ダイの大団円 (take 3)    作:ギアっちょ

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異界神 降臨

「あ~~~~~~~っと、

 言い忘れたが 

 ヒャド(氷結呪文)では止められないよ。

 そいつのエネルギー源である

 魔界のマグマ成液の高熱がはじいてしまうからね・・・!

 

 あと10秒・・・!

 打つ手はない!!」

 

 死刑宣告のような声が、場の空気を一気に冷やした。

 

 誰も動けない。誰も何もできない。

 その「はず」だった。

 

「うそをつくな」

 

 静かだが、空気を断ち切るような男の声が響いた。

 

 たった一言。それだけだった。

 

 ヒュン、と風を裂く音が連続する。

 目に見えない何かが、空間に白い線を引いた。

 

 ラーハルトだけが辛うじて、それが「斬撃」だと理解した。

 

 次の瞬間──鎌を持つ『人形』の首が、ぽん、と軽い音を立てて宙へ跳ねた。

 

「……は?」

 

 間の抜けた声を漏らしたのは、肩の小さな本体──キルバーン自身だった。

 

 人形の首は弧を描き、少し離れた場所に──

 

 ドスン。

 

 鈍い音を立てて落ちる。

 

 同時に、『人形の体』にピシリ、と音が走った。

 肩から、胸から、脚から、全身に蜘蛛の巣状のヒビが広がる。

 

 そして──

 

 バラバラバラッ!!

 

 中身をぶちまけるように、無数の破片が四方へ弾け飛んだ。

 

「なっ……!」

 

 ラーハルトは見た。

 人形が砕け散るその一瞬、空間に刻まれた細い“線”を。

 

 何もない空間を飛び交う斬撃。

 それぞれが、アバンストラッシュにも匹敵するほどの密度と重さを宿している。

 

 遠距離から放たれたその斬撃は、人形の表面だけでなく内部まで細かく刻み、

 抵抗する暇すら与えずに、八つ裂きにしたのだ。

 

 衝撃で、肩に乗っていた小さな本体キルバーンが、前方に投げ出される。

 転がりながらなんとか受け身をとり、人形から距離をとる。

 

 数秒後。そこに残されていたのは──

 

 砕け散った破片と、少し離れた場所に転がる「人形の首」だけだった。

 

 残骸は、風にあおられて砂のように崩れ、灰のように舞い上がる。

 まるで「ここにあったものは、最初から存在しなかった」とでも言うように。

 

 そして──人形の頭部から露出しかけていた黒の核晶(コア)が、一瞬、禍々しくきらめいた。

 

「こういう、度が過ぎたオモチャってさ。

 そもそも“持っちゃいけない”んだよね」

 

 軽い調子の声が、静寂を破る。

 

 その台詞が終わるか終わらないかのうちに──世界が暗転した。

 

「「「?!」」」

 

 色が抜けた、としか言いようがない。

 空から光が失われ、音が消え、風も止まる。

 

 敵も味方も、その場にいる全員の『時間』が凍りついた。

 

 瞼ひとつ動かせない。

 肌を撫でるはずの空気の感触さえ、遠くなっていく。

 

 そんな、ほとんど止まった世界の中で──

 一人分の足音だけが、コツ、コツ、と響いた。

 

 ゆっくりと。それでいて、迷いなく近づいてくる。

 

「没収」

 

 短い宣告とともに、足音の主が指を鳴らした。

 

 『人形の首』が転がっていた地面に、漆黒の円が描かれる。

 円は瞬く間に複雑な紋様へと変わり、細かな線が絡み合って魔法陣を形作っていく。

 

 黒い紋様は波紋のように揺らめき、その中心にある首の内部──

 仕込まれていた黒の核晶(コア)ごと、ゆっくりと飲み込んだ。

 

 まるで、地面ごと“なかったこと”にするように。

 

 ──何もなかったかのように、消える。

 

 魔法陣が完全に消えたと同時に、世界に光が戻った。

 風が吹き、砂が鳴り、止まっていた全員の「時間」が一斉に動き出す。

 

「うわっ?!」

 

 勢い余って前につんのめり、そのまま転がるポップ。

 

