“転生者” 作:ダフネキチ
ああ 讃美の響きが世界を伝う
永遠なる蕾よ、安寧は汝らを殺した
偉大なる光輝の栄光たらんことを
霊鷹に導かれた先――またまた訪れた“リムベルド”。
眼下に広がる地はいつもの我が庭だったが……
悍ましい傷痕が伝えてくる。
“安寧者たち”――ハルモニアがこの地で、ぼくを待っている。
(……っぅ……)
じくりじゅくじくと。
意識したからか、傷が強く痛む。……心臓剥き出し状態なのだからほんとなら痛いどころの騒ぎじゃないはずなんだけど。加護様々って感じだろう。
(“ゲーム”で言うなら、HP持続減少……いや、最大HP持続減少って感じ?)
血がずっと溢れ、落ちていく。
感覚的には深刻になるほどじゃない。けれど、確実に命が減っていっている。
(……いつもみたいに動けるかなぁ……)
“加護”があるとはいえ、痛みに耐えつつは分からない。
……葬儀屋と学者を巻き込んでしまった手前、せめて足手まといにならないようにしないと。
“傑作”を握りしめた、ぼくのそんな決意は――地に降り立った瞬間、霧散した。
「行きます……」
例の如く小拠点に屯していた“貴人”たちに飛び込んだのは――“葬儀屋”。
大柄のメイスを無造作に構えた彼女は、その細身から繰り出されたとは思えない重い一撃で貴人の頭を砕き――その勢いのまま、近づいてきた他の奴に横薙ぎで腕ごと背骨を粉砕、流れるようにまた違う奴の頭を粉々に。
恐ろしく素早く、隙のない着実な動き。
あっという間に貴人たちは――いや、
少し離れた所にいた貴人の魔術師。
そいつは、緩慢な動作で魔術を発動しようとしていた。
ぼくは援護しようと“傑作”を構え――る前に。
「……んぁ……」
葬儀屋は
彼女の力。その
――“トランス”。短時間、彼女の身体能力を劇的に向上させるスキル。黒いベールを纏い、より早く――より恐ろしくなる。
緩慢に放たれた魔術を――そこを見ないまま、ステップで回避。そしてそのまま一瞬の内に、魔術師の背後に回り込むと……メイスを上に振り上げた。
ぐしゃりと頭蓋が砕ける音。
それを最後に、小拠点の貴人たちは全滅した。
「………」
その光景は“ゲーム”でも見たことはある。
メイスによる素早く重い連撃と、彼女の
単純で分かりやすいパワー型。彼女はそんな“夜渡り”なんだけど……。
(……
あまりに鮮やかに対処された光景に呆然としていると――すすっと葬儀屋が近くに寄ってくる。
「近くの“大教会”に行ってきますね……」
「えっ?ああ、うん。じゃあいっしょ――」
「――お願いします。僕達もすぐ追いつきますよ」
ぼくが答えようとするのを“学者”が遮る。
彼の答えに頷いた葬儀屋は、颯爽と小拠点を飛び出していった。
……彼女が携えるメイスの血の跡を見送って、“学者”を見る。
「その“傷”では本調子とは行かないでしょう。何か支障があるかもしれませんし、少し慣らすべきかと」
学者は近くの木箱を杖剣で破壊し、中から出てきた“アイテム”を幾つか手に取った。
その姿は少し、悠長に見える。
「確かにそうだけど、協力しないと……」
「……少々無責任に聞こえるでしょうが――シスターの“
「……?」
「さぁ、参りましょうか」
幾つかのアイテムを懐に仕舞った学者に促されて、小拠点を出る。
見えたのは、遠くに見える“大教会”へ入っていく葬儀屋の背中と――彼女が行きがてらに殺していったであろう敵の死体が点々とした街道だった。
“前”にも行ったことのある大教会。
けど――今回、そこにいるのは“火の監視者達”じゃなかった。
綺麗な白布を、頭や身体に過剰に巻き付けた異形達。
大きな黄金の笛を携える――“神託の使者たち”だ。
一見細長い腕を生やした雪だるまにしか見えないソレらは――時代の変革、あるいは新世代の神の兆しが見つかると……何処からか現れる、人ならぬ楽団たち。由来も曖昧な存在だ。
――“夜”に呑まれてなお、ソレらは笛を吹き続けている。
単に狂気に支配されてしまっているからか――それとも、
それは分からない。
言えることは、ぼくたちには関係ないから普通にぶっ倒すのと――その笛結構強いから低確率でもいいから直接ドロップして欲しかったというだけだ。“潜在する力”から引くの辛いねん。
