中古ショップで初音ミク売ってて草w   作:すとろー

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音街ウナ
・エゴサが得意。本当に強い。ちょっと怖い。


ギターなんもわからん

「は~~~~、ギターって何から学べばいいんだ?」

 

 風呂から上がった俺は、ひとまず買ってきたギターにケーブルを刺して、オーディオインターフェース*1と繋いでパソコンを通してギターの音を聞けるようにした。

 最初にDAW*2を開いてギターの音が鳴ったときは感動したが、さて詰まった。

 初心者あるある。何から学んだらいいのか分からなさすぎる問題だ。

 

 ひとまずチューニングはした。

 それぐらいは一応知っているので、ちゃちゃっと済ませた。で、どうしよう。

 

 だいたい楽器系は簡単な曲を通して練習して、徐々に新しいテクニックとかを取り入れてスキルアップしていくのが定石だろう。

 問題は、簡単な曲とか練習しやすい曲とかってなんだ? ということだ。

 初心者に難易度なんてものは、判断できないに決まっている。

 

「ウナちゃん、ギターが簡単な曲って何かわかる?」

「わかんない」

「だよねー」

 

 床でデカいクッションに横たわりながら、タブレットでSNSの巡回をしていたウナちゃんに聞いてみるが、当然わかんないと言われる。

 当たり前だ。俺がそもそもEDMよりなポップスばっかり作るし、同業他社ばかり聞くし、ロックとかのギターを使う曲を聞いても難易度なんてわかるわけがない。

 アンドロイドはマスターに似るので、ウナちゃんもテトも当然そうだ。

 

 どうしようかな〜、いったん初心者向けとか調べてみるか……と悩ませていると、扉が開いて赤いのが入ってきた。

 

「ねぇマスター! マスターの曲聴かせてよ!」

『おねがいします』

 

 ウキウキなテトとちょっと遠慮がちにボードを見せるミクちゃんだ。

 どういう流れか全く分からないが、楽しそうに突撃してきて、一気に人口密度──いや、アンドロイド密度が上がった。

 自然とパソコンの周りを囲む。

 この部屋には椅子が2つしかないが、1つは俺が座っているので、テトがミクちゃんを座らせていた。えらいぞ。

 

「ほらほら! 前にボクが歌ったやつとかさ!」

「わかったわかった」

 

 俺の肩に体重をかけて、画面を覗き込んでくるテトにせかされて、この前に投稿した曲の動画ファイルを開いて再生し始める。

 ギターを買うきっかけにもなった曲だ。

 スピーカーアンプのつまみを、少しだけ右に捻って音量を上げる。

 音は、基本的にデカい方が良く聞こえる、という古典的な最強テクニックだ。

 

 うーん、やっぱり何度聞いてもいい曲だと思うんだけどなぁ……(自画自賛)。

 まぁ、こういったのは好みの問題だ。

 大衆受けしない音楽でもごく一部の熱狂的なファンがいることもあるし、大衆受けしていてもその曲のことが嫌いな人もいる。

 

 再生が終わり、静寂が訪れる。

 作詞作曲は俺、歌はテト、動画編集はウナちゃんだからミクちゃんは全員制作側だ。

 それぞれそわそわしたり、期待した眼差しをしたり、気にしないふりをしたりして、ミクちゃんの反応待ちだ。

 

「どう……だったかな。そこそこ自信はあるんだけど」

『良かったです』

 

『とくにサビの韻のふみ方とか』

「そこ良いよね~。ボクも歌ってて楽しいから好きだよ」

 

『ギターがリードのところかっこよかった』

「本当!? あぁ……よかった~」

「ますたー、めちゃ気にしてたよね」

「当たり前よ。100の賞賛より、1の批判。気にしなくても良いって分かってても、気にしちゃうからね」

 

 ミクちゃんが書いてはすぐ消して、また書いてを繰り返して感想を書いてくれている。

 動作がかわいいから見てて幸せではあるんだけど、やっぱりスマホかタブレットみたいな電子端末は必要だね。

 明後日は全休だから、みんなでショッピングモールにでも行こう。

 

 ミクちゃんがホワイトボードに細かく書き始めて、それを囲んでテトがわかるわかると相槌を打ち、ウナちゃんが分かってるね……みたいな後方腕組古参オタク面をして頷いているのを見て、馴染んでくれそうで良かった。

 声がないから、馴染めなかったらどうしよう……と、帰り道で密かに悩みまくっていたのが、もはや懐かしい。

 でも、そこで話されている内容が自分の曲なので、今の感情としてはとても何とも言えない恥ずかしさがあった。

 

 それにしてもミクちゃんの感想、音楽分かってる側な気がする。

 いや、もちろん歌唱用アンドロイドだから、最初から音楽に関する知識は沢山インプットされているだろうが、なんとなく目線が制作側な気がするのだ。

 前のマスターも案外同業者なのかもしれない。

 いや、他の家のボーカロイドとか話さないから分かんないか。

 

