“転生者”   作:ダフネキチ

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――“大戦祭り”。

全ての戦士たちへの祭典にして、我らが王が示した神々への和平策。
それは妄想が先んじただけの夢物語のように思えた。

だがそれが形になった時、多くの者共の心を掴んだ。
未知で不可思議な技術。胃が震える謎めいた食物。当たり前のようにそこらに在る――表現のしようのない数多なモノ。
そして、己が誇りを競う戦士たちの華々しき姿と――国の全てを背負った王と将軍の決闘。

流れる時は嵐のように過ぎ去り――当然のように惜しまれ。
実現した夢物語は、やがて世界全ての大祭典として続くようになった。

……。

……いつからだったろうな。
吹き飛ぶ王の背に叱咤を飛ばした人馬がいたのは。膝を落とした将軍に声援を張り上げた只人がいたのは。
神々が只人と酒を酌み交わし、只人が戦士に商売を持ちかけ――何も知らぬ幼子が何も知らぬ幼子を遊びに誘うのを、互いの親が気まずく頭を下げたのは。

挙げればくだらぬ、祭りの間だけの事。
ただそれでも――確かにそこに在ったはずなのだ。


真なる“公平”への道が。



………ふぅむ。
まだ沈黙するかね?()()





Pt.5

 

 

何処かの誰かさんのせいで、もうめちゃくちゃや……と呆然とするしかない“リムベルド”でも――法則は変わらないようだ。

時が過ぎれば“夜”が迫り、霊樹が宙へと浮かび上がる。

 

遺物の記憶から目覚めたぼくたちは、背から響いてくる雨音から逃げるように、疾走する。

 

――()()()()()()()()

 

「……姿が見えないね?」

「ああ……」

 

霊樹までの一直線。

崖を超え、遺跡を横切り、崩壊した小砦を尻目に――ただ駆ける。

そこに誰の姿も無く、破壊された残骸しか見えない。

 

「どうして兵たちが消える?」

「霊体だから……かしら?よく分からない」

「――まあ、いいじゃん。むしろここでも擲弾と人馬との追いかけっこやったらお腹いっぱいだよ」

 

二人から苦笑の雰囲気が滲んでくるのを感じながら……程なく。

ぼくたちは霊樹の下まで到達する。

 

迫る“夜”の雨を遮られたその場所は、ぼくたちの到着と同時に“夜”が溢れ始める。

中ボスの出現だ。……何だろう。ちょっと安心するな。流石にここもおかし………いわけ……。

 

「………」

 

――“夜”から現れたのは黒い甲冑に身を包んだ騎士。

かつて、黄金樹に仇なす者全てを震え上がらせた“忌み鬼”に率いられた者たち。夜闇に隠れる黒き甲冑と黒い馬に跨り、長大な武器を携えた彼らは“夜の騎兵”と呼ばれていた。

 

――()()()()()()()()()

 

這々の体で必死に手を地に掻き分けるその姿は、黒い姿故に分かりやすい血に滲み、割れた甲冑の破片が血肉を抉っている。

全身を黒で隠しながらもそれでも気取った意匠などかなぐり捨てて、ぼくたちの事も気にせずに。

 

前へ、前へと。()()()()()()()()()()()

その時。足を何かに掴まれたのか――一瞬で“夜”に引き戻される。

 

ぐしゃりぐしゃりと肉が潰れる音が響き渡った。

 

「……二人とも」

「「――謝罪はいい」」

「ウス」

 

……。

もーなんなん今度は!?

 

“夜”から、ギチリ……ギチリ……と。固いものが擦れる音が聞こえる。……金属?いや、金属にしてもやけに大きい音だ。鎧を着た誰か……いや、()()()()()()()()()()()()()()

 

「いったい何が……?」

 

困惑していると、金属音がどんどん大きくなって――近づいてきて。

そして出てきたのは――

 

「……“()”?」

「いえ……あれは」

 

“夜”から現れたのは、“獣”。

夜渡りたちを最初に苦しめる夜の王。

 

六足三ツ首の――獣。

の――()()

 

一瞬見間違えるほど姿形は似ていても、全身は金属と歯車で彩られ、光を映し込まないほどに血に染まっており。

長い時間在ったせいか、所々破損し中から配線らしきものが溢れ出ていて。

 

三ツ首の一つ。右の首は完全に壊れていて。

剥き出しの配線と歯車の渦の中から――()()()()()()()()()()()()()()()

 

「――輝石人形……?」

 

原理と言えば、ぼくたちの“召使人形”と似ている。

輝石のエネルギーを使って動作する、輝石魔術師たちが使用していた人形兵。つまりは魔術を使ったロボットのようなものだ。

 

それの――“獣”の形。

 

「へへ……」

 

