“転生者” 作:ダフネキチ
「――スイートマイエンジェル!雑草取り終わったよ!」
「はいはい、ありがとう。……あとその恥ずかしい呼び方いい加減やめて」
「えー、きみにぴったりだと思うのにー。膝枕から見上げた木漏れ日差すきみの姿は間違いなく天使そのものだった……」
「ただの田舎娘捕まえて何言ってるの、まったく。……ていうか、またなんかしてるでしょ。村長がアンタを探してたわよ」
「……?……ああ、反動式水やり機の事かな。それとも牛ドーザー?」
「いや、知らないけど。……はぁ、アンタが馬鹿な事すると毎回私が呼ばれるんだから勘弁してよね……私の為なのは嬉しいけど……」
「………」
「なに、その顔」
「つまり、皆の役に立つ事をすれば、君が会いに来てくれるって……コト!?なんだよ最こっ――ぃたッ!」
「調子のんな」
「ぶつ事ないじゃんか!」
「うっさい、ばーか」
宙空に浮かぶ――少女たちの戦列。
“英雄武器の娘たち”ではない……間違いなく、彼女たちの“意志”を以て。
武器は、振り下ろされる。
瞬間。
――白きベールが支配する空は桃色に帯び、無数の波紋が現れる。
そこから英雄武器の切っ先を覗かせて。
「ダッシュッ!!」
叫ぶのと同時に二人と駆け出すその間際。
波紋から飛び出した武器の集団は、まるでミサイルのようにぼくたちに殺到――って、はぁ!?
「ちょぉおいおいおいおいおい……!!」
一瞬前にいた箇所に突き刺さる爆発音、その連続。
ちょっ、ちょっとでも足止めたら死ぬ……!
横目で浮かぶ彼女たちを見るが、消える気配を見せない波紋の中――その内の二人が、武器を構えて此方に突進をしてきた。
宙空を泳ぐ竜のように迫りくる。
降り注ぐ武器の雨に合わせるように――ぼくたちの逃げ場を潰すように。
「――シスター!」
「わかっています……!」
学者の声に、葬儀屋は
狙ってくる武器の雨を掻い潜りながら、突進してくる“少女”たちに対した。
その時、学者が懐から壺を放り投げる。突進が通り過ぎる前……彼女たちが構える武器の矛先に重なるように。
微かに壺が壊れる音と共に巻き上がる炎――火炎壺の衝撃が、一瞬彼女たちの視界を隠し。
突進を紙一重に躱した葬儀屋が、交差するその刹那――強化されたその“力”で目にも止まらぬ速度でメイスを、二度打ち付ける。
迫る突進の速度、迎え撃つメイスの速度。
こんなファンタジーな中でも通用するらしい物理的なぶつかりは、武器の雨の轟音を劈くほどの音を響かせて――少女たちの身体を揺らがせた。
そこを、見ているだけのぼくじゃない。
「――ふっ!」
流石に本調子じゃなくとも失速していれば走りながらでも当てれる。ばら撒いたボルトは少女二人の身体を針山にし――
小さな呻きと共に
そのまま地を滑り、倒れ伏した。
「――二人とも、こっち来て!」
倒したこの瞬間にも、武器の雨が迫っている。
ぼくは“仕掛け”を展開し、楯を構える。二人がその影に隠れた……のと同時に無数の衝撃が楯に叩き込まれる。
機関がミシミシ言ってるけど楯はビクともしない。
流石フォルティス!全部終わったらうんと褒めなくちゃ……!!