「んだ今の!!」

 

 彼が叫び、周囲を見回す横で──

 一番動揺しているのは、もちろん小さなキルバーンだった。

 

「ボ、ボクの……ボクの人形が……黒の核晶(コア)が!!」

 

 悲鳴のような声を上げ、人形の首があった場所に駆け寄る。

 彼にとっては、仮面の“死神”こそが自分の顔であり、最大の切り札だった。

 

 けれど、そこに残っているのは、細かな砂粒だけだ。

 

「そんな、そんなはずは……!」

 

 キルバーンが膝から崩れ落ち、砂を掻き集めるように両手ですくい上げる。

 指の間から、それはサラサラとこぼれ落ちていった。

 

 禍々しい魔力の気配も、爆発の種も、もう何ひとつ残っていない。

 

「うそだ! う、うわぁーーー!!」

 

 取り乱すキルバーン。その耳に、あの軽い声が追い打ちをかける。

 

「黒の核晶(コア)……だったっけ?

 魔法力を無尽蔵に溜め込んで、とてつもない爆発を起こす、危険なオモチャ。

 

 でもさ──その肝心の“魔法力”を全部抜いちゃえば、

 ただのガラス玉にもならない」

 

 さも簡単そうに理屈を説明する、どこか楽しそうな声。

 

「「「誰だ!!」」」

 

 一同が、一斉に声のするほうを振り返る。

 

 そこに立っていたのは、一人の青年だった。

 

 スラリと伸びた手足。

 腰のあたりでひとつに結わえた長い髪。

 薄手のスモックのような衣を身につけ、柔らかな微笑みを浮かべている。

 

 見た目だけなら、どこかの女神像のようだ。

 だが、口から出る声は紛れもなく男性のものだった。

 

 勇者一行の頭の上に、一斉に「?」が浮かぶ。

 

 口火を切ったのは、レオナ王女だった。

 

「あなたは一体……?」

 

 青年は肩をすくめ、芝居がかった仕草で答える。

 

「ただのおせっかいな通りすがり。

 ──なんてね。

 

 地上に生きる者たちが、まとめて消し飛んじゃうかも!?っていう、

 世界の大ピンチだろう?

 

 及ばずながら、馳せ参じました、ってやつさ。

 

 ……まぁ、大魔王バーンはもう倒されてたわけだけど」

 

 その胸元で、ドラゴンドロップが一度だけ、かすかに光った。

 この世界のどこかで震えていた“竜の因子”が、ようやく今、目の前にあるのだと告げるように。

 

「馬鹿な! おま……おまえ……

 いや、『貴方』がここに『干渉して』いいのかよ?!

 

 おまえ──異界神〈アーク〉だろ!!

 ルール違反だろうぅ~~!!」

 

 キルバーンが、完全に取り乱した声で叫ぶ。

 

「あーく?」

 

 勇者一行にはまったく聞き慣れない言葉。

 意味も、綴りも分からない。

 

(あーく……あーく……

 昔、古文書か何かで読んだ単語のような……)

 

 メルルだけが、記憶の糸を手繰っていた。

 

(アーク……『異なる世界』……そう、たしか……)

 

 そしてキルバーンの「ここに干渉していいのか」という叫びが、決定打になる。

 

(まさか──異界神〈アーク〉!

 異なる世界からいらした神様?!)

 

 思わず声が出そうになり、メルルは慌てて自分の口を押さえた。

 

 その様子を見た青年が、ちらりと視線を送り、そっとウインクする。

 それだけでメルルは悟る。

 

(あ、これは……“言っちゃいけないやつ”だ)

 

 青年は皆に向き直り、改めて名乗った。

 

「やぁ、みなさん。はじめまして。

 ボクの名前は、レディオス・ソープ。

 

 ソープでいいですよ」

 

 軽く会釈し、柔らかく笑う。

 

「お察しのとおり、この辺の者じゃない。

 かなり“遠く”から、がんばって駆けつけたんだ。

 

 君たちにわかりやすく言うなら……そうだな……

 

 魔法剣士、ってやつ? なのかな。

 

