ここは第五天、黄昏の女神が包んでいる世界。これからする話は、無限にある平行世界の中の一つの話である。
パサッ.....
「おめでとうございます、あなたをA級ヒーローと認定します、か....」
黄金の獣、ラインハルト・ハイドリヒはアパートの一室でくつろぎながら、手元に届いたハガキを見ていた。
そう、彼は先週ヒーロー検定を受けてきたのだ。しかしそもそも、なぜ彼がヒーロー検定を受けていたのかというと.....
(ハイドリヒよ、どうやら最近マルグリットの世界でヒーロー協会などと言うシステムが出来たそうだ。仕事は簡単、犯罪者と怪人を締めればいいだけ。もとゲシュタポ(秘密警察)長官のお前に適正ピッタリの仕事ではないか?)
(そうだな、卿のような者を取り締めるにはうってつけの仕事だな。)
などと、彼の友人カール・クラフト・メルクリウスの下らない挑発にうっかり乗ってしまい、今に至ったのだ。もっともラインハルトもヒーロー協会に全く興味がないわけでなく。むしろヒーロー協会などが必要な程、今の世界はあれ荒んでるのかと疑問を抱き、あえて挑発に乗ったわけなのだ。
「しかしS級までには至らなかったか。やはり筆記で落とされたのか?」
実際、体力検定は筋力・握力・走力・瞬発力、全て一位と最上級の成績を出したのだが、筆記は彼の知らない歴史、数式、科学ばかりが出てたのだ。彼はこの世界で生きるための必要最低限の常識しか知らないため、ほぼ勘で書くしか出来なかった。もっとも、その試験出てきた知らない問題自体は、彼だったら最低1度目を通せば簡単に理解できるレベルである。
「それにしても、最後の一問で出てきた『ヒーローにとって一番大切な心構えは?』が一番難問だったな。まあ私は『全てを許し、愛(破壊)するのみ。』とシンプルに書いたがな。」
もちろん間違いであるが、奇跡的に三角にしてもらい半分の点数を手に入れることはできていたが、彼の知る由のない話である。
「フッ、中途半端な結果になったが、今の怪人の平均レベルを知るとしては悪くない結果ではないか。2位からのスタート....面白い、興味が尽きぬよ。」
そう呟いていると。
『警告!警告!Z地区の海岸付近に災害レベル鬼の怪人出現!付近のヒーローは速やかに出動してください!』
唐突に、外の警報からサイレンが鳴り響いた。
「海岸付近...ちょうど私の活動地域内か。やれやれ、ヒーロー認定の初日から出動か......悪くない展開だ。では、指示どおり出動と行くか。」
そして、ドイツ第三帝国の軍服を身に纏い、黒衣をマントのように肩にかけ、そして右手には彼の聖遺物たる黄金の槍を握りしめ、彼は目的の地に向かうのであった。
ドゴォッ!
「フフ、楽しいわね。」
「クソッ....」
海の怪人、深海王はA級ヒーロー、イナズマックスと戦っていた。しかし展開は一方的、イナズマックスの攻撃はかすり傷すら与えず、逆に深海王の攻撃は数発当たっただけで致命傷になる程、力の差は歴然だった。
「あなた、もう飽きたわ。もう死んで頂戴。」
「.........」
返事はなかった、だが戦意は失っておらず、目だけは光って深海王を睨みつけていた。
「死ね」
「......ッ!」
深海王はイナズマックスに向かって拳を振り下ろした。だが一瞬、突風が吹き抜けたと思った瞬間、その拳に肉が砕け散る感触はなかった。
「.....あらぁ?新たな兵隊さんが来たのかしら?」
「S級ヒーロー、ぷりぷりプリズナー参上!」
そこには囚人服に、もりもりな筋肉を持つヒーロー、プリズナーがイナズマックスを抱えながら、名乗りを始めていた。
「フン、ヒーローなんぞに興味はないが、貴様のおかげで脱獄ができた。礼を言おう。」
そしてその背後には、同じ囚人でもあり、暗殺者『音速のソニック』が付いてきていた。
「いい肉つき....美味しそうねぇ....」
「....海岸の方で倒れていたスティンガーちゃん、そしてイナズマックスちゃん....どちらも気になる男子だった。彼等を傷つけたあなたを許さない!」
深海王はプリズナーの体を見て、獲物を喰らうような目つきで舌舐めずりをした。対してプリズナーは気絶しているヒーローの仇を取るかのように戦意を溢れ出していた。
「先ずは様子見ということで、半分程度の力で....」
「待て。」
「ッ!?」
「ここは、ヒーロー初デビュー戦と言うことでこの獲物は私に譲ってくれぬか?私はA級ヒーロー、ラインハルト・ハイドリヒだ。」
「あらあら?また新たな兵隊さん?」
プリズナーな戦闘態勢に入ろうとする刹那、背後から制止の声が鳴り響いた。そこにはヒーローなったばかりのラインハルトがいた。
(....なんて美しい男子なんだ。)
(この男、本当にヒーローなのか?確かに戦士としての優雅さ、カリスマは感じるが、とてもヒーローらしさの雰囲気を感じないんだが....)
ラインハルトの姿を見たプリズナーは思わず後ずさりするほど、ラインハルトの美しい姿に見とれていた。だがソニックは、ラインハルトの放つオーラーに違和感を感じ、とてもヒーローらしさのそれを感じない事に疑問を抱いていた。
「ラインハルトちゃん....でいいのか?貴方、ヒーローなりたてか....本来は新入りが勝手な行動はあまり許されないが、ここは貴方の美しさに免じて譲りましょう。」
「感謝する。」
(....それで良いのかS級ヒーロー?)
プリズナーはうっとりとラインハルトに認めながら、戦いの場を譲った。その様子を見ていたソニックはツッコミを入れたかったが、あえて空気を読んで心の中でツッコミを封じ込めた。
「卿、私を失望させるなよ。」
「あらぁ、人間風情が生物内の頂点たる私に言ってくれるじゃない。ちょっと本気出しちゃう。」
(っ!あの新米ヒーローの周り数メートルにひび割れが!あれが深海王のパワーか!)
ドゴォッと、深海王を拳を振り上げ目の前に立つラインハルトを殴った。地面はひび割れ、ラインハルトの周りに煙が吹き上げる。その馬鹿力にソニックは驚愕する。
「それが卿の基礎的なパワーか?」
「っ!」
「だとしたら、失望せざるを得ないな。」
「これは....」
深海王の目に映ったのは、無傷のラインハルトに、その右手に透けて見える黄金の髑髏の手だった。その手はとても大きく、ラインハルトの倍の大きさはある深海王の拳を簡単に包み込めるほどだった。
「その程度で生物界の頂点などおこがましい。海へ帰れ、卿は水底の頂点の方がお似合いだ。」
「グッ....ガアッ!」
ラインハルトは髑髏の巨腕を操り、深海王を押し飛ばした。すると、深海王はまるで砲弾のようにポーンと海岸前まで飛ばされてしまった。
続く