中古ショップで初音ミク売ってて草w 作:すとろー
「ほらミク、朝だよ~」
私の朝は早い。うぅ、どうしてこんなに早いんだろう。だいぶこの家での生活に慣れてきたけど、これだけは慣れない。もうちょっと寝てても大丈夫だと思うんだけど。
テトちゃんはいつも起こしてくれるから優しいんだけど、もっと寝てたい今だけはちょっぴり敵だ。
起きたいけど、もうちょっと……って粘ってたら布団を取られちゃったので、流石に上半身を起き上げる。
枕元に置いてたはずのホワイトボードに手を伸ばす。定位置に張り付いているペンを握って、蓋を外して文字をかく。ふにゃふにゃの字になっちゃった。
『おはよー』
「おはよ! ほら行くよ」
ペンを握った方の手首を引かれて、リビングまで連れていかれちゃう。ふらふらするけど、足をなんとか動かして転ばないようにだけ意識。
マスターさんに挨拶するのも忘れない。さっき書いたホワイトボードを、そのままマスターさんとウナちゃんに見せて挨拶する。こういうときだけ便利。
「おはよう、ミクちゃん。もうちょっとしたら朝ごはんだからね~」
「おはようございます」
喋れないことを不便だとは思うし、やっぱり歌いたいって思うけど、この生活も悪くない。
ペンのキャップ先についた小さなクリーナーでさっき書いた文字を消しておく。綺麗に消すのが、楽しく過ごすコツ。大きな消すやつもあるけど、持ち運びに不便だからあんまり使わない。
タブレットは……ちょっと嫌だ。電子機器を通してのコミュニケーションってのは、マスターのことを思い出しちゃうから。
ホワイトボードを通してみんなと繋がれてるし、家族の一員として接してくれるから来てよかったと思う。
「ミクさん、後でベースの練習の成果見てくれませんか?」
「えっ、ウナそんなにガチでやってる感じ?」
「……お願いしたのはテトさんですよ? これでも勉強するのは得意なんです」
『いいよ たのしみ』
ウナちゃんは努力家だ。一人で夜中練習しててめきめき上手くなっている。ギターはわかるけど、ベースは知らないから本当にアドバイスとかできない。だけど、なんとかできるように昼間に私も勉強してる。
テトちゃんは、ギターのセンスがある。マスターさんよりも既にちょっぴり上手いかも。マスターさんは忙しそうだから、テトちゃんよりもギターに触れてないのもあるけど。
私よりも覚えるのが早くて凄いな~って。だから教えるのが楽しい。もうしばらくすると、あんまり教えることもなくなってきて、あとはテトちゃんが練習してちょっぴりアドバイスするぐらいになっちゃいそうなのが悲しい。
でもいつか一緒に演奏できたりしたら嬉しいな。いつか2本目のギターをマスターさんにお願いしておこう。
「はーい、朝ごはんだよ」
いつの間にか机の上に配膳がされていた。マスターさんはすごい。
朝ごはんの開始はマスターさんが席について、手を合わせたらみんなも手を合わせてスタートになってる。
「じゃあ、いただきます」
「いただきます」「いただきま~す」
心の中でいただきますと言いながら手を合わせてから箸を取る。まずは味噌汁から。美味しい。センサーが喜んでるね。
朝食は基本的に和食だ。テトちゃんに理由を聞いたら、ウナちゃんが好きだかららしい。テトちゃんも好きだから助かっているとのこと。テトちゃんと2人だったときはパンだったり、グラノーラだったりしたみたい。
ちなみにウナちゃんに聞いたときは、テトちゃんが好きだからって言っていた。仲良しでうらやましい気分になっちゃった。
味噌汁の風味がセンサーに残っている状態で白米をパクリと口に入れる。うん、いつも通りの美味しさ。
次は玉子焼きを一口サイズにしてから、口に入れる。マスターさんは気分が良かったり、調子が良いと惣菜も用意してくれることが最近分かった。今日は元気みたい。
そうして味わっているといつの間にかお皿が綺麗になってて、楽しい朝ごはんの時間が終わりを告げる。
そうしたらちょっとお片付けを手伝ったら自由行動タイムになるから、今日はウナちゃんが寝る前に練習の成果を見せてもらうことにした。
ちなみにマスターさんは大学らしく、とぼとぼと玄関から出ていった。一日にまとめて講義を入れて全休を増やしてるって、この間に説明してくれた。
話は戻って、今ちょうどウナちゃんがベースで1曲を弾き切ったところだ。
部屋に私とテトちゃんの拍手が響く。吸音材があるからあんまり響いてないけど。
『すごい』
「そうですか?」
「うんうん! 超うまいじゃん」
もちろんめちゃくちゃ上手いというわけではない。プロとかと比べたらそりゃあ違うけど、始めて数日の素人が一曲弾き切れるのは凄い努力だ。
