“転生者”   作:ダフネキチ

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「ありとあらゆるもの全て、“公平”であるべきである」




Chapter3
Pt.1


 

 

 

「――おっしゃあ!でけた!ぼく天才かも!」

 

 

円卓。

もうぼくの“工房”と呼んでいいと思う一室で。

 

工具を投げ出し――高々と掲げるは、生まれ変わった我が“傑作”である。

長く、苦しい戦いであった……。いや、結局一日かそこらで終わったからそう長くないけれど。

 

何やら、ぼくの“内”に入り込んでいるグノスターが持ってきたというものだからちょっと警戒したけれど――それを無視して余りある良いモノだったのでありがたく使わせて貰う事にしたのだ。

そう、警戒を無視して。警戒を無視。蟲だけに……ふふふのふ。

 

「おおー」

 

後ろで寛いでいた“復讐者”から感嘆の合いの手が聞こえる。パチパチと拍手をしてくれるもんだから、気分が良い。

ぼくは嬉々として掲げた“傑作”を見せびらかした。

 

「じゃーん!名付けて、“改良・堅楯式”!あのデカ蠍の硬さを十分に活かしたクロスボウだよ!」

「ほほう、すごいな」

「だあっしょ?」

 

堅楯式は名の通り、堅楯のフォルティスの甲殻を使った傑作だ。

 

今まで使っていたクロスボウ全体に――“小さく割った甲殻”を取り付けてそれをワイヤーで繋げた補強・改良型だ。

製作協力は、“無頼漢”の筋力モリモリマッチョアームから放たれた拳さんである。

ぼくじゃあ端から弄くる事すら出来なかった……。ノミすら逆に粉砕してくる甲殻とか流石は夜の王だよ。

 

――無論。それだけではない。

 

「こっから面白いよ……!」

 

ぼくは、“傑作”を天井に向け――勢い良くレバーを引く。

すると、甲殻に繋がっていたワイヤーが引っ張られ、甲殻全体が銃口の付近に一箇所に集中していき――()()()()()という金属音と共に、クロスボウを中心に傘のような円形になる。

 

「――()、か?」

「そう!いいでしょ!」

 

そう、盾である。つまり、ぶっちゃけヘビィボウガンである。

こうしていると取り回しは最悪になるし、重心が死ぬほど前に行くから動けなくなるけど――強度は折り紙付き。生半な攻撃なんて屁でもないだろう。

 

「それにそれにぃ……」

 

まだまだある。

ぼくは“堅楯式”を置くと、端に置いておいた箱を取り出す。

それを慎重に開けると――そこには、宇宙色の鱗粉が入ったガラス製の矢先のボルトが規則正しく並んでいた。

 

――“鱗粉ボルト”

 

グノスターの鱗粉で作られた新しい特殊ボルトである。

復讐者はそれを一つ摘むと、キラキラときらめく鱗粉を不思議そうに見つめた。

 

「綺麗だな」

「うん、だけど扱い注意だよ。これ作るよりも前にまず、ガスマスクと防護服作る羽目になったからねぇ」

 

グノスターの鱗粉が普通に危険物なので、そうするしかなかった。

製作協力に、毒らなさそうな人形の復讐者……は、当たり前に論外なので、召使人形にお願いしたら――寄生虫が普通に孵化してしまった為である。生命の神秘が逞しすぎる。

……そういえば、ゲームでも普通に復讐者は罹患していたし、お願いしなくて良かった。この子、喜んで手伝ってくれちゃいそうだし。

 

とはいえ。

そんな危険物も利用出来るのが、この超有能チート転生者の手腕。

矢先をガラスにした事で、着弾時に割れて鱗粉を敵に撒き散らす凶悪なものに仕上げた。まあ、味方も吸えば毒っちゃうと思うから扱い注意には変わりはないけどね。

 

「ふふん、これでぼくも大分レベルアップ!皆の役にさらに立てちゃうよ」

 

グノスター達のおかげで――ガン盾で遠距離から猛毒寄生虫を連射で撒き散らす害悪の爆誕である。……対人で会ったら死ぬほどヘイト溜まりそう。

でも相手は“夜の王”だかんね。使っても罪悪感は皆無なのさ――特にリブラとかリブラとかリブラとか。楽しみしてろよあのあんちくしょう。ゲームでの恨み晴らしちゃるからな!

