選ぶこと、選ばないこと 作:思い出
#EXTRAはその名の通り番外であり、本編とは関係したりしなかったりします。
深く考えず、一話限りのお楽しみとしてお読みください。
「おい、リク!はやくしろ!」
「ほらリトさん、あっちはどうですか?」
「ちょ、モモ!腕、腕が!」
少し先ではナナがこちらに向かって手を振っている。その隣ではモモがリト先輩に腕を絡めて楽しそうに歩いていた。
ナナはいつものツインテールではなくポニーテールに結っており、その動きも相まってより活発な印象を受ける。
さて、俺たちがどうして四人で出かけているのか。それは数日前、モモから伝えられたとある企みが始まりだった。
◇
「リクさん、私とナナって双子なんですよ」
放課後、二人で日直の仕事をしていた時のこと。黒板を拭いていたモモが唐突にそんなことを言ってくる。
「どうしたの、今更」
「つまり誕生日が同じってことですよ」
「……そりゃそうだよね」
双子なんだから当然だろう。むしろ双子なのに誕生日が違う方が怖い。
「ところでリクさんはナナへのプレゼントとかって考えてるんですか?」
「……その話の後にそれを言われると、催促にしか聞こえないんだけど?」
「あらやだ。そんなはしたない子じゃないですよ、私」
にこにこと人好きのする笑みを浮かべてそう言うモモ。……どう見ても何か企んでる時の顔だな、これは。
「で、何をするの?」
「ダブルデートをしましょう」
ダブルデート。カップル同士で出かけること。それは知っているが。
「誰と?」
「私とリトさんと」
「誰が?」
「ナナとリクさんが、ですよ」
なるほど。
「プレゼント?」
「ええ。私はリトさんとデート出来て嬉しい。ナナはリクさんとデート出来て嬉しい。でしょう?」
「だとしたら光栄だけどね」
まぁデートをすること自体に否はない。ないけれど……。
「ナナにはどう説明するの?」
「そこはお任せを♪」
◇
と、いうわけだった。
結局モモがどうやってナナに説明したのかは分からないが、事実としてナナが楽しそうに笑っているのならまあそれで十分だろう。
「おい!」
「わっ」
どうやら少し考えこみすぎていたようで、しびれを切らしたナナが俺の腕を掴んでくる。細くしなやかな指先がどこかこそばゆい。
「さっきから呼んでるのに、ぼーっとしやがって」
「ごめん、ちょっとね」
「ほら、行くぞ。遅れるとモモがうるせーからな」
言って、手を掴んだままずんずんと歩き出すナナ。背中ではポニーテールと尻尾が楽しそうに揺れている。それを見て俺は──。
「そうだね。早く行こうか」
と、それだけ返し、手首を握っているナナの手を取って二人のいる場所へ歩き出すのだった。
「遅いですよ、リクさん」
「ごめんごめん」
全く怒っていない表情のモモに謝罪をする。実際たいして気にしていないようで、謝罪を受け取ってすぐにナナの方へ目を向けて話を続けた。
「で、ドコから回るんだ?」
「そうね……、リトさんは何がいいですか?」
「えっ、そうだな……。まずは無難にライド系でいいんじゃないか?後になると並ぶ人も多くなっちゃうし」
手に持ったパンフレットを見ながら計画を立てていくリト先輩。その最中も腕は組んだままだが、気にしないようにしたらしい。
……それにしても。
「詳しいんですね、先輩」
「ああ、美柑と何度か来たことがあってさ。ウチ、親が忙しいから」
「流石ですね」
「流石って……大げさだな」
そうだろうか。俺としては素直な感想だけど。
「アトラクションも決まりましたし、とりあえず歩きましょうか」
モモの言葉を皮切りに、最初に乗るものを決めた俺たちはさっそく移動を始めた……のだけど。
「ほらリトさん、恥ずかしがってないで
「わ、わかったってモモ!」
モモが俺とナナをちらりと見つめてからそんなことを言って歩いていく。あまりにも露骨だ。モモらしいと言えばかなりらしいけど。……問題は。
「……」
耳を少し赤くしてぷるぷると尻尾を震わせているナナだろうか。俺から何か言うと逆効果だと思うので黙っているが、どうしたものか。
そんなことを考えていた時。ナナは小さくため息をつくと、微かに──だけど確かに──俺の手を握り返してくる。
「ほら、行くぞ。またドヤされちまう」
「え、ああ、うん。そうだね」
「……はぐれると、いけないからナ」
