“転生者”   作:ダフネキチ

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神々の傀儡共は、この戦いに栄光を見ていただろう。

不埒者、不忠者、不敬者。
それらを罰し、地に伏せさせ……己の生涯を彩る装飾の一つに加えようとした。

……まあ。
その目論見は――天から降り注ぐ、臓腑をも焼き溶かす炎煙によって悲鳴と共に燃え尽きたが。

あの惨状は、英雄譚でも美化出来ぬだろうなぁ。
神々の戦士とあろう者が赤子のように泣き叫びのたうち回る、あの無様は。

しかし――逃れようにも。
前に進めば、間抜けな針山か、元が分からぬ肉塊か。
では、左右?……いや、それは論ずるまでもないか。
じゃあ、後ろへ?――否、神々の威光がそれを赦さない。


まさしく。そう、まさしく。
――あそこは奴らの“公平”なる地獄であった。


王の兵らは――目の前に広がる死屍累々に歓声を上げ、国の栄光。そして王の偉業を称えた。

そうして。
幾度も、幾度も、幾度も。
懲りもせずやってくる蒙昧共を“王の武器”で蹴散らし続け、その熱狂は留まる事を知らなかった。

それを一心に受けている我らが王の瞳が、己らではなく――その足元に向けられている事に気づかずに。




Pt.3

 

 

 

――“魔術師塔”。

 

それはリムベルド各地に幾つか設置されるロケーションの一つで、文字通り魔術師の塔――かつての“黄金の地”にあった、魔術研究の為のアジトみたいなもの。

こと“ナイトレイン”では魔術関係のアイテムを入手出来る結構有用な場所だ。時間があれば寄って損は無いくらいの。

 

 

そんな所に――“兵士”たちが雪崩込んでくる。

 

 

一人、二人、三人と中に入ってきて、俊敏にクロスボウを辺りに向けるが……そこには、微妙な生活感を残した空間しかない。

多少崩れた内装が、より冷たい静けさを演出している。

 

彼らは顔を見合わせる。

そう。確かに、“敵”が三人。此処に逃げ込んでいたはずなのに。

 

『……二人とも、いい?()()()()は、激しく動くと解けちゃうからじっとしているのよ』

『わかった』カタカタ

『うい』カタカタ

 

『動いちゃダメって言ってるでしょう……!』

『いや、まだ変化の感覚が掴めなくて……!』

 

その時。

 

物音に気づいた彼らが、“そこ”へ振り向く。

――壁に立てかけられた額縁。

高名そうで高慢ちきそうなおじさん魔術師の肖像画(ついせきしゃ)へ。

 

動揺を示すように、そのおじさんの目が少し揺らめいた。

 

『くっ……!』

『どっ、どうする……!?どうにか制圧する!?』

『でも、物音で外の兵に気づかれちゃうかも……!』

 

彼らは半信半疑といった風に、その内の一人が肖像画に手を伸ばす。

……えっ、ええい!かくなる上はっ!

 

『こっちだよッ』カタカタ、カタカタ

 

ぼくは(からだ)を大きく揺らす。

静まった空間に響いた音に、クロスボウが一斉に向けられる。

 

『坊や!』

『っ……!隠者、合図する!何とか―――』

 

 

瞬間――大きな破砕音が辺りに響く。

 

 

次いで、擲弾筒の発射音。チェーンソーの轟音。

そして――振動と共に近づいてくる、蹄鉄の高らかな足音。

 

“兵士”たちは顔を見合わせて――頷くと。

そのまま外へと出ていった。

 

………。

 

魔術師塔の狭い空間に、くぐもった戦闘音が反響する。

 

『……もうよさそう?』

『……そのようだな。隠者、魔術を解いてくれ』

『……ええ』

 

(からだ)から光の壺が溢れ出すと――“擬態の魔術”が解け、元の姿へと戻っていく。

座り込んだまま現れたのがマジのガチでギリギリだった事を如実に示していた。

……なっ、何とかなった……!

 

 

――()()()()()()()()()

 

 

“援軍要請”により――四方八方から打ち上がる緑色の閃光。

迫る無数の足音と、擲弾の雨。

足を止めたら即ガメオベラ。止めなくても……やがて、止めさせられる。

 

兵士たちの包囲網が狭まってくるのを感じながら――ハリネズミか、大地の染みか、肉屋に吊るされる原木か。

そんな嫌な未来が頭を過った時に、隠者先生がこの“策”を思いついてくれた。

 

ほんとはもっと華麗なかくれんぼが出来たと思うけど……まあ、結果オーライ。ぼくと追跡者はめっちゃカメレオンはやらない方がいいのが分かっただけでも収穫だろう。

 

「……坊や」

 

ぼくと同じように座り込んでいた追跡者へサムズアップをしていると――隠者が近づいてきた。

あっ、ちゃんとお礼言わなくちゃ。

 

「隠者、ありがとう。助かっ――」

「めっ」

 

てしっ。

と、額をはたかれる。

何すんだと視線を向ければ、魔女帽に陰ったその表情が目に入る。

 

心配そうな、顔だった。

 

「助けようとしたのは素敵な事よ。でも、あんなことしちゃだめ」

「いやでも……あの場面じゃ――」

 

てしっ。

 

「結局なんとかなっ――」

 

てしっ。

 

「………ちくわ大明――」

 

てしっ。てしっ。てしっ。

額をはたき続ける手の平は痛くなく、ただただじんわりと心が痛い。

 

「……あまり怒ってやるな。俺を助けようとしてくれたんだ」

「つっ、追跡者……!流石マイベス――」

()()()、よ。良い子なのは良い事。でも、こうして怒っておかないと――また、嫌な結末になっちゃう……」

「……。……それもそうか。もっとやってやってくれ」

「なんでさ」

「めっ」

 

額をはたかれ続ける。

……心配してくれるのは嬉しいけど――あの場面じゃあ、ぼくが矢面に立つのは当然じゃない……?

