転生巫女は静かに暮らしたい   作:高町廻ル

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家族の決断

「おいしーねっ」

「うんっ」

 

 サービスエリアに止まっているキッチンカーで買った焼き鳥を頬張る姉妹。

 そして近くで保護者をしている都。

 値段も味のクオリティも下手したら近所のスーパーとかで買った方が実入がいいのに、何故か場所の特別感が美味しさとしてプラスされる。

 あの後もう遊ぶ気にもならなかったため早めの帰宅の途についていた。

 とはいえそのままというのも遊び盛りには厳しい為こうして色々と巡りながら楽しんでいるわけだが。

 

「やっぱりこうしてみるとただの普通の子供…なんだよな」

 

 姉妹が楽しそうにしているのを少し遠目から見ている良二。

 側から見れば可愛らしい一コマだ。

 

「父さんは気がついてなかったと思うけど五歳の時には式神作ってたからね」

 

 突然現実に戻す一言を利人は発する。

 

「え、そうなのか?」

 

 息子に比べて圧倒的に才能の無い父親は目を丸くする。

 天才だと持て囃される長男ですら六歳の時は魔力を出すのが精一杯だった。それでも天才と呼ばれるのだ。

 式神を発現など才能だけで片付けられるものではない。

 

「みーがすり替わったかと思って必死に調べ上げたんだからな」

「そ、そうか…すまん…」

 

 魔術に関しては息子に頭が上がらない。

 

 

『じゃあ御依は御依のままでいいと思う人!』

『はーい!』

 

 利人裁判官が取る裁決に他三人も元気よく手を上げる。

 

『ちょっちょっとぉ!?』

 

 簡単にこの件を流そうとする空気に何とか一石を投じようとする。

 ちなみに目元は真っ赤になっているが何とか平静さは取り戻している。

 彼女としても結構重たい議題のはずのつもりだった。

 

『実際、亜夜鳴って言われてもしっくり来ないし』

『そもそも御依か、みーって呼んだら反応してるじゃない』

 

 両親は亜夜鳴と呼ぶ気は特に無さそうだった。呼んで欲しいと言ったわけでもないが。

 

『どうしても納得できないなら両立したらいいんじゃないか?』

 

 目の前の出来事を上手く処理出来ない妹に兄は話しかける。

 

『どういうこと?』

『みーは御依だけど同時に亜夜鳴さんでもあるだろ?どっちかである必要も片方を否定する理由も無いだろう?』

『それは…』

 

 彼女はその通りだと思った。

 そもそもそんな選択肢がある事すら考えなかった。

 絶対に否定を重ねなければいけないものではない。少なくとも目の前にいる家族は否定をする気はない。

 

 

 二人の目の前で姉妹は楽しそうに肉を頬張っている。

 今の御依からは数時間前の追い詰められた雰囲気はかなり薄れている様に感じる。

 

「兎に角みーが落ち着いてくれてよかった。正直いつ爆発してもおかしくないくらい追い詰められていた様な気がしたから」

 

 正体を一人で必死に隠すプレッシャーは想像を絶するはずだ。

 外だけでなく家の中でも安心出来る空間は無かったはずで。

 少なくとも事情を理解してくれる人達がいる、その事実が心の負担の軽減の一助になればと思う。

 実際、利人が隠していた力に気がついてからは御依の態度が分かりやすく変わった。

 

「それは俺も感じていたというかいつも強張った表情していたからな、食べる時以外」

 

 良二は食べる時だけはやたらテンションの高い娘を思い浮かべる。

 

「食う時はいつも緩みまくりだからなぁ」

 

 食べる時は本当に楽しそうにモグモグしているが、平安の時代に比べたら現代の食事は毎日がご馳走だろう。

 

 

『一つだけ聞いてもいいかな?』

『はい…』

 

 父親からの質問に御依は少し元気だけのない声で返す。

 この短い問答でだいぶ疲れたのか御依は少しだけ元気がなさそうだったが、決して嫌な雰囲気は漂わせていない。

 

『御依はこれからどうしたいんだ?』

『どう…?』

『昨日魔術を学んでみるかと聞いたよね?』

『うん』

 

