選ぶこと、選ばないこと 作:思い出
口調については少し悩みましたが、原作を読む限りモノローグでは敬語ではなかったのでこうなりました
正直めちゃくちゃ難しかったです
──あれ、どうしたの?財布を忘れた?へえ、大変だね。
──や、ちょっと買いすぎちゃって。よかったら食べてくれない?……ナンパ?じゃ……なくないですね、客観的に。
──まぁまぁまぁまぁ。キミはたい焼きを食べられてうれしい。俺は人に親切ができてうれしい。ウィンウィンってやつで、ひとつ。それじゃ!いらなかったら捨ててくれていいから!
──変な人。それが初めて出会った時の感想。
◇
「へえ、ここがヤミさんの宇宙船──兼、家?」
そんな声と共に、リクがルナティーク号に入ってくる。
どうしてこんなことに……と自分を責めるが、時間は巻き戻ったりなどしてくれない。
勢いとはいえ、誘ってしまったのは自分なのだから。
「はい。ルナティーク号と言います」
招き入れたものの、殺風景な部屋だと思われていないだろうか。たい焼きの袋とか、片付け忘れていないだろうか。
そんな余計な心配ばかりが頭をよぎる。
きっかけは帰り道。本当ならただ「ありがとう」とだけ告げて別れようと思っていたのに、思わずいつものように話を続けてしまって。
……というか、なんで
もしかして、あれはダークネスを止めるためにやっただけで実は……とか考えていたり……?
そんなことを悶々と考えていると、私が帰ってきたことを察知したルナの声が船内に響く。
「お、帰ってきたんですねマス……ヤミちゃん。って、あれ、ソイツは……」
「はい、彼がリクです。リク、この声はこの船に搭載されているAIのルナです」
「AI……なるほど、それなら一人でも問題なく操縦できるのか」
「ええ、優秀なAIですよ」
「どうも、気軽にルナとでも呼んで欲しいッス」
よろしく、などと言いながらルナと会話を続けるリク。やはりその姿はいつも通りにしか見えなくて、思わず半目になって睨んでしまう。すると、そんな私の様子に気が付いたリクが「どうかした?」などと聞いてきた。
「いえ、なんでもありません」
「そう?ならいいんだけど」
どうかした?じゃないでしょ。そんなことを考えていると──。
「ところで、ヤミ
今までは「さん」だったのに、急にそんな風に呼んでくる。思わず心臓がどきりと跳ね、声が上擦ってしまう。
もしかして、やはり昨日のは……、なんて少し期待しながら返事をすると。
「な、なんですか急に」
「いや、AI──ルナにそう呼ばせてるんだって」
……はぁ、いえ。勝手に期待したのは自分なんだから、何も悪くはないのだけど。
「ええ。まあ、いつまでも「マスター」では味気ないので」
私がそう答えると、ルナが「あれ、でも結構強引だったような──」などと話し始めたので名前を呼んで黙らせる。そんな事実はないのだから。
「ルナ」
「はいッス」
「おお、力関係」
「リクも、バカなこと言ってないでその辺に座っていてください」
言って、リクを椅子に座らせて冷蔵庫から飲み物を取り出す。……と言っても、精々がミネラルウォーターくらいしか入っていないのだけど。
──こんなことなら、もう少し買っておくべきだったかな。
そう思うも、ないものは仕方ないのでコップに水を注いで部屋に戻った。
「どうぞ。水ですが」
「ん、ありがとう」
コップを手渡し、椅子──は、リクが座っているので、ベッドの端に腰を下ろす。何とも言えない沈黙が場を包んだ。
「……」
「……」
──せ、折角誘ったのだから、何か楽しい話でもしなければ……。
そう思うも、話題が思いつかない。楽しい話……どんな?
