転生巫女は静かに暮らしたい   作:高町廻ル

19 / 41
次の約束

「どうしよう…早くしないと香織と御依ちゃんがっ…!」

 

 あてどなく迷宮を歩き回る理保子は焦っていた。

 どれほどの時間が経ったのか分からないが長引くほど二人の危険が迫っているのは間違いない。

 

(せめてあの魔導具さえあれば…)

 

 利人は理保子が手放してしまった魔導具の事に想いを馳せる。

 あの人形は魔導具で、何かしらの作用でこの難攻不落の迷宮を作り出してしまったのだ。

 香織に御依がついているとはいえ、彼女も絶対無敵ではないのだ。

この空間では魔力を使った攻撃は全て通らない。

 どれだけ歩いても端まで辿り着けない。

 陽の光が差さず常に薄暗く、時間や平衡感覚を失う。

 いくら魔術の租だとしてもこの状況で落ち着いて解決策を見つけられるのか怪しい。

 

「なんだ…?」

 

 だがその時、突如として天井と壁がひび割れ始める。

 

「な、なに…?」

 

 利人の腕をギュッと組んでここまで来て更に畳み掛けてくる異常事態に怯える。

 世界が、迷宮が崩れそして裂けたと思ったら周りは元通りになっていた。

 

「あれ…?」

 

 二人の前には先ほどと同じ景色が広がっていた。

 あんなに長時間も歩いたというのにその場から一切動いていなかったのだ。

 ホビーコーナーにオモチャの投げ売りのワゴン。そしてフロアの下には問題の人形が落ちていた。

 

「お兄ちゃんに理保子さん大丈夫?」

 

 現状確認に頭が追いつかない二人に声がかけられる。

 二人が振り返ると手を繋いでいる御依と香織だった。

 

「お姉ちゃん!」

 

 瞳を潤ませた香織は繋がれた手を離して姉の元へと飛び込んでいく。

 

「香織っ!良かった…」

 

 飛び込んでくる妹を抱き止める。そして確かな力でその存在を確かめる。

 そんな紫雲姉妹を見ながら、藍原兄妹も再会の話し合いをしていた。

 

「ありがとな御依」

 

 ポンと頭に手を置いて撫でる。

 相手はそれを心地良さそうに受け入れる。

 

「んーん、むしろ直ぐに助けられなくてごめん」

「何言ってんだよ。みんな無事なんだし、高く求め過ぎだって、ありがとうな」

「…ん」

 

 二人の会話を妹を大切に抱擁しながらも理保子は聞いていた。

 

「これは…御依ちゃんがやったの?でも…どうやって?」

 

 視線を二人に向けた彼女の抱いた疑問は沢山ある。

 どうやってあの結界を破壊して皆を解放したのか。

 そもそも六歳のはずの御依のどこに事件解決力があるのか。

 そもそも利人はなぜこの状況を平然と受け入れているのか。

 

「御依さん凄かった!あの結界を壊したんだよ!」

 

 姉に再会出来て落ち着いた香織は次は自分の体験した出来事を思い出して、別の意味で興奮してしまう。

 

「御依さんは…六歳…なんだよね?」

 

 妹の反応から間違いなく藍原御依がこの件の問題解決を図ったと分かる。

しかしそうだとして納得ができないのだ。

 

「ん、まぁ。それはあとで説明するよ。まずは協会に連絡しないとな。取り敢えず御依の事は隠して話合わせてくれると助かる」

 

 彼はそう言って携帯を取り出して連絡を取る。

 

 

 数分後、協会から通報を受けた魔術師から事情聴取を受ける事になった。

 他三人は利人から受けた指示通りの受け答えをする。

 またこの場には他の協会のバックアップメンバーもおり、今回巻き込まれた一般人のフォローを行なっている。

 

「これが問題の魔導具か」

「はい…触れただけで即起動する可能性があるんで」

「ああ、分かった」

 

 その注意を受けた男は手袋をはめて厚いスーツケースに慎重に魔導具を入れる。

 

「今日の所は協力感謝します。後日事情聴取の可能性がありますが、その際は協力お願いします」

 

 そう言ってその場から男が立ち去っていく。

 

「ふぅー…」

 

