選ぶこと、選ばないこと   作:思い出

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友達という鎧を身に纏い


#8 Needless 〜友達だから〜

「なぁリク、いつ教えてくれるんだ?」

 

 あんなことがあってから数日後。幸い、ナナとは以前のように普通の友達の関係に落ち着き、ナナ側も──見た目上は──気にしている様子を見せていない。

 あそこではああやって本心を答える以外に上手く収める方法が思いつかなかったから仕方ないとはいえ、あんなことを言った手前「なんであんな勘違いを」なんてことは口が裂けても言えないのが辛いところだ。

 

「基本的にはナナの都合がいい時でいいけど、逆にいつがいいの?」

「う、でもウチには大体いっつも誰かいるから……」

 

 ナナは何かを想像して顔をしかめ、ぶんぶんと首を横に振ってから、慌てて言葉を継いだ。

 

「じゃなくて、美柑がいつも作ってるから、あんまキッチンを使う機会が……」

「美柑さんなら、言えば別に使わせてくれるんじゃない?」

「そ、そうだけどサ」

 

 そんなことを話していると、背後からかかる。

 

「おはよー!二人とも!なんのお話してるの?」

「おはよう、メア」

「おはよ、メア!……ちょっと前にした約束の話をナ!」

「えー、気になる!」

 

 目をキラキラと輝かせながら、ナナへ詰め寄るメア。

 対するナナはどこか少し困ったような表情をして、小さく「メアならいいか」と呟いて口を開いた。

 

「今度、リクに料理を教えてもらうんだ。それで、いつにするかって」

「一緒に料理するの?素敵ね!」

「……もしよかったら、メアも一緒にやるか?いいだろ?リク」

「俺はもちろん構わないけど……」

 

 むしろナナはいいのだろうか。

 提案されたメアも、心なし驚いたような表情をしているような気がする。

 

「ふふ、嬉しいけど今回はやめておこうかな。私もちょっと用事があって」

「そっか、ちょっと残念だけど仕方ないな」

「でも、また今度誘ってね。三人でお料理って、とっても素敵!」

「へへへ、その時はあたしの料理でメアを驚かせてやる!」

「それって俺の責任がかなり重大になるんだけど」

「いいだろ。リクなら」

 

 結局、いつ、どこで料理を教えるかの話はそのまま流れてしまって。

 残ったのはいつもの三人での雑談だけだった。

 

 

「げ、もうこんなに暗く……思ったより遅くなっちゃったな」

 

 そこまで時間をかけたつもりはなかったのに。

 そんなことを思いながら買い物袋を片手にスーパーを出た俺を出迎えたのは、等間隔で並ぶ無機質な街灯と、雲の隙間から覗く僅かな月光。そして、数m先すらも覗けないような夜の暗闇だった。

 八月も半ばの空気は未だに生ぬるく、肌冷えを心配する必要がない、ということだけは不幸中の幸いか。

 

 ──さっさと帰るか。近所とは言え、こうも暗いと少し不気味だ。

 

 そんなことを思いながら、足を進める。

 いつもと同じ帰り道。いつもと同じ風景。いつもと同じ日常。

 

 ──おかしい、と思ったのは本当に偶然だった。

 

(流石に静かすぎないか?人一人歩いていないほど、遅い時間じゃないはずだ)

 

 そんなことを思った、次の瞬間。

 腹部に強い衝撃を受け、視界が揺れた。背後にあった門扉に背中がぶつかり、そこで初めて誰かに殴られたのだとわかった。

 

「げほっ……がっ……はあ……」

 

 なんとか、息を整える。持っていたはずの買い物袋はとっくに俺の手を離れ、その中身を道路に散らしていた。

 殴られた。誰に。何故。

 そんな思考が頭を支配する。

 

「おいおい、マジでただのド素人じゃねえか。こんなヤツ捕まえたところで本当に意味あんのか?」

「知るかよ。でも、大事なのはこいつ自身じゃなくてこいつが金色の闇と繋がってるってことだろ。あの「ネメシス」という野郎が言ってることが正しいならだけどな」

 