 ゲームコーナーで何となく聞いたこと。魔術を学んでみる気はあるかという話。

 彼女からしたら現代の魔術を知りたいという欲求は当然ある。

 

『その答え…今なら出せるんじゃないか?』

『……』

 

 悩む。

 はいと言って魔術を学ぶ自分といいえと断りその世界とは無縁な場所で生きている二人の自分を想像する。

 自分の望みとは何なのだろうかと。

 

 

「そう言えば協会は何て言ってたんだ?」

 

 ふと思ったことを質問する。

 

「何って何?」

「連日一人で単独行動した事になっていただろ?罰則とか課せられるんじゃないのか?」

 

 学生は基本的に実力以前に単独での任務を禁止されている。

 一昔前は許されていた様だが時代の変化と共にコンプラ的に厳しくはなっている。

 そしてコード式魔導具の発明によって組織としての底上げがなされたのも大きな点だ。

 勿論緊急時はある程度は緩和されるが今回は父親もいたのでその言い訳は通用しないケースになる。

 

「ん、まぁ謹慎三日ってとこらしい」

「軽いな」

 

 その程度であれば罰則を破って闇で活動する人間も出てくるだろう。

 それではルールが守られない。

 

「本来は父さんを連れて行かない時点で重い罰らしいけどな」

「それはそうだな」

 

 実績と結果さえ残せば何をしてもいいを許してしまったら協会の存在意義がない。

 

「『じゃああの父親連れてきてなんか役に立つのか!』って言い返したら何も言われなかったよ」

 

 彼はドヤ顔で言った。

 実際のところはまだ学生なので多めに見てもらっただけだが。

 

「俺お前の父親だよな?」

 

 何というかひでぇ話である。

 

 

 父親からの質問に僅かだが考え込んだ後に今出せる結論を口にする。

 

『私は…もう魔術はいいかな…』

 

 ボソリとそう言った。

 

『ちなみに理由聞いてもいいか?いや、魔術師になれってわけじゃなくてな』

 

 利人はそうだろうなとは思っていたが改めて聞く事にする。

 あれだけの力があるのに勿体ないとは思ったが、今の時代は自由意志で将来を決める時代だ。

 一昔前ならともかく今の時代は魔術師になる事を強要される事は殆どない。

 

『魔術師として私はやり切ったから。もういいの』

 

 彼女は少し俯いてそう言った。

 その表情から気持ちを完全には汲み取れない。後悔なのか恐怖なのか。

 

『まぁ裏切られて殺されたならそれもそうか』

 

 魔術を学ぶ者なら一度は必ず教えられる歴史の一つが、魔術の租の存在とその女性の最後だ。

 歴史書には当時の最高位の魔術師たちが結集し反逆者たる女性を討伐したと記載されている。そして最後に呪いの言葉を吐いて力尽きたと。

 だが短い付き合いだが分かる。御依は利欲のために力を振るうような暴君では無いと。

 

『利人!』

『あ、ごめん御依…』

 

 あまりにもノンデリな彼の発言を母親は素早く嗜める。

 だが御依は兄に対する不快感よりも気持ちの悪そうな納得出来ない表情をしている。

 

『その殺されたって言うの知らない…』

 

 彼女が死んだとされる日の記憶。だが意識はかなり混濁している。

 

『ん、知らない?』

 

 利人はその発言に違和感があった。

 トラウマになって意識的に頭の片隅に追いやる事はあるだろう。

 だが彼女は明確に記憶としてその出来事を覚えていないというよりも知らないと読み取れる気がしたのだ。

 

『うん』

 

 彼女はこくりと頷く。

 

『どういうことなんだ?』

『私がハッキリと覚えてるのは右腕をちょん切られる所まで、その後のことは全然…』

 

 その言葉を受けて皆の視線が無意識に右腕に向かう。

 当然御依は五体満足である。

 

『ちゃんと動くよ?』

 

 その視線に気がつき、手をぐーぱーしながら苦笑いをする。

 

 

 帰り道の高速。

 

「すぅ…」「…ん」

 

 一定のリズムが子供たちの睡魔を誘っているのと小腹を満たしたおかげか御依と楊は夢の世界に旅立ってしまう。

 御依の中身が何歳であれ体が六歳であることは変わらない為体力に限界はある。

 

