転生巫女は静かに暮らしたい   作:高町廻ル

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小さな捜査官

「なるほど御依と散歩をしていたらと」

 

 良二はある程度の事情は理解した。

 都は話す事で頭を落ち着かせる事は出来たがそれでも娘が攫われた事実に変わりはない。

 

「都さん」

 

 彼は顔を相手に近づけて周りに聞こえない大きさで話しかける。

 

「あの犯人は警察は殺人容疑で追っているけど、もう直ぐ殺人現場の目撃者になる」

 

 それは本来であれば口にしてはいけない情報。

 その言葉を聞いて彼女はぴくりと肩を震わせる。

 

「聞き込みの結果、殺害現場の公園の茂みにホームレスがいたんだ。その男の証言で今逃げている陸田九郎は後から現場に来て真犯人に襲われたと分かったんだ」

 

 彼は続けて「勿論誘拐した事は罪だけどね」と苦笑いしながら付け加える。

 都はここで良二がいる理由を察した。真犯人を追いかけていて偶然ここに居合わせたのだ。

 

「うん、でもよく考えたらそんなに安心出来る話じゃないわね」

 

 都はここでクスリと笑った。

 笑えるだけの余裕を取り戻した。

 

「取り敢えず一旦家に帰って待っててください。御依のことが分かり次第直ぐ連絡を入れるから。それでいいですよね?」

 

 良二は妻から視線を外して警官二人にそう話しかける。

 二人は顔を合わせてから上に連絡を取っていた。

 

(問題は…御依ならもうとっくに相手を撃退して帰ってきてもおかしくないはず)

 

 彼は敢えて言わなかった事を考える。

 何故なら都は子供が強ければ自分で何とかするだろうという考えが嫌いだからだ。

 今のところそのような情報が入ってこない。

 まさかただのチンピラ風情に遅れを取るとは思えないのだ。

 

 

「な、なんだよあれはっ!」

 

 路地裏で車を停めた九郎は車の外に出て声を荒げた。

 

「……」

 

 御依も外に出て男を見る。

 今であれば魔術を使い一瞬で意識を奪う事は可能。たが当初とは事情が変わってしまった。

 これから彼はあの魔術師が口封じの為に命を狙われる。

 

(何が正しい?いや、私はどうしたい?)

 

 彼女の理想は目の前の男の冤罪を晴らす事。

 元から問題を起こしていた気に食わない男とはいえ、やっていない事まで濡れ衣を着せられていいとは思っていない。

 

「あれは魔術師」

 

 彼女は考えた末にこの世界の裏側の一端を教える事にした。

 どちらにせよ目の前の彼はこの場を乗り切っても協会に捕まるのは間違いない。

 

(年貢の納め時かな…)

 

 仮に彼女が力を使いこの件を解決したとして、協会に正体が露見するのはもう免れないだろう。

 

「ま、まじゅつし?」

 

 そんな悲壮な覚悟とは別に守らなくてはいけない相手はまだ状況を飲み込めていない。

 

「そう、今風に言うなら超能力的な力。さっき命を狙ったバイク男は魔術師だよ」

「いや、まさか、そんなお伽話が」

「……」

 

 この期に及んで現実を直視出来ない男に軽くため息を吐く。

 

「認めないのは勝手」

 

 置かれた現状は理不尽で酷だとは思うし、憐れみもある。

 しかしここで放り出しては目の前の相手は確実に殺される。

 

「でもさっきの男はあなたも私も車ごと殺そうとしてた。これからも隙あらば襲って来るよ。死にたくないなら魔術はあるものと認めないと」

「それは…」

 

 彼が公園と車の時に撃たれた際に感じた命の危機は本物だった。

 もう既に彼の中にある常識は崩壊している。信じる信じないなどここでは問われていない。信じて認めるほかないのだ。

 

「ここからは魔術はあるものという前提で話すから」

「わ、分かった」

 