ちゃうの……?

 

 

 

 

 

 

 

少し釈然としないまま、ぼくたちは魔術師塔の2階へと上がる。

中央の柱から上がり、塔外を囲む螺旋階段をコソコソと上がった先は書斎になっていて……“潜在する力”と幾つか使えそうな魔術杖や道具も置いてあった。

 

物資を漁るのは隠者に任せて、ぼくと追跡者は書斎の外。

螺旋階段、その柵の陰に身を潜めて、隙間から辺りを見渡した。

 

ここは、リムベルドの北。

さっき戦闘をした断崖下から上がった先にあるだだっ広い平野だ。視界を覆う樹木は殆ど無く――十分な距離まで見渡せた。

 

――()()()()()

 

 

「わぁ……」

 

 

近くの遺跡に屯していたしろがね人が、兵士たちの強襲に為すすべもなく殺し尽くされ――悠々と地を歩いていた、黄金鎧の軍馬に跨る重騎士“ツリーガード”は、人馬の戦士に真正面から叩き潰される。

 

失地騎士が指揮していた“大野営地”は、擲弾筒の雨とチェーンソーの轟音と共に瓦礫と化し。

周囲を監視していた“小砦”の兵たちは、重厚な壁をも粉砕しながら現れた人馬の戦士たちによって蹂躙される。

 

そうして周囲に“敵”が居なくなると――人の兵士と、人馬の戦士は互いにぶつかり始めた。死力を尽くすように。

 

「……ふむ。どうやら、アイツらの優先順位は――()()()()()()()()()()()

「みたいだね。互いが近くにいても、まずはって感じ。……ねぇ、嫌な事言っていい?」

「なら言うな」

「――“ルーン”が入って来ないんだけど」

「……」

 

“ルーン”。

夜渡りの生命線だ。自身の強化に必要不可欠で、だからこそあっちこっちと敵を狩り続ける。

……普通なら、敵が死ねばこっちに流れてくるんだけど――その様子は無い。

 

それどころか。

 

「……吸収してない?アイツら」

「……ああ」

 

“敵”から零れ落ちたルーンは、そのまま近くにいる奴らに入り込んでいるのが見える。

……“祝福”は流石に使えないだろうから強化はしないと思うけど……。

 

「……このまま隠れていても、無意味だな」

「そーね。レベル1縛りとか現実でやりたくないわ」

 

いや、さっき倒した奴らから入ったルーンがあるからレベル1では無いが――それでも“夜の王”と対するなら心もとないなんてもんじゃない。

 

………。

 

「……奴らと戦うしかない」

「……やりたくないんだけど」

「……しょうがないだろう」

「………」

「………」

「連携がダルい上に一人でも討ち損じれば五十人以上出てくるゴキちゃん系兵士と、一人一人がカロリーマシマシチョモランマな二郎系戦士――どーっちだ」

「……答えたくない」

 

ぼくは目が死んでいくのを感じた。きっと追跡者もそうだろう。

そうして惨状を眺めていると――色々回収が終わった隠者が戻ってきた。

 

真新しそうな杖を、くるりと手で弄ぶ。

 

「……?どうかした?」

「地獄と地獄。どっちがいいかなって」

「……ああ、()()()()()。困ったわねぇ……」

 

隠者はぼくの側にしゃがむと愛おしげに頭を撫でてくる。

……なんかマジで子供扱いしてくるなこの人。ワイのママはグノスターだけやぞ。

 

 

―― えっ! ――

 

 

あっ、やべっ。

……って。

 

……?

 

……なんか普通にグノスターの事を、()()()()()()()()()()()?普通なら、BIG蛾とボンキュッボンな褐色セクシー魔女なら後者を選ぶだろうに。

 

……ずっと触れ合っていたから?グノスターの洗脳教育(プロパガンダ)に負けたから?

 

―― ふふっ ふふふふっ! そう! そう! ぼうやはいいこ わたしのこ! ………ッッッ、はっ! どうだ下等種の偽物風情がっ! ――

 

いや、届いてない。届いてないから。

 

 

「――そういえば坊や」

 

 

気分良さげに“内”でヒラヒラ舞うグノスターに苦笑していると、隠者がこっちを覗き込んでくる。

 

「んー?」

「さっき、何か拾ってたわね」

「……ああ。“コレ”?」

 

そういえば忘れてたな、と懐から取り出したのは――中で何かが動いている球体。()()()

 

黒白色と、黄黒色の――“遺物”だ。

 

(……あれ。()()()()()()()()()()()()()()()()。いつの間に)

 

「なんだそれは」

「……何か強い想いを感じるけれど、見た事ないわ」

「――えっ」

 

二人、遺物を知らないの?

プレイヤーが“エルデンリング・ナイトレイン”を何百時間と沼らせてしまうほど悪魔的な代物なのに?

