選ぶこと、選ばないこと 作:思い出
「いっっっっったい!!!!!」
「はいはい、我慢しなさいな。オトコノコでしょ?」
「その発言は昨今のジェンダー論ではイッタイ!」
「うわぁ、本当に痛そうですねぇ……」
御門先生に治療されている俺の拳を見て──何故か──ナース服を着ている村雨先輩がそうこぼす。いや、そもそもなんで御門先生の家にいるのかもわからないけど。
何故俺が御門先生の家で治療を受けているのかと言えば、それは単純に俺の怪我を秘密裏に治せるのが先生しかいなかったからだ。
なんでも、先生は宇宙の闇医者──宇宙にも医師免許があるのだろうか──らしく、その腕前も相当のものなのだとか。
で、俺の怪我についても普通の治療では数か月かかるところ、なんと先生であれば数日で治ってしまうらしい……というのがヤミさんの談。
そのヤミさんはと言えば、なにやらリト先輩とモモさんに話があるらしく、俺をここに送り届けた後リト先輩の家へ向かっていった。
(いや、数か月が数日はもはや怖いよ)
「はい、これで良し。あとは数日安静にしとけば治るわ」
そう言いながら、先生は俺の右手に手際よく包帯を巻いていく。
あっという間に、俺の右手は痛々しい──というより、中二病っぽい──見た目のぐるぐる巻き状態になった。
「それにしても……」
そこで言葉を切った御門先生は、まじまじとこちらを見つめながら再度口を開く。
「噂は聞いてたけど、ホントにとんでもないのねぇ。モモさんのサポートがあったにせよ、正面からアゼンダに殴りかかるなんて」
「まあ、あの時は正直頭に血が上って無我夢中だったので」
「それだけヤミちゃんが大事ってことかしら?」
からかうような口調でそう聞いてくる先生。
そんなの。
「そんなの、当たり前じゃないですか?」
「あら、あらあら」
「おお、凄いはっきり言いますね!」
俺がそう言った途端、村雨先輩が目をキラキラさせてこちらへ詰め寄ってきた。
二人ともなんだか凄い盛り上がってる。これは、多分、恋愛的なあれそれと
「ヤミさんは大事ですよ、当たり前に。大事な友達ですから」
「あらあら」
「おお……なんだかとってもダメな人の匂いがします」
村雨先輩は、まるで見てはいけないものを見るような目で、スッと数歩距離を取った。
ダメな人の匂いとは……?
「これは、刺されるタイプの殿方ですね……」
「こういうのは当人同士で解決しないとどうようもないものよ、お静ちゃん。ヤミちゃんは……苦労しそうだけど」
女性はやはりそういう話が好きなようで、村雨先輩と御門先生は二人で盛り上がっている。
誰がなんと言おうと、俺とヤミさんは友達だ。少なくとも、俺と彼女の間では。
「まぁ、それは置いておいて。安静って言うのはどれくらい安静にしておけばいいんですか?使用も厳禁とか?」
「そこまでじゃないわ。殴ったり、強く握りこんだりといった衝撃を与えるような行為をしなければ、日常生活に問題はないはずよ」
「聞けば聞くほど怖いですね……どう考えても全治数か月の怪我だったはずなんですが」
「そこは、私の腕がいいからってとこね」
自慢げにそう言う御門先生。
いや、この圧縮っぷりは腕がいいというかもはや人体改造の域でしょ。
「何か失礼なことを考えてる気配がするけど……ま、いいわ。とにかく、あまり無茶はしないことね。あなたが怪我をして苦しむのはあなただけじゃないのよ」
「俺だって、好き好んで怪我したいわけじゃないですよ」
「こういうところよねぇ……」
先生は呆れたように肩をすくめる。
「まぁ、今日はもう帰りなさい。学校にはちゃんと来るのよ、あの子が心配するから」
「はい、ありがとうございました御門先生」
◇
そんなことがあった翌日。
いつものように登校した俺は、当然ながらいつものように生活を送ることはできなかった。
「リク!?その手どうしたんだ!?」
「あ~、ちょっと転んじゃって。大したことないから心配しないで」