「ナイスコンビネーションだったねっ!」
「お褒めの言葉はありがたいですがこのままだと何も出来ませんが!」
「わぁってるわい!シスター!ちょっと代わりにこれ持って!」
「わかりました……!」
シスターに“傑作”を任せると、急いでマガジンを切り替える。
我が十八番――“鱗粉ボルト”だ。……推定知り合いに申し訳ない気持ちはあるけど、背に腹は変えられない。
「シスター撃って!」
「っ……!」
作動音と共に無数のボルトが、楯を構えた先――宙空に浮かぶ“少女たち”に向かっていく。
幾つか、迫る武器に撃ち落とされたが……逆にそれによって鱗粉が辺りに撒き散らされ、武器の爆風によって広範囲に散布されていく。
宙空で並んでいた戦列は乱れ、分かれながら地上に降り立っていく。
それで制御が途切れたのだろう――武器の雨が、ようやく止んだ。
「アレは……“例の毒”ですか」
「うん。結構撃ち落とされたけど、どうだろ――」
その時、何人かの少女たちが耐えきれないとばかりに咳こむと――歪んでいる長身から、蟲たちが食い破って出てくる。
うねうねと血肉を求めるように、またその身に飛び込んでいく様は……グロの一言しかない。
よし。今は申し訳なさは後だ。
ぼくは楯を戻し、その隙にボルトを浴びせようとマガジンを切り替えていると。
咳込みながら、身を蟲に食われている何人かの少女たち。
その背後に無事な少女が近づき、その顔に手を添えると――
躊躇いなく、その首を折った。
「「「……!」」」
急な暴挙に目を見張っているぼくたちの前で……ベールがかき消え、倒れ伏す少女たち。
死体となり、なおその身を蟲が啄む最中――その身体から、
手に持つ英雄武器は輝きを増し、倒れ伏す彼女たちを宙に引っ張り上げ――力を振り切るように武器を振り下ろす。
そうしてその背に桃色のベールがまた、現れた。
炎によって身にいた蟲は跡形もなく焼き尽くされ、食われた肉は瞬く間に修復されていく。
そうして何事も無かったかのように、少女たちはぼくたちの前に立つ。
「……成る程。“神々”の力、これほどとは」
感嘆する学者に突っ込むのも忘れて――
そうして。
また、無傷の七人と――相対する。
(……蘇生持ちなのは分かってたけど早すぎる……!)
“ゲーム”での、ハルモニア第二形態。
通常は、一人だけが桃色のベールを纏い――それをリーダーとして六人を従えながら、戦いを始める。
定石としては取り巻きの六人を倒した後、リーダーを倒す。
けど――
それの繰り返しの複数戦。
それが“英雄武器の娘たち、ハルモニア”……だった。
“
全員が
それに、躊躇いなく殺して全快させるあの行動。
……。
そう考えれば――
一人殺した所でまた復活。
負傷させたとしても殺して全快させ――延々と“敵”へと向かってくる。
それが、“神々の武器”から脱した少女たちの力。
あるいは――
「あぁもう!」
ぼくは嫌な予感を振り切るようにボルトを浴びせかける。
短距離テレポートを繰り返し、距離を取り――そして迫りくる少女たちには殆ど外れるが、視線は外さない。
「学者先生!――
「無理です!何人かはあぶれます!……手の内を一度明かしたのは悪手でしたね……!」
学者のアーツである“ダメージ共有”は効果範囲がある。
それなりに広範囲だが――それでもしっかり距離を取られれば駄目だ。
見れば、確かに何人かはかなりの距離を図っている。
万が一繋げられてもカバー出来るようにだろう。“意志”を持っているからこそ出来る
それだけではない。
葬儀屋の近くにいる少女たちは気持ち多い。彼女の“力”がこちらの要だと分かっているんだ。
囲み、封じ込めようとしている。
そうすれば、残るは学者一人と、手負いの超有能チー――!
「っと!」
振り下ろされる英雄武器の切っ先。
後方から迫る突進の援護――構えられる、波紋。武器の雨。
ボルトを発射する隙も無く、回避に専念するしかない。
何とか全員を視界に捉えようとするが中々上手く行かない。
あぁ!こういう時三人称視点ってすっげぇ便利だよねちくしょう!!