……そういえば、“円卓”にも影も形も無かったな。現実(ここ)では、存在していないんだろう。

 

どう説明したものかと悩んでいると、二つの遺物の内の一つ――“黒白色”が急に脈動し始めた。

そうして、中から――“夜”が溢れ出す。

 

 

「えっ……な―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

―――

ほう?

―――

 

 

 

 

――ガタンッ、ゴトンッ。ガタンッ、ゴトン。

 

ひしめき合った野郎共を積んだ馬車が揺れる。

大防衛戦争が始まる前は陛下によって整地されていたはずのこの道も、今や“王の兵器”やら兵士やらが行ったり来たりを繰り返したせいでボロボロになっていた。

車輪が何かを踏んづける度に揺れに揺れ、隣の奴に肩が当たる。十回を超えた辺りから、誰も謝らなくなった。

 

「なぁ……」

 

一人の男がボソリと声を出す。天幕に覆われた馬車にはそれで十分だったらしく、意識がこっちに向いたのを感じながら――()()()()()()()()()()()()

 

「この格好……暑くねぇかぁ……?」

 

全身を隈無く覆う戦闘服に、急所部分に重なった鎖帷子(チェーンメイル)。平たい兜に変なお面(ガスマスク)

――冬でもこれほど厚着しないと思うほど着込んでいた。そんなのが何人も馬車でぎゅうぎゅうだ。

ガスマスクを取っただけで天国にいると思ってしまう。

 

男の言葉に、周りは小さく笑った。

 

「――文句を言うな」

 

緩んだ空気を貫いたのは、馬車の一番奥に座っている男。

この馬車――“部隊”の隊長だった。

 

「陛下がお作りなった誉れ高い戦衣装だ。これに幾度も命を救われたのを忘れたのか、恥知らずめ」

「そりゃあ分かってますけど……暑いもんは暑いでしょう」

「ふんっ、そんなもの。陛下への忠誠があれば感じぬ。民を、そして陛下をお守りする兵士として当――」

「いや、隊長。アンタ戦闘から上がる時、いの一番に脱いで川に飛び込んでるじゃないっすか」

「……」

「……」

「……せっ、戦闘外は話は別だ」

 

不意に突かれた言葉に声を上ずらせる隊長に、周囲は今度は普通に笑い出す。

肩を震わせる隊長の顔がガスマスクで見えないのが残念だった。

 

 

――ガコンッ!

 

 

ふと、馬車が止まる。

そうして天幕が二度ほど叩かれた――到着だ。

 

「無駄話は終わりだ。行くぞ」

 

隊長が最初に立ち上がると、出口から覗く光へと進む……途中で、男の頭を小突いた。

 

「いたっ」

「さっさとガスマスクを着けろ、アホタレめ」

「へーへー」

 

また馬車に笑い声が広がる。

今度は男が、顔をガスマスクで隠すハメになった。

 

 

 

 

 

 

何人かに続いて馬車を降りると――そこは最早見慣れた“戦場”だった。男の行きつけの酒場よりも来ているかもしれない。

 

元は王国郊外の長閑な農村地帯であったと聞いている。

産まれてからずっと王都にいた男には――此処が瓦礫と戦旗と拠点が点在している場所という認識しか無かったが。

前、隣にいた者が出身者で――住人全員を王都へ入れてくれた陛下に感謝しかないと笑っていたのを思い出す。

……ソイツが今、此処の何処で眠っているかは思い出せないが。

 

「配置へ走れ!」

 

隊長の号令に身体が勝手に動き出す。

馬鹿みたいに重い連弩を抱え、走っていく。

 

――今日も、工兵たちは忙しそうだ。

 

戦線後方で“王の兵器”を任せた彼らは、前線兵である男たちよりも前に到着し、あれやこれやと大騒ぎで駆けずり回っている。

 

巨大な鉄の筒――“迫撃砲”。

男が持っている連弩の巨大版――“連射バリスタ”。

 

それが地平に並ぶように威容は実に頼もしくあった。

 

「……ん?」

 

その時、その戦列に紛れるように――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「ありゃあ、なんだ?また陛下が“玩具箱”から引っ張り出してきたのか……?」

「――おいそこ!次は二発いかれたいか!」

「……ッ!すんません!」

 

隊長の激に我に返る。

まだ少し気が抜けてるようだと武器を抱え直した。

 

程なく、第二の家とも言えてしまう“前線”に着いた。

整然と並び、皆――敵が来る地平線ではなく、ある所を見た。

そしてそこにはもう、()()()()()()()

 

「………」

 

前線にて目立つように設置され、前線を見渡せるほど高い“指揮台”に立ち、地平線を眺めるその背。

見慣れた楽な服を一人だけ身に付けていて羨ましくも――恐ろしいあの人が。

 

圧政を強いていた先王を打破し、そんな世を笑っていた神々の一人を殺した世界の大罪人にして――己らの大英雄。

そう。彼こそが、王。

 

人の―――

 

「……――うぷっ」

 

ん?