 

「………」

 

そうして胸を張っていたら、なんだか“復讐者”はうつむき加減だった。くるくると、鱗粉ボルトを弄んでいる。

 

「……どうかした?」

「うん?……ああ、そうだな……()()()

「複雑?」

 

ボルトを箱に戻した復讐者が、ぼくに顔を向ける。

その表情は悲しげな雰囲気を漂わせていた。

 

「お前は皆を喜ばせる物を良く作っていた。効率的な農具やら、機械やら」

「ああ、お抱え技師だったんだっけ」

「頼まれれば何でも作ってたぞ。子供をあやす物が欲しいと言われれば、後ろに引くと四つん這いで動く小さなシスターみたいな玩具とか」

「スピキ作ってるよぼく……」

 

ええ……どうやって……。

ぼくの頭の中の“設計図”はそんなチョアヨ〜なものは当然存在しない。というか、武器とか兵器だらけで平和そうなのは欠片も見当たらないんだが。

……技師だった頃の“ぼく”の中にはあったんだろうか?ぼくが忘れているだけ?

 

「……お前が、技師ではなく“夜渡り”としてここにいるのはわかっている。その為に最善を尽くしてくれているのも」

「………」

「軽んじている訳じゃない。今のお前も大好きだ。だが、やはり……なんだ。少し、寂しいのかもな」

 

“復讐者”は悲しげに呟く。

それに、ぼくは――ちょっと動揺した。

 

「えっ、あの……その、えっと……」

 

ぼくの事が好きな(認めざるを得ない)子が、“ぼく”を想って、さらにぼくを想って悲しむという状況。

……えっ、どうすればええの。

 

「あー……あー……――あー!そうだ。何かぼくにやってほしい事とかある?」

 

混乱しながら、ぼくなんかに悲しんで貰いたくなくて、何とか知恵を絞り出すようにそう言った。

 

「何か?」

「うん!戦力的には今んとこもう何も出来ないし暇だからね!ここは一つ、この超有能チート転生者が何でもしちゃうよ!」

「……そうだな」

 

ぼくの言葉に復讐者はしばらく沈黙すると――こちらを見上げた。

 

()()()()()

「えっ?」

「プレゼントが欲しい」

 

そう言うと何故かぼくの頬に手を添える。

優しげに触れる冷たい感覚は擽ったくて慣れない。

 

「プレゼントって……どんな?」

「お前が渡したいと思うものなら、なんでも」

 

復讐者はぼくをじぃ…と見つめ、楽しげな雰囲気を漂わせる。

その瞳は“ぼく”ではない、ぼくを映して。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――と、いう訳で。男衆、意見ください」

 

という訳で復讐者へのプレゼント選びの旅に繰り出したぼくは、暇そうにしていた男衆を食堂に集めた。

追跡者、鉄の目、守護者、無頼漢、執行者の五人。

ぼくの「重要な話がある」という言葉ですんなり集まってくれた諸君の――事情聞いた後の、この白けた空気はぼくの思考を実に爽やかにしてくれる。

なっ、なんだよぉ……。

 

「つうてもなぁ。こういうのってのは自分で考えてこそなんじゃねぇのか?」

 

無頼漢がお酒を呷りながらそう呟く。

確かにそう。確かにそうだけど。

 

「はっきり言おう。ぼくに“()()()()()()”は無い――皆の時もそうだったんじゃない?」

「ああ」「そうだな」「間違いなく」「んだなぁ」「……(首を縦に振る)」

「――ごめん、ほんとは違うって言って欲しかった!そっかぁ……!皆の時もぼくはダメダメかぁ……!」

 