「そ、そうか?そうならいいけど……」
包帯の巻かれた俺の腕を見て、ナナが驚いた声を上げる。
おろおろと視線を彷徨わせ、俺の包帯に触れようと伸ばしかけた手を、痛がらせてはいけないと思ったのか空中で引っ込めた。
実際、御門先生の治療のおかげか痛みは全くなく、普通に過ごす分には何も問題ない。
──問題ないことが問題なような気もするが。一体本当にどんな治療なんだ。
「それより、メアは?」
「え?ああ、あいつなら──」
「呼んだ?リクくん」
突然背後から声をかけられ、思わず体がびくりと跳ねる。
「おはよう、メア」
「おはよ!」
そう挨拶をしたメアは俺の右手へ目をやると、一瞬だけ目を細めてすぐにナナと話を始めた。
そうこうしていると予鈴が鳴り、小川先生が入ってくる。
例え非日常があったとしても、日常は変わらずやってくる。
今日の伝達事項を話す小川先生の声を後目に、包帯に包まれた右手を眺めながらそんなことを思った。
◇
「リク、手は問題ありませんか?」
昼休み。弁当を食べようとしていた俺のもとに、ヤミさんが声をかけてくる。
「うん、問題なさ過ぎて怖いくらい。御門先生は凄いね」
「それならよかったです。……ところで、黒咲芽亜は?」
言われて隣の席を見るも、メアの姿はない。
考えてみれば、今日は授業中もいやに静かだったような気もする。
黒板を見るでもなく、かといって俺にちょっかいを出すでもなく、ただ虚空を──あるいは教室の後ろを──じっと見つめていたような。
「どこに行ったかはちょっとわからないかな」
俺がそう答えると、ヤミさんは一瞬だけどこか物憂げな表情をしたかと思えば「それなら大丈夫です」とだけ言い、そのまま席に着いてたい焼きを食べ始める。
俺も同じように弁当を広げ、食べ始めた……のだが。
「あの、ヤミさん。そんな見られてると食べにくいんだけど……」
「いえ、気にせずどうぞ」
「どうぞと言われても」
……というか、ヤミさんの視線が俺の右手に集中している気がする。
もしかしなくても無理をしていないか監視されているのだろうか。
そんなことを思うも、ヤミさんが目を逸らす様子はなく。仕方ないのでそのまま食べ進める。
結局、俺が食べ終わるまでヤミさんの視線が外れることはなかった。
◇
そして、そのまま何事もなく──メアも昼休みが終わると戻ってきた──放課後になった。
──今日は大人しく帰るか。そんなことを考え、一人で教室を出た……のだが。
そのまま靴箱まで向かおうとしていた時、背後から小走りで追いかけてくる音が聞こえ、間を置かずに「リク、ちょっといいか?」と声がかかった。
振り返ると、何やら神妙な面持ちをしたナナがこちらを見つめている。
「大丈夫だけど、どうしたの?」
「その、メアの事なんだけど」
「メアの?」
そう言って切り出したナナの話は、なんでもメアがお姉さんと喧嘩をしてしまったらしくそれを慰めてあげたい、という内容のものだった。
……なるほど、なんだか今日はメアの様子がおかしいと思っていたけれど、そういう事情だったのか。
メアにお姉さんがいるという話は初耳だけど、まぁ友人だからといってその人の全てを知っている訳でもない。
今重要なのはメアが姉妹喧嘩をして落ち込んでいて、ナナがそれをなんとかしたがっている、ということだけだ。
「そうだね、俺が思いつくのは……自分がしてもらって嬉しいことをする、とか」
「あたしが?」
「こんなこと言ったら元も子もないけど、相手が何されたら嬉しいか、なんてわからないから。でも、自分がされて嬉しいことなら分かるでしょ」
「そういうもんか?」
「もちろん、これは俺の意見だからもっと色んな考えの人もいると思うよ。例えば、リト先輩とか」
「リト?なんであいつが」
俺がリト先輩の名前を出すと、ナナは怪訝そうな顔をしてこちらを睨む。
……リト先輩、信用されてないのかな……セクハラ癖以外は本当にいい人だと思うけど。