つい。

変な笑いが出てしまう。

 

「ワイって、機械工学も有能なん……?」

 

瞬間、無事な方の首二つの目が――“夜”の色を強く、灯した。

 

「来るわ……!」

「ああもう、二人ともほんとごめん!天才過ぎてごめんなさい!」

「それ謝ってないだろ!!」

 

急激な駆動音と共に、機械獣は此方に飛び込んでくる。

ギチリギチリと開けられた口の中は、血肉らしき破片が無数にこびり付いていた。

 

「ちょぉおい!」

 

飛び込んで回避しつつ、ぼくはボルトを浴びせるが――当然の事ながら弾かれる。

いったいいつから動作しているか分からないけど……破損しながらも完璧に動いている以上並大抵の金属じゃない。きっとダマスカスとかむっちゃかっこいい感じの金属なんだろういいなぁ(やけくそ)!!

 

その時。

機械獣は流れるように身を翻すと、首ごとに段々と口を開け――追跡者を咥え上げるように迫る。

その動きは――()()()()

 

すんでて躱す彼に追い打ちを駆けるように、爪で攻撃を仕掛ける。

所々破損しているせいか、一つ一つの動作にロボットらしいぎこちなさが見える。

その俊敏な戦い方――“狩り”の動きはまさに、“()()()()()()()()

 

(……グラディウスの動きを完全に模倣しているのか……!分離機能とかないよな流石に……!?)

 

機械の身体に際立った継ぎ目みたいなのは見当たらないからそれは無さそうだが、それでも。その脅威は、“獣”と一緒。

つまり、今ぼくたちは――“夜の王”と対している。

 

「くっ……!」

「はぁ!」

 

追跡者が回避した隙に、隠者がハイマの砲丸を飛ばす。

……詳しくは知らないけど――“獣”でめちゃくそ苦労したのは知っている。そのおかげか二人の動きに淀みはない。

だがそれでも決定打はない。

寧ろ機械の身体のせいか剣もボルトも――魔術でさえ、効いているか不明瞭だった。

 

追跡者は、振り下ろされる爪を避けながら――ぼくの視線を向ける。

 

「“お前”が作ったものか!?」

「おそらく!たぶん!99割!」

「なんだその曖昧さは!」

「少しでも自分じゃない可能性を信じたい!」

「――そんな無駄な事してる暇があったら弱点みたいなのは無いのか!」

 

はっ!そうだ確かに、“()()()()()()()()()()

 

ぼくは目の前で暴れる機械獣を凝視しながら、“設計図(チート)”をめくり続ける。

ああくそ!目次くらい用意しといてください!

 

(どこだどこだぁ……。……。……なんかボスの前で本のページを捲るってハウスオブデッドみたいだなぼくマジシャンすごい好きだったけどリメイクでなんであん――()!)

 

見えた!隙の糸!

……――[メタル化グラちゃんMkII]とかふざけてんのか!?

 

「三ツ首の中のデッカイ輝石!そこが動力と姿勢制御を担ってる!」

「輝石に何か施されるか!?」

「ない!思いっきり破壊して!あと、顔は換装出来るようにそこまで頑丈じゃないよ!」

 

「――()()()()!隠者!控えてくれ!」

「ええ!」

 

追跡者は、回避の姿勢から一歩前に出る。

迫る爪牙の応酬から潜り抜けると大剣を構え、狙い澄まし――破損した右の首。

剥き出しの輝石を突き刺した。

 

瞬間。まるで、痛みに呻くように。機械獣は怯んだ。

 

「ふんっ……!」

 

追跡者は、その隙を逃さない。

剣を力任せに引き抜くと乱雑に刻まれた傷は徐々に大きさを増し――呆気なく粉々になった。

機械獣の輝石の破片から“夜”が溢れていく。

 

――ガッキン!と。

追跡者は追撃のパイルバンカーを構え……真ん中の首に目掛けて炸裂させ、顎下から突き抜けた鉄杭は顔部分を吹き飛ばし――中の輝石を露出させた。

 

衝撃を調整した(溜め無し短押しの)一撃は、爆発力によって追跡者を後ろに下がらせ――代わりに隠者が前に出た。

杖先に、青白い魔力で構成された巨大なハンマーを携えて。

 

――“ハイマの大槌”。

 

砲丸と同じく、魔術学院レアルカリアの教室の一つ“ハイマ”の戦魔術師が振るう()と裁きの魔術とかいうパワー系の魔術だ。

 

「えいっ!」

 

身を超すほどの魔術の大槌を振るってるにしてはか弱い掛け声は――一振りで、輝石を粉々に打ち砕いた。つっよ……!