「貴方様……!!」
「ぼくの事はいい!そっちを気をつ――」
「違います友よ!――
「へっ……?」
そこで気づく。
ただ闇雲に攻撃を当たらないように回避していった中で――離れた所で葬儀屋を囲んでいる
そしてぼくに攻撃を仕掛けていた
――あと、
「――やばっ……!!」
楯を構える隙すらない。
瞬間――後ろ斜め、
反射で顔を下げたそこから――ぼくの身体、お腹からクロスするように槍が突き刺さっていた。
「―――〜〜〜〜ッッ!!」
痛みに藻掻いている暇もなく。
その槍は持ち上げられ、ぼくは宙に浮かぶ。
重力に逆らって、グチュリグチュリと“中”がかき回され、一瞬トビそうになった意識の中で――目の前の一人が、斧槍の先をぼくの“心臓”向けて振り下ろそうとしているのが見えた。
「っ!」
“傑作”を手放す事が出来たのは半ば奇跡だ。
すんで空いた両の手で斧槍の刃ごと柄を握り締める。
痛みと共に溢れる血に徐々に滑りながらも――何とか、刃を留められた。
だけど、すぐにそれが終わるのは知っている。
真っ赤に霞んでいる視界の端で、二人が何とかこちらに来ようとしてくれているのが見えた。
「……どうか」
ふと、目の前の少女の顔が近づいてくる。
耳元からも震えるような吐息も感じていた。
「このまま……死んで。貴方の為にも」
「お願い。貴方を苦しめたくない」
「抵抗しないで……何も考えなくていいの。もう頑張らなくて――」
「リアル安眠ASMRはやめ――ぐっ……!」
思わず――
喉奥から込み上がった血を勢いよく吐き出す。思ったよりも出た血は目の前の一人の身体を汚す。
顔に掛かったのも気にしないようにその口許がまた静かに開かれた。
「諦めて……」
「いっ……やぁ。今は、ちょっとややこくてねぇ……そういう、訳にはちょっとさぁ……!」
「……?」
少しでも気を抜けば消えていきそうな意識を口内を噛み締めながら――思い出すのは、
もし、“ぼく”があんの腐れショタと知り合いで。アレが王を待っているとモーグがぼくに聞かせたのがアレの故意ならば。
――
……いや、ハルモニアの聖なるパワーなら大丈――ああいや、だいじょばないだいじょばない!!
弱気になるな普通に死ぬ……!
その時、血が溢れ続ける手に――風と、
たぶん確実に殺す為に、残りの少女たちがこっちに向かっているんだろう。
「もう……終わり」
「
「えっ……」
「“ぼく”を知ってるなら、わかるでしょ?まだ……これから、さっ――!」
震えるような悲しげな言葉。
それを――打ち消すように口角を上げてやった。
「
渾身の叫び。
その“言葉”に呼応するように――地が振動する。
ぼくが何かした。それに気づいたのか武器に力を込め始めた。
けれど、その前に。
地を抉るように――粉塵を撒き散らしながら。
ぼくの下、地中から
ぼくを。そして囲む少女たちを巻き込んで。
「ぉぉ!?下か、らぁ!?」
「「「……っ!!」」」
獲物を咥え込んだ口、歪で不揃いな歯たちがぼくたちをすりつぶすががががががあああああ!!!!
いっ、いった……い……!流石に……!!
「――貴方様……!!」
聞こえるシスターの声と同時に、圧迫感が無くなる。
“不吉の一撃”で仰け反らしたのだろう。口から解放されたぼくは――何も出来ずに、地面に激突する。
少女たちもその瞬間、テレポートで距離を取った。
「友よ!無事ですか……!」
「い、きてるは……いるかなぁ……」
見たくもない腹を見下ろ――すのをやめて、心配そうな学者を見る。
……脂身が切りづらくて中途半端くっついてるステーキみたいだぁ(直喩)。人生で23番目くらいに嫌なやつにぼくがなるとは……!
「ぐっ――」
どこもかしも痛い。
痛いのに――
……カッコつ、けたけど、ヤバ……いかも……。
「……――……!」
ふと、視界に何かから庇うように葬儀屋が入り込んでくる。
そこを辿ると――竜であった化け物、エデレが佇んでいた。
……ん?
のろのろと首を上げると、少しだけで血に汚れた口をしたエデレがこちらを向いている――いや、
どう見えているのかはわからない。けれど、確実にこちらを見ている。
『―――ミト、メヌ―――』
エデレの身体から溢れんばかりの紫雷が迸り、地を抉り始める。
『■■■■■―――ッッッ!!!!?!!?!?!』
咆哮を上げる。
劈く狂乱の叫びが場の全てを覆い尽くした。
「――!
「はい……!」
それを聞いてか、二人の反応は早かった。
学者が先陣を切り、葬儀屋がぼくの身体を優しく抱き上げてくれると――
途中、エデレを注視し、沈黙している少女たちを横切って。
「えっ、えっ……!?」
「“アレ”が来ます!友よ、耳を塞いでいてください!」
「――“アレ”ってなに!?」
慌てて、エデレの方を見ると――迸る紫雷が溢れ、溢れ、溢れ。
やがて、一瞬。
「………!!」
宙に、大地に、空に。
何度も紫雷と共に迸った巨体は……悍ましいばかりの紫雷を抱え――
大きく開かれた口を、
『■■■■■―――ッッッ!!!!?!!?!?!』
エデレの巨体に迸る紫雷が爆発し――辺り一体尽くに撒き散らされ。
――
――
――無秩序に溢れる紫雷に、侵食され始めた。
とっ、“常夜エデレ”……?