 利人は何とか目下の問題を乗り越えて息を吐く。

 取り敢えずは御依の事を誤魔化せたと。

 

「ちょっと、まだ大切な説明は終わってないわよ」

 

 理保子はもう何もかも終わったような安心した表情をしている相手の横腹を軽くコツンと小突いてじっとりと睨む。

 彼は「分かってるって」と言ってふと考える。流石にここで話すのは不味い。

 

「うーん、どっか人目を避けれる場所があったらいいんだけど」

 

 その呟きを聞いて御依はちょいちょいと顔を近づけろという仕草をする。

 

「なに?」

 

 その場でしゃがんで耳を相手に傾ける。

 相手の耳元に顔を近づけて小さな声で話しかける。

 

「お兄ちゃんまさか全部話す気じゃないよね?」

 

 流石に何でもかんでも話されたら堪らない。

 それは彼女にとってあまりにもデリケートな問題なのだ。

 その懸念を聞いて利人は苦笑いをする。

 

「そんなまさか、亜夜鳴さんの事は流石に話せないし、こういう時のためのパターンは作ってあるから任せてって」

「ならいいけど…」

 

 渋々と言った感じでその場は引き下がる。

 緊急事態とはいえ正体がバレる覚悟で力を使ったのは御依の判断であり事実だ。

 

「そうだ!じゃあうちとかどう?」

 

 御依はパンと手を合わせて一旦気持ちを切り替えてその提案をした。

 

 

 四人は玄関扉をくぐって中に入る。

 

「お、おじゃましまーす…」

 

 理保子は突然やってきたお宅訪問イベントに緊張していた。

 普通の一軒家、だが彼女からすればラスボスの部屋手前なのだ。

 

「ただいまー」

 

 御依はいつも通り手洗いうがいの為に流しの方へと歩いていく。

 

「御依さん待ってください〜」

 

 その後ろを香織は追いかけていく。

 そんな子供二人の姿を見て驚き互いに顔を合わせる。

 

「あの子なんか変わった?」

 

 利人は初対面の時とはまるで別人の妹への態度に驚く。

 理保子はその疑問に対して少し苦笑いをする。

 

「それはね、憧れの対象が変わっちゃったのかも」

「変わった?」

「そう、変わった」

 

 彼女は「これまではね」と頭につけて。

 

「どうしても香織からしたらお兄ちゃんは凄いんだけど、どこかとっつきにくいというか…近寄り難かったんだけど」

 

 ここで彼女は「別に仲が悪いとかじゃないよ」と補足を入れる。

 

「どうしても利人くんみたいな朗らかでノリの軽い方が接しやすかったから。理想像を重ねちゃってたんだろうね」

 

 強くて優しくて、そして接しやすさの全て持っている利人につい執着してしまっていた。

 

「今から具体的な事は当然教えてもらうけど、御依ちゃんは香織と同い年なのにあの結界を破壊出来たみたいだし?」

「理保子?」

 

 突然流れが変わり、それを察した利人は待ったをかけようとする。

 

「それまで香織と楽しく遊んでたみたいだし?すっごく頭も良さそうだし?」

「ねぇ理保子?」

 

 彼はこの段階で朝も同じ流れがあったなと思い出していた。

 

「容姿もだけど、所作もすごく綺麗だし?」

「なぁ理保子?」

「香織が好きになっちゃっても仕方ないよねー」

「……」

 

 ここからあれこれ誤魔化しながら説明しなければいけないのかと思うとすごく気分が重くなっていた。

 

 

 御依はスッと立ち上がり宣言する。

 

『よしここから出るよ』

『出る…?』

 

 薄暗い迷宮で脱出の希望が降って降りてきた事に香織は萎れながらも反応する。

 

『でも…どうやって…?』

 

 彼女は藍原御依の実力を正確に見極められる程の経験も実力も無い。

 しかし先ほど放った技が並の魔術師を凌駕する一撃であるのは理解出来ている。

 姉や兄を指導する為にやってくる魔術師よりも明らかに洗練された高威力の一撃だった。

 それでも壁を穿つどころか傷一つ与えられなかったのだ。

 

『この壁はね、実は存在しないんだよ』

 

 壁に触れるが当然ながらその感覚は無い。

 

