転生巫女は静かに暮らしたい   作:高町廻ル

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縁日奇縁

「はい出来ました」

「ありがとうお母さん」

 

 御依はくるくると体を回転させながら姿見に自分の浴衣姿を写す。

 本日は紫雲家の二人と約束した夏祭りの日だった。

 

「これどうやったらお団子に出来る?」

 

 御依が取り出したのは先日理保子から貰ったシュシュだった。それを大層気に入ったのかいつも大事に使っている。

 

「それね、ちょっと貸して」

 

 受け取り娘の後ろに膝立ちすると髪の毛を纏め始める。

 

「浴衣なんてよく家に置いてあったね」

 

 彼女はふと思った事を口にする。

 

「浴衣って一般的にあまり常備してるものじゃないんだよね?」

「それは元々楊が着ていたというか、動き回れない服が嫌いなのか一回だけ着て『キツい!』って言って着なくなっちゃったのよね。ほぼ新品みたいなものね」

「なるほど」

 

 とてもあり得そうな姉のエピソードだと苦笑いしかできない。

 

「はい出来ました」

「ありがと〜!」

 

 少しだけ顔を傾けて鏡に映るセットされた髪の毛を見て嬉しそうにする。

 

「っ〜!これ!これよ!」

 

 娘のその姿に都は感極まって抱きしめる。

 

「ふぎゃ!」

 

 母親の突然の態度に肩をピクリと震わせてバタつくが当然振り解けない。

 

「娘のお淑やかな浴衣姿!将来性抜群の浴衣美人!楊でもこれが見たかった!」

「あっ…うん、そぉー…」

 

 目を点にしてそう言うしかできない。

 楊も可愛らしい女の子だ。だがどちらかと言えば男の子の様な活発さの方が前に出てしまい、持っている可愛らしさが表に出ないのだ。

 

「今世でも夏祭りかー…千年もよく続いてるよね」

 

 御依は昔とはだいぶ形式こそ変わっているが太古から続く催しが今も手を変え品を変え継続している事に感慨を覚える。

 

「あらそうなの?平安時代はどんな感じだったのかしら?」

「んーっと、今の娯楽みたいな感じじゃ無くて、死んだ人を弔ったり、病気に災害を避ける為のお祈りみたいな感じだったかな。私も何回か舞を奉納してたっけ」

 

 そう問いかけられて昔の記憶を頑張って引っ張り出す。

 

「へーじゃあこの間みた踊りは結構貴重なやつなのね」

 

 千年前のまだ魔術なんて概念が無かった時代の技術、それは現代の研究家たちが喉から手が出るほどに欲しい情報だろう。

 

「あはは、確かにそうかも、私にはあれくらいしか取り柄もないし。舞をした後に貴族からやれ側室になれだの、やれ愛人になれだの色々とめんどくさいんだよねぇ」

 

それは自慢しているのではなく、本当に心の底から煩わしいと思っていたのが表情で分かる。

 

「せっかくだからうなじの所も整えましょうか」

「うなじ、はい」

 

 細かいところも気を遣ってこその美だと考えてその様な提案をする。

 娘をその場に座らせて、タオルや剃刀を用意して首元にクリームを塗る。

 

「ひっ…!」

 

 御依は首元を襲う冷たい感触につい声が漏れる。

 

「動かないでね」

 

 そう言ってうなじに向けて剃刀を這わす。

 

「ううぅ〜っ」

 

 首元を襲うゾクゾクするくすぐったい感覚につい声を漏らす。

 

「うっ、ひっ!」

 

 首元を攻めるショリショリとした感覚にヘンな声が漏れ出る。

 

「はいおしまい」

 

 タオルで首元のクリームと毛を落としてそう言った。

 

「……」

 

 終わったというのに御依はぷるぷると震えたまま顔を見せない様にしている。

 

「御依?」

 

 娘の顔を覗くと顔を真っ赤にしていた。

 はて、何があったのだろうかと思い問いかける。

 

