1月2日2300、淡路島警備府から艦隊が出撃する。それは正規空母『蒼龍』を旗艦とし随伴する軽空母『飛鷹』『瑞鳳』に甲巡『衣笠』『筑摩』『熊野』の三隻と乙巡『夕張』『鬼怒』『川内』の三隻、駆逐艦『皐月』『叢雲』『時津風』『沖波』『松』『竹』『山風』『朝潮』『早潮』『梅』の11隻の護衛艦艇と成していた。
しかし『蒼龍』と『飛鷹』は震電のみしか搭載していなかった。ただ『瑞鳳』は対潜哨戒機として天山に零戦を搭載しての出撃である。
「機関、第一戦速ッ」
「第一戦ソォォォク。ヨォーソロォー」
「何とか昼前には伊勢湾沖かな」
「えぇ。まぁ対潜警戒をしながらですが、まぁ間に合うでしょう」
『蒼龍』艦橋で艦娘の蒼龍は艦長の妖精とそう話していた。
「艦長……久しぶりのあの頃の日本でしょ?」
「ん? まぁそうですがね……やはり家族とは会えないでしょうな。今はこの妖精の身になっていますから、向こうも困惑はするでしょうなぁ」
蒼龍の言葉に艦長はそう言う。妖精達は皆女子の形をした妖精であり人間ではない。だからこそ死んだ自分達が現れたら向こうも困惑するのは間違いない。
「まぁそれよりも今は名古屋空襲の阻止ですな」
「うん、そうだね。でも防げるよ、皆がいるからね」
「成る程。それは皆に言っておいた方が宜しいですな」
『蒼龍』は震電11型を60機、『飛鷹』は36機を搭載しており淡路島警備府の2個航空隊分であった。
「それに航空隊を率いているのは南郷ですからな。奴も気合は入るでしょう」
「そ、そうかな? 何だか照れるなぁ」
「そらそうでしょう。蒼龍から言われたら皆気合入りますよ」
そう話す二人であった。その後艦隊は翌3日1200までには伊勢湾入口の神島沖まで到着し対潜警戒をしつつB-29の襲来に備えた。
そして1330過ぎ、『蒼龍』に搭載された13号対空電探改が接近してくるB-29の編隊を140キロ先の南方で探知したのだ。
「全機発艦!!」
「帽振れェッ!!」
飛行甲板に整列していた震電はプロペラを回し始め最前列は両翼に搭載したRATOを吹かしながら発艦していく。
「此方イヌワシ1、全機編隊を組みつつ高度一万二千まで上昇せよ!!」
震電の飛行隊長は無線にそう言いつつ上昇していく。高度計がグルグルと回り五千、六千、七千と上がっていく。
「高度一万二千ッ」
『蒼龍』と『飛鷹』から発艦した震電96機は高度一万一千まで上昇し索敵を開始するが10分程で接敵した。
『隊長、右下方ッ!!』
「……いたなB公!!」
『デケェ……まるで鯨ですな』
『俺達は鰯かよ……』
部下達の言葉にイヌワシ1は発破をかける。
「情けない事を言うなッ。奴等がシロナガスなら俺達はシャチと思え!!」
『はッ!!』
「いいか? 奴等の一匹足りとも名古屋の空に入れてはイカン。今度こそ、今度こそ日本の空を守るぞォォォ!!」
『オオォォォォォォォォォ!!』
「行くぞォォォ!!」
イヌワシ1はそう言って操縦桿を倒して急降下を開始したのである。急降下を開始した先にいるB-29の編隊では一応ながらの警戒をしていた。そもそも日本機が此処まで上がって来る事は稀だったのだ。だからこその油断もあっただろう。一人の機銃手が急降下をしてくる震電を発見し報告した時も機長は眉を顰めるに逗まるくらいだった。
『機長ッ、六時上方に敵機です!!』
「寝惚けた事を言うな。俺達は今、高度一万メートルを飛んでいるんだぞ」
『しかし、機長ッ』
機銃手が再度何かを言おうとした時、機体が揺れる。
「な、何だ!?」
『敵機のロケット弾です!!』
「な、何!?」
「NO!? ジャップの新型戦闘機だ!!」
操縦士が後方を見上げるとエンテ型の戦闘機である震電が両翼に搭載していた噴進弾をB-29に叩きつけて離脱するところだった。
「そ、そんなバカな……」
『三番機がやられたぞ!!』
『助けてくれ!! 死にたくない!?』
噴進弾で両翼を吹き飛ばされたB-29が爆発四散ながら部品を伊勢湾に落としていく。それを皮切りに震電隊が攻撃を開始したのである。
『全機、編隊を密にせよ!! 繰り返す、編隊を密にせよ!!』
『おい、そっちに1機いったぞ!!』
『恐ろしく脚の速いヤツだぞ!!』
B-29から流れる無線は彼等の悲鳴で埋め尽くされていた。無論、震電隊はそんなのは傍受しないので彼等の悲鳴を聞く事なく攻撃を続けていた。
