選ぶこと、選ばないこと 作:思い出
見てみましたがめちゃくちゃに可愛かったです
唯一の問題があるとするなら私はクレーンゲームが下手だということですね
ナナの勘違いから始まったデートを終えた帰り道。
俺とナナは本来の目的である食材の買い出しのために近所のスーパーへやってきていた。……の、だけど。
「あ!リクくんにナナちゃん!……わ、ナナちゃんそんな格好もするんだ!なになに?もしかしてデート?でもなんでスーパー?」
「メア!これは、その……」
そこで、同じくスーパーに買い物に来ていたらしいメアと鉢合わせていた。
Tシャツに短パンという、近所のコンビニに行くようなラフな格好をしたメアは、見慣れないナナの格好が珍しいのか目を輝かせて質問攻めにしている。
「前にナナに料理を教える約束をしていて、今日はそれ。格好は……ちょっと遊んできた帰りだから」
「やっぱりデート?デートでしょ。素敵!今度はまた私ともしようね」
「そういうメアも買い物?」
「うん!ほら」
そう言いながらメアが見せてきた買い物カゴへ目をやる。その中身はキャンディやアイス、チョコレートなどのお菓子類で山盛りになっており、食生活の乱れを感じさせた。
同じように中を覗き込んだナナが驚いた調子でメアへ問いかけた。
「メア……もしかしてお前、これが夜ご飯か?」
「え?うん。そーだよ」
当然、と言った表情で言葉を返すメア。思わず、ナナと顔を見合わせてしまう。
「なぁ、ちょっとまずいんじゃないか?」
「確かにこれはちょっと……」
「二人ともどーしたの?」
「ん……。なぁメア、もうちょっと体にいい食事にした方がいいんじゃないか?」
ナナが心配そうな顔をしながらメアへ注意するも、メアはあっけらかんとした様子で「でも私、
それを受けたナナが、小声で「メアにも料理教えてあげないか?」と囁いてきた。
俺としては何も問題はないのだけど、俺が勝手に決めていい話ではないのも確かなので。
「ちょっと美柑さんに聞いてみるから、メアと話して待ってて」
「ん、分かった……って、美柑に?どうやって?」
「そりゃ、
言って、登録された連絡帳から「結城美柑」の番号をコールする。隣で「え!?」と驚いた声が聞こえた気がした。
そうして何度かのコール音の後、耳元に当てた携帯から「もしもし?」と美柑さんの声が聞こえた。
「どうも、美柑さん」
『リクさん、どうしたの?』
「ちょっと相談なんだけど、今日の夕食って一人増えても大丈夫かな?具体的に言うとメアなんだけど」
『……メアさん?』
俺の言葉を受けた美柑さんが電話口で小さくうなる。そのまま数秒ほど考え込んだかと思えば、小さく「これもいい機会かな」と呟いた。
『うん、大丈夫』
「ごめんね、重ねて無理なお願いしちゃって」
『今度何かお返ししてくださいね』
「任された。それじゃ」
『はーい』
これでよし、と通話を切って声をかけようと二人の方を見る。すると、なにやらナナが怪訝そうな顔でこちらの様子を窺っていた。
「どうしたの?」
「い、いつの間に……?」
「?……ああ、連絡先のこと?それならちょっと前に「ヤミさんのこととか色々話すこともあるだろうし」って」
わなわなと震えているナナを横目に、メアへ「よかったらメアも一緒に料理する?」と言葉を投げる。メアは少し驚いた表情をした後に「お呼ばれ……素敵!」と目を輝かせて了承の答えを返した。
「よし、じゃあ三人で買い物を……ナナ?」
話もまとまったし、早く食材を買って帰ろう。そう思ってナナに声をかけるが、ナナから返事はない。
そうして、どうしたのかなとナナの方へ顔を向けたその時。いきなり目の前に携帯電話が差し出された。ちゃりん、と下げられた動物のストラップが揺れる。
ずびし!とでも効果音が付きそうな勢いで差し出されたそれは間違いなくナナのものであり、それを突き出しているナナはと言えばほのかに顔を赤くしてこちらを見るばかりで口を開くことはない。
喋らないナナ。目の前にはぷるぷると震えている携帯。横にはにこにこと笑っているメア。
妙な空気が俺とナナの間に流れた。
「リク?」
「……え、ああ。そうだね」
携帯の向こうから覗き込むようにこちらを見るナナの声で我に返る。先ほどまで電話していた携帯を赤外線モードにしてナナの携帯と向かい合せる。通信中の画面が表示され、少ししてナナの連絡先が表示された。
「これでよし。で、いい?」
「え、あ。……うん」
じっと携帯の画面を見つめるナナへ声をかける。ついで、メアが背後からナナに抱き着いた。
「ナナちゃんいいな~。私もマスターに聞いちゃおっかな」
「そこは本人に聞いてほしいけど」
