選ぶこと、選ばないこと   作:思い出

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違うんです
最初は#4で約束をした料理をする回を書いていたはずなんです
何故か気が付いたらまたデートしてました、不思議ですね

あと、時々出るキャラクターの私服コーデは完全に作者の趣味によるものです


#22 Wonder animal 〜思いがけずの〜

「そういえばナナ、今度の週末にそっちの家に行くんだけど、その日のお昼って何か予定ある?」

 

 ある日の放課後。ナナと雑談をしている時にそんな話を出すと、それまで楽しく話していたナナの体が笑顔のままピシリと固まる。

 

「……えっ?!い、いや、特にはないけど……なんでだ?」

 

 ナナは顔を赤くして俺と明後日の方向をせわしなく見比べながら、しどろもどろに答えた。

 

「いや、前に約束したでしょ?料理を教えるって。時間空いちゃったけど、この前美柑さんに会った時に夕方キッチン使わせてもらう約束したからさ。ナナが空いてるならせっかくだしその前に買い物とかもどうかなって」

「そっ!そそ、それって二人で……ってコトか!?」

「そりゃあそうでしょ」

 

 あわあわと驚いているナナへ答えを返す。

 

「それで、どう?」

「あ、空いてるけど……で、でもそれってデートじゃ……

「じゃ、週末に。昼前くらいに迎えに行くからよろしく」

 

 ──なんて約束をしたのが数日前。

 

 俺は約束した通りナナを迎えに結城家へとやってきていた。最早慣れたもので、何の気負いもなくインターホンを鳴らす。

 すると、すぐに扉の向こうからトタトタという足音と「今出ます~」という声が返ってきた。

 

「はい、どちらさ──ああ、リクさん。いらっしゃい」

「や、美柑さん。今日はありがとね」

「ま、私も休めるし。お互いさまということで」

 

 とりあえず入りなよ、と言って中へ戻る美柑さんに続いて玄関をくぐる。

 

「美柑さんは最近どう?」

 

 案内されたリビングでナナを待ちながら、お茶を入れている美柑さんへ問いかける。

 すると、美柑さんは心底げんなり、と言った表情でため息をつきながら肩を落とした。

 

「もーリトに振り回されっぱなし。まあ、いつものことですけど」

 

 うんざりとした顔をして答えながらも、手の動きは止まらずに動いている。

 少しして「はいどーぞ」とお茶が差し出され、次いで隣に座りながら「そういうリクさんはどうなんですか?」と質問が飛んできた。

 

「色々と考えることは多いけど充実してるよ」

 

 俺がそう答えると、何やらにやにやとした様子でこちらを覗き込みながら質問を続けてくる美柑さん。

 

「え~、それだけ?」

「と、いうと?」

「ヤミさんから聞いてますよ、()()。それに、今日もナナさんと出かけるみたいだし?そういう意味では確かに充実してるのかな」

「言うねえ。そういう美柑さんはどうなの?美柑さんくらいの歳なら興味も出てくる頃だと思うけど」

 

 俺が返すと美柑さんはすぐに顔から笑みを消し、再度深くため息をついて「聞いてくれます?」と口を開いた。

 

「私は断ったんですよ?付き合う気はないって。なのに次の週にはもう下駄箱に手紙が入ってて。人の話聞いてないのって感じですよ。ていうか一度断ったのに数週間で答えが変わるかっての」

「おお、想像以上に生々しい」

「しかも一人だけじゃないんですよ?もう断るのも面倒で」

 

 でも無視するわけにもいかないし、と続ける美柑さん。

 その後もやれクラスメイトは子供っぽすぎてそういう対象に見れないだとか、リト先輩が「あんな」だと友達を家に呼べないだとか、さっさと告白して身を固めてほしいだとかと出るわ出るわの愚痴の嵐。

 その小学生とは思えない苦労人っぷりに思わずほろりとしてしまう。

 

「大変だね……」

「ああ、いや。ごめんなさい、こんな話しちゃって」

「全然、俺でよければいつでも。こういうのって逆に親しすぎない方が話せたりするし」

「ひ、否定も肯定もしづらい……」

 

