転生巫女は静かに暮らしたい   作:高町廻ル

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心に垂れる毒

 二人は火災現場にやって来ていた。

 隣は二階建てのアパートと一軒家で、どちらも燃え移っている様子はない。

 

「うわー真っ黒」

 

 御依から飛び出すアホみたいな感想。

 火災はリビングと台所のみと聞いていたが火災そのものは激しかったのか壁面はかなり黒く煤だらけになっていた。

 

「火事だからね」

 

 周りには警察や鑑識の人だけでなく、火事の現場を一目見ようする人がチラホラと見られる。

 

「まっくろだ」

「野次馬はやめような」

 

 流石に娘の中身がどうであれ面白がる言い方は放置出来ない。

 だが相手はその注意に対して弁明をする。

 

「違うよ、あそこに怨霊がいるんだよ」

「何だって?」

 

 御依には家の外壁にへばりつく様にある黒い人形のモヤが見えていた。

 

「あの家に憑いてる」

「家か…」

 

 彼の知識では長い間その家主たちによって大切にされた家には思い出が蓄積するケースがある、それらは付喪神とそう教えられている。

 

「本来はその家への愛着であるはずの残留思念が悪霊という形で定着している」

「と言う事は…」

 

 御依は息を吐いて結論を言う。

 

「つまりこの家の主人は事故ではなく他殺されている」

 

 この家の持ち主は他殺されたという御依の一言に良二は神妙な面持ちになる。

 

「怨霊…」

「本来家を守るはずの付喪神?今はなんて言うのか知らないけど、見守るはずの残留思念がこの家の持ち主の怒りと無念を吸収して悪霊化している」

 

 彼とてそれなりに見える側ではあるが、問題の悪霊はそれでも見えない程に格と怨念が強いのだ。

 

「一応私が悪霊を祓ってもいいけど…」

 

 父親に対しておずおずと提案をする。

 彼女にとって得意なのは戦闘ではなく、浄化という戦闘に不向きな方面だ。

 

「やはり危険…だったりするのか?」

 

 彼は具体的に見えていないためそんな問いかけしかできない。

 

「うーん、そのあたりは時間が経過しないと分からないけど…本来家に宿る付喪神は一過性の呪いと違ってそれなりに継続するから長引くと醜悪化して危ないかもね」

「これは一度協会に伝えた方がいいかもしれないな。下手に御依が力を使って大事になってもね」

 

 二人がそう話していると話しかけてくる人物が。

 

「お二人は宮内さんのお知り合いだったり?」

「はい?」

 

 良二は声をかけられた為その方へと振り返る。

 そこには気さくそうな中年で小太りな男性がいた。

 

「あ、すみません。隣に住んでいる山田というものでして。お隣でこの様な事故があって…その、朝から晩まで色々な方がここにいらっしゃられて…」

「あ、すみません。娘とツーリングををしていたらつい目に入りまして」

 

 大人二人はそんな会話をしていたが、御依はそれどころではなかった。

 

『オマエガァッ!!!』

 

 突如怨念が壁から離れて山田と名乗った男に近づく。

 

「宮内さんは凄く沢山の人から慕われていたんですね」

「はい…だからこそこんな形で亡くなられるなんて今も心の整理がつかなくて…」

『ダマレ!!シャベルナオマエワ!!!』

 

 そう鎮痛そうな表情で話しているがその側で怨念が怨嗟をぶちまけている事に気がついていない。

 

(この山田って奴が犯人か)

 

 視線を話している二人に向ける。

 彼女はこの怨嗟からして目の前の中年男性が犯人だろうと確信していた。

 

「なるほど朝から晩まで大変なんですね」

「警察の方にもう四回以上は同じ質問をされましたね」

 

 良二の問いかけに対して相手は疲れた様な苦笑いをする。

 

『シャベルナトイッテイル!コノヒトゴロシガ!』

 