 そんな会話が頭上から聞こえた。

 ネメシス。金色の闇。──ヤミさん。

 

「ま、雑魚なら雑魚で手がかからなくていいだろ。さっさとふんじばってアゼンダのやつと合流するぞ。……へへ、あの金色の闇をぶちのめせると思うと今からワクワクしてくるぜ」

 

 会話から察するに、俺は人質──のようなもの、なんだろう。実際、足手まといだ。今もただ痛みで呻くことしかできていない。

 でも、逃げることくらいは。

 何とか立ち上がろうと、地面に手をつく。そんな隙を相手が見逃すわけもなく、ボールを蹴るみたいに吹き飛ばされた。

 

「ぐっ……がっ、げほっ!」

「動いてんじゃねえぞ雑魚。死んでさえいなけりゃいいんだ。手足の一本位捥いだっていいんだぜ」

 

 脅し、じゃないだろう。多分、こいつらは平気でそのくらいやる。

 逃げるのも出来ない。かといって、大人しく捕まってやるわけにもいかない。

 ──どうにかできないか。

 

 そんなことを思っていた時。手をついて呻いていた俺の胸ポケットからぽろり、何かが転がり落ちた。

 

 ──なにかあったら地面に叩きつけてくださいね♡──

 

 目の前に落ちた種子を拾う。そして、その動作に男たちが気が付かないうちに勢いよく地面へ──。

 

「……信じるよ、モモさん」

 

 ──叩きつけた。

 

 

 その光景は圧巻だった。

 

「ぐ、な、なんだこの蔦!?おい、さっさと斬れ!」

「やってる!でも、こいつ硬……クソ!離れろ!」

 

 叩きつけた場所から勢いよく伸びた蔦のようなナニカが、一瞬にして襲撃者たちを絡めとっていく。

 

「お、おい!腕はそっちに曲がらな……ガァッ!」

「な、なんでこんなモン持ってんだ!ただの地球人のガキじゃねえのか!」

 

 めきめき、ごきごき、と人体を破壊する音が響く。

 ……正直、怖い。敵がではなく、こんなものを持っているモモさんが。

 そんなことを考えていると、制圧が完了したのか。先ほどまで騒がしかった道路に静寂が戻る。

 

 ──何とかなったか。

 そう思っていた俺に、頭上から声がかかる。

 

「成瀬さん!?」

 

 声のした方を見上げると、翼を生やしたモモさんがこちらを見下ろしていた。スカートのままなので、当然中身が──!?

 バッ、と目を逸らして返事を返す。

 

「モモさん、なんでここに?」

「ええと、成瀬さんにお渡しした種。アレ、発動すると私を呼ぶ信号を出すように改良したものなんです。まさか、こんなに早く使われるとは思いませんでしたが……」

 

 地面へ降りながら、そう答えるモモさん。

 護身に加えて通報機能も付いているとは、何とも高性能な植物だ。

 

「それはなんとも。ありがとう、と言った方がいいかな」

「いえ。成瀬さんはリトさんのお友達ですし、ヤミさんにとっても大切な人ですから。もちろん、私にとっても大事なお友達です」

「それでも、ありがとう」

 

 にこにことほほ笑むモモさんへお礼を伝える。

 一瞬、和やかな空気が流れた。

 

「っと、違う。そんなことより、ヤミさんが危ないんだ」

 

 俺がそう言うと、モモさんの瞳がすう、と細められる。

 

「ヤミさんが?」

「こいつらの目的は、俺じゃなくてヤミさんだった。俺は……ヤミさんに対する人質とか、そんなところかな、多分」

「それは……わかりました。私はヤミさんのところへ向かいます。成瀬さんは……、そうですね。お一人で帰るのも危険でしょうし、リトさんの家へ向かってください」

 

 慌てるようにそう言うだけ言って、モモさんは再度翼を広げて空へ飛び──立つ前に、痛む脇腹を抑えながらもう一度声をかける。

 