そんな使者たちは、ぼくたちが辿り着いた時にはもう全滅一歩手前だった。
“ゲーム”とは違い、それなりの数がいたとしか推測出来ないほどの死体が辺りに散らばっており――その奥、朽ちた祭壇の前にはこのロケーションのボスエネミー、大型の使者が四体。
ソレらが彼女に攻撃を仕掛ける前、その一瞬――むずり、と彼女は
「んぁ……ぁ」
すぐに抜かれた彼女の手。
唾液の線を描きながら“ソレ”を構える。
彼女の“
葬儀屋が忌まれる源泉になった一端――
それは蠢くようにその姿を伸ばし、その勢いのまま――彼女の身体が使者たちに向かって飛び込んでいく。
重力すら捻じ曲げた高速の突撃。構えられながら徐々に巨大化していく異形の骨は、使者たちの中央に突き刺さったと同時に弾け、使者たちをその衝撃で吹き飛ばす。
この一撃こそ、“葬儀屋”の
ちょいダサで呼ぶならば――人間ミサイルだ。
葬儀屋は、勢いを失った異形の骨から手を放し――くるりと宙を舞い着地すると、その身に黒いベールを纏ったまま、メイスを振るう。
“トランス”によって強化された動きは、大した抵抗すら許さずにぐしゃりぐしゃりと使者たちを確実に潰していっている。
………うん。
「――
確かに、“葬儀屋”は強いキャラクターだ。
DLCで追加されるに相応しく、パワー型でありながらテクニカルな扱いも要求される玄人キャラ。万全に回れば強力そのものだろう。
けれど――
一人でロケーションを殲滅出来る立ち回りもそうだが、そもそも“トランス”は数秒が精々……“強化トランス”でも十数秒かそこらのはずなのに――未だ、黒いベールが消える素振りもなく、使者たちの返り血に染まっている。
明らかに“
ぼくが説明を求めるように学者を見ると――彼は苦笑気味に肩を竦めた。……その仕草が妙に似合っててムカつく。
「彼女の“力”は、我々の中で一歩抜き出ています。一緒に隠れてしまった時――何とかして皆さんの所に戻そうと考えるほどには」
「そんなに……?」
「ええ。
「……そうなんだ。なんだかんだ聞いてそうだけど」
「僕が“学者”と評されるからと言って、何でも知りたがる訳ではないですよ。淑女の秘密を明かすほど野暮ではありません」
「気障ったらし……!」
「あの……終わりました……」
ふと、声を掛けられる。
振り向くと、黒いベールを纏った葬儀屋が側に立っている。おずおずとメイスを抱え、こちらを見上げる仕草は――返り血塗れの姿にはびっくりするほどアンマッチだった。
「貴女に感謝を、シスター。惚れ惚れする手際です」
「……その言葉はどうか、この方に……」
「おや、
「はい……」
学者の言葉をさらりと流した葬儀屋はベールを解く。
隠れていた幼気な顔は、言葉を求めるように――ぼくを見上げ続ける。
……。
“
自らの“力”によって忌まれ廃絶され利用され、故にそれを忌み嫌いながらも――
彼女は“夜”との戦いの中で、その“力”と向き合っていく……というのが流れなんだけど……。
「………?」
無垢な色を覗かせる、“
それどころか――何処か、誇っているように見えた。
「ええっと……ありがとう、強すぎてびっくりしたよ。流石だね」
「……!はい……
「……――」
――ふぅぅぅぅぅ。
……。……“ぼく”のせいか。
わかってた。わかってましたよええ!それがわかんないほど馬鹿じゃあありませんよ、ぼかぁ!
よかった、って言えばいいのかな?前向きに捉えられたってこと?
……でも、どうして“力”が増しているんだろう?好意的に受け入れたからポテンシャルが発揮されたとか?
「さて。では、“潜在する力”を回収しつつ、次は高台の方へ向かいましょうか。見間違えでなければ“大野営地”が近くにありましたし、物資の補充をします」
「はい、頑張ります……!」
「気合十分ですね、シスター」
「全部、全部ぐっちゃぐちゃにします……!」
「……少し落ち着きましょうか。血に酔い過ぎです」
意気込む二人の背を追いながら、ぼくは少し焦りが出てくる。
あっ、足手まといにならんようにしないと……!