まぁそこが全てを台無しにしていると言われると反論は出来ないが。
「いや、だって先輩、妹さんと仲良いでしょ?だったらそういう兄弟喧嘩の時とか、そうでなくとも慰める方法は知ってそうじゃない?」
「それは……そうかもナ」
俺の言葉を受けたナナは少しだけ悩んだ素振りを見せると、すぐに「よし!」と小さく掛け声を出す。
「じゃあ、リトんとこ行くぞ!ほら!」
ナナはそう言うと、こちらに向かって手を差し出す。
「うん、じゃあ……って、俺も?」
「? 当たり前だろ?」
どうやらナナの中で俺もついて行くことは決定事項らしい。
まぁ、実際メアのことも気になるし行くことは構わないんだけど、こうも真っ直ぐに一緒にいて当然と信じられるとなんというか……少しこそばゆい。
そんなことを思っていると、しびれを切らしたのかナナが服の袖をグイと引っ張る。
……保健室の時とは逆だな、なんて思いながら、俺はその力に身を任せた。
◇
「そんなワケでさ、余計メアを落ち込ませちゃったみたいで……。何かあいつにできることってないのかな」
思いの外リト先輩は早く見つかり、相談を始めた……のはいいのだが、なんだかリト先輩が心ここにあらずというか、少しボーっとしている。
「リト先輩?」
「おい、聞いてんのか?」
俺とナナが声をかけると、ハッと気づいたように「ごめんごめん」と零し、「そうだなぁ」と答え始めた。
「何か楽しくなるようなことをしてあげるのはどうだ?」
「楽しくなること?」
「小さい頃美柑が落ち込んで元気ない時はさ、変な顔して踊ったりして何が何でも笑わせるようにしてたんだよ」
リト先輩はそう言うと、昔を思い出すように微笑みながらどこか遠くを見つめて話を続ける。
「落ち込んでてもさ、一度笑うと元気が出て気持ちが軽くなったりするもんなんだよな」
……なんというか、やはりこういうのは実体験に勝るものはないと痛感する。
俺の場合は、どうも理屈っぽくなっていけない。
俺がそんなことを考えているうちにナナの方でも結論が出たのか「よっし!」と声を出し、勢いよく立ち上がった。
「やってみるよ。サンキュな、リト!」
そう言った彼女は俺の手を取り、一目散にどこかへ駆けていく。
握っているのが左手な辺り、興奮していても分別はついているようだが手を握っているのはいいのだろうか。
引きずられるようにしながら、リト先輩に「ありがとうございました」と伝えた。
◇
そのままナナに連れられて、1-Bまで戻ってきた。クラスの中を見ると、雑談をしていたり本を読んでいたりでまだ下校していない生徒たちがめいめい過ごしている。
その中には、どこかボーっとした顔で窓の外を眺めるメアの姿もあった。
「メア!」
「ナナちゃん……に、リクくん?二人ともどうしたの?」
「ちょっと見せたいものがあるんだ!ついて来てくれないか?」
「俺は、まぁナナの付き添いってとこかな」
ナナが声をかけ、気づいたメアがこちらを見る。やはりいつもの調子とは違い、表情こそ変わらないがどこか沈んだ空気を醸し出している。
「見せたい物?」
「いーから!ほら!」
有無を言わせぬ口調でメアの手を取り、足早に教室を出るナナ。置いていかれないように、慌てて追いかける。
そうして学校を出て、歩くこと少し。俺たちはとある川の河川敷にやってきていた。
「それで、結局見せたいものって何なのナナちゃん」
「いーからいーから!……あ、いたいた!おーい!」
ナナが呼び掛けた先から、何か小さな影が疾走してくる。影はそのままメアに飛びつき、驚いたメアはその場に尻もちをつく形で倒れこんだ。
「ひゃっ!何このコ!?」
「春奈のペットで西連寺マロンだ!面白い顔してるだろ」
影の正体は小型犬だった。メアはマロン、と呼ばれたボストンテリアを抱きかかえ「ホントに変な顔!」と笑っている。
なるほど、アニマルセラピーか。そんな考えが頭に浮かび、そんな考え方をしてるから俺はこうなんだよな、と少し自嘲する。
