中古ショップで初音ミク売ってて草w 作:すとろー
「いらっしゃいませー」
中古ショップに来た。
ギターを始めようと思ったからだ。
いわゆる作曲家みたいなことをしているのだが、この前投稿した曲に「このギター、ギター弾いたことがないやつが打ち込んだだろ!w」とか「ピアニストのギターすぎ」とか書かれたことを気にしているわけではない。
もちろん、高校時代に軽音部に入ったにも関わらず、陽キャたちがギター始めて乗り遅れて、優しい先輩がドラムを教えてくれたからそのまま3年間ドラムやっていたから若干コンプレックスがあるわけでもない。
ドラムがいなければバンドは成り立たないし、EDMなんかはギターの地位よりドラムの地位の方が高いからDTMをこっそり始めたのも全然違う。
マイエンジェルがロックを歌わせて欲しいな~と言っていたのも別に違う。……いや、これはちょっとある。
だけど大学入ってだいぶ経ち、もう3年生になったがモラトリアム期間を延長するために進路を進学に決定したため、就活をサボって暇な今ならギターの練習ができるかな……と思っただけなのだ。
正直ギターの良し悪しなんて分かるわけない。
ネットで情報が色々あるが、信頼しているアーティストはとりあえず見た目が気に入ったやつにしてみましょうと言っていた。
なるほど。
というわけで実物を探しに来たのだ。
楽器屋に行けよという話があるかもしれないが、近くに楽器屋なんていうものは残念ながら無い。
あるにはあるのだが、そこそこ遠いし、なんか初見さんいらっしゃいの空気感じゃないのだ。あの初心者を寄せ付けない雰囲気に一人で突っ込める覚悟があれば、大学生にもなって一人で曲を引きこもって作っているわけがないのだ。もっとキラキラしたカフェテリアとかでギターケースからMacBookを取り出して、仲間たちと歌詞の相談をしているに違いない。
そんなこんなで入りやすい中古ショップに来たのだ。
ちょっと前にバンドアニメが流行ったから、それを機に始めたけど挫折して手放された悲しきオタクの墓標のようなギターを探しに来ただけ……という言い訳も考えてある。
完璧な計画だ。
楽器コーナーは、こっちか。
知ってるメーカーから知らないメーカーの大小それぞれのスピーカーたちの間を抜けると、楽器コーナーがあった。
ギターは、そりゃたくさんあった。
うーん。
わからん。
いや、流石にギターやベースの違いは分かる。
値札のところの商品名の後ろになんか色々書いてあるやつは、通常モデルとは微妙に違う付加価値がある系の奴だってこともわかる。
だけど、音はわからない。音で勝負しているのに、音が聞けないのだ。
ギター弾ける人間だったら、試奏とかできたのかもしれないが、こっちはなんもわからん初心者だった。
ま~、これだから最初は見た目で選べってことか。
とりあえずシンプルイズベストの精神で、水色の可愛いギターを買うことにした。
お値段、4万。そんなもんか。
こういうのって店員さんにこれ欲しいですというべきなのか、自分でカウンターまで持っていくのかよくわかんないよな。
とりあえず、安牌で店員さんを呼びに行くのが正解だろう。
そう思って、突き当たりまでいって、左右を見渡した時に、
──そいつと目が合った。
「初音ミク……か」
ただこっちをじっと見つめてくるそいつは、ボーカロイドと呼ばれる歌唱がメインコンテンツとして開発・発売されたアンドロイドだった。
初期型はかなり高額で、一般人には手に入れられないようなものだったが、徐々にお求めやすくなってきて、だいたい軽自動車が買える程度の値段で買えるようになったのだ。
実物を見るのは初めてではないが、中古ショップで売っているのは初めて見た。そもそも中古ショップなんてなかなか来ないわけだが。
軽く手を振ると少しキョロキョロとした後に、自分に指を差して首を傾げた。
そうだ君だぞ。軽くうなずくと、俺の十分の一ぐらいの幅で本当に軽く手を振った。恥ずかしがり屋なのかもしれない。
気になったので近づいて見てみる。
目立った傷はないし、なんならめちゃくちゃ美しい。前のマスターに愛されてた系か、それともこの店の人が手入れ頑張っているか。
丸椅子に座っていたミクちゃんだが、その近くの壁に値札と説明が書いてある。
最近ニュースでアンドロイドに人権をみたいな活動をしているのを見たので、なんか近々ここは奴隷商みたいになっちゃうんじゃないか? という謎の妄想を抱えつつ値段を見ると……。
20万!? 安すぎないか?
