転生巫女は静かに暮らしたい   作:高町廻ル

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怪異探偵ミヨリ

「と言うわけでみーがどうしても行きたい場所があるから、俺がついて行くよ」

「わーい、ありがとうお兄ちゃん」

 

 家族の元へと戻った二人がそう宣言する。

 散歩から帰ってきたと思ったら別行動宣言だ。

 

「そんなに仲良かったかしら?」

 

 母の都は息ぴったりな二人に驚いた反応。

 仲がいいのは喜ばしい事だが、少し前までの二人は見えない壁のようなものがあったように感じていた。

 ここ一週間で随分とその壁も薄れて仲良くなったと思う。

 

「まぁ利人もいるしいいか、お金は持ってるのか?出そうか?」

 

 父の良二は特に何も思わないのか息子を信じて妹の世話を任せる事にする。

 

「へーきへーき、最近バイト代もあるし」

 

 利人の言うバイトとは、術師育成の高校で実技のカリキュラム内で実際の術師について行って実践を学ぶ科目の事だ。

 彼はさっさと怪異をしばいて終わらせてしまうので、正直あまり上の覚えがよくないがそんな事は知るかという話だ。

 その際に危険手当と討伐料としてお金が振り込まれるのだ。

 

「えー!みーちゃんだけずるい!」

 

 姉の楊は何やら羨ましいようで。

 

「一緒に来る?平和記念美術館」

「え?いや、いいかな…」

 

 美術館なんて思いっきり肩の凝りそうな所行きたいはずがない。よってついてくるという意見を封殺する。

 

「んじゃ夕方に宿で待ち合わせって事で」

 

 利人はそう言って自分と御依の荷物を持ち、妹の手を引きながらその場を後にする。

 

 

 数刻前の桟橋でのやり取り。

 

『どう…?』

『ダメか…協会に事情は話したけどこの辺りに支部も無いし、他の人員は皆手が空いてないらしい』

 

 携帯を片手に歯噛みしながらそう説明する。

 協会にこの件を説明こそしたが緊急性は無いと判断されてしまったのだ。

 実際仕方なくはある。警察のように大量に人員を確保出来るわけでないのだ。

 どうしても優先度というものは出てしまう。

 

『そんな投げやりな対応あるの?』

 

 彼女は呆れた様に口を開く。

 

『この件は実際に死体が出てるわけじゃないし、まだタチの悪いイタズラの線もあるからな…』

 

 死人が出ているのが濃厚だが、潜りの魔術師の為被害届が出される可能性は低いと言わざるを得ない。

 あまりにも情報が少なく、人を動かすには足りないものが多すぎるのだ。

 

『うーん…』

 

 彼女には心当たりがあった。

 千年前にも討伐依頼が山ほど来たがどうしても案件の難易度によって優先度をつけて対処に当たっていた事に。

 その為に魔術を学問として体系化して戦える人員を増やしたのだが、現代でも結局同じ事が起きてしまっている。

 

『俺はこれからこの件を追いかけてみるわ。イタズラならそれでいいんだがな』

『うん』

 

 そうは言ってみるが恐らくイタズラでは済まない裏がこの件にはある。

 何より自分の父親では対応できないレベルの敵が待ち構えている。

 

『だから御依は父さんたちの所に戻れ』

『…え?』

 

 いつもの「みー」と言う渾名を使わない真剣な言葉。

 そう言われてつい気の抜けた返事をしてしまう。

 

『さっきのダイイングメッセージを見たのは事故みたいなもんだ。ここから魔術師の仕事だ』

 

 その表情に一切の冗談やおちゃらけは無かった。

 

『いやっ…でも相手は魔術師を喰らうほどの相手なんだよ、危ないよ!』

 

 いつもより大きな声でそう言い返してしまう。彼女の中では既について行くつもりだったのだ。

 もし仮に兄が死んでしまうような事があったら耐えられない。

 

『…御依がなんで力を隠すのか正直な所は分かんない…けど理由の一つは目立ったら不味いからだろ?』

『それは…』

 

 藍原御依が力を隠すのは魔術師としての人生ではなく、ただの一人の女の子としての一生を全うするためだ。

 その願いに変わりはない。

 

