選ぶこと、選ばないこと 作:思い出
皆さまもどうかよい年末をお過ごしください。
12/31追記
2話に#EXTRAが挿入されております
最低で最悪な女と誠に遺憾ながら知り合いになって数日。
幸いなことに、あれ以降電話がかかってくることもなく、携帯を開くたびに「ご主人様(予定)」などというふざけた連絡先が目に入ること以外目立った実害もなく過ごしていた。
──番号は、どんなに頑張っても消せなかったが。
「なあリク、今度の休みってヒマか?」
俺がそんな風に呪いの電話に怨嗟の声を上げていると、ナナから声がかかる。
「今度って週末?特に予定はないけど」
「お、やった!みんなでメアの家に行こうって話になったんだ。もちろん来るよナ?」
「メアの?メアがいいなら、是非」
「もちろん!お友達を呼ぶのって素敵!でも、私の家ってなんにもないよ?」
なんにも……メアはミニマリストなのだろうか。
「ところで、みんなって?」
「リクにヤミにあたし、あとは……モモとリトだな」
「ヤミさんも?」
「ああ!なんかこの間から結構仲良くなったみたいなんだ。まぁ、よく考えたら同じ転入仲間だしな」
中々珍しい……と思ったけど、よくよく考えれば以前から何かとメアのことを気にしていたみたいだし、そういうこともあるかと自分を納得させる。
と、参加者を聞いてふと思う。
「そういえば、折角ならメアの家で料理でもする?もちろん、二人がよければだけど」
俺がそう言うと、メアは一瞬きょとんとして、「料理……? うーん、できるかなぁ?」と首をかしげると、「お鍋とか、ないかも?」とこぼした。
「じゃあ、俺の家から持っていくよ。ないのってお鍋だけ?」
「え~っと、お鍋と包丁と──ていうか、全部?」
「全部……って、ホント?」
全部……ってことは、皿とか箸とか、調味料もないってことか?
……流石に、冷蔵庫とかコンロはあるんだよな?
しかし、全部ないってなると、流石に持っていくのか厳しいか。
「じゃあ、簡単に作れるものにして、ちゃんとしたのはまた今度にしようか。ナナに教えるのも」
「あ、あたしは別にいつでも……」
「ふーん、まあいいや。リクくんの料理、楽しみにしてるね」
そう言ったメアの顔は本当に楽しそうで。
──これは、下手なことはできないな。
◇
そんな話をしたのが二日前。
そして、約束の日である今日。俺は片手にホットプレート、もう片手に材料を持ってとあるマンションの前に立っていた。
俺の他には、聞いた通りナナとヤミさん、モモさんとリト先輩、それからメアがいる。休日なので当然私服で、ナナやモモさんはいつもと髪型も違っていた。
「おー!ここがメアのマンションか!」
「ごめんなさいね、メアさん。休日に押しかけちゃって」
「ちぇっ……いい子ぶって。モモだってメアの家見てみたいって言ってただろ!」
早速ナナとモモさんが──というか、ナナが一方的に──喧嘩しているが、いつものことなので放っておく。
と、メアが声をかけてくる。
「ねえリクくん、それどうしたの?」
「それって……ホットプレートか?」
「はい、リト先輩。メアの家、調理器具がないって話でしたので」
「それでホットプレート持ってくるって……お前も中々だよな」
呆れたような声を出すリト先輩。他に選択肢が思いつかなかったのだから、しょうがないとしてほしい。
「まぁまぁ、とりあえず上がりませんか?正直腕が重いので」
「自業自得過ぎるだろ……」
「リク、持ちましょうか?」
「ん……じゃあ、片方だけ」
俺がそう言うと、ヤミさんの金色の髪がするりと伸びて、ホットプレートの持ち手に器用に巻き付く。
その光景を見たリト先輩が少し感心したような声を出したが、気にせずにみんなでエレベーターに乗り込みメアの部屋へと向かった。
「私の家にようこそぉ~!」
そう言って案内された部屋は、前もって聞いていた通り──むしろそれ以上に──何もなかった。
本当に、
家具の一つから、果てはカーテンまで。
「ほ、ホントになにもないんだな……」
ナナが驚いた声を上げる。
その声が、吸音する家具のない部屋の中で、やけに寒々しく反響して耳に残った。
「ね!だから言ったでしょ?」
「それにしたって、何もなさすぎじゃない?」