機械獣は為すすべもなくまた怯み、先程以上に動きが錆びついていく。

 

「坊や!」

 

隠者はぼくを呼びながら、続けざまに大槌を残った左首に打ち据える。ガコンッ!と顔が外れた首から、輝石が剥き出しになった刹那――放った、英雄武器くんが突き刺さる。

 

「よいっ、しょぉ!」

 

釣りで大物を引き上げるように、傑作を勢い良く引っ張り上げ――輝石の破片を撒き散らしながら英雄武器くんを巻き上げる。

 

 

流れるような致命の連携。

 

 

獣を模しているとて、基幹部分を失えば――何も出来ず。

ギチリギチリと軋む音が小さくなっていき、制御を失った身体は地に伏せた。

 

……しばし、沈黙が広がる。

 

「……所詮、真似事か。そこまで“お前”が天才じゃなくて助かった」

「褒めてるそれ?」

「褒めてない。まぁ……これでやっただろう」

「ちょっ、そういうのは口に出しちゃ――」

 

()()()

――駆動音が力強く響き渡る。

 

「ほらぁ……」

「……坊や。弱点は抑えたのよね」

「うん。もう動けないはず……“夜”のせいかな」

 

三ツ首の残骸から溢れる“夜”は止め処無く。

震えながら六つ足で立ち上がる姿は機械というよりかは――()()()()()()()()()()

 

……なんだ、これ。

 

「……身体の中にあるコアを引き抜くしかないね。追跡者、胸に切れ目が見える?そこにクロ―を撃ち込んで」

「こうか?」

 

言った通りに追跡者は、鈎爪を胸の切れ目――整備用の基盤蓋に引っ掛ける。ぼくもそれに合わせるように英雄武器くんを引っ掛けた。

 

「――せーのっ!」

 

合図とともに引っ張ると――蓋が外れ。

中の配線や歯車が剥き出しになる。……中にも“夜”が蝕んでいるようだ。

 

基幹部分を失い、視界すら無いはずなのに。

機械獣はそれでも震える足で此方に一歩一歩近づいてくる。

その姿に脅威は感じないが、底知れない恐怖を感じた。

 

「隠者先生。砲丸で一回動きを止めて」

 

言うやいなや撃ち上げられた魔術の砲丸は、機械獣の背に叩き付けられぐしゃりと腹から地に叩き付けられる。

……それでもなお立ち上がろうとするのを見ながら、ぼくは機械式に近寄って、胸元で跪く。

 

「………」

 

そうして、配線の中に手に入れて、触れた感触を確かめながら――ソレを一気に引き抜く。

ぼくの手には、人の心臓を模したコアが握られている。

その形に加工した輝石と、そのエネルギーを使って身体全体に、必要な動力を循環させるポンプ装置を埋め込んだもの。

 

それを失えば、もう何も出来ず。

機械獣は内を蝕んでいた“夜”を溢しながら――ピクリとも動かなくなった。

 

「……ふぅ」

 

ぼくは意識して息を吐いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

霊樹が力を溜めるように光を強めている。

それを何となしに見上げながら――ぼくは、さっき引き抜いたコアを弄ぶ。

地面に座り込みながら、少し……考え事をしながら。

 

「坊や」

 

隠者の声を顔を戻すと、彼女が此方を覗き込んでいた。屈みながら見てくる表情は、心配の色を隠していない。視界の端で周囲を警戒している()の追跡者もいた。

 

「どうかしたの?」

「んー……まあ、そう……アレだよ」

 

ぼくは胸の奥から沸き立つ不快感を形にするように言葉を出す。

 

「ぼくの頭の中の“設計図”。隠者は知ってたっけ」

「ええ。昔の坊やは、それを使って色々作ってるって言ってたわ」

「あれさ――()()()()()()()()()()()()()()()()()()。それこそ神様とか」

「それが、チート?」

「そ。神様が哀れなる人に授けるスーパーパワー。……けどさ」

 

ぼくは“設計図”を捲る。

兵が持っていた装備や、“遺物”で垣間見た過去に在った兵器。

そして――目の前の、[メタル化グラちゃんMkII]の残骸。……ほんと、何か他に良い名前無かったのか。

 

ともかく。

その原型――つまりは、“設計図”そのものを。

“ぼく”……人の王が作っていたようにしか思えなかった。借り物の力に、見えなかった。

 

「……全部、“ぼく”が作った――中にあるの全部。殺人兵器、ぜんぶ」

「………」

「それが……信じられなくて」

 

確かにぼくはサブカル大好き人間だから“そういう引き出し”は他の人より多い自信はある。

けれど、ぼくまず文系だし――情緒溢れる雅な言葉はともかく、兵器の中身なんて作れると思えなかった。

 

()()

 

見た事も聞いた事もない神様の贈り物(チート)を、神々の敵であったはずのぼくが持っているというよりかは説得力があった。

 

