中古ショップで初音ミク売ってて草w   作:すとろー

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マスター
・ウナちゃんの呼び方がブレブレ


ウナのターン

 ウナの朝は遅い。いや、ウナの夜は朝。朝は夜。だから別に正常。

 ベッドが広くなったから、ちょっと転がって端まで移動して立ち上がる。合理的な移動。

 起動したてでちょっと身体が思うように動かないけど、もうちょっとしたら暖まってくるはず。

 

 リビングに出るとテーブルでテトさんが真剣にタブレットを見つめていた。

 ますたーとミクさんはいない。たぶん、まだ作業部屋で何かしている。

 

「おはようございます、テトさん」

「あっ、ウナおはよう。ちょっとお願いがあるんだけど……ベース練習してくれない?」

「えっ?」

 

 突然告げられた言葉は、衝撃的なことだった。

 まず、テトさんがウナにお願いをすることはあんまりない。テトさんはウナのお姉さんポジなので、妹には迷惑をかけないみたいな信条があるらしい。やさしいお姉ちゃんだ。

 それと楽器の練習をしようなんていうことを、テトさんが言い出すとは思わなかった。

 

 ミクさんが来てこの家は変わった。これまではマスターが打ち込みで作曲するのがメインだったけど、これからはレコーディングでやっていこうとしていると思う。

 曲風もエレクトロな感じだったのが、最近はバンドサウンドに近づいている。

 

「それは、良いんですが」

「あっ、良いんだ?」

「ベースって家にあるんですか?」

「あぁ~」

 

 納得したような顔をして、この家にベースは無いということを悟った。

 そもそもこの前のミクさんのおまけで来たギターが、この家で唯一のまともな楽器。ますたーがドラマーだったけど、スティックをまだ持っているのかも知らない。

 他にもMIDIキーボードとかMIDIパッドとかはあるけど、楽器というよりコントローラーというのが正しい。

 いや、ウナやテトさん、ミクさんっていう最高の楽器がいました。まともな楽器が3人と1本ありますね。

 

「じゃあ、ますたーにお願いしておきますね」

「いや、ボクからもお願いしておくよ。ボクから言い始めたことだしね」

 

 ということで、これでいったんこの話はおしまい。買ってもらえたら、練習してみよう。たぶん、テトさんも今ギターを練習してるし。タブレットを覗いたら"ギター 初心者"の文字が見えた。

 

 ウナもたまに歌わせて貰うけど、楽器は全然わかんない。音感とかリズム感覚とかは搭載されているので大丈夫……だと思う。ちゃんとできるかな。

 できなかったらテトさんに謝って許してもらおう。きっと許してくれるはず。

 そう思っていると廊下から足音が聞こえてきた。

 

「遅くなってごめんね。今からご飯作るから。お風呂入りたい人いたら入っても良いよ」

「は~い」

 

 ますたーが、ミクさんと一緒に廊下から入ってきた。

 ウナは今日のお風呂はいいかな。2日前に入ったばっかりなので。

 人間は毎日入らないといけなくて大変そうだけど、ウナたちアンドロイドは、汚れが付かない限り入ることはほとんど無い。テトさんは入るのが好きだからほぼ毎日入ってるけど、ウナは週に一回ぐらいの頻度。家に来てから1週間ちょっと経ったけど、ミクさんはまだ2回ぐらいしか入ってないからテトさんが珍しいほうなんだと思う。

 

 テトさんがそのままお風呂に向かったので、自然とミクさんと二人になった。テトさんとさっきまで話していたことをミクさんに伝えて、質問を1つしてみる。

 

「ミクさんってベースってわかりますか?」

『少しだけ』

 

 少しだけですか……。似てる楽器だからやりやすいのかなと思ったら、ホワイトボードに文字を書き足していた。

 

『ほんとに少しだけ』

 

 あんまり自信ないんですね……。なら、自分で学べるような環境を整えなきゃいけないですね。

 手元のタブレットで調べてみると、たくさん情報はあった。どこから始めたらいいのか分かりにくいですけど。

 