「今後の方針としては御依は魔術師を目指さない方向で、亜夜鳴さんである事も基本的に漏らさないでいいんだよな?」

「娘がそうしたいなら俺からあれこれ言う気はないよ」

 

 息子からの確認にハンドルを握りながら彼も肯定する。

 

「御依の正体バレたら魔術師界や協会も大混乱だな」

「それは間違いないないねー」

 

 あははと笑う呑気な男二人に対して都は不安な表情を浮かべている。

 

「それって大丈夫なの…?」

 

 彼女は一般の出身だが魔術的な心得は一応持っているし、最低限の知識はある。

 協会の仕事は怪異の討伐に留まらず、魔力的素養のある一般人の発見と発掘も仕事の内に入っている。

 彼女は小学校高学年の時に魔術師に見つかり保護という名目で協会に捕まった過去がある。勿論不利益を被る事は一切無く、本人や親族に手厚い保護があったのだが。

 協会が野良の魔術師やその卵を見逃さない理由の一つは技術の独占や人員の確保である。だが一番の理由は術師が無自覚に呪いを発現する可能性がありそれを阻止する事だ。

 呪いは生み出した本人すら解呪出来ないケースが少なくない、無自覚に発現したらその解決は困難を極める。御依の様な高レベルの魔術師でもない限りそうそう解決出来ない。

 最終的に呪いの発生を食い止められず本人を直接殺すしかなかったという話は数限りなくある。そうならないために確保して最低限の手解きをする。

 なので協会には呪いや呪術の解析を専門にする部署があるくらいなのだ。

 

「御依は立場で言ったら野良の魔術師って事になるわ」

 

 野良の魔術師に対する協会の当たりは強い。

 子供が無自覚に魔力を放出してしまったくらいならそれほど罰則はない。しかしある程度の魔術の手解きを受けた人間への制裁は筆舌し難い。

 

「正直ヤバい…」

 

 利人は冷や汗をかきながら。

 

「御依の力を見られて子供のちょっとした失敗で押し通すのは…正直無理だな。属性と概念魔力を使えて何も指導をしていませんは通せないな」

 

 良二は苦い表情。

 ここで二人は男二人で勝手に家族の方針を決めていた事に気がついた。

 いつも家にいて夫と息子の安否に心をすり減らし、家に帰れば安堵の表情を浮かべて出迎えてくれる存在の事を。

 そして末っ子を隠すのなら一番近い場所に居なくてはいけない母親という存在を。

 

「都は…この判断が間違ってると思うか?」

「間違ってると思う」

 

 彼女は夫からの質問にバッサリと言い切った。

 二人は「で、ですよねー」みたいな表情を。

 

「誰がどう見ても良二さんの決断はおかしい。素直に協会に相談するのが一番だと私は思う」

 

 彼女の過去の経験から隠したり逃げ回るのは結果として大きな不利益に繋がると考える。

 それは御依本人だけでなく藍原家全体として。

 ただでさえ弱い位置にいる家なのに犯罪紛いの事に手を染めるなどあってはいけない。藍原家としては家の格式など誰も興味が無いとはいえ。

 

「けど…」

 

 だが人の決断はいつも正しさだけで構成されるわけではない。

 正しいからだけで全ての判断を委ねられない。

 

「それをしたら御依はこの世界でもまた裏切られる事になる…」

 

 散々人に尽くしてそれで最後は裏切られる形で幕を閉じた人生。

 せめて家族だけは理解して寄り添ってやりたい気持ちがせめぎ合っている。

 母を助けたのは力があるからと言っていた。だがみんな分かっている。力の有無など関係なく御依は人を助けたのだろうと。

 

「分かりましたよ。黙っていればいいのよね」

 

 母親も折れる事にする。

 覚悟を決めた。腹を括った。

 今から部外者ではない、当事者として危険に飛び込むと家族の為に決断した。

 もう言い訳はできない。絶対に。

 

 

 前日あれだけの事件があったというのに日常は当たり前の様に朝日と共に藍原家を出迎える。

 

「おはよぉ…」

「おはよう御依」

 

 すっごく眠たそうな娘に挨拶を返す。

 いつもと本当に何も変わらない、本当にいつも通りの日常だった。

 