「どうしたの?」

「…えっち」

「誤解を招く言い方はヤメテ」

 

 色々と忙しい娘だった。

 

 

「利人くーん!」

「御依さん!」

 

 御依と利人が待ち合わせ場所に着くと既に紫雲家の姉妹が待っていた。

二人とも浴衣姿でとても華やいだ雰囲気を出している。

 

「ごめん待たせてちまって」

「こんばんは」

 

 二人も挨拶を返す。

 集合予定よりも十分も早い為遅刻ではないのだが。

 

「ううん、香織が楽しみ過ぎて早く出ちゃってね」

「ちょっ!お姉ちゃん!」

 

 姉の暴露につい大きな声で返してしまう。

 

「取り敢えず何か食べるか?花火までは時間もたっぷりあるし」

 

 利人はそう提案する。

 現時刻は午後六時。花火の打ち上げ予定の時間は午後七時半。

 だいぶ余裕のあるスケジュールではある。四人で屋台を見て回っても時間を潰しきれない。

 

 

 御依はある屋台を見つけて足を止める。

 

「あれって?」

「んあ?くじ引きの屋台だな。ランダムで景品が一つ貰えるんだよ」

 

 御依の先にあるのは箱の中に入っている紙を引いてその番号の景品がもらえるという形式のくじ引きだった。

 

「あれはゲーム機!」

 

 彼女の視線の先には最新型のゲームハードがあった。

 

「それがたった二百円で貰えるの?いや、クジはある程度ランダムだね、残りの景品は大体五十前後くらいか…」

 

ここで彼女は何か雷にでも撃たれたかの様に閃いた。

 

「なら大体一万円前後で四万円のゲーム機だね。当てて売れば新品だし利益が出る」

 

 ぐるりと彼女は兄の方へと振り向いて手を出す。

 

「お兄ちゃん一万円貸して、ちょっと稼いでくる」

「みーは絶対にくじ引きをするな」

 

 簡単に騙される妹を冷ややかな視線で一喝する。

 下手に妹にお金を渡したら現金が消えるどころか借金すらこさえそうだった。

 

「あ、あはは…」

 

 理保子は頭の良さそうな雰囲気で脳筋戦法を繰り出し、そしてしっかり騙され敗北する姿に苦笑いしか出来ない。

 

「……」

 

 香織は頭が良いなと思ったが、姉と利人の二人が呆れているのを見てそれを口にはしなかった。

 

 

 御依は屋台の一つを見て足を止める。

 

「りんご飴?なにそれ?」

「りんごを丸ごとべっこう、えと砂糖で固めた飴だよ」

 

 理保子から説明を受けたが何故?と言う感想が出てくる。

 

「ん、ん?何それ?りんごなの?飴なの?」

「うーんっと、最初はりんご本体に塗られた飴を楽しんでから最後は本体を丸齧りかな」

 

 御依は「へー」と取り敢えず目の前の物体については理解する。

 

「お兄ちゃん買って」

「いいよ、そこの一口サイズ下さい」

 

 だが兄がその注文をした途端「何で?」と異議を唱える。

 

「丸ごと買ってよ。その一口サイズは一個で百円、丸ごとは三百円。私の見立ててでは一口サイズはりんごを六分の一にカットしてる、丸ごとを買った方が得だよ。何で損をする方向で動くの?」

「いや六歳の口と胃袋じゃ丸ごとを買っても食えないだろ…そういういやらしい計算ばかり達者になりやがって…」

 

 そう言いながら一口サイズのりんご飴を買って強引に渡す。

 

「ぶー…」

 

 受け取った小さい飴を見て不満そうな表情。ぶーたれながらもしっかりと兄からりんご飴は受け取る。

 

「えっうまっ」

 

 御依は一口舐めると止まらなくなり、既に小さめのサイズである事は頭から抜けてしまっている。

 

「本当にあの時のかっこいい魔術師なの…?」

 

 香織はあの難攻不落の迷宮を攻略してみせた人物と、目の前の意地汚い人が本当に同一人物なのか疑いたくなる。

 