「でね~。マスター、ウナがエゴサしてて見つけた感想で、ギターがギタリストじゃなさすぎるって言われたの気にして、練習するために買いに行ったんだよw」

「おい、笑いすぎだろ」

「だってさ~。こんなにいい曲作るのに、そんな感想いちいち気にしてて面白いじゃん」

 

 こっちは割と真剣に悩んでたのにな。

 結構悩んでいたはずなんだが、テトといるとどうでも良いような悩みと思えてくる。

 ミクちゃんはこっちを見て、ちょっと驚きみたいな表情をして、クスッと笑った。なにそれ、かわいくてズルいんだが。

 

 

『出会いの曲ですね』

「……そうだね。よしっ! がんばってギターも取り組むか~」

 

 ミクちゃん……。ええ子や……。

 それはそうとして、ギターはやろう。

 自分が強くなれるところがあるなら、積極的に取り組んでいこうってことで。

 まずは行動をモットーにしているので、一旦は練習だ。

 

 で、話は最初に戻るわけだ。どうしようか。

 

「ますたー、ギター教室とか行く?」

「あ~、どうしよ。個人サイトとかでなんか練習する過程とか載せてる人いないかな?」

 

 う~ん、楽器教室か。割と効率良いんだよな。

 分かってる人間から、今わからないことの解決法を聞ける環境っていうのは、正直でかい。

 週一とかで通うのは、そこそこ暇な今ならできるだろう。

 

 悩んでいる中で、ミクちゃんはホワイトボードをこそこそと書き始め、こちらに見せた。

 

『少しギターわかります』

「えっ、マジ?」

 

 自信なさげに頭を上下に振るミクちゃんに、持っていたギターをとりあえず渡してみる。ホワイトボードをテトに預けて、それをミクちゃんは両手で受け取った。

 ストラップに腕を通して、シールドをいったん抜いてからストラップを通してから挿しなおした。

 なるほど、ああやるのか。

 

 ピックは何故か持っていたやつを渡した。たぶん高校の軽音部時代に鞄に混入したやつだ。

 ギターでもベースでもないのに、どんどん増えていくのだ。

 ギターやベースはよく無くしたって言ってたから、たぶんそういうことだ。

 今度ちゃんと新しく買おう。種類が色々あるらしい。

 

 ミクちゃんが軽くジャーンと鳴らすと、なんか凄く様になっている気がする。

 一度こちらを見てから、手元に集中してミクちゃんは弾き始めた。

 

 最初は上手いな~とか少しとか謙虚だな~とか思っていたが、このギターのコードバッキングは聞いたことがある気がする。

 

「これってさ……」

「やばいよね?」

「凄すぎると思う」

 

 ひそひそ声で話す。明らかに先ほど聞かせた俺たちの曲だった。

 確かにちょっとぎこちない部分があったり、人間が弾くことを想定していなかったのでアレンジになっているところがあったりしたが、完璧と言っても良いほどに上手かった。

 

「すごいよ! ミク、こんなことできたんだね!」

 

 弾き終わって、ちょっと緊張していた顔が穏やかになる。

 ちょっと、安堵しているようだった。

 

『いっぱい練習してた』

 

 やっぱり、そうだったか。

 やっと少しだけ、過去のことが知れた。

 

「ますたー、教えてもらったら?」

「うん。ミクちゃんが良ければだけど」

『ぜひ!』

 

 受けてくれることになったミクちゃんは、とっても嬉しそうだった。

 こうやって、ミクちゃんにこの家に居場所をちょっとずつ作っていってあげたい。

 そうしたら、もっと家族になれるような気がするから。

 

「じゃあ、まずは何からしたらいい?」

『マスターの曲やりましょう』

「マジ? あれ最初に行ける?」

『知ってる曲の方が良いから』

 

 そう書き終えると、ボードを見せてから机の上に置いて、ギターを俺に手渡した。

 持ち方を矯正してもらって、押さえ方を正面に立ってもらって教えてもらう。

 まずはコードバッキングのところからだ。Fキーの小室進行なので、最初はDmだ。

 ミクちゃんが俺の指を持って、優しくここに置くんだよと教えてくれる。神?

 えっと……こうか。指先が結構いたいな。押さえ方が悪いとか?

 軽く右手でピックを持って上から下に腕を下す。

 

 ジャーン。おお、鳴った。ギターだ。すごくギターだ。

 

「おお」

「あのマスターがギターを……」

 

 あ、こいつらのことは気にしないでいいからね。 

*1
パソコンに音を取り込んだり出力したりするための機器

*2
Digital Audio Workstation:作曲ソフト

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