中古ショップで初音ミク売ってて草w 作:すとろー
一応説明しておくと、作中では悪い人は出てきません。
「じゃあ、レポートの提出期限は明後日の23時59分までだから、遅れずに出すように」
はぁ……。やっと終わった。退屈な授業が終わり、学生たちが立ち上がって退室していく。
講義の最後に出された課題を終わらせて暇だった俺も、提出ボタンを帰ってから押すことを決めて立ち上がる。週に3つしか授業を入れてないが、逆に行く気が無くなって出席が億劫になる。単位をほとんどとって慢心して何かで逃して、卒業できないみたいなことだけ無いようにしたい。
大学に友人と呼べる友人はいない。
入学当初は作曲サークルに所属していたが、活動は少なく、たまに集まってアルバムを作るぐらいっぽかったので、自然に辞めてしまった。ネットで結構ガチで活動してるのとか言いにくかったし。
ボーカロイド研とかもあったけど、そこに入ってテトとの時間とかが減ったら本末転倒かな……と思い入らず、結局ぼっちだった。なんだかんだ3年までやれてしまったので、もう今更感がある。このまま研究室に配属されるまでは、ぼっちだろう。
今頃、テトとミクちゃんは何してるかな? たぶんドラマ見てるかギター弾いてるかのどっちかだと思う。俺がいなくても楽しそうにやってるので大丈夫だろう。
まぁ、帰るか~と思って、駐輪場に向かいバイクに乗ろうとすると、こっちに駆けてくる人がいることに気が付いた。誰だろっと思って顔を上げると目が合い、相手が気まずそうにしている。見たことがない女子大生だ。おそらく大学生。同年代の見た目をしている。
俺に用があるとは思えないが、どうかしたのだろうか。
「あの……」
「えっと……俺ですか?」
その言葉に頷いた。本当に俺だった。
「はい……あの、2週間前ぐらいに、ミクちゃん……えっと初音ミクを隣町の中古品店で買ってましたよね?」
「確かにそうだけど……えっと?」
目の前の見知らぬ推定大学生を見て、不思議に思う。なぜそんなことを聞いてくるんだろうと。なんかヤバいことでもあったか?
「その……、自分はあそこの店でアルバイトしてるんですけど、ミクちゃんの前の持ち主さんから渡しておいて……って言われたのを忘れてて」
「それで俺を?」
「……はい。迷惑でなければ、受け取って欲しいんです。あっ、もちろん値段とかは取りませんよ!?」
なるほど。探していた理由はなんとなくわかった。正直怪しすぎるんだが、身振り手振りでてんやわんやしながらこっちに説明している様子を見ると、騙している感じではなさそう。むしろ大きいミスしちゃって、バイト外でなんとかしようとしている時間外労働者のように見えてきた。ちょっとかわいそう。
これで騙していたのなら女優さんを目指した方がいいだろう。悪い人ではなさそうなので、信じてみることにしよう。
「それは……わかりました」
「ほんとですか! あぁ、よかった……」
「で、その受け取って欲しいものって何なんですか?」
「えっと、その、ギターです」
ちょっと点と点が線でつながった気がした。たぶんそれってミクちゃんが使ってたやつでしょ。
ギターは店員さんの自宅で保管しているというので、そのままついて行くことにした。大学から徒歩で行ける距離らしい。原付を押すのは面倒なので、大学の駐輪場に放置している。
だれかとこうやって歩くのは、ミクちゃん以来だ。大学3年目にして誰かと大学から歩いて帰ることになるとは、人生何があるかわからない。
「ミクちゃん、元気にしてますか?」
「元気ですよ。最近は食べるのが好きみたいで」
「そうなんですね。……よかった」
元気だろう。テトともウナとも仲良くやってる。
最近はご飯の準備の手伝いもしてくれるようになってきた。相変わらず朝が弱いので、昼ご飯と夜ご飯だけだけど。
「えっと、ミクちゃんってどんな人が前の持ち主だったんですか?」
「あっ、えっと、その……。アーティスト? だったと思います」
目の前のこの人が持ち主かと思ったけど、聞いた感じそういうわけでもなさそう?