今目の前にいるんだから。
「え、じゃあ教えて!」
「後でね。いい加減買い物して帰らないと時間ないから」
「え~!」
今がいいのに~なんて口先を尖らせているメアを放置し、ナナへ声をかけて材料の買い出しを始める。
美柑さんからは献立は一任されているので、俺の裁量──もちろん料金は俺持ちだ──で内容を決められる。とはいえ、料理初心者のナナ、メアと一緒に作ることを考えると簡単なものが望ましい。
そして、結城家の人数分作ることも苦にならない料理。そんなことを考えながらカゴに材料を入れていく。すると、材料を見て何を作るのか気が付いた様子のナナがハッとしたように声を出した。
「もしかしてカレーか?」
「そう。市販のルーで作るなら今から作っても十分おいしいからね。簡単だし」
「おいしいの?」
「おいしいよ」
話しながら他の材料もカゴへと入れていく。玉ねぎ、豚肉、つけあわせのトマト。
そうして、すぐに材料は揃い。
「──円です」
「はい、お願いします」
支払いを終えて店を出る。ナナは動物園のチケットに続いてこちらでも俺が支払ったことに不満げだったが、これについてはそもそも最初から俺が払うと決めていたので「ナナの料理代」ということにして押し通した。
また、メアはメアで結局自分のお菓子類はそのまま購入したらしく、片手にはお菓子がいっぱいに入ったレジ袋を下げている。
「ん、じゃあ帰ろうか。急がないと夜ご飯に間に合わなくなっちゃう」
言って歩き出そうとした時、隣に立ったナナが俺が持っているレジ袋の片方に手を伸ばす。
「ほら、片方持つよ」
「重いよ?」
「あたしの方が力強いだろ……、デビルーク星人だぞ」
少し呆れた表情でナナがこぼす。言われてみれば、デビルーク星人の身体能力は地球人のそれとは比べ物にならないくらい高いんだっけか。
「……それもそっか」
女の子に力で負けている、というのは何とも言えない敗北感があるがこの場合はどうなんだろう。そもそも生物としての規格が違うのだから無効試合か……?
そんなくだらないことを考えながら三人で帰路についた。
◇
さて、そんなわけで結城家に戻ってきて。
「ただいま~」
「おっじゃましま~す!」
ナナとメアが元気な挨拶をして玄関をくぐる。二人に続くようにして俺も中へ入ると、朝と同じように美柑さんがリビングで出迎えてくれる。
「おかえりナナさん。……それと、メアさんもいらっしゃい」
「よろしくね、美柑ちゃん!」
「……よ、よろしく」
美柑さんはなにやらメアに思うところでもあるのか、彼女にしては珍しくどこかぎこちない態度で接している。
……まぁ、ヤミさんと一番仲がいい彼女であればヤミさんの妹であるメアになにかしら思うところはあって当然か。別に喧嘩をしているわけでもなさそうだし、と自分を納得させ、二人と同じように美柑さんへ声をかける。
「どうも、美柑さん。献立は任されてたからカレーにしちゃったけど、大丈夫?」
「あ、大丈夫ですよ。何が出てもリトが食べるんで」
「……それは、大丈夫と言えるのかな?」
以前から薄々察してはいたが、この家でのリト先輩のヒエラルキーは相当に低いらしい。女所帯に唯一の男、という部分も多分に影響しているのだろう。
──……哀れだ。
心の中でリト先輩に合掌していると、話し声に釣られたのか誰かがリビングへやってくる足音がして、そのすぐ後に美柑さんへ声がかかる。
「あら、美柑さん。ナナが帰ってきたん、です……か?」
声の主──モモはリビングに入ってナナの姿を見るなり声を失い、驚いた表情で俺とメアを眺めたかと思えば、再度ナナへ視線をやって「な、ナナ?その格好は……?」と問いかけた。
対するナナはと言えば、こちらも同じように驚いた表情をしてモモを見つめたかと思えば「み、見るなーッ!」と叫んでリビングから出て行ってしまう。
そうして、静寂が残されたリビングで。
「……とりあえず、晩ご飯の準備しよっか?」
そんな俺の呟きだけが空しく響いた。
◇
「とりあえず、ナナが着替えて戻ってくる前に簡単な準備だけ済ませちゃおうか」
リビングからキッチンへ移動を始めながら、メアへと指示を出す……のだけど。
「い、いやいやリクさん。さっきのナナについて説明が先ではないですか?」
モモが少し焦ったような表情で前に立ち、動きを止めてくる。珍しく、本当に驚いているようだった。
「簡単に言えば、今日一緒に出掛ける予定があって家に迎えに来たらあの格好だった」
「ナナが……自分からあの格好を……!?」
「まあ、そういうこと。というか本当に準備しないといけないから」
何やら戦慄しているモモにそう言い残して、メアが待っているキッチンへ向かう。