 先ほどから山田という男性が話すたびにそれに被せる様に怨霊も叫んでいる。

 

「え、この火事は殺人事件なんですか?」

「警察の方はそう見ているそうで…遺体に殴られた後があったそうなので…宮内さんはヘビースモーカーだったから火の消し忘れかと思っていたんですが」

 

 遺体が完全には焼けておらず体に防御痕が残っていた為、犯人と揉み合ったのちに殺されてから家に火を放ったと考えられている。

 

「そうなんですかニュースではそんな報道は無かったような」

「警察の方が質問中にポロッと言われたのを耳にしただけですので」

 

 それが本当なら守秘義務的にかなり大問題ではあるが。

 

「宮内さんは意外と恨みを買っていたのか、それとも通り魔の様な事件なんですかね」

「私もお隣さんではあるんですけれど一から十まで全て知っているわけでは無いですから」

 

 大人二人が話している、そしてそんな会話に御依は割り込む。

 

「へー…残念だね」

「御依…?」

 

 突然口を開く娘に訝しげな表情をする。

 

「せっかく放火までしたのに事故死にならなくて」

 

 それを口にした途端、山田と名乗った男は表情を凍り付かせた。

 

「御依っ!!」

 

 良二はまずいと思ったのか素早く娘の肩を持ってその場から引き剥がす。

 

「御依っ何を言って…」

「あの怨霊があの人が犯人だって言ってる」

「何だって…?」

 

 彼はチラリと相手を見る。

 一瞬大きく動揺こそしていたが今は落ち着いて御依を見ている。

 

「本当にすみません、うちの子が失礼なことを」

「いえ、気にしてませんから」

 

 相手は内心どう思っているのかは分からないがそう返す。

 

「ちょっと待ってくれるか?」

 

 良二はそう言って何処かに電話を始める。

 娘と容疑者を二人にするのはと思ったが、周りにはまだ警察がある為、下手な事は出来ないだろうと考えて席を一瞬外す事に。

 

「ごめんなさい」

 

 御依は頭を下げて形だけだが謝罪をする。

 

「ううん気にして無い、それより何で私が犯人だと思うのかなーって」

 

 一度犯人として断定する態度を取られたのが相当な恐怖なのか御依にそんな質問を投げてくる。

 

「私には宮内さんの魂が見えるんです。そして囁いてくるんですよ、貴方が犯人だと」

「あ、あはは…バカを言っちゃいけないよ。そんな事あるはずが」

 

 相手は暑さとは違う恐怖から来る冷や汗をかいている。

 

「犯行時刻は昨日の朝五時半頃。貴方の裏での犯罪行為が宮内さんにバレており、そして朝早くに足を洗い自首するように説得されるが逆上して殺害」

「……」

「貴方は被害者の生活リズムを知っているから、出社しなければ直ぐに職場の人が不審がって連絡を取りこの現場バレると考えた。なんせ真面目で無断欠勤なんてしない人だから遅刻なんてしたらすぐに目立つ」

 

 怨霊からの断片的ではあるが情報を繋ぎ合わせて話を作る。

 

「犯行の凶器はタバコのガラスの灰皿。犯行現場の宮内さんの家の居間で部屋中には貴方が犯人という証拠があちこちに残っていた、だから焦って貴方は火災を起こして全て消し去ろうとした」

「あ、あはは、面白い推理だね。アニメの影響かな?」

 

子供の戯言だとして相手は切って捨てようとするが御依はそれを許さない。

 

「因みに証拠は灰皿と下足痕、被害者の殴打痕と灰皿の形が一致するはずだよ。恐らく場当たり的な犯行で咄嗟に殴打したんでしょ。今回の犯行に事前に準備したものは多分何も無いから。そして家同士の塀を駆け上がった様な不自然な向きの足跡も残ってるでしょう。朝早いとはいえ公道を歩いて目撃者がいたら怖いから」