“潜在する力”に面白みもなく、幾つかロケーションを確認しつつ上がった高台。その近く。
確かにそこには“大野営地”が設営されていた。だが、そこにあるのはその残骸でしかない。
倒壊しているその場所。原因は――“狂い火”だ。
そう、あの畜生悪魔リブラが大好きな呪い火。全てを焼き溶かす黄色い炎。
アイツですら御しきれない理由がそこには現れている。
その大野営地にいたのだろう黄金樹の兵士たち――皆々、目が黄色い炎に焼かれ、灯った痛みのまま、自らが築き上げた死体の山に群がっている……その姿。
人から人へと感染し、絶望と怨恨の炎は狂気を拡げる。
――本編世界で封じられるに足る悍ましい光景だった。
ぼくは直で見るのは初めてで少し気味悪いし、数も多いが……やる事に変わりはない。
気づかれる前に攻撃を仕掛けようと“傑作”を構える――のを、学者の杖剣で制された。
彼を向く。軽くウィンクされた。
「……なにさ」
「友よ。ここは僕とシスターにお任せを」
そう言うと、学者は懐から幾つかの丸い壺を取り出した。手の平ほどの大きさのソレらは色付けされた封がされており、その意味を表す。
色は赤――“火炎壺”だ。
割れた瞬間、爆発と炎を撒き散らすスタンダードな投擲武器。
彼はそれを上に放ると――カンッ、カンッ、と。
杖剣で壺を、敵集団に向けて打った。えっ、なにそのカッコいい使い方。
「では――シスター」
「はい……」
緩い放物線を描くそれが集団に着弾する前に――学者は古びた書を取り出した。
それは禁書。その力が、彼の“
一人でに捲れ始めた禁書。その一ページを、彼は引き千切った。
瞬間。
学者を中心に力の波動が広がり――敵と敵を、
そうして飛んでいった火炎壺が集団に当たり、辺りに火が飛び散ると――
“共感術”。
禁書の力によって、敵集団のダメージを共有させるかなり強力な力だ。
現に投擲武器とはいえ、普通に殴った方が強い火炎壺でも敵の間に巡り巡れば強力なダメージ源となる。
さらには――
その集団へと飛び出していく、“異形の骨”がトドメとなった。
一気に倒れ伏す敵を尻目に、そのまま奥へと駆け出す葬儀屋と――悠然と増えた死体の山へと歩き、生き残っていた騎士隊長の喉元に杖剣を突き立てる学者。
――びっくりするほどのコンビネーション。
「………」
隠れてから
ぼくは半ば圧倒されながら二人の後――この大野営地の奥へと、続く。
そこにいるのは、ボス――“狂い火トロル”。
心の底から大嫌いである壺投げトロルが、壺の代わりに狂い火を持っている様である。
“ゲーム”では結構当たりな敵。だが、黄色い炎に焼かれたその異様は計り知れない。
敵の接近に気づいたトロルは――咆哮を上げ、目から狂い火を迸らせる。しかし、ラブリーマイエンジェル復讐者たんですら苦痛を覚える呪い火が、トロル程度に耐えきれるはずもなく。
堪えきれぬ痛みに、咆哮はやがて絶叫に変わり――周囲全てに黄色い炎が撒き散らされる。
ああなると近接職は勿論、遠距離職ですら危険になってくる。二人も攻めあぐねている。
あの二人を見ていれば何とかなるだろうけど……。
(そっ、そろそろぼくも活躍しないと……!)
気遣ってくれてるのは嬉しい。ぼくも心臓剥き出しマンと一緒なら気遣うもん流石に。
けれど――だからと言って姫プレイ甘んじれるかと言えばそうじゃない!ひっじょーに申し訳ない!
でも、発狂しまくってるトロル相手にクロスボウはイマイチだろう。
ここは……――“内”へと意識を集中する。
「二人とも!ちょっと離れて!」
ぶっつけ本番だけどうまく行きますように――!!