「……お前は」

 

ふと、聞いていない風だった追跡者が口を開く。

 

「好意を持った誰かの為なら何でもやろうとする奴だ」

「……つまり、誰かの為に一から殺人兵器を量産したイカレポンチって事?」

「……そうじゃない。()()()()()()()()()()()()()()()()()

「……事情ねぇ……」

 

ぼくは、輝石のコアを眺める。

まあ……自分から兵器を考えるよりかは理解しやすかった。

 

……事情。

例えば、誰かに命令されて作るように言われたとか?その時の大切な……家族とか人質に取られたりして。

ん?確か、人の王の時の家族って―――

 

その時。

 

ふんわりと視界が温かな感触に包まれる。

そのまま優しく身体を傾けられて寝転ぶと――後頭部に柔らかな感触が伝わってきた。

 

見なくても、分かる。

 

「坊や。まだ時間があるから、少し眠りなさい」

「………」

「正解がない暗い事をあれこれ考えても気が滅入るだけよ」

「……そうかも」

 

優しげに撫でられる感触にぼくは同意する。

記憶が無いんだ。本当はどうかなんて考えても無意味だ。

 

今は、過去がどうこうじゃない。

――“()()()()()()()()()

 

お言葉に甘えて、ぼくは意識を手放すように力を抜く。

少しでも暗い気持ちを手放すように。

 

 

 

 

 

 

 

―― ぼうや ぼうや ごめんね ごめんね ――

 

―― わたし……私達が、弱かったばかりに ――

 

 

 

 

 

 

 

優しく揺り動かされて目が覚めると、霊樹は当に消えていた。

“夜”は晴れ――遠くから破砕音と爆発音、そして蹄鉄の響きが聞こえてくる。……今日も元気だねぇきみら。ほんとは仲いいんじゃねぇの。

 

ともかく。

また発見されて追い回される前に、“ある事”を共有する為に二人に呼びかける。

それは今回の“夜の王”、その弱点について。

 

「――()()()()()()()()

「それは……フルゴール、例の将軍対策か?」

「そゆこと」

「“夜の王”として此処にいると?」

「寧ろ此処で関係無いマリスとか出てきたら笑うよ、ぼく」

「……それもそうか」

 

フルゴールと対するなら、それが必須だ。

ゲームでは、“夜”に溺れてもなお――その信仰に揺るぎない故に、神々の力を使ってくる。かなり鬱陶しい範囲攻撃だ。

雷系の武器や祈祷でそれを阻止しつつ優位に戦うのが定石。現実でもそれは変わらないだろう。

 

……つうても。

 

「……探すのは少し大変そうね。粗方の場所はとっくの昔に占領されているだろうし」

「そーなんだよねぇ……」

 

普通だったら、雷系のロケーションやら“潜在する力”を落とすボスを狙うのだが――何処かの誰かさんの頑張り過ぎたせいでご覧の有様。

まだ無事なとこを探す……なんて時間の無駄でしかない。

 

「なんで、あったらいいなって感じで行こう。最悪、ぼくのパワーで何とかする」

「漠然とし過ぎだろう」

「何度フルゴールと戦った事があると思っているのだね。もうおやつよおやつ」

「……?()()()()()()()()()?」

「………。遺物で見たじゃんね」

 

「……ふふ」

 

あーあー見られてる見られてる……!微笑まれてる……!

さっき暗い事言っちゃったから少しでも盛り上げようとしたらこの有様だ……!

いや……?もう隠すつもりはないんだからいいのか……?

 

ぼくをやけにニコニコして隠者が話を促してくれた。

 

「とりあえず。何処に行こうかしら?」

「んー……手当たり次第は止めよっか。兵士は討ち漏らしがダルいし、人馬も場所が悪いと増援を呼び寄せちゃう」

「じゃあどうするんだ?」

「――ちょっち考えがある。ひとまず、“中央砦”に行ってみよう。人馬が占領してたら尚良し」

 

ぼくはそう言って、輝石のコアを握りしめると、“リムベルド”中央に足を進めた。

 

 

 

 

 

 

――“中央砦”は散々な有様だった。

壺投げトロルが倒れ伏し、羽虫のように潰された流刑兵が辺りに転がり――屋上からは、()()()()()()()()()()()溶岩土龍の頭が力無く凭れていて、口から血を延々と溢していた。

その中を、身体に染み付いた規律のままに、人馬の戦士が歩き回る。

 

そんな様子を、中央砦を横切るように立つ断崖――倒壊した橋先の正門の陰から眺める。

()()()()()、此処は人馬が占領したようだ。

 

「……数が多いな」

「ええ、一人一人誘い込むのも難しそう。……坊や、考えって?」

「ふふふのふ」

 