「……」

「ガラスだと火事でも燃え残る可能性が高いから貴方はそれだけは持ち出さなければいけなかった。因みに今から家に帰ってそれを拭いても無駄だよ、血痕を測定するルミノール反応はちょっと拭いた程度じゃ消えないから。かと言って警察がウロウロしている中でガラスの灰皿を処分することも出来ないんでしょう?捨てる所を誰かに見られたら怖いもんね」

 

 御依は全てを言い切った。その視線は何か違った事を言った?といった具合だ。

 

「……」

「そうやって黙っているのは勝手だけどそのうち貴方が犯人なのはバレるよ」

「お前は…!」

「私も殺そうと?この警察がいる状況で正気とは思えない」

 

 御依は相手を鋭く睨む。

 

「お待たせしました」

 

 一触即発を察したのかは分からないが二人の間に割って入る様に良二が話しかける。

 

「すみませんうちの娘が失礼な事を」

「い、いえ、お気になさらず…」

「そろそろお昼ですしそろそろ失礼しますね」

 

 良二はそう言って娘を連れて帰ろうとする。

 

「あ、あの!」

「はい?」

「いえ、何でも」

 

 何とか引き止めようとするが、それができる材料など当然持ち合わせているはずもない。

 去る前に一度だけその場にとどまり伝えるべき事を伝える。

 

「あ、言い忘れていましたが私は警察関係の仕事をしてますので、この件は報告しました。もう直ぐ追加の刑事が来ますので覚悟しておいてください。今から逃げようなんて考えない方がいいですよ」

 

 相手はその言葉を聞いて膝から崩れ落ちてしまう。

 

 

「わあああぁぁ…!」

 

 御依の目の前には定食セットが置かれている。

 まるで餌にありつく前の犬の様な辛抱たまらん表情で食事を見ている。

 

「いただきます」

「いただきますっ!」

 

 二人は合掌して昼食を食べ始める。

 

「ん〜!!」

 

 御依の疲れた体に御馳走が染み渡る。

 食事の最中、父親の携帯にメールが届いたそうで手を止めて中身を見る。

 マナーが悪いなと思ったが仕事絡みかもしれないので特に何も言わない。

 

「あの人警察署に重要参考人として連行されたみたいだな」

「へー」

「ガラスの灰皿と血痕の付いた服を何とか処分しようとした所を警察に見つかったそうだ」

「アホだねー」

 

 何とも間抜けな最後にもはや興味も無くなってしまう。

 

「御依の手柄だな」

「別になんか気になっただけだよ、野次馬みたいなもの。むしろあの後の事を放置した方がね、首を突っ込んだのに中途半端な所で帰っちゃったから」

「いやいや、そんな事はないよ」

 

 もし御依があの現場の違和感に気が付かなければ犯人はもしかしたら逃げ切れたかもしれない。

 そしてあの怨霊は行き場のない怒りを携え、大きな被害をもたらした可能性すらあるのだ。

 

「あの付喪神はどうなるの?」

 

 それよりも気になっていたのが例の怨霊の行く末だった。

 

「まだ完全な呪いになってないから、協会の浄化の使い手が祓うそうだ」

「そっか、なら安心だね」

 

 そう言って安心したのか箸の速度が再び加速する。

 

「なぁ御依」

「ん、なに?」

「お父さんに何かしてほしい事とかあるか?」

「して欲しい…」

 

 突然そう言われても困る。

 父親に何かを望む事など本当に無いのだ。

 

「うーん別に無い」

「無いって事は無いだろう」

「ええ〜…」

 

 そんなこと言われてもなと困ってしまう。

 少しだけ彼女は考えた。

 自分は何も望んでいないのではなく、望んだものが既にあるからこれ以上のものを欲していないのではと。

 

「お父さんはお父さんのままでいてくれるならそれでいいや」

 

 それ以上は話す気がないのか箸をひたすら動かす。

 

 