「そーお?気にしたことなかったけど」
「メアってここで一人暮らししてるのか?」
「そうですよー」
リト先輩やモモさんも流石に驚いているようで、おずおずと言った様子でメアへ質問したり、部屋を見渡したりしている。
一方でヤミさんはと言えば、何やらキャンディを差し入れしていた。
俺も、色々と思うところはあるけれどとりあえずは。
「メア、これどこに置けばいい?」
「え?んー、適当に置いていいよ!あ、ジュース出すね。紙コップでだけどいい?」
「ん、わかった」
「あ、私もお手伝いしますよ」
メアが冷蔵庫へジュースを取りに行き、少し慌てた様子でモモさんがその後に続いた。
そういえば、お姉さんがいるって話だったけど一緒には暮らしていないのだろうか。
そんなことを考えながらホットプレートの準備を終える。準備と言っても電源に刺して温めておくだけなのだが。
「まあ、こんなとこか」
「何作るんだ?」
俺が準備を進めていると、肩口から顔を出したナナがそう聞いてくる。耳元で放たれた声が至近距離で鼓膜を打った。……顔が。いや、気にしないようにしよう。
「お好み焼きかな。みんなで食べられて、簡単で、必要な道具も少なく済むし」
「お好み焼き……ってあれか?ひっくり返すやつ」
「それそれ」
言いながら、材料を取り出していく。卵とキャベツに豚肉、揚げ玉、イカとお好み焼き粉。
こだわるなら粉も自分で作ったほうがいいんだけど、そこまで手の込んだ内容にしなくても大丈夫だろう。
「そうだ、折角なら切ってみる?」
「えっ。あ、あたしがか?」
「うん。今度の予行演習ってことで」
持参したまな板と包丁をセットし、「どう?」と聞きながらキャベツを手渡す。
ナナはまるで爆弾でも受け取るかのように、慎重に、けれど嬉しそうにそれを受け取った。
「じゃ、じゃあ折角だし、やってみよう……かな?」
教えてくれよ、とはにかみながら聞いてくるナナへ包丁を手渡し、握り方から教えていく。
「持ち方も何個かあるんだけど、今回は千切りだから親指と人差し指で刃の根本を抑えるように……そうそう。そうしたらゆっくりと──」
「こ、こうか?」
「うん、いい感じ。まず包丁に慣れるのが大事だからね。それで、切ったキャベツは水にさらして──」
そう褒めると、ナナは嬉しそうに笑った──が、その陰でヤミさんの髪が、ゆらりと鎌首をもたげていることに俺は気づいていなかった。
冷たい声が背後からかかる。
「リク、まな板はありますか」
「え、え~と……持ってきたのは一つだけだから……」
「そうですか。ならば──」
シュルリ、と金色の髪が編み込まれ、瞬く間に平らな板状の物体──即席のまな板──へと変形する。
「これで問題ありませんね。私も切ります」
そう言うと、もう片方の髪の束が鋭利な刃物状に変形し、器用にキャベツを刻もうと待ち構えている。
「いい──」
んだけど、その
そんなことを声に出して言えるはずもなく。
「──ね。切り方は、美柑さんに教わってる?」
「……ええ、
そう言って、残った半玉分を高速で刻みだすヤミさん。
ナナがトン、トンとおっかなびっくり刻んでいる隣でヤミさんの方からはダダダ、というマシンガンのような音が響き、キャベツが瞬く間に千切りにされていく。
「お、おお。凄いんだなヤミ」
「刃の扱いは……慣れていますから。私より、手元を見ないと危ないですよプリンセスナナ」
「え、あ、ありがとナ」
そんな会話をしながらキャベツを切っている二人。残った半玉は俺が切ろうと思っていたのだが、ヤミさんがやってくれたお陰で手持無沙汰になってしまった。
「この間に粉の準備でもしておくか……」
と言っても、粉と出汁に卵、それに水にさらしたキャベツを混ぜるだけの簡単な仕事なのだが。
「ねーねーリクくん。これってなあに?」
言いながら、メアがボウルの中の生卵と粉が混ざったドロドロの液体に指を突っ込もうとしている。
「ちょ、これはまだ食べられないから!それで、これはお好み焼きって言って……なんていえばいいんだろう。日本的なホットケーキ……?いや、甘くはないけど。なんて言えばいいと思います?リト先輩」
「確かに、お好み焼きを知らない人に言葉で説明するのって難しいよな。小麦粉とキャベツを混ぜて焼いた物……とかいってもさっぱりだし」