え~っと、ジャンク品……。声が出ない。
「ミクちゃん、声が出ないのか」
そう声を漏らすと、悲しそうな目で頷いていた。
うっ……。心苦しい。
歌うために生まれてきたのに、歌えないのか。
音楽と生きるために生まれてきた俺が、音楽ができなかったら……と想像するだけでも苦しい。
っておいおい。ギターを買いに来たところだった。
情に絆されて、ついつい20万が消し飛ぶところだったぜ……。
軽くごめんねと思いながら、サヨナラのバイバイをする。
手をこちらに伸ばして待ってと訴えかけられる。
うぅ……。ごめんな、ミクちゃん。
音楽にあふれた俺の家じゃ、ミクちゃんを苦しめるだけだから……。
声が出ない状態で音楽に触れさせるのは厳しいっしょ……。俺は嫌だぜ、その生殺し感。
何で私は歌えないんだろうってなっちゃうよな……。
俺の家にも先住ドロイドさんがいるので、その子と比較したら悲しくなっちゃうだろうから……。
ま、待って……
「すみません、店員さん」
「はい、なんでしょう」
「えっと、このギターと……初音ミクください」
買ってしまった……。
レジの横のカウンターでガラス張りのショーケースの上で必要書類を書いていくと何故か買ってしまったことを実感させられていた。
アンドロイド処理法やアンドロイド契約法、機械式人形暴動防止法などなど、色々と面倒なのだ。
これでも、過去に何度か経験しているので、一部は省かれるので楽な方だ。
書き終え、ライセンス更新がされると、正式にこの初音ミクは俺のものになった。
なんか声が聞こえた気がするんだ。
科学が発展しまくったため、オカルトに飢えだした現代人の鑑すぎる。
でも実際問題、あのままだと今夜は安酒パーリナイを開催して、何で買わなかったんだ~と後悔しながら眠れず、朝を迎えてから寝て明日の3限に遅刻するという最悪の未来が見えた。
しょうがないったら、しょうがないんだ。
最後に隣で中古のギターを抱えてそわそわしているミクちゃんのうなじ付近にある外部入力受付部分に、更新されたライセンスカードを差し込んで、契約が切り替わった。
これで、我が家の一員になった。
「よし! 帰るか!」
「!」
軽くこぶしをあげて、おー! と表現するミクちゃん。
アンドロイド精神保護法みたいな謎の法によって、最近人格削除ができなくなったので、この子は前の持ち主さんとの記憶はちゃんとある。
声が出ないけれども、なにか人間に怖がるとかはないので、可愛らしい同居人が20万円で増えたと考えよう。トラウマとかなさそうでよかった。
電気代は増えるだろうけれども……。まぁ、頑張りますか。
ちょっと何で声が出なくなったのか気になるところではある。
故障とかだったら直してあげたい気持ちがかなりある。
修理代、正規は高いんだよな~。非正規は何されるかわかったもんじゃないから頼めないんだけどさ。
そう考えながら、店を出て駐車場に着き、原付にたどり着いて気が付いた。
アンドロイドと2人乗りって道交法違反か?
まぁ、2人乗り判定じゃなくても何かしら引っかかってそうではある。
……歩くか。
「ミクちゃん、歩ける?」
もちろん!
と、言ったように頷いたので、帰り道の1.8kmの道のりを原付を押しながらゆっくりとミクちゃんと歩いて帰った。
ギターは申し訳ないが、ミクちゃんに持って歩いてもらった。
ギターの水色のフレームと髪の色がとっても似ていて、ちょっと運命を感じた。