いったい、どうして――
「……ここは、“夜の王”の領域。この場での単純な格においては、神々の英雄でも無意味ですか」
少女たちは……こちらに見向きもせず。
荒れ狂う暴威へと、その武器を構えていた。
この場において、エデレが一番の脅威だと認識したのか。
それとも――もう……
「……貴方様!しっかり……!」
「――もよ!ああくそっ、この……――!」
痛みは、とうの昔に過ぎ去った。
真っ赤に染まっていた視界は、徐々に暗く重く……萎んでいく。
ああ……エデレとハルモニアが大怪獣決戦やってる……ファンとして……見て、いた……い……
ああ……まて。まって……だ、めだ……
まだ……ま、だ……!
「……ああ、駄目だ駄目だ!やっぱり駄目だ!死なないでくれ!僕は、どうしても認めたくない……!」
「……!―――ッ!」
「っ!?シスター?なにを……!」
「この身、この全ては全部この方から頂いた物です……それを少しでもお返しします……!」
「……――!」
「――んごほっ……!!」
――急な熱さに、ぼくは咳き込む。
ごほっ、ごほっと反射的に咳き込む中に水音と混じって何かの破片にみたいなものを吐き出した。
「けほっ、けほっ……!ああ、なに……?」
「友よ。
「んん……?」
ふと、視線を向けると――真剣な表情の学者と、口許を少し赤に汚して、何故か頬を赤らめている葬儀屋が映る。
彼女は、いそいそと手袋の位置を戻していた。
「えっ……ぼく、生きて……?」
「辛うじてです。寿命の蝋燭一晩分程度でしょう」
身体を見下ろすと――しつこいステーキ肉みたいだったぼくのお腹が、槍に貫かれた痛々しい跡を残しているだけになっていた。
痛みは殆どない。心臓と同じくじくじくと嫌な痛みがあるだけだ。
……かろうじて、お腹に“夜”の気配を感じる。
「……何をやったの?」
「――
指し示された先。
そこには荒れ狂う紫雷に、神々の英雄が対峙する姿。紫雷が英雄を焼き焦がし踏み潰しても――また、光と共に立ち上がる。
夜と光の対比が相余って、凄いカッコいい光景に見えた。
「今のうちに対策を練りましょう。何か、策はありますか」
……話題を逸らそうとしているのが、何となく分かった。
けど――たぶん、二人が何とかぼくを助けてくれたのは理解できた。
ぼくは、少し褒めて欲しそうに頭を寄せてくる葬儀屋を軽く撫でてから……学者の話題に乗る事にする。
「このままエデレとハルモニアが自滅し――ああ、
「……?どうかしましたか?」
どういう訳かは知らないけど“常夜の王”状態になったエデレが少女たちを倒す……なんて他力本願寺な方法を思いついたが、
なんとなく、感じる。
「エデレの“
「「……!」」
たぶん、此処が“無の荒野”――夜の王の領域だからだろう。
前まで感じなかった圧が、徐々に此方にやってくるのを何処かで感じ取れた。
「そうなると、3対7対1かぁ……ワクワクするね……」
「ぞっとする事言わないでください。……猶予は?」
「まだ大丈夫。繋がりを切れば、辿れなくなると思うよ。ちがったらごめん」
それにしてもどうしていきなりあんなにいきり立ったんだろう。
……
うぅーん、わからん。
「では、やはり私たちで――彼女たちを殺し切る必要があるのですね」
撫でられて、少しご満悦な葬儀屋がそう切り出す。
うん、そうなんだけどねぇ……。
「たぶん、神々のバックアップあるよね……体力無限……みたいな」
「恐らくそうですね。闇雲に倒したところで元の木阿弥。僕の
「じゃあ……どうすれば……復活出来なくなるまでグチャグチャにしますか……?」
「……それも視野に入れましょうか。ふむ……どうにか、“
………。
ぼくは、未だに血が滴る剥き出しの心臓を撫でる。
淡く輝き――加護による、