「――“
その呼び声に答えるように。
ぼくの“内”から夜の靄が溢れ出し、その奥から狂乱の叫びが響き始め――
『■■■■■―――ッッッ!!!!?!!?!?!』
溢れ出る紫雷と共に、竜であった化け物――“夜の爵、エデレ”が飛び出してくる。
エデレは身体を振り乱しながらトロルへと突進、狂い火が当たる事すら厭わずに――そのまま裂けた大口でトロルの腹を挟むように咥え上げる。
そして、そのまま獲物をぐしゃりぐしゃりと咀嚼し始めた。
トロルは抵抗しようと藻掻くが、やがて血と臓物が溢れ出し――エデレの強靭な顎によって、二つに別れて事切れた。
『■■■■■―――ッッッ!!!!?!!?!?!』
「おっ……おお……!」
「………」
「“爵”……いえ、エデレですか。これはまた」
絵面はグロテスクそのものだが、一瞬でトロルを倒せたのは凄―――
『■■■■■―――ッッッ!!!!?!!?!?!』
エデレはぐりんっ、とその口をこちらに、猛然と走り込んできた。
近くの葬儀屋、学者にも目を向けず――
「うぇえ!?」
「――貴方様!」
葬儀屋は一瞬でアーツを使う。
“異形の骨”による一撃は、ぼくを喰らおうとするエデレを仰け反らせ――その一瞬で、召喚時間が切れたのだろう。
微かな紫雷を残して、その姿を消した。
「貴方様!ご無事ですか……!」
「うっ、うん……」
こちらに駆け寄ってきてくれる彼女にそう返す。
心拍数が上がって、じんわりと熱を込もった血が溢れる心臓を抑えて――なんだか情けなくなってきた。
「ごめんね……」
「……?何がですか……?」
「なんだか足を引っ張ってる気がする」
「そんな事……!」
「そうです、友よ。そう気負わないでください」
近づいてきた学者がそう言ってくる。
モノクルを弄る姿が様になっていた。
「君の性質を忘れていたのかもしれませんね。気遣ってはいましたが邪険に扱っているつもりはありません」
「そう?」
「ええ。君は僕達を巻き込んだ事を気にしているのでしょうが――寧ろ、君の手助けになっているのに張り切っているので安心してください。堂々と僕達に頼って頂いて構いませんよ」
「……そっか」
うん……――
よし、グジグジ終わり!痛みのせいかヘラってたのかもしれん。
言われた通り、もっと堂々と二人に頼って行こう。ピクミンには慣れてるからね!
「そうだね!もっとぼくの為に頑張るといいよ!」
「はい!お任せください……!」
「……そこまでになれとは言ってないんですが」
「それにしても、どうして“爵”は貴方さまを狙ったのでしょう……?」
大野営地の殲滅が終わり、高台からロケーションの確認をしていると、気を取り直してぼくの腕を粉砕している葬儀屋がぽつりと呟いた。
単眼鏡の存在をすっかり忘れて後悔していたぼくは、彼女の方を向く。彼女は労しげにぼくの“胸”を見つめている。
「手近に私や学者様もいたのに……まるで
………。
……たぶん、ワイのせいなんやろなぁ……。
なんかわかってきた。基本的に“ゲーム”に無かったものは全部“ワイ”のせいにしとけばいいって。
「恐らく、“人の王”のせいでしょう」
ほら、“ワイ”のせいである。
学者は懐から、古びた本を取り出してきた。でもそれは秘儀で使う禁書じゃない。もっと簡素な……けれど大切に管理してきたのが分かる代物だった。
それを開き、ペラペラとページを捲ると――
「……
それはドラゴン……に見えなくもない何かの絵。確かにエデレに似ていると言われればその通りかも。
身体中に“〜”線が無数に引かれていて何だか気味が悪かった。
「学者様、それは……」
「はい。友に見せるのは初めてですね――これは、
「えっ」
ぼくはもう一度、その絵を見る。
……。こっ、こんな画伯みたいなセンスしてんのかなぼく……。
ていうか、まさか……。
「ねぇ、その本の中全部――」
「君の絵ですよ。地面に書かれていたのを僕が書き写した物ですが」
「ええ……なんだってそんなもんが……」
ぼくの質問に学者は、顔をリムベルドに向ける。
その風景を見つめる視線は昔を辿るように遠くを見ていた。
「君と死に別れた後、“人の王”の研究を本格化するにあたって色々な探訪をしていました――その一つが“深き森の魔女たち”との邂逅です」
「……んん?それって、“隠者”?」
「ええ、彼女の一族。老いを克服した事は有名でしたから、過去の君がいる時代に生きていた方もいても可笑しくないと思いまして」
学者はモノクルを弄り、苦笑する。
「とはいえ期待はしていませんでした。彼女達は表舞台から姿を消して久しく、一番新しい記録では『良き隣人であった彼女達が突如人々に危害を加え始め、苦慮した諸外国が大金をはたいて――後に“魔女殺し”と唄われるようになった裏社会の人物を雇い、粗方殺させた』のが最後で」
「ほぉーん……」
“隠者”のストーリーには“深き森の魔女たち”は詳しく描かれてないから、なんだか歴史の裏を知れたみたいでワクワクするな。
こういうのが歴史家の醍醐味なんだろうねきっと。
「ですが、
「“ぼく”の……って、ああそうか……」
“隠者”の側にもまた、“ぼく”がいた。
詳しい事は知らないけど……坊や呼びなのが何となく分かった。
その時の“ぼく”はきっと子供だったんだろう。……なんで?
