中古ショップで初音ミク売ってて草w   作:すとろー

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お待たせしました


閑話休題 マスターとマスターさん

「ミク! よろしくね!」

「よろしくお願いします、マスター」

 

 初めての記憶は、マスターの家の中だった。

 私は初音ミクであるという設定と世の中の一定の常識、それと多くの歌うための知識が詰め込まれた空っぽの電子の歌姫として、この世界に接続した。

 

 そこの限られた世界の中で、私は広い世界を知っていった。

 

 マスターは、身体が弱い人だった。

 基本的に家で過ごして、たまにある外出は基本的に病院だった。

 最初はお留守番をしてたけど、ある時から少し気になって付いて行った病院で主治医の先生には、マスターは難病に罹っていて、進行を緩やかにすることはできても、完治する見込みはないと説明してもらった。

 寿命は長く持っても10年ぐらいだそう。なんだか実感が湧かない感じだなって思ったことを覚えている。でも私にも耐用年数があるので似たような感じ。

 

「ミク、ごめんね。一緒に外とか遊びに行ってあげられなくて」

「良いんです。マスターと一緒にいるのが楽しいので」

 

 マスターは曲を作るのが上手だった。

 楽曲提供をすることでお金を稼いでるみたいで、良いマスターに恵まれたと思ってましたね。マスターは碌に社会で働けない俺が唯一世界に貢献できることだと言って、一曲一曲丹精込めて作っていた。

 幸い、人間の作る作品はどんどんと増加傾向にあり、たくさんの人が人間の作る曲を求めていたので、仕事に困ることは無かったです。

 

 家の中で過ごしているときの大半は、パソコンに向かって曲を作っていた。

 私の仕事はそれを横から見守ることと、出来上がった歌詞とメロディーを完璧に歌い上げることで、一日をマスターの横で過ごした。

 

「気になる? ミクもやってみる?」

「えぇ~! いいんですか?」

「もちろん。こういうの教えれる人なんてミクしかいないしね~」

 

 マスターはギターもお上手でした。

 凄いな~ってよく見ていたら、マスターに教えてもらえることになった。これが結構楽しくて、毎日の私の仕事に1日のうち少しの時間ギターを練習することが追加された。

 ちなみに私を買った理由も喋る相手が欲しいからだそうです。最初は家事のできるアンドロイドにしようとしたそうですが、せっかくなら一緒に音楽のことを話せる方が良いなって思って、ボーカロイドである私を選んでくれたんです。私はボーカロイドで良かったなってこの時に初めて思ったなぁ。

 

 マスターはたくさんのことを話してくれました。

 マスターの夢もたくさん聞きました。いつまでも生きていられるとは思わないから、最期の最期まで創り続けるというのが目標とも言っていました。

 あとマスターは食事制限も厳しくはないですが、ある程度あって好きなものをたくさん食べれたら良かったな~と言ってました。

 

「ミク、これ歌ってくれる? 今度のアルバムに入れようと思っててさ」

「はい! 早速レコーディングしましょう!」

「よし、じゃあちょっと練習して午後から録ろうか」

 

 マスターは私の歌が聞くことが幸せだと言っていました。

 話しているときも楽しいけど、私が自分の曲を歌っているときが一番嬉しいと。

 そうしてお仕事の曲以外に、私が歌うための曲も作ってくれるようになりました。

 

 そんなマスターの期待に応えるためにたくさん歌を歌いました。

 

「あぁ~、ミクの声は身体にいいね。いつか病気も良くなるような気がするよ」

「ならっ! マスターのために沢山歌いますね!」

 

 マスターはそんな冗談を言っていました。実際に音楽によって精神的に健康的にするのは身体にも良い、と主治医の先生も言っていたので全部が噓って訳でもないのですが。

 そんな一筋の光を信じて、マスターのためにたくさん歌って歌って歌った。

 少しでもマスターに長い時間、たくさんの曲を作ってたくさんの人に届けられるような人であってもらうために。

 