「御依…」

「ん?亜夜鳴さんがよかった?」

 

 母親のちょっとからかうような口調。だが名前で呼ばれて嫌なはずがない。

 

「ううん、だって私は亜夜鳴でもあって御依でもあるもの」

 

 彼女は眠たげではあるが満面の笑みでそう返す。

 

(疲れは…まぁ大丈夫か)

 

 眠気が残るが十分許容の範囲内。

 幼い体での連戦はだいぶ応えたが倒れるほどの疲労はすっかり抜けている。

 彼女はいつもの通りぽふっとソファーに座りテレビをつけてニュース番組を見始める。

 都は前はニュース番組なんか子供が見て楽しいのかなと思っていたが、彼女の中身を考えたら妥当な朝の暇つぶしと言える。

 そしてふと思った。

 

「もしかして御依ってアニメとか教育番組とか嫌い?」

「え、何で?」

「言い方は悪くなるけど大人が見てそれが面白いかと言われると…」

「はい?あ、あー…」

 

 だいぶグレーゾーンな発言ではあるが、言わんとする事は何となく理解した。

 中身が大人なら子供の娯楽に浸かるのは辛い部分は確かにある。

 

「アニメも教育番組も楽しいよ」

「そう?」

「蹴鞠とか和歌読むより全然楽しい。囲碁はなんかやらされたけどつまんなかった」

「あー…」

 

 何となくだが言わんとしている事は納得した。

 現代の大人基準なら確かに教育番組は見てて辛い部分はあるが、千年前の大人ならこれらは信じられないレベルのコンテンツだろう。

 

「御依はいつもガツガツ何でも美味しそうに食べるなーって思ってたけど…」

「うん、だって何でも美味しいんだもん」

 

 都はすんごい不憫に思えてきた。

 自分たちからしたらごく普通の日常で美味しい、美味しくないなど特に考えもしない。

 何ならいかに朝の忙しく溜まっていくタスクを素早く処理するかしか考えられない。

 そんな埋没する当たり前も御依の背景を考えればとても素晴らしいものなのだ。

 

「いっぱい楽しい事しましょうね…」

「え、なに?なにがあったの?」

 

 なにを不憫に思われているか理解が追いつかない。

 

「私の時代はそれはもう娯楽もまともに無くて青姦と和姦とか夜這いが当たり前だったから」

「御依―!?」

 

 娘の口から繰り出される下品極まりない単語の数々に悲鳴をあげる。

 だが都はそこで一つ疑問が浮かんだ。

 

「ちょっといいかしら?」

「ん?なぁに?」

「御依、いえ亜夜鳴さんって結婚してたの?」

「結婚?」

 

 結婚という単語にいまいちピンときてない様。

 

「男と女の人が一緒に暮らすみたいな…」

 

 意外と誰でも知っている事を説明するのは難しい。

 例えば東西南北を知らない人に一から説明すると難易度が高い。

 多くの人は太陽の出る方向とか北極と南極を例えに出すだろうが、誰もが知ってる前提の常識を噛み砕いていくのは難しいのだ。

 学校のテストで点を取る為に英語の文法とパターンを丸暗記する。だが常識は覚えればそれでいいわけでは無いのだ、なぜそのようなルールがあるのか分かっていなければいけないから。

 大昔はそもそも結婚して籍を入れたりや戸籍登録がいい加減の時代で、今で言うところの内縁の家庭が多かった。

 彼女はテレビの音を小さくしてから母が何を聞きたいのか自分なりに考える。

 

「んー…つまり私が誰か男性と一緒に暮らしてたかって事?」

「そうそう」

「それもお父さんとかお兄ちゃん以外のいわゆる血の繋がりの無い人と」

「それそれ」

「なるほどそれが結婚、貴族がなんかやってたやつね。あー…はいはい」

 

 厳密には違うが都が知りたいのは大体それだ。

 一応話しながらも都は食事の準備はしている。

 

「えっとね。私が寺院、つまり家から出たのは二十くらいの時で。魔術を開発して布教してるのを知った貴族の使者が噂話を元に家に来てね、給金と寺を取り立てる代わりに奉公に来いって言われたの」

「へー…」

 

 同じ日本人なのにとんでもないジェネレーションギャップを感じる。

 貴族なんて都の中では創作上の存在だ。

 