先輩と二人で頭をひねっていると、モモさんが声を挟んでくる。
「なるほど、つまり地球の穀物を使用した複合的なパンケーキ、と言ったところでしょうか。パンケーキと言っても、デザートではなく主食のようですが」
「ま、まあ当たらずとも遠からず……ってとこか?流石モモだな」
「いえいえ♪」
三人で話をしながら準備を進めていると、ナナとヤミさんもみじん切りが終わったのかボウルに入ったタネを持ってこちらへやってきた。
「お、終わったぞ!」
「こちらも混ぜておきました」
「タネまでやってくれたんだ、ありがとう」
残りのタネも作らないと、と思っていたけれど二人が気を利かせて作ってくれたおかげで、後はもう焼くだけだ。
……早くしないと横でちらちらしてるメアの我慢もきかなくなりそうだし、さっそく焼いていく。
ボウルに入ったタネをお玉で掬い、ホットプレートへ広げていく。じゅう、という焼き音が室内へ広がり、ソースとはまた違う、小麦粉と出汁の香ばしい匂いが立ち上った。
「わ、いい匂い!」
メアが目をキラキラさせて身を乗り出し、ナナも興味深げに焼かれていくお好み焼きを眺めている。
モモさんも、ナナほど露骨ではないもののやはり興味ありげにホットプレートを観察していた。
「お好み焼き、ウチじゃ最近全然だから懐かしいな」
「そうなんですか?」
「ああ、前はともかく今は人が増えたからな。卓上でやるタイプだと美柑が忙しくなっちゃって」
確かに、あの人数分を仕切るのは中々に大変そうだ。
「っと、そろそろ返しましょうか」
言って、ヘラを手に持ってお好み焼きを返していく。
手首のスナップと共に、片面が焼けたお好み焼きが中でひっくり返りホットプレートに着地した。
「おお、うまいもんだな」
リト先輩が感心した声を上げる。ナナやメアも「お~」と感心した声を上げており、なんだかむず痒い。
「回数やってれば誰でもできますよ。俺も、最初は崩しちゃってましたし」
先輩と話しながらソースやかつお節、マヨネーズなどをふりかけてお好み焼きを切り分ける。
切り分けたそれを紙皿へ取り、皆へ手渡した。
「はい、どうぞ」
「お、あんがとナ」
「あら、どうも」
「ほら、メアも。熱いから気をつけてね」
リト先輩やヤミさんにも手渡し、全員へお好み焼きが行きわたる。いただきます、の声とともに、各々が食事を口に運んだ。
「これは、結構味が濃いのですね」
「まぁ、割とジャンキーな食べ物ではあるね。あれだったら、次は薄目にするけど」
「え~、この感じがいいんじゃないの?モモちゃん」
「少しならともかく、この量は流石に……」
「ちぇ、ま~たいい子ちゃんぶりっこしやがって。そんなの全然気にした事ないくせに」
「ナナ?何か言ったかしら?」
「なんでも!」
またしても口論を始めた二人をよそに、メアとヤミさんの二人は黙々と──メアは騒がしいが──お好み焼きを口へ運んでいる。リト先輩も二人の仲裁をしながら食事を続けており、先ほどまで寂し気だったリビングはかけらもなかった。
◇
「今日はありがとね」
片付けも終わり、後は帰るだけとなった時。メアが声をかけてくる。
「え、それを言うならこっちでしょ。大勢で押しかけちゃったし」
「そうなの?」
「そうなの」
「……でも、やっぱりありがとうだよ」
そう言った彼女は目を細めながら、ソースの香りがまだ微かに残る部屋を見つめ、言葉を続けた。
「あんな風に、みんなでご飯を食べるのは初めて。うまく言えないけど、なんていうか……うん。楽しかった」
「そう?ならわざわざ持ってきた甲斐もあったよ」
「リクくんにハジメテ、奪われちゃった……♡」
「その極めていかがわしい言い方は俺の社会的立場が死ぬので勘弁してください」
「あんなに熱々のをかけられちゃって……」
「ソースの話ね」
誰だ、メアにこんな知識教えたの。いや、最初から割とこんな感じではあったか……?ここまで酷くなかったと思うが。
その後も、やたらとスレスレな言葉遣いをするメアを──そしてそれを聞きつけたヤミさんやナナも──何とかいなしつつ片づけを終わらせ、各々帰路に就くのであった。
メアが楽しそうに笑ってくれて、本当に良かったという思いとともに。
◇
と、そんなことがあった翌日。