 ですが、マスターの病状はそんな私の思いとは裏腹に、ちょっとずつ……でも年月とともに確実に、少しずつ悪化していった。

 マスターと過ごす日常は、日々変わらないようで、ちょっとずつ変わっていって、その少し少しがかけがえのないもので、いつか消えてなくなるものである裏付けでもあった。

 

「まっ、マスター!? 大丈夫ですか?」

「ごめん、ミク……」

「謝らないでください! 救急車呼びますね!」

 

 ある時、ボーっとすることが多くなったマスターのことを見守っていると、急に咳き込んで血を吐いていました。

 急いで救急車を呼んで、付き添いをして、待合室で待って、入院しているという病室でいつもの先生が説明してくれたのは、もう半年ぐらいという話でした。

 

 それはあまりにも急でした。

 そしてそのまま入院することになりました。

 

「大丈夫! ミクが歌ってくれた曲を聞いていれば、大丈夫」

 

 だから私はたくさん歌いました。病室は個室でしたが、壁はそこまで厚くないので、家の中で歌ったものをマスターに届けました。

 マスターの曲、マスター以外の初音ミクの歌、それ以外の曲もたくさん。

 思いを込めてたくさん歌いました。たくさん歌ってマスターに聞かせてあげたんです。

 入院し始めてからの半年間、来る日も来る日もマスターの家から録音データを送りました。

 

 一人の家は寂しかった。

 一人で歌うのは、どこか満足できなかった。

 一人で弾くギターは、ちょっと心細かった。

 一人で寝る夜は、いつか来る終わりを考えさせられた。

 

 私がマスターとは面会時間外の会えない間は、連絡用にと貰ったタブレットでマスターとコミュニケーションをした。

 既読が付いている間はマスターが生きていると思って、安心できました。そうして次の面会のときにマスターのことを見てホッとすることを繰り返していた。

 少ない時間をたくさん一緒に過ごせるように、会いに行けるときはできるだけ長い時間面会しに行って居座った。

 

 そうしてある日の夜、既読がついにつかなくなってしまいました。

 そのことを信じたくなくて、何度もメッセージを送って、そのまま既読が付かないまま、病院から電話が来た。

 

 マスターが危篤だと。

 

 急いで病院まで向かった。

 マスターと行くときは車だったその道のりは、私が初めて走ってだいたい10分ほどだったことをその時に初めて知った。

 夜の道がこんなに暗くて心細く感じたのは初めてだった。

 アンドロイドのため昔は少々手間取った受付も、いつの間にか病院の人にも覚えてもらって直ぐに通してもらえた。

 

 そこで見たマスターは、出会ったときとは全然違うけど、いつも通りの弱そうなマスターでした。

 でも、明らかに無理している感じを受け取ったし、マスターと気まぐれでやった線香花火の最後の輝きのように感じれました。

 

「ごめんね……ミク。もうミクの声も聞こえないみたいだ……」

「大丈夫です、マスターの声は聞こえています」

 

 もう見るからに限界でした。なんとなくわかりました。

 ここでお別れって。

 

「でも、ミクの顔が最期に見れてよかった」

「はい、ミクもマスターの顔が見れて良かったです」

「あぁ……この人生、満足だった。でも、もっと歌わせてあげたかったな……」

 

 そう言い切ると、みるみるうちに心拍数が下がっていき、そのまま、静かにマスターは笑顔のまま天国に行ってしまった。ミクの前から去ってしまった。

 思い残すことはあっても、全部やり切ったとマスターは思って、いなくなってしまった。私にはまだ、マスターが必要だったのに。

 

 寂しくていっぱい泣いてしまった。

 初めて会ってから、すぐにこの可能性には気が付いていたのに。

 

 いっぱい泣いてしまった。

 そうしていたら、いつの間にか声が出なくなっていたことに気が付いた。

 たくさん歌っている時に少し声が掠れていることには気が付いてはいたけど、歌うのを辞めたらマスターがそのまま死んじゃう気がして気にしないふりをしていた。もしかしたら、最期に言葉が届かなかったのも、気が付いてないだけでもうそこでは声はなかったのかもしれない。