 六歳の女の子にあれこれ諭され説教されるのは情けない図ではあるが従う他ない。

 しかしいまいちピンと来ていないようで。

 御依はふと気になった事があり手のひらに水球を生み出し尋ねてみる。

 

「見える?」

「み、水が」

「そう、やっぱり魔力が見えるんだね。これは魔力を術式として形にしたもの、いわゆる魔術だよ」

 

 相手が見える目を持っているのを見て確信する。

 目の前の男は魔力覚醒したのだと。

 

「人が命の危機に直面した時、ごく稀に体の中にある魔力を感じ取って魔術を使えるようになる事がある。あなたもそうみたい。魔力が見えないと魔術は扱えないから」

 

 魔力を感じたりそれを魔術として出力するのが足し算引き算や掛け算割り算なら、魔力を見るのは一から九までの数字を覚えるようなもの。

 

「なるほど…」

 

 そう言ってから何やら自分の手を見ていた。

 

「ふーっ…!」

 

 彼はそう相槌を打ってから御依と同じように手のひらに力を入れて集中しているようだった。

 しかし何も出ない。

 

「見えるって言う基礎が出来るだけでいきなり魔力を自在に操るのは難しいよ」

 

 相手が何をしようとしているのか察して苦笑いをする。

 そこで路地裏にぐううぅ…と元気の良い腹ペコ虫が鳴く。

 

「……」

「……」

 

 御依の腹から出た音によって気まずい沈黙が流れる。

 彼はこのまま黙るのは不味いと思ったのか

 

「と、取り敢えずなんかコンビニで買うか?」

 

 顔を真っ赤にして俯く相手に対しておずおずと提案をする。

 相手はコクリと頷く。

 先程まで見た目とは不釣り合いでありながらも偉大な魔術師として振る舞っていたとは思えない程に愛くるしい姿に混乱してしまう。

 

「…お金持ってるの?」

 

 ふと考える目の前の男はお金を持っているのかと言う疑問。

 まさか強盗をする気かと思い尋ねてみる。

 

「お財布ケータイはあるから」

 

 財布を含めた所持品は落としたが携帯電話は肌身離さず持ってはいる。

 

「何してんだ…」

 

 誘拐犯に奢られるという情けない展開にため息を吐く。

 

 

「御依が誘拐だぁ?」

 

 利人の呟きが信じられないと言った態度を取る一威。

 藍原御依が魔術の租の亜夜鳴である事を彼女は知らないが、それでも自身を超えかねない実力者である事は理解出来ている。

 そんな相手がこうも易々と捕まるとは考え辛かった。

 

「まぁ警官の前で魔術を使いづらかったのかも知れないけどな」

「あーね、それもそうかぁ」

 

 御依は正体を隠しているために下手に力を使えない事情を察して自分達なりに納得しようとする。

 

「まぁあれだろ。二人きりになったら即シバいてんじゃなーい?」

 

 自身が御依の立場なら一威であればそうすると思う。

 誘拐犯を相手に手心を加える理由がないのだ。

 

「普通はそうだろうな…お?なんか情報が更新されてるな」

「ふぅん?みーちゃんさんが犯人でもボコした?」

「どれどれ…」

 

 端末に追加記載されていたのは陸田九郎は殺人犯ではなく、状況証拠から犯人扱いされただけだと言う情報だった。

 

「警察の初動捜査ミスか...ま、魔術的知識が無いとそう言うこともあるだろうな」

 

 一威はその情報を聞いておおよその事件の概要が浮かび上がる。

 

「じゃあみーちゃんは大丈夫なの?」

 

 楊はそれを聞いておずおずと尋ねる。

 彼女は亜夜鳴の力を正確に理解出来るほどの力量は無いため不安げに尋ねる。

 

「多分大丈夫だろうけどこれはこれで一つ問題が…」

 

 彼の中に一つの懸念が生まれる。

 御依の野次馬気質から誘拐犯が殺人を犯しておらず、状況証拠から濡れ衣を着せられたと分かったら犯人を捕まえようとするのではないのかと。

 そしてそれをセーブできる人物は誰も側にいない。

 