「その時に、『自分が王になった話』だと言いながらこの絵を書いていたそうです。正直眉唾な気もしていましたが――その後、色々なものを調べ……この“リムベルド”を至り、真実だと思っています」
学者はそうしてまた“絵”を見せてくる。
「君は“人の王”の事をある程度思い出している様子。お墨付きを頂きたいのですが?」
「いや、思い出したってよりは……」
なんとなーく推測できた?って感じなんだよなぁ。確定情報、ラダゴンに殺されたとゴッドフレイ王と会った事ある程度だぞ。……えっ、リブラ?そんな不審者は知らない。
つうても学者が期待の眼差しを向けているので、ちょっと考えてみる。
「それで、これはどういう絵なの?」
「魔女曰く『これは王になる前の話。先王の奴隷として無茶振りばかりを押し付けられていた時の事。国の近くの島には、大規模な鉄鉱山があったが、そこに“爵”と呼ばれた竜がいるせいで手付かずのままだった。先王はこれの対処を命令した。家族の命を人質に』」
「なにそのクソ王。てか奴隷やん“ぼく”」
「“君”も嫌ってたみたいですよ。『悩んだ王は、“家族”の下に戻り、
「ある物?」
「
「―――」
「それで“爵”を
「―――」
「『“爵”を屈服させた王は、命を取らない代わりに島の資源を自由に使う事を誓わせ、後に“爵”に
ぼくは天を仰いだ。
……すまん、エデレ。全てはワイの責任や。だがぼくは謝らない。
そりゃキレるわ。ああなっても襲うわそりゃあ。屈辱的過ぎる。この絵の“〜”全部蟲かよおぞましすぎる。ぜってぇ“ともだち”じゃねぇわ。頻繁に来てんのそれ報復だから絶対。
てかその毒グノスターさんちの奴!世代一緒なの君たち!?初めて知ったわ!
でも……うむぅ、流石ぼくの“家族”、竜すらイケるのかアレは。
「……ふむ。とすれば、やはり全て真実か……厄介な事になりましたね……」
ぼくの苦渋の顔である程度理解したらしい学者は何やらぶつぶつと思索に入った。ペラペラとめくるページにはどれも落書きとその説明らしき文字が目白押し。
ぼくは目を反らした。
過去の“ぼく”――人の王やらかし全集みたいなの見たくないもん。
目を反らした先。
ぼくの腕をミキサー無しで粉砕している家電系女子は無垢な色を乗せてぼくを見上げていた。
「やはり、貴方様は博識なのですね……」
「そういうんじゃあ……無いんじゃないかなぁ……」
知ってたというかなんというか……。
「それでしたら“アレ”の事も分かるのではないのでしょうか……」
「
「……学者様?」
「……“夜の王”は全て繋がっている。だが、そうすれば何故我が友は“夜渡り”になっている?どうやって黄金樹と……」
「……ちょっと失礼しますね」
葬儀屋は生きたままハンバーグにされていた哀れなぼくの腕を解放するとぶつぶつぶつしている学者の腰に提げられたカバンを漁り始めた。
バキボキと治り始めている腕を撫でながら、ぼくは首を傾げる。
……アレってなんだろう?
