還らざるロケット推進戦闘機隊   作:cyanP

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17話 笑顔の伝言

 

 ────運の枯渇を自覚した刹那だった。

 

 

 限界までに熱を持ち、茹であがる朦朧とした意識の中で。

 飢えたケモノのように研ぎ澄まされた、ある種野生の知覚がハッキリと捕らえた。

 自分にとどめを刺す敵の存在を。

 

 来た!

 

 真正面から来た。

 

 ドッグファイトの真っ最中に。

 機体を倒し、操縦桿を引き、激しく旋回し続けてるその真っ最中に。

 

 そいつは狙いすまして直進して来た。

 

 嘘だろ?

 

 あたかも『メリー・ゴー・ラウンド』の目まぐるしく変わる景色の中に

 一点、ブレずに飛び込んでくるように。

 

 リレー走者が疾走しながらも間違いなくバトンを受け渡すように。

 

 そいつは前から現れた。

 

 ありえない……。

 いやでも現実だ。

 

 とんでもなく勘の良いやつが居たもんだ。

 完全にこちらの動きを、旋回半径を、タイミングを、先読みして。

 完璧なヘッドオンで攻撃を仕掛けるべく。

 最良の位置で待っていやがった。

 

 信じがたいレベルの読みと操縦技術だ。

 レールの上の列車の連結器が、近づいて自動的にガッチリはまるがごとく。

 もう完全に避けようがない。

 

 ここまでされたら文句の言いようがない、そんな攻撃だ。

 

(完敗だ。敵にもカイトみたいな天才がいたんだなぁ……)

 

 息も吸えない限界まで力んだ状況で

 ぼくの本心は、のんきに最後の言葉をつぶやいた。

 

「お見事」

 

 そいつの射撃炎が見える。

 いくら射弾が早かろうとも、秒速30万キロメートルの光の速さには及ばない。

 まず光が見えて、ガガンと機体に衝撃が疾走る。その順番だ。

 その順番で。

 『やられた!』となる。

 

 敵の放った曳光弾がやけにゆっくりこちらに近づいてくる

 さっきまでの朦朧とした意識が嘘のようにハッキリと見える。

 光の粒がパッとばらまかれて、それが次第に自分に近づいてくるのが見えるのだ。

 

 今まで自分が見送ってきた死者たち。

 先に逝った戦友たちが、最後に見たであろう光景だ。

 それを今、自分は見ている。

 

 怖くない。

 ドンと来い。

 

 受けてやる。

 全身で余すこと無く受けてやる。

 

 ぼくはやるだけやった。

 妙に晴れがましいぐらいの気持ちだった…………。

 

 

 

 

 

 

 ────────────────────ッ!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 ……だが射弾はすべて自分をすり抜けた。

 

 そして自分を数珠つなぎに追いかけていた【FP-51】どもを一筆書きになぎ倒した。

 

 

 

 

 ──────!?

 

 

 

 

 一気に5~6機が砕け散っただろう。

 後続機が慌てふためいて四方八方散り散りに回避行動を取って逃げていく。

 

 

 そして、すれ違う瞬間。その機のコクピットにぼくは見た。

 速すぎて見えるはずのないものがハッキリ見えた。

 

 

 

 カイトだ。

 カイトがぼくに笑っていた。

 

 

 

 

 カイトは、なおも無秩序に逃げ惑う敵に狙いを定めて追いかけ

 信じられない長距離の見越し射撃で敵を2機葬った。

 敵の殺意は一気にカイトに集まった。

 完璧な戦術だ。

 

 味方を助け。

 敵を屠り。

 敵の態勢をかき乱し。

 攻撃目標を変えさせる。

 

 完璧だ。

 

 味方の窮地を救う非の打ち所のない機動だ。

 

 本来の、通常の、戦闘機ならば完璧だ。

 

 だが、動力を失くした麁正では決してしてはいけない戦術だ。

 

 カイトは緊急加速装置を使ってぼくを助けに来たのだ。

 

 

 

 

 

 やめろ! やめろカイト!

 

 

 

 

 

 敵の群れをぼくから引き離す為、カイトは残りの速度エネルギーを使って再上昇した。

 

 敵前での上昇は自殺行為だ。

 どんな機体であっても、上昇中はエネルギーを失っていく。

 空戦慣れした搭乗員は、いかに敵に無理な上昇をさせるかに苦心するぐらいだ。

 

 それが、目の前でまんまとエネルギーを失う上昇をする敵機を目の当たりにしたらどうなるか。

 

 好機。

 正気を失うほどの。

 敵機の群れが目の色を変えて殺到した。

 

 普段、あまりのスピードに手を焼く獲物が、スピードを失い白い腹を見せているのだ。

 

 数十機もの大群がホオジロザメのごとく襲いかかった。

 力尽きて動きを止めた獲物に吸い寄せられるように。

 

 もう交戦距離も、味方同士の衝突防止も何もない。ひたすらにカイトの機体に殺到した。

 

 麁正にはもう逃れるすべはない。

 

 

 

 

 

 

「カイトーーーーーーーーーッッ!!!!」

 

 

 

 

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