私ができる楽しい話って何があるんだろう。思えば、いつも会話を振ってくれるのはリクだったような気もする。
──しかし……。
ちらり、とリクの方を見た。渡した水を飲みながら、何やら興味深そうにちらちらと船の中を見渡している。
──そんなに見る物はないと思うのだけど。
そんな風に思っていると。
「ヤミさんって」
「はい?」
「普段何食べてるの?」
え、なんでそんなことを?……やはり水だけというのは少しまずかったのかもしれない。
せめてお茶くらいはあればよかったのだけれど……。
「普段は、別に見ている通りです。大体たい焼きで、たまに美柑の料理を」
そう答えると、リクは何やら小声でぶつぶつと呟きだす。その声は小さく、所々しか聞き取れなかったけど「でも」だとか、「地球人じゃないから」などと言っている。
やがて声を止め、こちらを見たリクは「嫌だったら断ってくれてもいいんだけど」と前置きをして、言葉を続けた。
……何を聞くつもりなんだろう。
「ええと、もしよかったら何か作りに来ようか?」
「作りに?」
誰が、何を?
リクが、料理を。
「なっ!……なんでですか?」
「いや、なんて言うか……心配で?」
「心配?」
別に食事に問題はない。ちゃんと食べているし。
「ヤミちゃん、リクさんが言ってるのは栄養バランスの話じゃないですか?ほら、リクさんは地球人ッスから」
「ああ、なるほど」
そういえば、美柑もよく言っていたっけ。「たい焼きばかりじゃなくてちゃんとバランスよく食べないとダメだよ!」とかなんとか。
……その時は確か、
私は人間ベースだから多少の影響はあるけど、無視できる範囲だし。
「リク、提案はありがたいですが大丈夫です。私たちにとって食事は──」
「あくまで効率のいいエネルギー補給にすぎない、でしょ?でも、どうせなら美味しい方がいいんじゃない?」
「それは、そうですが」
まぁ、どうせ食べるなら美味しいものの方がいいというのは確かだ。だからずっとたい焼きを食べているわけだし。
というか随分と私たちについて詳しい……。いや、別にこれは自意識過剰とかじゃなくて……って、私は誰に言い訳してるんだろう。
「別にいいんじゃないッスか?リクさんの生体データは覚えましたし、彩南町の中からだったらいつでも転送できますよ」
「そういう問題じゃないでしょう、ルナ。というか勝手にデータ登録をしないでください」
「え、でもどうせまたくるんですよね?」
「まだそうと決まったわけでは──」
と、言いかけて口を止める。ここで否定したら、もう二度と招待しないと言っているようなものなのではないだろうか。
いや、そんなつもりはない。けれど、ここで当然のように生体登録を行われて「また来てください」と言うのも何か違うというか……。
そんな風に考え込んでいると、その様子を見たリクは私が嫌がっていると思ったらしく「ごめん」と言いながら口を開いた。
「嫌なら忘れてくれていいんだ。ちょっと出しゃばっちゃったね」
「ルナも、データは消しといて」「え、はい。了解ッス」などと会話をする
「べ、別に嫌とは……言ってない、です。リクの料理は、私も好きですから」
顔が熱い。思わず視線を横にずらしてしまう。小さな笑い声が聞こえた気がした。
「じゃあ、結局リクさんのデータは登録したままでいいんですか?」
「……ええ。お願いします、ルナ」
「了解です。素直じゃない──」
「ルナ、調子に乗らないように」
「はいッス」
最近、ルナがなんだかおかしいような気もする。一度しっかりと教育したほうがいいのかもしれない。というか、私よりもリクとウマが合っているようにも見える。……気に入らない。
そんな考えが脳裏をよぎったが、すぐに頭を振って追い出した。こんなことを考えているから、ネメシスに騙されて
というか、あの時のことは全部暴走していたせいであって私の本心じゃないし、発言も行動も全部ホントの私じゃないし──。