ぼくは含み笑いをしながら、輝石のコアを掲げる。

 

「……それがなんだ」

「それをぉ……こう!」

 

コアの良い感じの位置に、正門の瓦礫に打ち付ける。

何度もしていくと――徐々にそれは、()()()()()()()()()

 

“設計図”には輝石を使用したのもある。

それによると輝石は扱いを誤ると……弾けて、その中にエネルギーが無作法に飛び散ってしまうのだ。

動力として利用するには危険な性質だが――それを利用し、武器に転用したのがあった。

“黄金の地”にも、その性質を利用するアイテムがある。

 

つまり、()()()このコアを爆発させるのだ。

ぼくは輝きが強まっていくコアを、ボルトの先端にくくりつける。

 

「いい?お馬鹿さんたちの合図を受け取ったら、一目散に地下」

「そこから、砦内部から屋上?」

「そ。たぶん、指揮官っぽいのがいるんじゃないかな。それを倒したら――食べかけからルーンを貰って、さっさと離脱。どう?」

「……いいな。それで行こう」

 

卑怯も卑怯な作戦だが――一々戦うにはダルすぎる相手だからしょうがないね。

ぼくは“傑作”を構え…………コアの輝きが最高潮になる間際に、空へと放つ。

 

微かな風切り音と共に宙へ投げ出されたコアは、やがて――大きく破裂すると、辺りに()()()()()()を撒き散らす。

それはきっと、兵たちにこう見えるかもしれない。

 

――“援軍要請”。

 

静まるのは一瞬、各地から――緑色の光が撃ち上がり始めた。

 

「ヨシッ!」

 

ぼくたちは頷き合うと一目散に正門に入り、断崖を降りて――地下へ入る為の用水路に飛び込む。

何人かの人馬が此方に気づいたように見えたが、すぐに無数の破砕音に注意が掻き消えただろう。

 

ドカドカと響き始めた戦いの揺れを天井から感じながら、ぼくたちは地下部屋に入る。

そこは通常なら強化ボスが一人配置されている。鈴玉狩り以外なら美味しいスポットだ。鈴玉狩り以外なら。

 

けど、そこには誰も居なかった。

……いや、戦いの跡は残っているから()()()()()()()()()()

 

それにより、気になるのは。

部屋全体に――()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「なに……?」

 

無造作に投げ入れられたように積み上がっているそれらは、黄金樹の兵士たちが使う無骨で簡素な剣や槍。他にも黒き刃の刺客の短剣や血の貴族たちの重刺剣……黄金の地に存在していた者たちの獲物もあった。

大盾や鎌、鉄球拳やゴーレムの大弓。そして、暗月の大剣もあった。

………。

 

「………」

 

……暗月の大剣?……暗月の大剣!?

 

「――我が王好き好きブレード!?!」

「なんだいきなり!?」

 

ぼくは声を張り上げる。

見間違えようも無い無造作の積み上がった武器の山、その隙間に――暗い色、冷たい月で作られた大剣の柄が見えていたのだから。

本編エルデンリングで結婚してくれるMyDearラニからの婚礼の印だぞ!?

こんな適当に置いとくなんて!

ぼくは慌てて、剣を握って山から救出すると――バチンッ!と、弾かれる。

 

「ァ!」

 

そうしてその全てを黄金の粒子に消えていくとぼくの中に流れ込んでいく。……ろ、ローリング攻撃強化……。

途端に身体の力が抜けて、崩れ落ちてしまう。

 

「ウッ……ウワァァァ!!スピキモリチャバダンギジマセヨ!!ネルヌニ―――!!」

 

ああああああ!!

せっかく!せっかく側にいてくれたのに!我が(ゲームの)導きの月光がぁぁ!!

 

「……どうやら“潜在する力”からの武器を集めているようね」

 

慟哭するぼくを尻目に隠者は周囲を見渡しながら呟く。

 

「何故だ?」

 

追跡者はそれに続く。

ぼくの事を無視して!ぼくの事を無視して!

 

「さぁ……?武器を使わせないように?あの子の兵は数が多いから戦力が馬鹿にならないし」

「……アイツの兵が、アイツ以外の武器を使うとは思えないが」

「それはそう」

 

隠者が武器の山を見物したのを端に捉えながら、ぼくは意を決して立ち上がる。

やっ、やってしまったのはしょうがないが……ゲームだったらとんでもねぇ戦犯行為をやってしまった……!

 

追跡者には結構良い武器だったのに……!

 

「ごめん、追跡者」

「……謝られてもな。そんなに良い武器だったのか?」

「えっ、見た事ない?……ああ、でもレジェンドだからそれもしょうがないか」

「ほう……それは少し惜しかったな」

「暗月の大剣って言う奴でね、マイリトルラニのラブラブペアルックソードなんだ」

「……やっぱ別に要らんな」

 

そんな!