『そうかなるほどな』

 

 相手が声に詰まらせたのを見て自身の予想が当たったと同時に、たかだか六歳の子供がそこまで力を隠すのかますます分からなくなる。

 普通ここまでの力を発現したら大喜びで見せにくるはずだ。彼自身そうだったからだ。

 

『うぅ…』

 

 彼女は葛藤する。

 自分第一で考えるのなら利人一人に行かせればいい。

 実際彼は強い、怪異相手に後手を取ることはそうそうないだろう。

 でもそれは理屈の話だ。

 どうしようもなく勝手で、止まれと警鐘を鳴らす理性を無視して行動をするのが人間という生き物なのだ。

 

『私も行く!お兄ちゃんをほっとけないよ!』

 

 彼女は確固たる意志でそう言い切った。

 

『御依…でもいいのか?二人いても危険な橋を渡るのは違いないんだぞ』

 

 頼もしいなんて話ではない、御依の力は並の魔術師を凌駕している。

 魔術師として本音を言えば来て欲しい、だが彼は兄で目の前にいるのはどんな力があろうとも十歳下の妹だ。

 

『その時は私がお兄ちゃんを守るよ!』

『………』

 

 彼はそのセリフを受けてポカンとした表情になる。

 

『あはは!』

 

 そして思いっきり笑ってしまう。

 

『な、なに?』

 

 相手がなぜ笑っているのか分からず彼女は困惑してしまう。

 

『普通逆だろ?ったく…もー』

 

 呆れたようにため息を吐くが不機嫌な雰囲気は微塵もない。

 

『じゃあ頼むぜワトソン君』

 

 妹の頭をがしがしと撫でながらそう言った。

 

『わと…?誰それ?』

『世界一有名な名探偵の助手さ』

 

 二人での潜り魔術師殺人事件の捜査がはじまる。

 

 

 ぐうううぅぅっ…と御依の腹が元気に鳴る。

 

「……」

 

 彼女の視線は海の家に注がれる、その先にある焼きそばに。

 

「いや、海の家はやめとけ」

「え、なんで?」

「無駄に高いだけで味もひでーしな」

「なんで高くて味も酷いのにあんなに人が並んでるの?」

 

 まるでなぜなにチルドレンのような質問に利人も少しだけ困る。

 

「えーっとだな…要はこの辺に食べ物屋がないから消去法だな」

「しょう…?」

 

 利人からすれば妹とはいえ六歳とは思えない立ち振る舞いをするが、流石に何でもかんでも知っている訳ではないことを知り安心する。

 

「例えば御依がどうしても食べられない嫌いなものがあるとするだろ?」

「うん」

「でもとんでもなくお腹が減ってそれしかない、それを食べるしかないとする」

「ふんふん」

「食べるだろ?」

「!!!」

 

 理屈ではなく感覚で理解出来たようで衝撃を受ける御依。

 

「あの人達はあんな詐欺紛いの方法で…っ!」

 

 彼女の拳に怒りがたまる。

あの長蛇の列を作る人達は騙されているのだと。

 

「いや詐欺とか言うなって、一応プライドを持って焼きそば焼いてると思うぞ」

 

 それに実力が伴わないだけで、とまでは言わなかった。

 

 

 二人は近くの仮設更衣室で着替えて落ち合う。

 

「みーを待ってる間少し読んだんだけど」

 

 彼はタオルと安全ピンで血まみれの表紙を隠したメモ帳を片手に、更衣室から出てきた御依に話しかける。

 

「うん」

「どうやらこの『ヤマザキ』って奴に宿をとってもらっていたみたいだな」

「うんうん、つまり?」

「その宿にあの人の荷物が残っている可能性が高い事、もしかしたらそのヤマザキってやつと鉢合わせるかもな」

 

 もしそうならこの件はスピード解決待ったなしだ。

 話している間にタクシーを拾う。バスに乗ろうと思っていたのだが、たまたまタクシーが止まっていたのだ。

 ちなみにこの海岸には父親の運転で来ている。

 乗り込むと少しだけ声のトーンを下げて話し始める。

 