また人の王の嬉し恥ずかしの過去の物じゃないだろうな。ぼくもうエデレくん呼びづらくなったんだけど。
しばらく漁っていた葬儀屋は“アレ”を見つけたらしく、それをぼくに見せてきた。
「これ……なのですが」
「―――!!!!!!!!??????!!!??!」
ぼくは驚愕した。
何故なら、彼女の手に収められた小さなソレが――ぼく。いや、“
心の底から見たかったものに他ならなかったからだ。
「学者様が仰るには、“円卓”と“リムベルド”の創生に携わった“挿し木の一族”の遺物だそうです……。私にはただの縄の残骸にしか見えないのですが……」
「………」
「ですが、これを使って――私達のいる“もう一つの円卓”を作れたようでして……。学者様はずっと気にしておられました……貴方様なら、なにか……」
「………。……い――」
「い?」
「――“糸の端”ぃぃぃ!???!!?」
ぼくの叫びが木霊する。
それはエルデンリング・ナイトレイン。“ゲーム”の中の心残り。
公式が用意したイースターエッグ。
ついぞ入る事が出来なかった、“リムベルド”の秘所への道標。
………
……
…
気がつけば、“隠者”はそこにいた。
――中空に掲げられた“黄金樹”の戦旗が囲む。
――“夜”に象られた見慣れない、町並みに。
「ここは……?」
辺りに漂う“夜”の濃い気配。
そして堕ちていった意識の端で見えた“蟲”の姿。
とすればやはりここは――
「……坊やの“中”?」
不思議な光景だった。
老いを克服し、リムベルドに至るまで“隠者”は各地に放浪していた。けれどそんな記憶の中ですら――こんなあべこべな町は見た事がない。
どこも古く、どこも新しい。ツギハギな印象を何処か感じ取れていた。
それに――どうして黄金樹の印章が、ああもう威圧的に周りを囲んでいるのだろう?
「……みんなは?」
ふと、呟く。
共に入っていったはずの同志達の姿が見えない。
けれど――ここにいる、という異口同音の返事が伝わってきた。
……姿は見えない。けれど、存在はしているようだ。
此処は“夜”に支配されている場所。なにがあってもおかしくない。
――こっちだ。
復讐者の言葉が聞こえてくる。
その言葉が差した先は――町に似合わない、少し悪趣味に見えるほど豪奢な城だった。
――夫の気配がする。
そう言う復讐者の言葉に“隠者”は頷く。
このまま闇雲に進むより、彼女の言葉を信じた方がいい。
「行きましょう」
“隠者”の言葉に無言の肯定が帰ってきた。
城はすぐに辿り着いた。
町の中心に座しているようで見失う事もなかった。
その間に見受けられる様々な装飾から――此処は、昔の坊やが支配していた国。
――アイツの昔の城かぁ?にしちゃあセンスはねぇが。
無頼漢の言葉が聞こえる。
確かに。坊やも装飾が好きだったけれど、調和も大切にしていた。『華美はこえるとカビにも等しいんだよっ!』とやけにいい事言ったと胸を張るあの子を思い出した。
――これはアレの物ではない。その前の王の物だ。
聞き慣れない声が聞こえてくる。渋い、低い男の声。……執行者?
――おお!お前さんの声を聞くのは初めてだなぁ!
喜色滲ませる無頼漢に言葉は返らない。今のは思わず声が出たものだろう。
……
――入るわよ。
レディの言葉に従い、城の扉を開けてみる。
“夜”が構成しているせいか重くも何ともなくスルリと扉が開かれた。
その先に広がっていたのは――城らしい大広間に……占領している無数の機械群だった。
足の踏み場が最低限確保されているが、それ以外は作りかけの何かと完成されている何かが犇めき合っている。天井すらも何に使うかもわからない威圧的な機械が吊るされていた。
その光景は――
「まさか……城全部、坊やの“工房”になってるの……?」
隠者は驚愕したが――何人かは納得のため息が聞こえてくる。
……もしかして坊やが大きくなったらこうなっちゃうのかしら……どのくらい大きな家に住めば……。