『そりゃそうだよね。無いんだから触れてる感覚なんて無いはずだ』

『そ、そうではなくて…存在しない?』

『えっとこれはね。まるで目の前にあるかのように見えてるだけ』

 

 そう言われても何が何やらだ。

 

『でも私たちは唯一感触が残っているものがあるよね』

『唯一…』

 

 御依は答えが出せずに悩んでいる相手を見て、少しだけ楽しそうに答えを言う。

 

『それはね、地面だけは触れてる感覚があるの』

『あ…』

 

 そう言われてもへたり込んでいたが、地面に立っている感覚だけはしっかりと残っている。

 あまりにも当たり前の感覚すぎて気が付きもしなかったのだ。

 そもそも立っている感覚、それがなければまともに歩くことすらできないはずだ。だがこうして違和感無く立って歩き回っている。

 

『つまりこの結界はどんなに壁には触れられなくても常に足だけは直接結界に触れてるっていう超欠陥品って事』

 

 そう得意気に話すが香織としては納得がいかない部分もある。

 

『でも…ならなんで歩いても歩いても外に出られないんですか…?』

 

 地面に触れて歩いているなら何かしらに体が当たっていてもおかしく無いはずだ。

 

『ん、それはね。この迷宮みたいな外装は全部幻覚で現実の私たちはあの本棚のそばで多分ずっと棒立ちになってるんだよ』

『は、え、えっ?』

『この結界は魔力の「闇」属性の幻覚を乗せて作られてる。そして同時に闇属性の概念「封殺」もかかった二重の檻なんだよ』

 

 闇は光を奪い、人の冷静な判断力を奪う事から「幻覚」であると命名した。

 そして夜や闇は人から行動や選択を奪う事から「封殺」の概念を持つと亜夜鳴は当時決めた。

 

『闇属性…』

 

 脳裏に香織にとって身近な闇属性魔力の使い手の顔が浮かぶ。

 自分の姉の得意は闇魔力で、しかも属性と概念を高いレベルで修めているのではなかったかと。

 しかしあの姉が人に害意を持って接するなど考えられない。

 

『この壁は封殺の力で触れようとしても直前でセーブがかかるようになってる。攻撃をしようにも頭に封殺の力が掛かってギリギリ触れないようにそれを弱めちゃうわけ』

 

 壁が丈夫なのではなく、そもそも当てる事が出来ない。

 御依は『だけど』と付け加えて。

 

『直接触れているところに封殺は関係ない』

 

足に魔力を集中させて術を発動させる。

 

 

 四人はリビングのソファーと下に座布団を敷くなどしてテーブルを囲みながら話をしていた。

 

「ごめんなさい」

 

 最初に反応したのは理保子だった。

 御依から結界内で何があったのかあらかた教えられて罪悪感に苛まれる。

 元を辿れば自分の不注意によって起きた事故だった。

 そのせいで御依に迷惑がかかり、香織は泣くほど怖い思いをした。

 

「お姉ちゃんのせいじゃないもん」

 

 この中で一番怖かったであろう彼女の妹はそんな姉を庇った。

 

「理保子さんは悪くないです」

 

 御依は理保子をかばった。

 彼女は「それに」と付け加えて。

 

「取り敢えず誰も死んでないです、ならこの失敗は次に活かせます」

 

 その言葉の真意を相手は全てを汲み取ることは残念ながらできなかった。

 死んでからなんてなんて励まし方だろうと思うが、それを言った相手の表情は真剣そのものでおちゃらける雰囲気は混じっていない。

 

「しかし足か…全然気が付かなかった」

 

 そしてそれ以上に利人はショックを受けていた。そんな致命的な欠陥のある結界だったとは思わなかったのだ。

 

「まだお兄ちゃん達は経験が足りないね」

 

 御依はソファーから降りて立ち上がり兄の頭をぽんぽんと叩く。

 

「精進します…」

「経験が足りないって…」

 

 年長二人はつい項垂れてしまう。

 

「御依さん凄かった!力を込めたと思ったら風が吹き荒れて!」

 

 同世代の女子の活躍は、香織の中の憧れをくすぐるのには十分なインパクトだった。

 

「あの結界は頭の中にある」

 