 

「ほらよ」

「ありがと…」

 

 コンビニ袋の中に入っているおにぎりを受け取る。

 誘拐犯に施しを受けるのは屈辱極まりないが腹が減っては戦はできぬというものでお礼はする。

 

「んぐ…」

 

 小さいのその口で頬張る。

 冷たいが今の暑い時期にはとても合っていた。

 

「それでさ…」

 

 魔術の事はてんで知識が無いため相手にこれからどう立ち回るのか話を聞きたかった。

 しかし…

 

「ん、んふっ」

「なぁ…」

「ん、んぐっ」

「ねぇ…」

 

 相手の興味が完全におにぎりに向いており問いかけに対して反応を示さない。

 

「俺って一応殺人容疑のかかった誘拐犯だよな…」

 

 あまりにも緊張感の無い態度にドン引きしてしまう。

 

「ふぅ…ごちそうさま」

 

 二つ目のおにぎりを食べ終えると満足そうにお礼をする。

 

「いやさ…」

 

 彼は焦る。命を狙われているこの状況で頼みの綱がこうも呑気では。

 

「なに?」

 

 食後の多幸感に浸る時間を邪魔されて若干不機嫌になる。

 

「なんつーか緊張感というものがだな…」

 

 彼は現在進行形で命を狙われており気が気ではないのだ。

 

「んー?いや私がその気になったらあなたの頭と首が泣き別れになってるよ?」

「えぇ…」

 

 真面目な顔で言い放たれてドン引きしてしまう。

 要はそれが出来るくらいには力があるという事だ。

 

「まぁ安心しなよ。そう簡単に遅れは取らない」

 

 御依は相手をじろりと睨んでそもそもの話をする。

 

「ていうか私は巻き込まれた側なんですけど?」

「うっ」

 

 その言い分に何も言い返せない。

 そもそも六歳の子供を危険な目にあわせたのは九郎であり、御依にあれこれ注文をつけるのは筋が違う。

 

「暑いし避暑地探しながら話そうか」

 

 御依は先導しながら九郎に話しかける。

 

「あなたが取れる選択肢は今すぐに警察に自首をする」

 

 この方法は取り敢えず警察に身柄を拘束される事で一応の安全を確保する。

 

「もう一つは真犯人を私達で捕まえて罪状を減らす事」

 

 この方法は九郎もだが御依からしても大したメリットはない、それどころかデメリットしかない。

 何故なら力を振えば正体がバレるからだ。

 

「どっちを選んでもあなたが逮捕される事に変わりはないから好きな方を選んで、でも逃げようとか考えたり行動に移したら無力化してから即警察に突き出す。私が小さいからって力ずくで押し通せるとか考えない方がいい」

 

 彼女は非常な二択を迫る。

 つまるところ最終的には罪を償わせる。

 しかし真犯人に対してケジメをつけるかどうかだけは相手に選択権を与えるという事だ。

 

「俺は…」

 

 陸田九郎は真面目に生きてこなかった人種だ。

 昔から喧嘩なり騒ぎを起こして何度か警察に厄介になるような碌でもない男。

 御依に指摘された自業自得の言葉に対して図星な部分が多く、強く言い返せなかった。

 そんな男は答えを出す。

 

「せめて最後くらいはケジメをつけたい」

 

 ハッキリと相手の目を見てそう宣言した。

 はみ出し者でも最後くらいは筋は通したかった。

 

「そう、分かった」

 

 御依は相手の目を見てそう言った。

 

「なら犯人を誘き出そう」

「どうやって?」

 

 彼はどの様な手を使うのか分からなかった。

 

「真犯人はあなたが警察に自首するのを恐れてる、あなたは顔を見てるんだから」

「いや、相手はパーカーをそれもフードを被って着てて、それにあの時は頭が回らなくて顔なんてとても…」

 