「――“
「はい?」
「二人とも。ちょっと考えたんだけど」
「………?」
ぼくは二人に“即興の作戦”を伝える。
確証もない、出来るかも分からない――勢い任せの、やぶれかぶれな特攻。
けれど、話していく内に――これしかないんじゃないかなぁ……と思えてきた。
「……危険だらけの無鉄砲ですが……これしか無さそうですね」
「はい……けれど、流石貴方様……ここ一番でその場しのぎを思いつくのはやはり天才的です……!」
「褒めてるそれ?」
「しかし、友よ」
学者は立ち上がり、自らの杖剣の調子を確かめるように何度か振る。
「作戦の最中。恐らく、彼女たちも意図に気づき、“対策”してくるでしょう。そうした場合は?」
「ああ、大丈夫大丈夫。
「……根拠もないのに、どうして君が言うと信用出来ると思えるのでしょうね……」
「実績ぃ……ですかね」
「ええ、まさにその通りですねぇ……!」
「実感がすごい……」
「行くよ」
怪獣大決戦中のエデレは、少女の一人を噛み千切る勢いで頭を振り落とすまま――その姿を、“夜”へと溶かしていく。
空を侵食していた、紫雷は消えていく――また、彼方から美しき蕾が咲き誇る。
暴れ狂った跡だけが、残された。
踏み潰された少女、腕を噛み千切られた少女、負傷している者全て――首を、折られ。
また、黄昏色の炎と共に再誕する。
「ぉぉぉ!」
ぼくはその間を無駄にしないように落としていた傑作まで走り、やたらめったらボルトを浴びせかける。
そんな攻撃は当たる訳もなく、一人が目の前までテレポートしてきて――武器を振り上げる。
“仕掛け”を展開し、楯でそれを受け止めた。
よし――
「よいしょ――っと!」
そのまま、わざと“仕掛け”を緩めて、分解されるその隙間に――英雄武器……その槍を絡め、引っ掛けた。
「……っ!」
「悪いね!ちょっとチクっとするよ!――学者先生が!」
武器を抜こうとするのを、“仕掛け”を展開して噛み合わせて引き止める。その隙に、学者が――
武器を握り締める、
「絵描き殿なら痛み無く切り落とせるのでしょうが……!!」
学者はそのまま剣を手首に突き刺し、グリグリと乱暴に刃先を押し当て続ける。
――腱が切れ、手の力が入らなくなるまで。
意図が分かったのだろう。
残る少女たちが止めようと攻撃を向けてくるが――もう遅い。
一瞬、深く刃が入った次の瞬間。抵抗を失くした武器を勢い良くこちらに引き寄せる。
仕掛けを解き――傑作を投げ捨てて。
――“
神々しく輝く美しき装飾の槍。くるりと手で弄んだソレは――ひどく熱く。生物的な温い鼓動を感じた。
なにこれきっしょぉ……!!
「貴方様……!」
っと。
ぼくは、武器を取られ――瞬時に距離を取った少女を捉えながら、近づいてきた葬儀屋の腰を抱きしめる。
「シスター!上へ!」
「はい……!」
彼女の“不吉の一撃”。
それは爆発的な推進力は敵以外にも、好きな所に向けられる。
一瞬の回避にも使えるのだ――普通は無駄なんだけどね!
そうしてぼくたち二人は、一瞬で宙空まで飛び上がり……一撃が終わると同時に投げ出されながら。
ぼくは、英雄武器を構えた――武器を無くした、少女へと切っ先を向けながら。
「んぎぎぎ……!」
“英雄武器”が付けた傷は、
ならば、少女たちの蘇生。それも妨害されるはず――そのまま殺し切る事が出来るはず!
……“ゲーム”にはそんな設定なかったはずだけど――ぼくの“心臓”がその存在を証明しているなら、それを信じるだけだ!
信じろ!心臓の傷を信じるぼくを信じろ!
それに確証もあった。
全快させる為に殺す際、彼女たちは首を折っていた。武器で貫けば早いはずなのに。わざわざだ。はいQED証明完了。
……そういう気分だった、で終わりませんようにぃ……!!!