 御依はそう言いながら首筋をとんとんと叩く。

 

「歩いたりとか手を伸ばすみたいな動きやイメージを先んじて察知して、体に反映させるより先にその信号を奪ってそれを結界内で再現してたんだよ。だから手足を動かすのに微妙な感覚のズレがあったんだと思う」

 

 そうして体の動きを封じたまま労せずして相手を捕獲する。

 

「あの御依ちゃん」

 

 理保子は恐る恐るといった感じで手を挙げて発言の許可を求める。

 当然御依には拒否する理由はない。

 

「はい、なんでしょう?」

「なんと言うかすごーくアホっぽいリアクションになるんだけど…よくそんな難しい事知ってるね」

「……」

 

 御依は分かりやすく「やべ…」みたいな表情になる。

 

「ほら、最近のテレビとかアニメは結構バカに出来ないというか。色々と教えてくれるんだよ」

「そんな番組あるの?」

「うん、私アニメ大好き」

「そう…」

 

 藍原兄妹が必死で誤魔化そうとしているのを察して、取り敢えず理保子は保留する事にする。

 

「じゃあ…」

 

 理保子はおずおずと尋ねる。

 そう、本題はここからなのだ。

 

「御依ちゃんはなんでそんなに魔術を使えるの?だって六歳だよね、そんなはずは…」

 

 理保子は幼い頃から絶え間なく魔術の訓練をしてきたからこそ、藍原御依の異常性が分かる。

 六歳で天才と呼ばれる子供もせいぜい魔力の小さな塊を出すのが精一杯なのだ。それでも神童として崇められる。

 

「えと…」

 

 それを聞かれるのは御依としても困る。

 御依の強さは前世で長い期間魔術を探究してきた圧倒的な経験値だからだ。それをどう誤魔化せばいいのか。

 

「御依はな…半年前に神隠しにあったんだよ」

 

 利人は重い雰囲気を纏って話す。

 

「神隠しって…あの?」

 

 この世界に存在する説明不能な失踪現象。その大半は神隠しと呼ばれる現象で説明される。

 

「そう、母さんとみーが幼稚園の帰り道の時にふと手の感触が無いと思ったら居なくなってたらしくて」

 

 神隠しとは怪異が元々存在する世界、通称隣界と呼ばれている空間。そこに迷い込んでしまう現象の事を指している。

 昔の人はその正体不明の失踪現象を高次元の存在よる悪戯のようなものだと解釈した。

 当然ながら神様は関係無く、近年の研究によって怪異はこことは違う別の世界に存在していて、人の住む世界に気まぐれにやって来ていると分かったのだ。

 今日まで神隠しという単語が広く浸透していたためそのまま使われている。

 

「幸い、家族みんなで探し回ってなんとかその日のうちに見つかったんだけどさ…その日からそれまで見えなかった怪異が見えるようになったんだよ」

「それは、怪異と接触すると命の危険から魔力を知覚しやすくなるってやつ?」

「そうらしいな。その辺のみーの記憶は曖昧らしいからあくまでも神隠しだろうってだけだけど」

 

 魔力というのはそもそもこの世に生きる人間全てに平等に生まれつき備わっている素養なのだ。

 ただし大半の人間は魔力や怪異の存在に気がつく事なくその一生を終える。

 しかし稀に強力な怪異との直接的な接触をして生き残るケースが存在する。

 大半は直接対面すれば死んでしまうが、運良く生き残った人は魔力を感じて、怪異を視認できるようになる。

 

「御依さん!」

 

 それまで御依の横で一緒にソファーに座りながら話を聞いていた香織。彼女は隣に座る相手の手を取って向き合う。

 

「な、何かな?」

 

 突然の圧に若干引いてしまう。

 

「御依さんにそんな過去があったなんて」

「う、うん。そうみたいだね」

 

 そんな過去は無いけど、とは言えなかった。

 妹はその境遇にだいぶ肩入れしているが、姉はあまり腑には落ちないようだった。

 

「えと、つまり。御依ちゃんの力は神隠しの影響が大きいと?」

「それもあるけど、俺が時間を作って訓練してるんだよ。ほら、力が強すぎて下手したら呪いを出しかねないし。父さんにはみーの才能は荷が重すぎるからね」

 