「待って、俺も行く」

 

 口の端から血が垂れているのが自分でもわかったが、構わずにモモさんを見据えた。

 

「成瀬さんも?何故?」

「理由が必要?」

「当たり前です」

 

 少し──珍しいことに──苛立たし気に問いただしたモモさんに即答した。

 

「友達だから」

「……は?」

「俺は足手まといだ。モモさんやヤミさんみたいに強くない。現場にいっても、できることなんて一つもないかもしれないし、むしろ悪化させるかも」

「なら!」

「でも、俺は行きたい。……違うな、行かなきゃいけない。そうじゃないと、俺はヤミさんの友達じゃいられない……と、思うから」

 

 沈黙が場を包んだ。数秒か、あるいは数十秒が経った後。はあ、とため息をついたモモさんが、俺の背後に回り脇に手を回して抱きかかえるようにして空へ飛び立つ。

 

「問答している時間も惜しいです。邪魔だと判断したら即座に放り投げるので、そのつもりで」

「もちろん、構わない。ありがとうモモさん」

 

 抱えられながら、空を飛ぶ。

 体中を走る激痛も、今だけは気にならなかった。

 

 

 モモさんに抱きかかえられ、辿り着いたのはとある公園だった。

 そして、その公園で、ヤミさんは。

 

「お前に関わるヤツはみィんな不幸になるんだよ!金色の闇!」

 

 考えるより先に、口が動いた。

 

「投げて!モモさん!」

「はい!?」

「いいから、早く!あいつにめがけて!」

 

 そう言って指し示したのは、鞭を持っている褐色の女。

 ヤミさんは、そいつの前に倒れ伏して何故か美柑さんがその体を嬲っている。

 

「攻撃にもならなくても、囮にはなるでしょ。早く!」

 

 それらしい理屈をつけてモモさんを急かす。正直、囮がどうとかはどうでもいい。

 今はただ、()()()()

 

「ああ、もう!どうなっても知りませんからね!」

 

 言って、抱えていた俺を女に向かって投擲するモモさん。しかも、ただ投げるのではなく何やらよくわからない植物が背中についており、それによって俺は自由落下ではなく滑空するような形になっていた。

 

「勝手なこと言うな!美柑とヤミは不幸なんかじゃない!おまえなんかと一緒にするな!」

 

 眼下でリト先輩が叫んでいるのが聞こえる。そうだ。ヤミさんは不幸なんかじゃないし、美柑さんも、俺も、リト先輩も、不幸なんかじゃない。

 ()()を決めるのは俺たちで、お前じゃない。

 

「言うじゃないか、地球の坊や。じゃあ、アンタから死んで──」

「その、口、を……閉じ──ろッ!」

 

 振りかぶって、拳を突き出す。ただそれだけの単純な動作。空中から滑空してきた分のエネルギーも乗ったそれは、意気揚々と喋っていた女の顔にしっかりと突き刺さり、女は「ご、はぁッ!?」という信じられないものを見るような声を上げ呻きながら吹き飛んだ。

 ──同時に、俺の拳からも「メキッ」という嫌な音が響き、激痛が脳天を突き抜けたが──そんなことはどうでもよかった。

 

「リク!?」

 

 リト先輩が驚いた声を上げる。そりゃそうだ。いきなり人が空から降ってきて、しかも口論の相手を殴り飛ばしたら誰だって驚く。

 

「ど、どうも。リト先輩。……いつッ……。これ、折れてるよな?」

 

 鞭女を殴り飛ばした右手は、正直指先一つ動かすだけで激痛が走る。というか、何も考えずにモモさんに「投げて」とか言ったけど、もしそのまま投げられてたら着地とかどうすればよかったんだろう。

 モモさんが気を利かせてくれたから何とかなったけど。

 

 ──らしくない。でも、悪くない気分だ。

 

「リト先輩は、どうしてここに?」

「え!?俺はたまたまヤミと会って……じゃなくて、それはこっちのセリフだっつの!」

「俺は、買い物の帰りに襲われて──」

 

