選ぶこと、選ばないこと   作:思い出

22 / 42
最初は衝動的に書いていましたが、書いているとなんだか昔の好きだった気持ちが蘇ってくる気分です
ToLOVEるの二次創作がもっと増えると嬉しいですね


#15.5 I my me mine ~自分って誰?~

「どうだ?メア」

 

 パソコンを通して電脳侵入(ダイブ)してる私にマスターが横から声をかけてくる。

 どうだ?って言われても、頑張ってるけどこれ以上はどうにも……。

 

「うん、ドクターミカドのコンピュータにハッキングしてみたけど、やっぱりこの一週間の間に何度か誰かと連絡を取り合ってるみたい」

 

 誰と連絡を取っているのかを探ろうとするけど、これ以上は──。

 

「あー、でもこれ以上はプロテクトが堅くてわかんないや」

 

 ぷはっと息を吐いて接続を切る。私のダイブでも破れないなんて……流石はドクターミカドってカンジ?

 

「我々を警戒しているようだな。……となると、相手は一人しかいないか」

「誰の事?マスター」

「……」

 

 マスターには相手が誰か想像がついてるみたいで、聞いてみるけど考え事をしているのか返事をしてくれない。

 

「マスター?」

「ん?ああ、相手が誰かだったか。恐らく、ティアーユ・ルナティークだろうよ」

「ティアーユ・ルナティーク……。どういう人なの?マスター」

「宇宙生物工学の分野で並ぶ者のないと称された天才科学者で、金色の闇を生み出した人間だ。そして──」

「そして?」

「金色の闇の兵器としての生き方を否定し、愚かにも"人としての道"を歩ませようとした女だよ」

 

 人としての生き方……?

 その言葉を聞いた時、一瞬だけ脳裏にリクくんの顔がよぎった。

 ……でも、それは私たちにとって邪魔な考え方のはず。

 

「それってつまり私たちにとって邪魔な人……。削除(デリート)した方がいいんじゃないの?マスター」

「構わんさ、捨て置け。何者であっても本質を変えることはできない。兵器はどこまで行っても兵器であって人にはなれないのだから」

「……マスターがそう言うなら」

「む……。成程、やはり面白い」

 

 私が返事をすると、マスターはどこか楽しそうに笑いながらつぶやいた。何が面白いんだろう?

 

「メア」

「なぁに?マスター」

「成瀬凌空とは最近どうだ?」

「え、リクくん?」

 

 予想外の名前に心臓がトクンと跳ね、パソコンを操作していた指がピタリと止まる。

 なんで、急にリクくんの話を?

 

「別に、前に話した通りだよ?……あ、でも最近はモモちゃんと仲良くなったみたい」

 

 そのせいでなんだか話す回数も減っちゃったし。ナナちゃんもなんだか不満そうだったし。

 

「ふむ、確かあいつはまだ私たちのことを知らないのだったか……。うん、ちょうどいい。メア、ちょっと成瀬凌空とデートでもしてこい」

「……へ?」

 

 デート?私が、リクくんと?なんで?

 

「なに、深く考える必要はない。お前はただ楽しんで来ればいいんだ。何なら成瀬凌空のことを堕としても構わんぞ?」

「堕とすって……私が?」

 

 そう聞き返した私の声が期待と不安で少し上擦ってしまったことに、マスターは気づいただろうか。多分、気づいていただろう。

 リクくんを、私のものにしてもいい。その甘美な響きに胸の奥が熱くなるのを感じた。

 

「そうだ。お前のことを打ち明けてもいい。それだけの価値がある男だ、アレは」

 

 うんうん、と頷きながら言葉を返してくるマスター。

 その瞳は、まるで新しい玩具を見つけた子供のように爛々と輝いていて……。

 

 ──リクくんは、私のなのに。

 

 そんな気持ちが、頭から離れなかった。

 

 

「あ、でもマスターとリクくんの三人でっていうのも素敵かも……?」

 

 朝。登校してくるリクくんを待ちながらふとそんなことを考える。マスターがリクくんを溶かして、リクくんが私をぺろぺろする。

 うん、それもいいかも?普段はあんななリクくんが、マスターに責められたらどんな表情(かお)をするのか、少し興味もあるし。

 

 でもマスターはどうしてあんなにリクくんを気に入ってるんだろう。やっぱりお姉ちゃんに一番近い存在だからかな。

 それにしては、なんだか楽しそうな感じもするけど。

 ……まあいっか。きっと、マスターにはマスターの色んな考えがあるんだろう。考えてもわからないことを考えるよりも、今は今日のデートのことの方が大事だもんね。

 

「おはよ、メア」

 

 そんな風にデートのことを考えていると、いつものようにリクくんがやってくる。

 

「おはよ、リクくん。ねえリクくん、放課後ってヒマ?」

「今日の?」

「うん」

 

 私の言葉を受けたリクくんが、少し考えるように目線を上に逸らす。でも、すぐに結論が出たみたいで次の瞬間には琥珀の瞳が私を見つめていた。

 