落下していく中。
ぼくを止める為だろう。
上空に波紋が現れ、何人かは突撃をしてくる。
――
それに対するように、葬儀屋がぼくの背に張り付くように落ちていき――その身に黒きベールを纏う。
「私が全て弾きます!貴方様はそのまま……!」
「おっけぃ!任せたぁ!!」
後ろから聞こえる破砕音。
その衝撃に身を預けながら、落下を続けていると。
テレポートまでのその一瞬。
それだけあれば――声は伝わる!
息を大きく吸い、今世紀一番の大声を張り上げた。
「――エデレ!!!!」
………。
………。
だが、一瞬。
暴れ狂った暴威が――恐るべき、紫雷の化け物が来ると警戒した。
それだけあれば、事は済む。
「……皮肉なものですね」
少女たちはその声へ振り向く。
武器を向けられている少女、それを阻止しようと攻勢を向けた少女たち。
――その全てを範囲に収める位置に立った、学者の声に。
彼の手には、もう“
「――“
破れた音と共に――繋がった、彼女たちの心臓目掛けて。
――“
肉を抉る衝撃のまま、場が静まり返った。
油断せずに辺りを見渡すと――鳥が撃ち落とされたように宙にいた少女たちがバタバタと地に墜落していく。
桃色のベールが失われ………そして、英雄武器の輝きは――ゆっくりと消えていった。
……もう、立ち上がらない。
その身はやがて無数の黄昏色の羽となって解け、宙へ飛び上がっていく。
「っ……!」
予想が当たって良かった……!
駄目だったらもうムリポでオワタやったぞ……!
「―――」
「……むっ」
ふと、目の前。
槍を突き立てられた少女が手を伸ばす。
それはぼくの首に伸びていったが――掴む事なく、宙を切った。
「……。……はぁぁぁぁぁ」
そうして、深い。
深い……溜息を吐いた。
そうして――その口許が歪む。苦笑いを浮かべたその姿は。
ハルモニアでも“少女たち”でもない。
一人の――女の子のように見えた。
「なに、その顔」
「えっ」
急な言葉に目を瞬かせる。
「全部ぼくのせいだー、みたいな。そんな顔してる」
「………。その――自意識過剰だろうけどさ。きみ達がそうなったのって」
戦う前のあの口上――円卓を襲撃してきた、あの意味。
“ぼく”を知っていて。
“ぼく”の為に――ぼくを殺しに来た。
夜渡りの皆や、グノスター達のように。
“彼女たち”もまた――“ぼく”のせいで。
「違うわ。貴方のせいじゃない。私たちが恋を知れたのも、私たちが“意志”を取り戻せたのも。また、貴方に会えたのも。みんな――
「でも――」
言い募ろうとするぼくの口に手が添えられる。
何の感触もない、その手が。
「……神様が教えて下さったわ。貴方の事。“異邦の子”、“蟲の子”――“人の王”。他にもたっくさん。ほんと、あいも変わらずの好き勝手ね」
「………」
「……聞いて」
そう言って、目の前の少女が微笑んだ。
「確かに
「―――」
その言葉。その意味が。
どういう訳か――じんわりと、ぼくの胸に届いたような。
そんな気がした。
「ああ、でも。貴方が死ぬべきだって事に変わりはないから。諦めないわよ私たち。また来るからね」
「……じゃあ、また会えちゃうのか。嬉しいねぇ――次は無限復活はやめてください」
「それは神様の気分次第ね。……次はもっと凄いかも?」
「まじやめろ」
いや、ほんと。フリじゃないからな。ほんとやめろよ。
おい笑わないでこわい。ほんと次は死んじゃうから……!
「……ねぇ」
「なに」
「……重荷になりそうだから言うつもり無かったけど、やっぱり言うわ」
「えっ、なに怖い事で――」
「私は貴方を愛しているわ、心から。本当に幸せだった」
………。
それを最後に。少女の全ては黄昏色になって消えていく。
残ったのは貫く先を失った“英雄武器”と。そこに微かに引っかかっている、
「……」
それを手に取って、立ち上がる。
振り向くと――少し不安そうな葬儀屋と、悩ましげな学者が立っている。
ぼくは消えていく天上の光の中で、笑いかけた。
「帰ろっか」
あれ、“英雄武器”持ったままなんだけど。
えっ、あんまいらんぞこの厄ネタ……!?