 と、答えようとした時、視界がぐらつく。

 その場に立っていることも出来ず、思わずしりもちをついて倒れこんだ。

 

「あ、れ?」

「お、おい!大丈夫か!?」

「あはは。安心したら、力が抜けちゃったみたいです」

 

 腰が抜けて立てない、なんてこと本当にあるんだな。そんな呑気なことを思っていたのがいけなかったのか。

 闇を引き裂くようにひゅん、という甲高い音が響き──。

 

「リク!まだです!」

「詰めが甘いですよ、成瀬さん」

 

 バチン、という音をたて、唸るように飛んできた鞭が叩き落された。

 

「モモ!?」

「はい、リトさん。ご無事ですか?」

「あ、ああ……。いや、俺よりヤミと美柑を!」

「はい、もちろんお二人の安全も確保してますので、ご心配なく」

 

 そう言ったモモさんが手に持った機械を操作すると、地面から生えた花が俺たちを守るように周囲を取り囲む。

 

「あたしを、無視してんじゃあ、ないよッ!」

 

 女が吠え、再度鞭をしならせるも、モモさんは無駄のない動きでそれらを躱していく。

 

「あら、無視なんてとんでもない。あなたにはきっちりと責任を取ってもらわなくてはいけないので」

「は!偉そうなこといってる割には避けるだけかい!」

「いえいえ。殿方の前ではしたなく戦う姿を見せたくないだけですわ。それに──」

 

 一度言葉を切り、街灯の上から女を見下ろすモモさん。

 逆光で表情はよく見えないはずなのに、その瞳だけが冷たく、昏く光っているように見えて──俺は思わず息を呑んだ。

 

「あなた、もう終わってますし♪」

「……は?」

 

 その直後、女は全身を硬直させて倒れこむ。そいつにとっても予想外の出来事だったようで、混乱したように喚き散らしている。

 

「ふふ、指先一つ動かせないでしょう?無理もありません。惑星ゼラスの黒薔薇の棘には強力な麻痺効果がありますから」

「お、まえ……、どう、して」

「どうして?どうしてと言いましたか?そんなの……あなたが、私の大切な人たちに手を出したからに決まってるじゃないですか」

 

 笑みを消し、底冷えのするような声でそう告げるモモさん。そのまま彼女が手に持った機械を操作すると、またしても地面からなにがしかの花が生えてくる。

 

「私は仮想(バーチャル)空間に植物園を持っていましてね。そこから自在に植物を召喚して使役することができるんですよ」

 

 生えてきた花を撫でながら、そんな説明を続けるモモさん。その顔はとても楽しそうで、なんというか、怖い。

 

「これは鳳仙花(ホウセンカ)の一種、"キャノンフラワー"。拳大の種子を砲弾のように発射する危険指定種です」

 

 ──こんな風に。モモさんがそう言いながら指を鳴らすと、花の一つから勢いよく種子が吐き出される。

 這いつくばっている女の眼前に着弾したそれは容赦なく地面を抉り取っており、直撃したらとんでもないことになるであろうことは想像に難くなかった。

 

「あらあ、外しちゃいました♡次はちゃあんと狙わないと……」

「ま、待て!いや、待ってくれ!なんでもする!だから、命だけは──」

 

 流石に命は惜しいのか、みっともなく命乞いをする女。正直、今更何を、という感じだが今この場で決定権を持っているのはモモさんだけだ。

 そのモモさんは、笑顔で一瞬考えこんで──。

 

「お断りしまぁす♡」

 

 と、その言葉とともにいくつもの種子が放たれ、女の悲鳴が公園に木霊した。

 

 

「ヤミさん、大丈夫……な、わけないか。ごめん、変なこと聞いて」

「いえ、ありがとうございます、リク。リクこそ大丈夫ですか?」

 

 結局、モモさんは女を殺さなかった。全ての種子はすんでのところで外れており、女は恐怖から失神しただけ。なんでも、宇宙にも警察があるらしくそこに引き渡すらしい。

 