「もしかしたらだがそのヤマザキって奴は宿の従業員の可能性があるな」

「えっ…」

 

 そう言われてつい声が漏れる。

 

「従業員なら周りに怪しまれる事なく宿内を歩き回れるし、あれこれ行動を監視も出来るしな。あと襲うタイミングも計りやすい。まぁこれは怪異だったらの話だけど」

 

 だとしたら怪異が人の中に紛れてバレる事なく生活しているという事になる。

 実際に人に近い容姿を持つものや、幻覚や催眠で人になりきる輩もいる。

 

「な、なるほど」

「あくまで想像に妄想を重ねただけだけど最悪の想定はしておかないとな」

「もしそうなら顔を合わせず依頼をあの女の人は受けたって事?」

「潜りに依頼する奴ってのは顔を出したくないみたいな訳アリ変わり者か金に困っているかだな」

 

 彼はさてとと一息ついてから手元のメモ帳に視線を落とす。

 

「着くまで読んでみるか」

 

 御依もまた息を呑んで視線をメモ帳に向ける。

 内容はメモというよりも日記という感じだった。

 ちなみに防音の結界を張っているため大声でなければ声は届かない。

 

 

七月六日

 「ヤマザキ」と名乗る依頼人から失踪の捜索依頼が入る。どうやら警察に相談したがまともに取り合ってもらえず。自分に話が回ってきたようだ。

 

七月七日

 再び依頼のメールが届く。依頼料と具体的な依頼内容が書いてある。協会の相場の四分の三の値段であり、近くの宿の代金と必要経費は別途払うの旨が書いてある。どうやらそれなりにこの業界について調べてあるようだ。

 

「そうなの?」

 

 彼女はこの情報の何処に業界を調べ上げているのか分からず質問をする。

 

「例えば十万の依頼だとして教会に三割はピンハネされるからな。残りの七万を作業員で割る事になる」

「結構取られるんだね…」

「まぁ代わりに安全と必要な装備とか情報をくれる訳だからケチって話でもないけど。あ、でも協会は国から大量の補助金と利権貰ってるからやっぱケチか?」

 

七月八日

 怪しいといえばそうだが依頼を受ける事にする。私も潜りなので身分はだいぶグレーではある。むしろ相手にこんな得体の知れない人間が依頼を受けて申し訳ないくらいだ。

 

「自覚あったのか」

「この人これが本音ならなんで協会に入らないの?」

 

 文章からは謙虚さのようなのが滲み出ている。何故はぐれになっているのだろうと思ったのだ。

 

「まぁ協調性が無いとか規律うぜーとか色々あるらしいな。協会のピンハネが不当だって意見も出てるし、自分の実力に依頼が相応しく無いってごねるやつもいるな」

 

 彼なりに知っている情報を口にする。

 最も妹にする会話ではないがもう今更ではある。

 

「お兄ちゃんは?」

 

 目の前の男が相当に優秀であるのは分かっている。同じ事を考えないのかと思ったのだ。

 

「俺か?俺は妥当だと思ってるよ。てか俺たちほど恩恵を受けてるのもいないしな」

「そうなの?」

 

 結構長いものに巻かれるタイプなのかなと思う。

 

「父さん実力だと本来なら依頼もまともにこなせないよ。でも協会の保護があるから成立してるんだ。情報や協力に魔導具とかね。だから不自由なく暮らせるしこうして家族旅行にも行ける余裕あるんだよね」

「な、なるほど…というかお父さんに容赦ないね…」

 

 容赦なき人物評に割と引いてしまう。

 それと同時に自分は兄というのを知らなかったのだと思う。これまで距離をとっていたせいか、今の距離感で初めて知る思いや事実を噛み締める。

 

「あはは、父さんはんな事気にする人じゃないよ。何年息子やってると思ってるの」

 

 彼は「それに」と付け加えて。

 

「凄い人だと思ってるよ、この世界で一番尊敬してる。俺の中で一番の憧れだよ、大人に、父親になるなら父さんみたいな男になりたい。それに父さんの息子じゃなきゃ俺はみーとこうして話せてないと思う」

 

 真剣な表情だった。言葉の全てに嘘偽りが介在していない。

 