絶望である。

ぼくはどんなにやり直しても女性関係はペーペーらしい。

“レディ”とは婚約者っぽかったみたいだけど――ぼくと話すとすぐに怒らせてしまうからきっと良い関係ではなかったろうしなぁ……うぅ……。

 

「……だから、女の子にあげるプレゼントなんて思いつかないんだよ。だから皆なら、と思って」

 

ぼくは、こほんっと咳払いをした。

 

「はい。そういう訳で、皆なら女の子に何をあげますか?――さん、はいっ」

「……武器、だろうか」「考えた事もない」「一族としてなら、羽だろうな」「酒」「……(首を横に振る)」

「――はぁーつっかえっ!」

 

ぼくは叫んだ。

皆もダメダメであった。

 

「てか!無頼漢は絶対適当だよね!そんなムキムキのイケてる海賊船長が女日照りなんて言わせないよ!」

「そうかぁ?そうかもなぁ」

「くっ……!見習って!ちゃんとわかんない事はわかんないって正直に言った鉄の目と執行者見習って!」

「……俺はしっかり考えたぞ」

「考えてる上で論外だって言ってるの!ぼくが言うのもなんだけどっ!」

 

「何やってるのよ……」

「ふふっ、皆でおはなし?」

「……家人たちともこんなやり取りしていたぞ、お嬢様の誕生日に」

 

うがーっ!と叫んでいると、それに引き寄せられたレディと隠者、そして張本人の復讐者がやってきた。

話を聞いていたのだろう。三人の顔は少し呆れ気味だった。

 

かくなる上は……!

 

「三人はプレゼントされるなら何が嬉しい!?」

 

「――他の女へのプレゼントを聞くっていい度胸ね、あなた?」

「貴方がくれるならなんでもうれしいよ?」

「同じく」

 

くそっ、参考にならない……!

レディはまた怒らせてしまっ――短剣仕舞って下さい……!

 

振り下ろされようとしている短剣の柄を必死に抑えていると――横から、隠者が嗜めるように口を開く。

 

「こういうのはちゃんと自分で考えなきゃだめ。女の子にはそういうのも重要だよ?」

「……そうなの?」

「ああ。とはいえ、こうなるのも想定していたがな。……まあ、相手にしないのも想定していたが」

「くっ……!」

 

と言っても、と言ってもなぁ。

デパートも何もないここで、女の子へのプレゼントプレゼントプレゼント……うぅーん……。

 

………。

 

 

「……――花、とか?」

 

 

しん……と場は静まり返った。

皆の目が如実に示してる――普通だ、と。

 

「ふっ、普通で何が悪いんだい!いいじゃん普通!王道じゃん!王道ってのはねぇ!つまらないんじゃなくて普通に良いから王道っていうんだよ古今東西!それに……それに……」

 

――()()()()、と。

“頭の中”で閃いたものがあった。

これなら―――

 

 

――()()()()()()

 

 

考えが中断される。

中央室から聞こえたその声無き声が、適当な時間の終わりを示す。

 

「行きましょうか」

 

ぼくに一撃を食らわすのを諦めたレディが短剣を仕舞いながら、そう皆に告げる。

そうしてぞろぞろと皆が中央室に行く中、ぼくはわたわたと“傑作”達を取りに戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

声無き声は端的に告げた。

 

 

――執行者。復讐者。転生者。

 

 

「むっ……」

「………」

 

二人は静かにそれを受け止める。

ぼくは流石に慣れはしていないがあまり緊張もせずに“傑作”を見て点検する。……よしっ、早速頑張ってもらうよグノスター達。

 

―― まかせて まかせて ――

 

……傑作に言ったんだけど、まあ“内”のにも頑張ってもらうからいいのか。ぼくは返事を返すように胸を少し撫でる。

……代償とか無いよね、あの幻影召喚。説明書求む。

 

中央室から先。

断崖への道を、二人と一緒に進む。

 

 

「………」

 