「あ、あはは…」

 

 理保子は何度も見せる御依の醜態に笑うしか出来ない。

 

 

 御依の前にプールがあった。

 

「これ何?」

 

 質問を受けた利人も視線を向ける。

 水の張った小さめのプールの中に金魚がうようよと泳いでいる。

 

「これは金魚掬いだな」

 

 一般的にそう呼ばれる事の多い名称で答える。

 

「ほう…?」

 

 彼女はそれを聞いて、わざわざ金魚を放って何がしたいのだろうというお店の人泣かせな思考をする。

 

「何故そんなものがあるのかよく分かってない感じだな」

「ごめん」

「いいや、取り敢えずやってみ?」

「ありがとう」

 

 彼は妹の為に百円を払ってポイを二つ買う。

 

「香織もやる?」

「いいの?」

「うん、いいよ。捕まえても持ち帰れないけど」

 

 理保子はそう言って同じ様に百円を払う。

 同じくポイを受け取り御依の隣に陣取る。

 

「みーちょっと食べ物を色々と買ってくるからそれまでそこで暇つぶしといてくれな」

「あ、私も手伝うよ」

 

 利人と理保子はそう言って人混みの中に消えていく。

 

「ふんっ!え!?」

 

 御依はプールにポイをつけたのだが一撃で破れてしまう。

 

「なんだこの紙は…一発じゃない」

「……」

 

 香織はそのあまりにも間抜けな姿に絶句する。

 

「えっとですね。紙は全体を濡らすんですよ」

 

 彼女は気を取り直してポイをゆっくりと水面につけて満遍なく濡らす。

 

「そんな事したら破れちゃうんじゃ」

「見ててください…ほいっ!」

 

 香織は御依の心配などよそにプールにポイを突っ込んであっさりと金魚を捕まえてしまった。

 

「え、何で?」

 

 水で濡れているはずなのに何故か金魚を掬ってしまった。

 

「さぁ…?お姉ちゃんからそうやると教わっただけなので…」

「うーん…」

 

 御依も自分のものを濡らしてみる。

 

「それっ!取れた!」

 

 やってみると意外と簡単に取れてしまう。 

 

「あの…」

「ん?」

 

 一度取れると楽しいのか次々と取れてしまう、そんな御依に香織は話しかける。

 

「なーに?」

「この前はすみませんでした」

 

 彼女は姉に言われて嫌々謝罪をしていた時とは違う、自分で考えた言葉での謝罪。

 その内容は前に悪態を取ったことについてだ。

 

「うん分かった」

 

 御依はその言葉を受けて、金魚を掬おうとする手を止めてから相手に体を向けてそう一言返した。

 

「そんなあっさりな…」

「気にしてないから」

「でも…」

 

 叱責の一つでもあったら楽だったのか、自分のへの咎める何かがないのが消化不良なのだ。

 御依は「うーん…」と悩む。そう言われても特段相手を咎めたい訳ではないのだ。

 

「金魚掬いのコツを教えてくれたから許す」

 

 彼女はにこりと薄く微笑み、一言そう言って話を打ち切った。

 香織は消化不良感はあった。

 だが相手のその態度から咎めるだかとか罰則与えたい訳ではないのは察した。

 なにより謝罪は誠意の為にするのであって自己満足の為にあるのではない。

 二人は再び金魚に熱中する。

 

「優しいというか大人な子だね」

「まぁそれが美徳なのかは分からないけどな」

 

 そんな妹たちのやり取りをこっそりと見ていた年長二人。

 一つ言えるのは二人の距離は縮まっている事だ。

 彼は二人の元へと行き話しかける。

 

「二人とも待たせちゃったな、色々買ってきたから座れるところに行こうか」

「ん、お兄ちゃんお帰り」

「ありがとうございます、利人さん」

 

 ちなみに取った金魚は全部リリースした。持って帰っても飼えないので。

 

 

「この近くに公園が」

 

 一行は屋台が並ぶ道に隣接した場所にある公園に着いた。

 