――気配はあっちから感じる。
呆然とする皆を引き締めるように復讐者が言う。
差す場所は真っすぐ。よくある城の構造で考えれば――玉座が座す、“謁見の間”だろうか。
……そこにあの子は座っているのかもしれない。
息を飲んで先に進む。
触れれば怪我をしそうな機械たちの山々を抜け、一際豪奢の扉に辿り着く。
慎重に開けると、最初に目に飛び込んだのは輝かしいほどの装飾が施された玉座に座る――
作りかけの機械やら本やらだった。
威光を示す為の刺々しい背もたれには変な布や機械が引っ掛けられていて……それに紛れて、王冠らしきものが掛けられていた。
――……どうやらアイツには玉座の価値はわからんらしい。
苦笑している追跡者の言葉に同意する。あの子らしいと言えばらしいけれど。
だが、肝心のあの子の姿は見えない。
「いない……?」
――……いや、確かにここに気配が。
――
ふと、周囲に響き渡る声。
その声は坊やにそっくり……いや、そのものだったが――確実に違う。
……。……まさか。
「……“かじりやさん”?」
――
その名を知らない同志達の困惑が聞こえてくる。……そういえば、己の過去は無頼漢と鉄の目以外に詳しく知らないのだった。
説明しようと口を開く前に――
――
――
――
異口同音の問いに一つずつ答えている“かじりやさん”。
……もう一人の私の子。“坊や”と会わなければきっとそう思う事も出来なかっただろう。
――
そうだ。感傷に浸っている場合じゃない。
隠者が説明する前に――レディが口を開く。
謎の存在による襲撃で、坊やが重傷を負っている。もしかしたら深い所に意識が行ってしまっているのだろうと考え……此処に来たと。
――“
その瞬間。城を象っていた“夜”が蠢き出した。
……どういう理屈か不明だが、探してくれているようだ。
沈黙が広がる。
待つ間、手持ち無沙汰になって周囲を見渡している内に――外から見える“黄金樹”の印章が目に入った。
――此処は、何なの?
ふと、レディの呟きが聞こえる。それは此処にいる全員が同じ気持ちだろう。
――
その問いに“かじりやさん”は答えてくれた。
静かで――それでいて強い口調で。
――
――
「……!それは――」
それを訊ねる前に、蠢いていた“夜”が止まる。
見つけられたのだろうか?
――
――
――
――
ベッドに沈んでいる坊や。
それがぬるっと起き上がって――何とかなったわ!と親指を立ててくる情景が頭を過る。
……ありそう。ありそう、だけど……。
――
沈黙がそう答えていたのだろう。
“かじりやさん”は少し呻くと――
――
――“
その言葉に、見えずとも皆が頷き合っているのを感じた。
それであれば――自分たちの専売特許だ。“夜の王”に対する、それならば。
――ありがとう。
異口同音の同志たちの言葉に……胸が熱くなるのを感じた。皆が“かじりやさん”の言葉を信じてくれる。それが何処か嬉しかった。
「私からもありがとう。もう一人の坊や。一段落付いたらまた会いにいくね」
――……
隠者は城の出口に足を向ける。
帰り方は何となく分か――
――バタンッッッ!!!――
目の前で扉が強く閉まる。
一人でに動いたその意味を――この場にいる全員が理解していた。
――……何の真似だ?
追跡者の低い声が皆の意識を表していた。一瞬、それに引っ張られた隠者だが、すぐに我に帰って庇おうとする前に――
――
そう静かに“かじりやさん”が話しだした。
――
「いったい何を……?」
悪魔は……恐らく、対した“夜の王”。あの子がリブラと呼んだ存在だろう。だけど……“婦人”?それについては覚えがない。
いったいどんな存在――
――
……なんか急に俗物的になった。
大した事ないのでは……?
――
その時。
外が急激に明るくなってくる。振り向くと――巨大な閃光が、空から降ってくるのが見えた。
アレは……――アレは……!エルデの――!