「今のところ予定はないかな」

「じゃあ、ちょっと付き合って?」

「いいけど、どこに?」

 

 そう聞いてくるリクくんへ、焦らすようにして「ん~」と返事をする。ちら、と教室を見渡したけれど、今はまだヤミお姉ちゃんもナナちゃんたちもいないようだった。

 そうして。その言葉を口にする。

 

「デート?」

 

 それを聞いたリクくんは、どこかぽかんとした表情をしていて。

 なんだか少し新鮮な気持ちだった。

 

 ……でも、それ以上に。

 口にした自分の方がなんだか胸がドキドキしてきちゃってるなんて、リクくんには内緒だね。

 

 そして。

 

「ほら、いこ!」

 

 授業が終わり、チャイムが鳴ると同時にリクくんの手を掴んで教室を出る。

 ナナちゃんが驚いてたり、お姉ちゃんが睨んだりしていたけど気にしない。……ナナちゃんには、少し悪いことをしちゃったかも?

 まあ、あれだったら今度三人で遊びにいって許してもらえばいいかな。

 

 リクくんと二人で歩きながら話していると、「いつもと違う」なんて言われちゃって。

 いつもって何だろう。黒咲芽亜とトランス兵器のメア。どっちが本当の私なのかな。リクくんに近づいているのはマスターの命令で、でも私の気持ちも混じっていて。

 そんな風考え込んでしまった私は、思わず目線を逸らして「気のせいだ」ということしかできなくて。

 

 そうかもね、なんて言って流してくれたリクくんの腕を取って歩き出す。

 ぎゅっ、と強く抱いたその腕はあったかくて。

 

「どこに行くの?」

「色々!」

 

 何をするかなんて決めてない。だって、きっとどこへ行っても楽しいから。

 

「それじゃあレッツゴー!」

 

 なんにせよ。今はマスターからも言われてる通りに楽しんでいけばいいのかな、なんて。

 

 

「わー、可愛い!」

「見てみて!あの子、リクくんに似てるね」

「私とリクくんがくっついてると、せんぱいに何か問題があるんですか?」

「おなか、すいちゃったみたい」

「ほら、リクくん。あーん」

 

 リクくんとのデート──うん、間違いなくデートだ──はすごく楽しかった。

 でも、楽しい時間はどうやらすぐにすぎてしまうモノみたい。

 二人でケーキを食べて喫茶店を出ると、時計はもう夕方を指していた。

 太陽()()が混ざって、街を赤く染め上げる。

 それはつまり、今日はもうお別れってこと。

 

「もうこんな時間なんだ」

「思ったよりのんびりしてたみたいだね」

「うん。そろそろ帰らなくちゃ」

 

 なんてことない話を続けながらリクくんと歩く。今日のこと。昨日のこと。これからのこと。

 そうしているうちに、マスターに言われた言葉を思い出した。

 ──お前のことを打ち明けてもいい──

 

 私のこと。ヤミお姉ちゃんとの関係。マスターとの関係。

 話したらリクくんはどんな顔をするんだろう。驚くのか、怒るのか、悲しむのか、それとも──。

 

「それじゃあ、俺はこっちだから。また明日ね、メア」

 

 いつの間にか分かれ道にまでついていたようで、リクくんが別れの挨拶を切り出してくる。

 言うなら、ここしかないけれど。

 

「リクくんはさ」

 

 ヤミおねえちゃんのことを知っているなら、トランス兵器であることは問題にならない。問題なのは、そのヤミおねえちゃんに嫌われちゃってること。

 リクくんにとっておねえちゃんが大切な人だっていうのは、見ていればわかる。

 

 ──私だって。

 

「リクくんは──」

 

 マスターは「あいつの本質は闇ですらない」なんて言っていたけど。そうなのかな。マスターが言うならそうなのかも。

 

「──やっぱり、なんでもないや。今日はありがとね♪」

 

 結局、私は言わなかった。言えなかったのか、言わなかったのかは自分でもわからない。

 そのまま別れようとした時、リクくんから声がかかる。

 

 楽しかったのなら、今はそれでいい。そんな風に考えたことなかった。リクくんは「受け売り」なんて言っているけど。

 

「あは!なにそれ、ヘンなの」

「そういうものなんだって」

「そうなんだ」

「そうなの」

 

 くすり、と笑いが零れる。道の先で手を振っているリクくんに、同じように手を振り返して歩き始める。

 そうして最後の曲がり角で振り返って、再度手を振る。リクくんとは距離が離れていて、あっちから私の表情は多分わからないだろう。

 だから。

 

「だいすき」

 

 聞こえないであろう言葉をつぶやく。これが、どの「すき」かはまだ分からないけど。

 でも、うん。やっぱりそうだ。

 

 ──リクくんは私の()()

 

 マスターと一緒でも、ナナちゃんと一緒でも。

 リクくんは私のもの。そう決めたんだから。

 

 

 そんな感じでリクくんと別れたのはいいんだけれど……。

 