震電隊は噴進弾を搭載していたので先に噴進弾での攻撃をしつつ噴進弾が無くなれば30ミリ機関砲と主翼に搭載した20ミリ機関砲での銃撃を加えていた。特に機関砲は機関砲弾は空気式信管での炸裂弾(榴弾)でありその効果は絶大であった。
80機近くいたB-29はあっという間にその数を減らしていったのである。
「馬鹿な……そんな馬鹿な事があるか!? ジャップだぞ!! つい先日まで高度一万まで上がるのにヨタヨタしていた奴等だぞ!?」
墜落していくB-29の中で爆撃隊指揮官は思わずそう叫ぶしかなかったが指揮官の叫びは爆撃隊の人間、誰にも共通する事だった。
彼等は天国からあっという間に地獄に来てしまったのだ。そして指揮官機が撃墜された事で残っていたB-29隊は旋回して逃走する選択をした。しかしその選択はあまりにも遅すぎた選択であった。
『クソッ、消火器を持ってこい!!』
『隔壁ごとぶっ飛ばされた!?』
『脱出しろォォォ!!』
逃走したB-29も震電隊の包囲網を突破する事が出来ず1機、また1機と撃墜され結局は全機が伊勢湾上空で撃墜されるのであった。
「……やってくれたな……震電……」
その報告を皇居の東一の間にて聞いた将和は笑みを浮かべるのである。
「日本、名古屋の国民に代わりまして……B-29の迎撃、真にありがとうございます」
「いえ、我々は当然の事をしたまでです」
小磯総理からの御礼に将和は頭を下げる。
「全機撃墜したので暫くは空襲は無いと思いますが……念は念を入れましょう。震電4個航空隊、橘花3個航空隊はそれぞれ各地に分散し陸海軍航空隊の改編完了まで迎撃任務に当たらせます」
「感謝します。詳細は陸海軍に委ねます」
「此方の工廠もフル稼働して増産に移行しましょう。恐らくは1日100機生産は可能ですので。それに改編部隊には妖精さんも派遣して慣熟飛行を1日でも早めるようにします」
「おぉ、それは有り難いです」
「また、淡路島警備府に配備している対空電探も提供します。これは陸海軍で開発配備していたのを此方で改良しかなり使えるようにしています」
「それは心強いッ」
将和の言葉に米内は頷く。対空電探の早期警戒が稼働すれば空襲警報の発令や戦闘配置の発令は早くなるのだ。
「それで……問題は南号作戦です」
「はい、既にヒ86船団は出港延期して昭南にて待機しています。また、南方に向かっていたヒ87船団も台湾等で待機しています」
「淡路島警備府の艦隊も出撃準備中です。彼女達が準備良ければ出撃し南方に向かわせます。それに海軍さんのタンカーが洲本等に入港し燃料の供給を順次開始しているようです」
「いや、ホントに有り難いです」
将和の言葉に米内は頭を下げる。淡路島の洲本にタンカー3隻が入港し燃料タンクから重油の供給を開始していたのだ。
「それと、台湾に淡路島の航空戦力を派遣します」
「台湾に……ですか?」
「はい。ヒ86船団、ヒ87船団の壊滅する原因の第38任務部隊がルソン島上陸の援護の一環で1月7日から8日にかけてルソン海峡を突破する予定です。我が淡路島の航空戦力を以てこの機動部隊を……攻撃、撃退させますッ」
将和は米内らに笑みを浮かべるのであった。
「長官、上手くいきましたね」
将和らは会談後、横須賀軍港からそのまま南方作戦——『第一次南号作戦』に参加する為に旗艦『加賀』に乗り込んで出撃していた。『加賀』の周囲には戦艦『伊勢』等が護衛していたが大型艦艇しかいないので不安はあったが相模湾にて先の名古屋空襲を防いだ『蒼龍』以下の艦艇が待機していたので然程問題は無かった。
「あぁ。だが、米内らも思い切った事をしたもんだな」
名古屋空襲を防いだ事により淡路島警備府は陛下は元より小磯総理や米内、杉山らの信頼を得る事に成功する。また、陛下の勅命により淡路島警備府は陛下直轄の部隊となり陸海軍は淡路島警備府に協力する事が厳命されたのだ。それを後押ししたのが米内や杉山だったりするが淡路島から供給される兵器は魅力的だったから仕方ない事である。
「だが問題は……台湾の航空基地が急な受け入れを保てるかだな」
そう呟く将和である。翌4日には淡路島から出撃した将和と清の2個艦隊と潮岬沖で合流すると艦隊を編成し南方に向かうのである。
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