「すまなかった、私は別に卿に危害を加えるつもりはなかった。ただ、不測な事態に思わず面食らってしまってな.....」
「いいって別に、ウロウロしてた俺も悪かったしよ。つーか、お前みたいな濃いビジュアルしてるやつが頭下げるなよ。なんかよくわかんないけど、すげー申し訳ねぇ気持ちになるわ。」
「そうかね。」
ラインハルトは、つい先程攻撃してしまった青年『サイタマ』に頭を下げて謝罪をしていた。それに対してサイタマも自分が悪かったと返し、謝罪を返した。
「んで、さっきお前が戦っていたやつが、テレビで出てた珍海族ってやつかよ?あんなやつが他に何匹かいるのか?」
「いや、あれは親玉だ。他の部下は聞いた話では、私と同じA級ヒーロー『スティンガー』が、全滅させたらしい。あと残るは親玉の深海王だけだな。」
「....そうかよ。」
「どうかしたかね?」
「いや、別に。」
ラインハルトがそう言うと、サイタマの表情に少し影が差した。まるでつまらぬ結果を聞いてしまった子供のように。
「珍海王ってのはどこに行ったかわかるか?」
「わからぬ、卿と頓着してるうちに逃げられたからな、だが概ね.....気を付けろ、何かくるぞ。」
「は?」
話してる途中、どこからか風切り音と物が壊れる音が聞こえてきた。音のする方を見ると、何かがこちらに向かって飛んでくる。
「あれは.....っと」
「いい反応だ。この男は確か.....S級ヒーロー『ぷりぷりプリズナー』ではないか。」
「このボロボロの様子を見ると、やられたようだな。」
サイタマが咄嗟にキャッチしたプリズナーは、傷だらけだった。恐らく深海王と戦闘してやられたのだろう。ラインハルトはすぐさまヒーロー協会の救護に連絡した。
「用意がいいな。」
「仲間を救うのも、ヒーローの仕事だからな。」
「成る程な。そんじゃ、行くか....」
「卿もあれと戦うのか?強敵だぞ?」
サイタマはプリズナーの飛んできた方へと向き直る。戦う気だ。ラインハルトはその様子を見て、少しきをかけてしまった。しかし、サイタマの帰ってきた答えは意外なものだった。
「馬鹿かお前、ヒーローが逃げたら誰が戦うんだよ。ヒーローと怪人が戦うのに上も下もないだろ。」
「!!」
そのサイタマのセリフを聞いた時、ラインハルトの中で何か電撃が走る感覚を感じた。
(おい、なに俺の女ボコってんだ殺すぞ!)
(螢とベアトリスを不幸にはさせない。汚れるのも、腐るのも、僕が全部引き受ければいいんだから。)
「....おい、どうしたんだお前?」
「今のは.....」
それはかつての既知世界の記憶、何度も繰り返してきた記憶の世界の誰かの声だった。そのことを理解したラインハルトは、思わずクスッと笑ってしまった。
「ふふ、これはまた奇妙な....」
「おーい、何ボーとしてるんだよ。俺のセリフそんなに感動したのかよ?」
「そう解釈しても構わんよ。それよりも、深海王を追うのだろ?」
「この方向からこいつが飛んできたってことは、あいつは.....」
「ああ、間違いなくシェルターを狙ってるだろうな。一般人を皆殺しにするつもりだろう。」
「.....急ぐか、こりゃダッシュで行くしかないな。」
そう言って、サイタマが駆け出そうとした瞬間、ラインハルトはそれを制し、言った。
「待て、卿の名前を教えてもらおうか。同じヒーロー同士、名前を知っていれば気が楽だろう。」
「そうだな、俺はサイタマ。お前はなんて言うんだ?キンパツか?」
「違う。ラインハルト・ハイドリヒだ、これからよろしく頼む。」
「ふーん、変な名前だな。」
(卿に言われたくはないのだがな。)
ラインハルトはその事を心の奥底にしまって、サイタマと共にシェルターに向かうのだった。この不思議な出会いが、すでにサイタマとラインハルトを未知なる世界への布石となっていたのだ。
一方シェルターでは
「イヤァァァァ!」
「ヒーローがやられたゾォォ!」
「く....そ....」
既に深海王はシェルターを襲撃していた。そこに偶然居合わせていた数名のヒーローが戦っていたが、たったの一撃で一人のヒーローは戦闘不能になっていた。
「ジェットナイスガイがやられた!」
「慌てるな、あいつはサイボーグだ。死んだわけではない。」
「お、おう。」
「俺の合図で一斉に攻めるぞ....3....2....い」
「死ね。」
彼らの合図をまるで聞こえてたかのように、ヒーローたちの合図する一瞬前にカウンターするかのように、深海王は二撃を繰り出した。指示をしていたヒーロー以外全員吹っ飛んでしまった。
(くそっ、残るは俺だけかっ.....けど、今の攻撃は回避できた!時間稼ぎくらいは....)