瞬間――視界全てが轟音と共に消え去った。
坊やの国。過去のあの子が築き上げた全てが――
――
それを最後に意識が、何処かに上がっていくのを感じる。
『■■……!■■……!!』
全てが瓦礫と化したそこで。
――
――気がつけば、円卓の控室に戻っていた。
顔を上げると皆も戻ってきたらしく、同じようにこちらを窺っている。
「“
レディが呟く。
疑問に満ちたその言葉は隠者も……あるいはこの場にいる全員がそうだろう。
隠者は長きを生きているが――それでも、聞いた事がない。
「……“悪魔”が」
ふと、復讐者が言う。
少し後ろめたさを感じているような声色で。
「
「……聞いていないのだけど」
「すまん。夫が隠していたから、そうするべきだと」
「そういえば……はぁ。隠したわね、あの人……まったく」
レディの言葉に責める色はない。
それは他の皆も。坊やが隠したというのだから危険があるか――あるいは、知らなくていいと思っていたという事だ。
あの子を慕っている少女人形が、彼の不利益になるような事は出来ないだろう。
でも、復讐者には負い目があるのか――執行者を指差した。
「アイツは何か知ってるようだぞ」
「……!?」
あっ、そこには負い目はないのね。
皆の視線が集中した執行者は彼らしからぬ硬直を見せると――しらーっと素知らぬ顔を始めた。
共に戦ってきた同志なら分かる。
――真っ向から誤魔化そうとしていた。
皆々が視線を巡らせたその時――
――
――追跡者。レディ。復讐者。
「……。まあ、いいだろう」
追跡者がそう呟くと自らの得物を取り、背を向ける。
「此処は頼む。レディ、復讐者。俺達は――“夜の欠片”とやらを探すぞ」
頼もしいその背。
レディは、坊やの手を静かに握った――微かな熱だけが残る冷たい手を。
「……見つかるかしら」
「……弱気になるな。それに――当てはあるぞ」
「当て?」
目的を見つけたからか先ほどより気力を取り戻した復讐者がレディを叱咤し、追跡者の後に続く。
「ああ――
……それはそうかもしれない。
“かじりやさん”の言う事が正しければ、悪魔が求める事は―――
「……そうね。行きましょう」
レディは静かにあの子の手を額に当てて――立ち上がる。
その表情は、円卓の指導者らしい……冷静なものに戻っていた。
「隠者。この人を見ていて。何があるか分からないから」
「ええ、勿論」
「守護者はないと思うけれど、“外”からの襲撃に警戒して。召使人形にもお願いして」
「心得た。安心して行くといい」
「無頼漢と鉄の目は―――」
呼びかけた二人は執行者の近くにいた。
グルグルと肩を回したり、使い慣れたナイフを袖口で拭いている。
「……ほどほどにね」
「たぁりめぇだぜ。ちょっと――腹割って話すだけさ」
「味方を攻撃する訳がないだろう。ちょっと――話しやすくさせるだけだ」
「……同志である事は忘れちゃだめだからね……絶対よ……?」
不安そうなレディの姿が消え――程なくして、
「……坊や」
隠者は静かに眠る愛しい子の頬を撫でる。
どこで何をしているかわからない。けれど――きっと苦しんでいるだろう。痛いだろう。
けど――頑張って。今度は絶対に、死なせはしないから。
………
――さて。
「……坩堝の騎士に自白剤って効くのかしら?」
「……っっ!?」
………
……
…
「いっとのはっし〜!いっとのはっし〜!みぃんな大好きいっとのはっし〜!ふぅー!」
「………」
「………」
「いやぁ、今回痛いだけだったけどこれで全部帳消しだよもう!フロムゲー信者として“
「………」
「………」
「ほら!二人とも!さっさとファーム終わらして行くよ!もう――すっっっごい物見せるからさ!約束するっ!……いっとのはっし〜!いっとのはっし〜!」
「………」
「………」
「……シスター」
「はい……あの方がああ言う時は――
「分かりますか。……苦労しましたね、お互いに」
「でも、そんな所をお慕いしています……」
「まあ……否定はしませんが……」
「――!まさか学者様――」
「……まずその何でも色恋に繋げるのを止めましょうか。
「破門に近いので……」
――――――
【秘された“え”の写本】
“学者”が探訪の果てに入手した“人の王”に関する研究資料、その一つ。深き森の魔女たちの里、その跡地に住んでいた“輪の魔女”より教わったもの。
遺された拙い絵と、一言一句覚えていた魔女の解説から――これは『人の王の誕生から〜その滅亡まで』の資料として、推測された“真実”の源となった。
“輪の魔女”の言葉を、学者は胸に留めている。
『もし、坊の行き着いた果てに私と似た魔女がいたら……注意していてくれ。最悪殺していい』
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―――――――――
【糸の端】
丁寧に編まれた緒。
本来秘されるべき場所に留まった、少女たちに握られたものである。
――“どこか”に入る事が出来る。
挿し木の一族は誓い合った。
すべてを明かさぬまま、その身を捧げると。
しかし彼女たちは、そうするには幼すぎた。
――故に。
創り上げた“幻惑の地”にこれを落とした。
後の子孫たち……“かの王”と共に在る夜渡りの戦士たちが、隠した物を見つけられるように。
淡い慕情は、少女たちに救いようの無い大罪を犯させた。
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