………
……
…
――
追跡者は“円卓”に帰還した。
「……はぁ」
疲れ切った溜息を零して。
「ふんっ、所詮は時間だけを無為に過ごした老害だったな。口ほどにもない」
「ええ。たとえ昔にお妃様だったとしても――それがなによ?愛に地位は関係ないわ」
「おお、
此度のリムベルドは散々だった。
傷ついた“友”を置いて行くのも嫌だったのに、胡散臭い悪魔に煽られるわ――
……不意に、父や叔父が女の口戦が始まった瞬間、気配を消す達人であった事を思い出した。別にいらない記憶だった。
(……あぁ……)
序盤こそあれやこれやと並び立てて悦に浸っていた“婦人”だったが――どういう訳か、具体性のあるエピソードを言えないのに気づかれた途端、やいのやいのの突っつかれ。
最終的に半泣きで“夜の欠片”をこちらに投げつけてきて、“吹雪”と共に姿を消した。
『覚えてなさい……!こっ、これで勝ったと思わない事ね!!!』
なんか路地裏の小物みたいな捨て台詞を吐いて。
(……“
正直――勝てる気がしない相手だった。
あっちがマウント合戦に乗ってきた……というか、やってきたからよいものの。
……。
“吹雪”と共に消えていくその刹那。
――空の彼方。その全てを覆い尽くす、巨大な“
「『四対一は卑怯ですわ!』とか寝言言っていたが、戦争は数だ。当たり前の事だろうにな。
「そうよ。勝てるなら、何でもするべきだわ――ねっ、兄上!」
「……俺を頭数に入れるな」
……まあ、目的のものは手に入ったし。
悩んでいた“妹”は鬱憤をぶつけまくったおかげか元気になったし――いいか、別に。
ふんすふんすと意気軒昂な二人を流しながら、追跡者は――“友”が眠る控室に向かう。
入ると、友の横に寄り添うように座っている“隠者”を見つけ、声を掛けようとした所で。
部屋の奥に。
――椅子に腰掛けている“執行者”を囲むように。同志たちが、
「あぁ……戻ったの。“夜の欠片”は?」
「手に入ったわ。……ねぇ、まさか本当に尋問したの?」
さっきまで元気だった妹の声が少し陰る。
……確か、友にとって始まりとなった場所――“人の王”に関する事を知っていると復讐者に暴露されていたんだった。
執行者は元・“坩堝の騎士”。
かつて黄金樹が健在であった“黄金の地”に仕えた上級騎士のような立ち位置であったはず。
つまりは、過去の生き字引。気になるのも当然だが……。
「いえ、“
「……どういう事?」
「
“隠者”が言うには。
己らが見た“内”での記憶――黄金樹の戦旗に囲まれた、あの場所は。王配ラダゴンによって一夜にして滅ぼされた。
その後、戦後処理の為にやってきた黄金樹の兵たちが――瓦礫と死体の山から、
つまりは、かつての友を見つけ……黄金樹への大逆、その見せしめとして改めて処刑する為に、捕虜として王都に移送し。
――“忌み捨ての地下”に投獄した。
「おい、そこは……」
己はピンと来なかったが、書庫で良く本を読んでいた復讐者は何か気づいたらしく不快げな雰囲気を漂わせる。
妹も不愉快そのものを形にした顔をしている。
……名前からして、どうしようもない所のようだ。
「あそこは、“黄金樹”にとって不都合な者を――文字通りに捨てる場所。大犯罪者、反逆者、“
「……ただの劣悪な地下牢獄か?」
「思い出して、騎士さん。“黄金樹”の祝福、私達の“加護”と同じ――生命の循環。あの地において、
成る程。
つまりはそんな者たちを――未来永劫、飼い殺しにし、腐り落ちさせる場所か。
……趣味悪いな。二人が嫌な顔をするのも納得か。
「かつての“執行者”は――その時は、処刑人として黄金の祝福無き者を断罪する任をついていた。だから、あの子の“看守”として監視する役目を命じられたそうなの」
もし何か抵抗するようなら、その場で処刑してもよい――と、付け加えられて。
「「「………」」」
重い、暗い過去だった。
無口としても話したくない過去だったろう。
そんな凄惨な地下で
「それでね。執行者が看守としてあの子の牢に来た時には――もう普通に脱走してたらしくて」
ん?雰囲気が変わったな?