 

「き゛も゛ち゛わ゛る゛ぃ゛……」

 

……。口許を抑えながらよろよろと振り向いたその顔は――かんっぜんに二日酔いだった。

そこらの鶏の方がまだ頼もしい足取りだった。

 

「陛下……あの、ご気分が……?」

 

指揮台の近くにいる何処かの部隊長が恐る恐る声を掛けると――兵が出揃っているのに()気づいたのか、急に姿勢を正し始めた。

 

「――んん?何の話かな?」

 

いや、遅いっす陛下……。

 

「いえ、その……二日酔いだとお見受け……」

「ああっ!いや、違うさ。ちょっと寝つけの一杯が効いてねー」

 

「寝つけの三瓶だろう、馬鹿者め」

 

()()()()、自分たち兵は反射的に居住まいを正した。

指揮台に登ってきたのは――()()()()()”。それに続くように異形の“()”が側に付いている。

 

この場においては、ひどく場違いに見える鋼鉄の軽鎧に大剣を携えたかのお方――かつての先王の長子。

そして、この国でも違う国ですら忌避される三ツ首をした異形の獣。

 

だが、誰もがそれを侮る事はない。

――“人の国”の最高戦力に対して、そんな舐めた事が出来るのは。

 

この前線には居ない。

 

「なんで知ってんの」

「今日誰が起こしたか忘れたのか?……それより、ほれ。“例のもの”が王都から届いたぞ」

「――おっ!」

 

騎士が差し出したのは、何かの書類のように見える。

それを嬉しそうに受け取った陛下はいそいそと中を検めた……かと思えば、途端に肩を落とし始める。

 

なんだなんだと兵に少しざわめきが起きる中。

 

陛下は、指揮台の隅に置かれていた“棒切れ”を手に取る。

その先は線で繋がれ――前線に音を届ける機械。マイク、と呼ばれる物だった。

 

きぃぃぃぃぃん、と等間隔に設置された機械から音が響く。

 

「……えー、お人間さんたち。おはようございます。朝のご挨拶の前に――先日、執り行った“4()2()()()()()()()()”の結果を発表しまーす……」

 

陛下のその言葉に、ざわめきは収まり――苦笑が残った。

ああ、またいつもの発作か……。

 

「今般の候補者――先王暗殺実行犯にして神々の一人を殺害した大罪人、これはもう王位を降りてもらうしかないねで定評のある“蟲の子”たるぼくと、先王へーかの実子にして長子。そして唯一!無二の!正当なる!王位継承者!の!■■■■■■との一騎打ちの末……」

 

書類を読み上げる陛下の手が徐々にワナワナと震えだす。

 

「あー……全国民10321人中、まだ文字の書けない赤ん坊と前線のお人間さんたちを除いた7214人による厳正なる選択により――7016人と200人になりまして。……えー、このぼくが国王を続任する事――――ちくしょうめぇっっ!!!!

 

グシャグシャと丸めた書類を叩き付けながら、良くわからん言葉を吐き散らし始める陛下に、自分たちは溜息しか出なかった。

 

――選挙。

 

それは、陛下が王位に着いて以来行っている()()()()()()()()()

王国民一人一人に王を任命する権利が与えられ、その数が一番多い人が新たな国王になれる……といったものだが正直やる意味が良く分からないのが国民の総意だった。王ってそうやって決めるものだっけ。

……まあ、42回もやってるから緊張感も特に無いし、どっちかと言えば不定期にやるお祭りみたいなもので楽しみな催しではあった。

行けば、王が考案したという“飯”が貰えるし。

……今回は、何が出たのだろうか。ちゃんとウチの弟たちも食べれたのだろうか。前は白カビに覆われたチーズと一杯のワインだったから子供には不評だったんだよな。美味しかったんだが。

 

ギャーギャー喚く陛下に騎士が静かに溜息を吐いた。

 

「お前もう諦めろよ……」

「諦めてたまるか!?不本意つってるだろ!クソッ……!今回の投票用紙にはちゃんと細工したんだぞ!」

「はぁ……?」

「君の名前以外書いてない投票用紙を用意したの!そうすれば自動的に君に票が集まると思ったのに……!皆が皆、わざわざ取り消し線引いて欄外にぼくの名前を書いただと!?姑息な真似を!王の顔が見てみたいわ!」

「……それはお前が一々口で布告を出すのが面倒だからと、民全員に文字を教えて回ったせいでは?」

「………」

「………」

「……――クソッ!全部君のせいだ!」

「理不尽過ぎる」

「つうか!先王派の連中は何処に行った!?最初3000人くらい居たのに200人しか残ってない!ぼくが王位に着いた時の威勢はどうした!?」

 

「言われてますよ、()()

 

男がそう言うと――無言で小突かれた。

王家の血筋以外認めぬと言っていたのに、今や一番の陛下信奉者なのだから笑ってしまう。

 

「ん?あれ、7214人中、7016人と200人?――おっ、()()()()()()()()!よし無効票!」

「誤差だろ。……自称“婦人”とあの腐れ悪魔だなハケとけって言ったのに……」

「ん?なんか言った?」

「いいや、何――」

 

 

()()()

地平線の向こうから、()()()()()()()()()

 

 

――来た

 

 

「茶番は終わりだな」

「……茶番じゃないんだけど、ガチなんだけど」

「――■■」

「……へぇへぇ、わぁりましたよぉ」

 

溜息一つ吐くと、陛下は己らに向き直る。

マイクを握るその姿は――凛としていた。

 

「はい!お人間さんたち、おはようっ!今日も今日とて、親愛なる隣人がやってきた!皆もう飽きてるとは思うけど、ウチの軒先を牧草地にする予定は無いからね。悪いけど気合を入れてくれ!」

 

応!と、方々から声が聞こえる。

それを満足そうに見つめた陛下が、ピンッと指を一つ立てた。

 

「そんなウマシカならぬウマヒトな人馬と戦う勇敢なるきみたちの為に――実は今日!()()()()を持ってきた!」

 

おおっ、とどよめきが走る。

……もしかして、先ほど見た“巨大なもの”だろうか。

 

「ぼくの予測が正しければ、これで戦争の推移が変わるだろう!……生産の見込みはついてないケド。でもこの一撃が相手の心を完全にへし折るのを約束する!!」

 

「まあ……外れれば……ぼくは責任を取って辞意を表明し、第43次国王選出選挙を行うのでそのつもりで。……今度は兵諸君も巻き込んでやるからなぁ……!」

 

……圧勝が、大々圧勝になるだけでは……?