 苦笑いでそう言いながらお茶を一口飲み、ふうと一息つく美柑さん。

 

「リトも悪気があるわけじゃないのは分かってるんですけどね。もう少し落ち着いてほしいっていうか」

「悪い人じゃないのは確かなんだけど、まあアレはちょっとね」

 

 友達の家に来たかと思えばその兄に押し倒されて胸を揉まれました、なんてことになった日には次の日の学校がどうなるかなんて考えたくもない。

 

「せめてリクさんの半分でも落ち着きを持ってくれれば……、無理か」

「それを言われてなんて返せばいいのか悩むところだねえ」

 

 そんな風に二人で話を続けていると、階段からトタトタと控えめな足音が聞こえてくる。

 ナナにしては静かだし、モモ辺りだろうか。そんなことを思っていると、背後から「お、お待たせ……」と声がかかった。

 

 外れたか、などと思いながら振り返ると、そこには。

 

「……おお」

「な、なんだよ」

 

 降りてきたのは、声の通りナナだった。が、その恰好はいつもと少し違う。

 いつもの二つに結われている髪型(ツインテール)は緩やかなウェーブがかかったロングヘアとして下ろされており、その雰囲気はガラリと変わっている。

 服装もいつもの活発なパンツスタイルではなく上は少しオーバーサイズな白いサマーニット。下は黒いフリルのついたミニスカートに、同じく黒のシアーニーハイを合わせていた。

 

「いや、珍しいなと」

 

 隣では美柑さんが「おお~……」と感心したような声を上げている。

 おかしい。ただ買い出しに行くだけのはずだったのだけど……。

 そんな風に呆気に取られて黙っていると、しびれを切らしたのかナナがスカートの裾を押さえながら「何とか言えよ」と呟いた。

 

「ん……そうだね、ごめん。すごく似合ってる」

 

 俺がそう返事をするとナナは、「そ、そーかよ」と小さく返し、くるりと背を向けて玄関へ向かってしまう。

 そうして残された俺たち二人はと言えば。

 

「ナナさん凄かったね」

「ちょっと予想外だったかな」

 

 本当は食材を買いに行くだけの予定だったのだけど。そう思いながらちらりと時計を見る。

 幸い、昼前と言いつつもそれなりに早くに来ていたおかげもあって夕方まではまだかなりの猶予があった。

 

「ごめん美柑さん、一時間くらいで帰ってくる予定だったけどもっと長くなるみたい」

「まあ、あれを見ちゃったらしょうがないんじゃないかな」

 

 美柑さんもナナのあの格好は予想外だったのか、少し苦笑いを浮かべながらそう言った。

 と、そんな時。玄関から「まだか?」と声が響く。

 

「ほら、早く行ってあげないと」

 

 そうだね、と美柑さんへ返事をして玄関へ向かう。そこではナナが「遅い」と言いたげな表情を浮かべ、腰に手を当てて待っている。

 もう一度「ごめん」と謝り、二人で家を出た。

 

 

 家を出て数分。俺とナナは二人で並んで歩いている……のだけど。

 

「ナナ?」

「な、なんだ?」

「いや、そんなガチガチに緊張されても困るというか……」

「は、はあ?別に緊張なんて」

 

 どう見てもしている。しているが……。

 

 ──これ、言葉で言っても無理なやつだなぁ。

 

 まぁ、そのうち慣れるだろう。死ぬわけでもないし。そう結論付けて、移動を続ける。

 

「それで、どこに行く?」

「え?買い物じゃないのか?」

「ん……最初はその予定だったんだけど、ちょっと気が変わって。買い出しの前に少し遊ぼうよ」

 

 美柑さんには言ってあるから大丈夫、と言葉を続ける。

 対するナナはと言えば、最初は言葉の意味が理解できていなかったのか不思議そうな顔をしていたが、すぐにカッと顔を赤くする。

 

「買い出し!?」

「え、何か変なこと言った?」

 

 何やら大声を出したナナはこちらを指さして言葉を続けるが──。

 

「だって、お前!料理の、前に……買い物?」

 

 何かに気づいたように段々と言葉がしりすぼみして行く。やがて、顔を背けるように勢いよく後ろを向くと頭を抱えて唸り始める。

 

 ──大丈夫か?