「家具選び?正直役に立てないと思うけど……」
「いーんだよ。本格的なアドバイザーには春菜呼んでるから、それはそっちで」
「それ、ますます俺が行く意味なくない?や、行きたくないわけじゃないけど」
俺はナナから再度、放課後の予定を聞かれていた。なんでも、メアの部屋があまりにも伽藍洞であったことを受けて、インテリアや家具を買ってあげよう!と思い立ったらしい。
ぶっちゃけ俺はそういったセンスのある方ではないし、西連寺先輩がいるのなら役に立てることはないと思うのだが。
「あたしとリクで選ぶことに意味があんだろ!メアの家具を!」
「そういうものか」
「そういうもの!」
そういうものらしい。
そんな風に自分を納得させていると、ナナは自分の発言の熱っぽさに気づいたのか、「あ、いや、その……」と顔を赤くして視線を逸らした。
「まあ、さっきも言ったけど行くことに問題はないよ。しばらくは特に予定もないしね」
「なら、最初から素直にそう言えよ……」
疲れたような表情でじとりとこちらを睨みつけるナナ。
なんだか理不尽に怒られている気がする。言わないけど。
「それで、いつ見に行くの?」
「善は急げって言うだろ?今日の放課後だけど」
「急ぎすぎじゃない?」
「いいんだよ」
そこまで言ったナナは「じゃ、放課後な!」とだけ言い残して席へ戻っていく。
入れ替わるように、メアが席に着いた。
「何の話してたの?」
「メアの部屋に置く家具を選ぼうって」
「え!リクくんも選んでくれるの?」
「付き添いだけどね」
そういうも、メアは何やら瞳をキラキラさせてこちらを見ている。俺にそう言ったセンスを期待されても困るのだけど。気持ちが大事だ、とはよく言うが。
「まぁ、西連寺先輩も一緒らしいし。その点は心配しないでいいんじゃないかな」
「うん。楽しみにしてるね、
「付き添いのはずが、急に責任重くなってきたな……」
「あは♡そんな気にしなくて大丈夫だよぉ」
そんな会話をしていたのが昼休み。
午後の授業もすぐに終わり、俺とナナ、そして西連寺先輩は街のデパートへやってきていた。
平日とはいえ、放課後の時間は学生やカップルで賑わっており、華やかな空気が漂っている。
……なんだか、男一人が混ざっているのが少し場違いな気もするが。
「それで、どこから回るんですか?先輩」
「そうだね。まず、テーブルとかソファとか、大きな家具から決めちゃおうか。一人暮らしだと家具もそんなに多くならない分、大きな家具が部屋のイメージを決めちゃうからそこから考えた方が楽かなって。それでいいかな?ナナちゃん」
「お、おう!細かいところは春菜に任せた!もちろん、あたしも選ぶケド……」
なんだか随分と具体的なプランが飛び出してきた。
西連寺先輩がこういうのが得意って聞いたことはなかったけど、実際のところ普通に得意そうだ。
「俺は、こういったセンスはさっぱりなので。荷物持ち兼財布程度に考えてください」
「悩んで選んだっていう行動が大事なんだよ、成瀬くん」
「それはわかりますけどね。まぁ、やれるだけやりますよ」
俺がそう返すと、早くも二人はああでもないこうでもないと言いながら家具選びを開始していく。
……これは、長くなりそうだ。二人の姿を見ながらそう思っていると、ナナから声がかかる。
「ほら、リク!お前も来いよ!」
見れば、ワインレッドのソファに身を落としてなにやらぼよんぼよんと身を弾ませたナナがこちらに向かって手を振っている。
隣の西連寺先輩も流石の苦笑いだ。
「ほら、リクも座ってみろよ! すっげーふかふかだぞ!」
そう言って、自分の隣のスペースをぽんぽんと叩くナナ。ここが公共の場でなく、かつ二人きりだったのなら嬉しいお誘いなのだけど。もちろん、ナナにそんなつもりはないのだろうが。
「なんて言うか……すみません、先輩」
「ううん。ちょっとびっくりしたけど、大丈夫だよ」
はしゃぐナナを横目に西連寺先輩へ一言入れる。一方のナナはと言えば、結果的に無視するような形になってしまった俺へむっとした顔を向けていた。
ので、隣に座った。
「おお、これは確かに」
座った瞬間、予想以上に体が深く沈み込み、その反動でナナの体がコロンと俺の肩に寄りかかる形になる。