 

 

「さぁって――迎撃用ぉ意!!」

 

 

陛下の声に従い、戦線後方から巨大なラッパのような物体が起き上がる。その全てが陛下に向けられた。

集音器と呼ばれる機械だ。マイクが無くとも、王の声――指示を聞き逃さないようにする為に。

 

前線兵である自分たちも瞬時に行動を開始し、陛下の前。

光が強まっていく地平線へと、戦列を組む。

そして連弩を構えた。

 

 

……地平線に、威光と共に奴らが現れだした。

 

 

――“()()”。

王の兵器で散々に負け越して多くが我らから敗走してなお、この一族だけは諦めず――懲りもせずやってくる、神々の戦士たち。

地平線に居てもなお、その輪郭が見える巨躯が並ぶその姿は……いつ見ても恐ろしい。

 

“王の兵器”が無ければ、立って居られないほどの圧を感じる。

 

だが、陛下は機械を切り替える。

自分たちではなく――奴らの位置近くに設置している機械に、声が伝わるように。

 

「えー!えー!こちら蟲の……じゃなかった。“人の王”さまですがぁ!貴君らは我々の領土を侵犯していまーす!ただちに退去してくてくださーい!もうサンズの気持ちは分かったからさぁー!」

 

光は――地平から此方へと伸び始めた。

 

「はぁぁぁぁ……」

 

 

………。

静寂が、“戦場”を支配する。

この感覚は――未だに慣れなかった。

 

 

()()()()()()()()()()()()

黄昏色に染まった彼らは、足を高く上げ――そのまま此方に駆け出していった。

地震のような振動と、耳障りの蹄鉄の重なりを響かせて。

 

 

「――撃てぇ!」

 

 

陛下の“声”と共に、後方から耳を貫くような轟音が何度も駆け抜ける。放たれていく無数の影はやがて地平を覆い尽くすほどに人馬へと迫っていき――その上空で炸裂。

 

夥しい“白煙”が奴らを呑み込んだ。

 

「やったか!」

「……お前何回やるつもりだそれ」

「様式美さ」

「何処のだ」

 

聞こえてくる陛下と騎士の会話にも反応出来ない。

白煙の中から――“人馬”たちが勢い良く抜け出てくるのを見れば。

損耗は激しく、白煙の中でのたうち回る影が沢山見える。しかし――それでもなお、奴らの威容に変化は無い。

 

「……んー。もう白燐弾はパーティクラッカーにしかならないねぇ」

「退路を塞ぐという面では有効だろう。……()()()、出てくる」

「あいあい。……ねぇ、■■■■■■」

「ん?」

「死ぬなよ。王冠を押し付ける相手が居なくなったら困る」

「ふっ……分かってるさ、■■。お前みたいな奴の世話なんて可哀想な役目は他の奴に任せられん」

「……なんかスカしててムカつく」

「どうすればいいんだ俺は……。グラディウス、任せたぞ」

 

兜で隠れていても分かる苦笑を浮かべながら、“獣”に陛下を託すと――騎士が、()()()()()()

 

右手に握られた無骨な大剣、左手には豪奢な短剣が逆手で収められている。

今や剣や盾など捨て去った“人の国”の中で、ただ一人旧態然として――()()。武勇は突出している最強の戦士。

 

騎士――またの名を、“()()()”。

 

その背を見つめながら、前線兵は“武器”を構える。

連弩を構え、回転刃剣を吹かし……擲弾筒に弾を収める。

 

 

ドドドドドッッッ!!

 

ドドドドドッッッ!!

 

ドドドドドッッッ!!!

 

 

 

蹄鉄に紛れた砂煙のまま、人馬の戦士たちの戦列と――ぶつかった。

 

“王の腕”が接敵直後に二人の戦士の首を落とし、その身体を踏み台に――奴らの中に躍り出るのを見送り、兵らは自らの“敵”に終始する。

 

「囲めッ!目と手、足だ!重装兵は前へ!弩兵は牽制とトドメに集中しろ!――俺の声を聞き逃すなっ!」

 

隊長の怒声を受け止めながら、男は連弩を相対する戦士の一人に放つ。

“人馬の戦士”はたった一人で、兵五十人でも対処しきれない存在だ――()()()()()

 

“王の兵器”を得た己らならば、決して対処しきれない相手ではない。

振り落とされる大木の如き剣を躱し、連弩を浴びせ……注意が逸れた所に――回転刃が、奴らの腱を引きちぎる。

そうすれば、後はハリネズミかその兜の隙間に回転刃がねじ込まれるか。

 

楽な作業ではない。

ほんの少し気を逸らせば己の存在など血肉の塊になる。

焦らず、さりとて焦燥に駆られながら――必死に武器を構え続ける。

 

()()()

 

 

「――()()()()()()()()()!!!」

 

 

