てる……!!

 

「やっ、やあ……エデレ。その間違えて来ちゃっ――」

『■■■■■―――ッッッ!!!!?!!?!?!』

「――うわああ!!なんかごめんなさい!!」

 

平和的交渉など出来る訳もなく、猛然とこちらに飛びかかってくるエデレに顔を背けて―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――はっ!」

 

――気がつけば、不安げにこちらを伺う二人が視界に映った。

 

「だっ、大丈夫ですか……?急に歯が貴方様の身体に消えたと想ったら……」

「……“爵”――エデレと接触出来たと?」

「うん……おそらくメイビー」

 

なんだかよくわからないが、“内”に夜の気配を感じる。たぶん呼べばエデレを召喚出来るような気がした。

けど――

 

(大丈夫かなぁ……)

 

グノスターのヒスなんて比べ物にならないくらい話が通じなそうなんだけど……。

でっ、でもこれで少しは二人の足手まといにはならないよね。

 

「よしっ!ちょっと武器取ってくるね!」

 

何故だか気難しげな二人を背に工房に向かう。

さっさとハルモニアを倒して、皆の下に戻らないとね!

 

 

 

 

 

 

 

………

……

 

 

 

――()()()()()()()()()()()()

 

静まり返った“円卓”に聞こえたそれに、“追跡者”は反射的に顔をあげるがまた伏せる。

……どうせ、時たま聞こえてくる霊鷹の気まぐれだろう。

 

「……ぁ……」

 

そう思った時――“復讐者”の掠れた吐息がやけに耳に響いた。

 

「ぁ……ぁぁ……!駄目だ駄目だ逝かないでくれ……!!」

 

急に錯乱し始めた少女人形に皆で部屋に踏み入る。

友を揺さぶる手はどうしようもないほど震えていた。

 

「魂が弱まってる……!このままじゃ……!」

 

―――。

“復讐者”はその産まれから、魂に関しては感覚で理解出来ている。

その彼女がそう言うのなら――もう、一刻の余地もない。

 

何も言えず、皆ただ呆然とする中で――“隠者”が意を決したように息を吐いた。

 

 

「だれか、円卓の上に置いてある“お守り”を持ってきて」

 

 

その指示に疑問を差し挟む事無く、執行者が部屋を出る。

そうして友の周りに何やら準備を始めた隠者に声を掛けた。

 

「何をする気だ?」

「危険だけど――()()()()、“夜”に接触する」

「なんですって?」

 

その言葉にレディが反応する。

青白くなった顔はワナワナと震えていた。

 

「グノスター……“蟲”や“悪魔”だけじゃないの?」

「……詳しくは時間がないけれど。この子の中に――()()()()()()()()()()()。もしかしたら坊やはその中かもしれない」

「―――!」

 

執行者が草臥れた襤褸を抱えて持ってくる。

隠者はそれを受け取ると――友の身体の上に乗せた。

 

「……グノスター、フォルティス。聞こえていたらどうか力を貸して。坊やを助けたいの。貴女達もそうでしょう?」

 

その名。友に巣食う夜の王――“蟲”に呼びかけると、抉れた胸の“内”から夜が溢れ出してくる。

……了解なのかどうか定かではないが、道……なのだろうか。

 

「皆、もし私が」

「――私も行く」

 

隠者が何かを言う前に復讐者が遮った。そしてそれは此処にいる全員が同じ気持ちだろう。

友を助けたい。その気持ちは一緒だった。

 

「……これは、“お守り”の効果を利用して、無理やり精神を他人の中に入れるもの。“夜”にも接触する以上……()()()()()()()()()()()――それでもいい?」

 

言葉は無かった。それが答えだ。

 

「わかった。皆、坊やの身体の何処かに触れて。気を、しっかりもってね」

 

言われた通りに、友の身体に触れた瞬間  きゅう にしかい がまっ 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―― ああああっっ!!!!坊や!坊やァああ!!なんでやっと一緒になれたのに!?ずっと一緒のはずなのに!?なんで、なんでなんでなんでいやだいやだいやだいやだ!!!!もう離れたくない!!……フォルティス!フォルティス何とかして!! ――

 

 

精神に入り込んだ悲痛な“声”。

暴れる蛾を抑える、蠍の視線を感じながら。

 

 

もっと奥へ奥へ、奥へ沈んでいく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして気がつけば、()()()()()

 

 

 

――“夜”に象られた見慣れない、町並み。

 

――中空に掲げられた“黄金樹”の戦旗が囲む。

 

 

 

その場所に。

 

 

 

 

 







【“遺物”を入手しました】

―――――――――

【爵の覚え】
 
“夜の爵、エデレ”が内包していた夜。その残された断片。
転生者の“内”に収められたそれは、古い執着のままに、その暴威を撒き散らすだろう。

古い時代。ある島の全ての頂点に君臨していた雄大なる“竜”は、一人の人間に屈辱的な敗北を喫したばかりか――命すら見逃された事に憤怒した。
以来その人間を付け狙い、勝負を挑み続け、時に己以外に敗北しそうになるのを許せず力を貸す事すらあった。

黄金の流星が堕ちた、あの日まで。

人間が姿を消し、竜はいつしかどうしようもない渇きと飢えに苛まれ、目に付く全てを食らってなお満たされず……強靭なるその存在は捻れ歪み蝕まれ――。

そして、空が青く泣いた時。

狂乱のままに――“夜”に喰らいつき、その身を沈めた。
唯一無二、己が望む人間の残滓に誘われて。

―――


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