 あの時は咄嗟に魔術を使い逃げるのがやっとで鮮明に相手の顔など覚えていないのだ。

 

「そうなの?でも少なくとも相手はそうは思ってない」

 

 それは確信に満ちた一言だった。

 その時現場にいなかったはずだがまるで見て理解しているかのように。

 

「どうして?」

 

 彼は何故そう思うのだろうと当然疑問に思う。

 

「顔を見られていないとタカを括ってるならあんな街中で車ごと葬ろうなんてしないから」

 

 口封じというリスクの高い行為をする事、すなわちそれは九郎を野放しにするのが危険と考えているのだ。

 

「なら相手は考えるはずね、あなたの次の行動と行き先を」

「次の行動…」

 

 彼が警察や犯人から一時的に姿をくらます事に成功した。

 つまり時間を稼いだ事になる。なら次に取るのは長期的な逃亡の準備や備えになる。

 

「基本的に会社の名義の車はGPSが内蔵されているケースが多い」

 

 勿論内蔵されていない場合もあるが、それとは別に会社のロゴのついた車を長時間乗るのはリスクが高い。

 街中の監視カメラにもその車は下手に目立ってしまう。

 

「それに相手の銃にかなり傷つけられたから乗り捨てると考えているはずだよ」

 

 また傷だらけの時点でも目立つし、いつ故障して止まるなり誘爆なりする可能性も抱えてしまう。

 

「そっか…」

 

 九郎は御依の考察に何を伝えたいのかおおよそを察した。

 

「アイツは俺が新しいアシを用意するか、当面を食い繋ぐ現金なりを用意すると考えるわけか…」

「そういう事」

 

 彼女は肯定して話を続ける。

 

「そして相手はあなたの生活圏を把握はしてないだろうけど歩いて殺害現場である公園近くに現れた事からその近くに家を構えていると考えているはずだよ」

 

 それ以前に相手が持っている情報は顔と犯行現場の近くに住んでいるかもくらいで、その様なヤマを張るしか出来ない。

 

「また目立つ車上荒らしなんて出来ないし、そもそも鍵をかけないアホなんてもう見つからないよ。私みたいなおとなしい人質なんてそうそういないし、だから諦めてね」

「お、俺をガッツリ犯罪者みたいに…」

「窃盗、誘拐、公務執行妨害」

「す、すみません」

 

 容赦のない罪状ラッシュに黙らされる。

 

「犯人が張り込んでいる可能性の高い犯行現場に向かいましょう」

「分かった」

 

 二人は問題の公園方面へと向かう。

 

「待ってくれ」

「何か?」

 

 九郎はふと思ったことがあった。

 先程の車もだが御依も容赦なく襲われていた。

 

「アイツが車を襲ったって事は誘拐してた事を知ってたって事だよな?もしかしたら…」

 

 彼の懸念は御依の家族に火の粉が降りかかるのかもしれないという事だった。

 

「お母さんの事?それなら大丈夫」

 

 御依は相手の考えを読んだ上でそう言い切った。

 

「最強のボディーガードが二人もいるから」

 

 

「うん、うん分かった」

「お兄ちゃん何があったの?」

 

 利人の携帯に連絡が入り妹の楊が尋ねる。

 このタイミングと父親からの連絡という点で御依関連なのは予想がついた。

 

「お母さんを取り敢えず引き取りに来て欲しいってさ」

「あ」

「忘れてた…」

 

 攫われた御依の事ばかりに気が行ってしまい、藍原都も一緒にいるであろう事を思い出した。

 

「そういや御依と散歩に行ってたんだっけ…無事なの?」

「突き飛ばされはしたらしいけど大した怪我はないらしいな」

 

 それを聞いて一威だけでなく楊も安心する。

 そんな事を話していると彼の私物の方の携帯から着信が入る。

 

「誰だ?」

 

 登録されていない番号に訝しげになるが取り敢えず出てみる事に。

 

「もしもし?」

『あ、お兄ちゃん?』

「え、み、みーか?」

『そうそう』

 