『ミクも勉強します』

 

 ありがとうございますすぎる、ってやつですね。似てる楽器の経験者って、覚えるの早そうですし。

 

 

 

 

 

 夜ごはんを食べて落ち着いたので作業部屋に籠る。今日の夜ご飯はハンバーグだった。

 最近のますたーは、目に見えて張り切っている。ミクさんもめちゃくちゃ美味しそうにいっぱい食べる。ウナはそれを見て幸せになる。素敵な食卓で居心地が良い。

 

 今は、ますたーのメーラーやSNSのアカウントのDMチェックだ。

 ウナが放置すると、ますたーはすぐに溜めちゃうので、ちゃんと見てあげている。ほめて。

 

「あ、ますたー」

「ウナ、ありがとね」

 

 お風呂から上がってきたますたーが、作業部屋にやってきた。秋でも半袖半ズボンのラフな格好で、動きやすさ重視みたいな格好。たまに思い立ったようにやる筋トレで、引き締まってないけどちゃんと健康体系で維持されてる身体が分かりやすい。

 だいたいいつもここから2時間ぐらい作業をして、ますたーは寝るのがルーティン。だからウナが活動時間をずらさないときに共同作業をできる貴重な時間だ。

 

「あっ、そういえばベースのことならテトから聞いたよ。どういうのが良いとかある?」

「わかんないので、何でも大丈夫です。あっ、色が赤だと嬉しいです」

「赤ね、どうする? ネットで安いのにする?」

「そうですね、中古でもいいです」

 

 そうとなればネットショッピングのお時間。

 ますたーが横で操作するモニターの様子を一緒になって眺める。ずらっと見ていると、入門モデルって結構安くて始めやすいみたい。ハードル結構低めで嬉しい。

 

「これとかどうです?」

 

 画面に指差してスクロールを止める。初心者セット、だいたい2万。さっき初心者セットについて少し調べてみた感じだと、本体とアンプはあんまりだけど、始めるための物は全部あるから一旦初心者セットで始めて、続いたら新しく良いやつを買った方が良いみたい。

 この間、ますたーがギターだけで買ってきた後、ミクさんに教えてもらって色々買っていた。実は中古ショップでギターを一本だけ買うのは、分かってる側の人しかできないらしい。

 

「うーん、じゃあこれにするか」

 

 パッと目を通してから迷わず今すぐ購入を押して決済を始めるますたー。ウナのことを信じすぎかも。

 その信頼は嬉しいけど、ますたーはウナがまだ2歳児であることを忘れてると思う。

 

 そんなことを考えていたら、ノックがされて扉が開いた。入ってきたのはミクさんだった。

 

「ミクさん、どうかしましたか?」

「ミクちゃん、どうしたの?」

『欲しいものがあって』

 

 どうやらネットショッピングしてそうな雰囲気を感じ取ったか、テトさんに教えてもらって一緒に買って欲しいものを

 ミクさんが欲しいものってなんだろうか? 食べるのが好きだから、ふるさと納税の返礼品とかのような良い食材かな? ミクさんは遠慮してたのか、何かものを欲しがってなかったので、何が欲しいのか気になる。

 

「えっと、何でしょうか?」

『日記帳が欲しいです』

「それぐらいならお安い御用です。いいですよね、ますたー?」

「うん、それぐらいだったらこの前の買い物の時でも買ってあげたよ?」

 

 そんなふうにますたーが言うと、ミクさんはちょっと困った顔をした。

 

『前は楽しくて忘れてて』

 

 なんとも嬉しい理由だろう。横を向いたら案の定ますたーが感無量っていう雰囲気に。

 ウナはその時を知らないから分かっていないけど、帰ってきたますたーたちはとっても楽しそうだった。ついていった方が良かったかも、なんて思うほど。

 今度お出かけするときはついていこう。

 