「邪魔よ。」
グシャッ!
「....っが」
最後の彼も、ジャンプした瞬間にそのまま追撃を食らってしまう。そしてシェルターの壁へと叩きつけられた。
「なぁに静まり返ってるのよ、次はあんた達よ。」
ガシャン!
「!」
深海王が標的を人民達に変えた瞬間、背後からガラスの割れる音が聞こえた。すぐさま背後を見るとそこには居なかった。それもそのはずだ。
「貴様が怪人のボスか?」
「!」
「排除する。」
その声の主は、深海王のすぐ下にいたのだから。
そのころ、サイタマは.....
『ま、待て!無免ライダー君!すぐに止めるんだ!』
「うおぉぉぉぉ!吼えろ!ジャスティス号!」
C級ヒーロー1位の無免ライダーは、シェルターへと向かうために、力の限り立ち漕ぎでジャスティス号を走らせていた。その拍子で、携帯電話を落としてしまった。
「チクショ......雨は降るし、ジェノスと逸れてしまうし、ラインハルトとも逸れてしまうし、今日は最悪だな....あれ?ケータイじゃん。しかも通話しぱなしじゃねえか。」
サイタマはケータイを拾い上げで、耳に当ててみた。そこからは、必死に何かを叫んでいる男の声が聞こえてきた。
「聞こえているのか、無免ライダー君!A級やS級のヒーローがやられてしまった強敵だぞ!君には無理だ!今すぐ引き返しなさい!」
「....あんた、ヒーロー協会の人か?」
「っ!君は誰だ?今すぐ持ち主に返しなさい!」
「俺はC級ヒーローのサイタマだ。敵の位置を教えてくれ。」
「まさか....君も闘うのか?」
「雨が降ってるから、早くしてくれ。」
ヒーロー協会の男は言葉が詰まってしまった。サイタマは元々体力測定においてはS級ヒーロー並みの結果を出していた。だから本来なら文句なしでS級、最悪A級になっていてもおかしくはなかった。だが、あまりの規格外さにインチキと評されてる側面もあったため、C級に降ろされざる得なくなっていたのだ。
(.....本来なら、C級ヒーローは止めさせるべきだが、今回で彼の実力がわかるかもしれない。)
「わかった、今から言う方向に向かってくれ。」
「おう。」
そしてサイタマは、ケータイを片手に、シェルターの方向へと駆け出していった。
そして
「もう......少しだっ!.....ハァ...ハァ.....!」
無免ライダーは少し不安定ながらも、自転車を全速力で回していた。だか、そのグラつきは大きくなってきた。そして、曲がり角をカーブした瞬間。
「うっ....ぐあっ!」
ズダァン!