メアはマロンに懐かれて楽しそうに笑っている。その顔には、教室で見せた沈んだ気配は微塵も感じられない。
ナナも「可愛いだろ?」とか「リクも来いよ!」とか楽しそうに話しており、メアもマロンを抱いたまま「リクくんも触ってみる?」と、少しだけいつもの調子を取り戻したように笑いかけてきた。
「よーし、じゃあ次はあたしのペット達を紹介するよっ!宇宙のあちこちで知り合った動物達だ!」
そう言ったナナは手に持った機械──デダイヤル、と言うらしい──を天高く掲げる。すると、頭上に何やらゲートのようなものが開き、そこから多種多様な動物達──なにやら小さかったりもふもふした可愛らしいものが多い──が落ちてきた。
メアはそれを見て笑顔で「可愛い!」とはしゃいでおり、ナナも友達を褒められてどこか自慢げだ。
そんな二人の様子を見ていると、頭の上にぽふん、と衝撃を感じた。
頭上へ手をやると、なにやらもふもふとした一頭身のパンダのような動物──とても手触りがいい──がこちらを見つめている。
「可愛いな」
俺がそう言うと、パンダは嬉しそうに「きゅー!」と鳴き、俺の手の中で丸くなって眠り始めた。……どうやら相当気に入られてしまったらしい。
動物は好きだ。ただそこにいて、彼らは彼らのしたいように生きている。見ていると心が洗われる気分だ。
と、そんな風に癒されていたその時。
「ひゃっ!?あっ……はうぅ♡なに、これぇ……あっ♡すご♡」
「おいコラマロンーーー!」
声のした方へ目を向け、思わず固まってしまう。ぱっと見は──というか実際そうなのだろうが──マロンとメアが戯れているだけだ。
ただ、マロンがメアの全身を舐めまわし、メアが何故かそれに対して煽情的な声を上げている、ということを除けば。
そして、その硬直がいけなかった。
「お……お前ら!?こ、こら!どこ入っ……ふァっ!?」
マロンを止めようとしていたナナも、何故か自分が召喚した動物たちに群がられてあられもない姿と声を晒している。そして、バランスを崩したのか
(まずッ!避け──いッ……!こんな時に!)
慌てて避けようとして、右手に走った刺すような痛みに動きが止まる。結局、避けることはできず──。
「あっ……そこ、ダメっ……んっ、はぁっ……やめてぇえ……」
これは、ひじょうに、よろしくない。
動物に揉みくちゃにされているせいで、俺とナナは密着しきっている。その上で、どうやら動物たちはナナを舐め回しているらしく、ナナの──非常に──艶めかしい声が耳元で繰り広げられている。
(密着してるせいでナナの柔らかさが伝わってきて、その上声もとなると……流石に気分が──!)
ふん、と右手を握りこんで痛みで頭を覚ます。ナナは友達だ。しっかりしろ、俺。
「あっ、やめっ……りくぅ……」
潤んだ瞳でこちらを見つめながら放たれるナナの甘い声が耳朶を打つ。耳元で感じる熱い吐息と汗とシャンプーが混じった甘い香りが、脳内を直接侵しているようだ。
何故俺の名前を呼ぶ。やめてくれナナ、割と俺も限界なんだ。
(だから、違うって!)
再度、ぐっと手を握りこむ。
起き上がろうにも、上にナナ、更にその上から動物たち。
幸い、動物たちはじゃれているだけでこちらを害するつもりはないらしい。何とか姿勢を整えることができれば、振りほどくことも出来ると思うのだけど……。
そんなことを考えていた時。横合いから「きゅい!」という声が響き、次の瞬間俺とナナの身体が横にずれる。声のした方へ目をやると、先ほどのパンダのような動物が俺たちに体当たりをしているのが見えた。
(お、お前!)
衝撃こそ小さなものだったが、位置がずれたおかげで力を入れやすくなる。
俺はそのまま右手でナナを抱きすくめると、左手で思い切り地面を突き、体を弾き上げた。勢いのままに体を起こし、動物たちを振り払う。
そのまま周囲を見ると、マロンに舐められ続けているメアと
…………なに、これ?