「それに、そもそもリクとは
「俺が……なに?」
いつの間にか声に出してしまっていたようで、リクがきょとんとした顔でこちらを見ていた。薄くかかった髪から、琥珀色の瞳が私を見つめている。幸い、名前以外は聞かれてはいなかったようだけど……。
「……なんでもありません!」
何を考えていたのか、なんて言えるわけもなく。
赤くなった顔を逸らすことだけが、今できる精一杯の抵抗だった。
◇
その後は──。
「へえ、それでどうなったの?」
「逃げ足だけは速かったので少し苦労しましたが、先回りをして捕まえました」
今までの話を──。
「ミカド先生とはそんなに長いんだ」
「そうですね、数年来の付き合いです」
少しずつ──。
「正直、最初に見た時はコスプレなのかなって思っちゃった」
「コスッ……!?そんなこと思ってたんですか?」
──まぁ、いい話も悪い話もあったけど。……それにしても、コスプレですか……。
そして、気づけばコップの水が空になるまで話し込んでしまって、窓から見える街はすっかりと宵闇に包まれていた。
「あ、もうこんな時間ですね」
「ほんとだ、まっくら」
流石にそろそろ帰らないと、と窓の外を眺めながらリクが呟く。帰る。当たり前だ。でも、私は──。
「リク、今日は──」
私の声を受けてリクが振り向いた。さっきまでと同じように、琥珀色の瞳が私を射抜く。
私は、帰って──。
「──送ります。外はもう暗いですから」
「うん、ありがとう」
ルナへ声をかけて、リクの家の近くへと転送させる。視界が光ったかと思えば、一瞬で外の景色が目に飛び込んでくる。
「今日はびっくりしちゃった。まさかヤミさんが誘ってくれるとは」
歩きながらリクと話す。最初は何を話せばいいのかもわからなかったのに、今となっては会話が終わってほしくないと思う。
違う。会話だけじゃなくて──。
「ヤミさん?」
「え、はい。すみません、ちょっと考え事を」
「珍しいね。ヤミさんがぼーっとしてるの」
「そうですね、少し気が抜けていました。それで、どうかしましたか?」
私がそう聞くと、リクは「いや、どうかしたというか……」と少し困惑した様子を見せ、ついで目の前の家を指さして「ほら、もう着いたよって」と言った。
「だから、送るのはここまでで大丈夫。ありがとね」
「……いえ、私がやりたくてやっていることですから」
そう返す。本当は、少し違うのかもしれないけど。
どちらにせよ、家に着いた以上ここでお別れということになる。「それでは」と小さく挨拶をして、帰ろうとしたその時。
「あ、ヤミさんちょっと待って」
「はい?なんですか?」
「すぐ戻るから、玄関で待ってて。外はちょっと寒いし」
「それは、構いませんが」
私が答えるや否や、リクは家の中へと入っていく。一体何があるのだろうか。
そんなことを考えていると、本当にすぐにリクが帰ってくる。そして、そのまま「はい、ヤミさん」という言葉とともに、何かを手渡してきた。
その何かとは──。
「鍵、ですか?」
「うん。ウチの合い鍵」
「リクの家の……?!な、なんでこんなものを?」
「いや、俺だけが
大したことではなさそうに、あっけらかんとそんなことを言うリク。それどころか「まあ俺がいない時も入っていいから」とか言っている。警戒心とかないんだろうか。……ないんだろうな。
「まぁ、使うかどうかはわかりませんが受け取っておきます」
「うん、よろしく」
「じゃあ、私は帰りますね」
そう告げて踵を返し、玄関を出る。その時、またしても背後から声がかかって。
振り返ると──。
「ヤミさん、おやすみ」
「……はい、おやすみなさい」
何故だかわからないけど、今日はいつもよりもよく眠れる。そんな予感がした。
◇
「あれ、ヤミちゃんご機嫌ッスね」
「別にいつも通りですよ」
「いや、明らかにバイタルが──」
「ルナ」
「はいッス」
そんなことは、ない。
ないと言ったらない。
……ないんだから。