――音もなく。

執行者が腰に提げた自らの刀を抜く。光に照らされ、鈍く輝く刀身は鋭く。ただ斬る相手を待っている。

そしてもう一振り。提げられた、彼自身を表す黄金の刀――“妖刀”の柄を撫でる。

 

執行者はこちらを向く事も無く、背を向けている。

けれど、そこに拒絶の色は見えない。声も何もなくともそれだけは伝わってきた。

 

「……我が夫」

 

ふと、復讐者が口を開く。

そして虚空から取り出すように抱えたリラを鳴らす。

すると。

それに呼応して――三体の霊体が現る。

 

ヘレン。フレデリック。セバスチャン。

 

復讐者に力を貸す、かつての家人達。

もう元の姿形ではなく、死して変質し、骸骨の身であっても――その空の眼窩は静かにこちらを見ている。

 

「……あの時のように――見ているだけではないからな。“借り”を返しに行くぞ、奴らに……!」

 

復讐者の呟く声は、先ほどまでの暖かなものではない。

何もかもを奪われて、ただ“夜”への憎悪を滾らせる――“復讐者”の声だった。

 

 

「うん、行こうか」

 

 

――()()()()()()()()()()()()

 

 

ぼく達は走り出し、断崖へと飛び込んで――そのまま、霊鷹の足を掴んだ。

そうして、流れるように空へと進んでいく。

 

曇りがかった空――その先にある“夜”へと。

 

 

 

 

 

 

 

 

――“暗がり”から覗く、瞳は笑う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………

……

 

「――信じられないっ!普通聞く!?他の女の子へのプレゼントなんてっ!」

「……どうだろうな」

「そりゃあちゃんとは言っていないけれどね、すっ……好きって言ったのよあの人に私は!好意を隠してないつもりなのに!」

「……どうだろうな」

「………」

「……どうだろうな」

「……兄上、聞いてる?」

「……どうだろ――……おい、叩くな」

 

 

――随分、賑やかになりましたね。

 

召使人形はそんな光景を見て素直にそう思った。

もし、己に感情があるのであれば。これは微笑ましいというものなのだろうか。

 

元から“巫女”様の意向から、此処は穏やかな場所だった。

共に戦う同志達に少しでも安らぎを感じられるように、と。半壊の建物を多少なりとも綺麗にし、近く通った行商人の方から物資を貰い、各々の憩いの場を整えたりと。

 

けれど――()()()()()()()()()()()()

たわいのない話もする。時には共に笑う事もある。でも、一歩は踏み込まない。

各々の目的を知らず、語らず――ただ、“夜の王”を倒す。その一心のみで集まった“同志”。

そこだけは崩さない。

 

 

そのはずだった。

 

 

「女へのプレゼントってんならやっぱ宝石とかだろう?金銀財宝!これこそ王道だ」

「うーん。確かにサファイアとかはうれしいかも。あれ、輝石と材質が似ているから」

「先生。無頼漢が言っているのはそうではないかと」

「そういや、鳥のあんちゃんは羽って言ってたなぁ。ありゃあ翼人の習慣か?」

「ああ。風切羽を渡す事は信頼を示す行為だ。それが異性なら情愛の意味合いもある」

「ほほう、浪漫だなぁ」

 

 

今はそうではない。

誰のせいかは――言わずともわかるだろうか。

 

(……不思議な方です)

 

その出自、あり様、知識だけではない。

――皆を巻き込み、感情を引き出すあの姿。カリスマというには情けなく、しかしそれでも確かにカリスマなのだろう。

 

召使人形はそんな光景を眺めながら――作業を続ける。

 

件の、“転生者”からお願いされたボルトの作成だ。

ちまちまとしたものだが、そうしたものこそ己の専売特許だ。戦闘では役に立たたない分、こういう裏方はしかりとこなさねばならない。

 

 

………。

 

 

 

 

 

()()()()()()

 

 

 

 

 

この作業。

 

 

 

 

 

どこかでやった事のあるような。

 

 

 

 

 