「っと、違う。ナナ、ナナ!」
呆然とした思考を振り払い、まだ腰が抜けているのか、腕の中で少し呆然としているナナへ声をかける。
「はぇ……りくぅ?……じゃない!な、なんだ!?」
「なんか動物たちが暴走しちゃってるみたい。どうにかならない?」
そんな話をしていると、視界の隅でモモさんがメアを助けている姿が目に入った。
二人はそのままこちらへやってくると、モモさんが口を開く。
「ナナ!あなたのデダ──なんで抱き合ってるの?」
「だっ!だだだ抱き合ってなんか!」
モモさんにそう聞かれたナナは飛びのくように俺から離れる。
腰が抜けていたみたいだから一応支えていたけど、どうやらもう大丈夫なようだ。……そういうことにしておこう。
それより。
「今はそんなこと言ってる状況じゃないんじゃない?」
「っと、そうよナナ。あなたのデダイヤルで早く動物たちを!」
「わ……わかってる!」
そう叫んだナナは自分のポケットからデダイヤルを取り出そうとしたのだが。
「あ、あれっ!デダイヤルがない!?」
「ええ!?」
全員の視線が泳ぐ。そして。
「あっ!あいつ!」
ナナが指差した先には、デダイヤルを持っている猿のような動物がいた。
その猿はと言えば、デダイヤルを持ったままどこかへ逃げようとしている。
「こ、こら!それ返せっ!」
慌ててナナが走り出し──。
「ナナ、ダメだ!」
一瞬遅れて、ナナを追いかけるように俺も走る。酷使した右手に痛みが走り、後ろからモモさんとメアが声を上げたのが聞こえたが、無視した。
何故なら。
「ナナちゃん!?」
メアも気づいたようで、大声を上げる。だが、あそこからでは間に合わない。
──ナナが飛び出した道路の先から、トラックがこちらに向かって走っていた。
ナナを──今度は両手で──抱きかかえ、衝撃に備えて目を閉じる。しかし、いつまで経っても衝撃はやってこない。
「あ、れ?」
目を開く。そこにあったのは血に濡れ、あらぬ方向へと手足の曲がった己の姿──などではなく。
トラックの前で両手を広げ、トラックを止めているヤミさんとララ、そして何故か俺とナナを庇うようにしてしゃがみこんでいるメアの姿だった。
◇
「いやー、危ないトコだったね~!」
ララが明るい声でそういう。にこにことした笑顔からは、とてもじゃないが先ほどトラックを腕ずくで止めた少女と同一人物とは思えない。
「みんな、ゴメンな……なんか大変なコトになっちゃって」
ナナが申し訳なさそうにそう謝る。リト先輩と西連寺先輩は顔を赤くしながら「気にしないで」と答えた。
「メアとリクもその……ゴメン」
「え、なんで謝るの?すっごく楽しかったよ!動物って素敵っ♡」
笑顔でそう答えるメア。
その横顔を、トラックの前から戻ってきたヤミさんが、どこか感慨深げに見つめている。
「そうだね。ちょっとしたハプニングはあったけど、まぁ終わりよければ全て良しだ」
「メア、リク……ありがとな!」
メアと俺の答えを聞いたナナが、沈んでいた表情を振り切って笑顔で返した。
……それで終わりかと思いきや、唐突にメアが熱っぽい視線をこちらへ向けながら口を開く。
「あと、ぺろぺろも素敵かも……♡今度はナナちゃんだけじゃなくて私もぺろぺろして、リクくん♡」
「ななっ何言ってんだメア!!」
「まずナナにしたという事実がないんだが!?」
いつの間に俺はリト先輩になっているんだ、
だから小声で「結城リトから引き離すべきでしょうか……」とか言うのはやめてほしいヤミさん。リト先輩はいい人なんだ、本当に。セクハラ以外は。
「え~、三人でぺろぺろしたらきっと素敵だと思うな♪」
「だから、そんな事実はない!……はぁ。でも、元気にはなったみたいでよかったよ。ね、ナナ」
「へ?あ、ああ。そうだナ」
「うんうん、うまくいったみたいでよかったねえ」
俺たちが話していると、ララが嬉しそうに声を挟む。
「ナナはね~、メアちゃんが元気になる所を見たかったんだよ!」
「あ、姉上!」
ナナが焦ったような、恥ずかしがるような声を上げる。それを受けたメアは、自身の胸を抱いてどこか嬉しそうな表情をしている。
右手がずきり、と痛んだ気がしたが、二人の笑顔が見れたのなら安いものかと無視をした。
……後ろで右手を凝視しているヤミさんのことも、今だけは忘れて。