中古ショップで初音ミク売ってて草w   作:すとろー

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初音ミクちゃん
・かわいい
・発声機能は経年劣化で故障している。
・売られてから買われるまで、4時間ほどさみしい思いをしていた。


重音テトさんじゅういっさい

「ただいまー」

 

 愛しき我が家に戻ってきた。時刻は16時過ぎ。

 歩いてだいたい35分ほどだろうか。原付を押しながら歩いていたので、普段よりもちょっとだけ時間がかかった。地味にきついんだよね、あれ。

 2LDK。親の金で契約したが、扶養が外れてしまったときに立派になったな……と背中を叩かれ、流れで俺の金から家賃を払うことになった。都会じゃなくて良かった。

 

 おかえり~。

 リビングの方から声が聞こえた。その声を聞いてミクちゃんがこっちを見てくる。

 帰り道にちょっと説明した同居人その1だ。

 

 靴を脱いで、玄関から上がってすぐにある作業部屋の扉を開け、ギターを椅子の上に横たわらせて気がつく。これって、ギタースタンドが必要なやつか……。

 それは後で買うことにして、とりあえずギターが落ちないことを確認して部屋を出る。

 するとまだ玄関で待ってたミクちゃんに気がつく。

 

「いいよ、上がって。今日からここが君の家だ」

 

 よそ行きの感じだけど、君は今日からこの家の一員なんだ。

 遠慮せずに過ごしてほしい。と思うが、そういう切り替えって難しいよな。わかる。

 

 買ったときから思ってたけど、どうにも表情があんまり変わらない子だな……。

 それでも、雰囲気でどういう気持ちなのか分かりやすいのは助かる。それにかわいい。

 

「お~い、マスター? 玄関でぶっ倒れてるんじゃないんだろうな?」

 

 玄関からなかなかリビングに来ない俺を心配したのか、ダボダボなショーパンとオーバーサイズのTシャツを着ている、重音テトだ。だらしなさすぎる。

 なかなかの古参で、実家から一緒に引っ越してきている。かれこれ6年くらいの付き合いだ。

 

 そんな彼女は、俺の後ろにいるミクちゃんを見て、固まった。

 なんだこいつ、マスターどこで拾って来たんだ、はやく返してきなさい。と言われる可能性もあったが、なんかすんなり受け入れられそうな雰囲気だ。

 かわいいは正義なのだ。

 

「か、かわいい」

「紹介します。うちの重音テトです」

「えっと、その、よろしく」

「こちら、さっき買ってしまいました。初音ミクちゃんです。仲良くしてあげてね」

 

 ペコリ。

 無言でゆっくりと礼をしたが、なんというか、清楚だ……。ポニーテールが垂れるのが、何というかわびさびを感じる。

 おお、とテトと2人で声を漏らしてしまった。

 ミクちゃんが少し困惑している。申し訳ない、変なやつらで。

 

「えっと、じゃあ部屋を案内するね」

 

 これから家族となる一員にいつまでも玄関にいて貰っても困るので、純正品の靴を脱いでもらって、リビングに移動する。

 案内という言葉を聞いた瞬間から、移動するまでの間にリビングであわただしそうにしてたテトさんのことは、あまり気にしない方が良いだろう。新入りにいい感じに見られたいお年頃なのだ。初対面のあの格好で巻き返すのは、難しいでしょ。

 キョロキョロとしているミクちゃんをチラ見で観察しながら、最大限ゆっくりと廊下を歩いた。

 が、結局そんなに長くないので、すぐに辿り着いてしまった扉を開け、最低限の片付けをしましたと言わんばかりの部屋に案内した。

 

「ここがリビングね。テトはだいたいいつもここにいるから」

「そうだよ~」

 

 手前のキッチン側のスペースにダイニングテーブルがあり、4つの椅子がある。基本的にご飯を食べるときとか来客対応で使う。

 来客なんてほとんどないが。

 

 奥にはソファーとテレビ、ローテーブルがある。ソファーのサイドには、テトがあり得ないほど強請ったので買ってしまったちっこい冷蔵庫がある。

 ビールとか入れる予定だったのだが、帰ってくるとキッチン側の冷蔵庫の方が近いので、気が向いた時にしか使われることがなくなってしまった高級サイドテーブルだ。

 テトがソファーに腰を掛けて、こっちにおいでと手招きしている。ちょっと浮足立ってるのかな、久々にこういうテトを見れてよかった。

 

 それを受けてちょっと困ったようにしているミクちゃん。何かしらを伝えようとしているが……。

 

「テト、こわい?」

 ぶんぶんと首を横に振る。

 テトもこれでもかと睨みつけてくる。そういうところだぞ。

 

「ちょっと恥ずかしい?」

 首を少し傾げると、右手でほんの少し……とジェスチャーされた。

 

 でもちょっと想定していた気持ちを汲み取れていないのか、ゆっくり首を横に振った。

 ってなってくるとなんだ?