その言葉に、一歩遅れた。

耳奥に――高らかな蹄鉄の響きと共に、()()()()()()()()

 

「ぐぁっ……!!」

 

男は、その衝撃に吹き飛ばされる。

何とか視線を向ければ――その巨躯に踏み潰された兵士の血肉が見えた。

 

 

「………」

 

 

その姿は、“人馬の戦士”よりも一回りも大きく。

威風堂々と周囲を睥睨する。奴らの祭具とも言える鉄杭のような剣と黄色い鱗鎧を身に付けた偉丈夫。

 

――“人馬の将軍、フルゴール”

 

奴らの総大将直々に、前線に現れた。

そんな存在が動き出す前に――倒れ伏す死体、戦士の肩を軽やかなに渡り、その“影”がフルゴールに斬りかかる。

 

「っ……!」

「ふんっ……!」

 

だが、その一撃も難なく奴の剣が防ぐ。

ギリギリと剣同士の火花が散る中――“王の腕”とフルゴールが相対する。

 

「将軍。今度こそ、その命貰い受ける」

「――それは我の台詞だ!()()!」

 

その命令に合わせるように――戦線の各所から“光”が降り注ぎ始める。

何人かの戦士たちがまるで翼を得たように軽やかに宙を蹴り歩いたかと思えば、自らの剣の逆手に構え――光の一筋を手に取ると、まるでそこに番えるように構えた。

 

まるで、弓矢のように。

徐々に、徐々に――()()()()()()()()()()()()

 

「……なんだ、フルゴール。新しい玩具を買ってもらった?――バリスタ兵!撃ち落として!オリオンの真似!」

 

陛下の下知に、“連射バリスタ”――巨大なクロスボウが、宙に構えられた戦士たちへと注がれる。

連弩が放つボルトの何倍もの大ボルトを身に受け、血肉が抉れ、手足が吹き飛び、臓腑と共に地へと落ちていく。

 

()()、光を構える戦士たちは――それでも耐える者が、一人いた。

 

 

「――すまぬ、我が戦士たちよ。放てェェ!!!」

 

 

極限まで高められた“光”が、放たれる。

それと同時に戦士たちは力尽きたままに、地へと墜落していった。

 

放たれたソレは――“()()()()()()()()()()()

 

「……ッ!■■!」

 

“王の腕”が瞬時にその場を離れようとするのを――フルゴールの剣が押し留める。

 

「ぐっ……!」

「さしもの人の王とて、只人である事に変わりなし!ひとたまりもなかろう!」

「っ、離せ!」

 

その瞬間、“光”が指揮台へと――着弾した。

 

「――陛下!」

「■■ッ!」

 

一瞬、戦場が静まり返る。

着弾と共に舞った砂煙が周囲を包み、何が起こったのかを覆い隠している。

まさか――と。

 

誰もが、その結末を畏れた。

 

()()

 

 

「――大当たりぃ(ジャックポット)!」

 

 

砂煙を切り裂くように現れたのは――“獣”に跨る、陛下の姿。

そのまま戦場へと躍り出る。

 

「チィ……貴様ァ!!」

「天に仰ぎ見るべきこの(ぼく)を同じ大地に立たせるとはやるじゃないか!万死には値しないけど褒めてあげるよ!」

 

陛下は、“獣”が駆けるままに――倒れ伏した兵の近くに落ちている連弩を手に取る。

 

「よぉし!行くよ、グラちゃん!人外同盟の底力見せてやるぞ!」

 

陛下はそのまま、戦場を駆けていく。

縦横無尽に駆ける“獣”の速度と、寸分無く放たれる連弩――対応し切れない人馬の戦士たちはその隙を、他の兵に狙われる。

 

 

――“戦場”は混迷を極まり始めた。

 

 

敵味方入り乱れ、死が着々と積み重なっていく。

連弩が放たれ、回転刃が響き渡り、擲弾が地へと降り注ぎ――巨躯の一撃が地を揺らす。

そんな最中。

 

男の目の前は、不意に静まり返っている。

 

「……ふぅん」

「………」

 

“獣”に腰掛ける陛下と、その側で備えている騎士。

そして――フルゴール。

 

奇しくも、そこだけが戦場から切り抜かれたように……静かだった。

 

「ねぇ、フルゴール。もうやめない?」

 

陛下が告げる。

それは上段からの嘲りでも、良く吐き散らしている冗談の色は無い。

――真摯な、言葉だった。

 

「もう意味ないって事ぐらい、堅物そうな君でも分かるでしょ?」

 

その言葉に。

フルゴールは――少し、()()()()()

 

「……ふざけるな。我らの同胞を、我らの戦士をあれだけ弑しておいて」

「ふざけんな、はこっちが言いたいんだけどなぁ?突っかかってきたのはそっちだろ。“ぼくたち”は勝手にやってるからほっといてって言ったはず」

「――それが、神々への不敬に他ならん」

「……。……あーそ。はいはーい」

 

話しても無駄。

そう言わんばかりに、陛下は――()()()()、と指を鳴らした。

 

それは戦場においてはすぐに掻き消されるくらいか細い音。

だが――それを聞き届けた後方が、にわかに動き始める。

 

「………」

「さっきは新しい玩具を見せてくれてありがとう――なら、ぼくもお返しするよ。今朝完成したばっかのおニューね。本邦初」

 

後方から――“何か”が起き上がってくる。

それは一際目立っていた巨大なもの……まるで――穀物庫のような、()()()()()()