「何か言った?」
「なーんでも」
ぼそりと呟かれた言葉は耳に届く前に遊園地の喧騒に掻き消え、残ったのは笑顔で手を引くナナの姿だけだった。
◇
それから俺たちはリト先輩の案内で園内を回った。
最初に乗ったジェットコースターでは隣のナナが出発前から妙に楽しそうにしていたと思えば、落下する瞬間には俺の声が聞こえなくなるくらい大声ではしゃいでいた。降りた後もけろりとしていた辺り、流石というべきなのだろうか。なんなら乗る前より元気になっていた気すらする。
一方でリト先輩はというと、モモに引っ張られるままコーヒーカップへ連れ込まれ、全力でハンドルを回し始めた彼女に散々な目に遭わされていた。あれはどう見ても密着するためにわざとやっていたに違いない。その証拠に降りた後いやに満足気だったし。
アトラクションを楽しんだ後は園内のレストランで昼食を取った。二人の誕生日ということで俺とリト先輩が支払いを持ったのだが、思いのほか──観光価格だ──出費が痛かった、とだけ残しておく。
「美味かったナ、リク!」
「そうだね」
「ありがとうございます、お二人とも」
「いいっていいって、いつも世話になってるし」
……まぁ、誕生日の主役たちは満足してくれたのだから安いものだろう。本当に。
昼食後もそんな調子でいくつかアトラクションを巡り、気づけば空はゆっくりと茜色に染まっていって──。
「あ、リトさん。そろそろパレードみたいですよ」
「ん……ああ、ホントだ。見るならそろそろ場所取ったほうがいいかもな」
「えー、それよりももっと乗ろうぜ。他のヤツらがパレード見るならその分乗れるだろ?」
モモの提案にナナが口を尖らせてそう言った。本当に底なしの体力だな……。
「ちょっとナナ、風情ってものをわかってないわね」
「風情よりも楽しむ方が大事だろ」
「ま、まぁまぁ二人とも……俺はちょっと疲れたし、休憩がてら見てもいいんじゃないか?」
「こんくらいで疲れたのかよ、だらしねーなあ。リクはどうする?」
少し呆れた目でリト先輩を眺めていたナナがこちらへ話を振ってくる。俺としてはそこまで疲れてはいないけど……。
「せっかくだし見てみようよ」
「ほらナナ、三対一よ」
「えー……ちぇ、しょうがねえな」
その言葉が決め手になり、俺たちはパレードを見るための場所取りに移動した。幸いなことにそれほど時間もかからずに開いているスペースを見つけることができたので、四人でシートを敷いて座りこむ。
「あーあ、もっと乗れたのになあ」
「まぁナナには退屈かもしれないけど、見たら意外と面白いかもよ」
少し不貞腐れて愚痴をこぼすナナ。それを宥めつつ話をしているといつの間にか茜色だった空は薄闇色に変わっており、遠くからはパレードの華やかな光と楽し気な音楽が響き始めた。
「あ、来ましたよ」
聞こえていた音楽が大きくなり、やがて通路の向こうから光に包まれたダンサーたちが姿を現した。衣装のあちこちに付けられた電飾が暗くなった園内でやけに目立ち、踊りながら回るたびに色とりどりの光が円を描いている。
その後ろからは、これでもかというくらいライトで飾られた巨大なフロートが続いていた。
「久々に見るけどやっぱ綺麗だな~」
リト先輩が呟いた。その言葉の通り、華やかなパレードはとても綺麗で思わず目で追ってしまう。
……のだけど。
──そういえばナナが静かだな。
そう思い、ちらりとナナの様子を窺う。
先ほどまでは退屈そうに通路を眺めていた顔はパレードの光に彩られ、その視線はダンサーやフロートに釘付けになっている。口からは言葉にならないため息のようなものが少しずつ漏れ出ていて、紫色の瞳がきらきらと反射して輝いている。
そして、それはパレードが終わるまで変わることはなかった。
◇
「け、結構綺麗だったな!」
「……うん、綺麗だった」
パレードも終わり、四人で園内を歩きながら話す。もうすっかり日も暮れていて、閉園まであと少しの時間になっており他のお客たちもちらほらと帰りのゲートへ向かっている。
「ほら、見てよかったでしょう?」
モモが得意げにナナを見ながら言った。ナナは素直に認めるのが癪なのか、もごもごと言い返しながら顔を逸らしている。
そんな時、リト先輩が携帯を見ながら「あ」と呟く。
「そろそろ帰る時間だな」
「リトさん。最後にあれ乗りませんか?」