「――ある日の事だ」
ふと、聞き覚えのない渋い声が響き渡る。
それが“執行者”の声であると気づいたのは一瞬、遅れて――
「集まっていた忌み子達の前で“青カビチーズ”なるものの素晴らしさを語ってたあやつは『食べてみたい』という言葉に逆らえずに、丁度遊びにいらしていたマレニア様の御力を使って、良い感じにソレを再現しようとしたら――チーズから、身の丈を越すほど謎めいた植物が大量に湧き出して周囲を汚染し始め、事態の収拾にやってきたミケラ様とモーゴット様にびっくりするほど説教されていた」
「「「「「………」」」」」
「――ああ、あったねぇ。最中に場を和ませる為か『たっ、食べる……?』とか言ってさらにキレさせていた――『いる訳ないだろ馬鹿かお前は!?』って二人してねぇ。……
………。
その内容を聞いて、咀嚼して――己等は“隠者”に視線を向ける。
彼女は溜息を吐いた。
「と、まあ――坊やのトンチキ話しか出てこなくて」
ああ、変わらないな変わらないなと思っていたら――そんなどうしようもない所でも変わらないのかあの阿呆は。
ていうか。
「今の“マレニア”って……
「ええ。“朱き腐敗”を宿した半神最強を謳った――女王マリカと王配ラダゴンの子。ミケラの双子の妹の“マレニア”」
「………」
マレニアの名は、それほど賢しくない己でも知っている。
半神でありながら優れた剣技の使い手で無双を誇っていたが――その身に“朱き腐敗”を宿していた不運の神。
“朱き腐敗”とは、最早誰も名を知らないほどの古い神の力が、今なお世界を侵す災いだ。
発生の予兆が確認されたら、そこ一画どころか国全体を焼き滅ぼして
……断じて、食い物だかに使う代物ではない。
「――ともかく。あそこは一端置いておいて、まずは“夜の欠片”を坊やに試しましょう」
「……置いといていいのか?」
「“忌み鬼”の由来が、夜な夜な忌み子達と地下を抜け出して遊び呆けてた坊やが、行く先々で目に付く兵達をしばき回していた結果で……ローデイル市民に噂が流れて、治安がちょっと良くなったって話を聞いていたらちょっと置いておきたくなるわ」
「……ああ、うん」
ずっと幽閉されるから“忌み捨て”なんじゃないのかなんで抜け出せるんだつかなんで戻るんだなんで結果的に良い方向に転がるんだ。
あの時折リムベルドに現れる
……うん、なんだろう。気持ちは分かる。
妹は黙って、懐に仕舞っていた“夜の欠片”を二つ差し出した。
「……二つ?二人も“夜の王”に接触したの?」
「ああ、一人は例の“悪魔”だった」
隠者は慎重にそれを受け取ると――横たわる“友”の身体の上にそっと乗せる。
溢れる血を抑える為に身体全体に被せられた布。
それが抑えきれずに――
ゆっくりと“夜の欠片”は布を通り越して、友の身……その“内”に消えていく。
……少しでも効けばいいのだが。
「もう一人は?」
「……“変質者”だった」
「ん?」
「声高に人の王の后だと自称する女だった。レディ達とのマウント取りに敗北して泣きながら欠片をよこしてきた。正体はおそらく、空の彼方にある巨大な“瞳”だ。」
「………。ああ、うん」
――――――
英雄武器[槍]
“神々”が世界から隠れた際、力なき人々の為に残していった救済の一つ。
転生者の傑作に用いる特別な素材。
手にした者の不相応な願いを叶える力を与え、なおかつ神々への永劫の奉仕という栄誉を授ける聖なる神器であるが――“転生者”はその力に一切の関心がないせいか。
これは華美な装飾が施された、時たまピカピカ光るだけのやけに頑丈な武器でしかない。
――――――
――――――
栄光に染まった綿のリボン
何の変哲もない綿で出来た粗末な細布。
一人の乙女が、愛する男の気を惹く為に髪を結うのに使っていたが――今や、賊に振るわれた英雄武器によって染め上げられている。
まさしく、神々の祝福の証。
永劫の奉仕を授かった栄誉そのものである。
使用すると、英雄武器を通じて使用者の位置を“安寧者たち”に伝える。
――乙女らは諦めていない。
神々の楔から解放され、その意志を取り戻したとて。
その身、その力は神々の御業故に。
世界が安寧を望む限り、“彼女達”は何度でも現れる。
――――――