見たこともない……何処か、恐ろしさを感じる。

 

「……――ッッ!」

 

それはフルゴールも同じだったのだろう。

――何かが起きる。その直感のままに、動き出すのを――王の腕の一撃が押し留めた。

 

「……!」

 

その一瞬で――十分だった。

物体は、にわかに作動し――その底から、()()()()()()()

 

そして徐々に、徐々に。

――天へと向かって、飛び上がっていく。

 

「さあさ、ファッキン・神々よ!ご照覧あれ!人の可能性(酒)を!!」

 

打ち上がった巨大な物体に、誰しもが戦闘を止め――呆然と見上げる。

そして程なくして。

 

 

――()()()()()()()()()()()()()()()

 

その瞬間、まるで悲鳴を上げるように――()()()()()()()()()()()()

 

 

「……はっ?」

 

 

それは誰の言葉なのかは分からない。

それは――陛下以外の全員の言葉だっただろう。

 

だが、事実がそこにあった。

 

 

神々が、この地から撤退した。

 

 

「……ッッ!貴様ァ!!()()()()()()!?」

「分かってほしくないなら雷雨の日もちゃんと来なさい!運動会じゃねぇんだぞ戦争は!」

 

神々は、雷を畏れていたのか……?

にわかには信じられなかったが――狼狽している人馬の戦士たちを見れば、それが正しいと思わざるを得なかった。

 

その中で、陛下は自らの兵へと声を上げる。

 

 

「さぁ!お人間さんたち、行くよ!――パパママが見ててくれないと何も出来ないお子ちゃまたちに、オトナの戦争を教えてやれ!!」

 

 

――戦況は、決した。

 

陛下の叡智による神々の打破。そして、神々の祝福を失った人馬の戦士たち。

それでも膂力はあちらが優勢である事に変わりはなかったが――精神的支柱を失ったも当然な子供など、敵ではなかった。

 

地平へと撤退していく“人馬の戦士”たちを追撃していく中。

 

陛下が、男の前で止まった。

 

「グラちゃん。アイツの援護に行ったげて」

 

そう言って、“獣”から降りると――こちらに近づき、視線を合わせるように膝をついた。

 

「やぁ、大丈夫じゃあ……なさそうだね」

 

陛下の視線は、己の胸へと向けられる。

――()()()()()()()()()、その身体を。……死闘の末に殺されるのではなく、フルゴールの登場程度で死ぬなど……まあ、そんなものなのだろうが。

 

「……マスク、外すよ」

 

陛下が労るように男のマスクを外すと――目を見開く。

 

「あれ……きみまさか、北部の32番地のレンガ屋の子だったりする?」

「知っ……ているので、すか……?」

「うん、きみに良く似たチビスケに石を投げられた事を覚えてるよ。……確かにぼくは“蟲の子”だけど、緑色の血は出ないんだぜ?」

「……!たっ、大変……もうし――」

「ああ、いいさいいさ。奴隷時代の話さ」

 

ヒラヒラとなんてことないように陛下の姿に申し訳が立たず、何とか頭を下げようとした――()()()

 

「――へい、か!」

 

その後ろから、死にぞこないの戦士が剣を振り上げたのが見え――それを遮るように“影”が首を落とした。

陛下は驚く様子も無く、その影に声を掛ける。

 

「おっかえりー、■■■■■■。フルゴールは?」

「取り逃がした」

「またぁ?」

「すまん」

 

敵の総大将を逃したにしては軽い言葉。

それも当然――これで、何度目か覚えていないほどだから。

 

「雑兵が文字通りに壁になってな」

「あーらら。……にしても、人馬の連中も酷な事するなぁ。あのおっさん、自分が生き残るよりも――『ここは我に任せて、お前たちは生きろ!』なタイプでしょ。生き恥じゃない?」

「……それでも、生きて貰いたいって事だ」

「だろねぇ。いやはや、愛されるってのも考えもんだよ、ほんと」

 

「ぐっ、ごぼごぉ……!!」

 

内から溢れ出るものが耐えきれなくなって男は鉛のような血を吐く。緊張が解けてきたからか痛みと同時に意識が掠れていくのを感じ取っていた。

 

もう、時間は残されていない。

 

「……何か、言い残す事はある?」

 

陛下の優しげな言葉に――色々な事が浮かび上がる。

今回の選挙の飯は何が出てたんですか?前出た白カビチーズをもう一回食べたかった。家族をどうかお願いします。もっと、生きてたかった。

でも――この人に、()()()()()()()()()

 

だから。

 

「どう、か。貴方に――栄光を。共にたたか、えた事を……誇りに……」

 

 

――その時の陛下の表情は、どう言えばいいのかわからなかった。

 

 

「……きみたちはどうしてそんな風に死ねるの?

「えっ……?」

「――んにゃ、なんでも。お任せあれ、それが“王の責任”って奴さ。超有能転生者様に任せんしゃい」

 

陛下はそう言うと、背を向けて歩いていく。

 

 

男は、その背をずっと見ていた。

 

 

ああ。

 

 

 

どうか、勝利を。栄光を。

 

 

貴方の治世が、ずっと続いていきますように。

 

 

 

 

 

 

 

故に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黄金樹よ 我らは決して貴様らを赦しはしない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――

 

 

 

「むっ、目が覚めたか?」

 

 

目を開けると――目の前に、全身黒ローブの不審者がいた。

 

 

「ふんっ!」

「……何故殴る」

「急に目の前にお前がいるからだよ、常識ねぇのか」

「出会い頭に一発入れてくる奴に常識を説かれたくないんだが」

 

慌てて飛び起きると、そこはさっきまでの“魔術師塔”の二階で。

不審者――リブラを警戒している追跡者と隠者を見つけ、慌てて近寄る。

……なぜだか、二人の視線は……()()()()()()()()()

 

「……二人に何か言った?」

「さてな?質問には答えてやったが」

 

……質問?