スリップをおこし、大きな音を立てながら、倒れてしまった。
「ハァ...何寝てるんだ俺は....ファンが怖い思いをしながら、待って....るんだ。ハァ.....立てよ、馬鹿野郎。」
無免ライダーは自分を叱咤しながら、ゆっくり立ち上がろうと試みた。しかし、腕はプルプルと震えながら、ゆっくりと下がりつつあった。
(クソッ!俺よりも上級のヒーローがやられたから、その恐怖心が俺を縛っているのか?....もしくは本能的に、このままここで寝たほうが身のためだと、体が反応してるのか?違うだろ!俺よりも、一般の人達の方が、何百倍も怖いはずだろ!くっ...!だのに、なんて俺は無力なんだ!)
無免ライダーはそう無念に感じながら、そのまま腕が地面に落ちようとしていた。その瞬間.....
「.....卿は何をしているのだ?」
「!?」
その声が聞こえた瞬間、野太い腕が無免ライダーを持ち上げた。腕の持ち主は、なんとラインハルトだった。
「君は....」
「卿、この方向はシェルターだが、何しに向かうつもりだ?」
「え、それは.....」
「避難か?それとも怪人と戦うつもりか?どちらにせよやめておけ。ヒーロー側の被害が増すばかりだ。既に6人も怪我人が出ている。」
「!」
「もっとも、幸いにも住民側は被害者0だ。このまま被害の規模を大きくさせるわけにはいかない。あとは私が、深海王を倒せばいいだけだ。」
ラインハルトはそう言って、黄金の聖槍を具現化して、シェルターへと向かおうとした。だが、ラインハルトの肩に無免ライダーの手が乗った。
「.....なんのつもりだ?」
「思い出した。君、A級ヒーローになったばかりのラインハルト君だろ?まだ新米ヒーローじゃあないか。デビュー始めの君に、あんな強敵と戦わすわけにはいかない!」
「.....私は、さっきまでアレと戦っていたのだがな?」
「っ!だとしてもだ!」
淡々と返すラインハルトに対し、無免ライダーの口調はどんどん熱くなっていた。
「もし....もし君が仮にあの怪人に負けたとしたら!デビュー戦最初の仕事が大敗じゃ、情けないじゃないか!君は、ヒーロー協会にも期待されてるスーパールーキーだろ?俺は、君がそれが原因で、ヒーローの仕事が嫌いなってほしくないんだ!」
「.....」
「俺は、一人でも多くの人に、ヒーローの素晴らしさを知ってほしい。正義が負けることなんてないんだと、理解して欲しい。」
「.....ふむ。」
「だから、今の君は、俺たちの姿を焼き付けてくれ。そして、ヒーローという仕事を、愛して欲しい。」
無免ライダーの言葉は純粋だった。彼の言葉に、嘘偽りはなかった。ラインハルトはいつの間にか、彼の言葉に吸い込まれるように、黙って聞いていた。彼の話が終わると、ラインハルトはジャスティス号を起こし、それを無免ライダーに渡した。
「相分かった。ほら、これは卿の愛車だろ?寝たままにしてたら可哀想ではないか。」
「あ、ありがとう。」
急なラインハルトの行動に、無免ライダーは戸惑いつつも、彼はジャスティス号に手をかけ、ラインハルトに感謝した。
「ふふ、卿は随分とヒーローというものが大好きらしいな。その深い英雄愛に、私は胸が打たれてしまったよ。」
「そうか、俺も先輩としても嬉しいなぁハハハ!」
無免ライダーはラインハルトにそう言われると、思わず照れてしまい、ほおを掻きながら照れ隠しの笑いをした。
「では、俺はそろそろ向かうよ。おっと、名前を言ってなかったな、俺の名前を言ってなかったな。俺の名前は無免ライダー。ラインハルト君、君も立派なヒーローになってくれよ!」
「卿も、私から無事を祈ろう。頑張ってくれ。」
「行くぞぉ!吼えろぉぉぉ、ジャスティス号!」
そう彼は咆哮のような叫び声をあげて、ジャスティス号は最速でシェルターへと向かった。
「さて、私はこっちから向かうとするか。」
続く
かなり遅れてですが、ザミエル卿誕生日おめでとうございます