 

「まあ、それはもういい。何故かは知らんが武器を集めているなら僥倖だ。お前が言っていた雷の武器が無いか探そう」

「むっ。……それもそうだね」

 

騒ぐのはここまでにしておこう。

上の戦闘もいつ終わるか分からないし。上に出たら人の兵が占領してました!……なんてしたら作戦失敗だし。

ドッカンバトルの余波が伝わってくるからまだ大丈夫だろうけど。

 

そうして追跡者と一緒に、武器の山を探していく。

要らない武器はぼくが触ってステータス強化に回してしまおう。

フハハハ!ボーナスタイ――ダッシュ攻撃強化ばっか出てくんですけど……!!当たり抜かれてるよこれ!汚い商売やでほんま!

 

 

………。

 

 

「――()()()

「そのようだな」

 

見て回ったが、まるでそこだけ抜かれているように――雷の武器がない。……いや、元からそれ系は少ない部類だけど。

属性が付与されているのすらないのは何かを感じざるをえない。

 

「こっちも雷系統のものは無かったわ――()()()()、見つけたけれど」

 

戻ってきた隠者が手に持った杖をくるりと弄ぶ。

美しい青色の輝石が埋め込まれた優麗な杖。まるで宝石を飾るように豪奢な意匠に彩られたそれは――

 

「――カーリアの王錫!」

「あら、坊や。()()()()()()

「………。はい!知ってます!」

「開き直った」

 

その杖は、かつての黄金の地にあった“魔術学院レアルカリア”の長にして、“カーリア王家”の女王。

そして――ラニの母親。つまりは意識的には、ぼくの義母である。

……今ぼく凄いキショい事言ってる……!!

 

 

―― ……… ――

 

 

ァ!

いっ、いやちゃうんすよ。前世の話って言うか……!

 

―― そうだよね ――

 

ん?ぐ、グノスター……?

 

―― 私が貴方のママなんて相応しくないよね。貴方に苦労かけて貴方を苦しめて貴方の側にいる事も出来なかった私にそうよ最初から相応しく ――

 

グノスターさん!?

なっ、なんでそんなダウナー気味になってるの!?いつもの根拠も無くぼくの母親を名乗っていたあの謎めいた自信は何処に行ったんだ!?だからさっきから静まり返ってたのか!

フォルティス!フォルティスくん!

どうなって………()()()()()()()()()()しっ、しばらくすれば落ち着くって……だっ、大丈夫なの?なんか、ぜっ、全肯定ASMRとかやった方がいいんじゃないの?

 

だっ、大丈夫?

なら……信じるけどさ……。

 

「それにしても坊や、()()()()()()()()()()()()()()()()。黄金の地の歴史に詳しかったの?」

「ん?……まあ、それな……“破砕戦争の英雄”?」

「……?ええ、満月の女王レナラはミケラ・マレニアの南進に徹底抗戦した大英雄よ。……最期がちょっと悲しいけれど」

 

こっちはこっちで何のお話?

えっ、いやレナラって――ラダゴンの奴に捨てられて廃人になっちゃった可哀想な人なんじゃないの……?

……この世界は、ぼくの知ってる“破砕戦争”じゃない……?

 

……そういやぼく、クソガキに目ぇ付けられてたんだっけ。嫌な事思い出した……!!

 

 

その時。

ずぅぅぅぅんと、大きく天井が揺れた。

――っと。色々考えてる暇は無い。ともかく、先を急ごう。

 

 

「二人とも」

「ああ」「ええ、行きましょう」

 

地下部屋を出て、砦の一階に上がる。

巨大な柵状の城門は閉じられていて――そこから、兵と戦士の激戦が見えた。

城門を開けるギミックを操作しながら推移を確認してみると……トントンかな。人馬もやられてるけど、砦内という閉所だからか兵たちも攻撃が避けきれていない。

……これならまだ大丈夫そうだ。

 

ぼくたちは中央広場に出る城門とは逆に、外へ行く門から出ると――壁を伝って、倒壊した穴から砦内に侵入する。

戦いを尻目にそのまま、こそりこそり砦壁の道を進み……壁に付けられた塀に登ると――それ伝いに、()()()()()()()()

 

……すごい、ゲームでのショトカを知っているんだ。

説明する手間が省けた。

 

そうして、ぼくたちは屋上のボスエリアをチラリと覗き見た。

 

『………』

 

そこに居たのは、一際大きな人馬の戦士。

鎧の装飾も何処か他よりも豪奢な印象を受ける。

あれは――

 

「……()()()()()()()()?」

「そのようね」

 

過去の記憶に居たその人のように見える。

彼は下の戦闘を気にした様子も無く、空を睨みつけるように見上げていた。

――()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「……グランサクスの雷」

 

かつての黄金の地に古竜が侵攻してきた事がある。

古竜戦役と呼ばれたその戦争では、王都ローデイルに匹敵するほど巨大な古竜が襲来した。

それがグランサクスであり、その力を宿した槍が――まさしく、副官に握られている稲妻。

エルデンリング屈指の雷系統武器である。

 

……なんで、人馬があれを持っているんだ?