「……想像以上に柔らかい、ね」
言ってる場合か。と自分に突っ込み、すぐに立ちあがる。ナナも、すぐに体勢を整えて起き上がった。
「あはは……。仲良しだね、二人とも」
「まぁ。友達なので」
「それにしては……」
「友達、なので」
俺が念を押すと、西連寺先輩は諦めたように「そこまで言うなら」と零す。
そう、大事なのは当人がどう思っているがだ。そして当人である俺はナナを友達だと思っている。完璧な理論だ。一部の隙も無い。……基礎がガタガタであることを除けば。
ハプニングこそあれど、家具選びそのものは順調に進み。むしろ、順調すぎるほどに進んでしまい。
「あの、ところで西連寺先輩。ここの会計ってどうなってるんですか?流石に全部はちょっと、いやかなり厳しいんですが」
「え、あれって本気だったんだ。でも、ナナちゃんが自分のお小遣いから出すから大丈夫って言ってたけど……」
「流石に全額は無理でも半分くらいは出そうかなと。ウチ、両親が共働きで海外に行ってる分、仕送りとか現地のよくわからないお土産とかは大量に届くんですよね。かといって一人でそんなに浪費するわけでもないので」
そういう意味で言えば貯金をするなりするべきなのだろうが、まぁ友達の為に使うのなら親も許してくれるだろう。きっと。
「ご両親、海外なんだ。寂しくないの?」
お金の使い道について思いをはせていると、西連寺先輩からそんな質問が飛んでくる。
確かに広い家に一人、と言うのは多少思うところこそあるが、そこまで寂しさを感じたことはない。
それに。
「寂しくはないですよ。特に今は」
目をやった先では、ナナがうんうん唸って小物を選んでいる。どうやら時計を選んでいるようで三日月形の物と円形の物で悩んでいるらしい。
「……ふふ、そっか」
春菜先輩も俺の視線を追うようにして、家具売り場で頭を抱えるナナの方を見て、優しく目を細めた。
「騒がしいですから、最近は」
だから、寂しさを感じている暇など全然ないのだ。
「あーもう!どっちが……なーリク、春菜!どっちがメアに合ってると思う!?」
売り場から聞こえてくる、そんな悩みと元気の混ざった声をBGMに、俺は肩をすくめて見せた。
「ほら、行きましょうか。あんまり待たせると悪いですから」
「そうだね。……そうだ、春菜でいいよ。友達はみんなそう呼ぶから」
「それじゃあ、俺はリクで。今後ともよろしくお願いします、春菜先輩」
「なーリク~?春菜~?」
そろそろナナの声も限界に近付いてきている。俺と春菜先輩は、少し速足でナナのもとへと向かうのだった。
◇
さて、そんなこんなで選んだ家具の結果はと言えば。
「わーっ!これが私の部屋!?」
「いい感じだろ!春菜と一緒に家具を選んで、あたしたちで飾り付けたんだぞっ!」
それを聞いてメアが部屋を見渡す。数日前の何もない伽藍洞の室内とはまるで異なり、可愛らしい小物からおしゃれな家具が揃った部屋はまさに「女の子の部屋」と言った様相だ。
……まあ、家具の搬入はともかく組み立ては殆ど俺がやったような気がしなくもないが。
「素敵!」
その様子を見ていた春菜先輩も嬉しそうに口を開いた。
「やっぱり、お部屋は明るい方が気分がいいもんね」
「そーいうこと!」
「でも……」
メアは一度そこで言葉を切り、ソファに座ったまま部屋を見渡した後にもう一度口を開く。
「たくさんお金かかったんじゃない?コレ」
「え……、や!ヘーキヘーキ!あたしこう見えてプリンセスだしサ!」
ナナがあからさまに引き攣った笑みを浮かべる。実際、折半したとはいえ高校生の懐には些か以上に厳しい出費だったのは事実だ。
「ま、それにほら。こうして遊びに来る以上俺たちも使うものだし。お金を出した以上は使わせてもらうから……みたいな」
「それってリクくんはこれからもたくさん遊びに来てくれるってこと?」
クッションを抱きしめながら、首を傾げてそう聞いてくるメア。
……言葉選びを間違えた気がする。
「…………まぁ、そうなるのかな」
「……ありがとね、ナナちゃん、リクくん、春菜せんぱい♡」
とはいえ。笑顔でそう告げる彼女の顔を前に訂正することなどできるはずもなく。
まぁ、友達の家に遊びに来るくらい大したことでもないか。
──この笑顔が見れるのなら、よっぽど。