「俺は……いつっ、まあ、大したことないよ。むしろ、自分で殴ったここが一番重症、みたいな」

 

 笑いながらそう言う。実際、あいつらに殴る蹴るをされた箇所より、最後にあの女を殴った拳の方が数倍痛い。正直、動かすだけで泣きそうだがヤミさんの手前そうもいかないので何とか我慢する。

 リト先輩から聞いた話だが、女──アゼンダは念動波(サイコキネシス)で美柑さんを操り、人質兼操り人形として使いヤミさんを追い詰めていたらしい。

 そこへ、俺とモモさんがアゼンダをぶっ飛ばし、気絶させたことで能力が解除、美柑さんも無事元に戻った、というわけだ。

 

「美柑も、リクも、私のせいで巻き込んでしまいました。本当に……すみません」

「いいよ。……って言っても、ヤミさんは納得しないんでしょ?」

「それは……」

 

 ヤミさんも全身ボロボロで、着ていた彩南高校の制服もズタボロに破けている。幸い、自身の髪を使って肌を覆ってくれているので目のやり場に困ることは──なくはないけど──ないが。

 それはつまり、彼女はそこまでボロボロになっても美柑さんを守ろうとしたということで。その事実があれば、きっと美柑さんだって許してくれる。

 いや、そんなものがなくても、二人ならきっと。

 

 俺もまぁ。この程度でヤミさんの友達をやめるわけはないというか。

 

「じゃあ、今度たい焼き奢ってよ。ヤミさんのおすすめ」

「そんなことで……」

「ああ、大変だ!猛烈にたい焼きが食べたい、たい焼きが食べられないと死んでしまうかも!」

 

 わざとらしすぎるくらいにわざとらしく、そんなことを言う。

 当然嘘で、こんなの小学生だってわかるような演技。でも、時にはそう言うのも必要だ。でしょ?

 

「……だから、今度奢ってほしいな」

「あなたという人は……。いえ、わかりました。とっておきをごちそうしましょう」

「ん、楽しみにしてる」

 

 そんな話をしていると、美柑さんが目を覚ます。ヤミさんも、即座に美柑さんのもとに向かった。

 

「美柑……!」

「ん……。あ、あれ?ヤミさん……、ど、どうしたの!?ボロボロじゃん!大丈──」

 

 驚いた声を上げる美柑さんを、ヤミさんが抱きしめる。

 

「いいんです……美柑が無事なら、それで」

 

 どうやら操られていた時の記憶はないようで、ほっと胸をなでおろす。あんなヤツのせいで二人の仲に亀裂が入るのは、ちょっと許せそうにない。

 少しの静寂。そして、美柑さんから離れたヤミさんが口を開いた。

 

「ありがとう、リク。プリンセスモモ。あなた達が来なければ取り返しのつかないことになる所でした」

「そ、そんな別に!当たり前のことしただけですよぅ」

「いや、俺は本当に何もしていないから、お礼ならモモさんに。……むしろ、モモさん一人の方がもっとうまくやったかもね」

 

 本当に。俺はただモモさんに我儘を言って無理やり連れてきてもらっただけだ。

 

「オレからも礼を言うよ。二人とも。オレだけじゃ何にもできなくて……」

「俺から言わせれば、なにもできないのにどうにかしようとしてるだけで凄いと思いますよ」

「そう、か?ありがとな」

 

 そうだ。俺なんて、何も出来ないどころか足を引っ張るところだった。

 

「私は……」

 

 そんなことを話していると、ヤミさんが口を開く。

 

「私は、一人で何でもやろうとしすぎていたのかもしれませんね。困っている時、頼りになるのは自分ではなく友達だということ。……よく、わかりました」

 

 そう言って、たい焼きのキーホルダーを握りしめながら微笑むヤミさん。

 その笑顔はとても綺麗で。

 

 ──やっぱり不幸なんかじゃない。

 そう思った。




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