 

「……どうやら、武器を集めていたのはアレの指示のようだな」

 

追跡者の言葉に振り向くと、顎をしゃくられると。

副官の近くに武器が何本も突き立てられているのに気がついた。……たぶん、アレ全部雷属性が付与されたものだろう。意図しているようにしか見えない。

 

……まるで――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「……まあ、なんであれ。渡りに船なのは変わりないね。襲っちゃおう」

 

ぼくの言葉に二人が頷くのを確認して、屋上に踏み入れる。

その音で気がついたのか、空に向けられていた視線が――此方に向いた。

 

『……ぁ、……ァァ……!』

 

一瞬、何かの色が瞳に灯ったように見えた。

でもすぐにそれが“夜”に覆い尽くされると――赤黒い灯火が瞳に宿る。

そうして前足を高らかに上げると、此方に突進してきた。

 

「うぅーん!会話は無理か!ちょっと期待してたんだけど、やっぱモーグが特別だったかぁ!それか単純にぼくが嫌われてただけかもしれんね!」

 

小さなぼくたちを踏み荒らそうとしてくるのを横に避け、ぼくはボルトを浴びせかける。

突き刺さっていく針山を鬱陶しそうに身を翻すと――その手の稲妻に、赤い雷霆が灯り始める。

 

「――っとおお!」

 

攻撃を予測して、“仕掛け”――楯を展開する。

それと同時に迸る赤い雷霆が――ぼくに向かって投げられた。

 

――“古竜の槍”。

 

分かりやすい名の遠距離戦技。

けれどわかりやすい故に――その威力は計り知れない。

 

投げられた槍は、フォルティスの甲殻をひどく揺さぶり――身体が大きく仰け反ってしまった。

 

「ぐっ……!」

「――坊や!」

 

副官の手元から離れた稲妻は、赤い軌跡を手元に奔らせ――またその手に収まる。グランサクスの雷はそうやって連発出来る驚異的な武器だ。

()()()()、計り知れないけれど。

 

――ガッキン!と。

副官の足元で、炸薬に火が灯る。

 

使い慣れていない武器故か――“夜”に呑まれたせいか。

その隙が、致命的になった。

 

「はぁぁ……!」

 

追跡者のパイルバンカーが炸裂し、凄まじい勢いの鉄杭がその腹に突き刺さる。

大きく怯み、足元の彼に対処しようと槍を構えるのを――逃さない。

 

鉄杭が突き刺さったその傷目掛けて、英雄武器くんを撃ち放つ。

 

『……ッ……!』

 

人馬の屈強な身体でも、肉を抉った一撃は激痛を生んだのか。

声を漏らすと、まらその手に赤い雷霆を灯らせる。

 

そうして投げつけられた赤い雷霆に――ぼくは回避をしなかった。

前に立った隠者が、“カーリアの王錫”の魔術を発動させたから。

 

彼女の身体が宙に浮かぶと、魔力が円を描き――やがて球となり、それは“月”を象った。

 

――“レナラの満月”。

 

かつて、ただの少女を魔術師の頂点へと押し上げた、月の魔術。彼女が見出した月の形。その完全たる在り様は――遠距離攻撃を打ち消す効果がある。

 

故に投げつけられた赤い雷霆は満月にかき消されると――そのまま、隠者から撃ち放たれた月は副官へと飛んでいく。

 

『………!』

 

ぶつかり弾けた月の破片が副官に突き刺さる。

それは次なる魔術に呼応するように光り輝いた――隠者が持つ杖先の輝石が強く、より強く光輝き始めた。

 

副官は瞬時に逃げようとするが、ぼくは英雄武器くんを強く引っ張ると――痛みで足が止まる。

 

それで、十分だった。

 

「――はぁ!」

 

隠者は杖を振るう。

放たれたのは――極大の流星。レナラが作り出した輝石の魔術の最高峰。

――“ほうき星”。

文字通り夜空を駆ける流星の如き魔術弾は、副官の胸を突き抜けた。

 

星が通り過ぎた所は、ポカリと穴が空いていた。

 

………。

静寂の後、副官は静かに崩れ落ちる。カランカラン、と稲妻が石畳に転がった。

 

「……追跡者。それ使って」

「ああ」

 