「それって…?」

 

 父親を尊敬しているのは分かった。

 強さがその人の全てではない、人柄など人間の魅力は多種多様にある。

だが父親のおかげで御依と話せるというのは何故だろうと思ったのだ。

 

「っと脱線したな。まぁ真意を知りたいなら皆んなに秘密を打ち明けたらきっと分かるよ」

 

 そう言って利人はメモ帳を読み始める。

 相手から言われた言葉について彼女は考える。

 

「………あ」

 

 御依はここである事に気がついた。

 自分は昼食を食いそびれているのではないのかと。

 

 

 二人はタクシーを降りて定食屋に入る。

 

「色々ある!」

「好きなの頼んでいいよ」

 

 四人用の席に二人で座った二人はメニュー表に視線を落としながら味に思いを馳せる。

 

「カキフライ定食!!」

「じゃあ俺はカツ丼で」

 

 店員は注文をメモして厨房へと戻っていく。

 

「無理して食うなよ、吐くぞ」

 

 流石に六歳児が大人用の分量を食せるとは思っていない。余った分は彼が代わりに食べる事になる。

 

「辺りに誰もいないな…」

 

 既に昼食時を過ぎて暇な時間になっている。

 今からメモ帳について話しても問題ないだろう。

 二人はテーブルの真ん中に置いたそれに視線を落とす。

 

 

七月九日

 出発の準備を始める。依頼料は半分は前払いで貰っている為当分は困らないだろう。残りは依頼終了後だそうだ。

 最悪遺体を見つけられればよいとの話だ。依頼人としても生存の可能性はほぼ無いことは自覚しており、ケジメをつけたいための依頼の部分もあるようだ。

 

「ここまでで不審なところある?」

「いや無いな、この手の依頼はたまにあるし。まぁ身分も名前も顔も伏せられてるのが不審といえばそうだけど…」

 

七月十日

 現地到着。まだ本格的な調査はしていないが怪異の反応は無いし、失踪で町がざわついている様子は正直無い。

 怪異もそれなりのレベルになればある程度気配を断つことが出来はするが。

 取り敢えず失踪したという家に向かってみる、その家の娘さんの様だ。

 依頼人がその家の人間かそれともその友人の様な横の繋がりの人間かは不明だが。

 顔を見られたく無いという条件の時点でまともな関係では無いのだろうが。

 聞き込みをしたがどうやらしょっちゅう家出をする女性の様だ。町が失踪でざわつかないのはそれが日常化してるからだった様だ。

 理由は両親からの異常な程の束縛、過剰な教育だそうだ。物理的な被害は起きていない為周囲は相談も通報も出来ないケースだそうだ。

 既に十日ほど姿を眩ませてから経過してるそうで両親も警察に相談しているが、いつものトラブルかとまともに相手をしてもらえない様だ。

 この事を調べるのに丸一日掛かったのだが疑問は残る。

 何故依頼人はこの情報を先にくれなかったのかと。この依頼ただの人探しではなさそうだ。

 依頼人から手配された宿に到着する。それなりに外装は綺麗でありがたい。

 「徳丸華子」という偽名で部屋を確保していると報告を受けている為、指示された通りに宿に入り今日は休む事にする。

 

「ん、ん。もしかしてこの失踪した人って…」

 

 御依はこの話から当然その結露に至る。もう既に帰らぬ人になっているのではないのかと。

 

「うーん、どうだろうな。少なくとも町単位で連携しているとは考えずらいし、少なくともトラブルを起こす家を利用しているのは間違いないだろうな。女性の生死は別にして」

 

 彼は恐らくこのネタを利用して潜り魔術師を釣り出したのだと理解した。

 

「カキフライ定食とカツ丼になります」

 

 店員が二人の前に昼食のそれを置く。

 

「わああぁぁ…」

 

 目の前に広がるご馳走についつい涎が出そうになる。

 彼女にとって現代の食事は何を食べても豪華絢爛だ。

 

「食べようか」

 

 彼はそんな妹を見て微笑ましそうにそう言った。




この話を書き始めた時はグロいけどはちゃめちゃポップな話にするつもりだったのにどうしてこうなった
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