「そろそろ出てきてもいいんじゃない?モモちゃん」

 

 私がそう言うと、電柱の影から音もなくモモちゃんが姿を現す。その顔にはいつもの完璧な笑顔が張り付いているけれど、目は全然笑ってない。

 

「いつから……というのは愚問ですかね」

「ぐ?気づいたのはペットショップかな。ガラスに映ってたよ」

 

 その時には、おねえちゃんやナナちゃんも一緒にいたと思うけど今は一人みたい。

 でも、なんで尾行なんてしてたんだろう。

 

「なんで尾行なんてしてたの?」

「なんでだと思います?」

「うーん、わかんない!」

 

 モモちゃんからしたらリクくんはむしろ邪魔なんじゃないのかな。楽園(ハーレム)計画的に。

 

「リトせんぱいならわかるけど、なんでリクくん?楽園計画的には邪魔じゃないの?」

「それは、そうですけど。でもそれはそれとして、あなたのことも警戒してますし」

「むー、信じてないの?この前約束したばっかなのに」

 

 前にも言ったけど、別にモモちゃんと積極的に敵対したいわけじゃないんだけどな。

 せっかく一緒の学校に通ってるんだし、むしろ仲良くしたいのに。

 

「それに、ヤミさんとナナが……。まぁこれはどちらかと言うとリクさんの責任ですが。本当にあの人は色々とかき乱してくれて……!

「モモちゃん?」

 

 ナナちゃんたちの名前を呟いたかと思えば、私には聞こえないくらいの小声で何やら続けてぶつぶつと呟いているモモちゃん。見てる分には面白いけど。

 

「ああ、いえ。なんでもありません」

「そ、なら別にいいけど。それで、結局なんで尾けてたのかは教えてくれないの?」

 

 私が改めて聞くと、モモちゃんは少しだけ考え込んでから口を開く。

 

「まあ、簡単に言えばあなたのことを知るためですよ」

「私の?」

「ええ。ヤミさんを誘惑し、リトさんを抹殺させようとしているあなたと、リクさんの前でのあなたはまるで違う。リクさんの前のあなたは、本当にただの女の子みたい」

「え」

 

 そんな風に見えてたんだ、私。

 

「なら、私たちだって仲良くなれるんじゃないですか?」

「うふふ、私は最初からオトモダチになりたいって言ってるよ?」

「そうではないと、分かっているでしょう?私が言っているのは「本当の意味で」お友達になりたいということですよ」

 

 私、人見知りで友達少ないですから。そう続けたモモちゃんの言葉に、胸がざわりと逆立つのを感じる。

 私は兵器だ。そう造られた。

 私は兵器だ。そう教えられた。

 私は兵器だ。そうやって生きてきた。

 

 ──兵器は人にはなれない。金色も、それをわかっているからあの態度なのさ。

 

 前に聞いたマスターの言葉が脳内に響く。そうだ、これまで私を導いてくれたのはマスターで、これから導いてくれるのもマスター。

 私のことを理解できるのは、マスターとお姉ちゃんだけ。だって、同じ兵器なんだから。

 

「言ったでしょ?私は兵器。モモちゃんたちとは違うの」

「本当にそうですか?」

「……何が言いたいの?モモちゃんと仲良くしてるのは、マスターの命令がないから。命令さえあったら、すぐに殺しちゃうんだから」

「リクさんのことも?」

 

 それは……。

 モモちゃんの言葉に、思わず声が詰まってしまう。

 

「今、言葉に詰まったのが答えじゃないですか?あなたは変われる。いいえ、もう変わっている」

「それは……」

 

 違う、と言いたい。言わなければいけない。でも、言葉が出ない。

 

「なら、私たちだって変われるんじゃないですか?」

 

 モモちゃんがじっとこちらを見つめている。その瞳に、私は。

 

「……じゃあ、せんぱいを頂戴?」

「はい?」

「リトせんぱいをくれるなら、考えてあげてもいいよ」

「あなた、何を言って──」

「無理でしょ?だってモモちゃん、せんぱいのこと大好きだもんね」

 

 くすりと笑って問いかける。

 

「そういう話ではないでしょう」

「そういう話だよ。心なんて、そう簡単に変わる物じゃないってコト。だからモモちゃんもせんぱいに苦労してるんでしょ?」

 

 そうじゃないのなら、楽園計画なんて面倒くさいことしないでいいもんね。

 

「ま、とにかく。私はマスターに教わった考えは曲げないから。それでよければこれからも仲良くしてよ。モモちゃん♡」

 

 言いたいことは言ったので、モモちゃんに背を向けて飛ぶように地面を蹴る。あっという間に屋根の上へたどり着いた私は、そのまま屋根を蹴って自分の家へと向かった。

 

 ──リクさんも、殺すんですか?

 

 わからない。マスターはきっと、リクくんを殺せとは命じないだろう。でも、もしそう命じられたら。

 私はその時にどうするのか。

 今は、なにもわからなかった。

 

「……デートは、楽しかったのにな」




評価感想などお気軽にどうぞ
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。