 

 

 

 マスターがいなくなっちゃってこれからどうしよう……。

 そんなときに手を差し伸べてくれたのは、大学生として地方に引っ越していたマスターの妹さんだった。

 

 妹さんは、遺品となった私を綺麗に整備してくれた。

 どうやらバイト先の中古ショップで、動作確認とか外観清掃とかをしていて、少し勝手がわかるらしい。ほかの遺品と一緒に手際よく残すものと残さないものを整理してくれてとても助かった。

 

 マスターの遺品のほとんどは妹さんが全て受け取りました。

 だけど、妹さんは私を引き取りませんでした。ううん、引き取ることができなかった。

 市役所に一緒に行ってライセンス更新を行おうとすると、収入や保証人といった問題でアンドロイドを自分のものにできなかった。ごめんね……って役所を出てから泣いていた妹さんの声は忘れられない。

 それでも私はマスターの遺した子だから、なんとか生かしてあげたいと思った妹さんは──

 

「店長、すみません。この子、売ってもいいですか?」

「アンドロイド? えっと、取り扱いできたかな……」

「売れなかったら来年の4月までには私が何とか頑張って引き取るんで! ほんとに売りに出してあげるだけで良いんで!」

 

 私はマスターの妹さんに本当にごめんね、と言われながら勤務先のお店で売ってもらうことにしました。

 売り物である間は、誰の持ち主でなくても大丈夫だからって。

 誰の持ち主でもないアンドロイドは、基本的に業者が回収して、それぞれパーツに分けてリサイクルされてしまうらしいと妹さんは言ってました。アンドロイドに優しいのか優しくないのか良く分からない制度のせいで、私の扱いは大変でした。

 

「私が引き取ってあげられなくてごめんね……。本当は引き取ってあげたいんだけど、私にマスターになるためのライセンスが発行できなくて」

 

 首を振って抱きつく。

 妹さんが現れなかったら、私は廃棄処分になっていた可能性もあるから、こうしてくださっているだけでも十分でした。

 

「もし、新しく買ってくれる人がいたら、大切にしてもらってね。その方がおにーちゃんも嬉しいだろうし」

 

 葛藤して、少し頷いた。

 本当は、ちょっとだけ、あなたにマスターになってもらいたいという気持ちもあったから。

 でも、こんなに迷惑をかけちゃったのに、さらに迷惑をかけてしまうのも心苦しい気持ちもあるのも確かで。

 だから、新しいマスターとなってくれる人がいた方が、妹さんにもいいと思ったので、素直に売られることとした。

 

「おっ、いたいた。本部に問い合わせたけど売れるっぽい。前例も少しだけあるって。ちょっと書類とかめんどくさいらしいけど、こんな所で買うんだからそういうこと分かってるやつに買ってもらった方がええよね」

「ほんとですか!? ありがとうございます!」

「いやいやいやいや、じゃあちょっと裏にいてもらうのも可哀想だし、店で座れそうなところ作っておくわ」

 

 そうして私は売ってもらえることになった。

 店長さんにも優しくしてもらって、大きな楽器を置いているスペースの角に空間を用意してもらって、椅子を置いてもらって、座ってそこで次のマスターを待つことにしました。

 

「ちょっと最初はこれで我慢してもらうけど、まぁちょっとずつ豪華にしてくわ。売れなかったらって条件だけど」

 

 ミクちゃん可愛いからすぐ売れちゃう気がするけど、と店長さんは言っていました。

 でも私は結構心配でした。声が出ないし、記憶もそのままだし、かわいいといってもマスターと過ごした6年間の劣化は少なからずあります。私のモデルの耐用年数は10年らしいので、そこそこ使われていることになる。

 

「店長、値段っていくらぐらいだと思いますか?」

「うーん、分からんなぁ……。ジャンクだとは言え初音ミクモデルだし、適当に20万ぐらいが妥当じゃない? 新法でパーツ取りとか記憶消去とかできなくなったらしいから、これぐらいの値段で良いと思う。これより高くして買ってもらわないようにするって方法もあるが……」