 俺が困っていると、ミクちゃんは服を少しつまんで、指差した。えっと……

 

「服が……汚れてる?」

 うんうん。

 

 そう頷いている、なるほど。

 前の持ち主が相当綺麗好きだった可能性がある。ズボラ大学生には縁がない世界だ。

 

 ……と思ったが、もしかしてだけど、結構あそこで中古として展示されていた可能性があるのか。

 流石にそれは気にするな……。ミクちゃんも女の子だし。

 

「ごめん、気が付けなくて……」

 ミクちゃんが手を開いて、慌てて振っている。

 

 フフ......へただなあ、俺。へたっぴさ........!意思の疎通のさせ方がへた....。

 意思疎通は、これから頑張っていくとして、言いたいことも言えない世の中は可哀想なので、何かしら対策を取りたいが……。

 

 そんなことを思っていると、俺が落ち込んでいる間にいつの間にかソファーから作業部屋に移動していたテトが、何かを持って部屋に戻ってきた。

 

「はい、ミク。これ使って!」

 

 ミクに手渡されたのは、ホワイトボードとペン、あとは消すやつだった。

 確かあれは即売会に行くときに持っていっているセットの奴だ。

 

 離席中とか、完売とか、急いで対応したいときに柔軟に対応できて便利である。

 タブレット端末で表示してもいいのだが、充電しなくていいし、こういうレトロ感が味が出て良いのだ。

 消すやつの名前って後で調べたら、ホワイトボードイレーザーというらしい。そのまますぎる。

 

 ミクちゃんは、それはそれは目を輝かせて受け取り、キャップをポンッと空けて文字を書き始めた。

 

『ありがとう』

 

 おお。

 字、めっちゃ綺麗だな。

「ミク、すっごく字が綺麗だ」

 

 ……。

 

「テト、そこはどういたしまして。じゃない?」

「マスター、そりゃそうなんだけど、字めちゃくちゃ上手くない?」

「いや、それはそうなんだけど……。ミクちゃん、ごめんね。ホワイトボードが嫌だったらタブレットとかもあるから言ってね」

 

 先にどういたしまして。が出ないあたりが俺ららしい気はする。

 ミクちゃんは先ほど書いた文字の下に小さく『これが良いです』と書いたのを見て、ミクちゃんの装備スロットにホワイトボードセットがセットされた。

 テトは、めちゃくちゃドヤ顔している。気持ちはわかるが、ちょっとムカつく。

 

 まぁ、気を取り直してちゃっちゃっと部屋紹介を済ませて、お風呂に入れてあげよう。

 

「じゃあ、案内するね。リビングのそこの扉入ったところが寝室。テトはリビングで寝てるから基本的に俺ともう一人の子が寝るのに使ってるよ」

「たぶんベッドもう一個入るから、良ければ買ってもらうと良いよ」

『わかりました!』

 

 

「さっきギター置いたここが作業部屋」

 

 扉を開けるとデカいデスクとスピーカー、あとはMIDIキーボードが目立つ。ボカロPとしての作業空間だ。

 モニター3つと液タブの4画面で、世間から見られたら、ハッカーかデイトレーダーかな? と勘違いされるようなデスクだ。

 クリエイターもマルチモニターは便利なのだ。モニターと余裕はあって困るものではない。

 

「あ、ギター買ったんだ。てっきりミクちゃんだけ買ってきたのかと思ってたよ」

「そりゃあね、元々その予定だったし。まぁ、予定よりもお金使っちゃったけど」

『ごめんなさい』

「あっ、ミクは堂々としてて良いんだよ? どうせギターはマスターが衝動買いしたんだし、ミクには一目惚れして買ってるから」

「言いたい放題すぎる」

 

 ミクがちょっと申し訳なさそうな顔を浮かべていたので、テトからのめちゃくちゃの擁護が入る。

 まぁ、お金は困ってはいないわけでもないが、別に切羽詰まって生きているわけではないので良いのだ。

 友達付き合いの少ない人生なので、そこそこ生活に余裕がある。ぼっちの悲しい現実だ。

 

「ここで普段作業してるから、ミクちゃんも気になったら入ってきてね」

『わかりました!』

 

 作業部屋を出ると向かいの扉の先にあるのが、洗面台と洗濯機、そして風呂の入り口だ。

 

「こっちがお風呂だから……っと、ミクちゃんって防水加工大丈夫?」

『大丈夫です』

「ならよかった。着替えとかは……」

「ボクが用意するよ、たぶんサイズとか一緒だしね」

 

 あらやだ、このテトなんかイケメンなんだが……。

 

「あっ、風呂の中はボクが説明しておくから、マスターは入ってこないでね」

 ペコリ。

 

 あっ、そういう感じっすか。

 ……夜ごはん準備しておくか。

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