ジョーカー太陽星団を離れてから、戦艦ウィルは、いくつもの空間と次元を渡り歩いていた。
探すのは、ただひとり。
ラキシス。
彼女と別れたあの日から、レディオス・ソープ──アマテラスの胸元で、ドラゴンドロップはずっと、かすかな「寂しさ」のような波動を響かせ続けている。
ラキシスの持つもう一つのドラゴンドロップと、いつか再び触れ合うその時を、じっと待ち続けながら。
静かなブリッジに、機器の低い駆動音だけが響く。
その均一なリズムを破ったのは、短い警報音だった。
「……ドラゴンドロップが反応してますよ、陛下」
白衣姿の男が、椅子をくるりと回した。マウザー教授だ。
面倒くさそうな表情をしながらも、指先は手慣れた動きでパネルを叩いていく。
「しかしこれは……ラキシス姫様のそれとは波形が違いますな。
似てはいますが、“完全共鳴”ではない。どこか粗くて、若い」
ソープは、自分の胸元に視線を落とした。
胸に下げたドラゴンドロップが、かすかに震えている。
淡い光の脈動が、どこか遠くの「竜」の啼き声を伝えてくるようだった。
「“竜”の因子……だけ、か。
でも、この揺れ方は──誰かが必死に、何かを守ろうとしてる時の反応だね」
ソープは宝珠にそっと指を当て、ほんの一瞬だけラキシスの笑顔を思い浮かべる。
彼女なら、きっと「助けてあげて」と微笑むだろう。そんな気がした。
「また寄り道ですか、陛下?」
側近のログナーが、半眼で問いかける。
「姫様の捜索を優先すると、つい先ほど決められたばかりだと思うのですが」
「うん。でもさ」
ソープは肩をすくめ、悪戯っぽく笑った。
「“竜”が泣いてる世界を見捨てて進むのも、性に合わないんだよね。
ああいう子たち、放っておくと、すぐ無茶して死にかけるし」
「……やれやれ」
マウザー教授が、わざとらしく肩を落としてみせる。
「座標はすでに割り出してありますよ。
どうせ止めても行くんでしょうし。こちらは引き続き、ラキシス姫様のドラゴンドロップ反応を追いかけておきます」
その横顔は呆れたようでいて、どこか楽しそうでもあった。
陛下が誰かの“危機”を見捨てられない性格なのを、彼は誰より理解している。
「お願い、マウザー」
ソープはひらひらと手を振った。
「ログナー、ツバンツヒ。ちょっと付き合って。
“泣いてる竜”を、ちょっとだけ助けに行こうか」
「了解」「承知しました」
次の瞬間、ブリッジの空間がふっと歪み、
三人の姿はウィルから掻き消えた。
残されたマウザー教授は、ため息をひとつ。
「……まったく。ラキシス姫様を探す旅だというのに、道草ばかりだ」
そう言いつつも、コンソールから目は離さない。
別の宇宙のどこかで、もうひとつのドラゴンドロップが、誰かを想って静かに震えていることを、彼はよく知っていた。
その“ふたつ”が再び共鳴する日を、内心では誰よりも待ち望みながら。