 それにしても日記帳か。デジタル社会になっても人気がまだあるものの1つ。むしろ最近は紙デバイスに注目が集まってる。なんでも、レトロな感じがしてカッコいいらしい。

 

「注文しておいたので、明日まで待っててください」

『ありがとう』

 

 嬉しそうなミクさんだったが、ちょっと眠そうだ。もう22時過ぎで、朝から活動しているミクさんにとっては結構稼働したから疲れているんだろう。

 

「おやすみなさい」

『おやすみ』

「俺も寝ておこうかな、じゃあウナちゃんおやすみね」

 

 ますたーもその流れで寝ることにしていた。一気に1人になって、静かになった。

 ウナの夜がやってきた。

 

 じゃあ今日は、楽器演奏みたいなことしようかな。動画編集のタスクもあるけど、後でも大丈夫。

 あんまり使ってるところを見たことがない、机の隅にあるMIDIパッドを机の真ん中まで持ってくる。8×8のボタンがついていて、パソコン側の設定でボタンを押すと音が鳴って、ドラムマシンとして使えたり、エフェクトを鳴らせたりする。使い方によっては、他のいろいろな場面でも使える。

 

 音出た。なるほど、ちょっと楽しい。

 手元のタブレットでドラムパターンと検索して、その通りに押してみてそれっぽいドラムになる。適当にボタンをリズムに合わせて押すだけでもそれっぽくなる。元ドラマーのますたーが見たら、セオリーとか教えてくれるかもしれない。今度教えてくれるかな。

 

「ウナ~、今大丈夫?」

 

 MIDIパッドで30分ぐらい遊んでいたら、もう寝たと思っていたテトさんがやってきた。

 

「あれ、テトさん。大丈夫ですよ」

「ウナ、ごめんね~。ちょっと、相談なんだけどさ」

 

 今日は珍しい。テトさんがこんなに頼ってくれる。それにしてもどうしたのだろう。

 

「ミクのことがインターネットに載ってないか調べて欲しいんだ」

「それは、ミクさんのこと?」

「もちろん。よそのミクのことはいっぱい出てくるからね」

 

 初音ミクの販売台数は25万台ぐらいと言われている。実際にマスターに歌わせてもらっているような初音ミクはこのうちの10分の1ぐらいだろうけど、それでも多い。

 その中から1の初音ミクを見つけるのは砂漠の中から砂金を探すようなもの。しかも砂金の見分け方もよくわかっていない。

 

「あれだけギターが弾けるんだよ? マスターに教えてもらったらしいんだけど、それならそのマスターが何か投稿とかしててもおかしくないよね?」

「そうですが……知ってどうするんですか?」

 

 だから、その労力に見合った理由が欲しい。

 というのも別にウナはミクさんの過去は知らなくてもいいと思う。だって、もうミクさんはミクさんだから。家族の一員なんです。

 

「それは……確かにそうなんだけどさ。でも、ボクたちってあんまりミクのこと知らないからさ。もっと知ってあげた方がいいと思うんだ」

 

「ボーカロイドとして、マスターに変に気を使われるのは嫌だからさ、同じボクたちが力になれないかな~って思ったんだけどさ……」

「……わかりました。ますたーとミクさんには内緒ですよ。それに見つかるか分かんないですし」

「ありがとう、ウナ!」

 

 まずは見つけてから。そもそも見つからない可能性の方が高い。

 テトさんだったら、ますたーのテトさんの歌い方が確立されているから、すぐに大量の重音テトが歌っていてもテトさんを見つけることはできる自信がある。

 ミクさんでなんでできないのか? それはミクさんを知らないから。もっとミクさんを知るために、ミクさんのことをもっと知る必要がある。

 

「正直今のまま見つけられる気がしないので、ミクさんのことで新しい発見があったら教えてください」

「わかったよ。うーん、なんかあったかな……。食べるのが好きとか?」

「それぐらいはウナでもわかりますよ」

「やっぱり~~?」

 

 ちょっと、見つけられるか不安になってきました。




次回はますたーのターンです。
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