「じゃあ20万円にします! 店長ありがとうございます」

 

 そんなこんなで私は20万円のアンドロイドになりました。

 たまに勤務中の妹さんと店長さんが様子を見に来てくれますが、やっぱりちょっと心細い気持ちにはなりました。

 できれば優しい人に買って欲しいな~と思っていましたが、そもそもあまりお客さんが入ってこないです。平日だから少ないのかも。

 

 そんなことを考えていたら、4時間座って6人目となるお客さんを発見しました。向こうもこちらを認識したようですが、あれは……手を振っている? 

 私に振ってることに気が付いたので軽く振り返すと、こちらにそのお客さんは来ました。初めて私に興味を持つお客さんが現れたので少し驚きました。

 

「ミクちゃん、声が出ないのか」

 

 話しかけてくれる人が現れました。見た感じマスターよりもだいぶ若い人です。妹さんと同じぐらい? 

 物珍しいような目で見ていたのが、どんどんと哀愁を帯びたような目に変わっていくのを感じました。

 ちょっとこちらも悲しくなってしまう。

 

 お客さんはこちらを見て悩む素振りを見せて、唸らせていました。

 しかしすぐに決心したのか、その場を離れてしまいました。名残惜しいようにこちらを見て、その場を離れる横顔を見て、何故かマスターと重なって。

 

『ま、待って……』

 

 声が出ないのは分かっているはずなのに、なんとか声を紡ごうとしましたが、勿論音にならずに消えてしまった。

 そのお客さんは結局そのまま去ってしまい、そしたらすぐ妹さんとさっきのお客さんが来て、買ってくれるってと言っていた。最初は何のことかよくわからなかったが、私の次のマスター……いや、マスターさんが決まったらしい。

 

「優しそうな人で良かったね」

 

 小声で私にそう伝える妹さんは、ちょっぴり寂しそうでしたが一安心しているようだった。私も変な人じゃなくて良かったと思う。

 

 ライセンス登録の手続きを横でしていたが、もうどうやらこのマスターさんのお宅には2人の先住アンドロイドがいるっぽい。仲良くなれるかなぁ……。

 私と一緒に買われるギターちゃんを抱えながら、これからどうなるんだろうねと思いふける。

 

「よし! 帰るか!」

 

 吹っ切れたようなマスターさんに頷いて、精一杯意思表示をする。

 妹さんと数日間一緒にいた間にちょっと頑張って鍛えた能力だ。

 

 店を出る前に妹さんと店長さんにお辞儀してから出る。本当に短い間だけどお世話になった。マスターさんの家が近いなら、また挨拶に来ようと思う。

 店から出て駐車場に向かって歩くと、マスターさんは悩む素振りを見せてからこっちを振り返った。

 

「ミクちゃん、歩ける?」

 

 大きく頷く。大丈夫……大丈夫なはず。大丈夫だよね? そんなに遠くなかったら大丈夫。

 そうして私は新しいお家へ向かったのだった。

 

「うちにはあと二人、テトとウナちゃんがいるんだけどね~」

「うちのテトはちょっとずぼらなところがあるけど、面倒見が良いから仲良くしてあげてね」

「ウナちゃんの方は夜行性であんまり見ないかもしれないけど、頼ると嬉しそうにして色々頑張ってくれるから困ったことがあったら是非ウナちゃんにお願いしてみてあげてね」

 

 新しいマスターさんのおうちは賑やかそうだ。上手くなじめると良いな。




 次回からほのぼのに戻ります

(ここから作者の話なので読まなくても大丈夫です)
 大変遅れてすみません。卒業論文の締め切りと格闘していました。
 終わったので更新スピードは上がると思います

 一旦の終わりとして考えているところまで残り半分ぐらいです。そのあともズルズル続くかもしれませんが。
 よろしければ評価とか頂けると嬉しいです。
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