 

 少しして、ナナがこちらに向き直り口を開く。

 

「あの、一応確認なんだけど」

「うん」

「買い物……っていうのは、つまり夕飯の食材のこと、なんだよな?」

 

 何やら真剣な表情でこちらに問いかけるナナ。そりゃあ──。

 

「そうだよ?」

「そっか……。うん、そうだよな!料理するんだもんな!買い出しだよな!」

 

 ナナは空笑いしながら、自分を納得させるように何度も頷いている。

 ……これは、やっぱり。

 

「んん!それで、最初はそのつもりだったけど時間もあるし、ナナが嫌じゃなければどうかなって」

 

 俺がそう言うと、ナナは「いいのか?」と返してくる。

 

「もちろん。それで、どう?」

「べ、別に時間はあるし……。嫌でもないし。……どこに行くんだ?」

「それの相談をしていたのだけど……」

「……そうだったな」

 

 少しは肩の力が抜けたのか、いつもの調子──と言ってもまだ力が入っているが──で話し始めるナナ。

 そうして二人でああでもないこうでもないと相談した結果。

 

「よし、動物園に行こう!」

「おう!」

 

 俺は知らなかったのだが、彩南町からいくつか駅を跨いだところに新しい動物園ができたらしい。動物好きなナナらしく、近いうちにメアと行ってみようと考えていたのだとか。

 場所もそれほど遠くなく、電車で数分。今の時間から行けば夕方までに帰らなければいけないことを考えても十分に楽しめる距離だった。

 

「よし、そうと決まれば行くぞリク!」

 

 先ほどとは打って変わって元気に歩き出すナナ。

 軽やかな足取りを強調するように、下ろされた髪がふわりと揺れた。

 

 

「思いのほか人が多いね」

「まあできたばっかだしな。しかも休日だし」

「それもそっか」

 

 電車に乗り、動物園へとやってきた俺たちを一番最初に出迎えたのは園の職員でもなければ可愛い動物でもなく、予想以上に混雑している人込みだった。

 

「っと、とりあえずチケット買おうか」

 

 会話もそこそこに、券売所の列へ並ぶ。回転率はいいらしく、それほど待たずに俺たちの番が来た。

 

「一日券、学生二枚で」

「はい、二枚で千五百円ね」

「二千円で」

 

 言って、お札を二枚差し出しお釣りとチケットを受け取る。片方のチケットをナナへ手渡し、中へ入った。

 チケットを受け取ったナナが「いくらだった?」と聞いてきたので「大丈夫」と返すが、ナナは「そういうわけにはいかないだろ」と食い下がる。

 

「じゃあ、また今度はナナが奢ってよ。それでチャラということで」

「ム……。まぁ、それなら……」

 

 どうにか納得してくれたナナと一緒に動物園を回る。どうやらそれなりに大きな動物園のようで、パンフレットには様々な動物のエリアが描かれていた。

 

「どこから行く?」

「そうだな……」

 

 俺が広げたパンフレットをナナが横から覗き込んでくる。

 距離が近い。ふわりと広がるスカートが俺の足に触れそうになり、下ろされた髪がゆったりとパンフレットを持つ手に当たる。嗅ぎなれないシャンプーの匂いが鼻をくすぐった。

 一方ナナはと言えばそんなことには気づいていないのか、真剣な顔でパンフレットを睨んだ後に八重歯を覗かせながら笑顔で口を開いた。

 

「やっぱライオンだろ、最初は」

「そういうもの?」

「そういうもの!」

 

 そういうものらしい。

 

 俺がそう納得していると、ナナはいつの間にか数歩先に立っており、「行かないのか?」とこちらに目線で訴えかけていた。

 

「ほら、夕方には買い物もして帰らないといけないんだから早く回るぞ」

「それもそうだね」

 

 返事をして、はぐれないようにナナの手をそっと握ってライオンのエリアへ向かう。

 小さく、「あ」という声がした。

 

 