弾いてくれたマスターさんの曲は基本的に裏打ちベースのルート弾きが多いから、覚えやすいは覚えやすい。でもリズム隊であるベースの大事なところはペースキープにある。そうやってこの前見たブログに書いてた。
ウナちゃんはそれが完ぺきと言えないけどちゃんとできてた。もうバンドを組めると思う。
『このチョーシで!』
「わかりました。……どうです、テトさんやってやりましたよ」
「くっ、ボクだって……ミク、厳しく頼むよ!」
『ほどほどにね』
テトちゃんだってちゃんと練習してるし、焦んなくても大丈夫なのに。
ウナちゃんはありがとうございましたと言って、寝ていった。この間ちょっと気になってウナちゃんの寝顔を覗きに行ったら、ウナちゃんが起きて目が合っちゃったので邪魔しないようにしてる。
ちなみにウナちゃんの寝顔はとてもかわいかった。起きてるときはどこかキリッとしてるエリート感があってかっこかわいいのが、寝てるとお人形さんみたいな造詣の良い顔が遺憾なく発揮されてて超絶かわいかった。
テトちゃんの練習を隣で見守りながら、日記帳を書き込んでいる。いつかこんなことあったんだよ~って、マスターに報告するときに思い出せるようにだ。
今は新しいことの連続で書くことはたくさんあるけど、たぶんどんどんこれも日常になっていく。日常のことになる前に私が感じたことを書いておいて、いつでも忘れないように。
今はウナちゃんのことを書いている。いっぱい撫でてあげたい可愛さがあるよって。なんだか妹みたいで。
「たくさん書いてるね~」
『たくさんうけとってるから』
「嬉しいこと言ってくれるじゃん。ボクもミクからたくさん貰ってるからお互い様だ」
テトちゃんは書いてても内容を覗いては来ない。絶対に気になってるだろうし、知りたくてうずうずしてそうなのに、マスターさんに似て紳士だから。
でも私の身の上話をするのはちょっと長くなるから大変だし、話して変に気を使われるのは嫌だから、伝えない。もっと仲良くなって、いい機会があったら皆に伝えようかな。
テトちゃんの疲れた~の声を皮切りに一旦お昼休憩にすることにした。
お昼はカップラーメン。家にたくさんある。種類が沢山あるので飽きない。だいたいウナちゃんが定期的に注文してて、在庫切れが存在しないため、マスターさんがいないときにはだいたいこれを食べる。
マスターさんがいないことが珍しいので、実は楽しみにしちゃっている私もいる。マスターさんごめんなさい……毎日沢山手塩に掛けて作ってくれてるのに……。
カップラーメンを食べながら、テトちゃんとドラマを見ている。
この家に来てから知ったけど、アンドロイド用のドラマとかもあるみたいで、なんだか面白い。アンドロイドが主人公だったりして感情移入がしやすくなってる。
今見てる話は同じ家にいる犬と主人公のアンドロイドがマスターを取り合うコメディーだ。
なかなかこのワンコが手強い。でもワンコ、可愛いんだよね……。実際主人公もマスターを取り合う間柄とはいえ、マスターがいないときはワンコとたくさん遊んでいる。
マスターさんの実家には猫ちゃんがいるらしい。可愛いってテトちゃんは言っていた。マスターさんには懐いてくれないから、マスターさんは少し嫌いらしい。
そんなこんなで、ドラマを見てゴロゴロしていたら、マスターさんが帰ってきた。ドアの鍵が開く音がした。
部屋に入ってきたマスターさんは、どこか見慣れたようなギグバックを背負って入ってきた。必死に記憶のストレージを動かすけど、なかなか見当たらない。
「ただいま」
「おかえり~。あれ、またギター買ったの?」
「いやいや、流石に今月はもう買えないよ。貯金も増やしたいしね。これはなんかミクちゃんの前のマスターさん? からだってさ」
見慣れたことのある理由がわかって、一気に正解までたどり着いた。あれはマスターの家の押入れで見たことがある。ギターを持って外出なんてしないから埃をかぶっていたんだった。
──でも、どうして?
マスターのものは、ほとんど妹さんが持ってるはずなのに。
『誰から貰ったんですか?』
「中古ショップの店員さんにね。前買ったときに渡す予定だったんだけど、渡せなかったからって」
マスターの妹さんだ。居場所がなくなった私に次の居場所をくれるために、色々手続してくれてた。
感謝してもしきれない。あんまり関わっていない私のためにまたこんなにして貰っちゃった。いつか恩返ししたいなぁ。
「開けて良いよ。たぶん、ミクちゃんのギターでしょ?」
そんなことあるはずがない。マスターさんからギグバックを受け取って中を見て再確認した。
そもそも私はギターを自分のものを持ってなかった。ずっと借りていたんだ。
返す機会が全然なくなっちゃっただけで。
『前のマスターのギターです』
これは、マスターのギターだ。
やっと物語が動かせます。
次回、ここで過去話挟ませてください。