“転生者” 作:ダフネキチ
『ねぇ、フルゴール。全部終わったら――きみは何がしたい?』
構えられた、光の矢。
その先は寸分違わず――ぼくに向けられている。
そして撃ち放たれるその刹那。
“仕掛け”を展開し、拡がったフォルティスの甲殻がそれを弾いた。後ろの上空から景気のいい破砕音が聞こえてくる。
「二人とも!」
ぼくの言葉に――追跡者と隠者は前に出る。
追跡者は“グランサクスの雷”を抱え、猟犬のように鋭く、フルゴールの前に躍り出た。その後ろからぼくのボルトと隠者の“ほうき星”が援護する。
向けられた攻勢を、フルゴールは――容易く受け止めた。
ボルトは鎧に任せ、ほうき星は巨躯とは思えない軽やかな馬足で翻し、槍の一撃を剣で受け止め……――ギリギリと鳴る火花ごと振り抜いた。
「チィ……!」
宙に投げ出された追跡者に――また、光の矢が構えられる。研ぎ澄まされる光の先は、無防備な彼に向けられていた。
「追跡者!」
ぼくは英雄武器をフルゴールの腕に撃ち込み、力いっぱい引っ張る。この場にいる誰よりも非力な自信はあるが、それでも夜渡りの“加護”があることには変わりない。
すんでで、放たれた光の矢は追跡者の横を突き抜けていき、彼はくるりと地に着地する。
安心したのも、
フルゴールは、腕に突き刺さった英雄武器――そのつながった鎖を握った。
「へ?……ちょっ――!!」
「坊や!」
そして、勢い良く引っ張られる。
ぼくの身体は踏ん張る事も出来ずに引き寄せられていく――剣を構えた、フルゴールの下へ。
ぼくは慌てて、フォルティスの甲殻を向けた。
――ギィィィィン……!!
剣と甲殻の楯がぶつかり合う。
激しい火花と衝撃のまま、ぼくは後方へと投げ出された。
さっ、流石フォルティス!さすフォル!家族の大黒柱の名は伊達じゃないね今考えたけど!
ボルトを何度も浴びせるが、効いていないのか――
射線に鎧を合わせるようにボルトを受け止めると、また引っ張ってくる。
「――いやっ、目が!目が回るっ!!」
「抜けないのか!?」
「英雄武器くんはしつこい性質だから自力で抜けないの!へーるぷ!」
その時、フルゴールに撃ちつけられた英雄武器の穂先がキラキラと輝いているのが見えた。
あっ!ぜってぇ馬鹿にしてる!笑ってるぞあいつ!めっちゃ煽ってる!今度は折るだけじゃ済まさんぞ鬼畜槍めっ!
「ッ……!」
追跡者は左腕のパイルバンカーを起動しつつ、フルゴールの足元に駆ける。きっと炸裂で英雄武器を引き抜こうという算段だろう。
けれど、フルゴールもそれを見越して前の馬足を振り上げ、押し潰そうとしてくる。
けれど。
「はぁ……!」
隠者が、フルゴールの足元に潜り込む。
攻撃しようとしたその隙に――“ハイマの大槌”を叩き込む。魔術系のパワー系な魔術戦鎚の一撃は、前足を上げた巨躯の重心を微かに揺らがせた。
――ドスンッ!と追跡者を踏み潰そうとしたその足の隙間。
――ドゴォォォン!
振り上げられ、飛び出す鉄杭と――巻き起こる爆炎の炸裂。
さしものフルゴールもたまらず仰け反り、その衝撃で英雄武器がフルゴールの腕から離れて。
「ぶべっ!」
引っ張られたままのぼくは無様に地を少し滑った。
二人は素早く、ぼくのそばに駆け寄ってくれる。
「坊や!大丈夫……?」
「うっ、うん。ありがと……ちょっち足手まといだったね」
「そう言うな。お前がああしなかったら、あの矢をもろに受けるとこだった。礼を言うぞ」
追跡者はフルゴールから目を離さないまま、ぼくに立つように促す。心配そうな隠者の目にもう一度大丈夫だと頷くと――ぼくは、素知らぬ顔でクロスボウに収まった英雄武器くんを見る。
「これ終わったら、溶かしてバターナイフにするからね」
懇願するようにまた輝きだしたのを無視しながら――静かに佇むフルゴールを見た。
――“
“ゲーム”では中盤辺りで戦う“夜の王”の一人。
小細工や変なギミックは無し。
まさしく、良い感じのボスであり――弱くはなく、程々に強く楽しい。そんな感じのいい塩梅なのだ。高難易度の“深き夜”ではクソボスだらけの中でひっそりと咲く、ポピーのような。
心が安らぐおやつのような存在である。
……
目の前のフルゴールは全然違う。
両腕が揃っているし――まして、それは“常夜の王”の状態でもない。
空虚な神々の威光の下、“夜”に汚れた巨躯のまま佇んでいる。
――けれど。その兜の下の眼光は、“夜”に呑まれておらず、ただ静かにぼくたちを見据えていた。
「……“夜”に狂ってる訳でもない。あと、
「………」
「追跡者こっち見ないで。……いや、“ぼく”のせいだと思うけどこっち見ないで」
――
フルゴールは猛然とこちらに突っ込んできた。高らかに響く蹄鉄は、揺れと共にぼくらの耳を震わせる。
……このまま戦っても仕方ない。きっと、“彼”もこのままやるのは本意じゃないはずだ。
「二人とも!ぼくに合わせて!」
「構わんがどういう作戦だ!」
「――フォルティスアタック!」
「心得た!」
「心得れるのね……。騎士のお兄さんも、やっぱり坊やのお友達」
「馬鹿にしてるのは伝わってるぞ!」「そう言うきみがぼくを馬鹿にしてるのわからない!?」
突撃してくるフルゴールを左右に転がって回避したぼくは、通り過ぎる間際に――彼の胸に英雄武器くんを撃ち込む。
グンッ!と引っ張られて、またぼくは宙に投げ出される。フルゴールは足を止め、鎖を掴むと、今度はぼくを鈍器のようにふりまわ――うあああああ遠心力ぐぁあああああ!!