 とても晴れ渡り月が辺りを照らす夜の日だった。

 家の庭に立つ。周りには誰もおらずまるで世界に自分一人しか世界にいないかの様だ。

 

「ふーっ…」

 

 息をゆっくりと吐いて体の中のタイミングを整える。

 

「何してるの?」

「おわああぁっ!?」

 

 背後から話しかけられてみっともない声が漏れた。

 後ろを振り返ると家族全員が外に出ていた。先ほど声をかけたのは姉の楊だった。

 

「な、何なんです…?」

 

 取り敢えずそんなセリフを口にするが皆が外に出ている理由は明らかだった。

 

「何なんですはこっちのセリフよ。こんな夜遅くに外に勝手に出るなんて」

「いやそれはですね、うーん…」

 

 今からやろうとしている事をどう説明しようかと困っていた。

 

「御依はもしかしてあの怨霊の為に奉納をしようとしてるのか?」

 

 良二は昼間に怨霊をみて浄化しようかと提案していた事を思い出していた。

 ここで藍原家の面々は御依、つまり亜夜鳴が高名な巫女であった事を思い出した。

 

「それってもしかして浄土神楽ってやつ?」

 

 利人は記憶の中を引っ張ってきて言った。

 今は中国地方に名残のある死者の魂を弔う奉納の一種。

 

「そんな感じかな、亡くなった人を弔うみたいな演舞ががあるの。私がやるのは現代神楽みたいな穢れて傷ついた死者の魂を癒して先祖を見守らせるみたいなとは違うけど」

「みーちゃんそんな事できるの?見る!」

 

 楊は既にお願いというよりも決定事項として話している。

 

「お母さんいい?」

「危なくないならいいわよ、そもそもそれならそうと言ってくれれば…あ、そうね今回は特別よ」

 

 都は呆れた様に言ったが、前にルールは破ってはいけないと釘を刺した事を思い出した。

 現代の様な身振り手振りや技名をとは違う、全身を使い歌い舞うという儀式的な神楽も魔術と言えばそうだ。

 家族は庭の端に移動して神楽を見届けようと待機する。

 

「ちーちゃん来て」

「チュン!」

 

 御依の差し出した指先に雀が止まる。

 

「あら可愛いわね」

 

 都は娘の式神にほっこりとする。

 

「そうだけど、あの見た目で怪異を体当たりで一撃死出来るくらい強いよ」

「え、そ、そうなの?」

 

 息子からの忠告にゾッとする。

 

「お願いちーちゃん、武装変化」

 

 その言葉と共に雀のちーの体が淡く光る、そして光が淡くなると彼女の手には一本の扇子が握られていた。

 式神は予め武器として体を変化させられる様に大幅に質量が変化しない範囲で設定する事が出来る。

 

 パシッと扇子を持つとあたりの空気が引き締まる。

 上は少しブカブカなシャツ一枚にハーフパンツに裸足にサンダルとラフもいい所なのに、まるでここが厳かな御殿の様な威圧感になる。

 

「哀悼の意を表します」

 

 スッと手先が伸ばされ扇子がピタリと正面に向けられる。

 足先は小さくクロスされ足先がまっすぐに伸ばされるが体は小揺るぎもしない。

 そして顔の位置もピタリと止まり体が静止する。

 

 力強いが決して誰も傷つけない風が辺り一帯に吹き荒れる。

 

「祓い給へ、清め給へ…」

 

 それが始まりの合図となり流麗な舞が、死者の心を思う踊りが一軒家の庭先という小さな場所で舞乱れて行く。

 

「温かくて柔らかい…」

 

 楊は御依の舞によって生まれた風にそっと触れる、そこには優しさと表現出来るものしか感じない。

 そしてそれは自分と妹の間にある隔絶した実力差を明らかにするもので、劣等感という毒を垂らすのに十分だった。

 

 御依は三十分かけて死者の事を思い舞い続けた。




超かぐや姫面白すぎた、まさか百合作品とは
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