「当然断れるわけもないし、特にそうする理由もないから貴族の家に住み込みしながら用心棒と屋敷の子供や使用人達に魔術を教えてたの」

「それが現代魔術の始まりなの?」

 

 都はこれは結構重要な情報ではと思った。

 貴族や帝の遊びが庶民に降りてきて、それがウケて大衆娯楽になるパターンは歴史的に見て結構ある。

 魔術もそれと同じように広まっていったのではないかと思ったのだ。

 

「さぁー…?」

「えぇ…」

 

 だが相手の反応は困った様に首を傾げるだけだった。

 

「私の時代の時は一部の適性のある貴族や親に捨てられたみなしごに指導したくらいでそこまで沢山いなかったと思う。当時は魔術を教えれるほど知識も力もある人はそんないなかったと思うよ。読み書きまともに出来ない人多かったし。今の魔術はどんな指導法か知らないけど」

「へー」

「まぁその人達に裏切られるんですけどね」

「最古の自虐やめて」

 

 千年もすれば医学や化学が発展して効率化を極めたものになる。

 ここ十年だけでプロ野球選手の投手の平均球速は五キロ以上も上がり、最高球速も年々更新されている。そんなことが出来るのは体のメカニズムの解明と医学の発達が背景にあるからだ。

 

「話逸れちゃった…」

 

 本題は魔術創世記の話ではない。

 

「昔は貴族のお屋敷に住んでた時期があったの」

「そうなのね」

 

 うんうんと頷くがこの質問はあくまで前座だ。知りたいのはそれだけではない。

 

「御依、えっと亜夜鳴さんに子供はいたのかしら?」

「……」

 

 ここで何でも朗らかに応えていた御依の表情が凍りつく。

 

「御依?」

「いる、いたよ子供は一人だけ」

 

 少しだけ息を整えてから御依は話し始める。

 

「私が寝泊まりしている場所に貴族の子息が夜這いに来たの、断ったら何をされるか分からなかったからそのまま…」

「そうなの…」

 

 今の日本からしたらあり得ない倫理観だが千年前なので仕方ない。

 

「それで身籠ったんだけど…産まれてすぐに貴族様に、子供を取られてそれ以降一度も顔を見る事もできなかった…」

 

 俯きながらそう言った。

 一度だけ抱いた子供の温もりが今でも残っている様な気がするのだ。

 

「ごめんね御依」

 

 手に温かな感触が重なる。

 彼女が視線を上げると膝を折ってソファーに座る相手と目線を合わせる都がいた。

 

「あなたの事を少しでも知りたいと思ったの」

「……」

「苦しい話だったけど、それでも知れて良かったと思う。話してくれてありがとう」

「…うん」

 

 暗い空気になってしまった。

 だが母娘の距離は少しだけ縮まった様な気がしたのだ。

 

 

 話したりしているうちに時刻は六時半を過ぎていた。

 

「御依来てくれるかしら?」

「ん?」

 

 これまで姉が起きるギリギリまでテレビを見ていたのだが、それより前に呼ばれるのは初めてのパターンになる。

 何だろうと思いキッチンに向かって歩いていく。

 

 

『いただきます』

 

 家族五人全員が揃った食卓で合掌をし、食事が始まる。

 テーブルには味噌汁、魚、サラダ、そして何故かテーブルの真ん中に握り飯が皿に置かれていた。

 

「珍しいな」

 

 良二の視線の先はおにぎりだ。形は綺麗に揃ってはいるが一つあたりが小さく手で掴むには微妙な大きさだ。

 いつもなら茶碗によそわれている白飯が握り飯なのだ。文句があるのでは無くいつもと違う趣が気になったのだ。

 

「それは御依の握ったものよ」

 

 都のその言葉に皆の視線が御依に集まる。

 

「あ、あうぅ…」

 

 その視線がくすぐったくてつい恥ずかしさから視線を逸らす。

 そしてそれを面白そうに眺める家族たち。

 

 そんなちょっとした日常が御依の心を温かくしてくれるのだ。




平安時代disが酷すぎる。時代背景とか文化はあんまり調べず書いてます。
ヒカルの碁とおじゃる丸が参考文献です。
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