きっ、気持ち悪いけど!
「くっ!」「きゃっ!」
カウボーイの投げ縄のように振り回されながら、屈む二人の上を通り過ぎる。ぼくは二人にウィンクをすると――“仕掛け”を展開し、フォルティスの甲殻を向ける。
――追跡者に。
「かめんっ!」
そうしてまた追跡者の上を通り過ぎるその間際――がきぃんっ!と彼の持つバックラーのパリィが、その遠心力塗れのぼくの軌道を大きく変える。
――フルゴールの下へ。
フルゴールは、すぐに鎖を引っ張ろうとするが――その腕に魔力弾の爆撃。“ハイマの砲丸”が窘める。
そうして振り回された勢いのまま、英雄武器に目掛けて――
「くらえ!英雄武器!――フォルティスアタック!!」
ぼくは突進した。
衝撃と英雄武器がより強く突き刺さり、フルゴールは小さく呻く。英雄武器も悲鳴をあげるみたいにピカピカしている。よしっ!
「流石フォルティス!ありがとーう!」
ん?……ああ、ごめん。呼んでる訳じゃないんだ。ごめんね。
――どうかした?とばかりに胸の“内”から顔を覗かせるフォルティスはぼくの言葉を聞いて元に戻っていく。なんか普通にグノスターも顔出してたけどぼくの身体どうなってるのん……?
「うおっ……!」
何とか体勢を整えると下から光が溢れ、研ぎ澄まされていた。
光の矢。先ほどよりも強い強い光が集まり、それは徐々に徐々に高まっていく。
それは“記憶”でも、“ゲーム”でも見た一撃。
宙に飛び上がり、地に爆撃をしてくる――決死の一矢。
……うぇ!?これ、回避できなっ――
そうして、矢が放たれたその瞬間。
死角から飛び込んできた
それは一人の少女が見出した自分だけの満月。そして彼女を英雄とした――最強の魔術。
遠距離攻撃を吸収し、呑み込む。完全なる月。
“レナラの満月”は触れた瞬間。
矢の光を呑み込み、その力を掻き消した――設定ではあり得る。だが、“ゲーム”では出来ないはずの事。
それは“満月の女王、レナラ”がめちゃつよでも、隠者が上手かったというのも――あるだろう。
けれど。空から降り注ぐ、空虚な神々の威光がその答えだと思っ―――
かっ、回避出来たのは嬉しいけど強かに身体を叩きつけられた……!!
だが、この隙を逃す訳には行かない!
「追跡者!」
「――分かってる!」
瞬間。
追跡者の右手に、
それは永遠なる古竜の象徴たる力。彼らが扱う絶対的な暴威。
その一端が、追跡者の“槍”をより巨大にしていく。まさしくそれは“古竜の雷”。
借り物。一時的。
しかし――確かな雷が今、振り上げられる。
「喰らえッ!」
投げられた槍は、まさしく雷鳴のようにフルゴールに突き刺さった。その威力に、フルゴールは前足の膝を突いた。
その赤き力が……彼の身体全体に拡がり、その身を焼き――拡散していった。
………やっぱり。
ぼくはのろのろと立ち上がる。上空から叩きつけられば骨折の一つでもしそうなものだが――“加護”のおかげで、肘が思いっきりぶつかったくらいの痛みですんでいる。……それでもいてぇなくそっ……!