 電話に出たのは御依だった。

 しかし現在進行形で誘拐されているはずで何故呑気に電話しているのか分からない。

 彼はもしかしたら何かしらの魔術で声を作り騙そうとしているのかと疑う。

 

「みーの昔の名前は?本物なら言えるはずだ」

『え?いやちょっと待って、誰に聞かれるか分からないしそれはここでは言えない…』

 

 御依はそう言われて焦る。

 近くに誘拐犯の男もいる、そして相手側に一威がいる可能性を考えたら迂闊に口には出来ない。

 しかしそのリアクションが返ってくるのは想定の内で本物の証だと考える。

 

「いいや、その反応で間違いなく本物だって分かるわ。無事だったんだな」

『ヒヤヒヤさせないでよ…取り敢えずはね』

 

 仮に御依がこの場で亜夜鳴と答えた所で、それを聞いた一威が御依を転生した大魔術師と結び付けられるはずもない。

 せいぜいそんなごっこ遊びでもしていたのかと捉えるくらいだ。

 

「それで誘拐犯は何処でボコボコにしたんだ?直ぐに迎えに行くよ」

『あーね、えーっとだね』

 

 提案に対してやたら煮え切らない態度を取られる。

 こうして話せる時点で誘拐犯の陸田九郎は大した障害でもなく、電話できる余裕すらある。

 なのに何故か救援を出さない。

 

「……おい」

 

 彼は自分の中の懸念が当たったのを察した。

 

『……てへ』

「まじかぁ…」

 

 妹が予想の通りに真犯人を捕まえようとしているのが分かった。

 何処で情報を手に入れたのか真犯人がいるのを掴んでいる。

 

「てかやっぱ分かってる感じか」

『おおよそはね、協会も大体は把握出来てるんだね』

 

 お互いにこのやり取りで殺人犯と誘拐犯が別である事を確認する。

 

「まぁね、ちなみに『藍原御依』の名前で誘拐されたって手配されてるよ」

『うはぁ…』

「よかったな、今日から有名人だ」

『うひゃぁ…』

 

 明日から大手を振って街中を歩けない事実に震えが止まらない。

 今その事を気に掛けても仕方ないため気を取り直す。

 彼女こちらの現状を伝えなくてはと思い口を開く。

 

『私を誘拐した人が魔力覚醒した』

「何だと?」

 

 ごく稀に起きる現象であるのは彼も勉強している。

 厳密に言えば魔力覚醒自体はかなりの頻度で起きるが、魔力を知覚してもそのまま殺されるケースが多数を占める為結果として発生頻度が低くなる結果となる。

 

「その人に伝えといてくれ。仮にここを生き残ってももう普通の生活は送れないと」

 

 利人は誘拐犯の末路を察した。

 これから先、多少は情状酌量の余地はあるが魔術師として犯罪を犯したツケを余生をかけて払う事になると。

 

「ところでなんだが…」

 

 彼は妹のこれからの行動について取り敢えずは認める。

 罪をなすりつけられた相手に同情するのもいい、そのために動くのもいいだろうと。

 

『ん?なに?』

 

 しかしいまだに現状を正しく把握出来ていなさそうな妹に兄は多少の憐れみを含みながら宣告する。

 

「お母さんはどうするんだ?」

『…………』

 

 御依はその兄からの一言で体の震えが止まらなくなる。

 巻き込まれてしまったのは仕方ないだろう、誘拐犯に脅されて従ったのも致し方ない。

 しかし、自分の意思で誘拐犯と行動を共にした事とそれがバレた時に都にどのような目に遭わされるのか想像すらしたくない。

 都は他人を身体的に傷つける事はしないし、言葉でも汚い事を言わない。

 しかし怒っている時のあの空間の酸素を奪い、絶対零度にまで温度を下げるプレッシャーは耐えられるものではない。

 

『お兄ちゃん助けてぇ…』

 

 涙声の悲痛な呻き声が彼の耳に届いた。

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