二人の方を振り向くと、また後で言うとばかりに視線を返された。

 

「……で?今度はなに?何が目的?」

「少し前に言っただろう――私は、()()()()()()()()()()()()()()()()

 

思い浮かべるのは、さっきまで見えていた誰かの記憶。

ぼくの――“人の王”の記憶。

 

「………」

「なに、そう勘ぐる必要はない。時は進む、否応無く。無駄にしている時間はないぞ」

 

そうしてリブラは、枯れ木のような腕に吊るされた天秤を揺らす。

リィ……ンと、静かに耳奥を震わせた。

 

 

「フルゴール将軍がお待ちだ。“黄金樹”に台無しにされた――()()()()()()()()

 

 

それだけ言うと、その姿は黄色い炎に呑まれ消えていく。その軌跡を、憎たらしいくらい残さずに。

 

「………」

「……坊や」

 

二人が何を言うか、言うまいかと。悩んでいるのを感じる。

分かる。過去に浮かぶ様々な疑問の中で一つ、確かな事があったから。

 

“ぼく”は――“人の王”は、“獣”と一緒に居た。

――夜渡りたちをめっちゃ殺したらしい最初の“夜の王”と。

 

疑念、みたいな敵意を感じないのが……逆に少しつらかった。

説明の仕様が無いから。

 

それに、ぼくはあの“()()”と。

 

つまりは―――

 

 

 

――()()()()()()! ()()()()()!!

 

 

 

嫌な音が、聞こえた。

 

 

「「「………」」」

 

見なくても――聞こえる。

なにか迫ってきている。……そういえば、さっきのリブラが天秤揺らした時――妙に響いたような気がするな?

 

………。

 

きっと、ぼくたちの想いは一致した。

 

 

――あんの腐れ悪魔……!!

 

 

ぼくたちは慌てて、二階から飛び降りると――後方から爆発音。塔がガラガラと崩れていき、塔の周りには“兵士”たちが集まっていた。

 

 

「二人とも!」

「分かってる!さっきの“光景”である程度掴めた!まずは擲弾兵(しきかん)だな!?」

「いくざくとりぃ!」

「どういう意味なの、坊や!?」

 

「――その通りって事!行くよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 






―――

[キャリードーター]

制式名称:上下二連弾倉式連発弩=弐型

“人の兵”全てに制式配備されていた連弩。
人の王が玉座簒奪の際に率いていた革命軍の頃から使用されており、その設計は大きく変わっていない。

革新的な連発機構と劣悪な環境下でも大量生産可能、という特色のみに重点が置かれ、それ以外の性能は度外視されている。
故に、当時の標準的装備である剣や盾と比べて非常に重い。

愛称たるキャリードーターの名は――「これを持って戦っていたら、帰る頃には娘なんて軽々と抱えられそうだ」という兵の冗談を気に入った王が揶揄したのが由来である。

―――

―――

[スラッシャー]

正式名称:試作=回転刃機械式直剣

先王の統治下より厳重に管理・許可していた樹木伐採と精肉加工に使用されていた大型機械を、“武器”として改造したもの。

高度な訓練を必要とせずに、轟音と共に骨をも粉砕切断する恐ろしい性能を誇るが――人の王の酒酔いに任せた無茶な改造設計と、金属に対しては無力で破損の危険がある為、制式配備はされなかった。

だが、前線兵士の多くは自費で発注し、この武器を手にしていた。

彼らは知っている。
戦場において“恐怖”こそが――敵を殺し、生き残る中で最も頼りになる“武器”になり得ると。

―――

―――

[ニー・モーター]

制式名称:初式=特殊擲弾筒

“人の国”の兵士階級において、精鋭とされる“擲弾兵”に配備されていた特殊兵装。先王に提供した際、名誉無き武器であると酷評され、長らく死蔵されていた。

一見すると不格好な鉄の筒にしか見えない。 
しかし、遠距離からの先制・不意打ち・援護等の様々な状況に適した擲弾の撃ち分けや、潜み待ち構える事ができる携行性から多大な戦果を齎した。

が……不名誉という汚名は消える事は無かった。
王の激励が――擲弾兵らの意思に、嘲りをも掻き消す熱狂を灯すまで。

皆が被る不名誉こそ、民を守る名誉である。

―――


―――

[ゼウディン=ミカヅチの雷霆]

正式名称:なし

人の王が趣味と実益を兼ねて好き勝手に製作していた秘密兵器群“玩具箱”の中の一つ。

巨大な円柱状のこれは、下部に充填された“黒い油”の燃焼によって発生した推進力を以て射出される超遠距離兵器であり――“機構”が作動すると、周囲一帯に恐るべき雷霆を撒き散らす。

その機構は余りにも複雑怪奇で酒酔いの到達点だったせいか、当の本人ですらどうしてこうなったか理解出来ておらず――「きっと神様のお告げとかじゃんね……」と、神々の敵対者とは思えぬ供述を残している。

―――


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