ポップの呪文で、キルバーンが消滅するのを見届けた一行。
その場で、マァムがどさりとへたり込んだ。
「終わり……よね?
もう……あとは、新しい敵が誰か出てきたりしない?!」
きょろきょろとあたりを見回す彼女に、
クロコダインがぼそりと答える。
「まだ、どこかに『真の黒幕』が居たりするかもな?」
「もう!!」
マァムが抗議の声を上げ、それを合図にしたように、場に笑いが広がる。
一同から一歩離れた場所。
レディオス・ソープは、腕を軽く組み、優しく微笑んで彼らを見ていた。
その胸元で、ドラゴンドロップが小さく脈打つ。
先ほどまで暴れ狂っていた“竜の紋章”の余韻が、まだ空間に残っている。
(この世界の“竜”も、よく頑張ったね)
ソープは胸の奥でそんな感想を抱きながら、静かに息を吐いた。
(この人……)
レオナはソープを見つめながら思う。
ソープは自分を「魔法剣士」と名乗った。
だが、その身のこなしは、とても“ただの剣士”のものではない。
姿勢、歩き方、振り向き方。
そのどれもが、王族や高位貴族にしか身につかない「教育された動き」だ。
大勢の人間の上に立ち、
多くの命を背負ってきた者だけが持つ、“クセ”。
それが、彼のあらゆる所作から滲み出ていた。
さきほどツバンツヒが、彼を「陛下」と呼んだこともある。
どこの国の、どんな王なのだろう。
「レディオスさん……あなたは一体……?」
レオナが問いかけると、ソープは柔らかく笑った。
「ソープでいいですよ、レオナ姫」
「僕は、ただの通りすがり。
だからこそ言えることもある」
ソープは、ゆっくりと言葉を選ぶように続ける。
「大魔王バーンが地上を消し飛ばしていたら、
この大地に生きる人々は、みんな何も言えないままに殺されていただろう。
大勢の『人間』がね」
そこで一度言葉を切り、目を細めた。
「でも、人間以外の生き物……動物だって、植物だって、生きる権利はある。
この大地そのものだって、存続する権利がある。
それも、忘れないでほしい」
「ソープさん……」
傍らで聞いていたメルルは、静かに「やっぱり」と思っていた。
(この御方は──やっぱり“この世界の人”じゃない)
キルバーンの叫び。
ソープのウインク。
今の言葉の一つ一つ。
それらを重ね合わせれば、答えは一つだ。
(この御方は、人間だけじゃなくて、『すべて』を平等に見ている。
まさに……神様の視点……)
人間、モンスター、動物、植物。
そして、大地そのもの。
すべてを同じ「命」として見る存在。
それは、どう考えても、人間という枠には収まらない。
(でも、それをここで皆に言っていいのかな……?)
キルバーンは言っていた。
異界神〈アーク〉が「この世界」に干渉するのは、ルール違反だ、と。
ソープ自身も、極力「自分は人間です」という体裁を保とうとしているように見える。
(たぶん……バラさないほうがいい)
メルルはそう結論づけ、そっと口を閉ざした。