そう言ってモモが指さしたのは、宵闇の中で輝く観覧車だった。
「観覧車あ?」
「ええ。上から見る景色もきれいだと思うわよ?」
「……ま、最後くらいはいいか」
先ほどのパレードの影響か、ナナも強く反対せずに観覧車へ向かった……のはいいんだけど。
「じゃあ、私はリトさんと乗るから」
「は?」
「あ、二人ずつでお願いします~」
「ちょ、待っ」
乗る直前にそんなことを言い、すぐにゴンドラへ乗り込んでしまうモモ。ナナが言葉の意味を理解する前にゴンドラの扉は閉まり、次のゴンドラがやってくる。
「ナナ、乗らないと」
「……え!?ああ、そうだナ?」
状況を飲み込めずにいるナナの手を取ってゴンドラに乗り込んだ。すぐに扉が閉められ、ゆっくりと上昇していく。向かい合って座っている俺たちだったが、ナナは未だに黙り込んでいた。
「綺麗だね」
窓の外を見ながらつぶやく。下を見れば、既に遠くになってしまった遊園地の夜景がきらきらと輝いている。昼間の喧騒が嘘のように静かだった。
「今日は楽しかったね」
「……そうだな」
少しして、ナナも同じように外を眺めながら言葉を返してきた。窓にナナの顔が映りこむ。
「モモから急に誘われた時は何かと思ったけど」
「なんて言われたの?」
「……秘密」
「そっか」
会話が途切れ、カタカタとゴンドラが揺れる音だけが響く。気が付けばそろそろ頂点に近くなっていた。
……いいタイミングか。
「ナナ」
「ん、なんだ?」
「これ」
はい、と言いながら鞄から取り出した紙袋を手渡す。訝し気にそれを受け取ったナナが視線で「開けていいのか?」と聞いてきたので頷いて返す。
「これって……ブレスレット?」
「うん」
「わざわざアタシに?」
「プレゼントなんだから、当然」
モモは「ダブルデートがプレゼント」と言っていたけれど、流石にそれだけで済ませるわけにもいかないので選んでおいたのだ。渡したのは猫の意匠があしらわれたブレスレット。
ナナと言えば動物という安直な発想ではあるが、様子を見るにそれなりに喜んではくれているらしい。
「つけてみていいか?」
「もちろん」
俺が答えると、すぐに袋から取り出して右手首に着けるナナ。そうして着け終えたかと思えば、右手を顔の前に翳してブレスレットを眺めている。カチャリと金属が擦れる音が心地いい。
「猫か、カワイイな」
「気に入って貰えてよかったよ」
「そりゃリクのなら──じゃなくて、折角のプレゼントだからな!」
赤い顔のまま笑顔でそう言うナナ。そこまで喜んでもらえると贈った側としても冥利に尽きるというものだ。……そういうことにしておこう。
そんな話をしている内に頂点を過ぎたのか、ゴンドラはゆっくりと下降を始める。遠ざかっていた地面が段々と近づいてくる。あと数分もすれば下に着いてしまうだろう。
だから、というわけでも……ないのだけど。
「ナナ」
「なんだ?」
「誕生日、おめでとう」
そんな俺の言葉と共に、ゴンドラが少しだけ大きく揺れた。
◇
「ありがとうございました、足元にお気を付けて!」
そんなキャストの注意を聞きながら、二人でゴンドラから降りる。モモとリト先輩は当然先に降りて待っているようで、少し歩いたらすぐに見つかった。
「あ、二人も降りたんですね」
「うん、景色が綺麗だったね」
「……景色だけでしたか?」
ニヤニヤと笑いながらそんなことを言ってくるモモ。その視線はリト先輩と話しているナナの右手首に固定されており、いかにも楽しそうな顔をしている。
「ノーコメントで」
「残念。でもプレゼントは渡せたようでなによりです」
「……言ってたっけ?」
「リクさんが本当に私の提案だけで済ませるとは思っていなかったので」
どうやらバレていたらしい。まぁ別に隠すようなことでもないからいいのだけど、こうも当たり前のように言われると流石に気恥ずかしいものがある。
「まぁ、そういうわけで、はい」
「あら、私にも?」
「当然」
「ありがとうございます。帰ったら見させてもらいますね」
言って、手渡したプレゼントをそのまま鞄へしまうモモ。そうして会話もそこそこに二人へ声をかけ、閉園間際となった遊園地から退場して──。
「すぅ……」
「あんなにはしゃいでたくせに……おこちゃまなんだから」
「はしゃいでたからじゃないか?」
そんな気の抜けた会話をしながら帰路についたのであった。