「――畳み掛けるか」
「追跡者。ちょっとストップ」
彼らしい躊躇のない追撃を止める。ぼくも普通ならやったれドンドンなんだけど……あんな“記憶”を見せられればねぇ……。
そうして――一歩。フルゴールに近づいた。
「坊や……」
「大丈夫だって、隠者。彼、“ぼく”の友達みたいなもんだったようだし」
「……尚更、不安だわ……」
「隠者にとってぼくの友達=変な奴なの……?」
苦笑しながら、また一歩。
――フルゴールの前に、立った。
「やぁ、フルゴール。神々と喧嘩でもした?」
ぼくの言葉にフルゴールは少し押し黙った。
そして――胸に突き刺さった英雄武器を引き抜く。
「――喧嘩なんてものではない」
……そっかぁ。
「……今のぼくはよくわかんないけどさ――“神々”ってあんなに忠を尽くしたきみを捨てるほど薄情な奴らなの?」
「違う。神々は慈悲深くあらせられる。今なお望めば、我に力を授けてくれるだろう――
「ふーん……」
からかう事は出来ない。
一端とはいえ知っているからだ。
フルゴールが未来を前借りしたトンチキ勢力と戦って――神々への忠と戦士たちの命に悩んでいた
“ゲーム”ではなかった設定……なんて決して言えない、彼の生き様を。
「……まあ、その格好も似合ってる。闇堕ち戦士みたいでぼくは好きだよ。光から闇に堕ちるってかなり興奮するよね」
「侮辱か貴様。……そういうお前も相変わらずだな、人の王よ。一度死んだ程度ではお前の馬鹿さ加減は変わらんか」
「なにおう。つうか、ぼくは“人の王”の事は覚えてないの。今は“転生者”でやらせてもらっている。過去の話だよ、ジェネリックヘルガストを率いてた頃なんて」
「――いいや。それでもお前は“人の王”だ」
フルゴールは立ち上がる。
兜から覗くその瞳は確固たる意思を以て――ぼくを。その中にある、“ぼく”を。見つめているようだった。
「神々への恭順を拒絶した者たちを率い、全ての者たちに絶望と希望を与えた。只人たちの救世主――“
「……褒めてる、それ」
「褒めてるとも」
フルゴールは剣をぼくに向ける。
敵意はない。けれど、その切っ先で何かを貫くように。
「
「しかく……?」
「そうだ。故に、蒙昧たる“指”は耐えられなかったのだ。征服したが故に、征服される事に怯え――“赤髪の英雄”を遣わせ、全てを瓦礫に沈めた。……まあ、それが全ての間違い。
「……?……?」
つまり……どういうことや……?
二人に顔を向けると、追跡者は肩を竦め――隠者は、ただ納得するようにぼくを見ている。
……ぼくは、あるものから考えるのが得意なのであって。ないものから考えるのは苦手なんだけど……。
フルゴールは剣を下げ、ため息を吐く。
それは呆れじゃない。ただ静かに――戦意を高めるような。そんな吐息。
「……どうあれ。
「……」
「その責任。今、一つ果たしてもらおう。我らが始め、そして終わらせられなかった事を」
フルゴールは、自らの剣を地に打ち付ける。
その瞬間――とてつもない地響きが“無の荒野”全体に伝わっていく。
「なっ……なに……!?」
周囲を見渡すと、
古きなにか。建物。フルゴールとぼくを中心に囲むように広がる――観客席。
「“闘技場”……?」
って、そうだ。二人は……てぇ、いない!
二人が居た場所には二人の姿は何処にもなく――代わりに、これ見よがしに、
「んん……はぁぁぁぁぁ……!これもお前の仕込みかリブラ……」
完全に闘技場がせり上がると――等間隔に、霊体のような戦旗がたなびき始める。
“特徴的な剣の象徴”――“歯車に映し出される誰かの横顔”。
「――いざや聞け!」
フルゴールの声が周囲に響き渡る。
闘技場を超え、無の荒野を超え――何処かにいる、誰かに伝えるように。
「我らを築き上げた先人たち!我らが為に死した英雄たち!そして今なお我らに続く戦士たちよ!」
観客席に次々と現れたのは――霊体だった。フルゴールのような人馬の戦士。ぼくのような只人の兵士たち。それ以外にも、見慣れない――けど、何処か懐かしいようなそんな人々が、次々と集まってくる。
何がどうなっているのかは、過去の“ぼく”――皆大好き人の王しか知らないだろう。
けれど……まあ、なに?