 人ごみを通り抜けて辿り着いたオリの中では、立派な鬣をなびかせグルグルと鳴いている雄のライオンと、数匹のメスのライオンが思い思いに過ごしていた。

 特に岩山の上で歩いている雄のライオンは体も大きく、群れのリーダーであることが察せられた。

 

「おお、なかなかでっかいな」

「流石に迫力あるね」

「でもあいつ、結構目立ちたがり屋だな。今も「俺を見ろ」って喋ってるし」

「……え?」

 

 喋ってる。ライオンが。

 しかし、言われてみれば岩山の上のライオンは客の方へ顔を向けてキメ顔を作っているようにも見える。

 

「ライオンの言葉がわかるの?」

「あれ、言ってなかったっけ?あたし、動物の言葉がわかるんだ。デダイヤルにいるペット達もみんな喋って仲良くなったんだぞ」

 

 そう言って、ナナは自慢げに胸を張る。表情は得意げで、動物が心の底から好きなんだということが伝わってきた。

 

 しかし、それはそれとして。

 

「う、羨ましい……ッ!」

 

 繋いでいた手に、思わずぎゅっと力がこもってしまう。

 

「そうだろ……ってそんなに!?」

「動物が好きなのは自分だけじゃないんだよナナ」

「いや、そんなことは思ってないケド……」

 

 動物と話せたら、なんて動物が好きな人が一生に一度は絶対に考えるような能力をナナが持っていたなんて。

 驚きと羨望でついつい変な声が出てしまった。でもやっぱり羨ましい。

 そんなことを考えていると、なにやらナナが急にもじもじと自分の毛先をいじりながら、上目遣いで口を開く。

 

「べ、別にリクが話せなくてもあたしがいれば通訳もできるだろ」

「……それもそっか」

 

 その手があったか。

 

「通訳してもらいたくなったらお願いするね。いや本当に」

「おお、かつてない熱量だナ……」

 

 ウキウキ気分の俺と、それを少し冷めた態度で見ているナナといういつもと真逆の俺たちは、そのままの気分で次のエリアへと向かうのだった。

 

 

 その後も。

 

「ナナ、あの子はなんて言ってるの?」

「ああ、あいつは──」

「なんていうか、動物も色々あるんだね」

「当然だろ?ほら、早く行かないと時間ないぞ」

 

 ナナに翻訳をしてもらって動物の意外な一面を発見したり、小動物コーナーでモルモットを膝に乗せて和んだり、のびのびと暮らす動物たちを見て癒されたりなどしているうちにあっという間に時間は過ぎて。

 

「あ、リク。そろそろ帰らないと」

「え……。ああ、もうそんな時間か」

 

 気が付けば時計の針は既に三時を指しており、買い物をする時間を考えるともう帰らなくてはいけない時間になっていた。

 

「名残惜しいけど出ないとね」

「あたしが言うのもなんだけど、ホントに動物好きなんだな」

 

 ナナが嬉しそうに言う。

 

「好きだよ。動物は素直だし、難しく考えがちな俺からすると羨ましいくらいだ」

「そういうもんか?」

「そういうもんなの」

 

 出口へ向かいながら会話を続ける。人は難しい。というか、俺が勝手に難しくしているだけではあるけれど。

 その分動物に惹かれるのもあるんだろうな、と少し自嘲する。

 

「でも、やっぱ嬉しいな」

 

 そんな風に考えていると、ナナがにっこりと笑ってそう言った。

 

「嬉しいって?」

「自分の好きなものを相手も好きだと嬉しいだろ?」

「それは、確かに」

「だから、リクがそんなに動物のことが好きだってわかって……嬉しい、なって……」

 

 と、話している途中で急にナナが黙り込んでしまう。

 

「ナナ?」

「な、なんでもない!」

 

 そのまま「ほら、早く帰るぞ!」と進んでいくナナ。

 ゆったりとした足取りで後を追う。ナナは前を歩いている。いつもと違う長い髪が、太陽を受けてキラキラと輝いていた。

 

「置いてくぞ!」

 

 振り返ったその顔は真っ赤に染まっていて、俺は思わず苦笑してしまった。




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