「ベンチは取られちゃってるね」

 

 理保子は残念そうな声を出す。

 そもそもベンチの空き以前に人がたくさんいる。

 同じことを考える人は自分たちだけではないのだ。

 

「シート用意してるから」

 

 彼はそう言ってカバンからブルーシートを取り出す。ちなみにドヤ顔だが母親に持たされたものである。

 

「すいません」

 

 理保子と小さな子供がぶつかる。

 体格差もある為お互いにのけぞったりはしない。

 

「いえ、大丈夫?」

 

 彼女はそう話しかけるが相手は小走りでその場を去っていく。

 

「知り合いですか?」

「いいえ、何でそう思うの?」

 

 御依からの問いかけに疑問を覚える。

 側から見てうっかりぶつかってしまっただけだ、それを見て知り合い同士だと解釈は流石にしない。

 

「いや、お財布取って行ったから」

 

 なんて事はなさそうなトーンで深刻な事を口にする。

 

「え!?本当だ無い!?」

「いやそれは窃盗だ!早く言え!」

 

 理保子と利人は犯罪を見逃してた事に気がついた。

 

「待てこらぁ!」

 

 利人はそう言いながら式神の蘭を呼ぶ。

 式神は普通の人間に見る事は出来ないが現実の物体に直接触れる事は出来る。まずは拘束してからという事だ。

 

「なぁ!」

 

 彼は驚きの声を漏らす。

 蘭が捕まえようとした瞬間に身を屈めて拘束しようとする手をかわしたのだ。

 

「あっ!」

 

 香織はそれを見てかわした事実に驚く。

 

「あの子魔力が見えるんだわ…」

 

 まさか窃盗犯の子供が魔力的素養の持ち主という展開に理保子は驚きの声を漏らす。

 魔力素養の持つ子供は即時拘束、または協会に通報する事になっている。

 

「悪い!あの子追いかけて来る!」

 

 利人はすぐに気持ちを立て直して走って追いかけていく。

 

「取り敢えず私達は協会に…」

「あれ?御依さんは?」

 

 紫雲姉妹が次の身の振り方を考えているうちに御依はその場から姿を消していた。

 

 

「待て!」

 

 利人は窃盗犯の子供追いかける。

 相手は人混みの中を小さな子供の体を生かして巧みに潜り抜ける。

 

(こいつ迷いが無い。普段からこういう事に手を染めてるな)

 

 追いかけられても焦る事なく自分を撒こうとする判断に手慣れたものを感じる。

 しかも細かく姿と距離感を偽装する結界を張っている。少なくともある程度の魔術的な訓練を積んでいる。

 この場で子供がスリを働いたと大声で叫んでも無様な混乱を起こして、逆に捜索が困難になるだろう。

 

「逃すかっての!」

「あぐっ!」

 

 彼は腕を伸ばして子供の腕を掴んで捻り上げた。

 相手は決して油断は出来ない存在。少なくとも魔力を視認する事が出来る素養を持っている、最悪なケースだと攻撃を受ける可能性すらあるのだ。

 

「ほら、ついてきてもらうぞ」

 

 隙を見せない様にしながら、それっぽい言動をしてこの場から退散しようとする。

 

「うわああっ!誰か助けてぇ!?知らない人が!」

 

 だが予想の斜め上を行く行動を相手は取る。

 

「んな…」

 

 腕を捻り上げられている子供が助けを求めている。

 周りから見てどちらの味方をするべきなのかそんな事は分かり切っている。

 

「君何をしてるんだ!」

「んな…」

 

 勇気のある中年の男性が二人の間に割って入ってくる。

 掴んでいる手を力ずくで振り解こうとしてくる。

 利人の力であれば逆に相手を吹き飛ばす事も可能だった。

だがそれを何も知らない非魔術師にそれをやるのは咎められる。

 

「くそっ」

 

 気を抜いた隙をついて相手は手を振り解いて人混みの中に消えて行った。




いつになったら夏休みを突破出来るんだ?
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