追跡者が稲妻を手に取ると――彼の体躯に見合った形の槍として収まる。戦力としては十分だろう。

ぼくはそれを確認した後、副官に近づいて、その顔の近くで立ち止まった。

 

『―――!』

 

瞳が何かを伝えるように見上げてくる。

……何を言っているかはわからない――何を思っているのかもわからない。

フルゴールの弱点の雷を集めていた事しか分からない。

 

だから、こう言う事にした。

 

「……後は任せて。ぼくは王じゃないけど無下にするつもりはないよ」

 

――()()()、返答したという訳ではないと思うけれど。

その身体は“夜”に解けていき――内に秘めていたルーンと共に、黒黄色いナニカがぼくの中に入り込んでいった。

 

 

 

 

 

『どうしてですか将軍!今、人の国は……早く奴を助けに……!』

『……“()()()()()()()()()()。そう仰せだ』

『何故です!?このまま……では……――待て。あの光はなんだ……?』

 

『あぁ……そんな……っ!』

『……ッッ』

 

『我らの和平が……我らの――希望が……

 

 

 

「……坊や?」

「――うん?ああ、何でもない」

 

()()、声が聞こえた。

兵から入り込んだ奴と同じように、きっと強く印象付いた光景なのだろう。

……遠くに黄金の流星が堕ちていた。つまり、アレはきっと“ぼく”がラダゴンに殺された時の同じ頃だろう。

………。なんでか、ちょっと惜しまれているように見えたから――倒したの、ちょっと罪悪感だな。

 

「ルーンは十分入った。あとは……」

「うん。人馬の殺し損ねを頂いて逃げちゃおう。隠者、また“擬態の魔術”お願いしていい?」

「ええ、大丈夫よ。……近くに魔術師塔は無さそうだからどうしましょうか」

 

 

 

 

 

ぼくたちは武器を手に、疲弊が見え始めた戦闘に飛び込んでいく。

 

――空に、“夜”の色が滲み始めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………

……

 

 

 

 

 

「………」

 

「……まあ、いい。貴様が我らに参じた以上――役目は果たして貰おう」

 

「もうすぐ……我らが王と滅びゆく黄金の犬共が来る」

 

「今宵、王は失われた記憶を望むようになるだろう」

 

「さすれば――()()()()()。祝福が死を打ち消し、夜がそれを成就させ……ようやっと、世界に“公平”が戻ってくる」

 

「故に華々しく戦い、此処に礎となれ」

 

 

「……貴様には過ぎたる栄誉だろう?裏切り者め」

 

 

 

 

 

 

 

 





―――

[恩寵:“人馬の戦士”の信仰]

・魔術と祈祷の威力が上昇し、詠唱時の強靭度も上昇する。獲得するごとに上昇幅が増加する。

“夜の王”に続き、その身を沈めた彼らは幕引きこそを求めてる。
あるいは、憎らしき仇敵を。
奇しくもそれは、夜に溺れてなおも忘れぬ――常からの行為に似ていた。

―――




―――

[メタル化グラちゃんMkII]

正式名称:輝石動力式機械人形獣、グラディウス。

人の王が“大戦祭り”の決闘の為に制作した機械人形、その改良型であり――“玩具箱”の中の一つ。
王の腕に付き従っていた“三ツ首の獣”を模している。

旧型の動力である“黒い油”の代わりにヤロダス学派から供与された輝石をふんだんに用いる事で、より複雑で精密な操作が可能となった。

……が、それ故か。
瓦礫の中、引き寄せられた“夜”に蝕まれた時。
輝石が強く反応し、独りでに動き出した――その囁きに導かれるように。


赤髪の英雄と、それに類するあらゆる全てに死を。


―――



―――

[女王の錫杖]

かつての黄金の地に存在していた魔術学院レアルカリアの長にして、傍流たるカーリア王家の女王。
そして、破砕戦争にて君主連合軍を率いた“満月の女王、レナラ”の杖。

彩られた優麗なる輝石の光は、時が過ぎ去ってなお健在であり――今なお最高峰の魔術杖に他ならない。

レナラは、ラダゴンが王配になる前の妻であり、ラダゴンが女王マリカの下に向かった際に精神の均衡を崩し廃人となり、無用の過去として幽閉されていたが――ある時。
“縋るもの”を盗まれた事で正気を取り戻し、後にラダゴンと和解し、全ての実権を取り戻した。

“破砕戦争”においては、各地の君主たちを束ね、ローデイル残党軍と純血騎士団と共に、マレニアと貴腐騎士団に抗戦したが――神人ミケラが戦場に現れた事で戦線は崩壊。

その後、もっとも多くの敵を殺した“敵”として、娘である王女ラニに討たれた。


―――
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