本当にただの店員さんなのかもしれない。売り場の担当だったりして結構手助けしてた的な?
そうしてお互い微妙なコミュニケーション力で、30秒喋って2分黙るを繰り返して歩いていると目的地についたようだ。
見た感じ普通のアパートだ。築年数は新しめな気がする。
「ちょっと待っててください。今持ってくるんで!」
「わかりました。あっ、ゆっくりでいいですからね」
ちょっと、おっちょこちょいみたいな雰囲気を感じる店員さん。時間に余裕もあるので大して急ぐ必要もない。急いで階段を上っていく様子を見て転ばないか少し心配になった。
にしても、買取にきた客の商品を自分の家に置いておくことってあるか? なんとなく、ミクちゃんの前のマスターの関係者ではあるような気がする。
5分ぐらいしたところで急いで下ってくる音がしたので、ちょっと通知を確認していたスマホを閉じて音の鳴る方を向く。
するとエレキギターを持ち運ぶとき用のバックを背負った店員さんがやってきた。ちなみにあれはギグバックというらしい。軽量で持ち運びやすい。
「お、お待たせしました~」
「急がなくても良いって言ったのに……」
「いえいえ、すみません。早めに渡したいなって思ってて」
ちょくちょく駐輪場に行ってバイクが無いか探してたんですよ~と言ってて、なんだか途端に申し訳なくなる。
肩で息をする彼女から受け取って、そのまま背負う。おお。ちゃんと入ってて、重量が感じられる。
「そういえばなんで俺があの大学にいるって?」
「えっと、うちの店で買ってもらったときに身分証を提示してもらうときにここの学生なんだな~って思いまして」
なるほど。そういえば、あの時書類の手続きをやってくれてた人な気がしてきた。それだったらこっちのことを認識しているのもなんとなくわかる。
「あっ! 自分もここの学生なんですよ!? だから大学同じだな~、って思ってて覚えてたんです。それで、そういえばと思い出して店の防犯カメラ確認させてもらってバイクに乗ってるから……」
「うちの大学、バイクの駐輪場はあそこだけですもんね」
「そうなんですよ! もし、自転車だったら結構あって困ったんですけど、なんとか渡せて良かったです」
本当にほっとしてそうな様子を見て、付いてきてあげて良かったと思った。
「それじゃあ、今日はありがとうございました」
「いえいえ、とんでもない……。えっと、中身確認しなくていいんですか?」
「大丈夫です。ちゃんとミクちゃんに届けますから」
「はい、ありがとうございます。あっ、何か問題とかあったら火金土の午後とかにあの店に来てもらえればいるんでよろしくお願いします。あ、あとミクちゃんによろしくお願いします」
ペコペコしてて申し訳ない気分になってくるが、何かあったときは行ってみよう。あの店で案外可愛がられていたのかもしれないな。可愛いし、状態良かったし。店の人も色々してくれてたんだろう。
ミクちゃんにはしっかり届けよう。
「ただいま」
「おかえり~。あれ、またギター買ったの?」
「いやいや、流石に今月はもう買えないよ。貯金も増やしたいしね。これはなんかミクちゃんの前のマスターさん? からだってさ」
そう言って背中のギグバックをソファーでテトと座っていたミクちゃんに差し出した。
明らかに動揺している。
『誰から貰ったんですか?』
「中古ショップの店員さんにね。前買ったときに渡す予定だったんだけど、渡せなかったからって」
不思議な話だよね~、と言ったが、ミクちゃんは納得してそうだった。やっぱりお店でお世話になったのかな?
恐る恐る受け取るとまじまじと観察をしていた。
「開けて良いよ。たぶん、ミクちゃんのギターでしょ?」
ギグバックをミクちゃんが開けてるとミクちゃんは首を振った。あれ違うの?
中からはきれいな黒のフレームをしたギターが出てきた。だいぶ良いやつな雰囲気をしている。
ちょっと嬉しそうな、悲しそうな顔をしているミクは、大事にそのギターをバックの上に置きなおして、ホワイトボードを手に取った。
『前のマスターのギターです』
お待たせしました。次はミクちゃんのターンです
おっちょこちょいな店員ちゃんは、また出てきます。
店員ちゃんは前のマスターではないです。