これだけはわかる。
「さぁ、始めよう。……“人の王”よ」
今宵、“大戦祭り”の幕が下りる。
………
……
…
「……何の真似だ、悪魔」
「さてな。だが、貴様らがいるのは無粋極まるだろう?」
「それは貴方も同じでしょう」
「然り。故にこうして――この席にいる」
追跡者と隠者は、気がつけばせり上がった“闘技場”。その観客席にいた。ほんの一瞬の出来事で察知も出来なかった。
ただ――すぐ近くで何食わぬ顔で座っている、全身黒ローブの不審者がいればこいつのせいだとすぐに分かる。
二人は闘技場の中央、将軍フルゴールに対峙する“彼”を見た。……フルゴールの力は只人じゃ敵わない。たとえ“彼”の持つ武器がそんじょそこらの武器を超えるものだとしても決闘など―――
急に、“彼”の隣から――何かがせり上がってきた。
それは二人の心根を凍らせるトラウマ。
“三ツ首の獣”――その機械だった。“夜”に汚れておらず、素のままの機械人形のようだ。
……また“人の王”の作った兵器か?
「……ねぇ、騎士のお兄さん」
「ああ――先ほど見たのとは違うな」
少し前に会った……なんだったか、ぐらちゃん、まーくつー?とかいう奴よりも少し装飾がゴテゴテしているように見える。
“彼”はそれを見て――
「レアメタル化グラちゃんMkIII……!だっ、ダサすぎる……!!」
……そんなこと気にしてる場合なのだろうか。
“彼”はため息をつくと、ひょいっとその“獣”に乗っかった。そして背で何かを操作していると――ふと、抱えていたクロスボウを右手であらぬ方向に差し出した。
「ちょっとリブラぁ!これ持ってて!!」
瞬間。クロスボウは黄色い炎に包まれ――近くの悪魔の手に収まった。
………。
「顎で使われてるがいいのか?」
「是非もなし」
「……ねぇ、気になっていたけれど」
「なんだ?母もどき。蟲以下とは笑えるな」
ピクリと隠者が反応した。……追跡者は不穏な空気を感じたので、少し席を離す。
隠者は怒りを我慢したようで息を長く吐いた。
「あの子……“人の王”に仕えてたりするの?」
「否。我らは――」
「ちょっと!そこの羽虫共!さっきからブンブンブンブン煩いですわよ!わたくしの陛下の活躍が聞こえないでしょう!」
近くから凛とした女性の声が聞こえてきた。
耳に静かに入り込むその声は心が凍るほどに美しい。
おそるおそる振り向くと、近くの席に座っていた。それは――絶世の美女だった。
「全く!マナーがなっていませんわ!流石は黄金の残党、汚れた血統の狗どもですね。一時でもわたくしの陛下のそばに侍るなんて……虫唾が走りますわぁ!」
シルクのような白きローブはシンプル故に肢体を綺羅びやかに彩り、垂れる青の長髪はまるで舞い散る雪と“夜”が混じった退廃的な神秘の煌めきを感じる。大きな瞳は、冬の夜空を閉じ込めたように静謐で。
そしてその手には―――
「ああ、やだやだ。近くにいるだけで汚れた匂いにうんざり致します。ですが、陛下は慈悲深いお方ですからね。
“結婚した” “認知して”
そう書かれたうちわを両手に持っていた。
………。
――変なことしてんのこいつだろ……。
二人と悪魔はするすると近くに寄る。
やはり団結には――
「なにあれ?仲間?」
「同志とは正直言いたくないがな――アレの“婦人”を名乗る変質者だ。奴に比べれば、私など不審者と名乗るのも烏滸がましい」
「……どういった存在なんだ。前に、空に浮かぶ“瞳”を見たが」
「ほう。見たのか。それは“婦人”の本体の一部。彼女は我々の中で、群を抜いて存在の格は高い。そも――彼女を上回る存在などもう居ないと思うがな」
「……
「貴様らが“人の王”を知っていればわかるだろう」
「「ああー……」」
「きゃあああ!陛下ぁあああ!!こっち見てくださぁぁい!!」
………。
――煩いのもこいつだろ……。
―――
[レアメタル化グラちゃんMkIII]
正式名称:分離試作型輝石動力式“ホーラ・ルー貴様いい加減にしろ”機械人形獣グラディウス
“大戦祭り”闘技全部門において、殿堂入りという名の出禁処置にあっていた“蛮地の老戦士”が酔った勢いでMkIIの首の一つを破壊した為、後継として製作された――“玩具箱”の中の一つ。
模している“獣”の三つ首を三匹に分かつ“分離機能”が搭載されており、分かたれた人形獣たちは互いに互いを援護しながら効率的に獲物を追い立てていく。
人の王の気づきは、かつて突然に――せっかく考えたギミックの尽くをパワーで粉砕する脳筋老人について“獣”に泣きついていた時に――訪れたという。
すなはち、三つ首を三匹に分かてば、あのジジイけちょんけちょんに出来るんじゃないか?と。
……それが叶う事は無かったが。
後に――その末裔である夜渡りたちを殺し続けた、凄惨なる“狩り”の原型になった。
―――