そのメアはと言えば、待っている間退屈だったのかキッチンを眺めたり買ってきた飴を舐めたりして暇を潰していた。
「お待たせ」
「ん、もういいの?」
「大丈夫」
放っておいても。
「じゃあ、さっきも言ったけど簡単な準備から始めようか」
そう言って、メアと一緒にカレーを作る準備を始める。鍋やまな板、包丁といった調理器具を出す「料理」とは言えないような基礎や、野菜を洗ったりといった下準備を進めているとナナが戻ってきたようで、背後から階段を下りる足音が聞こえた。
「ご、ごめん……お待たせ」
モモから勢いよく逃げた手前ばつが悪いのか、おずおずといった様子でキッチンへ入ってくるナナ。先ほどまで着ていた服からは着替えられており、動きやすいラフなシャツに短パン、髪はポニーテールに纏められていた。
「いや、準備しながら待ってたから」
「着替えちゃったの?ナナちゃん。可愛かったのに」
「う、いや。あれは……」
メアの言葉を受けてさっきのことを思いだしたのか、顔を赤くして言葉に詰まるナナ。
このままでは話が進まないので、二人の間に入って口を開く。
「あの服で料理するわけにもいかないでしょ」
「そ、そうだよ!」
「……ま、それもそっか!」
「よし!」
手をパン、と叩いて二人の意識をこちらに向ける。
そうしてこちらを見たメアと、未だにどこがぎこちないナナの二人へ「じゃあエプロンつけて手洗ってきてね」と指示を出した。
それにしても──。
「この家は料理するだけでも一苦労だな……」
なんとなく、美柑さんの日々の苦労が少しだけわかったような気がした。
◇
そうして料理を始めた……のはいいのだけど。
「ナナ、切り方は前に教えたよね?」
「お、おう!任せろ!」
「ち、力入れすぎ!」
野菜を切る時にナナが力を入れ過ぎて形が歪になってしまったり。
「なあリク、飴色ってどのくらいだ?」
「そうだね今の色は──」
「って、顔が近い!」
炒めている玉ねぎの様子を見ようとした時にナナが暴れてしまったり。
「リクくん、
「え……まあ、やってみるだけなら」
「よーし!…………ステキ!」
「ってメア!ストップ!やりすぎ!」
「つ、疲れた……」
「ご、ごめん……」
「あは、何かスイッチ入ったら止まらなくなっちゃって」
申し訳なさそうにこちらを見るナナと、「てへ」とでも言いたげな表情でこちらを見るメア。
……せめて逆じゃないか?そんな考えが一瞬頭を過ぎったがそんなことを考えている余裕すら今の俺にはなかった。
「まあ、悪気があったわけじゃないんだし」
俺がそう言うも、ナナは申し訳なさそうな顔を崩さずに口を開く。
「あ、後は煮込むだけだろ?それならあたしたちでもできるしリクは休んでろよ」
確かに、後はもう煮込むだけだ。アク取りはやる必要があるが、それくらいだったらナナでも問題なくできるだろう。
でも──。
「いや、どうせだし最後まで一緒にやろうよ」
「そ、そうか?」
俺がそう返すと、ナナはどこか落ち着きなくそわそわと体を動かしたかと思えば「な、鍋の様子見ておくナ!」とコンロの方へと行ってしまう。
「ナナちゃん、可愛いねぇ」
メアがそう呟いた。全くだ。
「そういえばメアは、初めて料理してみてどうだった?」
「え?う~ん……楽しかったかな?でも、リクくんやナナちゃんと一緒だったからかも」
そう言いながら少し汚れた自分の指先を見つめてふにゃりと笑うメア。
……そんな顔もできるんだ。そう、少し感慨に耽っているとメアが「あ!」と声を上げる。
「じゃあ、リクくんとナナちゃんと私の三人で暮らせばずっと楽しいんじゃない?」
「……そうかもね」
なかなかとんでもない提案をする。こういう突拍子もないところは、少しヤミさんに似ているかもしれない。……失礼か?
そんなことを考えていると、メアが一瞬だけ驚いたように目を見開き──その後、嬉しそうに目を細めて口を開いた。
「うふ、なーんて。ジョーダンだよジョーダン」
「ならいいんだけど」
会話が途切れる。鍋を見ているナナの背中越しに、カレーが煮込まれていくコトコトという音や、つんと鼻をつくスパイスの香りが漂ってくる。
「ナナだけに任せてるわけにもいかないし、俺たちも行こうか」
メアに声をかける。メアは返事をせず、にこりと笑いながら頷いて俺の手を取った。
◇
さて、そんなこんなで作ったカレーはと言えば。
「へえ、これナナとメアが作ったのか。美味いじゃん!……けど、なんでリクのだけ具がデコボコなんだ?」
「…………男気、ですかね」
「はぁ?」
味は美味しかったし、なんだかんだで大成功だった、と言っておく。