還らざるロケット推進戦闘機隊   作:cyanP

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15話 毒蛇の最後

 

 【PB-29】の尾部で待ち構えてる防御機銃【テイルガンナー】の射程距離内に侵入する。

 

 大道芸人が毒蛇の口先に触れるがごとく一瞬の芸当で、迎撃機は一撃加えてすぐ離脱する危険な遊戯だ。

 

 通常は狙いを定められないように、必ず機体を横流すなど

 回避運動を兼ねた攻撃機動で接近しなければ、たちどころに防御機銃の餌食となってしまうエリア。

 

 そこをまっすぐに進む。

 あと300メートル前進だ。

 

 目が血走る。時間の流れが異様に遅く感じる。

 

 300メートル突き進んでロケットを放つ。

 絶対に臆してはならない。躊躇している暇はない。

 彼我の速度差を見誤るな。

 

 こちらの速度分ロケットの飛距離も伸びるが、それでもロケットのバラけ具合を鑑みれば、300メートルは進まなければ理想の起爆地点に届かないだろう。

 

 一番危険で禁じ手な『真後ろからの真っ直ぐな接近』だ。

 

 さっきから敵の機銃が盛んにチカチカと光って灰色の発砲煙が流れている。

 

 ぼくは撃たれている。

 ずっと撃たれている。

 敵はぼくを殺そうと必死なのだ。

 

 機関銃の銃身が真っ赤に焼け付いてしまうほど撃ちまくっているのがわかる。

 あらゆる箇所から、ぼくに向かって殺意の鉛礫が浴びせかけられているのだろう。

 

 だが今のところ弾は当たっていない。

 何も見えない。

 音も聞こえない。

 

 敵弾がどこを通り過ぎているかもわからない。

 間違いなくすぐそばを突き抜けているはずなのに。

 

 もし12.7mmなんて口径の機銃弾が当たったら、ぼくの頭はザクロのように弾け飛び、一瞬にして操縦席は血の海と化すだろう。

 

 だが、まだ生きている──。

 

 進め! 進め! 進め! 絶対に臆するな。

 近づけ! 近づけ! まだ近づけ!

 

 【PB-29】の巨体がグングン眼前に迫ってくる。

 異様な機影に視界をまるごと覆われるような感覚に陥る。

 

 だがすべては緊張と恐怖と、その巨大さがもたらす錯覚だ。

 

 このような大型爆撃機は、攻撃可能な距離感を狂わされる。

 焦って撃っても、まるで弾が届いていないなんて、新米がよくやらかすミスだ。

 

 ……焦るな。

 

 こういうデカい敵には、自分の額がガッチリとくっつくぐらいに近づくつもりでなければ、有効射程に捕らえられないんだ……。

 

 撃たれる。撃たれる。

 だが……、まだかわすな。

 

 ロケットの射線をブレさせるわけにはいかない。

 この速度で少しでも機体首尾線を動かせば、もう二度と攻撃体勢に戻せはしないだろう。

 

 機関砲も撃たない。機関砲とロケット弾では弾道が違う。それを撃つ寸前に修正するなんて不可能だ。だから無手で行くしかない。

 

 裸で飛び込むんだ。

 

 現実の時間では、ほんの数秒の攻防だったろう。

 自分の呼吸音と鼓動音だけがリズムを刻む、脳に酸素を運ぶ血管の、その管の壁に赤血球が激しくぶつかる脈動がザーザーと音を立て、視界は限りなく狭まっていく。

 

 ゆっくり、ゆっくりと射弾をばらまくPB-29の尾部銃座、ブルータルスM2 12.7mm機関銃の発射炎へと向かって突進してゆく。

 

 進め! 進め! 進め!

 敵機銃のコンピューター補正がぼくに照準を合わせようとする。

 

 やつらは、ぼくら到底撃っても当たらないスピードで飛び過ぎる【麁正】の機体ではなく、このあと上がってくるであろう大型爆撃機の迎撃を主任務とする

 菱星 J2M 局地戦闘機【雷迅 (らいじん)】にターゲットを絞り、その機影を用いて照準計算するように予めセットしているんだろう。

 

 ならば必ずその機体差の修正時間がかかるに違いない。絶対に隙が生じるはず…………!

 

 それは言葉にするまでもなく、幾度となくドウシャに向かって発射されてきた、防御機銃の射線のクセから本能的に読み取られていた、熟練搭乗員の直感であった。

 

 

 ────ドウシャの読みは当たった。

 

 防御機銃の弾は、ワンテンポの遅れ、ギリギリ麁正の上へと外れ続け。

 あと一瞬。あと一瞬遅ければ。

 もろに12.7mm機関銃の射弾を浴びるという、わずかのタイミングの隙に対空ロケット弾の射程内までに飛び込むことに成功した。

 

 「今だ!」

 

 発射把柄の頭についている切り替えスイッチをロケット側に倒して、握る。

 【全弾発射】だ!

 

 『シュワワワワシュワァァァァーーッ!!』

 勢いよくラムネの瓶から泡が吹き出すごとく音が操縦席まで響いた。

 

 

 

 

 

「行けぇぇぇぇぇぇーーーーーーッッ!!!!」 

 

 

 

 

 

 24発の対空ロケット弾が小さな炎と青白い煙を引いて、躍りかかるように敵爆撃機の群れへと吸い込まれて行く。それは射撃武器の弾とは違う、回転しながらも妙に真っ直ぐな弾道で、加速度を増して突き進む。

 思わず数瞬その結末を凝視した。

 

 無音だ。

 

 自分の血流が脈動しながら耳やこめかみを打つ

 ゴオゴオという音しか聞こえていない。

 

 目視で見ているのに、なにか再現フィルムでも見ているかのような

 現実離れした隔絶感。

 

 前方で何かが爆ぜた。黒く細かいものがすごいスピードで四方に飛び散った。

 そんな気がした刹那。

 

【コンバット・ボックス】最前列3機のPB-29爆撃機が、錯覚的に。

 

 ゆっくりと…。

 

 じわりじわりと…。

 

 古いシールでも慎重に剥がすように…。

 

 ボロボロになりながら、機体外板がめくれ上がっていくのが目に飛び込んだ。

 

 

 

 

 命中!!!!!!!!!!!!

 

 提灯を引き裂くように機体がちぎれ飛んで上下左右としんがりの爆撃機を巻き込んだ、いや炸裂した破片が当たったのか。

 あっという間に『コンバット・ボックス』が崩壊する。

 12機のうち8~9機が炎と黒煙の尾を引いて、斜めにバランスを崩しながら編隊飛行から脱落していった。

 

 「やったッ!」

 

 見ずにはいられなかった。

 眼球が震えていた。

 

 ロケット弾の射出後はすぐさま反転して全力ダイブで逃げるべきだが、高度を落としつつも追従して見上げて見ていた────。

 

 

 …………悶え苦しむ毒蛇の最後を。

 

 

 

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