 魔法も使えるし、剣でも戦える。

 エッヘン」

 

 と胸を張るソープ。

 その飄々とした態度とは裏腹に──

 さきほどの“時間停止”と“核晶の無力化”は、常識外れもいいところだ。

 

「さっきのは、ボクのオリジナル呪文でね。

 対象の力を全部吸い取る──『次元回廊〈セブンスフォール〉』っていうんだ。

 

 ここに、こうやって辿り着くまで、正直いろいろ手間取ったけど……

 間に合ってよかったよ」

 

「世界には、まだまだすげぇ呪文を使うやつもいるんだなぁ……

 上には上がいる、か」

 

 ヒムは素直に感心しているが、アバンやポップの表情は複雑だった。

 

 あの爆弾──黒の核晶(コア)が内包していた魔法力は、

 死の大地を吹き飛ばした、ハドラーの体内にあった核晶と同等のはずだ。

 

 それを、この青年は──

 

 一瞬で、

 完全に、

 

 吸い尽くした。

 

 そんな力が、本当にこの世に存在するのか。

 誰もが、その現実を完全には飲み込めずにいた。

 

「う、うあ……」

 

 震える声を漏らしたのは、もちろんキルバーンだ。

 自分の正体は暴かれ、切り札である人形も、核晶も失われた。

 

 そして周囲を取り囲んでいるのは、大魔王バーンをも討ち倒した勇者一行。

 

(まずい……まずいまずい……!

 ここで捕まるわけには……!)

 

「逃げ──」

 

 冥竜王ヴェルザーの指令は果たせない。

 だが、生きてさえいれば次がある。

 そう判断したキルバーンは、反射的に上空へ跳び上がった。

 

「待ちやがれ!」

 

 ポップが杖を構え、呪文を唱えようとしたその瞬間──

 

 ヒュンッ!

 

 鋭い音が、キルバーンの周囲を何度も横切った。

 白い線が、空間に幾重にも刻み込まれていく。

 

 次いで──

 

 ドガァン!!

 

 轟音が響き、キルバーンの周囲の大地がまとめて切り裂かれた。

 見えない刃が地表を抉り、深い爪痕をいくつも残す。

 

「な、なにっ?!」

 

 足場を失い、バランスを崩したキルバーンは、空中で体勢を崩したまま地面へ落ち、尻もちをついた。

 

 砂煙の向こう。

 キルバーンの“退路”を塞ぐように、長身の男が立っていた。

 

 腰まで届く長い髪をなびかせ、腕を胸の前で組み、

 冷たい瞳でキルバーンを見下ろしている。

 

 その立ち姿だけで、ただ者ではないと分かる。

 

(さっきの斬撃……人形をバラしたのも、あの男……!)

 

 ラーハルトは、先ほどの不可視の斬撃を、この男と結びつけた。

 

 長髪の男は、まるで“標識”でも立てるような気軽さで告げる。

 

「この道は通行止めだ。ほかを当たれ」

 

 だが、この場に“ほか”など存在しない。

 

 前には長髪の男。

 後ろには勇者たち。

 空へ逃れようとしても、さっきの斬撃がまた飛んでくるだろう。

 

(詰み……!?)

 

 キルバーンの背筋を冷たいものが這い上がる。

 

「おいおい……ログナー司令。

 独りでちょっとやり過ぎなんじゃないの~?」

 

 別方向から、のんきそうな女の声がした。

 

 キルバーンが一縷の望みをかけ、その方向に顔を向ける。

 

「お! お助けを!!」

 

 そこには、長髪でツリ目の女性が、腰に手を当てて立っていた。

 服の前面には“マイト”の称号を示す五本線。

 

 シャリシャリン、ときれいな音を立てて、飾りのついた髪が揺れる。

 

(た、助かった……! 味方の援軍──)

 

 かすかな期待を込めて助けを求めるキルバーンを、

 ツリ目の女性は、さきほどの長髪の男と同じく、冷めた目で見下ろした。

 

「私も、そいつにはムカついてるんだが?」

 

「……は?」

 

 味方どころか、完全に敵側の援軍だった。

 

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