 割と酷めな父親への評価だが間違った事は言っていない。

 

「なら、協会に説明したら?この状態を見せたらアレコレ便宜を図ってくれると思うけど」

 

 理保子は「それに」と付け加えて。

 

「私に相談してくれたら紫雲家でバックアップしたよ。いや、それ以前に青風家だよね」

 

 藍原家は御家の一つである青風家の分家にあたる家の為、何かしら内輪で問題が起これば報告をしなければいけない。

 

「みーはいきなり怪異の中に放り込まれて…今は落ち着いたけど最初はかなり錯乱しててさ、少し前までかなりストレスで追い込まれてたし。本人の意思を無視して協会や御家に報告するのも気が引けるから、現状黙ってるんだよ」

 

 利人は正直穴だらけの説明だがなんとか話し終える。

 

「聞いといてアレだけど、よくそんな説明しようと思ったね」

 

 理保子は色々と噛み締めて簡潔にそう答えた。説明を受けても一切納得感は無いのだ。

 この場所は彼女、紫雲理保子を納得させる為の説明では無いのだ。

 形式上はこう説明するから、取り敢えずこの場は矛を納めて黙ってくれと言うだけだ。

 

「だって理保子は頼んだら聞いてくれるだろ?」

「…う」

 

 悔しい事に惚れた弱みというか、利人にそう頼まれると弱い。

 何より御依がいなければ今回の件で妹に被害が出かねなかったのもある。言ってしまえば自分の尻拭いをリスク承知でやってくれたのだ。

 

「ねぇお姉ちゃん…私御依さんのお願い聞きたい」

「うぅ…」

 

 香織からの援護射撃が飛んできていよいよ自分が悪者かのようになる。

 

「あー分かった、分かりましたよ!私は御依ちゃんが何してたか知らないし、今回の件を解決したのは利人くん!それでいいんでしょう!?」

 

 理保子はヤケクソ気味に叫んだ。

 

 

「そろそろ帰るよ」

「えー!まだ遊びたい!」

 

 姉の一言に妹は反発する。御依と一緒にゲームをしている。

 既に時間は六時を回っておりそろそろお暇する頃だ。

 何よりもう既に迎えの車を呼んでいる。流石お嬢様と言ったところか。

 

「うーん…」

 

 香織のその態度に利人も困ってしまう。

 この感じなら御依といい友達としての関係を築けそうなだけに離すのも中々拗れそうだ。

 そろそろ親と妹が帰って来るため流石に家に残すのは問題になる。

 

「そうだ、来週この辺りで夏祭りがあるから良かったら行くか?」

「え、いいの?」

 

 香織へ御依と夏祭り行くかと言う提案なのだが、つい理保子の方が反応してしまう。

 彼は相手がちょっと前のめりになったのを見てつい苦笑いになる。

 

「あはは、じゃあ香織もどうだ?みーもいいだろ?」

「私は構わないよ」

「行きます!」

 

 御依はゲームしながらのあまり気のない返事だったが、香織の方は姉と同じく前のめりだった。

 

 

「あ、そうだった。これ返します」

 

 御依はそう言って髪を留めていた借りていたシュシュを外して返そうとする。

 

「それあげるよ」

 

 理保子は受け取らずそのままプレゼントをした。さして高いものでもない。

 

「いや、でも…」

 

 流石に貰うのはまずいと思ったのかなんとか返そうとする。

 

「今日は香織と仲良くしてくれてありがとうね。それに髪の毛大事にしてね」

 

 そう言われるともう受け取らないわけにもいかなくなる。

 紫雲姉妹は送迎の車に乗って帰って行った。その去り際に香織が御依の手を握って「また今度」と言い残した。

 

 

 二人を乗せて去っていく車が見えなくなる。

 

「取り敢えずはこうするしかないか」

「うん…」

「大丈夫だって、そう簡単に口を滑らす方じゃないから」

「そうだね」

 

 彼女は手のひらを見る。去り際の握手の温かい感覚が何故か強く残る。

 

「そう言うのってさ」

「ん?」

 

 今まで感じた事の無い感覚に浸っている御依を見て彼は話しかける。

 

「なんつーか、くすぐったくなるよな」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。