『おおっ!動いたっ!動いたよっ!■■■■■■!』

『みたいだな。ヤロダスの連中から買い取ったと聞いた時はまた無駄金をと思ったが』

『だって捨てるだけってんだからもったいないじゃん。それに、ぼくもそろそろ助手が欲しいところだったしねっ!』

『人形兵じゃなかったか、これは』

『兵士は君らで十分だしねぇ』

 

 

 

 

人形に感情などない。故に、記憶も何もないはずなのに。

 

 

 

 

 

『名前は何にしようかなぁ……助手なんだから……ワトソンとかジャーヴィスとか……うーん……うん――やっぱ“召使”で』

『安直だな』

『そのままで分かりやすいでしょうが。それに君だって最近は“王の腕”なんて安直な呼ばれ方されてるじゃん。あれなに、ぼく別に隻腕でもないけど』

『あれはお前の両手は工具で埋まってるから第三の……ってやめろ、アレは酒の席で流れた戯言だぞ』

『えーっ、恥ずかしがらなくてもええのに。……君の主は照れ屋だねぇグラちゃ――っいたたた!ちょっ、噛まないで!頭と両の手噛みは殺す噛み方だろ!!やめて人でなし同盟はいったいどこに……!!』

『……はぁぁぁ』

 

 

 

ああ。これはいったい何なのだろう。

己の中に、いったい何が―――

 

 

「――召使」

 

 

声を、掛けられる。

気がつくと目の前に“鉄の目”が立っていた。目深く被った外套は、己が持つボルトを見ているようだった。

 

「どうされました、鉄の目サマ」

「……これ、一本貰えるか」

「まあ……構いませんが。これは転生者サマに依頼された、ただの矢ですが?」

「ああ、わかっている」

 

鉄の目はボルトの山から一本抜き取ると、そのまま中庭へと出ていく。なんだったのだろうか?

 

「……もうすぐ、昼餉の時間ですね」

 

ボルトの製作に集中しすぎたようだ。

召使はボルトを置き、皆に昼食を用意する為、厨房へ向かった。

 

 

 

 

 

召使は内から沸き立つものに蓋をする。

己は召使。ただの人形。円卓に導かれ、夜の王に抗する夜渡り

様達に仕え、“巫女”様をお支えする。全てが終わるその時まで。

それだけが――存在理由。

 

それ以上でも、それ以下でもないのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 






―――――――――
【上下二連弾倉式連発弩=堅楯式
“フォルティスの甲殻”によって、補強・改良された転生者の傑作弩。
全体を甲殻で覆い、強度を高めた他――“仕掛け”により、甲殻全体を前方に展開し、盾として使用出来る。

秘境の森は、人の子には危険そのものであり――故に、フォルティスの名はよく森に木霊し、その度に子の元へ駆けつけていた。
危険を避け、安心したように己を見上げる子の姿。
呆れと安堵の中に、いつしか蠍にナニカが芽生えていった。

それが“父性”であると気づいた時には、子は姿を消し。
それによって、どうしようもない無力感に苛まれ続けていた。
―――――――――

―――――――――
【鱗粉ボルト】
空洞にしたガラス製の矢先に、グノスターの鱗粉を詰め込んだ特殊ボルト。転生者が呑み散らした酒瓶を再利用したもの。
どこかに着弾すると辺りに鱗粉が散布され――猛毒を蓄積する。また低確率で寄生虫が孵り、対象に追加ダメージを与える。


ある日。子が森で行方不明になった。
蛾は必死に探したが見つからず、やがて日が暮れ、混乱のままに蠍に八つ当たりし始めた頃――子は傷だらけで帰ってきた。
首には、奥地の霊樹で作ったペンダントが下げられ、これで鱗粉の影響は受けないはずだ、と胸を張っていた。
蛾は内から溢れるナニカの勢いのまま、ただただ子を強く抱きしめた。

それが“母性”であると気づいた時には、子は姿を消し。
それによって、絶望が産まれ、やがて狂気へと変わり――そして、“夜”を引き寄せる事になる。
―――――――――

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